説明

放射線傷害から皮膚を保護する方法

本発明は、電離放射線治療を受けている患者において、電離放射線の望ましくない副作用から皮膚および粘膜を保護する方法、およびそのための組成物に関する。特に、本出願は、Nrf2誘導物質の局所使用を含む方法およびその組成物を開示する。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
皮膚は、酸化的傷害、熱、寒さ、紫外線、怪我およびメカニカルストレス等を含む外的環境の変化に常に曝されている。最終分化したケラチノサイトからなる角質層は、水分の損失を防ぎ、感染性病原体(例えば、細菌、ウイルス)、小さな物体(例えば、粒子)、および幅広い種類の水溶性化学物質の侵入を防ぐ天然のバリアを構成している。
【0002】
本発明は、放射線を含む外部からによる傷害から皮膚および粘膜を保護する方法に関する。
【発明の概要】
【0003】
この目的のために、本発明は、電離放射線治療を受ける患者において皮膚および粘膜を保護する方法を提供するものであって、この方法は、治療上有効な量のNrf2誘導物質を含む組成物を電離放射線に曝される患者の身体の領域および周辺領域に局所投与することを含む。この処置を受ける患者は、短期または長期の電離放射線治療の影響を受けていてよい。本発明の一態様では、患者は、急性紅斑、皮膚刺激、炎症、浮腫、落屑、皮膚の壊死、口内のひりひりする痛みおよび潰瘍、疼痛、線維症、毛細血管拡張症、口腔乾燥症、眼球乾燥症、膣または直腸粘膜の乾燥および刺激、黒色腫、乳癌、胃癌、肺癌または甲状腺疾患に罹患していてよい。本発明のもう一つの態様では、この処置を受ける患者は症状がなくてもよい。
【0004】
さらなる実施形態では、電離放射線治療を受ける患者において皮膚および粘膜を保護する方法は、電離放射線に曝される患者の身体の領域および周辺領域に治療上有効な量の第2相酵素誘導物質を含む組成物を局所投与することを含む。一実施形態では、第2相誘導物質は、イソチオシアネートである。好ましい実施形態では、第2相酵素誘導物質は、スルホラファンである。もう一つの好ましい実施形態では、第2相酵素誘導物質は、スルホラファン合成類似体である。スルホラファン類似体は、6−イソチオシアナト−2−ヘキサノン、エキソ−2−アセチル−6−イソチオシアナトノルボルナン、エキソ−2−イソチオシアナト−6−メチルスルホニルノルボルナン、6−イソチオシアナト−2−ヘキサノール、1−イソチオシアナト−4−ジメチルホスホニルブタン、エキソ−2−(1’−ヒドロキシエチル)−5−イソチオシアナトノルボルナン、エキソ−2−アセチル−5−イソチオシアナトノルボルナン、1−イソチオシアナト−5−メチルスルホニルペンタン、シス−3−(メチルスルホニル)シクロヘキシルメチルイソチオシアネートおよびトランス−3−(メチルスルホニル)シクロヘキシルメチルイソチオシアネートからなる群から選択され得る。
【0005】
さらに別の実施形態では、Nrf2誘導物質はグルコシノレートである。さらなる実施形態では、組成物は、電離放射線治療の前、間、または後に患者に投与される。
【0006】
さらなる実施形態では、本発明は、皮膚への局所適用のための組成物を提供するものであって、この組成物は、治療上有効な量のNrf2誘導物質と、送達に適した媒体(ビヒクル)とを含む。Nrf2誘導物質の局所送達に適したビヒクルとしては、ホホバ油および月見草油が挙げられる。
【0007】
好ましくは、組成物中のNrf2誘導物質は、第2相酵素誘導物質である。より好ましくは、第2相誘導物質は、イソチオシアネートである。さらにより好ましくは、第2相酵素誘導物質は、スルホラファンまたはスルホラファン合成類似体である。スルホラファン類似体は、6−イソチオシアナト−2−ヘキサノン、エキソ−2−アセチル−6−イソチオシアナトノルボルナン、エキソ−2−イソチオシアナト−6−メチルスルホニルノルボルナン、6−イソチオシアナト−2−ヘキサノール、1−イソチオシアナト−4−ジメチルホスホニルブタン、エキソ−2−(1’−ヒドロキシエチル)−5−イソチオシアナトノルボルナン、エキソ−2−アセチル−5−イソチオシアナトノルボルナン、1−イソチオシアナト−5−メチルスルホニルペンタン、シス−3−(メチルスルホニル)シクロヘキシルメチルイソチオシアネートおよびトランス−3−(メチルスルホニル)シクロヘキシルメチルイソチオシアネートからなる群から選択され得る。
【0008】
もう一つの実施形態では、Nrf2誘導物質は、グルコシノレートである。好ましくは、局所投与のための組成物は、軟膏、クリーム、エマルション、ローション、ゲルまたは日焼け止め剤の形態である。
【0009】
前述の発明の概要ならびに後述の図面の簡単な説明および発明を実施するための形態は、例示的なものであり、説明のためのものであって、特許請求の範囲に記載した本発明のさらなる説明を提供することを意図するものである。その他の目的、利点、および新規な特徴については、当業者であれば後述する記載から明らかになろう。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】PEネズミケラチノサイト(A)およびヒトHaCaTケラチノサイト(B)中のスルホラファン濃度に対して、キノンレダクターゼ(NQO1)の誘導およびGSHの上昇を示すグラフである。細胞(1穴当たり20,000個)を、96穴プレートに蒔き、一連の濃度のスルホラファンに曝露した。細胞可溶化物中のGSHおよびNQO1レベルをそれぞれ24時間後および48時間後に測定した。各々のデータポイントは、8つの異なる穴の測定値の平均を表す。標準偏差は、全てのデータポイントについて<5%であった。
【図2】UVA線によって生成する反応性酸素中間体に対して、PEネズミケラチノサイト中のスルホラファンによりもたらされる保護を示すグラフである。細胞(1穴当たり50,000個)を、24穴プレートに蒔き、5μMスルホラファンで24時間処理し、DPBSで洗浄し、次いでUVAに曝露した(10J/cm)。紫外線により生成された反応性酸素中間体を蛍光プローブ2’,7’−ジクロロジニトロフルオレセインにより定量し、蛍光強度を測定した(曝露細胞の非曝露細胞に対する比として表す)。
【図3】健康なヒトボランティアのヒト皮膚において100nmolスルホラファンの単回局所投与によるキノンレダクターゼ(NQO1)の誘導の経時的推移を示す図である。
【図4】24時間間隔で50nmolのスルホラファンを3回局所投与することによる、健康なヒトボランティアのヒト皮膚におけるNQO1の誘導を示す図である。
【図5】γ−インターフェロンまたはリポ多糖類で刺激したRAW264.7細胞における(A)NO産生ならびにiNOS mRNA(B)およびタンパク質(C)誘導への、スルホラファンにより引き起こされる阻害を示す図である。細胞を、様々な濃度のスルホラファンと、IFNγ(10ng/ml)またはリポ多糖(LPS;3ng/ml)のいずれかで24時間処理した。培地中のNOを亜硝酸塩としてGriess反応(A)により測定し、iNOS誘導をノーザンブロッティング(B)およびウエスタンブロッティング(C)により検出した。
【図6】ハイリスクマウスにおいてUVB線により誘導される皮膚発癌のスルホラファンによる阻害を示す図である。
【図7】スルホラファンの経皮投与によるハイリスクマウスにおける全体的な腫瘍量の阻害を示すグラフである。腫瘍量は、リスクのある動物の数で除算した全ての腫瘍の全容積(mm)として表される。平均値±SEが示される。腫瘍容積を対数変換すると(処置時間を入れ子式変数として用いる濃度のANOVA)、劇的かつ極めて有意な濃度(処置)効果があった(p<0.0027)。
【図8】小型腫瘍(<1cm、白色棒)および大型腫瘍(>1cm、黒色棒)の多重度へのスルホラファンの影響を示すグラフである。保護具またはビヒクルでの処置後11週間に、対照群での腫瘍発生率は100%であり、実験を停止した。同じ日に全てのマウスを安楽死させ、腫瘍サイズを測定した。低用量の0.3μmolスルホラファン、高用量の1.0μmolスルホラファンを毎日、週5回、これらの動物の背側に投与した。
【図9】スルホラファンの食餌投与を受けているハイリスクマウスにおける腫瘍発生率(腫瘍をもつマウスの率)を示すグラフである。対照群は円として表され、低用量群は四角形として表され、高用量群は三角形として表される。低用量および高用量グルコラファニンを与えられている動物における腫瘍発生率は、対照群と比較して、それぞれ25%および35%減少した。
【図10】スルホラファンの食餌投与を受けているハイリスクマウスにおける腫瘍多重度(1匹のマウス当たりの腫瘍の数)を示すグラフである。対照群は円として表され、低用量群は四角形として表され、高用量群は三角形として表される。腫瘍多重度は、対照群と比較して、それぞれ47%および72%減少した。
【図11】スルホラファンの食餌投与を受けているハイリスクマウスにおいて、1匹のマウス当たりの腫瘍量(全腫瘍容積)を示すグラフである。対照群は円として表され、低用量群は四角形として表され、高用量群は三角形として表される。低用量および高用量グルコラファニン処置は両方ともに、対照群と比較して1匹のマウス当たりの全腫瘍容積の70%阻害という結果となった。
【図12】311nm紫外線の浮腫および炎症作用に対して、スルホラファンおよびスルホラファンに富むブロッコリースプラウト抽出物によりもたらされるマウス皮膚の保護を示す図である。SKH−1無毛マウスの背側を、24時間間隔で3用量の:(i)50μlの80%アセトン/20%水(vol/vol)中0.5μmolのスルホラファンを含有するブロッコリースプラウト抽出物を尾側部位に、および(ii)頭側部位に投与される溶媒、を用いて局所的に処置した。700mJ/cmの311nmUV照射を最終用量から24時間後に受けた動物を24時間後に安楽死させ、それらの背側の皮膚を採取した。(A)9μm厚の皮膚の新鮮凍結切片をパラホルムアルデヒドに固定して、H&Eで染色した(スケールバー100μm)。(B)マウスを一連の範囲の線量の紫外線で照射し、24時間後に安楽死させた。(C)液体窒素凍結し、微粉砕した背側の皮膚から調製した全ホモジネートの上清画分においてMPO特異的活性を測定し、そのタンパク質レベルを抗MPO抗体(Hycult Biotechnology,Uden,The Netherlands)を用いてウエスタンブロットにより検出した。タンパク質レベルの均一性を、並行ゲルのクーマシーブルー染色により確認した(データは示さず)。(DおよびE)MPO特異的(D)およびNQO1特異的(E)活性を、溶媒(黒色棒)、スルホラファン(灰色棒)、およびブロッコリースプラウト抽出物(白色棒)で処置したマウス由来全皮膚ホモジネートの上清画分において測定し、非照射対照に対する各々の処置の比として表した。平均値±SDが示される。8匹の動物を対照群に用い、4匹を各々の処置群に用いた。スルホラファンかまたはブロッコリースプラウト抽出物による処置は、UV照射に誘導されるMPO上昇(スルホラファン、P=0.005;ブロッコリースプラウト抽出物、P=0.001)、およびUV照射により低下したNQO1レベルの回復(スルホラファン、P=0.003;ブロッコリースプラウト抽出物、P=0.00001)に対して同等の保護をもたらした。
