説明

放射温度計のパージエア流路構造

【課題】受光窓に吹き付けるパージエア中の塵埃(コンタミ)の受光窓への付着と堆積を長時間防止でき、これにより放射温度計の計測精度を低下させずに長時間の連続使用を可能にする放射温度計のパージエア流路構造を提供する。
【解決手段】対象物、受光窓14及び光検出器12を結ぶ放射光1の光軸Zに沿って放射光1を通す中空円筒形のサイトチューブ23aとサイトチューブの末端に連結し放射温度計10を内部に収容する中空の外枠23bとからなるプローブ本体22と、放射温度計10の周囲を囲み外枠23bと放射温度計の隙間を通して、プローブ本体の外枠23bからサイトチューブ23aまでパージエア2を流す中空円筒形のノズル部材24とを備える。ノズル部材24は、パージエア2を受光窓表面に沿って一方向に流入させる洗浄ノズル25を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射温度計の受光窓表面にパージエアを供給し、その表面を洗浄するためのパージエア流路構造に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスタービンエンジンのタービン翼のように、高温で作動する対象物の表面温度を測定するため、従来から放射温度計が用いられている。放射温度計は、対象物の放射光を検出して温度を計測する非接触式の温度計である。
【0003】
しかし、放射温度計の受光窓(レンズ又は平面ガラス)は、表面に塵埃(コンタミ)などの汚れが付着すると、温度計測に支障を来たす。また、放射温度計の受光部表面は高温環境(例えば燃焼ガス)に曝されるため、受光部が損傷し温度計測不能となる可能性もある。このため、受光部表面にパージエアを吹き付け、受光部表面に塵埃等が付着するのを防止するとともに高温の燃焼ガスから保護するために、特許文献1のパージエア流路構造が既に提案されている。
【0004】
特許文献1のパージエア流路構造は、図7に示すように、パージエア59を流通させる空気流路63を有し、空気流路63内にパージエア59中の塵埃60を慣性分離する分離部58と、パージエア59中の塵埃60を捕集するフィルタ部61とが設けられ、フィルタ部61は分離部58より空気流路63の上流側に設けられている。また、フィルタ部61は、パージエア59を通過させる通過孔をその幅方向にわたり複数有する遮蔽部61a、61bを少なくとも2つ以上備え、各遮蔽部は空気流路63の上流側から下流側に向けて互いに所定間隔を隔てて順次配置されており、各遮蔽部の上流側に面する壁部は、その上流側に隣接する遮蔽部の通過孔を通過したパージエア59が衝突する位置に設けられているものである。
なお、この図で62は、レンズである。
【0005】
【特許文献1】特開2005−98946号公報、「パージエア流路構造」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した特許文献1のパージエア流路構造は、空気流路63内にパージエア中の塵埃を分離する分離部58に加え、パージエア中の塵埃を捕集するフィルタ部61を空気流路の上流側に設けたので、パージエアがフィルタ部61を通過するときに塵埃を捕集することができる。また、フィルタ部で捕集できなかった塵埃は下流側に位置する分離部58において慣性分離されるので、レンズ表面に吹き付けるパージエア中の塵埃をほぼなくすことができる。
【0007】
しかし、特許文献1のパージエア流路構造を有する放射温度計(パイロメータ)を実際に製作し、ジェットエンジンに搭載して試験した結果、集光レンズにコンタミが付着することによって計測される放射光強度が短時間(例えば数十時間)に低下し、計測温度が実際の温度よりも低下し、大きな温度計測誤差が生じる問題点が明らかとなった。
すなわち、特許文献1のパージエア流路構造では、レンズ表面に吹き付けるパージエア中の塵埃(コンタミ)を大幅に低減はできるが、コンタミの付着とその堆積は防止できなかった。
【0008】
本発明は、上述した問題点を解決するために創案されたものである。すなわち、本発明の目的は、受光窓に吹き付けるパージエア中の塵埃(コンタミ)の受光窓への付着と堆積を長時間防止でき、これにより放射温度計の計測精度を低下させずに長時間(例えば数百時間)の連続使用を可能にする放射温度計のパージエア流路構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、対象物の放射光を検出する光検出器を内蔵し、該光検出器の正面に対象物の放射光を透す受光窓を有する円筒形の放射温度計の受光窓表面にパージエアを供給し、その表面を洗浄するためのパージエア流路構造であって、
