説明

放射性廃棄物の処分坑道の埋戻し構造及び方法

【課題】放射性廃棄物の処分坑道の処分孔内で緩衝材が膨潤・膨出しても、処分孔の周りに隙間の発生を防止して、処分孔内の放射性廃棄物を確実に隔離する。
【解決手段】この埋戻し構造及び方法では、処分坑道Tの処分孔Hの開口H1及びその周囲H2の所定の範囲に、緩衝材Cの膨潤能力と少なくとも同程度の膨潤能力を有する材料、この場合、ベントナイト含有率50パーセント以上のベントナイト混合材料からなる被覆部材1を設置し、この被覆部材1を介して、処分坑道Tを埋戻し材2の充填により埋戻しする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射性廃棄物の処分坑道の埋戻し構造及び方法に関し、特に、天然バリアとしての地層中に処分坑道を掘削して処分孔を形成し、この処分孔に膨潤性を有する緩衝材を用いた人工バリアを構築して放射性廃棄物を埋設する形式の処分坑道に埋戻し材を充填して埋戻しする処分坑道の埋戻し構造及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、発電プラントなどの原子炉において発生する使用済み燃料は、原子炉再処理工場に送られて再処理され、再び原子炉で燃やす燃料(ウランとプルトニウム)が分離・回収されて再利用される。一方、これら燃料が除去された核分裂生成物を含む高レベル放射性廃棄物は廃棄物管理施設に送られ、そこでガラス原料と共に高温で溶かし合わされるとともに、ステンレス製のキャニスターの中で固められて、ガラス固化体として物理的、化学的に安定化される。そして、このガラス固化体は、特にその発熱の著しい製造後数十年間は冷却されながら貯蔵され、発熱量が十分に低下した後、地下深部数百mの地層中に形成された処分坑道内に搬送され、その地層を形成する岩盤中に埋設されて地層処分されることになる。
【0003】
この放射性廃棄物の地層処分のイメージを図3に示している。図3に示すように、この放射性廃棄物の地層処分では、処分坑道Tの底盤に放射性廃棄物を縦置きする複数の処分孔Hが掘削される。そして、放射性廃棄物は、既述のとおり、ガラスで固化されてキャニスターに収容された後、炭素鋼やチタンなどの金属製の円筒容器からなるオーバーパックPにより被包され、さらにこれが、ベントナイトや砂を主成分とする円盤状又は環状板状の加工物からなる緩衝材Cにより包囲されて、処分孔Hに定置される。すなわち、この地層処分に際しては、天然バリアとしての安定した岩盤の坑道Tに形成された複数の処分孔Hにそれぞれ、ガラス固化体を包み込み、ガラス固化体に地下水が接触することを抑止し、地圧などの外圧からガラス固化体を保護するオーバーパックPと、オーバーパックPと地層の間に充填し、地下水の浸入と放射性物質の溶出・移行を抑制し、さらに地層の変位を物理的に緩衝し、地下水の水質を化学的に緩衝する働きを持つ緩衝材Cとにより、人工バリアを構築し、この天然バリアと人工バリアの多重バリア内に放射性廃棄物を封入して格納することになる。なお、このような放射性廃棄物の地層処分については特許文献1、2などに掲示されている。
【0004】
このようにして一つの処分坑道の各処分孔に放射性廃棄物が格納されると、放射性廃棄物の隔離性を高めるために、この坑道は埋戻し材により埋戻しされる。この処分坑道の埋戻しのイメージを図4に示している。図4に示すように、この処分坑道の埋戻しでは、処分坑道Tは処分坑道、処分孔の掘削の際に発生するずり(岩盤の破片)や緩衝材などの材料からなる埋戻し材2が充填されて埋め込まれることになる。この坑道の埋戻し材について、ずりは、元の岩盤から発生した材料であることに加えて、材料の調達のしやすさや経済性の観点から、充填材料として利用することが有効であると考えられる一方で、掘削前の岩盤の密度と比較すると、坑道に充填するずりの密度には限界があり、元の岩盤と同じ状態に戻すことは困難であり、また、透水性に関しても、破砕したずりを充填しただけでは、岩盤の有する低透水性を確保することはできないとの指摘がある。そこで、坑道内の地下水流動を低減するため、ずりにベントナイトを混合した材料について検討がなされている。ベントナイトは水分を吸収すると膨潤する性質を有しており、地下施設の埋戻し後に坑道内に新たな水みちが生じたとしても、地下水を吸収して自ら膨潤し、その水みちを充填するといった自己シール機能も期待されている。