説明

改質された吸水性樹脂の製法

【課題】生産効率に優れ、加圧下吸収倍率、吸収速度、ゲル強度、通液性等に優れた改質された吸水性樹脂の製法を提供する。
【解決手段】 改質された吸水性樹脂の製法であって、a)エチレン性不飽和単量体を添加せずに、吸水性樹脂と、水と、水溶性ラジカル重合開始剤とを混合して吸水性樹脂組成物を得る混合工程と、b)該混合工程で得られた該吸水性樹脂組成物に活性エネルギー線を照射する照射工程と、を含み、該混合工程a)における該水の混合量が、該吸水性樹脂100重量部に対して20重量部を超えて100重量部以下であり、該照射工程b)における少なくともいずれかの時点での該吸水性樹脂組成物中の該吸水性樹脂の表面含水率を、吸水性樹脂100重量%に対して3.0重量%以上に制御することを特徴とする、改質された吸水性樹脂の製法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、改質された吸水性樹脂の製法に関し、より詳細には、吸水性樹脂に活性エネルギー線を照射することによる、改質された吸水性樹脂の製法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、生理綿、紙おむつ、あるいはその他の体液を吸収する衛生材料の一構成材料として吸水性樹脂が用いられている。このような吸水性樹脂としては、例えば、デンプン−アクリロニトリルグラフト重合体の加水分解物、デンプン−アクリル酸グラフト重合体の中和物、酢酸ビニル−アクリル酸エステル共重合体のケン化物、アクリロニトリル共重合体もしくはアクリルアミド共重合体の加水分解物、これらの架橋体やポリアクリル酸部分中和物架橋体等がある。これらは、いずれも内部架橋構造を有し、水に不溶である。
【0003】
このような吸水性樹脂に望まれる特性として、高吸収倍率、優れた吸収速度、高いゲル強度、基材から水を吸い上げるための優れた吸引力等がある。しかし、吸水特性は架橋密度に影響を受けるため、架橋密度が大きくなるとゲル強度は増加するが吸水量が低下するなど、特性間の関係は必ずしも正の相関を示さない。特に、吸収倍率と、吸収速度、ゲル強度および吸引力等とは相反する関係にある。このため、吸収倍率が向上した吸水性樹脂では、粒子が液体に接した場合に、吸水が均一に行なわれず吸水性樹脂の塊になった部分を形成したり、吸水性樹脂粒子全体に水が拡散しないため吸収速度等を極端に低下させる場合がある。
【0004】
このような現象を緩和し、吸収倍率が高く、かつ吸収速度等も比較的良好な吸水性樹脂を得るために、吸水性樹脂粒子の表面を界面活性剤や非揮発性炭化水素によりコーティングする方法がある。この方法では、初期に吸収する水の分散性は改良されるが、粒子個々の吸収速度や吸引力の向上という面では効果が十分でない。
【0005】
また、吸水特性の改良されたポリアクリル酸系高吸水性重合体の製造方法として、ポリアクリル酸の部分アルカリ金属塩を主成分とし、架橋密度が低い重合体の水性組成物を、水溶性過酸化物ラジカル開始剤の存在下で加熱し、ラジカル架橋によって架橋を導入する方法がある(特許文献1)。内部架橋を重合体中に均一に分布することは困難であり、架橋密度の調整も容易でない。このため、架橋密度が低く水溶性のポリアクリル酸ゲルを含む重合体を得た後、重合開始剤である過硫酸塩などを添加して加熱する。該特許文献1では、開始剤添加量を調整することで架橋密度の精密な制御を可能とし、かつ架橋が均一に重合体中に存在するため、優れた吸水特性が得られ、かつ粘着性がない吸水性樹脂が得られた、としている。
【0006】
上記特許文献1で使用された過硫酸塩は熱によって分解されるが、紫外線によっても分解されラジカルを発生する(非特許文献1)。過硫酸塩は重合開始剤としての作用を有するから、水溶性ビニルモノマーの水溶液に光エネルギーを照射すれば、重合と同時にラジカル架橋が起こり、ハイドロゲルを製造することができる(特許文献2)。また、親水性重合体成分と光重合開始剤とに加えて、更に架橋剤を添加して、紫外線照射によって内部架橋を形成させる反応系もある(特許文献3)。
【0007】
一方、吸水性樹脂の表面を架橋剤を用いて処理し、吸水性樹脂の表面の架橋密度を高める方法もある(例えば、特許文献4、特許文献5)。上記の例で示したような吸水性樹脂の表面には、反応性の官能基が存在する。このような官能基と反応し得る表面架橋剤を添加して官能基間に架橋を導入すれば、吸水性樹脂の表面架橋密度が増加し、加圧下でも優れた吸水特性を有する吸水性樹脂とすることができる。
【0008】
また、上記表面架橋剤を使用すると、架橋形成反応に高温あるいは長持間を要し、未反応架橋剤の残存などの問題があるため、過酸化物ラジカル開始剤を含む水溶液を樹脂に接触させ、該樹脂を加熱してラジカル開始剤の分解を通じて樹脂の表面近傍部の重合体分子鎖に架橋を導入する方法もある(特許文献6)。実施例では、130℃の過熱水蒸気で6分加熱し、吸水倍率の向上した吸水性樹脂を得ている。
【0009】
ここで、表面架橋剤を添加して吸水性樹脂粒子を表面架橋する際に、該吸水性樹脂粒子全体の含水率や水分量を制御して、吸水性樹脂粒子の吸水特性を向上させる技術が知られている(例えば、特許文献7、特許文献8)。
【特許文献1】米国特許第4910250号明細書
【特許文献2】特開2004−99789号公報
【特許文献3】国際公開第2004/031253号パンフレット
【特許文献4】米国特許第4666983号明細書
【特許文献5】米国特許第5422405号明細書
【特許文献6】米国特許第4783510号明細書
【特許文献7】米国特許第4541871号明細書
【特許文献8】米国特許第4507438号明細書
【非特許文献1】J.Phys.Chem.,1975,79,2693、J.Photochem.Photobiol.,A,1988,44,243
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
吸水性樹脂に表面架橋を導入する目的は、吸収倍率と吸収速度とのバランスに優れた吸水性樹脂を製造するためである。一般には、吸水性樹脂表面にある官能基と反応しうる、少なくとも2つの官能基を有する架橋剤を吸水性樹脂に作用させる必要がある。このような架橋剤としては、多価アルコール類、多価グリシジルエーテル類、ハロエポキシ化合物類、多価アルデヒド類、多価アミン類、多価金属塩類等があるが、一般的に反応性が低いために反応を高温で行う必要があり、場合によっては長時間加熱下に置く場合もある。このため、多くのエネルギーと時間とが要求される。
【0011】
表面架橋剤を添加して吸水性樹脂粒子の表面に架橋構造を導入する際に、吸水性樹脂粒子全体の含水率や水分量を制御する上記特許文献7や特許文献8に記載の製造方法においても、より効率的に表面架橋を導入し、より吸水特性に優れる吸水性樹脂を製造することが求められているが、必ずしも満足のいく製造方法が提供されているとは言えないのが現状である。
【0012】
このような現状のもと、本発明は、生産効率に優れ、加圧下吸収倍率、吸収速度、ゲル強度、通液性等に優れた改質された吸水性樹脂の製法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、表面が改質された吸水性樹脂の製法を詳細に検討した。その過程において、吸水性樹脂粒子全体の含水率や水分量を制御する従来の製造方法では十分に優れた吸水特性を有する吸水性樹脂が効率的に製造されえない原因を鋭意探索した。その結果、吸水性樹脂粒子の表面に効率的に架橋構造が導入されるためには粒子の表面がある程度の水分を保持している必要があることを見出した。すなわち、従来の製造方法では、たとえ吸水性樹脂粒子全体の含水率や水分量を制御したとしても、粒子の表面がある程度湿っていない場合には、粒子表面への架橋構造の導入が効率的に行われず、吸水特性に優れた吸水性樹脂が製造されえないことを見出したのである。かような知見に基づき、本発明者らは、吸水性樹脂粒子の表面をある程度湿らせた状態で表面架橋処理を施すことを試みた。加えて、表面架橋の導入手段として、従来の表面架橋剤の添加ではなく活性エネルギー線の照射を採用することで、架橋効率および得られる吸水性樹脂の吸水特性を向上させうることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0014】
すなわち、本発明は、改質された吸水性樹脂の製法であって、a)エチレン性不飽和単量体を添加せずに、吸水性樹脂と、水と、水溶性ラジカル重合開始剤および/または熱分解性ラジカル重合開始剤とを混合して吸水性樹脂組成物を得る混合工程と、b)該混合工程で得られた該吸水性樹脂組成物に活性エネルギー線を照射する照射工程と、を含み、該混合工程a)における該水の混合量が、該吸水性樹脂100重量部に対して20重量部を超えて100重量部以下であり、該照射工程b)における少なくともいずれかの時点での該吸水性樹脂組成物中の該吸水性樹脂の表面含水率を、吸水性樹脂100重量%に対して3.0重量%以上に制御することを特徴とする、改質された吸水性樹脂の製法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明の製法によれば、吸水性樹脂粒子の表面に均一な架橋構造を導入することができる。その結果、改質された吸水性樹脂は、吸収倍率、吸収速度、ゲル強度、吸引力など吸水性樹脂に望まれる特性が極めて高い。
【0016】
また、本発明の改質された吸水性樹脂の製法は、活性エネルギー線の照射によって表面架橋を行なうため、従来の製法と比較して短時間で吸水性樹脂を改質することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明は、改質された吸水性樹脂の製法であって、a)エチレン性不飽和単量体を添加せずに、吸水性樹脂と、水と、水溶性ラジカル重合開始剤および/または熱分解性ラジカル重合開始剤とを混合して吸水性樹脂組成物を得る混合工程と、b)該混合工程で得られた該吸水性樹脂組成物に活性エネルギー線を照射する照射工程と、を含み、該混合工程a)における該水の混合量が、該吸水性樹脂100重量部に対して20重量部を超えて100重量部以下であり、該照射工程b)における少なくともいずれかの時点での該吸水性樹脂組成物中の該吸水性樹脂の表面含水率を、吸水性樹脂100重量%に対して3.0重量%以上に制御することを特徴とする、改質された吸水性樹脂の製法である。
【0018】
以下、本発明にかかる改質された吸水性樹脂の製法について詳しく説明するが、本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更して実施し得る。
【0019】
(a)吸水性樹脂
本発明で使用できる吸水性樹脂は、ヒドロゲルを形成しうる水膨潤性水不溶性の架橋重合体である。なお、以下に詳述するが、本発明は、照射工程における少なくともいずれかの時点での吸水性樹脂組成物中の吸水性樹脂の表面含水率を、吸水性樹脂100重量%に対して3.0重量%以上に制御することを特徴とするものである。このため、混合工程において、吸水性樹脂が混合前に既に含水状態であり、水の添加がなくとも次工程の照射工程開始時の表面含水率が3.0重量%以上である場合には、混合工程において、水を別途添加する必要は必ずしもない。また、本発明において「水膨潤性」とは、生理食塩水での遠心分離機保持容量が2g/g以上であることを意味し、好ましくは5〜100g/g、より好ましくは10〜60g/gである。また、「水不溶性」とは、吸水性樹脂中の未架橋の水可溶性成分(水溶性高分子;以下、「溶出可溶分」とも称する)の含有量が0〜50重量%であることを意味し、好ましくは25重量%以下、より好ましくは15重量%以下、特に好ましくは10重量%以下である。なお、遠心分離機保持容量の数値としては、後述する実施例に記載の手法により測定された値を採用するものとする。また、溶出可溶分の数値としては、以下の手法により測定された値を採用するものとする。
【0020】
[溶出可溶分の測定方法]
250mL容量の蓋付きプラスチック容器(直径6cm×高さ9cm)に、生理食塩水184.3gを測り取り、その中に吸水性樹脂1.00gを加え、16時間、直径8mm、長さ25mmの磁気撹拌子を用いて500rpmの回転数で撹拌することにより、樹脂中の溶出可溶分を抽出する。この抽出液を濾紙(ADVANTEC東洋株式会社、品名:JIS P 3801、No.2、厚さ:0.26mm、保留粒子径:5μm)1枚を用いて濾過し、得られた濾液の50.0gを測り取り、測定溶液とする。
【0021】
はじめに生理食塩水のみを、まず、0.1N水酸化ナトリウム水溶液でpH10まで滴定を行い、その後、1N塩酸でpH2.7まで滴定して空滴定量(それぞれ、[bNaOH]、[bHCl]と称する)を得る。
【0022】
同様の滴定操作を測定溶液についても行うことにより、滴定量(それぞれ、[NaOH]、[HCl]と称する)を得る。
【0023】
例えば、既知量のアクリル酸およびそのナトリウム塩からなる吸水性樹脂の場合、当該単量体の平均分子量および上記操作により得られた滴定量をもとに、吸水性樹脂中の溶出可溶分を下記数式に従って算出する。未知量の場合は滴定により下記数式に従って求めた中和率を用いて単量体の平均分子量を算出する。
【0024】
【数1】

【0025】
なお、本発明において「改質」とは、吸水性樹脂に対する全ての物理的または化学的作用をいい、吸水性樹脂の表面架橋、孔の形成、親水化、疎水化などがある。
【0026】
本発明において使用できる吸水性樹脂としては、エチレン性不飽和単量体を必須に含む単量体成分を用いて、従来公知の方法などを用いて重合により得られるものであれば、特に限定されない。
【0027】
エチレン性不飽和単量体としては、特に限定されず、好ましくは末端に不飽和二重結合を有する単量体、例えば、(メタ)アクリル酸、2−(メタ)アクリロイルエタンスルホン酸、2−(メタ)アクリロイルプロパンスルホン酸、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸等のアニオン性単量体やその塩;(メタ)アクリルアミド、N−置換(メタ)アクリルアミド、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、等のノニオン性親水基含有単量体;N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、等のアミノ基含有不飽和単量体やそれらの4級化物;等を挙げることができ、これらの中から選ばれる1種又は2種以上を用いることができる。好ましくは、(メタ)アクリル酸、2−(メタ)アクリロイルエタンスルホン酸、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、これらの塩、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートの4級化物、(メタ)アクリルアミドであり、特に好ましくは、アクリル酸および/またはその塩である。
【0028】
単量体としてアクリル酸塩を用いる場合には、吸水性樹脂の吸水性能の観点からアクリル酸のアルカリ金属塩、アンモニウム塩、アミン塩から選ばれるアクリル酸の1価塩が好ましい。より好ましくはアクリル酸アルカリ金属塩であり、特に好ましくは、ナトリウム塩、リチウム塩、カリウム塩から選ばれるアクリル酸塩である。
【0029】
吸水性樹脂を製造する際には、本発明の効果を損なわない範囲で、上記単量体以外の他の単量体成分を用いることができる。例えば、炭素数8〜30の芳香族エチレン性不飽和単量体、炭素数2〜20の脂肪族エチレン性不飽和単量体、炭素数5〜15の脂環式エチレン性不飽和単量体、アルキル基の炭素数4〜50の(メタ)アクリル酸アルキルエステルなどの疎水性単量体を例示することができる。これら疎水性単量体の割合は、一般に、上記エチレン性不飽和単量体100重量部に対し、0〜20重量部の範囲である。疎水性単量体が20重量部を超えると、得られる吸水性樹脂の吸水性能が低下する場合がある。
【0030】
本発明で使用する吸水性樹脂は、内部架橋の形成によって不溶性となる。このような内部架橋は、架橋剤を使用しない自己架橋型でもよいが、一分子内に2個以上の重合性不飽和基及び/又は2個以上の反応性官能基を有する内部架橋剤を使用して形成することができる。
【0031】
このような内部架橋剤としては、特に限定されず、好ましくは、例えば、N,N’−メチレンビス(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、グリシジル(メタ)アクリレート、(ポリ)エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート、グリセリンアクリレートメタクリレート、(メタ)アクリル酸多価金属塩、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリアリルアミン、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、トリアリルホスフェート、エチレングリコールジグリシジルエーテル、(ポリ)グリセロールグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル等を挙げることができる。これらの内部架橋剤は、単独で使用されてもあるいは2種以上を併用してもよい。
【0032】
内部架橋剤の使用量は、吸水性樹脂を製造する際に用いる単量体成分の全量に対して、好ましくは0.0001〜1モル%、より好ましくは0.001〜0.5モル%、さらに好ましくは0.005〜0.2モル%である。0.0001モル%を下回ると、内部架橋が樹脂中に導入されず、一方、1モル%を超えると、吸水性樹脂のゲル強度が高くなりすぎ、吸水倍率が低下する場合がある。上記内部架橋剤を用いて架橋構造を重合体内部に導入する場合には、上記内部架橋剤を、上記単量体の重合前あるいは重合途中、あるいは重合後、または中和後に反応系に添加するようにすればよい。
【0033】
吸水性樹脂を得るには、上記単量体および内部架橋剤を含む単量体成分を水溶液中で重合すればよい。この際、使用できる重合開始剤としては、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウムなどの過硫酸塩;過酢酸カリウム、過酢酸ナトリウム、過炭酸カリウム、過炭酸ナトリウム、t−ブチルハイドロパーオキサイド;過酸化水素;2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩等のアゾ化合物、等の水溶性ラジカル重合開始剤や、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン等の光重合開始剤がある。また、例えば、上記水溶性ラジカル重合開始剤に、亜硫酸塩やL−アスコルビン酸、第2鉄塩等の還元剤を組み合わせてレドックス系開始剤として用いてもよい。
【0034】
上記単量体水溶液中の単量体の濃度に特に制限はないが、好ましくは15〜90重量%、より好ましくは35〜80重量%である。15重量%を下回ると、得られたヒドロゲルの水分量が多いため、乾燥のための熱量や時間を必要とし、不利である。
【0035】
重合方法としては特に限定されず、周知の方法、例えば、水溶液重合、逆相懸濁重合、沈殿重合、塊状重合等を採用することができる。これらの方法の中でも、重合反応の制御の容易さや、得られる吸水性樹脂の性能面から、単量体を水溶液に溶解して重合させる水溶液重合や、逆相懸濁重合が好ましい。
【0036】
上記の重合を開始させる際には、前述の重合開始剤を使用して開始させる。また、前述重合開始剤の他にも紫外線や電子線、γ線などの活性エネルギー線を単独あるいは重合開始剤と併用しても良い。重合開始時の温度は、使用する重合開始剤の種類にもよるが、15〜130℃の範囲が好ましく、20〜120℃の範囲が好ましい。重合開始時の温度が上記の範囲を外れると、得られる吸水性樹脂の残存単量体の増加や、過度の自己架橋反応が進行して吸水性樹脂の吸水性能が低下するおそれがある。
【0037】
なお、逆相懸濁重合とは、単量体水溶液を疎水性有機溶媒に懸濁させる重合法であり、例えば、米国特許第4093776号、同4367323号、同4446261号、同4683274号、同5244735号などの米国特許に記載されている。水溶液重合は分散溶媒を用いずに単量体水溶液を重合する方法であり、例えば、米国特許第4625001号、同4873299号、同4286082号、同4973632号、同4985518号、同5124416号、同5250640号、同5264495号、同5145906号、同5380808号などの米国特許や、欧州特許第0811636号、同0955086号,同0922717号などの欧州特許に記載されている。これら重合法に例示の単量体や開始剤なども本発明では適用できる。
【0038】
なお、水溶液重合を行なう場合には、アクリル酸等の部分中和物を重合したり、アクリル酸等の酸基含有単量体を重合した後に水酸化ナトリウムや炭酸ナトリウム等のアルカリ化合物により重合物を中和することもできる。したがって、本発明で使用される吸水性樹脂は、酸基を含有しかつ所定の中和率(全酸基中の中和された酸基のモル%)を有するものであることが好ましい。この際、得られる吸水性樹脂の中和率(全酸基中の中和された酸基のモル%)は、25〜100モル%の範囲であり、好ましくは50〜90モル%の範囲、さらに好ましくは50〜75モル%、最も好ましくは60〜70モル%の範囲である。
【0039】
したがって、本発明の好ましい態様は、改質された吸水性樹脂の製法であって、a)エチレン性不飽和単量体を添加せずに、吸水性樹脂と水とラジカル重合開始剤としての過硫酸塩とを混合し、b)得られた混合物に活性エネルギー線を照射すること、を含み、かつ該吸水性樹脂が酸基を含有しかつ50〜75モル%の中和率(全酸基中の中和された酸基のモル%)を有するものである、改質された吸水性樹脂の製法を提供する。重合後、通常は含水ゲル状架橋重合体である。本発明では、この含水ゲル状架橋重合体をそのまま吸水性樹脂として使用することもできるが、好ましくは乾燥され、後述の含水率(重量%)(100−固形分(重量%))とされる。
【0040】
なお、本発明において、吸水性樹脂は、後述するように水溶性ラジカル重合開始剤および/または熱分解性ラジカル重合開始剤(本明細書中では、一括して「ラジカル重合開始剤」とも称する)並びに水と混合されて吸水性樹脂組成物を形成する。そして当該組成物に活性エネルギー線を照射することによって吸水性樹脂は改質されるが、このような改質は重合体主鎖に対する活性ラジカル重合開始剤の作用によるものである。したがって、必ずしも前述した水溶性エチレン性不飽和モノマーを重合して得られる吸水性樹脂のみならず、ポリビニルアルコール架橋体、ポリエチレンオキサイド架橋体、ポリアスパラギン酸架橋体、カルボキシメチルセルロース架橋体等の吸水性樹脂を改質することもできる。
【0041】
一方、本発明で用いられる吸水性樹脂としては、好ましくは特にアクリル酸(塩)を主成分とするモノマーを重合して得られる粉末状の吸水性樹脂である。重合によって得られた含水ゲル状重合体は、好ましくは乾燥の後に粉砕されて吸水性樹脂とする。前記乾燥は、例えば、熱風乾燥機などの乾燥機を用い、好ましくは100〜220℃、より好ましくは120〜200℃で乾燥させればよい。
【0042】
このような粉砕に用いることができる粉砕機としては、例えば、粉体工学便覧(粉体工学会編、初版)の表1.10で分類されている粉砕機種名のうちでも、剪断粗砕機、衝撃破砕機、高速回転式粉砕機に分類されて、切断、剪断、衝撃、摩擦といった粉砕機構の1つ以上の機構を有するものが好ましく使用でき、それら機種に該当する粉砕機の中でも切断、剪断機構が主機構である粉砕機が特に好ましく使用できる。例えば、ロールミル(ロール回転形)粉砕機が好ましく挙げられる。
【0043】
本発明で用いられる吸水性樹脂は、粉末状であることが好ましい。より好ましくは150〜850μm(ふるい分級で規定)の範囲の粒径の粒子を90〜100重量%、特に好ましくは95〜100重量%含む粉末状吸水性樹脂である。850μmよりも大きい吸水性樹脂は、例えば得られた改質された吸水性樹脂をおむつ等に用いると、肌触りが悪く、おむつのトップシートを破ったりする場合もある。一方、150μmよりも小さい粒子が10重量%を超えると、微粉が飛散したり、使用時に目詰まりを生じ、改質された吸水性樹脂の吸水性能を低下させる場合もある。重量平均粒径は、10〜1,000μm、好ましくは200〜600μmの範囲である。重量平均粒径が10μmを下回ると、安全衛生上好ましくない場合がある。一方、1,000μmを超えると、オムツなどに用いることができない場合がある。なお、上記粒径の数値としては、以下の実施例で記載された粒度分布の測定方法で測定された値を採用するものとする。
【0044】
上記に加えてあるいは上記に代えて、本発明で用いられる吸水性樹脂は、低位の中和率の吸水性樹脂前駆体を得、該吸水性樹脂前駆体に塩基を加えることによって得られることが好ましい。従来では、表面処理(表面架橋)に多官能表面処理剤を使用していた。この多官能表面処理剤は、吸水性樹脂中のカルボキシル基(−COOH)とは反応するがその塩(例えば、−COONa)とは反応しないという性質を有する。このため、予め−COOH/−COONaの存在割合が適当な範囲になるように調節したエチレン性不飽和単量体混合物(例えば、アクリル酸とアクリル酸ナトリウムとの混合物)を重合することにより、−COOHと−COONaが均一に分布した吸水性樹脂を製造して、これを多官能表面処理剤による表面架橋に使用する場合には、均一な架橋が得られる。一方で、アクリル酸等の酸型のエチレン性不飽和単量体を主成分として重合した後、当該重合体を水酸化ナトリウムや炭酸ナトリウム等のアルカリ化合物で中和することにより得られる吸水性樹脂は、可溶分が少なく、ゲル強度が高いが、多官能表面処理剤で表面架橋する場合には、−COOHと−COONaが均一に分布していないため、吸水特性が低下してしまう。このため、後者のような方法で得られた吸水性樹脂に、従来のような多官能表面処理剤による表面架橋を施すことは望ましくなかった。しかしながら、本発明の方法によれば、水溶性ラジカル重合開始剤または熱分解型ラジカル重合性開始剤は、−COOHと反応するのではなく、主鎖の水素を引き抜くことによってラジカルを形成し、このラジカルがカップリングすることによって架橋するため、吸収性樹脂中に−COOHが均一に分布するか否かで架橋反応が影響を受けることはない。したがって、本発明の方法によれば、一旦、アクリル酸等の酸型のエチレン性不飽和単量体を主成分とする単量体/単量体混合物を重合して、低位の中和率の吸水性樹脂前駆体を得た後、この吸水性樹脂前駆体を水酸化ナトリウムや炭酸ナトリウム等のアルカリ化合物で中和することによって得られる吸水性樹脂を改質することが可能になり、当該方法によって得られた改質された吸水性樹脂は、高いゲル強度及び優れた吸水特性を発揮できる。
【0045】
上記したように、吸水性樹脂を、酸型のエチレン性不飽和単量体を主成分とする単量体/単量体混合物を重合して、低位の中和率の吸水性樹脂前駆体を得た後、この吸水性樹脂前駆体に塩基を加えることによって得る場合において、塩基は、固体または液体のいずれの形態で添加されてもよい。好ましくは、塩基は、液体、特に水溶液の形態で添加することが好ましい。このように塩基を水溶液の形態で添加すると、得られた吸水性樹脂が含水状態にあるため、吸水性樹脂前駆体へ塩基を添加する工程と吸水性樹脂組成物を得る工程とを同時に行なうことができる。上記実施形態において使用できる塩基は、低位の中和率の吸水性樹脂前駆体を所望の中和率にまで中和できるものであれば特に制限されず、従来公知の無機または有機の塩または酸を使用することができる。具体的には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化アンモニウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素アンモニウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸アンモニウム、ホウ酸ナトリウム、ホウ酸カリウム、ホウ酸アンモニウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸アンモニウム、乳酸ナトリウム、乳酸カリウム、乳酸アンモニウム、プロピオン酸ナトリウム、プロピオン酸カリウム、プロピオン酸アンモニウム等が挙げられる。これら塩基は、一種類のみを単独で使用してもあるいは二種類以上を適宜混合して用いてもよい。上記塩基のうち、アクリル酸等の酸型のエチレン性不飽和単量体を主成分とする単量体/単量体混合物を重合して得られる低位の中和率の吸水性樹脂前駆体を中和する場合には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化アンモニウム等の一価陽イオンの水酸化物;炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素アンモニウム等の一価陽イオンの炭酸塩が、工業的に入手が容易で、しかも、高物性であり、また、効率的に所望の中和率に調節することができることため、好ましい。なお、上記実施形態における塩基の添加量は、特に制限されず、混合工程a)で使用される吸水性樹脂が上記したような好ましい範囲の所望の中和率に適宜選択される。
【0046】
本発明において、「低位の中和率の吸水性樹脂前駆体」とは、中和率(全酸基中の中和された酸基のモル%)が低いまたは酸基が中和されてない(中和率が0である)吸水性樹脂前駆体をいい、具体的には、中和率(全酸基中の中和された酸基のモル%)が0〜50モル%、より好ましくは0〜20モル%程度のものをいう。このような低位の中和率の吸水性樹脂前駆体は、上記方法において、好ましくは上記中和率になるように、アクリル酸などの酸基を有する単量体を主成分とした単量体混合物を使用することによって上記と同様の方法によって得られるため、詳細な説明はここでは省略する。
【0047】
本発明の改質された吸水性樹脂の製法で使用する吸水性樹脂の、改質前における含水率は、吸水性樹脂が流動性を有する限り、特に制限されない。好ましくは180℃で3時間乾燥した後の含水率が、0〜50重量%、0〜40重量%、0〜30重量%、0〜20重量%、0〜10重量%、0〜5重量%の範囲の順で好ましい。
【0048】
本発明で用いる吸水性樹脂は、上記方法で製造されたものに限定されず、他の方法で調製されたものであってもよい。また、上記方法で得られた吸水性樹脂は、表面架橋されていない吸水性樹脂であるが、本発明の改質された吸水性樹脂の製法で使用する吸水性樹脂としては、予め多価アルコール、多価エポキシ化合物、アルキレンカーボネート、オキサゾリドン化合物等を用いて表面架橋された吸水性樹脂であってもよい。
【0049】
(b)吸水性樹脂組成物
本発明の改質された吸水性樹脂の製法では、工程a)において、エチレン性不飽和単量体を添加することなく、前記吸水性樹脂に対して水と、ラジカル重合開始剤(水溶性ラジカル重合開始剤および/または熱分解性ラジカル重合開始剤)とを混合して、吸水性樹脂組成物を得る。
【0050】
従来、吸水性樹脂の表面架橋には、表面架橋剤を配合して行われることが一般的であった。表面架橋剤を配合すれば、樹脂表面にある官能基と表面架橋剤とが化学的に強固に結合し、これによって安定な表面架橋構造を樹脂表面に導入することができる。また、表面架橋剤の鎖長を適宜選択することで表面架橋距離を容易に調整することができ、配合量を調整すれば架橋密度を制御することができる。しかしながら、本発明では、このような表面架橋剤を配合しなくとも、ラジカル重合開始剤を使用するだけで、吸水性樹脂を改質し、具体的には吸水性樹脂の表面に架橋構造を導入することができる。さらに、水を混合して得られる吸水性樹脂組成物に対して活性エネルギー線を照射することで、吸水性樹脂粒子の表面に効率的に架橋構造を導入することができ、かつ、得られる改質された吸水性樹脂の吸水特性も改善されうるのである。上記利点に加えて、工程a)で吸水性樹脂に比較的多量の水を添加することによって、後述する工程b)により、吸水性樹脂粒子の表面に効率的に架橋構造を導入することができるため、加圧下吸収倍率(AAP)や食塩水流れ誘導性(SFC)を所望の程度まで向上させるために必要な照射時間を短縮できるという利点もある。
【0051】