対象物、受光窓及び光検出器を結ぶ放射光の光軸に沿って放射光を通す中空円筒形のサイトチューブと、該サイトチューブの末端に連結し、前記放射温度計を内部に収容する中空の外枠とからなるプローブ本体と、
放射温度計の周囲を囲み、前記外枠と放射温度計の隙間を通して、プローブ本体の外枠からサイトチューブまでパージエアを流す中空円筒形のノズル部材と、を備え、
該ノズル部材は、パージエアを受光窓表面に沿って一方向に流入させる洗浄ノズルを有する、ことを特徴とする放射温度計のパージエア流路構造が提供される。
【0010】
本発明の好ましい実施形態によれば、前記ノズル部材は、放射温度計の周囲を気密に囲み、受光窓の軸方向内側から外側まで延びる中空円筒部と、該中空円筒部の軸方向両端部に位置し半径方向外方に延び外縁が外枠内面に気密に密着する内側及び外側の鍔部とを有し、
前記洗浄ノズルは、受光窓表面の前面に位置する前記鍔部の中間位置に設けられている。
【0011】
また、前記洗浄ノズルは、受光窓表面外縁に沿って延びる矩形開口であり、該開口寸法は、受光窓表面におけるパージエアのせん断応力が500Pa以上になるように設定されている。
【0012】
さらに、前記ノズル部材は、前記洗浄ノズルと内側鍔部の間に設けられ、パージエアを内方に流入させる排気ノズルと、前記洗浄ノズルと外側鍔部の間に設けられ、パージエア中の塵埃を捕集するフィルタ部とを有する。
【発明の効果】
【0013】
上記本発明の構成によれば、プローブ本体の外枠からサイトチューブまでパージエアを流す中空円筒形のノズル部材が、パージエアを受光窓表面に沿って一方向に流入させる洗浄ノズルを有するので、洗浄ガス(パージエア)同士の衝突が無く,洗浄ガスがレンズ面(受光窓表面)に沿うように広範囲かつ高速で流れるため、レンズ洗浄効果が向上することがCFD解析結果と実験により確認された。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の好ましい実施形態を図面を参照して説明する。なお各図において、共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明は省略する。
【0015】
図1は、本発明のパージエア流路構造を備えた放射温度計の構成図である。この図において、(A)は全体断面図、(B)は(A)のB−B線における概略断面図である。
【0016】
図1(A)において、10は円筒形の放射温度計であり、対象物(図示せず)の放射光1を検出する光検出器12を内蔵し、光検出器12の正面に対象物の放射光1を透す受光窓14を有する。受光窓14は、この例では凸レンズであるが、両面が平らな平面ガラスであってもよい。
図示しない対象物は、例えばガスタービンエンジンのタービン翼である。なお本発明において対象物は、タービン翼に限定されず、高温で作動し、放射温度計で表面温度を測定する対象物であればよい。
【0017】
本発明のパージエア流路構造20は、円筒形の放射温度計10の受光窓表面にパージエア2を供給し、その表面を洗浄するためのパージエア流路構造である。この図において、本発明のパージエア流路構造20は、プローブ本体22とノズル部材24を備える。
【0018】
プローブ本体22は、サイトチューブ23aと外枠23bとからなる。
サイトチューブ23aは、対象物、受光窓14及び光検出器12を結ぶ放射光1の光軸Z−Zに沿って放射光1を通す中空円筒形の管である。
外枠23bは、サイトチューブ23aの末端(図で右端)に連結し、放射温度計10を内部に収容する中空の枠体である。外枠23bの中間位置には、外部からパージエア2を供給するエア供給管23cが設けられている。このエア供給管23cの位置は、後述する外側鍔部27bとフィルタ部29の間である。
【0019】
ノズル部材24は、全体が中空円筒形であり、放射温度計10の周囲を囲み、外枠23bと放射温度計10の隙間を通して、プローブ本体22の外枠23bからサイトチューブ23aまでパージエア2を流す機能を有する。
また、図1(B)に示すように、ノズル部材24は、パージエア2を受光窓表面に沿って一方向に流入させる洗浄ノズル25を有する。
【0020】
図1(A)(B)において、ノズル部材24は、中空円筒部26と内側及び外側の鍔部27a,27bを有する。
中空円筒部26は、放射温度計10の周囲を気密に囲み、受光窓14より軸方向内側から外側まで延びる。
