説明

放射線像変換パネル

【課題】 高感度であって高画質の放射線画像を与える放射線像変換パネルを提供する。
【解決手段】 蓄積性蛍光体を含有する蛍光体層13およびその片面に設けられた光反射層12を有する放射線像変換パネルにおいて、該光反射層が、光反射性物質の粒子、結合剤および高分子分散剤からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄積性蛍光体を利用する放射線画像情報記録再生方法に用いられる放射線像変換パネルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
X線などの放射線が照射されると、放射線エネルギーの一部を吸収蓄積し、そののち可視光線や赤外線などの電磁波(励起光)の照射を受けると、蓄積した放射線エネルギーに応じて発光を示す性質を有する蓄積性蛍光体(輝尽発光を示す輝尽性蛍光体等)を利用して、この蓄積性蛍光体を含有するシート状の放射線像変換パネルに、被検体を透過したあるいは被検体から発せられた放射線を照射して被検体の放射線画像情報を一旦蓄積記録した後、パネルにレーザ光などの励起光を走査して順次発光光として放出させ、そしてこの発光光を光電的に読み取って画像信号を得ることからなる、放射線画像記録再生方法が広く実用に供されている。読み取りを終えたパネルは、残存する放射線エネルギーの消去が行われた後、次の撮影のために備えられて繰り返し使用される。
【0003】
放射線画像記録再生方法に用いられる放射線像変換パネル(蓄積性蛍光体シートともいう)は、基本構造として、支持体とその上に設けられた蛍光体層とからなる。ただし、蛍光体層が自己支持性である場合には必ずしも支持体を必要としない。また、蛍光体層の上面(支持体に面していない側の面)には通常、保護層が設けられていて、蛍光体層を化学的な変質あるいは物理的な衝撃から保護している。
【0004】
蛍光体層としては、蓄積性蛍光体とこれを分散状態で含有支持する結合剤とからなるもの、気相堆積法や焼結法によって形成される結合剤を含まないで蓄積性蛍光体の凝集体のみから構成されるもの、および蓄積性蛍光体の凝集体の間隙に高分子物質が含浸されているものなどが知られている。
【0005】
放射線画像記録再生方法(および放射線画像形成方法)は上述したように数々の優れた利点を有する方法であるが、この方法に用いられる放射線像変換パネルにあっても、できる限り高感度であってかつ画質(鮮鋭度、粒状性など)の良好な画像を与えるものであることが望まれている。
【0006】
放射線像変換パネルの感度を高めるために、支持体と蛍光体層との間に光反射層を設けることが知られている。特許文献1には、輝尽性蛍光体を含んだ蛍光体層の片面に、光反射性物質を含有し、該輝尽性蛍光体を励起するための励起波長における散乱長が5μm以下である光反射層が設けられた放射線像変換パネルが開示されている。このように短散乱長の光反射層を設けることによって、感度が向上するばかりでなく、高い反射率により励起光の拡散を抑えて良好な鮮鋭度を維持し、高画質の放射線画像を得ることができる。
【0007】
【特許文献1】特開2001−124898号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のように光反射層を短散乱長とするためには、微粒子状の光反射性物質を高密度で充填する(すなわち、結合剤/光反射性物質の比率を低くする)必要がある。よって、光反射層を形成するための塗布液には、結合剤に比べて光反射性物質が高い比率で分散される。このような塗布液は調製後時間が経つにつれて液の均一性が失われがちであり、不均一な塗布液を支持体または蛍光体層の表面に塗布すると、形成された塗布膜の表面には光反射性物質粒子による微小な凹凸(ブツ状の点欠陥)が生じる。そして、光反射層表面にブツ状点欠陥を有する放射線像変換パネルを用いて放射線画像を得た場合に、このブツ状点欠陥が画像上に点欠陥として現れる可能性があり、問題となることが分かった。
【0009】
従って、本発明は、高感度であって高画質の放射線画像を与える放射線像変換パネル、およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、光反射層に関する上述した問題について検討した結果、光反射層形成のための塗布液に予め高分子分散剤を含有させることによって、光反射性物質の分散性が顕著に向上することを見い出し、本発明に到達したものである。