【図13】紅斑の強さが紫外線量に線形に依存することを示す図である。(A)接着性のビニル鋳型(adhesive vinyl templates)を胸後部の傍脊柱部に置いた。開口部は直径2.0cmであり、個々に閉鎖して一連の範囲の紫外線量をもたらすことができる。連日同じ位置に正確に鋳型を置くために、各鋳型の四隅にある小さな穴の位置に皮膚マーカーを用いて印を付ける。(B)紫外線量の関数としての紅斑の強さ。紅斑の値(a)を、100〜800mJ/cmの311nm紫外線への曝露直前および曝露後24時間の男性被験者の背側の直径2.0cmの円で測定した。2対の隣接するスポットを各紫外線量に割り当てた。照射後のa値の平均変化を(黒円)、重複した値の範囲を示すバーとともに示す。照射前の16スポット全ての平均a値は、6.22±1.91(CV=30.7%)であった。紫外線量に関するa値の増分の線形相関係数(r)は、0.986である。
【図14】311nmUV照射により引き起こされる紅斑に対して、スルホラファンに富むブロッコリースプラウト抽出物によりもたらされるヒト皮膚の保護を示す図である。(A)一連の範囲のスルホラファン用量を用いる男性ボランティアの局所処置による皮膚紅斑発生の阻害。直径2.0cm円形スポットに、100、200、400、または600nmolのスルホラファンを、25μlの80%アセトン/20%水中ブロッコリースプラウト抽出物として24時間間隔で3日間与えた。対照スポットに、25μlの溶媒のみを与えた。aの比色計測定値は、500mJ/cmの紫外線を用いる照射の4日前および照射の24時間後に得た。照射前の溶媒処置部位の4日間の平均a値は、6.70±1.16であった。紅斑形成の阻害(%)は、[a(未処置)−a(処置)/a(未処置)]×100から計算した。未処置の値(ゼロ線量)は、25μlの、400nmolの加水分解されていないグルコラファニン(スルホラファンの不活性グルコシノレート前駆体)を含有する80%アセトン/20%水中ブロッコリースプラウト抽出物を与えた2つの領域の増分から計算した。(B)100、200、400、または600nmolの用量のスルホラファンを(ブロッコリースプラウト抽出物として)、あるいは溶媒のみを投与された個体(Aと表す)の4対のスポットの写真。(C)スルホラファン含有ブロッコリースプラウト抽出物を用いる局所処置の、一連の範囲の線量の紫外線への紅斑応答への効果。16窓の鋳型を用いて、水平に隣接するスポット対を、25μlの80%アセトン/20%水中200nmolのスルホラファンかまたは溶媒のみのいずれかを用いて3日連続で24時間間隔で処理し、24時間後に100〜800mJ/cmの紫外線を照射した。各スポットのa値の増分を、UV照射前のそれらの4日間の平均に関して、紫外線量の関数としてプロットする。視覚的に決定される最小紅斑線量は600mJ/cmであった。(D)500、600、または700mJ/cmの紫外線を受けた、ブロッコリースプラウト抽出物で処置したスポットおよび溶媒で処置したスポットの対の写真。この被験者に関する完全なセットの減少率は、表1に示される(被験者2)。
【発明を実施するための形態】
【0011】
電離放射線治療または放射線治療は、悪性腫瘍の治療によく使用される。電離放射線は、脳、乳、子宮頸部、喉頭、肺、膵臓、前立腺、皮膚、脊椎、胃、子宮の癌および軟部組織肉腫をはじめとするほとんどあらゆる種類の固形腫瘍において、癌細胞を死滅させ、腫瘍を収縮させるために用いることができる。また、放射線を用いて白血病およびリンパ腫を治療することもできる。放射線治療は、腫瘍もしくは症状の開放を局所管理するための治療法がない場合の対症療法として、または患者の寿命を伸ばすための治療上の処置として用いられ得る。全身照射は骨髄移植の前に行われる。一部の例では、放射線治療は、非悪性状態、例えば三叉神経痛、甲状腺眼疾患、翼状片およびケロイド瘢痕増殖または異所性骨化の予防の処置に用いられる。大きな腫瘍または進行した腫瘍の処置に対する反応性を増大させるために、温熱療法すなわち深部組織加熱が放射線と併用して用いられる場合が多い。
【0012】
放射線治療は、そのDNAを破壊し、シグナル伝達経路を変更し、かつアポトーシスを誘導することにより標的組織の細胞を破壊する。電離放射線は、比較的広い面積に放射線を与えることのできる、X線およびγ線を含む電磁線(光子)と、ごく短い距離だけ組織に透過することのできる微粒子線(粒子ビームとも呼ばれる)、例えば電子、陽子、および中性子などからなる。標的組織への放射線量は、癌の種類および位置を含む多数の要因に依存する。次に、放射線に対する細胞の応答は、数ある中でも放射線の種類および線量ならびに組織の感受性に依存する。理想としては、放射線は、正常細胞への影響は最小限に、腫瘍細胞の死滅を対象とするものでありたい。にもかかわらず、放射線治療の間の電離放射線は、癌組織だけでなく健常器官および組織にも影響を及ぼす。
【0013】
放射線治療は、皮膚紅斑、刺激作用および炎症を含む短期副作用、ならびに中期および長期副作用、例えば浮腫、疼痛、線維症および拡張型表層血管(dilated superficial blood vessels)(毛細血管拡張症)に関連する場合が多い。乳房切除術の後の胸壁の処置、頭頚部腫瘍および皮膚腫瘍のための放射線治療は、急性反応ならびに皮膚および粘膜への重度のダメージを引き起こす可能性がある。皮膚反応は、急性紅斑から落屑および壊死まで様々であり得る。同様に、口、咽頭、食道、気管、腸、膀胱および直腸内の粘膜はダメージを受ける可能性がある。口内のひりひりする痛みおよび潰瘍は電離放射線で治療を受けた後の患者に共通する症状である。放射線の急性効果は唾液または粘液を産生する付属腺で感じられるが、副作用には口腔乾燥症(口渇)、眼球乾燥症(ドライアイ)および膣粘膜の乾燥も含まれる。
【0014】
長期合併症は、一般により高用量の放射線(35グレイ以上)で起こる。数ヶ月または数年の経過中に発症し得る遅発性副作用には、結合組織の増加に起因する組織の瘢痕、続発性癌、例えば放射線領域に隣接する身体領域で発症する胸、胃、肺および黒色腫など、および甲状腺疾患が挙げられる。
【0015】
身体の深部器官、例えば肝臓、肺、膵臓、卵巣、直腸、前立腺、胸および胃などの進行性腫瘍または大型腫瘍は、電離放射線に加えて温熱療法または加温を必要とする場合が多い。癌組織は通常深部組織を43℃〜50℃の範囲の温度に曝すことにより破壊され、皮膚の熱傷を引き起こす。
【0016】
放射線治療の細胞毒性効果は、DNAのイオン化、ならびに、細胞、タンパク質およびDNAに損傷を与え得る、スーパーオキシドアニオンラジカル、過酸化水素およびヒドロキシルラジカルを含む活性酸素種(ROS)の産生を引き起こす、電子のエネルギーレベルの増加に関連している。
【0017】
宇宙旅行者も透過性電離放射線に曝露される。宇宙放射線には、陽子および高質量(H)、高原子番号(Z)および高エネルギー(E)粒子(HZE粒子)放射線が含まれる。宇宙放射線により引き起こされる損傷は、放射線曝露の時点で起こる。
【0018】
本発明者らは、哺乳類において、特に放射線治療、温熱療法または宇宙放射線に曝露されたヒトにおいて、電離放射線に曝露された皮膚および粘膜の領域ならびに周辺領域へのNrf2誘導物質の局所適用が、皮膚および粘膜の機械的回復力を著しく向上させ、かつ、皮膚および粘膜損傷を防止または減少させることを見出した。特に、放射線治療の前、間または後に医薬上有効量のスルホラファンを局所投与すると、皮膚および粘膜への短期および長期損傷に対して効果的な保護が得られる。
【0019】
本発明の目的において、用語「患者」は動物を意味する。本発明の好ましい態様では、患者は哺乳類である。本発明の最も好ましい態様では、哺乳類はヒトである。
【0020】
皮膚または粘膜への損傷または皮膚もしくは粘膜の障害は、本文脈で用いられるように、当業者に明らかであるはずであり、放射線治療が損傷または障害の病因に関与している皮膚および粘膜のあらゆる異常を含むことが意図される。本発明を用いることのできる損傷または疾患の例としては、好ましくは、限定されるものではないが、急性紅斑、皮膚刺激、炎症、浮腫、落屑、皮膚の壊死、口内のひりひりする痛みおよび潰瘍、疼痛、線維症、毛細血管拡張症、口腔乾燥症、眼球乾燥症、膣粘膜の乾燥、乳癌、胃癌、肺癌、黒色腫および甲状腺疾患が挙げられる。
【0021】
本発明により想定される治療は、既存の状態をもつ患者または皮膚もしくは粘膜疾患の素因のある患者に使用することができる。さらに、本発明の方法は、患者において放射線治療の症状を軽減するため、または、患者において予防処置として用いることができる。
【0022】
本明細書において、「医薬上有効量」は、臨床的に有意な細胞応答を誘起するために有効な量を意味することが意図される。
【0023】
転写因子NF−E2−関連因子2(Nrf2)は、転写因子のCNC(Cap−N−Collar)ファミリーに属し、高度に保存された塩基性領域−ロイシンジッパー(bZip)構造を有する。Nrf2は、防御酵素をコードする第2相遺伝子として一般に公知の抗酸化剤および解毒遺伝子の構成的および誘導的発現の重要な役割を果たし、防御酵素には、薬剤代謝酵素、例えばグルタチオンS−トランスフェラーゼ、NADP(H):キノンオキシドレダクターゼおよびUDP−グルクロノシルトランスフェラーゼなど、ならびに酸化および生体異物ストレスに応える抗酸化剤酵素、例えばヘムオキシゲナーゼ−1(HO−1)および−グルタミルシステインシンセターゼ(GCS)などが含まれる(Braun et al.,2002;Fahey et al.,1997;Fahey and Talalay,1999;Holtzclaw et al.,2004;Motohashi and Yamamoto,2004)。これらの酵素は、抗酸化剤応答配列(ARE)または求電子剤応答配列(EpRE)と呼ばれるプロモーターによって調節される。第2相遺伝子は、反応性酸素または窒素種(ROSまたはRNS)の除去、求電子剤の解毒および細胞内還元電位の維持を含む、細胞防御機構を担う(例えば、Holtzclaw et al.,2004;Motohashi and Yamamoto,2004)。
【0024】