内側及び外側の鍔部27a,27bは、中空円筒部26の軸方向両端部に位置し、半径方向外方に延び、外縁が外枠22の内面に気密に密着する。
上述した洗浄ノズル25は、受光窓表面の前面に位置する鍔部27a,27bの中間位置に設けられている。
【0021】
洗浄ノズル25は、この例において、受光窓14の表面外縁に沿って延びる矩形開口である。またその開口寸法は、受光窓表面におけるパージエアのせん断応力が500Pa以上になるように設定されている。なお、せん断応力が500Pa以上の領域は、ノズル近傍での流速が220m/s以上の領域にほぼ一致する。
【0022】
この例において、ノズル部材24は、さらに、排気ノズル28とフィルタ部29を備える。
排気ノズル28は、洗浄ノズル25と内側鍔部27aの間に設けられ、パージエア2を内方に流入させる。排気ノズル28は、この例では、周方向4箇所に設けられ、半径方向に延びる貫通穴である。
フィルタ部29は、洗浄ノズル25と外側鍔部27bの間に設けられた複数の遮蔽板29a,29b,29cからなり、それぞれ互いに異なる周方向位置に開口30を有し、パージエア中の塵埃を衝突分離により捕集するようになっている。
【0023】
上述した本発明の構成によれば、パージエア中の塵埃を捕集するフィルタ部29を空気流路の上流側に設けたので、パージエア2がフィルタ部29を通過するときに塵埃を捕集することができる。
また、フィルタ部29で捕集できなかった塵埃は、パージエア2と共に排気ノズル28に向かって直進し、その途中で90度転向して洗浄ノズル15に向かうので、洗浄ノズル15近傍において慣性分離により塵埃が除去されるので、レンズ表面に吹き付けるパージエア中の塵埃をほぼなくすことができる。
【0024】
さらに、本発明の構成によれば、ノズル部材24が、パージエア2を受光窓表面に沿って一方向に流入させる洗浄ノズル25を有するので、洗浄ガス(パージエア2)同士の衝突が無く,洗浄ガス2がレンズ面(受光窓表面)に沿うように広範囲かつ高速で流れるため、レンズ洗浄効果が向上することが後述するCFD解析結果と実験により確認された。
【実施例1】
【0025】
図2は、従来例と本発明のパージエア流路構造を示す構成図である。この図において、(A)は従来例、(B)(C)は本発明である。
図2(A)において、左図は、図1(B)に相当する従来例である。この例では、洗浄ノズル25’が周方向に4箇所設けられ、それぞれ接線方向にパージエア2を流入するようになっていた。
図2(B)は、図2(A)の洗浄ノズル25’を本発明の洗浄ノズル25(一方向流入)に変更したものであり、断面積は、洗浄ノズル25、排気ノズル28とも同一である。
図2(C)は、図2(B)と同様の構造であり、洗浄ノズル25と排気ノズル28の断面積がそれぞれ1/2のものである。
【0026】
図2(A)(B)(C)のパージエア流路構造について、入口圧力、出口圧力、および温度条件を同一、すなわちガスタービンエンジンのタービン翼の使用条件に設定して、コンピュータを用いたCFD解析を実施した。
【0027】
図3は、図2(A)の従来例の解析結果を示す図であり、図4は、図2(B)の本発明の第1実施形態の解析結果を示す図であり、図5は、図2(C)の本発明の第2実施形態の解析結果を示す図である。各図において、(A)はレンズ表面の速度分布、(B)は中心断面での速度分布を示している。
【0028】
図3から、従来例の現状機では,洗浄ノズル出口の近傍以外は速度が遅く,レンズ中心部および吹き出し口の間に流れの淀みがあることがわかる。
これに対して、図4の本発明の第1実施形態では,洗浄ガス同士の衝突が無く、洗浄ガスがレンズ面に沿うように広範囲かつ高速(220m/s以上の流速)で流れているため、レンズ洗浄効果が向上することがわかる。
【0029】
また図5の本発明の第2実施形態では、流入口の断面積を小さくした結果、レンズ面での洗浄ガス流速が増加しており,レンズ洗浄効果が向上することがわかる。
【実施例2】
【0030】
上記した洗浄ガスの流速を指標とした洗浄性能の評価方法では、湾曲したレンズ面に沿った流速の抽出が困難であり、またレンズ面からの距離によって流速値自体が変化するため、定量的な評価が難しい。そこで、レンズ表面でのせん断応力を算出することによって、洗浄性能の定量的な評価を試みた。なお、ここで取り上げるせん断応力は壁面極近傍での速度勾配に比例する。せん断応力を指標とすることによって,洗浄性能を直接的に評価できる利点がある。
【0031】
