説明

放射線検出装置、放射線検出システム及び放射線検出方法

【課題】高計数時にパイルアップに起因する計数損失を最小化すること。
【解決手段】実施形態の放射線検出装置は、レートカウンタと、コントローラとを備える。レートカウンタは、フィルタリング処理を行なう可調節なフィルタにより濾波された信号に基づいて、放射線検出器により検出されたイベントの計数率を推定する。コントローラは、レートカウンタにより推定された計数率である推定計数率に基づいて、エネルギー分解能を最適化するようにフィルタのフィルタリング処理を調節するためのフィルタリング制御信号を生成し、フィルタリング制御信号をフィルタに出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、放射線検出装置、放射線検出システム及び放射線検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポジトロン断層撮影(Positron Emission Tomography:PET)イメージングでは、注射、吸入、及び/又は、摂取によって、患者に放射性医薬品が投与される。投与後、薬剤の物理的特性及び生体分子的特性により、薬剤は、人体内の特定部位に集中する。実際の空間分布、蓄積点の強度、及び/又は、蓄積領域の強度、並びに投与、捕獲から最終的な排出に至るプロセスの動態は、全て、臨床的に重要な意味を持つ。このプロセスの間に、放射性医薬品に付着させた1つのポジトロン放出体は、半減期、分岐比、等の同位体の物理的性質に従ってポジトロンを放出する。
【0003】
各ポジトロンは、被検体の電子と相互に作用して対消滅し、511keVにおいて2つのガンマ線を生成する。それら2つのガンマ線は、略180度離れて進行する。そして、それら2つのガンマ線は、PET検出器のシンチレーション結晶においてシンチレーションイベント(scintillation event)を誘発し、これにより、PET検出器は、ガンマ線を検出する。それら2つのガンマ線を検出し、検出位置同士を結ぶ線、すなわち、同時計数線(Line−Of−Response:LOR)を引くことによって、蓋然性の高い元の対消滅位置が判定される。このプロセスは、相互作用が起こっている可能性のある線を1本識別するだけのことであるが、それらの線を数多く蓄積し、断層を再構成するプロセスを用いることにより、実用的な精度で元の分布が推定される。2つのシンチレーションイベントの位置に加えて、数百ピコ秒以内の正確なタイミングが利用可能なら、飛行時間(Time−Of−Flight:TOF)の算出によって、識別した線において、対消滅イベント(annihilation event)が起こった可能性の高い位置に関する情報を、更に、加えることができる。同位体の特定の特性(例えば、ポジトロンのエネルギー)は、(ポジトロンの飛程及び2つのガンマ線の共直線性を介して)特定の放射性医薬品に対する空間分解能が決まる要因となる。
【0004】
上記のプロセスは、多数の対消滅イベントに対して反復される。所望のイメージング作業を行うための裏づけとなるのにシンチレーションイベントがどれだけ必要になるのかを判定するには、あらゆる事例を解析しなければならないものの、典型的な長さ100cmのスキャンにおけるFDG(Fluoro−Deoxyglucose:フルオロデオキシグルコース)の研究では、従来から約1億の計数(count)、又は、イベントが蓄積されている。
【0005】
図9は、従来のPETシステムを示す機能ブロック図であり、図10は、図9に示す従来のPETシステムのための従来のフィルタを示す図である。図9に示すように、イベント900の検出は、従来から、放射線検出器である光電子増倍管(photomultiplier tube:PMT)902によって実施されている。PMT902は、アナログの出力信号を有する。この信号は、フィルタ904により濾波され、アナログデジタル変換器(Analog-to-Digital Converter:ADC)906によりアナログ信号からデジタル信号に変換される。次いで、その濾波され変換された信号は、デジタル信号処理ユニット908に出力される。このユニットは、イベントのエネルギー、タイミング及び位置を得るためのアルゴリズムを実行しながら、イベントの計数と、時間のサンプリングとを実行する。フィルタ904は、従来から、様々な計数率(count rate)で効果的に動作するように設計されてきており、従来から、図10に示すようなRCフィルタ(Resistor-Capacitor Filter)を含んでいる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】L. Fabris et al. “Simultaneous Ballistic Deficit Immunity and Resilience to Parallel Noise Sources: A New Pulse Shaping Technique” IEEE Transaction on Nuclear Science, Vol. 48, issue 3, pp. 450-454