【0011】
従って、本発明は、蓄積性蛍光体を含有する蛍光体層およびその片面に設けられた光反射層を有する放射線像変換パネルにおいて、該光反射層が少なくとも、光反射性物質の粒子、該粒子を分散状態で含有支持する結合剤および高分子分散剤からなることを特徴とする放射線像変換パネルにある。
【0012】
また、本発明は、支持体、光反射層、蓄積性蛍光体を含有する蛍光体層、および透明保護層を有する放射線像変換パネルにおいて、該光反射層が少なくとも、光反射性物質の粒子、該粒子を分散状態で含有支持する結合剤および高分子分散剤からなることを特徴とする放射線像変換パネルにもある。
【発明の効果】
【0013】
本発明に従って予め高分子分散剤が添加された光反射層形成用の塗布液は、光反射性物質の分散性が良好であり、塗布液調製後長時間に渡って塗布液の均一性が維持される。それにより、この塗布液を用いて形成された光反射層を有する本発明の放射線像変換パネルは、光反射層における光反射性物質の分散性が良好であり、光反射層表面に点欠陥が発生するのを有効に防ぐことができる。従って、本発明のパネルは高感度であって、高画質の放射線画像を与えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の放射線像変換パネルの好ましい態様は以下の通りである。
(1)高分子分散剤が、分子量が1000以上の界面活性能を有する物質である。
(2)蓄積性蛍光体を励起するための励起光に対する光反射層の散乱長が5μm以下である。
【0015】
(3)光反射性物質が、白色顔料であり、特にはアルミナ、酸化イットリウム、酸化ジルコニウムおよび酸化チタンからなる群より選ばれる少なくとも一種の白色顔料である。
(4)光反射性物質の粒子の粒子径が0.1乃至2.0μmの範囲にある。
(5)結合剤と光反射性物質の重量比(前者:後者)が1:10乃至1:50の範囲にある。
【0016】
(6)高分子分散剤が、光反射層に光反射性物質の粒子に対して0.01乃至10重量%の範囲の量で含有されている。
(7)蓄積性蛍光体を含有する蛍光体層が、蓄積性蛍光体粒子と結合剤とからなる塗布液の塗布により形成された蛍光体層である。
(8)蓄積性蛍光体を含有する蛍光体層が、気相堆積法により真空装置内で蓄積性蛍光体もしくはその構成成分を基板上に堆積させて形成された蛍光体層である。
【0017】
以下に、本発明の放射線像変換パネルおよびその製造方法について詳細に述べる。
【0018】
支持体は通常、柔軟な樹脂材料からなる厚みが50μm乃至1mmのシートあるいはフィルムである。支持体は透明であってもよく、あるいは支持体に、励起光もしくは発光光を反射させるための光反射性材料(例、アルミナ粒子、二酸化チタン粒子、硫酸バリウム粒子)を充填してもよく、あるいは空隙を設けてもよい。または、支持体に励起光もしくは発光光を吸収させるため光吸収性材料(例、カーボンブラック)を充填してもよい。支持体の形成に用いることのできる樹脂材料の例としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、アラミド樹脂、ポリイミド樹脂などの各種樹脂材料を挙げることができる。さらに、画像の鮮鋭度を高める目的で、支持体の蛍光体層が形成される側の表面(支持体表面に接着層、光反射層あるいは光吸収層等の補助層が設けられる場合には、それら補助層の表面であってもよい)には微小な凹凸が形成されていてもよい。必要に応じて、支持体は金属シート、セラミックシート、ガラスシートなどであってもよい。
【0019】
支持体上には、支持体と光反射層との接着性を高めるために、接着層を設けることが好ましい。接着層に用いられる樹脂の例としては、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリビニルブチラール、ポリ酢酸ビニル、塩化ビニリデン・塩化ビニルコポリマーを挙げることができる。これらの樹脂は単独で用いてもよいし、あるいは組み合わせて用いてもよい。これらの樹脂は、イソシアネートやメラミン樹脂等の硬化剤によって硬化されることが好ましい。樹脂に対する硬化剤の比率は、一般には1乃至50重量%の範囲にあり、好ましくは5乃至30重量%の範囲にある。
【0020】
接着層の形成は、上記樹脂と所望により硬化剤とを適当な有機溶剤に溶解または分散して塗布液を調製した後、支持体の表面に均一に塗布して乾燥することにより行う。有機溶剤としては、後述する蛍光体層形成用の塗布液に使用できる溶剤の中から任意に選択して用いることができる。塗布液には更に、導電剤などを添加してもよい。接着層の層厚は、一般には1乃至50μmの範囲にあり、好ましくは3乃至30μmの範囲にある。
【0021】
この接着層はその上に光反射層を形成する際に、光反射層形成用の塗布液の溶剤によって接着層の一部(一般には1乃至50容量%)が一旦溶解することによって、支持体と光反射層との接着性を高めることができる。従って、光反射層は光反射性物質の割合が多くても支持体との接着性が高く、優れた耐久性を有することができる。また、接着層を硬化剤で硬化させることにより、光反射層形成時に接着層の樹脂が溶解して光反射層中に混入するのを防ぐことができ、支持体との高い接着性を保持できる。
【0022】
支持体(または接着層)上には、光反射層が設けられる。本発明において光反射層は、光反射性物質の粒子を分散状態で含有支持する結合剤からなり、更に高分子分散剤が含有された層である。
【0023】
光反射層は、蓄積性蛍光体を励起するための励起光に対する散乱長が5μm以下であることが望ましく、特に望ましくは、励起光に対する散乱長が4μm以下である。ここで、励起光に対する散乱長とは、励起光が一回散乱するまでに直進する平均距離を意味し、散乱長が短いほど光散乱性が高い。散乱長は、光反射層の透過率の測定値から、クベルカ・ムンクの理論に基づく計算方法により決定することができる。散乱長の決定方法については、前記特許文献1に詳細に記載されている。
【0024】
光反射性物質の例としては、Al23、ZrO2、TiO2、MgO、BaSO4、SiO2、ZnS、ZnO、CaCO3、Sb23、Nb25、2PbCO3・Pb(OH)2、PbF2、BiF3、Y23、YOCl、MIIFX(MIIはBa、Sr及びCaのうちの少なくとも一種であり、XはCl及びBrのうちの少なくとも一種である)、リトポン(BaSO4+ZnS)、ケイ酸マグネシウム、塩基性ケイ硫酸鉛、塩基性リン酸鉛、ケイ酸アルミニウムなどの白色顔料、および中空ポリマーを挙げることができる。これらの物質は単独で用いてもよいし、あるいは組み合わせて用いてもよい。これらのうちでも高い屈折率を有して好ましい物質は、Al23、Y23、ZrO2、TiO2であり、高い屈折率によって光反射層の散乱長を容易に5μm以下にすることができる。
【0025】
このような短散乱長の光反射層は、光反射性物質の粒子径を励起光の波長にできるだけ近づけることや、その形状を球形からできるだけずらして変形させることなどにより達成することができる。よって、光反射性物質の平均粒子径は励起光の波長の1/4乃至2倍の範囲にあることが好ましい。通常使用される励起光の波長は500〜800nmの範囲にあるので、光反射性物質の平均粒子径は0.1乃至2.0μmの範囲にあることが好ましい。
【0026】
また、光反射性物質のBET比表面積(単位質量当たりの表面積)は、一般には1.5m2/g以上であり、好ましくは2乃至10m2/gの範囲であり、より好ましくは2.5乃至8m2/gの範囲にある。光反射性物質の嵩密度は、1mg/cm3以下であることが好ましく、より好ましくは0.6mg/cm3以下である。ここで、嵩密度(最密充填密度)とは、光反射性物質の粉体の質量を、空隙を包含する該粉体を振動によって最密に充填したときの嵩体積で割った値である。
【0027】
このような物性を有する微粒子状の光反射性物質を用いて光反射層を形成することにより、光反射層中に空隙をより多く形成することができ、光反射性物質粒子同士が密着することがなく、高い屈折率を実現して短散乱長を達成することができる。
【0028】
本発明において高分子分散剤は、分子量が1000以上であって界面活性能を有する物質である。好ましくは、分子量が1000乃至100000の範囲にある界面活性物質である。高分子分散剤は、親水基と疎水基とからなる界面活性機能により光反射性物質の粒子表面/ビヒクル(結合剤、溶剤)界面に配向、吸着し、そして高分子鎖により粒子同士の接近を防いで粒子凝集を効率的に防ぐことができると思われる。本発明に用いられる高分子分散剤の例としては、次のようなアニオン系界面活性物質を挙げることができる。
【0029】
【化1】

【0030】
また、次のようなカチオン系界面活性物質も高分子分散剤として本発明に用いることができる。
【0031】
【化2】

【0032】
さらに、次のようなノニオン系界面活性物質も高分子分散剤として本発明に用いることができる。
【0033】
【化3】

【0034】
好ましい高分子分散剤の具体例としては、商品名ソルスパース17000(12−ヒドロキシオクタデカン酸と、N,N−ジメチル−1,3−プロパンジアミン、硫酸ジメチル等との重合反応による四元共重合体、ルブリゾル・コーポレーション製)、同じく商品名ソルスパース20000、26000、27000、28000、および商品名ディスパロンDA703-50(高分子量ポリエステル酸のアマイドアミン塩、楠本化成株式会社製)、同じく商品名ディスパロンDA-705、DA-725、DA-234、DA-325を挙げることができる。
【0035】
光反射層の形成においてはまず、上記の高分子分散剤を有機溶剤に添加混合して均一な溶液を形成する。高分子分散剤は、一般に有機溶剤に0.01重量%以上、30重量%以下の濃度で溶解する。次いで、この高分子分散剤の溶液に上記の微粒子状の光反射性物質を添加混合して均一な分散液とし、さらにこの分散液に結合剤を加えて溶解して塗布液を調製する。次に、この塗布液を支持体(または接着層)の表面に均一に塗布し、乾燥することにより光反射層を形成する。塗布液中の結合剤と光反射性物質の比率は、一般に1:10乃至1:50(重量比)の範囲にあり、好ましくは1:10乃至1:20(重量比)の範囲にある。また、高分子分散剤は一般に、光反射性物質の粒子に対して、0.01乃至10重量%の範囲(好ましくは、0.05乃至5重量%)の量にて用いられる。結合剤および有機溶剤としては、後述する蛍光体層形成用の塗布液に使用できる結合剤および溶剤の中から任意に選択して用いることができる。塗布操作は、通常の塗布手段、例えばドクターブレード、ロールコータ、ナイフコータなどを用いる方法により行うことができる。光反射層の層厚は、一般には5乃至300μmの範囲にある。
【0036】
塗布液中に高分子分散剤を添加することにより、塗布液中における微粒子状の光反射性物質の分散性を高め、そして長時間に渡ってその高い分散性を維持することができる。よって、塗布膜表面のブツ状点欠陥の発生を回避するか、もしくは顕著に減らすことができる。また、塗布液の流動性を高めることができるので、塗布膜の膜厚をほぼ均一にすることができ、塗布スジや塗布ムラの発生を防ぐことができる。
【0037】
光反射層上には、蓄積性蛍光体を含有する蛍光体層が設けられる。本発明において蓄積性蛍光体層は、画質の点から、励起光および発光光に対する散乱長が5乃至20μmの範囲にあることが好ましい。
【0038】
蓄積性蛍光体としては、波長が400〜900nmの範囲の励起光の照射により、300〜500nmの波長範囲に輝尽発光を示す輝尽性蛍光体が好ましい。そのような好ましい輝尽性蛍光体の例としては、ユーロピウム又はセリウムで付活したアルカリ土類金属ハロゲン化物系蛍光体(例、BaFBr:Eu、およびBaF(Br,I):Eu)、およびセリウム付活希土類オキシハロゲン化物系蛍光体を挙げることができる。
【0039】
これらのうちでも、基本組成式(I):

IIFX:zLn ‥‥(I)

で代表される希土類付活アルカリ土類金属弗化ハロゲン化物系輝尽性蛍光体は特に好ましい。ただし、MIIはBa、Sr及びCaからなる群より選ばれる少なくとも一種のアルカリ土類金属を表し、LnはCe、Pr、Sm、Eu、Tb、Dy、Ho、Nd、Er、Tm及びYbからなる群より選ばれる少なくとも一種の希土類元素を表す。Xは、Cl、Br及びIからなる群より選ばれる少なくとも一種のハロゲンを表す。zは、0<z≦0.2の範囲内の数値を表す。
【0040】
基本組成式(I)中のMIIとしては、Baが半分以上を占めることが好ましい。Lnとしては、特にEu又はCeであることが好ましい。また、基本組成式(I)では表記上F:X=1:1のように見えるが、これはBaFX型の結晶構造を持つことを示すものであり、最終的な組成物の化学量論的組成を示すものではない。一般に、BaFX結晶においてX-イオンの空格子点であるF+(X-)中心が多く生成された状態が、600〜700nmの光に対する輝尽効率を高める上で好ましい。このとき、FはXよりもやや過剰にあることが多い。
【0041】
なお、基本組成式(I)では省略されているが、必要に応じて下記のような添加物を基本組成式(I)に加えてもよい。

bA, wNI, xNII, yNIII

