説明

放射性セシウムの吸着方法

【課題】 本発明は、流体中の放射性セシウムまたはその化合物を効率よく吸着することができる方法を提供することを目的とする。
【解決手段】溶存するオゾン濃度が0.01〜5mg/Lである水によって少なくとも2カ月間液相酸化された活性炭を放射性セシウム含有流体に接触させることにより前記課題を解決した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶存するオゾン濃度が0.01〜5mg/Lの水中で少なくとも2カ月間液相酸化された活性炭を用いて流体中の放射性セシウムを吸着する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力発電所の事故などに伴って、放射性セシウム134、放射性セシウム137などが大気中や水中に漏出し環境汚染を引き起こす。放射性セシウム134、放射性セシウム137の半減期は放射性ヨウ素131の半減期である約8日に比べて約30年以上と非常に長く、長期間にわたって環境汚染を引き起こし、人体に対する被爆が続くために、流体中のこれら放射性セシウムを効率よく除去する方法の出現が強く望まれている。
【0003】
放射性セシウムの吸着剤としては、天然ゼオライト、イオン交換樹脂が知られており、活性炭は、放射性セシウムをほとんど吸着しないと言われている (非特許文献1) 。
従来、放射性セシウムを吸着・除去する方法として、たとえば、硝酸水溶液中の放射性セシウムを不溶性フェロシアン化物吸着剤で吸着する方法(特許文献1)、ゼオライトイオン交換法で放射性セシウムを除去する方法(特許文献2)などが知られている。これら先行技術は、前処理工程が複雑であり、放射性セシウム除去効率が悪く、かつ、吸着容量が小さいためにこれらの吸着剤を頻繁に交換しなければならず、被爆されやすい多くの作業を伴いない実用上問題が多かった。
また、酸化処理した繊維状活性炭を放射性核種吸着材として利用すること(特許文献3)も知られている。この特許文献によれば、繊維状活性炭を酸化する方法として、300〜700℃の温度で10分間〜5時間の空気酸化、100〜500ppmの気相オゾン酸化、過酸化水素による液相酸化などが開示されているが、このような過酷な条件で酸化された繊維状活性炭では、放射性セシウムの吸着速度が遅く、また放射性セシウムの吸着容量に限界があるために満足できる吸着材ではない。
本発明者は、平成18年5月頃からオゾン・活性炭法の高度浄水処理場で行なわれている活性炭に対する液相オゾン酸化現象を追跡調査するために、実験室で模擬的なテストを長期間かけて実施し、溶存するオゾンが約1mg/Lの極低濃度で酸化された活性炭をいろいろな角度から分析、検討した。その研究の一部を全国水道研究発表会で発表した。(非特許文献2)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−317697号公報
【特許文献2】特開平8−271692号公報
【特許文献3】特開平6−343856号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】水道協会誌、第80巻(第4号)、70〜85(2011)
【非特許文献2】第59回全国水道研究発表会講演集「液相オゾン酸化に伴う 粒状活性炭の物性変化に関する検討」220〜221(平成20年5月)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、流体中の放射性セシウムを簡単な操作で効率よく吸着する方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、前記の点などを鑑み鋭意研究した結果、極低濃度のオゾンが溶存した水中で長期間かけて非常にゆっくり液相酸化した活性炭が、流体中の放射性セシウムを効率よく吸着することを見出した。このように長時間かけて緩やかに酸化された活性炭は、短時間に過酷な条件で酸化された活性炭に比べて、不活性ガス気流中において250℃まで加熱した際に発生する炭酸ガス量が非常に多く、放射性セシウムを極めてよく吸着することを見出した。これらの知見を基にさらに研究を重ねた結果、本発明を完成した。
すなわち本発明は、
(1)溶存するオゾン濃度が0.01〜5mg/Lの水中で少なくとも2カ月間液相オゾン酸化された活性炭を放射性セシウムまたはその化合物を含有する流体と接触させることを特徴とする流体中の放射性セシウムまたはその化合物の吸着方法、
