説明

放射温度計

【課題】放射温度計の標的確認機構において、距離係数が異なる場合にも、同一の対物レンズ、同一の接眼レンズを使用して互換性を有し、標的サイズが小さくなった場合にも視定を簡単に行うことのできる放射温度計を提供することである。
【解決手段】測定対象から放射される赤外線により測定対象の温度を測定する放射温度計のファインダー方式である黒丸方式の標的確認機構において、アパチャミラーの絞り孔の周囲に、標的を視定する際にファインダー視野内で目印となる指標を付加した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、測定対象から放射される赤外線により測定対象の温度を測定する放射温度計に関するもので、特に放射温度計の温度校正を行う標準放射温度計に有用なものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、測定対象である物体から温度センサへの電磁波としての熱の移動(熱放射)が行われ、その電磁波の状態変化を捉えることで、測定対象の温度を求める温度計としてとして放射温度計が知られている。そして、この種の放射温度計の標準体系である標準放射温度計を用いた校正には、亜鉛(419.527℃)、アルミニウム(660.323℃)、銀(961.78℃)、銅(1084.62℃)の定点物質の凝固点を利用した定点黒体が採用されている。
【0003】
標準放射温度計には、以下に説明するように、JIS(日本工業規格)の規定(標題 放射温度計の性能試験方法通則、規格番号 JIS C 1612:2000、以下「JIS C 1612」)により定められた0.9μm形と、0.65μm形の2種類の単色放射温度計が用いられている。
・0.9μm形:測定波長帯域の中心波長が0.85μm〜0.95μmまでの範囲にある単色放射温度計で、中心波長から0.1μm以上離れた波長領域における分光感度が中心波長の2×10−4以下とする。
0.65μm形:測定波長帯域の中心波長が0.64μm〜0.66μmまでの範囲にある単色放射温度計で、中心波長から0.1μm以上離れた波長領域における分光感度が中心波長の1×10−4以下とする。
【0004】
図4はJIS C 1612に記載されている標準用単色放射温度計の構成図である。標準放射温度計1は、接眼レンズ2、レチクル32、減光フィルタ31、リレーレンズ4、偏向ミラー5、アパチャミラー(視野絞り)8及び対物レンズ6を介して測定対象である対象物(不図示)に焦点を合わせる。一方、対象物から出射された測定波長である光(電磁波)が対物レンズ6に集光され、開口絞り7を通してアパチャミラー8上に結像するよう配置されている。アパチャミラー8には、視野を限定する絞り孔8aが開口しており、この絞り孔8aを通過した光のみがコンデンサレンズ9及び干渉フィルタ10を通過し、シリコン検出素子11に導かれる構成である。
【0005】
JIS C 1612の附属書3には、測定物体上の測定が行われる領域である標的の確認機構として、ファインダー方式やマーカ方式などが記載されている。ファインダー方式は図4に示した標準放射温度計のように、放射温度計本体に標的サイズを確認できるファインダーを備えている機構である。ファインダー方式には図5に示すように、指標により(a)黒丸方式、(b)一重円方式および(c)二重円方式がある。黒丸方式は、ファインダーを通して標的を見定める視定をしたときに、標的サイズに相当する部分を図5(a)に示すような指標で視野を黒く覆うことで確認する機構である。
【0006】
黒丸方式は原理的には光軸のずれが発生しない特徴があり、主に標的サイズの小さな放射温度計に使用される。標準放射温度計は開口径が10mm以下の定点黒体炉で校正されるため、標的確認に黒丸方式が採用されている。
【0007】
【非特許文献1】JIS C 1612:2000 放射温度計の性能試験方法通則
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近年、開口径3mm程度の金属‐炭素共晶点を用いた高温黒体炉が開発され、放射温度計の距離係数(Fa:測定距離と標的サイズの比)においては、650(測定距離a=400mmで標的サイズが0.6mmφ)程度が求められている。ここで、距離係数は式(1)で示される。
【数1】