また、この埋戻し材について、JNC(核燃料サイクル開発機構)が研究を取りまとめた非特許文献1では、放射性廃棄物の縦置きタイプの処分孔の場合の、緩衝材の膨出を抑えるための埋戻し材が検討されている。その際、材料コストの観点から、ベントナイト混合率は緩衝材のそれよりもかなり低い10〜30パーセント程度の材料が用いられる設定となっている。ベントナイト混合率70パーセント以上の、ベントナイト混合率の高い緩衝材は水を吸収することによる膨潤力が埋戻し材のそれよりも強いため、放射性廃棄物の定置後、緩衝材は埋戻し材側へ膨出すると予想される。これまでの検討では、ある程度の膨出は避けられないが、緩衝材品質に影響を及ぼさない程度であるとの評価がなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平 5−150097号公報(段落0005乃至0007、及び図3)
【特許文献2】特開平10−319190号公報(段落0003乃至0004、及び図4)
【非特許文献1】JNC(核燃料サイクル開発機構)「わが国における高レベル放射性廃棄物地層処分の技術的信頼性−地層処分研究開発第2次取りまとめ−地層処分の工学技術,JNC−TN1400 99−022(1999)の4.2.4節」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、このような処分坑道の埋戻しに、例えばベントナイト混合率70パーセント以上の、ベントナイト混合率の高い材料を用いることは材料コストの増大が避けられず、現実的な対策とはならないが、然りとて、この坑道をベントナイト混合率10〜30パーセント程度の、ベントナイト混合率の低い材料の埋戻し材で単純に埋め戻す構造では、図5に示すように、処分孔H内で緩衝材Cがその膨潤作用により膨出すると、埋戻し材2の膨潤性が緩衝材Cのそれに比べてそれほど高くないために、緩衝材Cにより埋戻し材2が持ち上げられて、処分孔Hの開口H1周囲に隙間Sが発生する可能性があり、処分孔Hの周りに隙間Sが発生すると、この隙間Sが核種(放射性廃棄物)の漏洩経路となる虞があるなど、放射性廃棄物の処分場のバリア性能に有意な影響を及ぼすことが予測される。そこで、処分孔H内で緩衝材Cが膨出しても、処分孔Hの周りに隙間Sが生じないようにする必要がある。
【0007】
本発明は、このような従来の問題を解決するものであり、この種の放射性廃棄物の処分坑道の埋戻し構造及び方法において、処分坑道の処分孔内で緩衝材が膨潤・膨出しても、処分孔の周りに隙間の発生を防止して、処分孔内の放射性廃棄物を確実に隔離すること、を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は、天然バリアとしての地層中に処分坑道が掘削されて処分孔が形成され、前記処分孔に膨潤性を有する緩衝材を用いた人工バリアが構築されて放射性廃棄物を埋設する形式の処分坑道に埋戻し材を充填して埋戻しされる放射性廃棄物の処分坑道の埋戻し構造において、前記処分坑道の前記処分孔の開口及びその周囲の所定の範囲に、前記緩衝材に必要な膨潤能力と少なくとも同程度の膨潤能力を有する材料からなる被覆部材が設置されて、前記処分坑道が前記埋戻し材により埋戻しされる、ことを要旨とする。
この場合、被覆部材はベントナイト単独の又はベントナイトを含有率50パーセント以上の割合で混合した材料が採用されることが好ましい。また、被覆部材はベントナイトが単独で、又はベントナイトと砂がベントナイト含有率50パーセント以上の割合で混合された状態で締め固められ前記緩衝材と少なくとも同程度の密度に形成されることが好ましい。
【0009】
また、本発明は、天然バリアとしての地層中に処分坑道を掘削して処分孔を形成し、前記処分孔に膨潤性を有する緩衝材を用いた人工バリアを構築して放射性廃棄物を埋設する形式の処分坑道に埋戻し材を充填して埋戻しする放射性廃棄物の処分坑道の埋戻し方法において、前記処分坑道を埋戻しする前に、前記処分坑道の前記処分孔の開口及びその周囲の所定の範囲に、前記緩衝材に必要な膨潤能力と少なくとも同程度の膨潤能力を有する材料からなる被覆部材を設置し、当該被覆部材を介在して、前記処分坑道に前記埋戻し材を充填する、ことを要旨とする。