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、高計数時にパイルアップに起因する計数損失を最小化することができる放射線検出装置、放射線検出システム及び放射線検出方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
実施形態の放射線検出装置は、レートカウンタと、コントローラとを備える。レートカウンタは、フィルタリング処理を行なう可調節なフィルタにより濾波された信号に基づいて、放射線検出器により検出されたイベントの計数率を推定する。コントローラは、前記レートカウンタにより推定された計数率である推定計数率に基づいて、エネルギー分解能を最適化するように前記フィルタのフィルタリング処理を調節するためのフィルタリング制御信号を生成し、前記フィルタリング制御信号を前記フィルタに出力する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、本開示の一態様に係る適応性フィルタリング及び適応性サンプリングを示す機能ブロック図である。
【図2A】図2Aは、図1に示す適応性のフィルタユニットに内蔵される適応性フィルタの例を示す図(1)である。
【図2B】図2Bは、図1に示す適応性のフィルタユニットに内蔵される適応性フィルタの例を示す図(2)である。
【図2C】図2Cは、図1に示す適応性のフィルタユニットに内蔵される適応性フィルタの例を示す図(3)である。
【図2D】図2Dは、図1に示す適応性のフィルタユニットに内蔵される適応性フィルタの例を示す図(4)である。
【図3】図3は、本開示の一態様に係るデジタル信号処理ユニットによって実施される適応性フィルタリング及び適応性サンプリングを示す機能ブロック図である。
【図4】図4は、図1及び図3に係るデジタル信号処理ユニットの機能的ハードウェア構成を示す図である。
【図5A】図5Aは、本開示の一態様に係る適応性フィルタリング及び適応性サンプリングを得るためのアルゴリズムを示すフローチャート(1)である。
【図5B】図5Bは、本開示の一態様に係る適応性フィルタリング及び適応性サンプリングを得るためのアルゴリズムを示すフローチャート(2)である。
【図5C】図5Cは、本開示の一態様に係る適応性フィルタリング及び適応性サンプリングを得るためのアルゴリズムを示すフローチャート(3)である。
【図6】図6は、本開示の一態様に係る、推定計数率に基づいて制御信号を伝送するプロセスのアルゴリズムを示すフローチャートである。
【図7】図7は、図1に示す機能ブロック図に改変を加えた態様を示す図である。
【図8】図8は、図3に示す機能ブロック図に改変を加えた態様を示す図である。
【図9】図9は、従来のPETシステムを示す機能ブロック図である。
【図10】図10は、図9に示す従来のPETシステムのための従来のフィルタを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本開示は、放射線検出を行うための、具体的には、適応性フィルタ及び適応性サンプリングレートを有するアナログデジタル変換器を利用することによって、様々な計数率において測定可能なエネルギーのSN比(signal-to-noise ratio)を最適化するための装置、システム、アルゴリズム及びプロセスを対象とする。
【0011】
前に指摘したように、PETシステム等の放射線検出システムでは、エネルギー情報を得るのに、従来からフィルタが使用されてきたが、それらは、従来から、広範囲にわたる動作条件に適合するエネルギー分解能の特性を得るために最適化されてきた。これらのフィルタは、従来から、低い計数率に合わせて最適化されてきた。しかし、かかるフィルタは、異なる計数率に合うように汎用的には最適化されておらず、従来の最適化は、高計数率におけるパイルアップ(pile-up)効果に起因して、悪化し始める。本開示の態様は、最適化の悪化を補正するとともに、得られたカウント情報を効率的に管理することを対象としており、具体的には、放射線検出器によって検出されたイベントの計数率を推定して監視し、異なる計数率で性能が最適化されるように適応的にフィルタパラメータを調節し、且つ/又は、電力使用を低減するように適応的にアナログデジタル変換器のサンプリングレートを調節するフィードバックシステムを対象とする。