ただし、AはAl23、SiO2及びZrO2などの金属酸化物を表す。MIIFX粒子同士の焼結を防止する上では、一次粒子の平均粒径が0.1μm以下の超微粒子でMIIFXとの反応性が低いものを用いることが好ましい。NIは、Li、Na、K、Rb及びCsからなる群より選ばれる少なくとも一種のアルカリ金属の化合物を表し、NIIは、Mg及び/又はBeからなるアルカリ土類金属の化合物を表し、NIIIは、Al、Ga、In、Tl、Sc、Y、La、Gd及びLuからなる群より選ばれる少なくとも一種の三価金属の化合物を表す。これらの金属化合物としてはハロゲン化物を用いることが好ましいが、それらに限定されるものではない。
【0042】
また、b、w、x及びyはそれぞれ、MIIFXのモル数を1としたときの仕込み添加量であり、0≦b≦0.5、0≦w≦2、0≦x≦0.3、0≦y≦0.3の各範囲内の数値を表す。これらの数値は、焼成やその後の洗浄処理によって減量する添加物に関しては最終的な組成物に含まれる元素比を表しているわけではない。また、上記化合物には最終的な組成物において添加されたままの化合物として残留するものもあれば、MIIFXと反応する、あるいは取り込まれてしまうものもある。
【0043】
その他、基本組成式(II)には更に必要に応じて、Zn及びCd化合物;TiO2、BeO、MgO、CaO、SrO、BaO、ZnO、Y23、La23、In23、GeO2、SnO2、Nb25、Ta25、ThO2等の金属酸化物;Zr及びSc化合物;B化合物;As及びSi化合物;テトラフルオロホウ酸化合物;ヘキサフルオロケイ酸、ヘキサフルオロチタン酸、及びヘキサフルオロジルコニウム酸の1価又は2価の塩からなるヘキサフルオロ化合物;V、Cr、Mn、Fe、Co及びNiなどの遷移金属の化合物などを添加してもよい。さらに、本発明においては上述した添加物を含む蛍光体に限らず、基本的に希土類付活アルカリ土類金属弗化ハロゲン化物系輝尽性蛍光体とみなされる組成を有するものであれば如何なるものであってもよい。
【0044】
基本組成式(I)で表される希土類付活アルカリ土類金属弗化ハロゲン化物系輝尽性蛍光体は、通常はアスペクト比が1.0乃至5.0の範囲にある。好ましくは蓄積性蛍光体粒子は、アスペクト比が1.0乃至2.0(好ましくは、1.0乃至1.5)の範囲、粒子サイズのメジアン径(Dm)が2μm乃至10μm(好ましくは、2μm乃至7μm)の範囲、そして粒子サイズ分布の標準偏差をσとしたときのσ/Dmが50%以下(好ましくは、40%以下)のものである。また、粒子の形状としては、直方体型、正六面体型、正八面体型、14面体型、これらの中間多面体型および不定型粉砕粒子などがあるが、それらのうちでは14面体型が好ましい。
【0045】
ただし、本発明において蓄積性蛍光体は、上記基本組成式(I)で表される輝尽性蛍光体に限定されるものではない。
【0046】
蓄積性蛍光体層の形成は、まず上記粒子状の蓄積性蛍光体を結合剤と共に適当な有機溶剤に分散溶解して、塗布液を調製する。塗布液中の結合剤と蛍光体の比率は、一般に1:1乃至1:100(重量比)の範囲にあり、好ましくは1:10乃至1:50(重量比)の範囲にある。
【0047】
蓄積性蛍光体粒子を分散支持する結合剤の例としては、ゼラチン等の蛋白質、デキストラン等のポリサッカライド、またはアラビアゴムのような天然高分子物質;および、ポリビニルブチラール、ポリ酢酸ビニル、ニトロセルロース、エチルセルロース、塩化ビニリデン・塩化ビニルコポリマー、ポリアルキル(メタ)アクリレート、塩化ビニル・酢酸ビニルコポリマー、ポリウレタン、セルロースアセテートブチレート、ポリビニルアルコール、線状ポリエステル、熱可塑性エラストマーなどのような合成高分子物質を挙げることができる。なお、これらの結合剤は架橋剤によって架橋されたものであってもよい。
【0048】
塗布液調製用の有機溶剤の例としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、n−ブタノール等の低級アルコール;メチレンクロライド、エチレンクロライドなどの塩素原子含有炭化水素;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチルなどの低級脂肪酸と低級アルコールとのエステル;ジオキサン、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル;そして、それらの混合物を挙げることができる。
【0049】