図6は、レンズ面のせん断応力分布の解析結果を示す図である。この図において、(A)は上述した従来例、(B)は上述した本発明の第2実施形態の場合である。なお、各図において、太い破線で囲む領域はせん断応力が500Pa程度以上の領域である。
図6(A)から、従来の現状機においてせん断応力が大きい領域の模様は、運転後に撮影された実機のレンズ汚れ模様とほぼ一致し、コンタミの洗浄が可能な領域はせん断応力が500Pa程度以上の領域であると推定できた。また従来の現状機では洗浄可能である領域がレンズ全面の35%程度と低いことが明らかになった。
これに対して、一方向流入(断面積半分)による本発明の第2実施形態においては,洗浄可能な領域がレンズ全面の80%程度と非常に高くなっており、せん断応力の平均値で2.6倍程度向上することが明らかになった。
【0032】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々に変更することができることは勿論である。たとえば、洗浄ガスが衝突しないように洗浄ノズルの吹き出し口を互い違いにして、上下二方向から流入させてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明のパージエア流路構造を備えた放射温度計の構成図である。
【図2】従来例と本発明のパージエア流路構造を示す構成図である。
【図3】従来例の解析結果を示す図である。
【図4】本発明の第1実施形態の解析結果を示す図である。
【図5】本発明の第2実施形態の解析結果を示す図である。
【図6】レンズ面のせん断応力分布の解析結果を示す図である。
【図7】従来のパージエア流路構造の構成図である。
【符号の説明】
【0034】
1 放射光、2 パージエア(洗浄ガス)、
10 放射温度計、12 光検出器、
14 受光窓(凸レンズ、平面ガラス)、
20 パージエア流路構造、22 プローブ本体、
23a サイトチューブ、23b 外枠、23c エア供給管、
24 ノズル部材、25 洗浄ノズル、26 中空円筒部、
27a 内側鍔部、27b 外側鍔部、
28 排気ノズル、29 フィルタ部、
29a,29b,29c 遮蔽板、30 開口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物の放射光を検出する光検出器を内蔵し、該光検出器の正面に対象物の放射光を透す受光窓を有する円筒形の放射温度計の受光窓表面にパージエアを供給し、その表面を洗浄するためのパージエア流路構造であって、
対象物、受光窓及び光検出器を結ぶ放射光の光軸に沿って放射光を通す中空円筒形のサイトチューブと、該サイトチューブの末端に連結し前記放射温度計を内部に収容する中空の外枠と、からなるプローブ本体と、
放射温度計の周囲を囲み、前記外枠と放射温度計の隙間を通して、プローブ本体の外枠からサイトチューブまでパージエアを流す中空円筒形のノズル部材と、を備え、
該ノズル部材は、パージエアを受光窓表面に沿って一方向に流入させる洗浄ノズルを有する、ことを特徴とする放射温度計のパージエア流路構造。
【請求項2】
前記ノズル部材は、放射温度計の周囲を気密に囲み、受光窓の軸方向内側から外側まで延びる中空円筒部と、該中空円筒部の軸方向両端部に位置し半径方向外方に延び外縁が外枠内面に気密に密着する内側及び外側の鍔部とを有し、
前記洗浄ノズルは、受光窓表面の前面に位置する前記鍔部の中間位置に設けられている、ことを特徴とする請求項1に記載のパージエア流路構造。
【請求項3】
前記洗浄ノズルは、受光窓表面外縁に沿って延びる矩形開口であり、該開口寸法は、受光窓表面におけるパージエアのせん断応力が500Pa以上になるように設定されている、ことを特徴とする請求項1に記載のパージエア流路構造。
【請求項4】
前記ノズル部材は、前記洗浄ノズルと内側鍔部の間に設けられ、パージエアを内方に流入させる排気ノズルと、前記洗浄ノズルと外側鍔部の間に設けられ、パージエア中の塵埃を捕集するフィルタ部とを有する、ことを特徴とする請求項2に記載のパージエア流路構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2010−139349(P2010−139349A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−315212(P2008−315212)
【出願日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】