Nrf2は通常、Keap1と呼ばれるアクチン結合性調節タンパク質によって細胞の細胞質中に隔離されている。細胞が酸化的または求電子性のストレスに曝されると、Keap1−Nrf2複合体は立体構造変化を受け、Nrf2が複合体から遊離し、核内に放出される。活性のあるNrf2は小さなMafタンパク質と二量体化し、AREに結合し、第2相遺伝子転写を活性化させる(Braun et al.,2002;Motohashi and Yamamoto,2004)。
【0025】
第2相酵素の誘導は、発癌および変異誘発性から保護し、細胞の抗酸化性能を促進するという証拠が増えてきている(Fahey and Talalay,1999;Iida et al.,2004)。これまで、9つのクラスの第2相酵素誘導物質が同定された:1)ジフェノール、フェニレンジアミンおよびキノン;2)Michael受容体;3)イソチオシアネート;4)ヒドロペルオキシドおよび過酸化水素;5)1,2−ジチオール−3−チオン;6)ジメルカプタン;7)三価ヒ素剤;8)二価重金属;および9)カロテノイド、クルクミンおよび関連ポリエン(Fahey and Talalay,1999)。これらの第2相酵素誘導物質は、直接の抗酸化薬とは違って、酸化還元反応中に化学量的に消費されず、作用の持続時間が長く、直接的な抗酸化薬、例えばトコフェロールおよびCoQなどの機能を補助し、強力な抗酸化薬であるグルタチオンの合成を促進するので、非常に効果的な抗酸化薬であると考えられる(Fahey and Talalay,1999)。
【0026】
利尿薬であるエタクリン酸(EA)、求電子性Michael受容体であるオルチプラズ、およびイソチオシアネートであるスルホラファンは、免疫刺激マクロファージ由来の、炎症性疾患の病因に関与する炎症促進性タンパク質である、高移動度群ボックス1(HMGB1)のリポ多糖(LPS)に誘導される分泌を阻害することが示されている(Killeen et al.,2006)。オルチプラズは、肝臓および膀胱において発癌物質解毒を促進することにより発癌を抑制する(Iida et al.,2004)。創傷皮膚を含む損傷組織および炎症組織の酸化ストレスに対するケラチノサイト増殖因子(KGF)の細胞保護作用は、皮膚の創傷修復の間のNrf2のKGF刺激に関連している(Braun et al.,2002)。
【0027】
主にアブラナ科の野菜に由来するイソチオシアネートは、第2相酵素の活性化による腫瘍の化学防御、発癌物質活性化第1相酵素の阻害およびアポトーシス誘導において、強力な抗酸化薬であり、効果的な薬剤である(Hecht,1995;Zhang and Talalay,1994;Zhang et al,1994)。イソチオシアネートは、β−チオグルコシド−N−ヒドロキシ硫酸塩であり、捕食者による野菜の冷浸、食品調製または咀嚼により、結果として起こる酵素ミロシナーゼの活性化および放出とともに細胞の破壊が引き起こされる時に、植物においてグルコシノレートの加水分解から形成される。結果として得られるアグリコンは、非酵素的分子内転位を受けて、イソチオシアネート、ニトリルおよびエピチオニトリルを生じる。
【0028】
スルホラファンは、スルホラファングルコシノレート(SGS)としても公知のグルコシノレート・グルコラファニンのアグリコン分解産物である。スルホラファンの分子式は、C11NOSであり、その分子量は177.29ダルトンである。スルホラファンは、4−メチルスルフィニルブチルイソチオシアネートおよび(−)−1−イソチオシアナト−4(R)−(メチルスルフィニル)ブタンとしても公知である。スルホラファンの構造式は、
【化1】

である。
【0029】
スルホラファンは近年ブロッコリーにおいて同定され、単離されたネズミ肝細胞癌細胞において強力な第2相酵素誘導物質であることが示され(Zhang et al.,1992)、スプラーグドーリーラットにおいて乳房腫瘍の形成を阻止し(Zhang et al.,1994)、マウス皮膚腫瘍形成の促進を妨げ(Gills et al.,2006;Xu et al.,2006)、ヒト肝細胞癌HepG2細胞においてヘムオキシゲナーゼ−1(HO−1)発現を増加させる(Keum et al.,2006)。スルホラファンはまた、ヒトケラチノサイトにおいて皮膚発癌のプロモーターであるアクチベータータンパク質−1(AP−1)の紫外(UV)光に誘導される活性化を阻害することも示され(Zhu et al.,2004)、スルホラファン抽出物を局所適用すると、マウス皮膚表皮において第2相酵素NAD(P)H:キノンオキシドレダクターゼ1(NQO1)、グルタチオンS−トランスフェラーゼA1およびヘムオキシゲナーゼ1のレベルが増加するという証拠がある(Dinkova−Kostova et al.,2007)。さらに、スルホラファンは、強力な細胞傷害性薬剤であり、かつ強力な突然変異誘発物質および発癌物質である、硫黄マスタードからヒト上皮ケラチノサイトを保護し(Gross et al.,2006)、かつ、細胞増殖を阻害し、アポトーシスを活性化させ、ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)活性を阻害し、かつ、ヒト乳癌細胞において乳癌増殖に関与する主要タンパク質である、エストロゲン受容体−α、上皮成長因子受容体およびヒト上皮成長因子受容体−2の発現を低下させる(Pledgie−Tracy et al.,2007)。さらに、スルホラファンは、ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)をヒト胃異種移植片から根絶させることが示された(Haristoy et al.,2003)。
【0030】
本発明は、上記のように、放射線治療、温熱療法または宇宙放射線により引き起こされる皮膚もしくは粘膜に対する損傷または皮膚もしくは粘膜の障害を予防または治療する方法として、転写因子NF−E2−関連因子2(Nrf2)を誘導する方法に関する。
【0031】
本発明の方法において使用される化合物は、上記のように、Nrf2活性の誘導物質である。
【0032】
イソチオシアネートは、イソチオシアネート(NCS)部分を含有する化合物であり、当業者によって容易に同定できる。イソチオシアネートの例としては、限定されるものではないが、スルホラファンまたはその類似体が挙げられる。イソチオシアネート類似体の説明および調製は、米国再発行特許第36,784号に記載され、参照によりその全文が本明細書に援用される。本発明で使用されるスルホラファン類似体としては、6−イソチオシアナト−2−ヘキサノン、エキソ−2−アセチル−6−イソチオシアナトノルボルナン、エキソ−2−イソチオシアナト−6−メチルスルホニルノルボルナン、6−イソチオシアナト−2−ヘキサノール、1−イソチオシアナト−4−ジメチルホスホニルブタン、エキソ−2−(1’−ヒドロキシエチル)−5−イソチオシアナトノルボルナン、エキソ−2−アセチル−5−イソチオシアナトノルボルナン、1−イソチオシアナト−5−メチルスルホニルペンタン、シス−3−(メチルスルホニル)シクロヘキシルメチルイソチオシアネートおよびトランス−3−(メチルスルホニル)シクロヘキシルメチルイソチオシアネートが挙げられる。
【0033】
イソチオシアネートの前駆体であるグルコシノレートも、本発明により企図される。グルコシノレートは当分野で周知であり、その全内容が参照により本明細書に援用されるFahey et al.,Phytochemistry,56:5−51(2001)に概説されている。
【0034】
本発明により企図されるその他の化合物としては、ケラチノサイト増殖因子(KGF)、オルチプラズ、エタクリン酸、およびそれらの類似体、ならびに、さらなるMichael反応受容体、例えばトリテルペノイドまたは環状/非環状ビスベンジリデンアルカロン(alkalones)が挙げられる。
【0035】
本発明の方法で使用される化合物は、哺乳類への局所投与に適した医薬上許容される賦形剤とともに医薬組成物に処方することができる。そのような賦形剤は当分野で周知である。局所投与には、肺、胃、膣、口および目の表面を含む皮膚または粘膜への投与が含まれる。
【0036】
局所投与の投薬形態としては、限定されるものではないが、軟膏、クリーム、エマルション、ローション、ゲル、日焼け止め剤および表皮内部での浸透を助ける薬剤が挙げられる。好ましい実施形態では、組成物は局所軟膏の形態である。
【0037】
当業者に公知の様々な添加剤を、本発明の局所製剤に含めてよい。添加剤の例としては、限定されるものではないが、可溶化剤、皮膚透過促進剤、防腐剤(例えば、抗酸化剤)、モイスチャライザー、ゲル化剤、緩衝剤、界面活性剤、乳化剤、皮膚軟化薬、増粘剤、安定剤、保湿剤、分散剤および製薬担体が挙げられる。
【0038】
モイスチャライザーの例としては、ホホバ油および月見草油が挙げられる。
【0039】
適した皮膚透過促進剤は当分野で周知であり、例えばメタノール、エタノールおよび2−プロパノールなどの低級アルカノール、ジメチルスルホキシド(DMSO)、デシルメチルスルホキシド(C10MSO)およびテトラデシルメチルスルホキシドなどのアルキルメチルスルホキシド、ピロリドン、尿素、N,N−ジエチル−m−トルアミド、C−Cアルカンジオール、ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMA)およびテトラヒドロフルフリルアルコールが挙げられる。
【0040】
可溶化剤の例としては、限定されるものではないが、例えばジエチレングリコールモノエチルエーテル(エトキシジグリコール、Transcutol(登録商標)として市販されている)およびジエチレングリコールモノエチルエーテルオレエート(Softcutol(登録商標)として市販されている)などの親水性エーテル、ポリオキシ35ヒマシ油、ポリオキシ40水素化ヒマシ油、ポリエチレングリコール(PEG)、特にPEG300およびPEG400などの低分子量PEG、PEG−8カプリル酸/カプリン酸グリセリド(Labrasol(登録商標)として市販されている)などのポリエチレングリコール誘導体、DMSOなどのアルキルメチルスルホキシド、ピロリドン、DMA、およびそれらの混合物が挙げられる。
【0041】
適した製薬担体としては、無毒であって、組成物のその他の成分または皮膚とあまり有害な様式で相互作用しない、当分野で公知のあらゆる当該材料、例えば、あらゆる液体、ゲル、溶媒、液体希釈剤、可溶化剤、ポリマーなどが挙げられる。
【0042】
感染の予防および/または治療は、抗生物質、ならびに様々な抗菌剤および抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノールソルビン酸、および同類のものなどを、本発明の組成物中に含めることによって達成することができる。