【0012】
一実施形態では、本開示は、レートカウンタ(rate counter)及びコントローラ(controller)を含む放射線検出装置を対象とする。レートカウンタは、可調節なフィルタにより濾波された信号に基づいて、放射線検出器により検出されたイベントの計数率を推定する。コントローラは、推定計数率に基づいて、制御信号(フィルタリング制御信号)を生成し、制御信号(フィルタリング制御信号)をフィルタに出力する。その制御信号(フィルタリング制御信号)は、エネルギー分解能を最適化するようにフィルタのフィルタリング処理を調節させるものである。好ましくは、上記装置は、放射線検出器から出力された信号を濾波するフィルタを含み、そのフィルタは、信号に適用されるフィルタリング処理を調節するための可調節部分を含んでいる。フィルタは、濾波後の信号をレートカウンタに出力する。
【0013】
本態様では、上記フィルタの可調節部分は、制御信号(フィルタリング制御信号)によって調節されるRC時定数(RC time constant)を有することが好適であり、更には、そのRC時定数は、推定計数率が閾値を超えて上昇する量と直接的な関係を有する量により、初期値から短縮されることが好ましい。
【0014】
いくつかの態様では、フィルタは、抵抗と、キャパシタとを含んでいる。これらの抵抗及びキャパシタは、RC時定数を調節するように、制御信号(フィルタリング制御信号)によって動作及び不動作が切り替えられる。他の態様では、フィルタは、電圧制御キャパシタ、電圧制御ダイオードキャパシタ及び電圧制御抵抗のうちの少なくとも1つを含む電圧制御コンポーネントを含んでいる。これらの態様では、制御信号(フィルタリング制御信号)は、フィルタのRC時定数を調節するように電圧制御コンポーネントを調節するバイアス電圧である。フィルタが帯域幅可調節フィルタであることも好適である。
【0015】
更に、別の態様では、上記装置は、信号をアナログ信号からデジタル信号に変換し、アナログ信号をサンプリングする際の可調節なサンプリングレートを有するアナログデジタル変換器(Analog-to-Digital Converter:ADC)を含んでいる。本態様では、コントローラは、更に、推定計数率に基づいて、制御信号(サンプリング制御信号)を生成し、その制御信号(サンプリング制御信号)をADCに出力する。この制御信号(サンプリング制御信号)は、ADCが推定計数率に基づいてサンプリングレートを調節する。
【0016】
1つの態様では、フィルタは、デジタルフィルタであり、ADCは、放射線検出器から出力された信号を、フィルタが濾波する前に、アナログ信号からデジタル信号に変換する。更に、別の態様では、上記装置は、更に、デジタル信号に変換される前に、アナログ信号を濾波するアナログフィルタを含んでいる。そのアナログフィルタは、アナログ信号に適用されるアナログフィルタリング処理を調節するための可調節部分(アナログ可調節部分)を含み、コントローラは、更に、推定計数率に基づいて、制御信号(アナログフィルタリング制御信号)を生成し、その制御信号(アナログフィルタリング制御信号)をアナログフィルタに出力する。この制御信号(アナログフィルタリング制御信号)は、エネルギー分解能を最適化するようにアナログフィルタのフィルタリング処理を調節させる。
【0017】
別の態様では、フィルタは、アナログフィルタである。この場合、ADCは、フィルタがフィルタリング処理した後に、信号をアナログ信号からデジタル信号に変換する。
【0018】
別の実施形態では、本開示は、アナログデジタル変換器(Analog-to-Digital Converter:ADC)によってアナログ信号からデジタル信号に変換された信号に基づいて、放射線検出器により検出されたイベントの計数率を推定するレートカウンタ及びコントローラを含む放射線検出装置を対象とする。そのコントローラは、その推定計数率に基づいて、制御信号(サンプリング制御信号)を生成し、その制御信号(サンプリング制御信号)をADCに出力する。その制御信号(サンプリング制御信号)は、ADCにサンプリングレートを調節させるものである。上記装置は、ADCも含んでいることが好適である。この場合、ADCは、アナログ信号をサンプリングする際の可調節なサンプリングレートを有するものであり、デジタル信号をレートカウンタに出力する。
【0019】