この場合、被覆部材にベントナイト単独の又はベントナイトを含有率50パーセント以上の割合で混合した材料を採用することが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の放射性廃棄物の処分坑道の埋戻し構造及び方法によれば、処分坑道の処分孔内で緩衝材が膨潤・膨出しても、処分孔の開口及びその周囲の所定の範囲に設置された被覆部材がその有する膨潤作用により緩衝材とともに膨潤し、処分孔の周りに隙間の発生を防止して、処分孔内の放射性廃棄物を確実に隔離することができる、という格別な作用効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】(a)本発明の一実施の形態における放射性廃棄物の処分坑道の埋戻し構造を示す概略正面断面図(b)同概略平面図
【図2】同埋戻し構造及び方法による緩衝材が埋戻し材側へ膨出する場合の作用を示す図
【図3】一般に知られている放射性廃棄物の地層処分のイメージを示す図
【図4】一般に知られている放射性廃棄物の処分坑道の埋戻しのイメージを示す図
【図5】同処分坑道の埋戻し後緩衝材が膨潤作用により埋戻し材側へ膨出するイメージを示す図
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、この発明を実施するための形態について図を用いて説明する。図1に放射性廃棄物の処分坑道の埋戻し構造を示している。図1に示すように、この埋戻し構造の適用対象となるのは、天然バリアとしての地層G中に処分坑道Tが掘削されてその底盤に放射性廃棄物を縦置きする処分孔Hが形成され、この処分孔Hに人工バリアが構築されて放射性廃棄物が縦置きに埋設される形式、すなわち、この処分孔Hに、放射性廃棄物はガラスで固化されてキャニスターに収容された後、炭素鋼やチタンなどの金属製の円筒容器からなるオーバーパックPにより被包され、さらにこれが、ベントナイトや砂を主成分とする緩衝材Cにより包囲されて定置される形式の処分坑道Tである。なお、この実施の形態では、処分坑道Tの高さを500cm程度に、幅を400cm〜500cm程度に、処分孔Hの直径を約220cmに、深さを約400cmにそれぞれ設定してある。
【0013】
図1に示すように、この埋戻し構造では、処分坑道Tの処分孔Hの開口H1及びその周囲H2の所定の範囲に、緩衝材Cの膨潤能力と少なくとも同程度の膨潤能力を有する材料からなる被覆部材1が設置されて、処分坑道Tが埋戻し材2により埋戻しされる。ここで使用される被覆部材1はベントナイト単独の又はベントナイトを含有率50パーセント以上の割合で混合した材料が好ましく、この場合、被覆部材1はベントナイトと砂又は礫がベントナイト含有率50パーセント以上の割合で混合された状態で締め固められ圧縮されたブロック形状に形成される。なお、この実施の形態では、被覆部材1は円形の平板状に形成され、直径を処分孔Hのそれよりもやや大きい350cm程度に、厚さを10〜50cm程度に設定している。また、この場合、埋戻し材2には処分坑道T、処分孔Hの掘削の際に発生するずり(岩盤の破片)、又はずりや砂とベントナイトを混合した材料などが使用される。
【0014】
続いて、この処分坑道の埋戻し方法について説明する。この埋戻し方法では、処分坑道Tを埋戻し材2により埋戻す前に、処分坑道Tの処分孔Hの開口H1及びその周囲H2の所定の範囲に、緩衝材Cの膨潤能力と少なくとも同程度の膨潤能力を有する材料からなる被覆部材1、この場合は、ベントナイトと砂がベントナイト含有率50パーセント以上の割合で混合された状態で締め固められ圧縮されたブロック形状の被覆部材1を敷設し、この被覆部材1を介在して、処分坑道Tにずり、又はずりや砂と緩衝材を混合した材料などからなる埋戻し材2を充填し埋戻しする。
【0015】
図2にこの埋戻し構造及び方法による緩衝材Cが埋戻し材2側へ膨出する場合の作用を示している。図2(1)に示すように、一つの処分坑道Tの各処分孔Hに放射性廃棄物が定置された後、当該各処分孔Hの開口H1及びその周囲H2の所定の範囲に、緩衝材Cの膨潤能力と少なくとも同程度の膨潤能力を有する材料、この場合、有効粘土密度(ここで言う有効粘土密度は「単位体積の材料に含まれるベントナイトの質量」である。)の高いベントナイト材料からなる被覆部材1が敷設され、この被覆部材1を介して、処分坑道Tがずりや混合材料などの埋戻し材2により埋戻しされており、この状態から処分孔Hに地下水が浸透し、処分孔H内で緩衝材Cが膨潤・膨出しても、図2(2)に示すように、処分孔Hの開口H1及びその周囲H2の所定の範囲に設置された被覆部材1が緩衝材Cと同程度に膨潤量が大きいため、緩衝材Cとともに膨潤して、処分孔Hの周りに隙間あるいは低密度領域の発生を防止し、また、緩衝材Cと被覆部材1との間に隙間が生じる挙動があった場合でも、被覆部材1が自ら膨潤し、その隙間に充填する自己シール機能により、処分孔Hの周りに隙間あるいは低密度領域の発生を防止する。
