説明

放射性廃棄物処分施設およびその築造方法

【課題】 坑道内に充填されるベントナイトまたはベントナイト混合土に悪影響を与えることなく、止水が可能な放射性廃棄物処分施設およびその築造方法を提供する。
【解決手段】 本発明に係る放射性廃棄物処分施設は、放射性廃棄物5を貯蔵するために地盤G内に形成された断面視円形の坑道3と、坑道3の周壁として形成されたベントナイトグラウトまたは粘土グラウトからなる第一改良層2と、第一改良層2の外周部に形成されたセメント系グラウトまたはシリカ系グラウトからなる第二改良層1とから構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射性廃棄物処分施設およびその築造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高レベル放射性廃棄物の処分については、高レベル放射性廃棄物をガラスと混ぜて固化したガラス固化体を炭素鋼等からなるオーバーパックで密閉した後、300mを超える地下深部の安定した岩盤に形成された坑道に、ベントナイトで被覆して封じ込めることが計画されている。
しかし、岩盤等の地盤には破砕帯等の割れ目が存在するため、掘削時に多量の湧水が発生することが予想され、円滑な施工のためには、ある程度止水しながら掘削していく必要がある。また、坑道周辺の地下水を低下させることは、地表面付近の酸化性地下水の流入を招き、オーバーパックの腐食を促進するおそれがあり、この点からも坑道内への湧水を低減する必要がある。
トンネル工事で一般に用いられている岩盤止水工法としては、セメント系材料によるグラウト工法があるが、セメント系グラウト材は、放射性廃棄物処分において重要なバリアとなるベントナイトに悪影響を与え、その性能を劣化させることが知られている。そのため、ベントナイトを注入材料とするグラウト工法について研究が進められている。
他方、特許文献1には、沿岸海底下の地層中に放射性廃棄物を埋蔵処分した場合でも、地下水流動による放射性汚染を防止することができる放射性廃棄物処分場の発明が開示されている。
【特許文献1】特開平5−203797号公報 (第2−3頁、第1図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、ベントナイトグラウトは十分な強度を有していないため、深部トンネル工事のように高水圧下における掘削工事では、坑道内へ湧水が流入し、打設したベントナイトグラウト材料が坑道内へ押し返されることが懸念される。
また、特許文献1に記載されたような、沿岸海底下の地層中に放射性廃棄物を埋蔵処分する方法は、海洋投棄との関係や具体性の点から現段階では困難とされており、地下深部に放射性廃棄物を埋蔵処分する方法が最も有効だと考えられている。
【0004】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、坑道内に充填されるベントナイトまたはベントナイト混合土に悪影響を与えることなく、止水が可能な放射性廃棄物処分施設およびその築造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明に係る放射性廃棄物処分施設では、放射性廃棄物を貯蔵するために地盤内に形成された坑道と、当該坑道の周壁として形成されたベントナイトグラウトまたは粘土グラウトからなる第一改良層と、当該第一改良層の外周部に形成されたセメント系グラウトまたはシリカ系グラウトからなる第二改良層とを備えることを特徴とする。
本発明では、坑道の周壁としてベントナイトグラウトまたは粘土グラウトからなる第一改良層を形成するので、坑道内に充填されるベントナイトまたはベントナイト混合土に悪影響を与えることなく、止水することができる。また、第一改良層の外周部にはセメント系グラウトまたはシリカ系グラウトからなる強度の高い第二改良層を形成しているので、高水圧下においても、湧水が坑道内へ流入することがない。
【0006】
また、本発明に係る放射性廃棄物処分施設の築造方法では、切羽より前方の掘削領域を囲繞する前記第二改良層を形成し、次いで前記第二改良層の内方に前記第一改良層を形成した後、前記掘削領域を掘削することを特徴とする。
