説明

放射性物質を含有するテトラクロロエチレン廃液の処理方法及び処理装置

【課題】原子力施設内で発生する、放射性物質等の不純物を含有するテトラクロロエチレン廃液の安価な処理方法を提供する。
【解決手段】放射性物質を含有するテトラクロロエチレン廃液の処理方法が、放射性物質を含有するテトラクロロエチレン廃液が蒸留される工程(a)、蒸留により得られたテトラクロロエチレン、純水及び鉄複合粒子が混合され、テトラクロロエチレンが分解される工程(b)を実施する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子力施設内で発生する、放射性物質等の不純物を含有するテトラクロロエチレン廃液の処理方法と処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
テトラクロロエチレンが原子力施設内のアスファルト固化装置点検時の洗浄剤として使用されている。発生するテトラクロロエチレン廃液は、アスファルト中に取り込まれている放射性物質を含む不溶性固形物、水分、低沸点溶剤等の不純物を含有しているので、当該テトラクロロエチレン廃液は通常の産業廃棄物処理に付されない。当該テトラクロロエチレン廃液を800℃以上の燃焼ガス中に2秒間以上滞留させ、放射性物質を含む煤煙を濾過する高温焼却法が、ダイオキシンの発生を防止する当該テトラクロロエチレン廃液の処理方法として可能である。しかしながら、当該テトラクロロエチレン廃液の発生量を考慮すると、当該高温焼却法のコストはかなり高価である。
【0003】
一方、有機ハロゲン化合物で汚染された土壌及び/又は地下水を鉄複合粒子と接触させ、有機ハロゲン化合物を分解する土壌及び/又は地下水の浄化処理方法が検討された(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−82102号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、原子力施設内で発生する、放射性物質等の不純物を含有するテトラクロロエチレン廃液の安価な処理方法の提供である。本発明が解決しようとする別の課題は、上記処理方法を実施する装置の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、放射性物質を含有するテトラクロロエチレン廃液を蒸留して放射性物質とテトラクロロエチレンを分離し、蒸留によって得たテトラクロロエチレンを鉄複合粒子を使用して可燃性ガスに分解できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
本発明の放射性物質を含有するテトラクロロエチレン廃液の処理方法は、放射性物質を含有するテトラクロロエチレン廃液が蒸留される工程(a)、蒸留により得られたテトラクロロエチレン、純水及び鉄複合粒子が混合され、テトラクロロエチレンが分解される工程(b)を実施する。
【0008】
上記工程(b)における鉄複合粒子の好ましい使用量は、テトラクロロエチレン及び純水に対して0.01〜5質量%である。上記工程(b)におけるテトラクロロエチレン、純水及び鉄複合粒子を含む処理水に溶解している好ましいテトラクロロエチレン濃度は150〜5000mg/lである。好ましくは、上記工程(b)におけるテトラクロロエチレン、純水及び鉄複合粒子を含む処理水のpHはイオン交換樹脂で7〜9に調整される。
【0009】
本発明の放射性物質を含有するテトラクロロエチレン廃液の処理装置は、放射性物質を含有するテトラクロロエチレン廃液を蒸留する蒸留器、蒸留により得られたテトラクロロエチレン、純水及び鉄複合粒子を混合し、テトラクロロエチレンを分解する分解槽ユニットを含む。好ましくは、分解槽にテトラクロロエチレンを注入するポンプ、攪拌機、イオン交換樹脂塔及び排気ダクトが上記分解槽ユニットに付加される。
【発明の効果】
【0010】
本発明の放射性物質を含有するテトラクロロエチレン廃液の処理方法は、放射性物質を含有するテトラクロロエチレン廃液からテトラクロロエチレンを分離し、可燃性ガスに分解する一連の工程を安価に実施できる。本発明の放射性物質を含有するテトラクロロエチレン廃液の処理装置は簡素で小型であり、上記一連の工程を安価に実施できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】放射性物質を含有するテトラクロロエチレン廃液処理システムを示す図
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の好ましい実施態様を表す図面を示し、本発明を詳細に説明する。
図1は、放射性物質を含有するテトラクロロエチレン廃液処理システムを示す図である。図中、1はテトラクロロエチレン廃液貯蔵タンク、2はテトラクロロエチレン廃液移送ポンプ、3は蒸留器を備える蒸留塔、4は不純物回収容器、5はテトラクロロエチレン回収タンク、6はテトラクロロエチレン注入ポンプ、7は攪拌機、8は攪拌機モーター、9は処理水移送ポンプ、10は鉄複合粒子、11は処理水、12は鉄複合粒子移送ポンプ、13は排気ダクト、14はイオン交換樹脂塔、15は分解槽、16は分解槽ユニット、17は可燃性ガスセンサー、18は排気装置を示す。
【0013】
テトラクロロエチレン廃液貯蔵タンク1に貯蔵されている放射性物質等の不純物を含有するテトラクロロエチレン廃液が、テトラクロロエチレン廃液移送ポンプ2により蒸留器を備える蒸留塔3に移送され、蒸留によりテトラクロロエチレンと放射性物質等の不純物が分離される。蒸留温度は、テトラクロロエチレンの沸点である121℃前後であり、好ましくは125℃近傍である。蒸留器は特定の型に限定されない。温度制御のし易さの観点から、好ましい蒸留器は電気加熱型蒸留器である。蒸留は複数回繰り返し行われ得る。蒸留により得られるテトラクロロエチレンの純度は蒸留の繰り返しにより向上する。なお、上記テトラクロロエチレン廃液中の不純物は、蒸留の前に濾過等により除去され得る。