【0016】
以上説明したように、この埋戻し構造及び方法では、処分坑道Tの処分孔Hの開口H1及びその周囲H2の所定の範囲に、高密度のベントナイト系材料からなる被覆部材1を敷き、この被覆部材1を介して、処分坑道Tを埋戻し材2の充填により埋戻しするので、この処分坑道Tの埋戻し後、処分孔H内で緩衝材Cが地下水を吸収して膨潤・膨出しても、処分孔Hの開口H1及びその周囲H2の所定の範囲に設置された被覆部材1の膨潤作用により緩衝材Cとともに膨潤し、処分孔Hの周りに隙間の発生を防止して、処分孔H内の放射性廃棄物を確実に隔離することができる。
【0017】
なお、この実施の形態では、被覆部材1にベントナイトを含有率50パーセント以上の割合で混合した材料、特に、ベントナイトと砂がベントナイト含有率50パーセント以上の割合で混合された状態で締め固められ圧縮されたブロック形状の材料が採用されているが、この材料に関しては、緩衝材の膨潤能力と少なくとも同程度の膨潤能力を持たせればよく、ベントナイト含有率50パーセント以上を目安として、十分な膨潤量が確保できる材料を適宜選定すればよい。この埋戻し材はベントナイトとずりを主材料とする混合材料でもよく、また、ベントナイト単独からなるものであってもよい。
【0018】
また、この実施の形態では、被覆部材1が円形の平板に形成されているが、緩衝材Cが膨出しても、埋戻し材2と緩衝材Cとの間に隙間が生じないような十分な大きさと厚さがあれば、その形状は任意である。
【符号の説明】
【0019】
G 地層
T 処分坑道
H 処分孔
H1 開口
H2 周囲
P オーバーパック
C 緩衝材
1 被覆部材
2 埋戻し材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然バリアとしての地層中に処分坑道が掘削されて処分孔が形成され、前記処分孔に膨潤性を有する緩衝材を用いた人工バリアが構築されて放射性廃棄物を埋設する形式の処分坑道に埋戻し材を充填して埋戻しされる放射性廃棄物の処分坑道の埋戻し構造において、
前記処分坑道の前記処分孔の開口及びその周囲の所定の範囲に、前記緩衝材の膨潤能力と少なくとも同程度の膨潤能力を有する材料からなる被覆部材が設置されて、前記処分坑道が前記埋戻し材により埋戻しされる、
ことを特徴とする放射性廃棄物の処分坑道の埋戻し構造。
【請求項2】
被覆部材はベントナイト単独の又はベントナイトを含有率50パーセント以上の割合で混合した材料が採用される請求項1に記載の放射性廃棄物の処分坑道の埋戻し構造。
【請求項3】
被覆部材はベントナイトが単独で、又はベントナイトと砂がベントナイト含有率50パーセント以上の割合で混合された状態で締め固められたブロック形状に形成される請求項1に記載の放射性廃棄物の処分坑道の埋戻し構造。
【請求項4】
天然バリアとしての地層中に処分坑道を掘削して処分孔を形成し、前記処分孔に膨潤性を有する緩衝材を用いた人工バリアを構築して放射性廃棄物を埋設する形式の処分坑道に埋戻し材を充填して埋戻しする放射性廃棄物の処分坑道の埋戻し方法において、
前記処分坑道を埋戻しする前に、前記処分坑道の前記処分孔の開口及びその周囲の所定の範囲に、前記緩衝材の膨潤能力と少なくとも同程度の膨潤能力を有する材料からなる被覆部材を設置し、当該被覆部材を介在して、前記処分坑道に前記埋戻し材を充填する、
ことを特徴とする放射性廃棄物の処分坑道の埋戻し方法。
【請求項5】
被覆部材にベントナイト単独の又はベントナイトを含有率50パーセント以上の割合で混合した材料を採用する請求項4に記載の放射性廃棄物の処分坑道の埋戻し方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−257165(P2011−257165A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−129573(P2010−129573)
【出願日】平成22年6月7日(2010.6.7)
【出願人】(303057365)株式会社間組 (138)