本実施形態の更に別の態様では、サンプリング制御信号は、推定計数率が予め規定された値から低下する量と直接的な関係を有する量により、ADCのサンプリングレートを初期値から低下させるように生成される。その初期値は、ADCの最速サンプリングレートであることが好適である。
【0020】
更に、別の実施形態では、本開示は、放射線検出システムを対象とする。上記システムは、イベントを検出した結果としてアナログ信号を生成する放射線検出器と、そのアナログ信号を濾波し、そのアナログ信号に適用されるフィルタリング処理を調節するためのアナログ可調節部分を含むフィルタ(アナログフィルタ)とを含んでいる。上記システムは、更に、アナログ信号をデジタル信号に変換するアナログデジタル変換器(Analog-to-Digital Converter:ADC)及びデジタル信号処理ユニット(Digital Signal Processing Unit:DSP)も含んでいる。DSPは、(1)デジタル信号から、放射線検出器により検出されたイベントの計数率を推定し、(2)その推定計数率に基づいてアナログフィルタリング制御信号を生成し、(3)そのアナログフィルタリング制御信号をフィルタ(アナログフィルタ)の可調節部分(アナログ可調節部分)に出力して、エネルギー分解能を最適化するようにアナログ信号に適用される前記フィルタリング処理を調節する。
【0021】
本実施形態の更に別の態様では、ADCは、アナログ信号をサンプリングする際の可調節なサンプリングレートを調節するためのサンプリング可調節部分を含んでいる。この場合、デジタル信号処理ユニットは、更に、推定計数率に基づいて、サンプリング制御信号を生成し、そのサンプリング制御信号を前記ADCに出力して、アナログ信号がサンプリングされるサンプリングレートを調節する。本実施形態の別の態様では、放射線検出器は、光電子増倍管(Photo Multiplier Tube:PMT)、テルル化カドミウム(cadmium telluride:CdTe)系の放射線検出器、及びシリコン光電子増倍管(Silicon Photomultiplier:SiPM)のうちのいずれかである。
【0022】
別の実施形態によれば、本開示は、放射線検出方法を対象とする。上記方法は、放射線検出器から出力された信号を取り込むことを含む。この信号は、イベントを検出した時に放射線検出器によって生成され、可調節なパラメータを有するフィルタによって濾波された信号である。イベントの計数率は、取り込んだ信号に基づいて、レートカウンタにより推定される。次いで、その推定計数率に基づいて、フィルタのパラメータを調節するためのフィルタリング制御信号が生成され、そのフィルタリング制御信号は、エネルギー分解能を最適化するために、フィルタに伝送される。
【0023】
本実施形態では、上記パラメータは、RC時定数であることが好適である。この場合、伝送された制御信号(フィルタリング制御信号)は、推定計数率が予め規定された閾値を超えて上昇する量と直接的な関係を有する量により、RC時定数を初期値より短縮する。
【0024】
取り込まれた信号が、アナログデジタル変換器(Analog-to-Digital Converter:ADC)により、アナログ信号からデジタル信号に変換されることも、好適である。ADCは、アナログ信号をサンプリングする際のサンプリングレートを有する。この場合、推定計数レートに基づいて、サンプリング制御信号も生成され、ADCのサンプリングレートを調節するために、伝送される。
【0025】
更に、別の実施形態によれば、本開示は、別の放射線検出方法を対象とする。この方法は、照射検出器から出力された信号を取り込むことを含む。この信号は、イベントを検出した時に放射線検出器によって生成され、可調節なサンプリングレートを有するアナログデジタル(Analog-to-Digital:AD)変換器によりアナログ信号からデジタル信号に変換された信号である。計数率は、取り込んだ信号に基づいて、レートカウンタにより推定される。その推定計数率に基づいて、ADCのサンプリングレートを調節するためのサンプリング制御信号が生成され、そのサンプリング制御信号は、ADCに伝送される。
【0026】
本実施形態では、サンプリング制御信号は、推定計数率が予め規定された値から低下する量と直接的な関係を有する量により、ADCのサンプリングレートを初期値から低下させるように生成されることが好適である。更に、その初期値は、ADCの最速サンプリングレートであることが好適である。
【0027】
上述した本開示の態様のいくつかによれば、フィルタの可調節部分は、フィルタのRC時定数、従って、放射線検出器からの出力パルス信号の波形整形特性、に影響を及ぼす。好適な態様では、フィルタは、帯域幅可調節フィルタであり、アナログフィルタ又はデジタルフィルタ(又はそれらの組み合わせ)のいずれかで活用されるローパスフィルタ回路機構、ハイパスフィルタ回路機構及びバンドパスフィルタ回路機構の組み合わせを含むことができる。
【0028】
これらの態様では、RC時定数は、計数率が閾値を上回る量と直接的な関係を有する量により短縮される。換言すると、RC時定数は、計数率が上昇するときに短縮される。例えば、電圧帰還(voltage feedback)を使ってバイアスがかけられる電圧制御ダイオードキャパシタを利用した時は、バイアス電圧が上がると電圧制御ダイオードキャパシタの容量が減少するため、計数率が上昇すると、RC時定数は短くなる。RC時定数が短縮化すると、高計数率時にパイルアップ効果が低下し、従って、良好なSN比が得られるとともに、動作条件に応答して、具体的には計数率に応答して、検出されたイベントのエネルギー分解能が最適化するようにフィルタが最適化する。
【0029】
フィルタは、動作条件に応答して調節することが可能なため、電子出力信号を生成する広範な放射線検出器に適用することができる。かかる検出器の例として、PMT、テルル化カドミウム(cadmium telluride:CdTe)系照射検出器、及びシリコン光電子増倍管(Silicon Photomultiplier:SiPM)が挙げられる。ただし、本開示の態様は、他の放射線検出器にも適用することができる。
【0030】
可調節なフィルタの態様は、放射線検出器からのアナログ信号をADCによるデジタル信号への変換後に取り込むデジタルフィルタとして具現化することもできる。更に、本開示の態様は、アナログフィルタ及びデジタルフィルタの両方を利用することを対象とする。なお、これらのフィルタの一方又は両方は、推定され、監視される計数率に基づいて調節される可調節部分を含んでいる。
【0031】
上述の態様では、ADCは、アナログ信号をサンプリングするサンプリングレートを有しており、推定計数率に基づいて、そのサンプリングレートを調節するために、レートカウンタから制御信号(サンプリングレート制御信号)を取り込む入力部を含んでいる。ADCは、最初は、おそらくADCの最速のサンプリングレートとなるような、ある初期値に設定されることが好適である。次いで、そのサンプリングレートは、計数率が予め規定された値から低下する量と直接的な関係を有する量により、その初期値より下げられることになる。結果として、計数率が最速のサンプリングレートを必要としない時に、ADCのサンプリングレートを下げることによって、省電力を達成することができる。
【0032】
本開示の好適な態様では、ADCの出力は、デジタル信号処理ユニット(Digital Signal Processing Unit:DSP)に接続される。このユニットは、いくつかの態様では、前に説明したように、可調節部分を有するデジタルフィルタを含んでいる。DSPが、放射線検出器によって検出されたイベントの計数率を推定するレート計数器を含んでいることも好適である。
【0033】
DSPは、アナログフィルタ及びADCを含むフィルタユニットの可調節部分に、制御信号を出力するための出力用電気回路を含んでいる。これらの制御信号は、推定計数率に基づいて、放射線検出器のエネルギー分解能を最適化するように、これらのコンポーネントの可調節部分(即ち、アナログフィルタのRC時定数及びADCのサンプリングレート)を調節する。
【0034】
他の態様では、DSPは、アナログフィルタによって濾波されたアナログ信号を取り込み、取り込んだそのアナログ信号に基づいて計数率を推定する。次いで、DSPは、推定計数率に基づいて、アナログフィルタの可調節パラメータを制御するように制御信号を生成する。
【0035】
以上の段落は、全体的な紹介として提供されており、下記の特許請求の範囲を限定することを意図するものでない。いくつかの表示図にわたって同様の参照番号が同一又は対応するパーツを示すようになされている付属図面も併せて解釈すれば、以下の詳細な説明を参照することによって、記載の実施形態は、他の利点と一緒に、最大限に理解されるであろう。
【0036】
以下、添付図面を参照して、放射線検出装置、放射線検出システム及び放射線検出方法の実施形態を詳細に説明する。
【0037】