本発明では、切羽より前方の掘削領域を囲繞する、セメント系グラウトまたはシリカ系グラウトからなる第二改良層を形成し、さらに当該第二改良層の内方にベントナイトグラウトまたは粘土グラウトからなる第一改良層を形成した後、坑道を掘削するので、高水圧下においても、坑道内への湧水の流入を防止し、円滑に工事を進めることができる。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、坑道の周壁としてベントナイトグラウトまたは粘土グラウトからなる第一改良層を形成し、さらにその外周部にセメント系グラウトまたはシリカ系グラウトからなる第二改良層を形成するので、坑道内に充填されるベントナイトまたはベントナイト混合土に悪影響を与えることなく、止水が可能な放射性廃棄物処分施設を実現することができる。
また、本発明によれば、切羽より前方の掘削領域を囲繞する、セメント系グラウトまたはシリカ系グラウトからなる第二改良層を形成し、さらに当該第二改良層の内方にベントナイトグラウトまたは粘土グラウトからなる第一改良層を形成した後、坑道を掘削するので、高水圧下においても、坑道内への湧水の流入を防止し、円滑に工事を進めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明に係る放射性廃棄物処分施設について図面に基いて説明する。
図1は、本発明に係る放射性廃棄物処分施設の一例を示す側断面図およびA−A矢視断面図である。
図1に示すように、本発明に係る放射性廃棄物処分施設は、放射性廃棄物5を貯蔵するために地盤G内に形成された断面視円形の坑道3と、坑道3の周壁として形成されたベントナイトグラウトまたは粘土グラウトからなる第一改良層2と、第一改良層2の外周部に形成されたセメント系グラウトまたはシリカ系グラウトからなる第二改良層1とから構成される。
ここで、第一改良層2は、止水を主目的とし、透水係数10−5〜10−6cm/s程度かそれ以下の値が得られるようにするのが好ましい。一方、第二改良層1は、ある程度の止水とともに強度も兼ね備えることを目的としており、透水係数は10−3〜10−5cm/s程度のいわゆる難透水としての機能を有するものが考えられる。
【0009】
坑道3内はベントナイト4で満たされており、ベントナイト4中に、炭素鋼等からなるオーバーパックで密閉された放射性廃棄物5が貯蔵される。ここで、ベントナイト4は、地盤Gからの圧力を和らげるための緩衝材の役目をしている。また、オーバーパックが破損した場合には、ベントナイト4の透水性が低いため、放射性廃棄物5 の移行が遅延し、さらにイオン交換性によって放射性廃棄物5 がベントナイト4 に吸着される。
【0010】
セメント系グラウトまたはシリカ系グラウトは高い強度を有しており、高水圧下でも機能することができる。セメント系グラウトは、セメント量が多くなると、ベントナイトに悪影響を及ぼすため、セメント量が少ないものが望ましい。また、シリカ系グラウトは、ベントナイトに悪影響を与えにくい中性に近いもの、例えば、シリカヒュームとグラウト用石灰を混合し、強度を確保しながらpH値を弱アルカリに抑えたグラウト材が考えられる。
【0011】
一方、ベントナイトグラウトは、ベントナイトに水を加えたものであり、粘性を抑えるためにエタノールや塩水により希釈してもよく、クニゲルV1(登録商標)、クニゲルV0(登録商標)、ボルクレイ(登録商標)等のベントナイトが好適である。また、粘土グラウトは、一般の粘土に水を加えたものであり、細粒で、粘性が小さく、沈降・沈積後の安定性の大きい粘土が望ましい。
【0012】
本実施形態による放射性廃棄物処分施設では、坑道3の周壁としてベントナイトグラウトまたは粘土グラウトからなる第一改良層2を形成するので、坑道3内に充填されるベントナイト4に悪影響を与えることなく、止水することができる。また、第一改良層2の外周部にセメント系グラウトまたはシリカ系グラウトからなる強度の高い第二改良層1を形成しているので、高水圧下においても、坑道3内へ湧水が流入することがない。
【0013】
次に、本発明に係る放射性廃棄物処分施設の築造方法について説明する。以下、掘削方向を「前」とし、逆方向を「後」とする。