【0009】
距離係数の異なる放射温度計においても、同一の対物レンズ、同一の接眼レンズを使用することがコスト面から望まれている。式(1)より絞り孔8aの径である視野絞り径dを小さくすることで、距離係数の異なる放射温度計に同一の対物レンズ、接眼レンズを使用することは可能であるが、視野絞りdを小さくすることで、ファインダー視野内の黒丸が小さくなり、標的である定点黒体炉の開口部に黒丸を合わせることが困難となるという問題が生じる。
【0010】
また、図4に示すようにレチクルを指標として、接眼レンズを光軸方向に動かして視度を調節する放射温度計がある。この場合には、アパチャミラー8の絞り孔8aにより現れる黒丸とレチクルの両方にピントが合うように視度調節することになり、ファインダー系の組立、調整が困難であるとの課題があった。
【0011】
この発明の目的は、以上の点に鑑み、放射温度計の標的確認機構において、距離係数が異なる場合にも、同一の対物レンズ、接眼レンズを使用して互換性を有し、標的サイズが小さい場合にも視定を簡単に行うことのできる放射温度計を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するため、本発明の請求項1記載の発明は、測定対象から放射される赤外線により測定対象の温度を測定する放射温度計のファインダー方式の黒丸方式の標的確認機構において、アパチャミラーの絞り孔の周囲に、標的を視定する際にファインダー視野内にて目印となる指標を付加したことを特徴とする。
【0013】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の放射温度計において、前記指標がエッチング工程で作製されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
以上の構成により、この発明にかかるによれば、放射温度計の照準において、距離係数が異なる場合に、同一の対物レンズ、接眼レンズからなる光学系を使用して互換性を有しながら、小さな標的サイズへの視定が簡便となる。また、従来用いられてきたレチクルを無くすことで、前述の組立、調整作業の簡便化が図れる。
【0015】
また、視野絞りに付加する指標を、絞り孔と同じエッチング工程で作製することで製造コストの増加を抑制できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、この発明の実施の形態を図1、図2および図3で説明する。図1、図2は、この発明の実施形態を示す図で、アパチャミラーの対物レンズ側に対向する面の図である。図3は、実施形態におけるファインダー視野を説明する図である。
【0017】
図1はこの発明の一実施形態を示す図で、図1(a)は、アパチャミラー8の絞り孔8aの周囲に楕円形の指標81を設けた図を示している。図1(b)は図1(a)のA−A断面を拡大した図である。指標81は溝で、楕円が絞り孔8aの周囲に形成されている。絞り孔8aと指標81は、ファインダー視野内にて円形となるように、アパチャミラー8の傾斜角に応じた楕円形となっている。
【0018】
図2はこの発明の他の実施形態を示す図で、図2(a)はアパチャミラー8の絞り孔8aの周囲に線状の指標82を4本設けた図を示している。図2(b)は図2(a)のA−A断面を拡大した図である。指標82は4本の溝で、直線状に絞り孔8aの周囲に形成されている。図1と同様に絞り孔8aは、アパチャミラー8の傾斜角に応じた楕円形の孔であり、図2(a)中の4本の指標の内、上下2本の指標は左右2本の指標よりも、傾斜角に応じて長く形成されている。
【0019】
図1、図2に示す指標81、82を、絞り孔8aの周囲に設けることで、図3に示すような目印が黒丸指標の周囲に現れ、同一面内に目印となる指標81、82と黒丸となる絞り孔8aが形成されているので、標的の視定が簡便となる。図3(a)は図1のアパチャミラー8を用いた場合の視野であり、図3(b)は図2のアパチャミラー8を用いた場合のファインダー視野を示している。アパチャミラー8の絞り孔8aは黒丸となり、指標81、82では、入射光が散乱して黒い線の円あるいは黒い4本の線となって観察される。傾斜角に応じて、絞り孔8aと指標81を楕円とし、4本の指標82の上下2本、左右2本の長さが異なるので、ファインダー視野内では、円形の黒丸、円形の指標あるいは長さの等しい4本の線として観察される。
【0020】
上述した指標81、82はエッチング工程やブラスト工程などによって形成することができる。通常のアパチャミラー8は薄いステンレス板製であり、絞り孔8aは高い加工精度を要求されるので、エッチング工程で形成されることから、同じエッチング工程で指標81、82を形成することで製造コストを抑制することができる。
【0021】
図1、図2ともに溝状の指標を示したが、印刷などにより凸部の指標を形成しても良い。すなわち、絞り孔8aの周囲に設ける指標の形状や数は、指標が形成されるアパチャミラー8の対物レンズに対向する面に入射した光が、散乱して視野内で標的視定の目印となれば良い。
【0022】
このように上述した放射温度計は、測定対象から放射される赤外線により測定対象の温度を測定する放射温度計のファインダー方式の黒丸方式の標的確認機構において、アパチャミラーの絞り孔の周囲に、標的を視定する際にファインダー視野内で目印となる指標を付加したことにより、放射温度計の照準において、距離係数が異なる場合に、同一の対物レンズ、接眼レンズからなる光学系を使用して互換性を有しながら、小さな標的サイズへの視定が簡便となる。
【0023】
以上、本願発明における最良の形態について説明したが、この形態による記述及び図面によりこの発明が限定されることはない。すなわち、この形態に基づいて当業者等によりなされる他の形態、実施例及び運用技術等はこの発明の範疇に含まれることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】この発明の実施形態を説明する図である。
【図2】この発明の他の実施形態を説明する図である。
【図3】この発明の実施形態におけるファインダー視野を説明する図である。
【図4】標準放射温度計の構成説明図である。
【図5】ファインダー方式の指標を示す図である。
【符号の説明】
【0025】
1 放射温度計
2 接眼レンズ
31 減光フィルタ
32 レチクル
4 リレーレンズ
5 偏向ミラー
6 対物レンズ
7 開口絞り
8 アパチャミラー(視野絞り)
8a 絞り孔
81、82 指標
9 コンデンサレンズ
10 干渉フィルタ
11 シリコン検出素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象から放射される赤外線により測定対象の温度を測定する放射温度計のファインダー方式である黒丸方式の標的確認機構において、アパチャミラーの絞り孔の周囲に、標的を視定する際にファインダー視野内にて目印となる指標を付加したことを特徴とする放射温度計。
【請求項2】
前記指標がエッチング工程で作製されたことを特徴とする請求項1記載の放射温度計。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−263929(P2007−263929A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−93336(P2006−93336)
【出願日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【出願人】(000133526)株式会社チノー (113)
【Fターム(参考)】