【0014】
上記テトラクロロエチレン廃液から分離された不純物は、不純物回収容器4に回収される。上記テトラクロロエチレン廃液から分離されたテトラクロロエチレンは、テトラクロロエチレン回収タンク5に回収される。
【0015】
放射性物質を含有するテトラクロロエチレン廃液が蒸留される上記工程は、連続式であってもバッチ式であってもよい。
【0016】
テトラクロロエチレン回収タンク5に回収されたテトラクロロエチレンは、純水及び鉄複合粒子と混合される。これらの混合方法は限定されない。これらの混合方法の具体例は以下のとおりである。鉄複合粒子10が分解槽15に張り込まれた純水に投入され、攪拌機モーター8により運転される攪拌機7により攪拌される。次に、テトラクロロエチレン回収タンク5に回収されたテトラクロロエチレンが、分解槽15にテトラクロロエチレンを注入するポンプであるテトラクロロエチレン注入ポンプ6により、分解槽15に注入される。
【0017】
本明細書の鉄複合粒子は、α−FeからなるコアがFe34からなるシェルで被覆される構造を有する粒子である。鉄複合粒子は市販されており、還元性に富む粒子である。鉄複合粒子の具体例は、戸田工業(株)製RNIP(平均粒子径70nm、比表面積30m2/gの鉄複合粒子のスラリー)である。
【0018】
鉄複合粒子の使用量は特定の範囲に限定されない。好ましい当該使用量は、テトラクロロエチレン及び純水に対して0.01〜5質量%である。
【0019】
テトラクロロエチレンが分解槽15中の純水に注入される際、純水に溶解するテトラクロロエチレン濃度は特定の範囲に限定されない。好ましい当該濃度はテトラクロロエチレン飽和濃度(150mg/l)〜5000mg/lである。
【0020】
水相中のテトラクロロエチレンが鉄複合粒子に接触すると、テトラクロロエチレンが分解される。本明細書のテトラクロロエチレンの分解は、テトラクロロエチレンが化学反応により可燃性ガスに変換されることである。可燃性ガスの主成分はエチレンガスであると考えられる。純水に溶解しているテトラクロロエチレン濃度はテトラクロロエチレンの分解により低下していくが、当該濃度が所定濃度以上に保たれるように、テトラクロロエチレン回収タンク5に回収されたテトラクロロエチレンが分解槽15に注入され、テトラクロロエチレンの分解速度は所定の速度以上に保たれる。なお、鉄複合粒子が利用されるテトラクロロエチレンの分解は水相で可能であるが、テトラクロロエチレンに鉄複合粒子を投入してもテトラクロロエチレンは分解されない。
【0021】
テトラクロロエチレンの分解により発生する可燃性ガスは排気ダクト13により排気装置18に排気される。可燃性ガスセンサー17が排気装置18の入口に設置されており、可燃性ガス濃度が基準値を超えた場合、テトラクロロエチレン注入ポンプ6及び攪拌機モーター8は停止され、テトラクロロエチレンの分解によるエチレン等のガスの発生が抑制される。
【0022】
塩酸がテトラクロロエチレンの分解により生成すると考えられ、分解槽15中の処理水11のpHが低下し、鉄複合粒子が溶解されてくる。そこで、処理水11のpHの低下を抑制するため、処理水11が処理水移送ポンプ9によりイオン交換樹脂塔14に移送され、処理水11のpHが7〜9に調整される。
【0023】
テトラクロロエチレンの分解により発生する可燃性ガスの濃度が、初期濃度に比べて著しく低下している場合、鉄複合粒子10が劣化していると考えられる。そこで、鉄複合粒子10が鉄複合粒子移送ポンプ12により分解槽15から排出される。その際、処理水11の排出は極力抑えられる。その後、新しい鉄複合粒子が分解槽15に投入される。
【0024】
蒸留により得られたテトラクロロエチレン、純水及び鉄複合粒子が混合され、テトラクロロエチレンが分解される工程は、連続式であってもバッチ式であってもよい。
【実施例】
【0025】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。(1)テトラクロロエチレン廃液中のテトラクロロエチレン濃度及び(2)ガスクロマトグラフィーによるテトラクロロエチレン濃度の測定方法は、それぞれ以下のとおりである。
【0026】
(1)テトラクロロエチレン廃液中のテトラクロロエチレン濃度の測定方法
テトラクロロエチレン廃液が、(株)スギヤマゲン製の有機塩素系化合物用蒸留器に注入され、次いで、留分が回収できなくなるか又は150℃に達するまで蒸留された。テトラクロロエチレン濃度は以下の式(a)により計算された。
テトラクロロエチレン濃度=留分量/テトラクロロエチレン廃液注入量×100(%)
・・・(a)
【0027】
(2)ガスクロマトグラフィーによるテトラクロロエチレン濃度の測定方法
ジーエルサイエンス(株)製GC−4000型がガスクロマトグラフ装置として使用され、使用カラムがInertCap1、注入口温度及び検出器温度が240℃、オーブン昇温が100〜220℃、昇温速度が40℃/分という条件で、テトラクロロエチレン濃度が測定された。
【0028】
実施例1
原子力施設内のアスファルト固化装置点検時の洗浄で発生した10種類のテトラクロロエチレン廃液が蒸留され、これらの廃液中のテトラクロロエチレン濃度がそれぞれ測定された。その結果を表1に示す。なお、テトラクロロエチレンは表1〜5においてC2Cl4と表記されている。
【0029】
【表1】