(2)溶存するオゾン濃度が0.01〜5mg/Lの水中で少なくとも2カ月間液相オゾン酸化された活性炭が少なくとも2カ月間オゾン・活性炭法高度浄水処理により液相オゾン酸化された活性炭である(1)に記載の放射性セシウムまたはその化合物の吸着方法、
である。
【0008】
本発明で使用される吸着剤は、木炭、コークス、石炭、ヤシ殻、樹脂、石油残渣などを原料として通常の方法により賦活され、その形状は、粉末状、破砕状、円柱状、球状、ハニカム状、繊維状などいかなるものでもよい。これらの活性炭を、溶存するオゾン濃度が0.01〜5mg/L、好ましくは0.05〜2mg/L、より好ましくは0.1〜1mg/Lの極低濃度である水中で少なくとも2カ月間、好ましくは1〜6年間に亘り非常にゆっくり液相酸化したもので、比表面積は、50m/g以上、好ましくは100〜2500m/gのものが本発明で用いられる吸着剤である。
【0009】
一般に活性炭を酸化する方法として、高温下に酸素含有ガス(空気)で酸化する方法、気相でオゾン酸化する方法、過酸化水素水で液相酸化する方法などがよく知られている。このような方法による酸化では、比較的に短時間に酸化された活性炭を得ることができるが、この場合活性炭が過度の酸化を受けるために、酸化過程で炭酸ガスが激しく発生し、活性炭のガス化(活性炭の重量減少)を伴う。このような過度に酸化処理された活性炭には、放射性セシウムを吸着する活性点(表面酸化物)が酸化過程で大部分失われ、放射性セシウムの吸着性能に限界があることが判明した。
【0010】
これに対して、溶存するオゾンが0.01〜5mg/Lの極低濃度である水中で、活性炭を非常にゆっくり酸化すると、酸化過程で炭酸ガスの発生が非常に少なく、したがって、酸化後の活性炭の表面には放射性セシウムを吸着する有効な活性点(表面酸化物)が多量に温存され、効率よく放射性セシウムを吸着することを見出した。
すなわち本発明者は、前述の第59回全国水道研究発表会で発表したように溶存するオゾン濃度が1mg/Lである水中で各種活性炭を最長120日間液相酸化した。その結果、いずれの場合も活性炭が緩慢に液相酸化されるためにこの反応中に活性炭の重量および表面酸化物がいずれも増加し続けた。
溶存するオゾン濃度が0.01〜5mg/Lという極低濃度オゾンで活性炭を非常に緩やかに液相酸化すると、酸化に伴う炭酸ガスの発生が非常に少なく、活性炭の表面に多量の酸化物が生成し、活性炭の重量は逆に増加することは、明白な事実である。このような緩慢な酸化条件下で活性炭を液相オゾン酸化することによって、活性炭の表面には放射性セシウムを吸着する有効な活性点(表面酸化物)が多量に温存され、放射性セシウムの吸着性能が飛躍的に向上することを新たに見出したのである。
【0011】
活性炭に対する「比較的に短時間おける激しい酸化または過酷な酸化」と「長時間かける緩やかな極低濃度オゾンでの液相酸化」との間には、明らかな差異が生じる。そのためにいろいろな酸化方法で処理した活性炭を窒素気流中で250℃まで加熱し、その際に酸化活性炭試料から発生する炭酸ガス量を水酸化バリウム水溶液に吸収させて、炭酸バリウムとして沈澱させる方法で定量したところ、酸化活性炭試料からの炭酸ガス発生量(mg/g)と酸化活性炭試料の放射性セシウム吸着性能(mg/g)との間に密接な相関関係があることを見出した。
【0012】
引用の特許文献3における活性炭の酸化法と本発明おける酸化法とを8〜32メッシュの瀝青炭系活性炭A(BET比表面積1150m/g)およびヤシ殻系活性炭B(BET比表面積1250m/g)について実施した。
すなわち、
1.引用の特許文献3に基づく酸化法
(1)約180ppmオゾンで15日間気相酸化したもの、
(2)250〜600℃で20分間酸素酸化したもの、
(3)5重量%過酸化水素で80℃30分間液相酸化したもの
2.本発明に基づく酸化法
(1)水中の濃度オゾン約1.0mg/Lで40日間〜120日間液相酸化したもの、
(2)オゾン・活性炭法高度浄水処理で約3年間行われた液相オゾン(濃度約0.26mg/L)酸化したもの、
のそれぞれについて分析、検討を行った。
これらの酸化処理の実験については、比較例1〜3および実施例1、2で詳しく述べる。
【0013】