なお、本発明において、「エチレン性不飽和単量体を添加することなく」としたのは、吸水性樹脂組成物がエチレン性不飽和単量体を含むと、工程b)において活性エネルギー線を照射することにより活性化したラジカル重合開始剤が、吸水性樹脂の表面に作用する前にエチレン性不飽和単量体と反応して消費されてしまうが、これを避けるためである。
【0052】
工程a)においては、吸水性樹脂に対して、水が混合される。この際、吸水性樹脂と水との混合は、水が単独で添加されることにより行われてもよいし、水が他の成分を含む水溶液の形態で添加されることにより行われてもよい。当該水溶液としては、例えば、後述するラジカル重合開始剤を含む水溶液や、同様に後述する混合助剤を含む水溶液などが例示される。
【0053】
工程a)において吸水性樹脂と混合される水の混合量は、得られる吸水性樹脂組成物における値として、吸水性樹脂100重量部(固形分100重量部に換算)に対して、20重量部を超えて100重量部以下であることが必須である。このように工程a)で吸水性樹脂に比較的多量の水を添加することによって、後述する工程b)により、吸水性樹脂粒子の表面に効率的に架橋構造を導入することができるため、加圧下吸収倍率(AAP)や食塩水流れ誘導性(SFC)を所望の程度まで向上させるために必要な照射時間を短縮できる。また、工程a)において吸水性樹脂と混合される水の混合量は、得られる吸水性樹脂組成物における値として、吸水性樹脂100重量部(固形分100重量部に換算)に対して、20重量部を超えて70重量部、20重量部を超えて50重量部、20重量部を超えて40重量部、及び20重量部を超えて30重量部の順で好ましい。この際、水の量が100重量部よりも多いと、活性エネルギー線を照射した後に乾燥工程で多くのエネルギーを必要とするため、不利となる。また、吸水性樹脂が分解する場合もある。
【0054】
さらに、工程a)においては、上述した水に加えて、吸水性樹脂組成物にラジカル重合開始剤として水溶性ラジカル重合開始剤および/または熱分解性ラジカル重合開始剤が混合される。なお、以下では、「水溶性ラジカル重合開始剤および/または熱分解性ラジカル重合開始剤」を一括してラジカル重合開始剤と称することもある。
【0055】
本工程において、吸水性樹脂に「水溶性ラジカル重合開始剤」が混合されると、親水性および吸水性に優れる吸水性樹脂の表面に均一に容易に分散できる。これによって、吸水特性に優れる吸水性樹脂を製造することができる。
【0056】
本発明で用いられる水溶性ラジカル重合開始剤としては、水(25℃)に1重量%以上、好ましくは5重量%以上、より好ましくは10重量%以上溶解するものであり、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム等の過硫酸塩;過酸化水素;2,2’−アゾビス−2−アミジノプロパン二塩酸塩、2,2’−アゾビス[2−2(−イミダゾリン−2−イル)プロパン]2塩酸塩等の水溶性アゾ化合物等が挙げられる。これらの中でも、特に過硫酸塩を使用すると、改質後の吸水性樹脂の生理食塩水に対する加圧下吸収倍率(本明細書では、単に「加圧下吸収倍率」とも称する)、食塩水流れ誘導性などの吸水特性がいずれも優れる点で好ましい。
【0057】
一方、本発明で用いられる熱分解性ラジカル重合開始剤とは、加熱によりラジカルを発生する化合物であり、中でも10時間半減期温度が0℃以上120℃以下のものが好ましく、20℃以上100℃以下のものがより好ましく、活性エネルギー線を照射する温度条件等を考慮すると、40℃以上80℃以下のものが特に好ましい。10時間半減期温度が0℃(下限値)未満では、貯蔵時に不安定であり、120℃(上限値)を超えると化学的に安定過ぎて反応性が低くなる場合がある。
【0058】
本工程において、吸水性樹脂に「熱分解性ラジカル重合開始剤」が混合されると、かような重合開始剤を添加した状態で活性エネルギー線を照射することで、低温かつ短時間で表面改質ができ、高いゲル強度及び優れた吸水特性を達成できる。本発明において、熱分解性ラジカル重合開始剤としては、油溶性および水溶性のいずれも用いられうる。油溶性熱分解性ラジカル重合開始剤は、水溶性熱分解性ラジカル重合開始剤と比較して分解速度がpHやイオン強度の影響を受けにくいという特徴がある。しかし、吸水性樹脂は親水性であるため、吸水性樹脂への浸透性を考慮すると、水溶性熱分解性ラジカル重合開始剤を使用することがより好ましい。
【0059】
熱分解性ラジカル重合開始剤は、光分解型ラジカル重合開始剤として市販されている化合物と比べて比較的安価で、厳密な遮光が必ずしも必要でないため製造プロセス、製造装置を簡略化できる。代表的な熱分解性ラジカル重合開始剤としては、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウムなどの過硫酸塩;過炭酸ナトリウムなどの過炭酸塩;過酢酸、過酢酸ナトリウムなどの過酢酸塩;過酸化水素;2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩、2,2’−アゾビス[2−2(−イミダゾリン−2−イル)プロパン]二塩酸塩、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオニトリル)などのアゾ化合物が挙げられる。中でも、10時間半減期温度が40〜80℃である、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウムなどの過硫酸塩、および2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩、2,2’−アゾビス[2−2(−イミダゾリン−2−イル)プロパン]二塩酸塩、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオニトリル)などのアゾ化合物が好ましい。これらの中でも、特に過硫酸塩を使用すると、加圧下吸収倍率、食塩水流れ誘導性がいずれも優れる点で好ましい。
【0060】
ラジカル重合開始剤の使用量は、吸水性樹脂100重量部に対し、0.01〜20重量部の範囲が好ましく、より好ましくは0.1〜15重量部の範囲、特に好ましくは1〜10重量部の範囲である。ラジカル重合開始剤の混合量が0.01重量部よりも少ないと、活性エネルギー線を照射しても吸水性樹脂を十分に改質することができなくなる場合がある。一方、ラジカル重合開始剤の混合量が20重量部よりも多いと、改質された吸水性樹脂の吸水性能が低下することがある。
【0061】
本発明では、水溶性ラジカル重合開始剤および/または熱分解性ラジカル重合開始剤を必須に使用することで、これらのラジカル重合開始剤を全く用いない場合、例えば、油溶性光重合開始剤のみを使用する場合などに比べて、優れた物性を達成できる。なお、ここでいう油溶性光重合開始剤とは、例えば水への溶解度が1重量%未満の化合物である。
【0062】
本発明では、水溶性ラジカル重合開始剤および/または熱分解性ラジカル重合開始剤を必須に使用するが、これらのラジカル重合開始剤以外の開始剤を更に併用してもよい。このような併用できる他の重合開始剤として、油溶性のベンゾイン誘導体、ベンジル誘導体、アセトフェノン誘導体などの光重合開始剤、また油溶性のケトンパーオキサイド、パーオキシケタール、ハイドロパーオキサイド、ジアルキルパーオキサイド、パーオキシエステル、パーオキシカルボネートなどの油溶性有機過酸化物が挙げられる。かかる光重合開始剤としては市販品でもよく、チバ・スペシャルティケミカルズの商品名イルガキュア(登録商標)184(ヒドロキシシクロヘキシル−フェニルケトン)、イルガキュア(登録商標)2959(1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン)などが例示できる。
【0063】
本発明で必要により他の開始剤を併用する場合、その使用量は吸水性樹脂100重量部に対して0〜20重量部、好ましくは0〜15重量部、特には0〜10重量部であり、その使用比率はラジカル重合開始剤よりも少ない量、例えばラジカル重合開始剤に対する重量比で1/2以下、更には1/10以下、特には1/50以下である。この際、水溶性ラジカル重合開始剤および熱分解性ラジカル重合開始剤が併用される場合には、ラジカル重合開始剤の量とはこれらの合計量を意味する。
【0064】
上記ラジカル重合開始剤を吸水性樹脂と混合するには、ラジカル重合開始剤をそのまま吸水性樹脂と混合してもよいが、好ましくはこれを水に溶解させ、得られた水溶液を吸水性樹脂と混合する。吸水性樹脂は吸水特性を有するため、上記ラジカル重合開始剤を水溶液の形態で混合することで、ラジカル重合開始剤を吸水性樹脂の表面に均一に分散させ、吸水性樹脂と均一に混合することができる。なお、水溶液としては、水の他、ラジカル重合開始剤の溶解性を損なわない範囲で他の溶媒を含んでいてもよい。
【0065】
ラジカル重合開始剤の添加が水溶液の形態で行われる場合、用いられる水溶液における水の量は特に制限されないが、得られる吸水性樹脂組成物における水の量が上述した好ましい範囲となるように調節すればよい。なお、吸水性樹脂への水の混合形態は、必ずしもラジカル重合開始剤を含む水溶液の形態で混合される場合に限られない。ラジカル重合開始剤と吸水性樹脂とを混合した後に、水または水溶液が混合されてもよい。したがって、単量体成分を重合して得た含水ゲル状架橋体を、含水率0〜50重量%に乾燥したものに、ラジカル重合開始剤を直接混合して、吸水性樹脂組成物を得てもよい。
【0066】
一方、吸水性樹脂組成物の混合性を向上させるため、吸水性樹脂組成物に対して混合助剤を添加することが好ましい。この際、混合助剤の添加時期は特に制限されないが、混合助剤を、混合工程a)と同時にまたは当該工程a)の前に添加することが好ましい。
【0067】
ここで、混合助剤は、エチレン性不飽和単量体またはラジカル重合開始剤以外の水溶性または水分散性の化合物であり、吸水性樹脂の水による凝集を抑制し、水溶液と吸水性樹脂との混合性を向上できるものであれば特に制限されないが、水溶性または水分散性の化合物であることが好ましい。このような水溶性または水分散性の化合物としては、具体的には、界面活性剤、水溶性高分子、親水性有機溶媒、水溶性無機化合物、無機酸、無機酸塩、有機酸及び有機酸塩が使用できる。なお、本明細書において、水溶性の化合物とは、室温で水100gに対する溶解度が1g以上のものを意味し、好ましくは10g以上のものである。混合助剤を添加することによって、吸水性樹脂の水による凝集を抑制して、水溶液と吸水性樹脂とが均一に混合できるため、次工程で活性エネルギー線を照射する際に、活性エネルギー線を吸水性樹脂に均等にかつまんべんなく照射することができ、吸水性樹脂全体を均一に表面架橋することが可能になる。
【0068】
混合助剤を使用する場合の、混合助剤の使用形態は特に制限されず、粉末の形態で使用されてもあるいは溶液中に溶解、分散若しくは懸濁させて使用してもよいが、好ましくは水溶液の形態で使用される。
【0069】
また、混合助剤を使用する場合の、混合助剤の添加順序もまた特に制限されず、吸水性樹脂に予め混合助剤を加えた後、これに水やラジカル重合開始剤(場合によってはこれらを含む水溶液)を添加して混合する方法、および混合助剤を水溶液に溶解して吸水性樹脂と同時に混合する方法なども使用できる。
【0070】
このような界面活性剤としては、HLBが7以上の非イオン性界面活性剤もしくはアニオン系界面活性剤からなる群から選ばれる少なくとも1種の界面活性剤を用いることができる。例えば、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテル、ポリオキシエチレンアシルエステル、ショ糖脂肪酸エステル、高級アルコール硫酸エステル塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、アルキルポリオキシエチレンサルフェート塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、等が例示できる。中でも、ポリオキシエチレンアルキルエーテルが好ましい。ポリオキシエチレンアルキルエーテルの数平均分子量は、200〜100,000が好ましく、500〜10,000がさらに好ましい。数平均分子量が大き過ぎると、水への溶解度が低下して、添加量を増やせない上、溶液の粘度も増加するので、吸水性樹脂との混合性がよくない。一方、数平均分子量が小さ過ぎると、混合助剤として効果が劣る。
【0071】
水溶性高分子としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリエチレンイミン、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、デキストリン、アルギン酸ナトリウム、デンプン等を挙げることができる。中でも、ポリエチレングリコールが好ましい。ポリオキシエチレンアルキルエーテルと同じく、数平均分子量は200〜100,000が好ましく、500〜10,000がさらに好ましい。
【0072】
親水性有機溶媒としては、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール、イソブチルアルコール、t−ブチルアルコール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;ジオキサン、アルコキシ(ポリ)エチレングリコール、テトラヒドロフラン等のエーテル類;ε−カプロラクタム、N,N−ジメチルホルムアミド等のアミド類;ジメチルスルホキサイド等のスルホキサイド類;エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,3−プロパンジオール、ジプロピレングリコール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、グリセリン、2−ブテン−1,4−ジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,2−シクロヘキサンジメタノール、1,2−シクロヘキサノール、トリメチロールプロパン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ポリオキシプロピレン、ペンタエリスリトール、ソルビトール等の多価アルコール類;などが挙げられ、これらの1種または2種以上を用いることができる。
【0073】
水溶性無機化合物としては、塩化ナトリウム、硫酸水素ナトリウム、硫酸ナトリウムなどのアルカリ金属塩、塩化アンモニウム、硫酸水素アンモニウム、硫酸アンモニウム等のアンモニウム塩、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物や、塩化アルミニウム、ポリ塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム、カリウムミョウバン、塩化カルシウム、アルコキシチタン、炭酸ジルコニウムアンモニウム、酢酸ジルコニウムなどの多価金属塩、および炭酸水素塩、リン酸二水素塩、リン酸水素塩などの非還元性アルカリ金属塩pH緩衝剤が例示される。
【0074】
また、無機酸(塩)としては、塩酸、硫酸、リン酸、炭酸、ホウ酸、およびそれらの塩、例えば、アルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩が、また、有機酸(塩)としては、酢酸、プロピオン酸、乳酸、クエン酸、コハク酸、リンゴ酸、酒石酸およびそれらの塩、例えば、アルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩が代表的なものとして例示される。
【0075】
上記例示のうち、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリエチレングリコール、水溶性多価金属塩、塩化ナトリウム、硫酸水素アンモニウム、硫酸アンモニウム、硫酸、及び塩酸からなる群より選択される少なくとも1種の水溶性または水分散性の化合物が混合助剤として好ましく使用される。
【0076】
これらの混合助剤は、単独で使用されてもよいし、2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。また、混合助剤の添加量は、上記したように、吸水性樹脂の水による凝集を抑制し、水溶液と吸水性樹脂との混合性を向上できるものであれば特に制限されないが、例えば、吸水性樹脂100重量部に対して、0.01〜40重量部、より好ましくは0.1〜5重量部の量で添加されることが好ましい。
【0077】
本発明に係る工程a)において、吸水性樹脂、水及びラジカル重合開始剤、ならびに必要であれば混合助剤の混合条件は、特に制限されない。例えば、工程a)における混合温度は、0〜150℃、10〜120℃、20〜100℃、30〜90℃、40〜70℃の順で好ましい。この際、混合温度が150℃を超えると、吸水性樹脂が熱で劣化したり、また、水の蒸発等により工程b)での吸水性樹脂の表面含水率が3.0重量%未満に到達しない可能性がある。逆に、混合温度が0℃未満であると、水が結露してしまい運転を安定して行なえない可能性がある。なお、混合工程を高温で行なう場合には、ラジカル重合開始剤が熱により少ない照射量でも作用でき、好ましい。このため、このような場合には、工程b)での吸水性樹脂の表面含水率を3.0重量%以上にするために、混合/照射系を密閉などすることにより水蒸気の過剰な漏れを抑えることが好ましい。また、工程a)前の吸水性樹脂及び水の温度もまた特に制限されないが、例えば、工程a)前の吸水性樹脂の温度は、0〜150℃、10〜120℃、20〜100℃、50〜100℃の順で好ましい。この際、工程a)前の吸水性樹脂の温度が150℃を超えると、吸水性樹脂が熱で劣化する可能性があり、逆に0℃未満であると、水が結露してしまい運転を安定して行なえない可能性がある。また、工程a)前の水の温度は、好ましくは5〜80℃、より好ましくは10〜60℃、特に好ましくは20〜50℃である。この際、工程a)前の水の温度が80℃を超えると、混合工程a)前に水が過度に蒸発して、十分量の水を吸水性樹脂と混合できずに、工程b)での吸水性樹脂の表面含水率が3.0重量%に到達しない可能性があり、逆に5℃未満であると、水が結露してしまい運転を安定して行なえない可能性がある。さらに、工程a)における混合時間は、これらが均一に混合できる時間であれば特に制限されない。具体的には、混合時間は、好ましくは0.1秒〜60分、より好ましくは1秒〜30分、更により好ましくは2秒〜20分、最も好ましくは5秒〜10分である。この際、混合時間が下限を下回ると、吸水性樹脂、水及びラジカル重合開始剤、ならびに必要であれば混合助剤が均一に混合しない可能性があり、逆に、混合時間が上限を超えて必要以上に長くなると、吸水性樹脂内部に過剰な水が浸透していくため、表面含水率が3.0重量%未満に低下し、活性エネルギー線の照射による表面処理が進行しにくくなる可能性がある。また、吸水性樹脂と混合する水量を必要以上に減らしても同様に表面含水率が3.0重量%未満に低下するため好ましくない。
【0078】
なお、吸水性樹脂と、水と、ラジカル重合開始剤とを混合して吸水性樹脂組成物を得る方法としては、通常の混合機、例えばV型混合機、リボン型混合機、スクリュー型混合機、回転円板型混合機、気流型混合機、バッチ式ニーダー、連続式ニーダー、パドル型混合機、鋤型混合機等を用いて混合する方法が挙げられる。