【0030】
No.6〜10のテトラクロロエチレン廃液が蒸留されて得られる残渣の量は、No.1〜5のテトラクロロエチレン廃液が蒸留されて得られる残渣の量より多かった。従って、No.6〜10のテトラクロロエチレン廃液中のアスファルト等の不純物の含有量は、No.1〜5のテトラクロロエチレン廃液中の不純物の含有量より多いと考えられる。
10種類のテトラクロロエチレン廃液が蒸留されて得られた留分中のテトラクロロエチレンの濃度が、ガスクロマトグラフィーにより測定された。その結果を表2に示す。
【0031】
【表2】

【0032】
10種類のテトラクロロエチレン廃液がそれぞれ蒸留されて得られた留分中のテトラクロロエチレンの濃度は、ほぼ100%であった。更に、これらの留分中の不純物はトリクロロエチレンであると判明した。トリクロロエチレンは、原子力施設のアスファルト固化装置点検時の洗浄に使用されたテトラクロロエチレンに含まれていたと考えられる。
【0033】
実施例2
テトラクロロエチレンが純水に注入されて攪拌され、更に、得られた混合物に鉄複合粒子を含むスラリーである戸田工業(株)製RNIPが投入され、攪拌された。鉄複合粒子が投入された直後の処理水中のテトラクロロエチレン濃度が300mg/l、テトラクロロエチレン及び純水に対する鉄複合粒子の使用量が1又は5質量%に調整された。鉄複合粒子が投入されてから48時間後の処理水中のテトラクロロエチレン濃度がガスクロマトグラフィーにより測定された。その結果を表3に示す。
【0034】
【表3】

【0035】
テトラクロロエチレン及び純水に対する鉄複合粒子の使用量が1質量%に調整された処理水中のテトラクロロエチレン濃度、同じく5質量%に調整された処理水中のテトラクロロエチレン濃度は、共に検出限界である10ppm未満となった。
【0036】
実施例3
テトラクロロエチレンが純水に注入されて攪拌され、更に、得られた混合物に鉄複合粒子を含むスラリーである戸田工業(株)製RNIPが投入され、攪拌された。鉄複合粒子が投入された直後の処理水中のテトラクロロエチレン濃度が1600mg/l、テトラクロロエチレン及び純水に対する鉄複合粒子の使用量が0.01質量%、0.05質量%又は0.1質量%に調整された。鉄複合粒子が投入されてから89.5時間後及び95時間後の処理水中のテトラクロロエチレン濃度がガスクロマトグラフィーにより測定された。その結果を表4に示す。
【0037】
【表4】