図2は、本発明に係る放射性廃棄物処分施設の築造方法を示す側断面図である。
先ず、既に形成された坑道3前端の切羽6から前方の掘削領域R(20〜30m程度)に向けて放射状に複数の鋼管7…を打設する。そして、鋼管7…から地盤にセメント系グラウトまたはシリカ系グラウトを注入し、掘削領域Rの周囲に円筒状の第二改良層1aを形成する。また、掘削領域Rの前端部には、第二改良層1aとの間に第一改良層2の厚み分の間隙8を設けた状態で、円盤状の第二改良層1bを形成する(図2(a)参照)。
次いで、鋼管7…を引抜き、新たに、切羽6から前方の掘削領域Rに向けて放射状に複数の鋼管7’…を打設する。そして、鋼管7’…から地盤にベントナイトグラウトまたは粘土グラウトを注入し、第二改良層1aの内側に円筒状の第一改良層2aを形成する。この際、第二改良層1bと第二改良層1a間の間隙8にも第一改良層2aを形成する(図2(b)参照)。
その後、鋼管7’…を引抜き、切羽6から前方に向けて坑道3を掘削する(図2(c)参照)。この際、第二改良層1bまで掘削せず、第二改良層1bの後方に地山G’を部分的に残しておく。これにより、第二改良層1bを透過した湧水が坑道3内に侵入するのを防止することができる。
以下、20〜30m程度の所定ピッチで上記作業を繰返すことにより、放射性廃棄物処分施設を築造する。
【0014】
なお、図2(d)に示すように、坑道3の端部では、端部周縁と周壁の間に間隙を設けずに第二改良層1cを形成するとともに、第二改良層1cの内側全面にわたって第一改良層2cを形成する。
このようにして、放射性廃棄物処分施設が築造されるが、完成後は図1に示したように、炭素鋼等からなるオーバーパックで密閉された放射性廃棄物5を坑道3内に搬入し、放射性廃棄物5と坑道3の周壁との空間にベントナイト4を充填する。この結果、放射性廃棄物5は半永久的に貯蔵即ち処分されることになる。
【0015】
本実施形態による放射性廃棄物処分施設の築造方法では、切羽6より前方の掘削領域Rを囲繞する、セメント系グラウトまたはシリカ系グラウトからなる第二改良層1a、1bを形成し、さらに第二改良層1aの内側にベントナイトグラウトまたは粘土グラウトからなる第一改良層2aを形成した後、坑道3を掘削するので、高水圧下においても、坑道3内への湧水の流入を防止し、円滑に工事を進めることができる。
【0016】
以上、本発明に係る放射性廃棄物処分施設の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。例えば、上記の実施形態では、放射性廃棄物処分施設の断面は円形としているが、矩形など他の形状でもよい。要は、本発明において所期の機能が得られればよいのである。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係る放射性廃棄物処分施設の一例を示し、(a)はその側断面図、(b)はA−A矢視断面図である。
【図2】本発明に係る放射性廃棄物処分施設の築造方法を示し、(a)(b)(c)は中間部の側断面図、(d)は端部の側断面図である。
【符号の説明】
【0018】
1、1a、1b、1c 第二改良層
2、2a、2c 第一改良層
3 坑道
4 ベントナイト
5 放射性廃棄物
6 切羽
7、7’ 鋼管
G 地盤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射性廃棄物を貯蔵するために地盤内に形成された坑道と、当該坑道の周壁として形成されたベントナイトグラウトまたは粘土グラウトからなる第一改良層と、当該第一改良層の外周部に形成されたセメント系グラウトまたはシリカ系グラウトからなる第二改良層とを備えることを特徴とする放射性廃棄物処分施設。
【請求項2】
請求項1に記載の放射性廃棄物処分施設の築造方法であって、
切羽より前方の掘削領域を囲繞する前記第二改良層を形成し、次いで前記第二改良層の内方に前記第一改良層を形成した後、前記掘削領域を掘削することを特徴とする放射性廃棄物処分施設の築造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate