説明

放射線吸収量測定装置

【課題】被曝線量を簡易にしかも正確に測定するため、歯石を検出媒体とする放射線吸収量測定装置を提供する。
【解決手段】歯石は放射線の照射によって不対電子ができ、しかもこの寿命は長いため、その歯石中の不対電子を電子スピン共鳴装置を用いて測定し、放射線吸収量を推定することで被曝線量を測定できる。また、放射線照射によって不対電子を発生しやすい石英などをペンダント、ネックレス、腕輪、イヤリングなどにして常時肌身につけ、放射線吸収量を推定することも可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
特に人間や動物に照射された放射線の積分量を測定する装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
放射線吸収量測定装置として、熱量計、電離箱、熱ルミネッセンス線量計などが知られているが、感度が悪い、扱いが難しい、他の線量計で校正しなければならないなどの欠点があった。そこで、電子スピン共鳴法(ESR法)による測定法が注目されている。なお、この測定法に用いる試料は家の中にあるガラス製の花瓶、窓ガラス、プラスチック、人が身につけているメガネ、ボタンなどがある。しかし、家の中に在る物は、人体が被爆したときの放射線吸収量すなわち被爆しつつある積分量と1:1で対応していない。
また、歯に関しては歯を抜かないで測定するのは難しい。爪の放射線吸収量の寿命は3週間程度と現実的でない場合が多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
なし
【0004】
【非特許文献】
【非特許文献】[1]Development of a compact electron spin resonance system for measuring esr signals of irradiated fingernails.;Suzuki Hirosuke;Tamukai Kenji ;Yoshida Naoki ;Ohya Hiroaki ;Kato Katsuhisa ;Anzai Kazunori ;Swartz Harold M. Health Physics:Feburuary 2010−Volume 98−Issue2−pp318−321
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
背景技術で述べたように、特定の人間が移動して生活している間に被爆した場合に、常時被爆量を積分し、しかも無理なく測定したい。この要望を解決するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
動物の歯には歯石ができる。この歯石は放射線の照射によって不対電子ができる。しかもこの寿命は長い。この不対電子を電子スピン共鳴装置を用いて測定し、放射線吸収量を推定する。また、放射線照射によって不対電子を発生しやすい石英などをペンダント、ネックレス、腕輪、イヤリングなどにして常時肌身につけておく。この不対電子を測定する。
【発明の効果】
【0007】
歯を抜いて測定しなくても良くなった。爪の放射線吸収量に頼る必要が無く、被爆から3週間で測定値が減衰してしまうことも無い。また、被爆から3週間以内でも、伸びてきても爪を切れないという問題も無くなった。なお、石英を身につけておくと放射線吸収量を正確に記録してくれるなどの効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】歯石の電子共鳴スペクトル
【図2】石英などを使った、身につける首飾り、腕輪の一例
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1のようなスペクトルの強さで、放射線吸収量が推定できる。また、図2のように首飾りや腕輪として石英などを身に付けておくと良い。
【実施例】
【0010】
金属製の幅3mm厚さ1mmの板の先端が2mm程度直角に曲がっていて、しかも直角に曲がっている先端の厚さが更に薄くなっている引っ掛け棒を用意した。これを用いて71歳男性の中央部の下歯から歯石を取った。なお、引っかくことにより歯石に不対電子が発生する可能性を排除するため、歯石を純水に10分浸してから取り出し、ティッシュペーパーで水分を除去した。この歯石は幅2mm、長さ2.5mm、厚さ0.5mmで、これに近い試料を3つ揃えた。3つ分で容積は7.5×10−3cmであり、質量は0.021gであった。この試料を内径4mmの石英管に入れ、9.6GHzタイプの電子スピン共鳴器に入れ測定した。なお、磁場は334mT附近であった。また、Mnの標準試料で校正し、放射線が未照射の1mgの場合の値として図1Aに強さDとして示した。
未照射でも強さDを示すのは自然の放射線の影響と考えられる。次にこの歯石に1Gyの放射線を照射して電子スピン共鳴器で測定し、1mgで標準化した結果をBに示した。なお、1Gy照射による強度はEであった。すなわちE−Dの値が1Gyの放射線の照射を示す値となる。なお、9.6GHzの電磁波強度は0.4mWとしたが、16mWまた4mWの場合と比較して精度を高めるのも良い。また、歯そのものには太陽光の内の紫外線などの影響を受けている可能性があるが、歯石は歯の裏側なので紫外線の影響が少ないという利点がある。しかし、歯の治療時にはX線の被爆を受けているので、この影響は考慮する必要がある。なお、歯石は無機質と有機質からなり、無機質は燐酸カルシウムを主成分とし、他に炭酸カルシウムや燐酸マグネシウムを含んでいる。
また、有機質は菌体成分、剥離上皮細胞、白血球及びたんぱく質も含まれている。これらのどの部分から不対電子が発生するか明確ではないが、G値が2.04程度なので放射線照射によって3価の酸素が発生されると思われる。
【0011】
直径5mmの中央に2mmの穴の開いた長さ7mmの合成石英にひもを通して首飾りと腕輪を製作し、図2にJとKで示した。原子力発電所の近くに住んでいる人などは、これらを身に付けておくと良い。石英を放射線が通過するとダングリングボンドなどが発生し、この不対電子を電子スピン共鳴器などで測定することによって、放射線吸収量を推定でき、定期的に測定することによって健康管理を行うことができる。なお、石英以外でも水晶、ガラス、セトモノなどでも同一製品が製造可能であれば使用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0012】
原子力発電所などで放射能漏洩事故が発生した場合、まず放射線の種類と強度を知ることが必要となる。この測定にはガイガーカウンターやシンチレーションカウンターが使われる。次に人体などの内部被爆をボディーカウンターなどを用いて測定する。そして、人体などが放射線を浴び続けたことによる放射線吸収量を測定する必要がある。この時に本発明の装置が役に立つ。
【符号の説明】
【0013】
A 歯石に放射線未照射のスペクトラム
B 歯石に放射線を1Gy照射したときのスペクトラム
C 基準とするMnのスペクトラム
D 歯石のスペクトラム(未照射時)
E 歯石のスペクトラム(1Gy照射時)
J 先端に石英ロッドが付いた首飾り
K 一部に石英ロッドが付いた腕輪

【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯石の不対電子量を用いて放射線吸収量を測定する装置。
【請求項2】
歯から歯石を取り外し、その歯石の不対電子量を測定することによって、放射線吸収量を推定する装置。
【請求項3】
歯石に既知量の放射線を照射した標準品の単位質量あたりの不対電子量と試料の単位質量あたりの不対電子量を比較することにより、放射線吸収量を推定する装置。
【請求項4】
電子スピン共鳴器を用いて不対電子量を測定することを特長とした、請求項1から3の放射線吸収量推定装置。
【請求項5】
放射線吸収量を推定したい対象物に取付けた石英などの、放射線で不対電子を発生しやすい物質を試料およびまたは標準品とした、請求項1から4の放射線吸収量推定装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−54020(P2013−54020A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−206600(P2011−206600)
【出願日】平成23年9月4日(2011.9.4)
【出願人】(502383889)キーコム株式会社 (28)
【Fターム(参考)】