【0079】
(c)活性エネルギー線
吸水性樹脂の製造において、活性エネルギー線を照射し、重合率を向上させることは公知である。例えば、重合性単量体成分に内部架橋剤と光重合開始剤を配合し、紫外線や電子線、γ線などの活性エネルギー線を照射して内部架橋を有する不溶性吸水性樹脂を調製することができる。また、吸水性樹脂の表面架橋方法として、表面架橋剤を使用し、加温条件で反応を促進して表面架橋を形成させることも公知である。このような吸水性樹脂の表面架橋として、多価アルコールや多価グリシジルエーテル、ハロエポキシ化合物、多価アルデヒドなどの、1分子中に複数の官能基を有する化合物を使用する。一般に、100〜300℃に加熱すると、これらの官能基が吸水性樹脂の表面にあるカルボキシル基などと反応し、吸水性樹脂の表面に架橋構造が形成される。しかしながら本発明では、このような表面架橋剤や重合性単量体の存在がなくても、ラジカル重合開始剤と活性エネルギー線の照射によって、吸水性樹脂の表面に架橋構造を形成しうる点に特徴がある。またこれによって、改質後の吸水性樹脂の加圧下吸収倍率(AAP)や食塩水流れ誘導性(SFC)を向上させることができる。
【0080】
本発明の製法は、吸水性樹脂組成物に対して活性エネルギー線を照射する照射工程において、当該吸水性樹脂組成物中の吸水性樹脂の表面含水率を所定の値以上に制御する点に特徴を有する。
【0081】
具体的には、当該照射工程において、吸水性樹脂組成物中の吸水性樹脂の表面含水率を3.0重量%以上に制御する。なお、当該表面含水率は、活性エネルギー線の照射工程における少なくともいずれかの時点において3.0重量%以上となるように制御されていればよいのであって、照射工程の開始から終了までの全期間に亘って3.0重量%以上に制御されている必要はない。ここで、照射工程の開始から終了までの全期間に亘って、吸水性樹脂の表面含水率が3.0重量%未満であると、活性エネルギー線照射による吸水性樹脂表面の改質(例えば、架橋構造の導入)が効率的に行われない場合がある。そしてその結果、得られる改質された吸水性樹脂も十分に優れた吸水特性を示さない場合がある。
【0082】
上述したように、表面含水率の値は、照射工程における少なくともいずれかの時点において3.0重量%以上に制御されていればよいが、好ましくは3.5重量%以上、より好ましくは4.0重量%以上に制御される。なお、本発明の作用効果を得るという観点からは、表面含水率の上限値について特に制限はなく、目的に応じて適宜設定されうる。ただし、表面含水率は通常60.0重量%以下であり、好ましくは50.0重量%以下であり、より好ましくは40.0重量%以下であり、さらに好ましくは30.0重量%以下である。表面含水率が高すぎると、吸水性樹脂が粒子間で接着/凝集してしまい、吸水性樹脂表面への活性エネルギー線の照射が効率的に行われない場合がある。
【0083】
本発明の好ましい形態においては、照射工程の開始時における表面含水率が、上記の範囲内の値に制御される。これにより、本発明の作用効果を確実に得ることが可能となる。ここで、照射工程が行われる期間中、表面含水率の値は変動してもよい。すなわち、照射工程開始時と比較して、表面含水率の値が増加してもよいし、減少してもよい。いずれにしても、照射工程における少なくともいずれかの時点において、表面含水率が上記の範囲内の値に制御されていればよく、好ましくは照射工程の全期間の30%以上、より好ましくは60%以上、さらに好ましくは90%以上、特に好ましくは100%(すなわち、全期間)において、表面含水率が上記の範囲内の値に制御される。
【0084】
なお、本発明において「表面含水率」とは、吸水性樹脂粒子の重量に対する、当該粒子の表面近傍に存在する水分量の重量百分率を意味し、粒子全体の水分量や含水率といった概念とは本質的に異なるものである。そしてその数値としては、後述する実施例に記載の手法により測定された値を採用するものとする。当該測定手法を簡潔に説明すると、工程a)で得られた吸水性樹脂組成物に親水性有機溶媒を加えて水分を抽出し、抽出液中の水分量をカールフィッシャー法により定量することで、表面含水率の値が算出されうる。
【0085】
照射工程において、吸水性樹脂の表面含水率の値を上記の範囲内の値に制御する手法は特に制限されない。一例を挙げると、好ましい表面含水率を達成するためには、工程a)で得られる吸水性樹脂組成物中に十分な量の水を加えるという手法や、混合工程a)および照射工程b)において、水分が吸水性樹脂粒子内部に浸透したり、雰囲気へと蒸発するのを抑えるといった手法が挙げられる。水分の吸水性樹脂粒子内部への浸透の程度は時間と温度の影響を受けることから、混合工程a)における系内の温度を適宜制御することが好ましい。また、水分の蒸発を抑えるためには、混合時間と系内温度の制御に加えて、系を出来るだけ密閉に近い状態にすることが好ましい。照射工程b)において、例えば箱または筒状の構造を有する撹拌装置を使用する場合には、照射のための開口部を石英ガラスのような活性エネルギー線を透過可能な部材で覆うことで密閉に近い状態を達成できる。また、吸水性樹脂内部への水の浸透を促進させる手法としては、混合工程a)における混合時間を長くしたり、吸水性樹脂組成物を密閉系に置いたり、当該組成物に対して水の沸点以下の温度での加熱処理を施すといった手法が挙げられる。一方、水の表面からの拡散を促進させる方法としては、吸水性樹脂組成物に対して気流を導入したり、吸水性樹脂組成物を開放系に置いたり、当該組成物に対して水の沸点以上の温度での加熱処理を施すといった手法が挙げられる。
【0086】
なお、吸水性樹脂の表面含水率の値を上記の範囲内に制御するには、当該表面含水率の値を適宜モニタリングしながら活性エネルギー線の照射を行うことが好ましく、この際のモニタリング値に応じて、吸水性樹脂組成物を一定範囲に乾燥してもよく、吸水性樹脂組成物に対して所定量の水を添加してもよい。また、水を添加する場合には、吸水性樹脂の表面から内部への水の浸透拡散を適宜制御してもよく、吸水性樹脂の表面からの水の揮発を適宜制御してもよい。
【0087】
本発明において、活性エネルギー線の照射は、吸水性樹脂、水およびラジカル重合開始剤の混合中に行なってもよく、これらの2つ以上を混合した後に照射してもよい。しかしながら、均一な表面架橋を形成しうる点で、好ましくは、吸水性樹脂、水およびラジカル重合開始剤を含む吸水性樹脂組成物を得た後、得られた吸水性樹脂組成物に活性エネルギー線を照射する。
【0088】
活性エネルギー線としては、紫外線、電子線、ガンマー線の1種または2種以上が挙げられる。好ましくは、紫外線、電子線である。活性エネルギー線の人体への影響を考慮すると、紫外線がより好ましく、更に好ましくは波長300nm以下、特に好ましくは180〜290nmの紫外線である。
【0089】
照射条件は、紫外線を用いる場合には、好ましくは、照射強度が3〜1000mW/cm、照射量が100〜10000mJ/cmである。紫外線を照射する装置としては、高圧水銀灯、低圧水銀灯、メタルハライドランプ、キセノンランプ、ハロゲンランプ等を例示することができる。紫外線が照射される限り、好ましくは300nm以下の紫外線が照射される限り、他の放射線や波長を含んでもよく、その手法は特に限定されるものではない。なお、電子線を用いる場合には、好ましくは加速電圧を50〜800kV、吸収線量が0.1〜100Mradとする。
【0090】
一般に、活性エネルギー線を照射する時間は、好ましくは0.1分以上60分未満でよく、より好ましくは0.2分以上30分未満、さらに好ましくは1分以上15分未満である。従来の表面架橋剤を使用する場合には60分を超えることもあるなど、同一架橋密度で比較して、表面架橋処理時間を短縮することができる。
【0091】
活性エネルギー線を照射して表面処理する際には、加温する必要はない。ただし、活性エネルギー線を照射すると、輻射熱が発生する場合がある。一般には、吸水性樹脂を、好ましくは150℃未満、より好ましくは120℃未満、さらに好ましくは室温〜100℃、特に好ましくは50〜100℃の範囲で処理すればよい。したがって、従来の表面処理温度よりも処理温度を低く設定することができる。
【0092】
活性エネルギー線の照射の際には、吸水性樹脂を撹拌することが好ましい。撹拌によってラジカル重合開始剤と吸水性樹脂との混合物に、活性エネルギー線を均一に照射することができる。活性エネルギー線の照射の際に吸水性樹脂を撹拌できる装置としては、振動型混合機、振動フィダー、リボン型混合機、円錐型リボン型混合機、スクリュー型混合機、気流型混合機、バッチ式ニーダー、連続式ニーダー、パドル型混合機、高速流動式混合機、浮上流動式混合機等が挙げられる。
【0093】
また、筒状または箱状などの形状を有する装置中で吸水性樹脂組成物を流動させ、当該装置の周囲から活性エネルギー線を照射してもよい。この際、混合物を流動させるためには、粉体の空気輸送に用いられるように空気などの気体の圧力を利用してもよい。さらに、必要に応じて筒を傾斜させてもよい。空気を利用する場合には、吸水性樹脂組成物の乾燥を防ぐために空気を加湿することが好ましい。活性エネルギー線の照射は、多方向から行うと短時間で均一に表面処理することができる。なお、上記装置を構成する材料は、吸水性樹脂組成物への活性エネルギー線の照射を阻害しない材料であれば特に制限されないが、例えば、石英ガラスなどが例示される。
【0094】
(d)その他の処理
活性エネルギー線の照射後には、乾燥などのために、必要に応じて、吸水性樹脂を50〜250℃の温度で加熱処理してもよい。
【0095】
また、活性エネルギー線照射後に、従来周知の多価アルコール、多価エポキシ化合物、アルキレンカーボネート等の表面架橋剤を使用して、表面架橋を形成させてもよい。
【0096】
本発明の改質された吸水性樹脂の製法では、活性エネルギー線照射の前後または同時に、吸水性樹脂に通液性向上剤を添加してもよい。このような通液性向上剤の例としては、タルク、カオリン、フラー土、ベントナイト、活性白土、重晶石、天然アスファルタム、ストロンチウム鉱石、イルメナイト、パーライトなどの鉱産物;硫酸アルミニウム14〜18水塩(または無水物)、硫酸カリウムアルミニウム12水塩、硫酸ナトリウムアルミニウム12水塩、塩化アルミニウム、ポリ塩化アルミニウム、酸化アルミニウムなどのアルミニウム化合物類、及びそれらの水溶液;その他の多価金属塩類;親水性のアモルファスシリカ(例、乾式法:トクヤマ社 ReolosilQS−20、沈殿法:DEGUSSA社 Sipernat22S, Sipernat2200)類;酸化ケイ素・酸化アルミ・酸化マグネシウム複合体(例、ENGELHARD社 Attagel#50)、酸化ケイ素・酸化アルミニウム複合体、酸化ケイ素・酸化マグネシウム複合体などの酸化物複合体類などがある。このような通液性向上剤は、改質後の吸水性樹脂100重量部に対して、0〜20重量部、より好ましくは0.01〜10重量部、特に好ましくは0.1〜5重量部を、混合する。通液性向上剤では、水に溶けるものは水溶液で、溶けないものは粉末やスラリーで添加することができる。また、これらの通液性向上剤は、ラジカル重合開始剤と混合して添加してもよい。その他、添加剤として、抗菌剤、消臭剤、キレート剤などを適宜前記範囲で添加してもよい。
【0097】
(e)改質された吸水性樹脂
本発明の改質された吸水性樹脂の製法によれば、得られた吸水性樹脂の加圧下吸収倍率が向上する。従来から、表面架橋を形成すると、自由膨潤倍率は若干低下するが、圧力をかけた状態でも吸液を維持できる能力、すなわち加圧下吸収倍率が向上することが知られている。本発明の方法によれば、表面架橋剤やエチレン性不飽和単量体を使用しなくても、吸水性樹脂の4.83kPaの加圧下吸収倍率が1g/g以上増加する。このことは、本発明の方法によって吸水性樹脂の表面に架橋構造が導入されたことを示すものと考えられる。当該加圧下吸収倍率の増加量は、改質後の物性で、好ましくは8g/g以上、より好ましくは12g/g以上、さらに好ましくは15g/g以上、特に好ましくは20g/g以上、最も好ましくは22g/g以上である。また、本発明の改質された吸水性樹脂は、4.83kPaの加圧下吸収倍率が、好ましくは8〜40g/gである。
【0098】
また、改質された吸水性樹脂の遠心分離機保持容量(CRC)は、好ましくは50g/g以下であり、より好ましくは40g/g以下であり、さらに好ましくは35g/g以下である。下限値は特に限定されないが、好ましくは10g/g以上であり、より好ましくは20g/g以上であり、さらに好ましくは25g/g以上である。遠心分離機保持容量(CRC)が50g/gを超えると、ゲル強度が低下し、それに伴って加圧下吸水倍率が低下する虞がある。一方、遠心分離機保持容量(CRC)が10g/g未満であると、十分な吸収倍率が得られず、おむつとして使用した際に尿漏れが発生する虞がある。
【0099】
本発明によって得られる改質された吸水性樹脂は、その食塩水流れ誘導性(SFC)が、好ましくは10(×10−7・cm・s・g−1)以上、より好ましくは30(×10−7・cm・s・g−1)以上、さらに好ましくは50(×10−7・cm・s・g−1)以上、特に好ましくは70(×10−7・cm・s・g−1)以上、最も好ましくは100(×10−7・cm・s・g−1)以上である。なお、これらの数値としては、後述する実施例に記載の手法により測定された値を採用するものとする。
【0100】
また、本発明によって得られる改質された吸水性樹脂は、残存モノマー量が極めて少ないという特徴がある。これは、ラジカル重合開始剤への活性エネルギー線の照射により生成する開始剤ラジカルが、吸水性樹脂の残存モノマーと反応するためであると考えられる。吸水性樹脂は、紙おむつなどの衛生材料に使用されるので、残存モノマーは臭気や安全性の面から少なければ少ないほどよい。通常、ベースポリマーとしての吸水性樹脂に含まれる残存モノマー量は200〜500ppmであるが、本発明によって得られる表面処理された吸水性樹脂の残存モノマー量は、多くの場合200ppm以下(下限は0ppm)である。改質後の吸水性樹脂の残存モノマー量は、好ましくは200ppm以下、より好ましくは150ppm以下、さらに好ましくは100ppm以下である(下限は0ppm)。
【0101】
さらに、本発明によって得られる改質された吸水性樹脂は、ベースポリマーとしての吸水性樹脂に表面架橋剤を加えて高温で加熱する従来の改質方法で得られる改質された吸水性樹脂と比較して、固形分が少ない。なぜなら、本発明の製法では、反応に高温を必要としないため、ベースポリマーとしての吸水性樹脂に加える水溶液に含まれる水分が、反応後もほとんどそのまま残るためである。吸水性樹脂に含まれる水分量が多いと、健康上好ましくない粒径150μm以下の微粉の量が造粒により減るだけでなく、空気輸送時にブロッキングの原因となる粒子表面の静電気発生の防止、同じく空気輸送時の物理的ダメージによる物性低下の低減などの効果がある。改質後の吸水性樹脂の固形分は、好ましくは95%以下、より好ましくは93%以下、さらに好ましくは91%以下である。下限は特に問わないが、70%以下になると吸水性樹脂の単位重量当たりの吸収倍率が低下するため、用途によっては好ましくない場合がある。
【0102】
本発明によって得られる表面処理された吸水性樹脂の形状は、処理前の吸水性樹脂の形状などの処理条件や、処理後の造粒・成形などによって適宜調整できるが、一般には粉末状である。かかる粉末は、重量平均粒径(ふるい分級で規定)が10〜1,000μm、好ましくは200〜600μmの粉末状であり、好ましくは150〜850μmの含有量が、吸水性樹脂に対して、90〜100重量%、更に好ましくは95〜100重量%である。
【0103】
本発明の製法では、吸水性樹脂の表面架橋時に、吸水性樹脂の製造時に発生する微粉を造粒する効果がある。このため、改質前の吸水性樹脂に微粉が含まれていても、本発明の改質された吸水性樹脂の製法を行なうと、含まれる微粉が造粒されるため、得られる表面処理された吸水性樹脂に含まれる微粉量を低減させることができる。得られる改質された吸水性樹脂の粒度分布は改質前の吸水性樹脂と比較して高粒度側へシフトする。ただし、シフトする割合は、吸水性樹脂と混合させるラジカル重合開始剤の種類や量、さらにこれを水溶液とした場合は水の比率、活性エネルギー線の照射条件、照射時の流動のさせ方などにより変化する。
【0104】
本発明の方法で得られる改質された吸水性樹脂は、吸水性樹脂表面全体にわたって均一かつ架橋密度の高い表面架橋が形成され、吸水性樹脂に望まれる特性、例えば、吸収倍率、吸収速度、ゲル強度、吸引力を極めて高いレベルとすることができる。なお、多価アルコール、多価エポキシ化合物、アルキレンカーボネート等の表面架橋剤を用いてアクリル酸系吸水性樹脂を表面架橋する場合には、表面架橋の速度や程度は吸水性樹脂の中和率に依存していた。具体的には、中和率が低いと表面架橋が早く進行し、中和率が高いと表面架橋されにくくなる。また、ポリアクリル酸の後中和によって得られる吸水性樹脂を表面架橋するには、表面架橋処理後に、均一に後中和する必要性があった。しかしながら本発明では、吸水性樹脂の中和率や後中和の均一性に依存することなく、吸水性樹脂を改質して、吸水特性に優れる吸水樹脂を製造することができる。表面架橋が、ラジカル重合開始剤による吸水性樹脂の主鎖などへの作用に依存するため、カルボキシル基が酸で存在するか、塩となっているかなどを問題とすることなく、進行することによると考えられる。
【0105】
なお、エチレン性不飽和単量体の存在下に本発明を実施すると、ラジカル重合開始剤がエチレン性不飽和単量体の重合に消費されてしまうので、本発明の意図するものではない。
【0106】
本発明によれば、吸水性樹脂を表面処理するにあたって、室温付近の反応温度でも十分に表面処理可能であり、しかも、得られる表面処理された吸水性樹脂は、吸収倍率、吸収速度、ゲル強度、吸引力など吸水性樹脂に望まれる特性が極めて高いレベルにある。したがって、本発明によって得られる吸水性樹脂は、生理綿、紙おむつ、或いはその他の体液を吸収する衛生材料や農業用の吸水性樹脂としても最適なものである。
【実施例】
【0107】
以下に、実施例および比較例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。以下では、便宜上、「重量部」を単に「部」と、「リットル」を単に「L」と記すことがある。実施例および比較例における、測定方法および評価方法を以下に示す。
【0108】
(1)粒度分布:重量平均粒子径(D50)および粒度分布の対数標準偏差(σζ)
吸水性樹脂または粒子状吸水剤10.0gを、室温(20〜25℃)、湿度50RH%の条件下で、目開き850μm、710μm、600μm、500μm、425μm、300μm、212μm、150μm、106μm、45μmのJIS標準ふるい(THE IIDA TESTING SIEVE:径8cm)に仕込み、振動分級器(IIDA SIEVE SHAKER、TYPE:ES−65型、SER.No.0501)により、5分間、分級を行ない、残留百分率Rを対数確率紙にプロットした。これにより、R=50重量%に相当する粒径を重量平均粒子径(D50)として読み取った。
【0109】
また、X1をR=84.1重量%、X2をR=15.9重量%の時のそれぞれの粒径とすると、対数標準偏差(σζ)は下記の式で表される。すなわち、σζの値が小さいほど粒度分布が狭いことを意味する。
【0110】
【数2】

【0111】
(2)表面含水率
ベースポリマーとしての吸水性樹脂500gを5Lレーディゲミキサー(Loedige社製、型式M5R)に加え、300rpmで撹拌下、過硫酸アンモニウム5.0g、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル(数平均分子量 約2,000)2.5g、水40gを予め混合した処理液を噴霧した。室温で3分間撹拌混合を続けた後、撹拌を停止した。得られた混合物1gをスクリュー管に加え、無水メタノール4gを加えてIKA社製ミニシェーカーMS1で30秒間振盪した後、シリンジで吸い取り、フィルター(ジールサイエンス株式会社製、水系25A(孔径0.45μm))で濾過した。濾液に含まれる水分量をカールフィッシャー水分計(京都電子工業株式会社製、形式:MKS−1S)を用いて、以下の手法により測定した。
【0112】
<カールフィッシャー水分計による水分測定>
1.測定原理
メチルアルコール及びピリジンの存在下で水がヨウ素及び亜硫酸ガスと定量的に反応するカールフィッシャー試薬を滴定液にする容量分析の水分定量法である。
【0113】
溶液に浸した2本の白金電極間に微少な一定電流を流して分極させ、終点での過剰のヨウ素によって生じる電位変化を検出するDead Stop法により滴定終点を検出する。
【0114】
カールフィッシャー法によって水分を定量するには、滴定フラスコに試料を入れて、カールフィッシャー試薬の滴定を行い、試料の水分量をカールフィッシャー試薬の滴定量と力価の積で求める。
【0115】
【数3】

【0116】
2.測定方法
測定溶媒(酢酸(特級)50mL、Buffer溶液(HYDRANAL−Buffer)50mL、無水メタノール900mLの混合品)をカールフィッシャー水分計の電極が浸される程度に仕込み、STARTキーを押してカールフィッシャー試薬による滴定を行い、滴定フラスコ内を無水状態にする。
【0117】
試料を滴定フラスコに投入し、STARTキーを押してカールフィッシャー試薬による滴定を行い、試料重量(a)〔mg〕とカールフィッシャー滴定量(b)〔mL〕を記録する。計3回測定し、平均値を求める。
【0118】
試料重量(a)、カールフィッシャー試薬滴定量(b)を下記式(1)に代入して吸水性樹脂混合物からの水分抽出に用いた無水メタノール中の水分量(c)〔wt%〕を求める。
【0119】
F(カールフィッシャー試薬の力価)は予め、HYDRANAL−Composite5K(約5mgHO/mL)を用いて測定を行ない、下記式(2)に代入して求めておく。
【0120】
【数4】

【0121】
上記式(1)より求めた吸水性樹脂混合物からの水分抽出に用いた無水メタノール中の水分濃度(c)から、予め測定しておいた無水メタノールそのものに含まれる水分濃度および処理剤を添加する前の吸水性樹脂に含まれる水分に由来する水分濃度の合計(d)〔wt%〕を減じたもの(c)−(d)=(e)と、吸水性樹脂混合物からの水分抽出に用いた無水メタノール量(f)〔mg〕から、下記式(3)を用いて吸水性樹脂混合物から抽出された水分量(g)〔mg〕を求める。
【0122】
【数5】

【0123】
また、吸水性樹脂混合物(a)中に計算上含まれる処理液由来の水分量(h)〔mg〕は、吸水性樹脂1,000mg当たりに加える処理液の重量(i)〔mg〕とその処理液中に含まれる水分の重量(j)〔mg〕から、下記式(4)を用いて求められる。
【0124】
【数6】

【0125】
吸水性樹脂混合物(a)中に計算上含まれる処理液由来の水分量(h)に対する吸水性樹脂から抽出された水分量(g)の割合を下記式(5)から求め、抽出率(k)〔重量%〕とする。
【0126】
【数7】

【0127】
吸水性樹脂に加える処理液中に含まれる水分の吸水性樹脂に対する重量比(l)〔重量%〕と抽出率(k)の積を下記式(6)で求め、表面含水率(m)〔重量%〕とする。
【0128】
【数8】

【0129】
(3)遠心分離機保持容量(Centrifuge Retention Capacity;「CRC」とも称する)
CRCは、0.90重量%塩化ナトリウム水溶液(以下、単に「生理食塩水」とも称する)に対する無加圧下、30分間における吸収倍率を示す。
【0130】
吸水性樹脂0.200gを不織布(南国パルプ工業株式会社製、商品名:ヒートロンペーパー、型式:GSP−22)製の袋(85mm×60mm)に均一に入れてヒートシールした後、室温にて大過剰(約500mL)の生理食塩水中に浸漬させた。30分後に袋を引き上げ、遠心分離機(株式会社コクサン製、型式:H−122)を用いてedena ABSORBENCY II 441.1−99に記載の遠心力(250G)で3分間水切りを行った後、袋の重量を測定した。この重量をW1(g)とした。また、同様の操作を吸水性樹脂を用いずに行い、その際の重量をW0(g)とした。そして、これらW1およびW0の値から、下記数式に従ってCRC(g/g)を算出した。
【0131】
【数9】

【0132】
(4)加圧下吸収倍率(AAP)
内径60mmのプラスチックの支持円筒の底に、ステンレス製400メッシュの金網(目開きの大きさ38μm)を融着させ、室温(25±2℃)、湿度50RH%の条件下で、金網上に吸水性樹脂0.900gを均一に散布し、その上に、吸水性樹脂に対して4.83kPaの荷重を均一に加えることができるよう調整された、外径が60mmよりわずかに小さく支持円筒の内壁面との間に隙間が生じず、かつ上下の動きが妨げられないピストンと荷重とをこの順に載置して、この測定装置一式の重量W(g)を測定した。
【0133】
直径150mmのペトリ皿の内側に直径90mmのガラスフィルター(株式会社相互理化学硝子製作所社製、細孔直径:100〜120μm)を置き、0.9重量%塩化ナトリウム水溶液(生理食塩水)(20〜25℃)をガラスフィルターの上面と同じレベルになるように加えた。その上に、直径90mmの濾紙1枚(ADVANTEC東洋株式会社製、品名:(JIS P 3801、No.2)、厚さ0.26mm、保留粒子径5μm)を載せ、表面が全て濡れるようにし、かつ過剰の液を除いた。
【0134】
測定装置一式を前記湿った濾紙上に載せ、液を荷重下で所定時間吸収させた。この吸収時間は、測定開始から算出して、1時間後とした。具体的には、1時間後、測定装置一式を持ち上げ、その重量W(g)を測定した。この重量測定はできるだけすばやく、かつ振動を与えないように行わなくてはならない。そして、W、Wから、次式によって加圧下吸収倍率(AAP)(g/g)を算出した。
【0135】
【数10】

【0136】
(5)全体含水率
底面の直径が4cm、高さ2cmのアルミ製カップに、吸水性樹脂1.00gをアルミ袋カップ底面に均一に広げ、この吸水性樹脂入りアルミ製カップの重さ[W4(g)]を測定した。これを180℃に調温した熱風乾燥機中に3時間放置し、熱風乾燥機から取り出した直後(少なくとも1分以内)の吸水性樹脂入りアルミ製カップの重さ[W5(g)]を測定した。そして、これらW4、W5から、次式に従って全体含水率(重量%)を算出した。
【0137】
【数11】

【0138】
(6)食塩水流れ誘導性(Saline Flow Conductivity;「SFC」とも称する)
SFCは、吸水性樹脂粒子の膨潤時の液透過性を示す値である。SFCの値が大きいほど高い液透過性を有することを示す。
【0139】
特表平9−509591号公報記載の食塩水流れ誘導性(SFC)試験に準じて行った。
【0140】
具体的には、図1に示す装置を用いて、SFCを測定した。図1に示す装置において、タンク31には、ガラス管32が挿入されており、ガラス管32の下端は、0.69重量%塩化ナトリウム水溶液33をセル41中の膨潤ゲル44の底部から、5cm上の高さに維持できるように配置されている。タンク31中の0.69重量%塩化ナトリウム水溶液33は、コック付きL字管34を通じてセル41へ供給された。セル41の下には、通過した液を捕集する捕集容器48が配置されており、捕集容器48は上皿天秤49の上に設置されている。セル41の内径は6cmであり、下部の底面にはNo.400ステンレス製金網(目開き38μm)42が設置されている。ピストン46の下部には液が通過するのに十分な穴47があり、底部には吸水性樹脂またはその膨潤ゲルが、穴47へ入り込まないように透過性の良いガラスフィルター45が取り付けてある。セル41は、セルを乗せるための台の上に置かれ、セルと接する台の面は、液の透過を妨げないステンレス製の金網43の上に設置されている。
【0141】
上記人工尿は、塩化カルシウムの2水和物0.25g、塩化カリウム2.0g、塩化マグネシウムの6水和物0.50g、硫酸ナトリウム2.0g、リン酸2水素アンモニウム0.85g、リン酸水素2アンモニウム0.15g、および、純水994.25gを加えたものである。
【0142】
測定操作としては、容器40に均一に入れた吸水性樹脂(0.900g)を人工尿中で0.3psi(2.07kPa)の加圧下、60分間膨潤させ、ゲル44のゲル層の高さを記録し、次に0.3psi(2.07kPa)の加圧下、0.69重量%塩化ナトリウム水溶液33を、一定の静水圧でタンク31から膨潤したゲル層を通液させた。コンピューターおよび天秤を用い、時間の関数として20秒間隔でゲル層を通過する液体量を10分間記録した。膨潤したゲル44(の主に粒子間)を通過する流速Fs(t)は増加重量(g)を増加時間(s)で割ることにより[g/s]の単位で決定した。一定の静水圧と安定した流速が得られた時間をTsとし、Tsと10分間の間に得たデータのみを流速計算に使用して、Tsと10分間の間に得た流速を使用してFs(t=0)の値、つまりゲル層を通る最初の流速を計算した。具体的には、Fs(t)対時間の最小2乗法の結果をt=0に外挿することにより、Fs(t=0)を算出した。
【0143】
【数12】

【0144】
ここで、
Fs(t):[g/s]で表した流速、
L0:cmで表したゲル層の高さ、
ρ:0.69重量%塩化ナトリウム水溶液の密度(1.003g/cm)、
A:セル41中のゲル層上側の面積(28.27cm)、
ΔP:ゲル層にかかる静水圧(4920dyne/cm)、および
SFC値の単位は(10−7・cm・s・g−1)である。
【0145】
(製造例1)
シグマ型羽根を2本有する内容積10Lのジャケット付きステンレス製双腕型ニーダーに蓋を付けて形成した反応器中に、60モル%の中和率を有するアクリル酸ナトリウムの水溶液5437g(単量体濃度:39重量%)を仕込み、当該水溶液に内部架橋剤であるポリエチレングリコールジアクリレート(平均エチレンオキサイドユニット数:n=9)7.90gを溶解させて反応液とした。次いで、この反応液を窒素ガス雰囲気下において脱気した。続いて、重合開始剤である過硫酸ナトリウムの10重量%水溶液30.19gおよびL−アスコルビン酸の0.1重量%水溶液25.16gを撹拌しながら反応液に添加した。その結果、約1分後に重合が開始した。そして、生成したゲルを粉砕しながら、20〜95℃にて重合を行い、重合が開始して30分後に含水ゲル状架橋重合体を取り出した。得られた含水ゲル状架橋重合体の粒子径は5mm以下であった。この粉砕された含水ゲル状架橋重合体を50メッシュ(目開き300μm)の金網上に広げ、175℃にて50分間熱風乾燥した。このようにして、不定形で、容易に粉砕されうる粉末状凝集体を得た。
【0146】
得られた粉末状凝集体をロールミルを用いて粉砕し、さらに目開き710μmのJIS標準ふるいを用いて分級した。次いで、前記の操作で目開き710μmのふるいを通過した粒子を目開き150μmのJIS標準ふるいを用いて分級し、目開き150μmのふるいを通過した粒子を除去した。このようにして、吸水性樹脂(A)を得た。
【0147】
得られた吸水性樹脂(A)の粒度分布を下記表1に、各種評価結果を下記表2に示す。
【0148】
(製造例2)
シグマ型羽根を2本有する内容積10Lのジャケット付きステンレス製双腕型ニーダーに蓋を付けて形成した反応器中に、90モル%の中和率を有するアクリル酸ナトリウムの水溶液5443g(単量体濃度:39重量%)を仕込み、当該水溶液に内部架橋剤であるポリエチレングリコールジアクリレート(平均エチレンオキサイドユニット数:n=9)6.11gを溶解させて反応液とした。次いで、この反応液を窒素ガス雰囲気下において脱気した。続いて、重合開始剤である過硫酸ナトリウムの10重量%水溶液28.02gおよびL−アスコルビン酸の0.1重量%水溶液23.35gを撹拌しながら反応液に添加した。その結果、約1分後に重合が開始した。そして、生成したゲルを粉砕しながら、20〜95℃にて重合を行い、重合が開始して30分後に含水ゲル状架橋重合体を取り出した。得られた含水ゲル状架橋重合体の粒子径は5mm以下であった。この粉砕された含水ゲル状架橋重合体を50メッシュ(目開き300μm)の金網上に広げ、175℃にて50分間熱風乾燥した。このようにして、不定形で、容易に粉砕されうる粉末状凝集体を得た。
【0149】
得られた粉末状凝集体をロールミルを用いて粉砕し、さらに目開き710μmのJIS標準ふるいを用いて分級した。次いで、前記の操作で目開き710μmのふるいを通過した粒子を目開き150μmのJIS標準ふるいを用いて分級し、目開き150μmのふるいを通過した粒子を除去した。このようにして、吸水性樹脂(B)を得た。
【0150】
得られた吸水性樹脂(B)の粒度分布を下記表1に、各種評価結果を下記表2に示す。なお、下記表1において、「850μm以上」は、分級操作後に目開き850μmの篩の上に残存した吸水性樹脂の割合(重量%)を示す。「45μm以下」は、分級操作後に目開き45μmの篩を通過した吸水性樹脂の割合(重量%)を示す。「x〜yμm」は、分級操作後に目開きxμmの篩を通過し、目開きyμmの篩の上に残存した吸水性樹脂の割合(重量%)を示す。
【0151】
【表1】