【0043】
当業者であれば、本発明の方法で使用される組成物中の薬剤の有効量を経験的に決定することができることを理解する。ヒト患者に投与される場合、本発明の組成物の一日の全使用量は、正しい医学的判断の範囲内で主治医により決定されることは当然理解される。任意の特定患者に関する具体的な治療有効量レベルは、多様な要因、すなわち、達成するべき応答の種類および程度、用いる具体的な組成物の活性、患者の年齢や体重、総合的な健康状態、性別および食事、治療の持続期間、本発明の方法と併用して又は同時に用いる薬剤、ならびに医学分野で周知の同様の要因によって決まる。
【0044】
一般に、患者に局所投与される組成物中のNrf2誘導物質の量は、約100nmol〜約1μmol/cmであり、放射線治療または温熱療法の結果として生じる短期および長期の副作用を防ぐかまたは最小限にするために、組成物は患者の身体の関連部分の上の皮膚に直接適用される。
【0045】
開示される製剤の見込まれる商業用途としては、例えば、(i)保護/予防用途、(ii)化粧品用途および(iii)医学的用途が挙げられる。一実施形態では、油性(スルホラファン)または水性(グルコラファニンに加水分解剤を加えたもの)のいずれかの局所適用のための保護ローションおよびクリームが提供される。もう一つの実施形態では、スルホラファン含有組成物を日焼け止め剤と組み合わせることができる。
【0046】
また、上記のNrf2誘導物質を含む組成物は、経口投与、粘膜投与、皮下投与、筋肉内投与および非経口投与を含む、様々なその他の経路で投与することができ、多様な担体または賦形剤を含んでよい。適した担体としては、限定されるものではないが、無毒の固体、半固体または液体増量剤、希釈剤、カプセル化剤または任意の種類の製剤助剤、例えばリポソームなどを挙げることができる。
【0047】
非経口注射のための組成物は、医薬上許容される滅菌水溶液もしくは非水溶液、分散液、懸濁液またはエマルションならびに使用直前に滅菌注射液または分散液へ再構成するための滅菌粉末を含んでよい。適した水性および非水性担体、希釈剤、溶媒またはビヒクルの例としては、水、エタノール、ポリオール(例えばグリセロール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、および同類のものなど)、カルボキシメチルセルロースおよびそれらの適した混合物、植物油(例えばオリーブ油など)、ならびにオレイン酸エチルなどの注射用有機エステルが挙げられる。適切な流動性は、例えば、レシチンなどのコーティング材料を使用することにより、分散液の場合には所要の粒径を維持することにより、そして界面活性剤を使用することにより維持することができる。本発明の組成物は、アジュバント、例えば、限定されるものではないが、防腐剤、湿潤剤、乳化剤、および分散剤などを含有してもよい。糖、塩化ナトリウム、および同類のものなどの等張剤を含むことも望ましい。注射用医薬品形態の持続的吸収は、吸収を遅らせる薬剤、例えばモノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンなどの封入によりもたらすことができる。
【0048】
一部の例では、薬剤の効果を延長させるために、皮下または筋肉内注射からの吸収を遅らせることが望ましい。これは難水溶性の結晶性または非晶質物質の液体懸濁液を使用することにより達成することができる。その結果薬剤の吸収速度はその溶解速度に依存し、それは次に、結晶の大きさおよび結晶形態に依存し得る。あるいは、非経口投与された薬剤形態の遅延吸収は、薬剤を油性ビヒクルに溶解または懸濁することにより達成される。
【0049】
注射用デポー形態は、薬剤のマイクロカプセルマトリックス(microencapsule matrices)をポリラクチド−ポリグリコリドなどの生分解性ポリマー中に形成することにより製造される。薬剤のポリマーに対する比および用いる特定のポリマーの性質によって、薬剤放出速度を制御することができる。その他の生分解性ポリマーの例としては、ポリ(オルトエステル)およびポリ(無水物)が挙げられる。また、デポー注射用製剤は、生体組織に適合するリポソームまたはマイクロエマルジョン中に薬剤を捕捉することにより調製される。注射用製剤は、例えば、細菌保持フィルタを通して濾過することによるか、または、使用直前に滅菌水またはその他の滅菌注射用媒体に溶解または分散させることのできる無菌固体組成物の形態の滅菌剤を組み込むことにより滅菌することができる。
【0050】
経口投与のための固体投薬形態としては、限定されるものではないが、カプセル剤、錠剤、丸剤、粉剤、および顆粒剤が挙げられる。このような固体投薬形態において、活性化合物は、クエン酸ナトリウムまたは第二リン酸カルシウムなどの医薬上許容される賦形剤もしくは担体、ならびに/または、a)デンプン、ラクトース、スクロース、グルコース、マンニトール、およびケイ酸などの増量剤またはエキステンダー、b)例えば、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸塩、ゼラチン、ポリビニルピロリドン、スクロース、およびアラビアガムなどの結合剤、c)グリセロールなどの保湿剤、d)寒天、炭酸カルシウム、ジャガイモもしくはタピオカデンプン、アルギン酸、特定のケイ酸塩、および炭酸ナトリウムなどの崩壊剤、e)パラフィンなどの溶解遅延剤、f)第四級アンモニウム化合物などの吸収促進剤、g)例えば、アセチルアルコールおよびモノステアリン酸グリセロールなどの湿潤剤、h)カオリンおよびベントナイトクレーなどの吸収剤、およびi)タルク、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、固体ポリエチレングリコール、ラウリル硫酸ナトリウム、およびそれらの混合物などの滑沢剤の少なくとも1つの物品と混合される。カプセル剤、錠剤および丸剤の場合には、投薬形態は緩衝剤を含んでもよい。同様の種類の固体組成物は、ラクトースまたは乳糖のような賦形剤ならびに高分子量ポリエチレングリコールおよび同類のものなどを用いて軟および硬ゼラチンカプセル中で増量剤として用いることもできる。
【0051】
錠剤、糖衣錠、カプセル剤、丸剤、および顆粒剤の固体投薬形態は、コーティングおよびシェル、例えば腸溶コーティングおよびその他のコーティングなど、製薬処方分野で周知の長期放出(extended−release)、持続放出、遅延放出および即時放出コーティングなどを用いて調製することができる。それらは所望により不透明剤を含有してよく、腸管の特定の部分において、有効成分だけを、または優先的に、所望により遅延様式で放出する組成物でもあり得る。使用できる包埋組成物の例としては、ポリマー物質およびワックスが含まれる。また、活性化合物は、適切な場合、1以上の上述の賦形剤とともにマイクロカプセル形態に含まれていてもよい。
【0052】
経口投与のための液体投薬形態としては、限定されるものではないが、医薬上許容されるエマルション、溶液、懸濁液、シロップ剤およびエリキシル剤が挙げられる。活性化合物に加えて、液体投薬形態は、当分野で慣用される不活性希釈剤、例えば、水またはその他の溶媒、可溶化剤および乳化剤、例えばエチルアルコール、イソプロピルアルコール、炭酸エチル、酢酸エチル、ベンジルアルコール、安息香酸ベンジル、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、ジメチルホルムアミド、油(特に、綿実油、落花生油、トウモロコシ油、胚芽油、オリーブ油、ヒマシ油、およびゴマ油)、グリセロール、テトラヒドロフルフリルアルコール、ポリエチレングリコールおよびソルビタンの脂肪酸エステル、ならびにそれらの混合物などを含有してよい。不活性希釈剤の他に、経口組成物には、補助剤、例えば湿潤剤、乳化剤および沈殿防止剤、甘味料、香味料、および香料が含まれてよい。懸濁液には、活性化合物に加えて、例えば、エトキシル化イソステアリルアルコール、ポリオキシエチレンソルビトールおよびソルビタンエステル、微晶質セルロース、アルミニウムメタヒドロキシド、ベントナイト、寒天、およびトラガカントガム、およびそれらの混合物のような沈殿防止剤が含有されてよい。
【0053】
本発明に従う飲食用組成物(dietary composition)は、スルホラファン、イソチオシアネート、グルコシノレートまたはそれらの類似体を含有するあらゆる摂取可能な調製物である。例えば、スルホラファン、イソチオシアネート、グルコシノレートまたはそれらの類似体は、食品に混合されてよい。この食品は、乾燥させ、調理し、茹で、凍結乾燥させ、または焼くことができる。本発明において企図される膨大な数の食品の中には、パン、茶、スープ、シリアル、サラダ、サンドウィッチ、スプラウト(sprouts)、野菜、動物飼料、丸剤、および錠剤がある。
【実施例】
【0054】
(実施例1)
(ブロッコリースプラウトからのスルホラファンの調製)
農薬またはその他の種子処理化学物質で全く処理されていないことが認証されたブロッコリーの種子(Brassica oleracea italica,cv.DeCicco)を発芽させ、Fahey et al.(12)に記載される通り処理した。手短に言えば、種子を微量のAlconox(登録商標)洗浄剤を含有するClorox(登録商標)漂白剤の25%水溶液で表面消毒し、水で徹底的にすすいだ。次に、これらの種子を傾斜した多孔プラスチックトレイに層状に広げ、濾過水を1時間に約6回30秒間霧状に吹き付け、頭上蛍光ランプから照射した。3日後に、スプラウトを蒸気ジャケット付きやかん中の沸騰水に直接投じ、沸騰状態に戻して、約5分間攪拌することにより成長を止めた。この処理により、内在性のスプラウトミロシナーゼを不活性化し、グルコシノレートを抽出した。HPLC(26)により測定すると、スルホラファン前駆体であるグルコラファニンが、初期抽出物中の支配的なグルコシノレートであった。次に、Fahey et al.,1997 およびShapiro et al.,2001(12,27)に記載されるように、ダイコンスプラウトミロシナーゼを、グルコシノレートのイソチオシアネートへの定量的変換のために加えた。次に、この調製物を凍結乾燥し、酢酸エチルに溶解させ、回転蒸発により蒸発乾固させ、少量の水に溶解させ、80%アセトン:20%水(v/v)中50mMスルホラファンの終濃度までアセトンを添加した。総イソチオシアネート含量を環化縮合反応(28)により決定し(12,27)、HPLC(26)によりグルコシノレートの完全な不在を確認し、ミロシナーゼ反応により開放されるイソチオシアネートの正確な比率をアセトニトリル勾配でのHPLCにより決定し、抽出物のグルコシノレートプロフィールに一致させた。スルホラファンはイソチオシアネート含量の90%超を構成した。この調製物を80%アセトン(v/v)に希釈して、「高用量」(1.0μmol/100μl)および「低用量」(0.3μmol/100ml)を作成した。Prochaska試験(29,30)中の生物検定法により、以前の実験(11)に一致するCD値(NQO1の活性を二倍にするために必要な濃度)を得た。
【0055】
(実施例2)
(ケラチノサイトのスルホラファンによる処理)
グルタチオンは主要かつ最も豊富な細胞の非タンパク質チオールであり、細胞防御の重要な部分を構成する:グルタチオンは損傷をもたらす可能性のある求電子剤と容易に反応し、フリーラジカルを捕捉して、過酸化物を還元することにより、反応性酸素中間体およびそれらの毒性代謝産物の解毒に関与する。GSHの細胞レベルを上昇させる能力は、酸化ストレスに対抗する上で非常に重要である。この目的のため、本発明者らは、ケラチノサイトの培養物においてUVAにより引き起こされる酸化ストレスから保護する、スルホラファンに誘導される第2相応答の能力を調査した。UVAの遺伝子毒性は主に反応性酸素中間体の生成によるものであると考えられるため、本発明者らはUVAをこの試験に選択した。
【0056】
(細胞培養)
HaCaTヒトケラチノサイト(G.Tim Bowden,Arizona Cancer Center,Tucsonより提供)を、5%FBSを添加したダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)で培養し、PEネズミケラチノサイト(Stuart H.Yuspa,National Cancer Institute,Bethesda,MDより提供)を、8%FBSを含むイーグル最小必須培地(EMEM)で培養し、Chelex樹脂(Bio−Rad)で処理してCa2+を除去した。
【0057】
(キノンレダクターゼ(NQO1)およびグルタチオンアッセイ)
細胞(1穴当たり20,000個)を96穴プレートで24時間増殖させ、その後、連続希釈のスルホラファンに24時間(グルタチオン定量のため)かまたは48時間(NQO1定量のため)曝露し、最後に0.08%ジギトニン中に溶解させた。アリコート(25μl)をタンパク質分析のために使用した。NQO1の活性をProchaska試験(29,30)により測定した。細胞内グルタチオンレベルを測定するため、25μlの細胞溶解産物に2mM EDTA中50μlの氷冷メタリン酸(50g/リットル)を加えて細胞タンパク質を沈殿させた。4℃にて10分後、プレートを1,500gにて15分間遠心し、結果として生じる上清画分50μlを平行プレートに移した。これらのウェルの各々に、10mM EDTAを含有する50μlの200mMリン酸ナトリウム緩衝液、pH7.5を添加し、総細胞グルタチオンをリサイクリングアッセイにおける速度測定により定量した(31,32)。
【0058】
(細胞のUV照射および反応性酸素中間体の定量)
PE細胞(1穴当たり50,000個)を24穴プレートに播種し、48時間増殖させた。次に、細胞を1μMまたは5μMスルホラファンに24時間曝露した。実験の当日に、培地を除去した後、500μlの新鮮培地中100μMの2’,7’−ジクロロジニトロフルオレセインジアセテート(Molecular Probes,Eugene,OR)とともに30分間細胞をインキュベートした。次に、蛍光プローブを含有する培地を除去し、細胞をDPBSで洗浄し、UVA放射線(10J/cm)に曝露した。対照細胞は暗所で保持した。細胞をトリプシンで剥がし、2.0mlのDPBS中に懸濁し、Perkin−Elmer LS50蛍光光度計において2mlキュベット中485nmで励起し、520nmで細胞懸濁液中の蛍光強度を測定した。
【0059】
HaCaTヒトケラチノサイトまたはPEネズミケラチノサイトをスルホラファンに曝露すると、NQO1およびグルタチオンの細胞内レベルは用量依存的に上昇し(
1276669697046_0.ipdl?N0000=235&N0001=31&N0005=RgdyT4qQO2dFG3YNItIz&N0500=4JPA%20420539261%20%20%20%20%20%20%20&N0510=PPfA1vrTnRmHtWshKaY0&N0552=9&N0553=000011
A、B)、以前の所見に一致する(Ye and Zhang,2001)。特に顕著であったのが、細胞毒性の明白な証拠を伴わないHaCaT細胞におけるNQO1誘導の大きさであった(>10倍)。5μMスルホラファンによる24時間の処置により、蛍光プローブ2’,7’−ジクロロジニトロ−フルオレセインにより定量される、UV照射により生成される反応性酸素中間体の実質的な(50%)低下が生じた(35)(図2)。
【0060】
(実施例3)
(マウスにおけるスルホラファンの局所適用のNQO1およびGSHへの効果)
次に第2相応答をSKH−1無毛マウスにおいてインビボで評価した。雌SKH−1無毛マウス(4週齢)をCharles River Breeding Laboratories(Wilmington,MA)から入手し、実験開始前に2週間、本発明者らの動物施設において馴化させた。動物を12時間明/12時間暗サイクル、35%湿度に保持し、水とAIN76A固形試料食(Harlan TekLad,誘導物質を含まない)を自由に摂取させた。すべての動物実験は国立衛生研究所のガイドラインに従うものであり、ジョンズ・ホプキンス大学の実験動物委員会により承認された。
【0061】
7週齢のSKH−1無毛マウス(群当たり5匹)を、1μmolのスルホラファンを含有する100μlの標準ミロシナーゼ加水分解ブロッコリースプラウト抽出物か、またはビヒクル(100μlの80%アセトン:20%水、v/v)のいずれかを用いてそれらの背側で局所的に処置した。動物を24時間後に安楽死させ、背側の皮膚を長方形の鋳型(2.5×5cm)を用いて切開し、液体N中で凍結させた。皮膚試料を液体N中で粉砕し、100mgの結果として生じる粉末を、NQO1酵素活性およびタンパク質含量の分析のために、10mM Tris−HCl、pH7.4で緩衝した0.25Mスクロースか、またはグルタチオンの分析のために、2mM EDTA中氷冷メタリン酸(50g/リットル)のいずれか1ml中でホモジナイズした。4℃にて14,000gで20分間の遠心分離により、透明な上清画分を得、そのアリコートを、細胞培養実験に関して下に記載されるタンパク質含量、酵素活性および総グルタチオンレベルの測定に使用した。
【0062】
これらの結果は、スルホラファンの局所投与が、対照と比較して処置動物のNQO1の約50%の誘導(P<0.001)および総グルタチオンレベルの約15%の上昇を生じさせることを示した。
【0063】
(実施例4)
(ヒトにおけるスルホラファンの局所適用のNQO1およびGSHへの効果)
健康なヒトボランティアを含むこの試験は、ジョンズ・ホプキンス大学の治験審査委員会により承認されたプロトコールに従って実施した。単回用量のブロッコリースプラウト抽出物の健康なヒトボランティアの皮膚への局所投与の安全性を調査した。抽出物を80%アセトン:20%水中で調製し、それらのスルホラファン含量を、イソチオシアネートおよびそれらのジチオカルバメート代謝産物の定量のために本発明者らの研究室で常套的に使用される方法である、環化縮合アッセイにより正確に決定した。各参加者の前腕内側の皮膚に円(直径1cm)を描き、次いでポジティブディスプレイスメントピペットを用いて抽出物を円の内側に適用した。投与された8つの漸増用量(0.3;5.3;10.7;21.4;42.7;85.4;170;および340nmolのスルホラファン)の各々に2名の被験者が参加した。各被験者は自身の対照となり、プラセボ「ビヒクルスポット」を投与された。これらの用量のいずれにおいても有害反応は観察されなかった。
【0064】
効力試験も行った。エンドポイントは、単回用量のブロッコリースプラウト抽出物の適用後の2名の健康なヒトボランティアの3mmの皮膚パンチ生検におけるキノンレダクターゼ(原型の第2相タンパク質)の酵素活性の測定であった。再び、各被験者は自身の対照となり、「ビヒクルスポット」を投与された。キノンレダクターゼ活性およびタンパク質含量の両方がこれらの試料において確実に検出された。キノンレダクターゼの比活性は、100nmolのスルホラファンを含有する抽出物の適用後24時間で約2倍に上昇した(図3)。特に、適用後72時間で生検を行った場合でさえも活性はプラセボ処置部位の活性よりも高いままであったので誘導は長く続いた。
【0065】
次に50nmolのスルホラファンを含有するブロッコリースプラウト抽出物の3回反復した(24時間間隔での)局所適用の効果を調査した。これにより、2名の健康なヒトボランティアの適用部位の下の皮膚においてキノンレダクターゼ(NQO1)比活性がさらに大いに上昇した(図4)。
【0066】
(実施例5)
(スルホラファンの誘導型一酸化窒素合成酵素への効果)
本発明者らは最近、一連の合成トリテルペノイドに共通して、炎症応答(γ−インターフェロンによるiNOSおよびCOX−2活性化)の阻害と第2相酵素の誘導との間に6桁を超える有効性に及ぶ線形相関を見出した(20)。
【0067】
RAW264.7マクロファージ(5×10細胞/穴)を、96穴プレートに蒔き、スルホラファンおよび10ng/mlのIFN−γまたは3ng/mlのLPSのいずれかとともに24時間インキュベートした。NOは、亜硝酸としてGriess反応により測定した(33)。RAW264.7細胞を様々な濃度のスルホラファンとともにγ−インターフェロンまたはリポ多糖と24時間インキュベートすると、NO形成の用量依存的阻害が存在し、IC50は両方のサイトカインについて0.3μMであった(図5A)。
【0068】
この結果に一致して、ノーザンブロットおよびウエスタンブロット分析により、iNOS mRNAおよびタンパク質の合成も阻害されることが明らかとなった(図5B、C)。RAW264.7マクロファージ(2×10細胞/穴)を、スルホラファンおよび10ng/mlのIFN−γまたは3ng/mlのLPSのいずれかとともに一晩インキュベートした。ノーザンブロットのために、Trizol試薬(Invitrogen)で全RNAを単離し、既に記載されるようにブロッティング用に調製した(33)。iNOSおよびGAPDHのためのプローブをランダムプライマーとともに[γ−32P]dCTPで放射性標識した。ウエスタンブロットのために、全細胞可溶化液をSDS/PAGEに付し、膜に移し、iNOSおよびβ−アクチン抗体(Santa Cruz Biotechnology)でプローブした.