塗布液には更に、塗布液中における蛍光体の分散性を向上させるための分散剤、形成後の蛍光体層中における結合剤と蛍光体との間の結合力を向上させるための可塑剤、蛍光体層の変色を防止するための黄変防止剤、硬化剤、架橋剤など各種の添加剤が混合されていてもよい。
【0050】
この塗布液を次に、光反射層の表面に前記の塗布手段を用いて均一に塗布して塗膜を形成する。この塗膜を乾燥して、光反射層上への蓄積性蛍光体層の形成を完了する。蓄積性蛍光体層の層厚は、目的とする放射線像変換パネルの特性、蛍光体の種類、結合剤と蛍光体との混合比などによっても異なるが、通常は20μm乃至1mmの範囲にあり、好ましくは50乃至500μmの範囲にある。
【0051】
蓄積性蛍光体層には更にカレンダー処理などの圧縮処理を施してもよく、これにより、蛍光体層中の蓄積性蛍光体粒子の充填密度を60容量%以上に高めて短散乱長とすることができる。
【0052】
蓄積性蛍光体層は、必ずしも一層である必要はなく、二層以上で構成されていてもよく、その場合に各層で蛍光体の種類や粒子径、結合剤と蛍光体との混合比を任意に変えることができる。すなわち、用途に応じて蛍光体層の発光特性を変化させたり、各蛍光体層の散乱長を好適な値に設定することができる。また、必ずしも蓄積性蛍光体層を光反射層上に直接形成する必要はなく、別に用意した基板(仮支持体)上に蛍光体層を形成した後、蛍光体層を基板から引き剥がし、光反射層上に接着剤などを用いて接着してもよい。
【0053】
蓄積性蛍光体層の表面には、放射線像変換パネルの搬送および取扱い上の便宜や特性変化の回避のために、保護層を設けることが望ましい。保護層は、励起光の入射や発光光の出射に殆ど影響を与えないように、透明であることが望ましく、また外部から与えられる物理的衝撃や化学的影響から放射線像変換パネルを充分に保護することができるように、化学的に安定で防湿性が高く、かつ高い物理的強度を持つことが望ましい。
【0054】
保護層としては、セルロース誘導体、ポリメチルメタクリレート、有機溶媒可溶性フッ素系樹脂などのような透明な有機高分子物質を適当な溶媒に溶解して調製した溶液を蛍光体層の上に塗布することで形成されたもの、あるいはポリエチレンテレフタレートなどの有機高分子フィルムからなる保護層形成用シートを別に形成して蛍光体層の表面に適当な接着剤を用いて設けたもの、あるいは無機化合物を蒸着などによって蛍光体層上に成膜したものなどが用いられる。また、保護層中には酸化マグネシウム、酸化亜鉛、二酸化チタン、アルミナ等の光散乱性微粒子、パーフルオロオレフィン樹脂粉末、シリコーン樹脂粉末等の滑り剤、およびポリイソシアネート等の架橋剤など各種の添加剤が分散含有されていてもよい。保護層の層厚は一般に、高分子物質からなる場合には約0.1乃至20μmの範囲にある。
【0055】
保護層の表面にはさらに、保護層の耐汚染性を高めるためにフッ素樹脂塗布層を設けてもよい。フッ素樹脂塗布層は、フッ素樹脂を有機溶媒に溶解(または分散)させて調製したフッ素樹脂溶液を保護層の表面に塗布し、乾燥することにより形成することができる。フッ素樹脂は単独で使用してもよいが、通常はフッ素樹脂と膜形成性の高い樹脂との混合物として使用する。また、ポリシロキサン骨格を持つオリゴマーあるいはパーフルオロアルキル基を持つオリゴマーを併用することもできる。フッ素樹脂塗布層には、干渉むらを低減させて更に放射線画像の画質を向上させるために、微粒子フィラーを充填することもできる。フッ素樹脂塗布層の層厚は通常は0.5乃至20μmの範囲にある。フッ素樹脂塗布層の形成に際しては、架橋剤、硬膜剤、黄変防止剤などのような添加成分を用いることができる。特に架橋剤の添加は、フッ素樹脂塗布層の耐久性の向上に有利である。
【0056】
上述のようにして、図1に示すような本発明の放射線像変換パネルを得ることができる。図1において、本発明の放射線像変換パネルは、支持体11、光反射層12、蓄積性蛍光体を含有する蛍光体層13、および透明保護層14とから構成されている。
【0057】
本発明のパネルの構成は、公知の各種のバリエーションを含むものであってもよい。たとえば、得られる画像の鮮鋭度を向上させることを目的として、上記の少なくともいずれかの層を、励起光を吸収し発光光は吸収しないような着色剤によって着色してもよい。あるいは、更にX線などの放射線を吸収して紫外乃至可視領域に瞬時発光を示す蛍光体(放射線吸収用蛍光体)を含有する層を設けてもよい。そのような蛍光体の例としては、LnTaO4:(Nb,Gd)系、Ln2SiO5:Ce系、LnOX:Tm系(Lnは希土類元素である)、CsX系(Xはハロゲンである)、Gd22S:Tb、Gd22S:Pr,Ce、ZnWO4、LuAlO3:Ce、Gd3Ga512:Cr,Ce、HfO2等を挙げることができる。