東京都をはじめ大都市の浄水場では、取水の品質の悪化に伴い、1992年頃から、オゾン・活性炭法による高度浄水処理、すなわち、たとえば、[凝集沈殿→砂濾過→オゾン処理→粒状活性炭処理→後塩素注入]という処理フローで高度浄水処理が行われている。これらの浄水場では、前処理された水はオゾン接触池において10000ppm以上のオゾンを含有する酸素ガスで接触酸化され、水中の有機化合物などを酸化分解した後、濃度0.1〜1.0mg/Lの溶存オゾン水を後置の粒状活性炭層に接触させる。この活性炭層での溶存オゾン水の接触時間は、通常5〜20分(空間速度3〜12L/L/時)である。このような高度浄水処理場での活性炭に対するオゾン負荷量は、1日当たり0.02〜0.50mg/g活性炭であり、極低オゾン負荷量で長期間(1〜6年間)かけて活性炭が非常にゆっくりと液相酸化される。すなわち、このような極低濃度オゾンで長期間かけて非常にゆっくり液相酸化された活性炭は、250℃までの加熱に際して炭酸ガスが極めて多量生成することを見出した。したがって、オゾン・活性炭法による高度浄水処理場で少なくとも2ヶ月間、極低濃度オゾンで液相酸化された活性炭は流体中の放射性セシウムを非常に効果的に吸着することを確認した。
【0014】
日本全国でオゾン・活性炭法による高度浄水処理場は多数稼働しており、これらの高度浄水処理場から毎年数千〜数万トンのオゾン液相酸化活性炭が排出されている。このオゾン液相酸化活性炭はそのままの状態で放射性セシウムを非常によく吸着するので、オゾン液相酸化活性炭を特に製造する必要がなく、排出されたそのままの状態で放射性セシウム吸着剤として利用できることは本発明の最大の特長である。
特に原子力発電所の事故時などでは、緊急的に放射性セシウムを吸着・除去するために多量の放射性セシウム吸着剤が必要となるので、高度浄水処理場から排出される極低濃度オゾン液相酸化活性炭が放射性セシウム吸着剤として代用できることは、漏洩した放射性セシウムによる環境汚染および人体への被爆防止などの点で意義が大きい。
【0015】
さらに、本発明においては、上記のようにして得られた極低濃度オゾン液相酸化活性炭(本発明の吸着剤)に放射性セシウムを含む流体を通常の方法で接触させることによって、流体中の放射性セシウムを効率よく吸着することができる。たとえば、本発明の吸着剤を充填した装置に放射性セシウムを含む流体を流通する方法などが考えられる。また、ガスマスクの充填剤として本発明の吸着剤を使用する方法や、空気清浄機のフィルターとして本発明の吸着剤を利用する方法、放射性セシウムを含む水が入った容器内に本発明の吸着剤を存在させて放射性セシウムを吸着する方法など、通常、よく行なわれている方法などが考えられる。
本発明の吸着剤を気相で使用する場合、セシウム吸着性能に対する温度、湿度の影響が小さいのも本発明の他の大きな特徴の一つである。すなわち、温度が120℃以下であれば、相対湿度75%以上でも良好な放射性セシウムの吸着性能を維持する。
【発明の効果】
【0016】
本発明に使用される活性炭は、溶存するオゾン濃度が0.01〜5mg/Lの水中で少なくとも2カ月間液相酸化されたもので、その表面に放射性セシウムを選択的に、かつ、効率よく吸着する活性点・表面酸化物(250℃までの加熱に伴う炭酸ガス量)を多量に有するもので、BET比表面積が大きく、かつ、耐薬品性に優れており、かつ、流体中に共存する成分(水蒸気などを含む)の影響を受けにくく、流体中の放射性セシウムを効率よく吸着できる。特に、オゾン・活性炭法による高度浄水場では、水中のオゾン濃度0.1〜1mg/Lで少なくとも1年以上の期間液相酸化され、このようにして得られる活性炭は、放射性セシウムを吸着する方法に最適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に実施例をあげて、本発明を具体的に説明する。実施例では、便宜上、放射性セシウム化合物の代わりに非放射性のCs55の化合物を使用し、模擬液および模擬ガスで実験した。これら模擬液および模擬ガスでの実験においても、両者は化学的には全く同じ性質を有し、Cs55を用いた実験でも放射性セシウム化合物を用いた結果と同じである。
[比較例1]
【0018】
気相オゾン酸化:特許文献3に基づく酸化法(1)
内径94mmφのアクリル製カラムに8〜32メッシュの瀝青炭系活性炭A(BET比表面積1150m/g)および8〜32メッシュのヤシ殻系活性炭B(BET比表面積1250m/g)の各400mLの充填層を形成して、下部からオゾン約180ppm含有空気を流量5L/分で吹き込み、各活性炭を気相でオゾン酸化した。オゾン酸化時間は、いずれも15日間であった。活性炭Aおよび活性炭Bとこれらの気相オゾン酸化活性炭試料のa1およびb1につい