【0152】
(実施例1)
ベースポリマーとしての吸水性樹脂(A)500gを5Lレーディゲミキサー(Loedige社製、型式M5R)に加え、300rpmで撹拌下、過硫酸アンモニウム12.5g、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル(数平均分子量 約2,000)2.5g、水120gを予め混合した処理液を噴霧した。室温で3分間撹拌混合を続け、添加した水を粒子内部に浸透拡散させた後、一度撹拌を停止し、プロシェアミキサーの試料投入口を取り外した。吸水性樹脂組成物(1)の表面含水率は10.4重量%であった。
【0153】
吸水性樹脂組成物(1)に対して、開口部に厚さ3mmの石英製のガラス板を乗せた後、300rpmで撹拌を再開し(再開までの所要時間は30秒間)、1kWメタルハライドランプ(ウシオ電機製、UVL−1500M2−N1)を取り付けた紫外線照射装置(同、UV−152/1MNSC3−AA06)をランプの中心と石英板との距離が8cmになるように設置して室温で15分間紫外線を照射し、改質された吸水性樹脂(1)を得た。
【0154】
得られた改質された吸水性樹脂(1)の各種評価結果を下記表2に示す。なお、下記表2に示した「全体含水率補正後のCRC」及び「全体含水率補正後のAAP」は、以下に示す計算式によって算出した。なお、下記式において、「全体含水率補正前のCRC」とは、上記(5)の全体含水率を測定する前の吸水性樹脂の遠心分離機保持容量(CRC)であり、また、「全体含水率補正前のAAP」とは、上記(5)の全体含水率を測定する前の吸水性樹脂の加圧下吸収倍率(AAP)である。
【0155】
【数13】

【0156】
【数14】

【0157】
(実施例2)
処理液中の水量を160gに変えたこと以外は、上記の実施例1と同様の手法により、表面含水率12.5重量%の吸水性樹脂組成物(2)を得た。また、上記の実施例1と同様の手法により、吸水性樹脂組成物(2)に対して15分間紫外線を照射し、改質された吸水性樹脂(2)を得た。
【0158】
得られた改質された吸水性樹脂(2)の各種評価結果を下記の表2に示す。
【0159】
(実施例3)
処理液中の水量を200gに変えたこと以外は、上記の実施例1と同様の手法により、表面含水率15.5重量%の吸水性樹脂組成物(3)を得た。また、上記の実施例1と同様の手法により、吸水性樹脂組成物(3)に対して15分間紫外線を照射し、改質された吸水性樹脂(3)を得た。
【0160】
得られた改質された吸水性樹脂(3)の各種評価結果を下記の表2に示す。
【0161】
(実施例4)
上記の実施例2と同様の手法により表面含水率12.5重量%の吸水性樹脂組成物(4)を得た。また、上記の実施例1と同様の手法により、吸水性樹脂組成物(4)に対して1分間紫外線を照射し、改質された吸水性樹脂(4)を得た。
【0162】
得られた改質された吸水性樹脂(4)の各種評価結果を下記の表2に示す。
【0163】
(実施例5)
ベースポリマーとして吸水性樹脂(B)を用いたこと以外は、上記の実施例1と同様の手法により、表面含水率6.5重量%の吸水性樹脂組成物(5)を得た。また、上記の実施例1と同様の手法により、吸水性樹脂組成物(5)に対して15分間紫外線を照射し、改質された吸水性樹脂(5)を得た。
【0164】
得られた改質された吸水性樹脂(5)の各種評価結果を下記の表2に示す。
【0165】
(実施例6)
ベースポリマーとして吸水性樹脂(B)を用いたこと以外は、上記の実施例2と同様の手法により、表面含水率6.7重量%の吸水性樹脂組成物(6)を得た。また、上記の実施例1と同様の手法により、吸水性樹脂組成物(6)に対して15分間紫外線を照射し、改質された吸水性樹脂(6)を得た。
【0166】
得られた改質された吸水性樹脂(6)の各種評価結果を下記の表2に示す。
【0167】
(実施例7)
ベースポリマーとして吸水性樹脂(B)を用いたこと以外は、上記の実施例3と同様の手法により、表面含水率9.6重量%の吸水性樹脂組成物(7)を得た。また、上記の実施例1と同様の手法により、吸水性樹脂組成物(7)に対して15分間紫外線を照射し、改質された吸水性樹脂(7)を得た。
【0168】
得られた改質された吸水性樹脂(7)の各種評価結果を下記の表2に示す。
【0169】
(比較例1)
処理液中の水量を20gに変えたこと以外は、上記の実施例1と同様の手法により、表面含水率1.9重量%の比較吸水性樹脂組成物(1)を得た。また、上記の実施例1と同様の手法により、比較吸水性樹脂組成物(1)に対して15分間紫外線を照射し、改質された比較吸水性樹脂(1)を得た。
【0170】
得られた改質された比較吸水性樹脂(1)の各種評価結果を下記の表2に示す。
【0171】
(比較例2)
処理液中の水量を40gに変えたこと以外は、上記の実施例1と同様の手法により、表面含水率4.5重量%の比較吸水性樹脂組成物(2)を得た。また、上記の実施例1と同様の手法により、比較吸水性樹脂組成物(2)に対して15分間紫外線を照射し、改質された比較吸水性樹脂(2)を得た。
【0172】
得られた改質された比較吸水性樹脂(2)の各種評価結果を下記の表2に示す。
【0173】
(比較例3)
処理液中の水量を80gに変えたこと以外は、上記の実施例1と同様の手法により、表面含水率7.9重量%の比較吸水性樹脂組成物(3)を得た。また、上記の実施例1と同様の手法により、比較吸水性樹脂組成物(3)に対して15分間紫外線を照射し、改質された比較吸水性樹脂(3)を得た。
【0174】
得られた改質された比較吸水性樹脂(3)の各種評価結果を下記の表2に示す。
【0175】
(比較例4)
上記の比較例2と同様の手法により表面含水率4.5重量%の比較吸水性樹脂組成物(4)を得た。また、上記の実施例4と同様の手法により、比較吸水性樹脂組成物(4)に対して1分間紫外線を照射し、改質された比較吸水性樹脂(4)を得た。
【0176】
得られた改質された比較吸水性樹脂(4)の各種評価結果を下記の表2に示す。
【0177】
(比較例5)
ベースポリマーとして吸水性樹脂(B)を用いたこと以外は、上記の比較例1と同様の手法により、表面含水率1.1重量%の比較吸水性樹脂組成物(5)を得た。また、上記の実施例1と同様の手法により、比較吸水性樹脂組成物(5)に対して15分間紫外線を照射し、改質された比較吸水性樹脂(5)を得た。
【0178】
得られた改質された比較吸水性樹脂(5)の各種評価結果を下記の表2に示す。
【0179】
(比較例6)
ベースポリマーとして吸水性樹脂(B)を用いたこと以外は、上記の比較例3と同様の手法により、表面含水率5.2重量%の比較吸水性樹脂組成物(6)を得た。また、上記の実施例1と同様の手法により、比較吸水性樹脂組成物(6)に対して15分間紫外線を照射し、改質された比較吸水性樹脂(6)を得た。
【0180】
得られた改質された比較吸水性樹脂(6)の各種評価結果を下記の表2に示す。
【0181】
【表2】

【0182】
表2に示す結果から、本発明の製法によれば、吸水性樹脂の表面含水率を所定の値以上に制御した状態で、水およびラジカル重合開始剤を含む吸水性樹脂組成物に対して活性エネルギー線を照射することにより、吸水性樹脂粒子表面の改質が効率的に行われ、かつ、吸水特性に優れる吸水性樹脂が製造されうることが示される。また、実施例4の結果から、多量の水を吸水性樹脂に添加して吸水性樹脂の表面含水率を所定の値以上に制御した状態で、活性エネルギー線を照射することによって、活性エネルギー線照射時間が短かくとも、吸水性樹脂粒子表面の改質が効率的に行われ、かつ、吸水特性に優れる吸水性樹脂が製造されうることもまた示される。
【産業上の利用可能性】
【0183】
本発明によれば、吸水性樹脂を改質するにあたって、室温付近の反応温度でも十分に表面処理可能であり、得られる改質された吸水性樹脂は、吸水特性に優れるため、紙おむつ等として利用することができ、産業上有用である。
【図面の簡単な説明】
【0184】
【図1】食塩水流れ誘導性(SFC)の測定に用いる測定装置の概略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
改質された吸水性樹脂の製法であって、
a)エチレン性不飽和単量体を添加せずに、吸水性樹脂と、水と、水溶性ラジカル重合開始剤とを混合して吸水性樹脂組成物を得る混合工程と、
b)該混合工程で得られた該吸水性樹脂組成物に活性エネルギー線を照射する照射工程と、
を含み、該混合工程a)における該水の混合量が、該吸水性樹脂100重量部に対して20重量部を超えて100重量部以下であり、該照射工程b)における少なくともいずれかの時点での該吸水性樹脂組成物中の該吸水性樹脂の表面含水率を、吸水性樹脂100重量%に対して3.0重量%以上に制御することを特徴とする、改質された吸水性樹脂の製法。
【請求項2】
該水溶性ラジカル重合開始剤は、過硫酸塩、過酸化水素及び水溶性アゾ化合物からなる群より選択される少なくとも一種である、請求項1に記載の改質された吸水性樹脂の製法。
【請求項3】
改質された吸水性樹脂の製法であって、
a)エチレン性不飽和単量体を添加せずに、吸水性樹脂と、水と、熱分解性ラジカル重合開始剤とを混合して吸水性樹脂組成物を得る混合工程と、
b)該混合工程で得られた該吸水性樹脂組成物に活性エネルギー線を照射する照射工程と、
を含み、該混合工程a)における該水の混合量が、該吸水性樹脂100重量部に対して20重量部を超えて100重量部以下であり、該照射工程b)における少なくともいずれかの時点での該吸水性樹脂組成物中の該吸水性樹脂の表面含水率を、吸水性樹脂100重量%に対して3.0重量%以上に制御することを特徴とする、改質された吸水性樹脂の製法。
【請求項4】
該熱分解性ラジカル重合開始剤は、過硫酸塩、過酸化水素及びアゾ化合物からなる群より選択される少なくとも一種である、請求項3に記載の改質された吸水性樹脂の製法。
【請求項5】
該照射工程の開始時における該表面含水率を3.0重量%以上に制御する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の改質された吸水性樹脂の製法。
【請求項6】
該混合工程における該ラジカル重合開始剤の混合量が、該吸水性樹脂100重量部に対して0.01〜20重量部である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の改質された吸水性樹脂の製法。
【請求項7】
該混合工程において、該ラジカル重合開始剤は、水溶液の形態で混合される、請求項1〜6のいずれか1項に記載の改質された吸水性樹脂の製法。
【請求項8】
該混合工程a)と同時にまたは該混合工程a)の前に、該吸水性樹脂に対して混合助剤を添加する、請求項1〜7のいずれか1項に記載の改質された吸水性樹脂の製法。
【請求項9】
該吸水性樹脂は、酸基を含有しかつ50〜75モル%の中和率(全酸基中の中和された酸基のモル%)を有する、請求項1〜8のいずれか1項に記載の改質された吸水性樹脂の製法。
【請求項10】
該活性エネルギー線が紫外線である、請求項1〜9のいずれか1項に記載の改質された吸水性樹脂の製法。
【請求項11】
該吸水性樹脂が、アクリル酸(塩)を主成分とするモノマーを重合して得られる粉末状吸水性樹脂である、請求項1〜10のいずれか1項に記載の改質された吸水性樹脂の製法。
【請求項12】
該吸水性樹脂が、150〜850μmの範囲の粒径の粒子を90〜100重量%含むものである、請求項1〜11のいずれか1項に記載の改質された吸水性樹脂の製法。
【請求項13】
改質後の吸水性樹脂の4.83kPaの生理食塩水に対する加圧下吸収倍率が、8〜40g/gである、請求項1〜12のいずれか1項に記載の改質された吸水性樹脂の製法。
【請求項14】
改質後の吸水性樹脂の食塩水流れ誘導性が、10(×10−7・cm・s・g−1)以上である、請求項1〜13のいずれか1項に記載の改質された吸水性樹脂の製法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2007−326912(P2007−326912A)
【公開日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−157582(P2006−157582)
【出願日】平成18年6月6日(2006.6.6)
【出願人】(501300757)ザ プロクター アンド ギャンブル カンパニー (12)
【氏名又は名称原語表記】The Procter & Gamble Company
【住所又は居所原語表記】Beckett Ridge Technical Center,8611 Beckett Road,West Chester,Ohio 45069 U.S.A.
【Fターム(参考)】