【0058】
なお、これまでの説明において、蓄積性蛍光体を含有する蛍光体層を、蓄積性蛍光体粒子と結合剤とからなる塗布液の塗布により形成する蛍光体層として説明してきた。しかしながら、蓄積性蛍光体を含有する蛍光体層として、蒸着法などの気相堆積法により真空装置内で蓄積性蛍光体もしくはその構成成分を基板上に堆積させて形成する蛍光体層も公知であり、本発明の放射線像変換パネルの蛍光体層は、このような公知の各種製法による蛍光体層であってもよい。
【実施例】
【0059】
[実施例1]
(1)接着層及び光反射層の形成
樹脂:飽和ポリエステル樹脂(バイロン300、東洋紡(株)製)のMEK
溶液[固形分30重量%] 200g
硬化剤:ポリイソシアネート(オレスターNP38-70S[固形分70%]、
三井東圧(株)製) 20g
導電剤:SnO2(Sbドープ)針状微粒子(長軸:0.2〜2μm、
短軸:0.01〜0.02μm、FS-10P、石原産業(株)
製)のMEK分散体[固形分30重量%] 500g
【0060】
上記組成の材料をメチルエチルケトン(MEKとも略す)50gに加え、混合分散して粘度約0.02〜0.05Pa・sの塗布液を調製した。この塗布液をポリエチレンテレフタレートシート(支持体、厚み:188μm、ヘイズ度:約27、ルミラーS-10、東レ(株)製)の表面に、500mmの幅で機械塗布し乾燥して、接着層(層厚:4μm)を形成した。
【0061】
次に、MEK800gに、高分子分散剤としてソルスパース26000(ルブリゾル・コーポレーション製)15gを添加し、撹拌混合して均一な溶液を得た。この溶液に、光反射性物質として高純度アルミナ微粒子(平均粒子径:0.4μm、UA-5105、昭和電工(株)製)1000gを添加し、混合分散した。得られた分散液に更に下記組成の材料を加え、溶解、分散して粘度1〜4Pa・sの塗布液(結合剤/光反射性物質の重量比:約1/22)を調製した。
【0062】
結合剤:軟質アクリル樹脂(クリスコートP-1018GS[20%トル
エン溶液]、大日本インキ化学工業(株)製) 225g
着色剤:群青(SM-3、第一化成工業(株)製) 5g
【0063】
この塗布液を接着層の表面にギーサーにより490mmの幅で機械塗布し乾燥して、光反射層(層厚:約100μm)を形成した。
【0064】
(2)蛍光体層の形成
14面体型輝尽性蛍光体粒子:BaF(Br0.85I0.15):Eu2+
(平均粒子径(Dm):5μm) 1000g
結合剤:ポリウレタンエラストマー(パンデックスT-5265H、大日本インキ
化学工業(株)製)のMEK溶液[固形分13重量%] 182g
架橋剤:ポリイソシアネート(コロネートHX[固形分100%]、
日本ポリウレタン工業(株)製) 3g
黄変防止剤:エポキシ樹脂(エピコート#1001[固形]、
油化シェルエポキシ(株)製) 6.7g
【0065】
上記組成の材料をMEK86gに加え、プロペラミキサを用いて10000rpmで30分間混合分散して、粘度3Pa・sの塗布液(結合剤/蛍光体の重量比:1/30)を調製した。この塗布液をシリコーン系離型剤が塗布されたポリエチレンテレフタレートシート(仮支持体、厚み:190μm)の表面に、470mmの幅で機械塗布し乾燥した後、仮支持体から引き剥がして、蛍光体シート(厚み:400μm)を作製した。
【0066】
支持体上の光反射層表面に、上記蛍光体シートを塗布形成時の裏面(仮支持体側)が接するようにして重ね、これをカレンダー機を用いて総荷重2300kg、上側ロール温度45℃、下側ロール温度45℃、送り速度0.3m/分にて熱圧縮した。これにより、蛍光体層は光反射層に完全に融着した。熱圧縮後の蛍光体層の層厚300μm、蛍光体粒子の充填密度3.40g/cm3(65容量%)であった。
【0067】
(3)保護層の形成
高分子物質:フルオロオレフィン・ビニルエーテルコポリマー(ルミフロン
LF-504X[30%キシレン溶液]、旭硝子(株)製) 76g
架橋剤:ポリイソシアネート(スミジュールN3500[固形分100%]、
住友バイエルウレタン工業(株)製) 7.5g
触媒:ジブチルチンジラウレート(KS1260、共同薬品(株)製) 0.25mg
【0068】