て、次の方法で250℃加熱に伴う「炭酸ガス発生量」および「放射性セシウムの吸着性能」を測定した。これらの測定結果は、表1の通りであった。
【0019】
炭酸ガス発生量の測定法
内径10mmφ×長さ1000mmの石英カラムに活性炭試料500mgを入れ、試料の前後は十分に乾燥させた石英ガラスウールに固定し、電気環状炉にセットした。また石英カラム両端をゴム栓で蓋をしてゴム栓には窒素を導入および排出するための孔をあける。50ml/分の流速で窒素を石英カラムに流しながら、100℃まで加熱昇温し、次いで、出口ガスを10m-mol/L水酸化バリウム水溶液100mLを入れた吸収瓶に接続し、100℃/時間の昇温速度で250℃まで加熱昇温した。250℃になってから、さらに10分間250℃で保持し、発生した炭酸ガスを水酸化バリウム水溶液に吸収させ、炭酸バリウムとして沈澱させ、上済み液をサンプリングして塩酸で中和滴定して、残留水酸化バリウム量から発生炭酸ガス量(mg/g)を求める。
【0020】
セシウムの吸着性能の測定法
活性炭試料を乳鉢で微粉砕した100mgをCsOH−25mg(Csイオン22mg)を含む水溶液15mLに懸濁させて、25℃で2時間振とうさせた後、ガラス濾過器で濾過した。濾液5mL中に残留するCsイオンを測定してCsの吸着性能(mg/g)を算出した。
【0021】
【表1】

表1からも明らかなように、オゾン酸化した活性炭のCs吸着性能は、酸化処理をしなかった活性炭に比してかなり高かった。
[比較例2]
【0022】
酸素酸化:特許文献3に基づく酸化法(2)
比較例1の活性炭Aの各30gを55mmφの石英ガラス管に充填して、それぞれ250、400、500、及び600℃の各温度でO−10.0vol%含有のNガスを線流速5cm/秒で20分間流通した後、Nガス中で常温まで冷却して、酸化活性炭a2、a3、a4およびa5を得た。これらの試料について比較例1と同様な方法で、「炭酸ガス発生量」および「放射性セシウムの吸着性能」を測定した結果は、表2の通りであった。すなわち酸素酸化では、処理温度の如何を問わず、Cs吸着性能はそれほど高くはない。
【0023】
【表2】

[比較例3]
【0024】
過酸化水素水酸化:特許文献3に基づく酸化法(3)
500mLのビーカーに5重量%の過酸化水素水100mLを入れ、80℃の水浴中で80℃に加熱した。この過酸化水素水に比較例1の活性炭Aの10gを入れ攪拌しながら30分間酸化した。酸化後の活性炭をろ過して100℃で乾燥
した。この酸化処理活性炭試料a6について比較例1と同様な方法で、「炭酸ガス発生量」および「放射性セシウムの吸着性能」を測定した結果は、それぞれ17mg/gおよび32mg/gであった。
【実施例1】
【0025】
極低濃度オゾン液相酸化(その1):本発明に基づく酸化法(1)
内径94mmφのアクリル製カラムに比較例1の活性炭Aと活性炭Bの各400mLの充填層を形成して、この上部からオゾン1.0mg/L含有の蒸留水を線流速1cm/分で40日間、60日間、80日間、100日間および120日間流通し、活性炭を極低濃度のオゾンで非常にゆっくり液相酸化し、酸化活性炭試料a40、a60、a80、a100およびa120とb40、b60、b80、b100およびb120をそれぞれ得た。なお、この実験での活性炭に対するオゾン負荷量は1日当たり約0.45mg/g活性炭に相当する。これらの酸化活性炭試料a40〜a120とb40〜b120について、比較例1と同様な方法で、炭酸ガス発生量および放射性セシウムの吸着性能を測定した結果は、表3のとおりであった。
【0026】
【表3】

活性炭Aと活性炭Bに対して溶存オゾン濃度1.0mg/Lの水中で40日間〜120日間かけて非常にゆっくり液相酸化した活性炭について炭酸ガス発生量および放射性セシウムの吸着性能を測定した結果、両者間には強い相関関係があることが明白である。いずれの活性炭に関しても溶存オゾン濃度1.0mg/Lの水中で40日間の液相オゾン酸化では、放射性セシウムの吸着性能が十分でなく、少なくとも60日間液相オゾン酸化することで、はじめて放射性セシウムの吸着性能が著しく向上することがわかる。
【実施例2】
【0027】
極低濃度オゾン液相酸化(その2):本発明に基づく酸化法(2)