【0038】
テトラクロロエチレン及び純水に対する鉄複合粒子の使用量が0.01質量%に調整された処理水中のテトラクロロエチレン濃度、同じく0.05質量%に調整された処理水中のテトラクロロエチレン濃度、同じく0.1質量%に調整された処理水中のテトラクロロエチレン濃度は、いずれも95時間後には検出限界である10ppm未満となった。
【0039】
実施例4
テトラクロロエチレンが純水に注入されて攪拌され、更に、得られた混合物に鉄複合粒子を含むスラリーである戸田工業(株)製RNIPが投入され、攪拌された。鉄複合粒子が投入された直後の処理水中のテトラクロロエチレン濃度が2000mg/l又は5000mg/l、テトラクロロエチレン及び純水に対する鉄複合粒子の使用量が0.1質量%に調整された。鉄複合粒子が投入された直後の処理水のpH、鉄複合粒子がテトラクロロエチレン濃度2000mg/lの処理水、テトラクロロエチレン濃度5000mg/lの処理水に投入されてからそれぞれ120時間後、170時間後の処理水のpHが(株)堀場製作所製pHメーターT−54で測定された。その結果を表5に示す。
【0040】
【表5】

【0041】
鉄複合粒子が投入された直後の処理水中のテトラクロロエチレン濃度が2000mg/lの処理水のpH、同じく5000mg/lの処理水のpHは共に低下した。上記処理水のpHの低下の原因は、テトラクロロエチレンの分解により発生した塩素イオンによる塩酸の生成であると考えられる。従って、鉄複合粒子の劣化防止の観点から、テトラクロロエチレン、純水及び鉄複合粒子を含む処理水のpHを7〜9に保つため、好ましくは、当該処理水がイオン交換樹脂で処理される。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の放射性物質を含有するテトラクロロエチレン廃液の処理方法及び処理装置は、放射性物質等の不純物を含有するテトラクロロエチレン廃液の安価の処理に好適である。
【符号の説明】
【0043】
1…テトラクロロエチレン廃液貯蔵タンク、2…テトラクロロエチレン廃液移送ポンプ、3…蒸留塔、4…不純物回収容器、5…テトラクロロエチレン回収タンク、6…テトラクロロエチレン注入ポンプ、7…攪拌機、8…攪拌機モーター、9…処理水移送ポンプ、10…鉄複合粒子、11…処理水、12…鉄複合粒子移送ポンプ、13…排気ダクト、14…イオン交換樹脂塔、15…分解槽、16…分解槽ユニット、17…可燃性ガスセンサー、18…排気装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射性物質を含有するテトラクロロエチレン廃液が蒸留される工程(a)、
蒸留により得られたテトラクロロエチレン、純水及び鉄複合粒子が混合され、テトラクロロエチレンが分解される工程(b)が実施される、放射性物質を含有するテトラクロロエチレン廃液の処理方法。
【請求項2】
上記工程(b)における鉄複合粒子の使用量が、テトラクロロエチレン及び純水に対して0.01〜5質量%である、請求項1に記載された放射性物質を含有するテトラクロロエチレン廃液の処理方法。
【請求項3】
上記工程(b)におけるテトラクロロエチレン、純水及び鉄複合粒子を含む処理水に溶解しているテトラクロロエチレン濃度が150〜5000mg/lである、請求項1又は2に記載された放射性物質を含有するテトラクロロエチレン廃液の処理方法。
【請求項4】
上記工程(b)におけるテトラクロロエチレン、純水及び鉄複合粒子を含む処理水のpHをイオン交換樹脂で7〜9に調整する、請求項1〜3のいずれか1項に記載された放射性物質を含有するテトラクロロエチレン廃液の処理方法。
【請求項5】
放射性物質を含有するテトラクロロエチレン廃液を蒸留する蒸留器、蒸留により得られたテトラクロロエチレン、純水及び鉄複合粒子を混合し、テトラクロロエチレンを分解する分解槽ユニットを含む、放射性物質を含有するテトラクロロエチレン廃液の処理装置。
【請求項6】
分解槽にテトラクロロエチレンを注入するポンプ、攪拌機、イオン交換樹脂塔及び排気ダクトが上記分解槽ユニットに付加されている、請求項5に記載された放射性物質を含有するテトラクロロエチレン廃液の処理装置。

【図1】
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【公開番号】特開2010−203930(P2010−203930A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−50025(P2009−50025)
【出願日】平成21年3月4日(2009.3.4)
【出願人】(505374783)独立行政法人 日本原子力研究開発機構 (727)
【出願人】(591172663)荏原工業洗浄株式会社 (17)
【Fターム(参考)】