上記組成の材料をMEK38gに加え、混合溶解して塗布液を調製した。この塗布液を蛍光体層の表面に塗布し乾燥して、保護層(層厚:3μm)を形成した。このようにして得られた積層体を200mm×250mmのサイズに裁断して、順に支持体、導電性接着層、光反射層、蓄積性蛍光体層および保護層から構成された本発明の放射線像変換パネルを得た。
【0069】
[実施例2]
実施例1において、光反射層形成用塗布液を調製して24時間放置した後、この塗布液を用いて接着層表面に塗布、乾燥して光反射層を形成したこと以外は実施例1と同様にして、本発明の放射線像変換パネルを製造した。
【0070】
[比較例1]
実施例1において、光反射層用塗布液材料(溶剤:MEK930g)に高分子分散剤を使用しなかったこと、および光反射層形成用塗布液を調製して24時間放置した後、この塗布液を用いて接着層表面に塗布、乾燥して光反射層を形成したこと以外は実施例1と同様にして、比較のための放射線像変換パネルを製造した。
【0071】
[放射線像変換パネルの性能評価]
放射線像変換パネルについて、以下のようにして評価を行った。
実施例1、2及び比較例1において、光反射層を形成した段階で光反射層表面を目視により観察してブツ状の点欠陥の有無を調べた。
【0072】
実施例1と2では、光反射層表面10cm×10cmの領域内に点欠陥が1個も見つからなかった。一方、比較例1では、10cm×10cmの領域内に5個の点欠陥が見つかった。このことから、高分子分散剤が添加された光反射層を有する本発明の放射線像変換パネル(実施例1、2)は、光反射層に高分子分散剤が添加されていない比較のための放射線像変換パネル(比較例1)に比べて、光反射層中の光反射性物質の分散性が良好であり、光反射層表面のブツ状の点欠陥の発生を有効に防止することができ、よって画像上に点欠陥が生じない高画質の放射線画像を与えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明の放射線像変換パネルの構成の例を示す図である。
【符号の説明】
【0074】
11 支持体
12 光反射層
13 蓄積性蛍光体を含有する蛍光体層
14 透明保護層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓄積性蛍光体を含有する蛍光体層およびその片面に設けられた光反射層を有する放射線像変換パネルにおいて、該光反射層が少なくとも、光反射性物質の粒子、該粒子を分散状態で含有支持する結合剤および高分子分散剤からなることを特徴とする放射線像変換パネル。
【請求項2】
支持体、光反射層、蓄積性蛍光体を含有する蛍光体層、および透明保護層を有する放射線像変換パネルにおいて、該光反射層が少なくとも、光反射性物質の粒子、該粒子を分散状態で含有支持する結合剤および高分子分散剤からなることを特徴とする放射線像変換パネル。
【請求項3】
光反射性物質が白色顔料である請求項1もしくは2に記載の放射線像変換パネル。
【請求項4】
光反射性物質が、アルミナ、酸化イットリウム、酸化ジルコニウムおよび酸化チタンからなる群より選ばれる少なくとも一種の白色顔料である請求項3に記載の放射線像変換パネル。
【請求項5】
光反射性物質の粒子の平均粒子径が0.1乃至2.0μmの範囲にある請求項1乃至4のうちのいずれかの項に記載の放射線像変換パネル。
【請求項6】
結合剤と光反射性物質の重量比(前者:後者)が1:10乃至1:50の範囲にある請求項1乃至5のうちのいずれかの項に記載の放射線像変換パネル。
【請求項7】
高分子分散剤が、分子量が1000以上の界面活性物質である請求項1乃至6のうちのいずれかの項に記載の放射線像変換パネル。
【請求項8】
高分子分散剤が、光反射層に光反射性物質の粒子に対して0.01乃至10重量%の範囲の量で含有されている請求項1乃至7のいずれかの項に記載の放射線像変換パネル。
【請求項9】
蓄積性蛍光体を励起するための励起光に対する光反射層の散乱長が5μm以下である請求項1乃至8のいずれかの項に記載の放射線像変換パネル。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2006−226912(P2006−226912A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−42875(P2005−42875)
【出願日】平成17年2月18日(2005.2.18)
【出願人】(000005201)富士写真フイルム株式会社 (7,609)
【Fターム(参考)】