【0069】
これらの知見は、スルホラファンへの曝露がγ−インターフェロンまたはリポ多糖のいずれかによるiNOSの誘導を抑制し、発癌の過程で役割を果たす炎症応答を減弱させることを示す。
【0070】
(実施例6)
(スルホラファンの局所適用の紫外線に誘発される発癌への効果)
SKH−1無毛マウスを比較的低用量のUVB照射(30mJ/cm)に週に2回20週間曝露した結果、その後さらなるUV放射治療がない場合に皮膚腫瘍を発症する「ハイリスクマウス」となった(24,25)。この動物モデルは、子供の時に日光にひどく曝露されたが、成人の時には曝露が制限されたヒトに非常に関連性がある。加えて、それは照射スケジュールの完了後の、従って僅かに着色され得るスプラウト抽出物の保護製剤による「光フィルタ作用」の可能性を除く、可能性のある化学防護剤の評価を可能にする。従って、UVBで前処置したハイリスクマウスを、1日1回、週5日、11週間、0.3μmol(低用量)かまたは1μmol(高用量)のスルホラファンを含有する100μlの標準ミロシナーゼ加水分解ブロッコリースプラウト抽出物で局所的に処置した。対照群にはビヒクル処置を行った。体重および直径1mmよりも大きい腫瘍の形成を週に1回測定した。
【0071】
UVB照射は、UVB(280〜320nm、総エネルギーの65%)およびUVA(320〜375nm、総エネルギーの35%)を放射するひとそろいのUVランプ(FS72T12−UVB−HO、National Biological Corporation,Twinsburg,OH)により行った。UVBの放射線量をUVB Daavlin Flex Control Integrating Dosimeterで定量し、さらにIL−1400ラジオメーター(International Light,Newburyport,MA)で較正した。
【0072】
動物を20週間火曜日と金曜日に30mJ/cm/セッションの放射露光で照射した。1週間後、マウスを3つの群:各々の処置群に29匹の動物、および対照群に33匹の動物、に分けた。2つの処置群のマウスには、1μmolスルホラファン(高用量)かまたは0.3μmolのスルホラファン(低用量)を含有する100μlのブロッコリースプラウト抽出物の局所適用を行い、対照群のマウスには100μlのビヒクルを適用した。処置は週5日、11週間反復し、その時点で対照群の全ての動物が少なくとも1つの腫瘍を有し、実験を終わらせた。腫瘍(直径1mmより大きい病変と定義した)および体重を週に1回記録した。腫瘍容積は、直径1mmより大きい各塊の高さ、長さおよび幅を測定することにより決定した。3回の測定値の平均を直径として用いて、容積を計算した(v=4πr/3)。同日に全てのマウスを安楽死させ、腫瘍のサイズおよび多重度を測定した。背側の皮膚を、マウスの全処置部分を含むように長方形の鋳型(2.5×5cm)を用いて切開した。皮膚をボール紙にホチキスでとめ、写真撮影し、4℃の氷冷10%リン酸緩衝ホルマリン中で24時間固定した。
【0073】
群間で平均体重および体重増加に差はなかった。実験開始時の体重(平均±SD)は、対照群について22.3±1.9g、低用量処置群について22.2±1.9g、および高用量処置群について23.0±1.9gであった。実験終了時(31週後)、それぞれの体重は、32.1±9.7g、31.9±8.8g、および32.1±6.9gであった。1mmより大きい初期病変は、保護具を用いる局所処置が開始して1週間後である照射の終了の2週間後に観察された。この時点で、対照、低用量処置、および高用量処置マウスの、それぞれ、3、6、および4匹のマウスがその最初の腫瘍を発現した。
【0074】
高用量処置動物は、紫外線の発癌作用から実質的に保護された。従って、実験を終了した処置11週後に、対照群の動物の100%が腫瘍を発現したが、1μmolのスルホラファンを含有するスプラウト抽出物で毎日処置したマウスの48%には腫瘍がなかった(図6A)。注目すべきは、3匹の動物(対照の2匹と低用量処置群の1匹)は、直径2cmに近い腫瘍を有していたので実験終了の1週間前に安楽死させたことである。Kaplan−Meier生存分析と、それに続く層別ログランク検定、および生存関数が等しいことを求めるウィルコクソン検定の両方により、処置間で非常に有意な差異(P<0.0001)のあることが示された。1μmol処置は、95%信頼水準で、最後の3観察期間(9、10、および11週)の各々について、0.3μmolおよび対照処置の両方と異なっていた。0.3μmolと対照処置との間にはいずれの時点でも有意な差はなかった。
【0075】
図6Bは、腫瘍数への処置の全体的な効果が極めて有意であったことを示す(p<0.001)。1.0μmol用量レベルの対照とのANOVA比較により、極めて有意な全体的な効果(p<0.001)が示されたが、差は9週間後にやっと有意となった(9、10、および11週目に行った観察に関して、それぞれp<0.0794、p<0.0464およびp<0.0087)。平均値±SEを示す。
【0076】
腫瘍発生率および多重度の低下に加えて、腫瘍出現に有意な遅延があった。リスクのある対照動物の50%が照射終了後6.5週に腫瘍を有していたのに対して、リスクのある高用量処置動物の50%が腫瘍を発現するまで10.5週かかった。注目すべきは、保護剤の発癌過程を遅延させる能力が、化学防御においてますます評価される概念になりつつあることである。同様に、腫瘍多重度は58%低下した:マウスあたりの腫瘍の平均数は、処置群について2.4、対照群について5.7であった。
【0077】
低用量処置とビヒクル処置群との間に腫瘍発生率および多重度の差はなかったが(図6A、B)、マウス当たりの全体的な腫瘍量(mmでの容積として表される)は低用量処置群において処置9、10、および11週に、それぞれ86%、68%、および56%実質的に小さかった(図7)。時間を伴う処置に関して一見したところ有効性が低下しているのは、大きな腫瘍(>1cm)が実験の最後の2週間で急速に増大したために生じると思われる。高用量処置群における全体的な腫瘍量は、処置9、10、および11週に、それぞれ91%、85%、および46%さらに一層劇的に低下した。興味深いことに、この処置群のマウスの一部は、抽出物を適用していない頭部に腫瘍を有したが、保護抽出物を適用したその背部には腫瘍はなかった。
【0078】
個々の腫瘍の組織学的特性決定は完了していないが、この動物モデルは一貫して、およそ80%の小さな非悪性腫瘍(主に角化棘細胞腫および少数の乳頭腫)およびおよそ20%の大きな悪性腫瘍(扁平上皮癌)を形成した(24,25)。本発明者らはすべての腫瘍をそれらの容積に従って2つのカテゴリー:「小型」(<1cm)(図8、白色棒)および「大型」(>1cm)(図8、黒色棒)に分類した。スプラウト抽出物による処置は実験群全体にわたって大型腫瘍の多重度を変化させず、対照群の全33匹の動物の中では17個、低用量処置群の全29匹の動物の中では19個、および高用量処置群の全29匹の動物の中では16個の大型腫瘍が存在した。対照的に、ブロッコリースプラウト抽出物は小型腫瘍の数に用量依存的阻害を生じた(対照、低用量処置、および高用量処置群中、それぞれ170個、123個、および54個)。影響を受けなかった腫瘍は、直接UV照射誘導性DNA光産物により引き起こされる突然変異蓄積細胞に由来するが、抽出物は主に酸化ストレス誘導性のDNA損傷の結果生じる発癌過程を阻害する可能性がある。大豆イソフラボン、ゲニステインはマウス皮膚において脂質過酸化産物、H、および8−ヒドロキシ−2’−デオキシグアノシンの生成を阻害したが、紫外線に応答して形成されるピリミジン二量体には影響を及ぼさなかったという同様の現象が報告されている(36)。
【0079】
(統計分析)
腫瘍発生率を、Kaplan−Meier生存分析と、それに続く層別ログランク検定、および生存関数が等しいことを求めるウィルコクソン検定の両方を用いて評価した。腫瘍多重度はANOVAにより評価し、比較は全ての処置に関して、および個々の対応のある処置に関して行った(t検定)。腫瘍容積は、処置時間を入れ子式変数とするANOVAにより評価した。これらの計算はStata7.0(College Station,TX)を用いて実施した。その他の統計はExcelを用いて計算した。
【0080】
(実施例7)
(凍結乾燥ブロッコリースプラウト抽出物粉末の調製)
ブロッコリーの種子(Brassica oleracea italica,cv.DeCicco)を用いて実施例1に記載されるように芽を成長させた。3日後に、芽を沸騰水に投じ、約30分間沸騰させることにより成長を停止させた。この処理により内在性のスプラウトミロシナーゼを不活性化し、グルコシノレートを抽出した。スルホラファン前駆体であるグルコラファニンが、HPLC(26)により測定して抽出物中の支配的なグルコシノレートであった。次に、この調製物を凍結乾燥して、約8.8重量%のグルコラファニンを含有するグルコシノレートに富む粉末を得た。この粉末をマウス飼料(粉末AIN76A)と混合して、飼料3グラムあたり10μmol(低用量)または50μmol(高用量)のグルコラファニン等価物を得た。
【0081】
(実施例8)
(スルホラファンの食餌投与の紫外線誘導性発癌への効果)
この試験では、UVBで前処理したハイリスクマウスに、実施例6に従って調製した凍結乾燥ブロッコリースプラウト抽出物粉末(無傷植物に見出されるスルホラファンのグルコシノレート前駆体であるグルコラファニン10μmol/日[低用量]および50μmol/日[高用量]に相当、マウスによる経口摂取でその約10%がスルホラファンに変換される)を組み込んだ食餌を13週間与えた。対照群の食餌は凍結乾燥ブロッコリースプラウト抽出物粉末を含有しなかった。体重および直径1mmよりも大きい腫瘍の形成を週に1回測定した。
【0082】
UVB照射は、UVB(280〜320nm、総エネルギーの65%)およびUVA(320〜375nm、総エネルギーの35%)を放射するひとそろいのUVランプ(FS72T12−UVB−HO、National Biological Corporation,Twinsburg,OH)により行った。UVBの放射線量をUVB Daavlin Flex Control Integrating Dosimeterで定量し、さらにIL−1400ラジオメーター(International Light,Newburyport,MA)で較正した。
【0083】
動物を20週間火曜日と金曜日に30mJ/cm/セッションの放射露光で照射した。1週間後、マウスを3つの群:各々の処置群に30匹の動物、および対照群に30匹の動物、に分けた。2つの処置群のマウスには凍結乾燥ブロッコリースプラウト抽出物粉末を組み込んだ食餌を与えた。低用量処置群の食餌には、10μmol/日グルコラファニンに相当する凍結乾燥ブロッコリースプラウト抽出物粉末が含まれ、一方、高用量処置群の食餌には、50μmol/日グルコラファニンに相当する凍結乾燥ブロッコリースプラウト抽出物粉末が含まれた。対照群の食餌は凍結乾燥ブロッコリースプラウト抽出物粉末を含有しなかった。マウスにこの食餌を13週間与えた。13週後、対照マウスの93%が腫瘍を有し、実験を終了した。
【0084】
腫瘍容積は、直径1mmより大きい各塊の高さ、長さおよび幅を測定することにより決定した。3回の測定値の平均を直径として用いて、容積を計算した(v=4πr/3)。同日に全てのマウスを安楽死させ、腫瘍のサイズおよび多重度を測定した。背側の皮膚を、マウスの全処置部分を含むように長方形の鋳型(2.5×5cm)を用いて切開した。皮膚をボール紙にホチキスでとめ、写真撮影し、4℃の氷冷10%リン酸緩衝ホルマリン中で24時間固定した。
【0085】
腫瘍発生率(腫瘍を有する動物のパーセント)は、低用量および高用量グルコラファニンを与えられている動物において、対照群のマウスと比較してそれぞれ25%および35%低下した。(図9)
【0086】
さらに大きかったのが、腫瘍多重度(マウス当たりの腫瘍数)への処置の効果であって、低用量および高用量グルコラファニンを与えられている動物において、対照群のマウスと比較してそれぞれ47%および72%低下した。従って、対照群の動物がマウス当たり平均4.3個の腫瘍を有していたのに対し、マウス当たりの腫瘍数は低用量グルコラファニンについて2.3個、高用量グルコラファニンについて1.2個であった。(図10)
【0087】
腫瘍量も劇的に影響を受けた:低用量および高用量グルコラファニン処置の両方が、マウス当たりの全腫瘍容積の70%阻害をもたらした。(図11)
【0088】
スルホラファンおよびその代謝産物の血漿レベルは非常に類似していた:低用量および高用量グルコラファニン処置について、それぞれ2.2μMおよび2.5μMであった。これは、グルコラファニンがスルホラファンに変換されること、および常習的な食餌治療の結果、動物の血液中のスルホラファンおよびその代謝産物が定常状態のレベルとなったことを示す。これらのレベルは生物学的効果を期待するのに十分である。
【0089】
試験したほぼ全ての器官、すなわち、前胃、胃、膀胱、肝臓、および網膜において第2相酵素のレベルが誘導された(キノンレダクターゼ1について2〜2.5倍、およびグルタチオンS−トランスフェラーゼについて1.2〜2.2倍)
【0090】
(統計分析)
腫瘍発生率を、Kaplan−Meier生存分析と、それに続く層別ログランク検定、および生存関数が等しいことを求めるウィルコクソン検定の両方を用いて評価した。腫瘍多重度はANOVAにより評価し、比較は全ての処置に関して、および個々の対応のある処置に関して行った(t検定)。腫瘍容積は、処置時間を入れ子式変数とするANOVAにより評価した。これらの計算はStata7.0(College Station,TX)を用いて実施した。その他の統計はExcelを用いて計算した。
【0091】
(実施例9)
(高用量紫外線誘導性発癌へのスルホラファンの局所適用の効果)
SKH−1無毛マウスを単回高線量(700〜1200mJ/cm)の狭帯域311nm UVB照射に曝露した。これらの高線量は、ヒトにおいて皮膚紅斑を判定するために用いるものに匹敵する。UVランプを装備した痛風型キャビネットにおいてマウスに照射した。対照群にはビヒクル処置を行った。
【0092】
照射によりマウスの表皮層は非常に厚くなり、24時間以内に顕著な浮腫および炎症が示された(図12A左および中央)。これらの損傷作用は、ブロッコリースプラウト抽出物として供給される日用量100nmol/cmのスルホラファンで3日間マウス皮膚を事前に処置することによって実質的に回避された(図12A右)。好中球のアズール顆粒に局在し、炎症強度の感受性マーカーである、皮膚ミエロペルオキシダーゼ(MPO)活性は、紫外線によって用量依存的に増加した(1,200mJ/cmで>25倍)(図12B)。合成スルホラファンでの前処置またはスルホラファンを含有するブロッコリースプラウト抽出物での前処置は、スルホラファン処置マウスまたはブロッコリースプラウト抽出物処置マウスの皮膚ホモジネートにおいて、MPOタンパク質および酵素活性レベルの増加を抑制し、(図12CおよびD)、原型の第2相酵素、NQO1の比活性を増加させた(図12E)。紫外線はこれらの誘導をわずかに抑制した(図12E)。純粋なスルホラファンまたは同等量のスルホラファンを含有するブロッコリースプラウト抽出物での局所処置は、NQO1の誘導性増加および紫外線依存性のMPO活性の阻害に関して量的に同等な効果を示した。
【0093】
この知見により、次の結論が強く支持される:(i)ブロッコリースプラウト抽出物によりもたらされる、UV介在性の浮腫および炎症(ならびにおそらくUV損傷のその他の状況)に対する第2相誘導物質活性および保護効果の両方は、完全にそのスルホラファン含量に起因する、そして(ii)スルホラファンの311nmでの吸収は僅かであるが、ブロッコリースプラウト抽出物は水性植物抽出物であり、着色されているため、これらの効果は直接的な紫外線吸収から生じるものではない。
【0094】
(UV紅斑の測定ならびに処置および放射線照射のための鋳型の設計)
これらの知見をマウスからヒトに置き換える際には、ヒト皮膚のUV介在性損傷を評価するための高度に定量的であり再現性のある方法を開発することが必要であった。紅斑を非侵襲性バイオマーカーとして用いた。本発明者らは、皮膚の上に正確に位置づけることができ、標準311nm線量の紫外線および可能性のある保護具で処置したまさしく同じ区域(スポット)で赤色反射(red reflectivity)を反復測定することのできる、再利用可能な接着性のビニル鋳型を設計した。4対の直径2.0cmの円窓のついた、2枚の10×17cmの長方形の不透明ビニル鋳型を、連日正確にボランティアの背中の同じ傍脊柱部に正確に貼り付けた(図13A)。窓は取り外しの容易なビニルシェード(周囲は接着性であるが、窓を覆う部分は非接着性)で個別に塞ぐことができたので、段階的な紫外線量をスポットに送達することができた。狭帯域(311nmを中心とする)を、統合UVB線量計(BryanOH)を装備した、NB−UVB/TL01ランプを備えたDaavlin Full Body Phototherapy Cabinetにおいて送達した。窓を用いて、全ての窓に同じ線量のUVを生成するか、または100〜800mJ/cmの段階的な線量を選択した水平に隣接する窓の対に生成した。被験者は、皮膚フォトタイプ(phototypes)1(常にやけどし、決して日焼けしない)、2(常にやけど状態、時々日焼けする)または3(時々やけどし、常に日焼けする)であった。各スポットの紅斑を、標準条件下で、紅斑指数aを決定する比色計(モデルCR−400;Konica Minolta)を用いて、緑−赤軸に沿って色度について調節した、皮膚の赤色反射の強度の、キセノンアーク閃光の放出に対する、単位のない比率を定量した(Farr and Diffey,1984;Diffey and Farr,1991)。各測定セッションの前に比色計を白色および赤色タイルで較正した。皮膚タイプが1、2、または3で皮膚病変のない男性および女性ボランティア(28〜53歳)を登録した。ボランティアに、実験前の1週間および実験期間中に、マスタード、セイヨウワサビ、ワサビを含むアブラナ科の植物、および香味料を摂取することを控えるよう依頼した。ボランティアはさらに、毎日13時に行われる実験に訪れる前に毎回コーヒーの摂取または運動を行わないように指示された。薬剤または栄養補助食品の摂取には制限はなかった。被験者は、測定を行う前に温度制御された部屋(25℃±2℃)において20分間腹臥で休息した。測定は、比色計の重量(約80g)下で皮膚を平衡化させた20秒後に各スポットで開始した。各スポットで素早く連続して(約5秒間隔)11の反復測定値を得た。最後の8つの値を用いて各スポットについての平均a値および変動係数(CV)を算出した。全ての測定値は単一の訓練を積んだオペレーターが読み取った。
【0095】
測定手順の再現性を、連続5日間の(UV曝露前4日および24時間後の)5名の被験者の16スポット全ての平均a値を得ることにより検証した。これらの測定は以下の内容を証明した:(i)UV照射の前の4日の間に同じ16の一つ一つのスポットに行った最後の8回の反復比色計測定値のCVは3.79であったが(SEM=0.19%;n=320測定)、UV曝露24時間後に同じ5名の被験者の16のスポットの現在高いほうのa値のCVは2.26であった(SEM=0.21%;n=80)。従って、照射スポットの高いほうのa値を反復測定することにより、より優れた精度で測定することができた(P<0.0001);(ii)UV照射の前に4日間連続で測定した5名の個体の16のスポットの初期平均a値は4.52±1.89であった(n=320)。しかし、個々のスポット間のa値の変動性は相当に大きく、0.59〜10.17に及んだ。スポット位置と測定日の両方が所定の個体に関する基礎的なa値に有意に影響を及ぼしたとはいえ、スポット位置のみによるCVは19.2%であり、一方一日ごとのCVは6.2%であった。従って、単一被験者の個々のスポット間でのa値の差は、同じスポットでの経時的反復測定値間の変動よりもはるかに大きかった。この紅斑指数a測定値の分析により、任意の個体の各スポットは独立した観察単位と考える必要があるという結論が導かれた;(iii)紫外線に起因する紅斑の増加(Δa)は、UV曝露前のaの初期値(P=0.008)に反比例して変化した、これは明るい(lighter)皮膚のほうが暗い(darker)皮膚よりも紅斑に対する感受性が高いという見解に一致する;さらに(iv)紫外線誘導性の紅斑の変動(Δa)は背部全体にわたって無秩序であった、これは垂直にまたは水平に隣接する対照スポットおよび処置スポットを選択することに統計的傾向がないことを示す。解剖学的考慮(例えば、デルマトームおよび脈管構造)に基づいて、水平に隣接するスポットを処置/対照対として選定した。
【0096】
(紫外線量反応曲線)
UV介在性紅斑を評価するための定量的および再現性のあるシステムを確立したので、紫外線量と紅斑応答の関係を、タイプ2の皮膚の一人の53歳男性で調査した。水平に対になった8つの窓を、100mJ/cmの増分で100〜800mJ/cmの紫外線量に曝露し、UV照射の直前および24時間後にa測定を行った。この紫外線量の範囲は、皮膚科医が最小紅斑量を決定するために広く用いられている。a値の増分はこの範囲において紫外線量とともに直線的に上昇し(図13B)、各スポットの初期a値が全く異なっている場合でさえ二重反復領域間に合理的な一致があった。したがって、紅斑の増加は、UV照射の後のUV照射の前に対するa値の比よりもむしろ、各々の個別のスポットのa値の算術的な増分として表された。
【0097】
(ヒト皮膚におけるNQO1の誘導のためのスルホラファンスケジューリングの最適化)
ヒト皮膚をUV誘導性の紅斑から保護する本研究のためにスルホラファンの投薬スケジュールを最適化するため、3名のボランティアの腰の1.0cmの円領域を100nmolのスルホラファンを含有するブロッコリースプラウト抽出物の5μlアリコートで処理した。抽出物は24時間間隔で1日目に、3日目に、2日目と3日目に、または1日目、2日目、および3日目に適用し、4日目に生検を採取した。3日連続の処置により最大のNQO1誘導が得られ、NQO1特異的活性の平均上昇は2.19倍であった(範囲は1.76〜3.24)。したがって、以下の実験では、ブロッコリースプラウト抽出物による処置をUV照射の前に3日連続で24時間間隔で行った。
【0098】
(UV紅斑に対する保護のスルホラファン用量への依存)
スルホラファンの保護用量を最適化するため、1名の被験者(53歳男性)に一連の範囲の用量のスルホラファン含有ブロッコリースプラウト抽出物(100、200、400、または600nmolのスルホラファンを含有)を用いて3日連続で毎日処置を行い、500mJ/cmのUVを24時間後に照射した。放射線の前(4日の平均;4.72±0.871)から放射線の24時間後までの紅斑a値の増分により、スルホラファン処置により用量依存的保護がもたらされることが示された(図3AおよびB)。紅斑の増加は、直径2.0cmのスポット1つ当たりスルホラファン100、200、400、または600nmolの一日量で、それぞれ26.3%、444%、57.6%、および57.5%阻害された。この用量の関数としてのスルホラファンによる保護の程度は、ヒト皮膚において既に証明されたNQO1誘導の用量依存性に合理的に一致する(Dinkova−Kostova et al.,2007)。
【0099】
(ボランティアにおける、スルホラファンによるUV誘導性紅斑に対する保護)
スルホラファン含有ブロッコリースプラウト抽出物での処置による紫外線量依存性紅斑への保護効果を調べるため、ビニル鋳型の直径2.0cmの円の内側に抽出物を局所的に適用した。処置したスポットには25μlの80%アセトン/20%水中ブロッコリースプラウト抽出物を適用し、水平に対になったスポットは溶媒のみで処置した。a値の測定は5日連続で行った:UV曝露前の3日、曝露日のUV照射の直前、および曝露後24時間。各々の被験者を8つの線量の紫外線(100mJ/cmの増分で100〜800mJ/cm)で調べ、各紫外線量レベルの処置および対照スポットについてa値を得た。UV照射の前に4日連続で得た各スポットのa測定値を平均し、平均値をa(UV照射前)値として用いた。パイロット実験により、UV照射後のa値(Δa)の増分[すなわちa(UV照射後)−a(UV照射前)]は、個別のスポットの皮膚紅斑の変化の最も適切な測定値であることが示された。個々の被験者の所定の線量のUVに対する応答はUV照射前のa値と同様に有意に変動したので(P<0.0001)、スルホラファンの保護効果は処置による紅斑の減少割合(%)として表され、従って被験者および皮膚領域特異的な正規化の方法が得られた。
【0100】
典型的な結果(図14CおよびD)により、スルホラファン処置が、照射前に3日連続で200nmolのスルホラファンを含有するブロッコリースプラウト抽出物で処置したスポットにおいて、600、700、および800mJ/cm線量の紫外線で紅斑の発現をそれぞれ84.3%、41.6%、および89.4%阻害することが証明された。次に、スルホラファンの保護効果を6名のボランティアで調査し、ボランティアらに照射前に3日連続で200nmol(4名の被験者)または400nmol(2名の被験者)のいずれかのスルホラファンを含有するブロッコリースプラウト抽出物を与え、一連の範囲の8つの線量の紫外線(100〜800mJ/cm)に曝露した。100および200mJ/cmでの応答は、これらの低い紫外線量でのaの増分は一貫してその基礎となる日変動よりも低かったため、分析から排除した(表1)。紫外線量は紅斑の減少率に僅しか効果がなく(P=0.05)、紫外線量に対する紅斑の減少割合の動向分析により有意な関連のないことが示された(P=0.09)。この知見は、保護の程度が、その大きさに関係なく紅斑応答の比較的一定な割合であることを示唆する。したがって、スルホラファンはおそらく多因子性の紅斑応答の比較的一定な割合を保護する。本調査の検出力を高めるため、6回のUV照射の6名の被験者全てに関するデータをプールした。しかし、紅斑が全く観察されない値を含む、値のこの制限がたとえなくても(n=35;1つの観察結果は無効であった)、極めて有意な治療効果があり(P<0.0001)、この知見は視覚的に容易に明らかであった。プールしたデータにより、6名の被験者に関して6つの紫外線量全てにわたって(300〜800mJ/cm)37.7%という保護の平均レベルが明らかになった(SEM=5.7;n=35)。この保護は極めて有意であった[P<0.0001;95%信頼区間(CI)=25〜50%]。さらに、個体ベースで(すなわち表1中の横列にわたって)調べた場合、所定の被験者の全ての紫外線量にわたる平均保護は37.7%であり(SEM=11.2;n=6)、これも有意であった(P=0.025;CI=11.8〜64%)。視覚検査で確認されるa測定により、大部分の観察においてスルホラファン処置がUV誘導性の紅斑を阻害しても(35スポットのうち27が8.7%以上の保護を示した)、その応答は個々の被験者においても、被験者間でも相当変動するという根拠が得られた。
【0101】
【表1】

【0102】
6名の被験者(3名の男性および3名の女性)を同一条件下で5日間にわたって調査した。接着性のビニル鋳型の対を同じ傍脊柱位置に24時間間隔で4日連続で適用し、各セッションの16個の円(直径2.0cm)窓の各々で比色計を用いて紅斑指数(a)値を測定した。4日間に得た各々一式の測定値の最後の8つの値の平均値を平均し、これらの平均値をUV照射前の各スポットのa値と考えた(UV照射前)。最後の測定の直後に、被験者を一連の範囲の線量のUV(311nm)に、8対の隣接するスポットが100〜800mJ/cmを100mJ/cmの増分で受けるように曝露した。UV照射の24時間後、比色計によるa測定を繰り返した(UV照射後)。300〜800mJ/cm−UVRについての結果のみを示す。最初の3日間、各対のスポットの一方を25μlの(80%アセトン/20%水中)200〜400nmolのスルホラファンを含有するブロッコリースプラウト抽出物で処置し、もう一方は25μlの溶媒のみを与えた。紫外線誘導性の紅斑aへの処置の効果は、ブロッコリースプラウト抽出物処置スポットおよび溶媒処置スポットについてのa値(Δa)、すなわち(aUV照射後−aUV照射前)の変化から導かれ、変化率は次のように表された:[(処置スポットのΔa/対照スポットのΔa)×100]。P値は両側スチューデントt検定を用いて計算したものであり、個々の被験者の平均減少率(すなわち投与した全ての紫外線量に及ぶ)と非保護(すなわち紅斑の減少が0%)との間の比較を表す。t検定の目的において、非保護(0%減少)に関連する標準偏差は、各個体について計算したものと同じと考えた。結果的に、6名の被験者全員についての平均減少率の有意性を決定する際、非保護値(0%)に関連する標準偏差は、個々の被験者応答のそれに等しいと考えた。
【0103】
(保護は紫外線の吸収に依存しない)
3種類の実験により、スルホラファンの紫外線傷害に対する保護効果が入射紫外線の吸収に媒介されないという説得力のある証拠が得られた。(i)日焼け止め剤(スポット当たり約10mgのNeutrogena Ultrasheer,Sun Protection Factor55)を3日間ブロッコリースプラウト抽出物およびUV照射(500mJ/cm)と同じスケジュールで適用した結果、最後の適用の24時間後にごく僅かな保護が得られた(3.5%;2つの観察平均)。ボランティアに個人の衛生を保つように勧めたので、UV吸収効果が24時間以上持続できることは全くありそうにないと思われる。(ii)スポット当たり400nmolの加水分解されていないグルコラファニン(スルホラファンの不活性グルコシノレート前駆体)を送達するブロッコリースプラウト抽出物調製物の適用はごく僅かな保護をもたらした(4.7%;2つの観察平均)。これらの製剤は、スルホラファン前駆体がミロシナーゼにより加水分解されていないことを除いてスルホラファン含有ブロッコリースプラウト抽出物と同一であった。(iii)処置終了後48または72時間のUV照射の遅延を除いて、以前のプロトコールに従うブロッコリースプラウト抽出物による1名の被験者の3日間の処置の結果、実質的な継続的保護:48時間で32.1%保護および72時間で10.3%がもたらされた。これらの対照実験も幅広い種類の酵素の転写活性化に依存する保護戦略の特有の性質を明らかにした。従って、スルホラファンは短い組織半減期を有し(1〜2時間)、それにもかかわらずその効果は長命のタンパク質の合成に依存するので、それは処置後2〜3日でさえ全く明白である。この長続きする特性は、日焼け止め剤、メラトニン、没食子酸エピガロカテキンおよびカロテンなどのその他の局所皮膚保護具について実証されていない(Baliga and Katiyar,2006;Bangha et al.,1997)。さらに、マウス皮膚での実験は、ブロッコリースプラウト抽出物の紫外線保護効果が同等量の純粋なスルホラファンの効果に相当することを強く示唆する。スルホラファンはUVを最大でほぼ240nm吸収し、311nmでほぼ透過性であるので、この化合物は、一部の他の局所保護剤とは対照的に311nmの紫外線により分解または吸収される可能性が低い。
【0104】
略語:COX−2、シクロオキシゲナーゼ2;GSH、グルタチオン;γ−IFN、インターフェロンγ;iNOS、誘導型一酸化窒素合成酵素;LPS、リポ多糖;NQO1、NAD(P)H−キノンアクセプターオキシドレダクターゼ(キノンレダクターゼとも表される)。
【0105】
[参考文献]
【表2A】

【表2B】

【表2C】

【表2D】

【表2E】

【表2F】

【表2G】

【表2H】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
電離放射線治療を受けている患者の皮膚および粘膜を電離放射線の望ましくない副作用から保護する方法であって、前記患者の電離放射線が曝露される領域およびその周辺領域に、治療上有効な量のNrf2誘導物質を含む組成物を局所投与することを含む方法。
【請求項2】
前記望ましくない副作用が、急性紅斑、皮膚刺激、炎症、浮腫、落屑、皮膚の壊死、ひりひりする痛み、口内潰瘍、疼痛、線維症、毛細血管拡張症、口腔乾燥症、眼球乾燥症、膣粘膜の乾燥、黒色腫、乳癌、胃癌、肺癌および甲状腺疾患からなる群から選択される請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記Nrf2誘導物質が第2相酵素誘導物質である請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記第2相酵素誘導物質がイソチオシアネートである請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記第2相酵素誘導物質がスルホラファンまたはスルホラファン合成類似体である請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記スルホラファン合成類似体が、6−イソチオシアナト−2−ヘキサノン、エキソ−2−アセチル−6−イソチオシアナトノルボルナン、エキソ−2−イソチオシアナト−6−メチルスルホニルノルボルナン、6−イソチオシアナト−2−ヘキサノール、1−イソチオシアナト−4−ジメチルホスホニルブタン、エキソ−2−(1’−ヒドロキシエチル)−5−イソチオシアナトノルボルナン、エキソ−2−アセチル−5−イソチオシアナトノルボルナン、1−イソチオシアナト−5−メチルスルホニルペンタン、シス−3−(メチルスルホニル)シクロヘキシルメチルイソチオシアネートおよびトランス−3−(メチルスルホニル)シクロヘキシルメチルイソチオシアネートからなる群から選択される請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記第2相酵素誘導物質がグルコシノレートである請求項3に記載の方法。
【請求項8】
前記組成物が、電離放射線治療の前、間または後に前記患者に投与される請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記患者に局所投与される前記組成物中のNrf2誘導物質の量が、約100nmol/cm〜約1μmol/cmである請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記Nrf2誘導物質を含む組成物が、軟膏、クリーム、エマルション、ローション、ゲルおよび日焼け止め剤からなる群から選択される局所用製剤である請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記患者が哺乳類である請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記哺乳類がヒトである請求項11に記載の方法。
【請求項13】
皮膚への局所適用のための組成物であって、治療上有効な量のNrf2誘導物質と、ホホバ油および月見草油からなる群から選択される媒体とを含む組成物。
【請求項14】
軟膏、クリーム、エマルション、ローション、ゲルまたは日焼け止め剤の形態である請求項13に記載の組成物。
【請求項15】
前記Nrf2誘導物質が第2相酵素誘導物質である請求項13に記載の組成物。
【請求項16】
前記第2相酵素誘導物質がイソチオシアネートである請求項15に記載の組成物。
【請求項17】
前記第2相酵素誘導物質がスルホラファンまたはスルホラファン合成類似体である請求項16に記載の組成物。
【請求項18】
前記スルホラファン合成類似体が、6−イソチオシアナト−2−ヘキサノン、エキソ−2−アセチル−6−イソチオシアナトノルボルナン、エキソ−2−イソチオシアナト−6−メチルスルホニルノルボルナン、6−イソチオシアナト−2−ヘキサノール、1−イソチオシアナト−4−ジメチルホスホニルブタン、エキソ−2−(1’−ヒドロキシエチル)−5−イソチオシアナトノルボルナン、エキソ−2−アセチル−5−イソチオシアナトノルボルナン、1−イソチオシアナト−5−メチルスルホニルペンタン、シス−3−(メチルスルホニル)シクロヘキシルメチルイソチオシアネートおよびトランス−3−(メチルスルホニル)シクロヘキシルメチルイソチオシアネートからなる群から選択される請求項17に記載の組成物。
【請求項19】
前記Nrf2誘導物質がグルコシノレートである請求項15に記載の組成物。
【請求項20】
前記Nrf2誘導物質の量が約100nmol/cm〜約1μmol/cmである請求項13に記載の組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公表番号】特表2011−500680(P2011−500680A)
【公表日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−529943(P2010−529943)
【出願日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際出願番号】PCT/US2008/011792
【国際公開番号】WO2009/051739
【国際公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【出願人】(507357737)ジョンズ・ホプキンス・ユニヴァーシティ (2)
【Fターム(参考)】