比較例1の活性炭Aをオゾン・活性炭法浄水場で約3年間使用した。この浄水場においては、活性炭の充填層厚さ約2.5m、通水速度約260m/日(空間速度約4L/L/時)、オゾン濃度約0.26mg/Lで、活性炭Aに対するオゾン負荷量は1日当たり約0.045mg/g活性炭であった。この酸化活性炭試料a7について、比較例1と同様な方法で、「炭酸ガス発生量」および「放射性セシウムの吸着性能」を測定した結果は、それぞれ 28mg/gおよび90mg/gであった。
以上、比較例1〜3および実施例1〜2の結果から、酸化活性炭各試料に関して「炭酸ガス発生量」と「放射性セシウムの吸着性能」との間には、おおむね良好な相関関係が存在する。すなわち、本発明の実施例1〜2から「炭酸ガス発生量」が24mg/g以上の酸化活性炭試料では「放射性セシウムの吸着性能」は、90mg/g以上であることがわかる。他方、比較例1〜3の酸化活性炭である対照試料に関する実験結果では、「炭酸ガス発生量」は20mg/g以下で「放射性セシウムの吸着性能」は68mg/g以下となり、放射性セシウムの吸着性能が著しく劣る。
【実施例3】
【0028】
比較例1の活性炭Aおよび活性炭B、これらの気相オゾン酸化活性炭試料a1およびb1、比較例2の酸素酸化活性炭試料a2、a3、a4およびa5、比較例3の過酸化水素水酸化活性炭試料a6、実施例1の極低濃度オゾン液相酸化活性炭a120およびb120、さらに実施例2の極低濃度オゾン液相酸化活性炭a7について気相流通法による放射性セシウムの吸着実験を行った。
すなわち、上記の各酸化活性炭試料中の含水率を約30重量%に調整した後、4cmφのカラムに層長が10cmになるように充填した。このカラムにCsOH−0.01mg/L含有の大気(温度25℃・相対湿度85%)を3L/分で流通して、カラムから流出するガス中のCsOH濃度を測定して、CsOH破過率が5%になる時間を調べた。その結果を表4に示した。
【0029】
【表4】

本実施例からも前記で述べた「炭酸ガス発生量」と液相での「放射性セシウムの吸着性能」との関係と同様に、気相での「CsOH破過吸着性能」に関しても「炭酸ガス発生量」が24mg/g以上の酸化活性炭である本発明の試料a120、a7およびb120は、カラムからCsOHが長時間破過せず、放射性をセシウムを非常によく吸着することが明らかである。
すなわち、比較的に短時間で過酷な酸化を受けた酸化活性炭試料(対照)では、「炭酸ガス発生量」が、20mg/g以下となり、放射性セシウムを吸着する能力が非常に劣る。
これに対して、溶存するオゾン濃度が0.01〜1mg/Lという極低濃度オゾンで非常に緩やかに液相酸化された酸化活性炭試料(本発明)では、「炭酸ガス発生量」が、24mg/g以上となり、放射性セシウムを吸着する能力が飛躍的に向上することが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明においては、極低濃度オゾン液相酸化活性炭に放射性セシウムを含む流体を通常の方法で接触させることによって、流体中の放射性セシウムを効率よく吸着することができる。また、ガスマスクの充填剤として本発明の吸着剤を使用する方法や、空気清浄機のフィルターとして本発明の吸着剤を利用する方法、放射性セシウムを含む水が入った容器内に本発明の吸着剤を存在させて放射性セシウムを吸着する方法などがある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶存するオゾン濃度が0.01〜5mg/Lの水中で少なくとも2カ月間液相オゾン酸化された活性炭を放射性セシウムまたはその化合物を含有する流体と接触させることを特徴とする流体中の放射性セシウムまたはその化合物の吸着方法。
【請求項2】
溶存するオゾン濃度が0.01〜5mg/Lの水中で少なくとも2カ月間液相オゾン酸化された活性炭が少なくとも2カ月間オゾン・活性炭法高度浄水処理により液相オゾン酸化された活性炭である請求項1に記載の放射性セシウムまたはその化合物の吸着方法。

【公開番号】特開2012−230096(P2012−230096A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−113787(P2011−113787)
【出願日】平成23年5月20日(2011.5.20)
【出願人】(508197549)株式会社 永光 (12)
【Fターム(参考)】