図1は、本開示の一態様に係る適応性フィルタリング及び適応性サンプリングを示す機能ブロック図である。図1は、本開示の実施形態に係る適応性フィルタリング処理及び適応性サンプリング処理に含まれるコンポーネントの機能ブロック図を例示している。1つの検出器100、又は、アレイ状の検出器100は、フィルタユニット200に検出信号を出力する。各検出器100は、それ自体のフィルタユニット200を有する個別チャネルとして具現化することができるが、図1に示す態様は、8チャネルのフィルタユニットを含んでいる。当業者には自明であるが、本開示の範囲から逸脱することなく、様々なチャネルの使用形態を実現することができる。
【0038】
検出器100からの出力検出信号(以下、出力信号と呼ぶ)は、電気的パルスであり、検出器100が放射線を取り込むことによってイベント(粒子の相互作用)を検出することでもたらされる。放射線を検出する際に、検出イベントを正確に計数するためにノイズを除去することを目的として、この出力信号である出力パルスは、フィルタによって波形が整形される。
【0039】
フィルタユニット200は、検出器100のアナログ出力信号をフィルタリングするものであり、可調節部分を含んでいる。そのフィルタリングによって、出力信号のパルス波形が整形される。図2A〜2Dは、図1に示す適応性のフィルタユニットに内蔵される適応性フィルタの例を示す図である。図2A〜2Dは、フィルタユニット200に組み込むことができる適応性フィルタの例を示している。図2A〜2Dに示す適応性フィルタは、ローパスフィルタとして示されている。ただし、当業者には自明であるが、フィルタユニット200は、ハイパスフィルタ及びバンドパスフィルタも範疇に含むことができる。フィルタユニット200は、帯域幅可調節フィルタを内蔵していることが好ましく、それらのフィルタは、推定計数率制御信号に応答して、連続的にそれらの積分時間及び微分時間を制御できるように、可調節であることが好ましい。なお、推定計数率制御信号は、上述したフィルタリング制御信号に対応する。
【0040】
図2Aは、電圧制御キャパシタを利用したローパスフィルタを示している。図2Bは、電圧制御抵抗を利用したローパスフィルタを示している。図2Cは、電圧制御ダイオードキャパシタを利用したローパスフィルタを示している。フィルタユニット200は、図2Dに示すようなスイッチ制御フィルタを含むこともできる。この場合、種々のキャパシタC1、C2及びC3が並列に設けられており、それらを、スイッチS1、S2及びS3によって動作状態に入らせることができる。図2A〜2Cに示すフィルタは、そのパラメータを調節し、それによってRC時定数を調節するのに、バイアス電圧を利用している。一方、図2Dは、RC時定数を変更するのに、スイッチS1〜S3のうちのいずれかのスイッチを起動させる制御信号を利用している。当業者には自明であるが、同図のRC時定数を変更するのに、複数の抵抗にスイッチを設けることも可能であり、フィルタのRC時定数を変更するのに、他の電圧制御コンポーネントを利用することができる。
【0041】
再び、図1について説明すると、放射線検出器である検出器100からの出力信号は、フィルタユニット200により濾波された後、アナログデジタル変換器(Analog-to-Digital Converter:ADC)300によりデジタル信号に変換される。ADC300は、アナログ信号がサンプリングされる際のサンプリングレートを有しており、そのサンプリングレートは、制御信号によって調節することができる。そのサンプリングレートは、最初はADC300の最大又は最速のサンプリングレートに設定されることが好ましい。次いで、結果としてのデジタル信号は、デジタル信号処理ユニット(Digital Signal Processing Unit:DSP)400によって処理される。このユニットの構造は、後に説明する。
【0042】
DSP400は、フィルタユニット200の可調節部分及びADC300の可調節部分を調節するように、制御信号を出力する。特に、デジタル信号処理ユニット400は、推定計数率制御信号をデジタルアナログ変換器(Digital-to-Analog Converter:DAC)302に出力する。この信号は、ローパスフィルタを通過した後、フィルタユニット200に入力される。この推定計数率制御信号は、例えば、図2A〜2Cに示すように、フィルタユニット200の可調節機能コンポーネントのバイアス電圧、従って、RC時定数を変える働きをする。或いは、推定計数率制御信号は、フィルタユニット200に指示を出すためのデジタル制御信号であり、例えば図2Dに示すように、フィルタユニット200の種々のスイッチを開閉して、フィルタユニット200によって実施されるフィルタリング処理のRC時定数を変更する。
【0043】
DSP400は、ADC300でのサンプリングレート調節を誘発する制御信号(サンプリング制御信号)も生成する。なお、図1では、サンプリング制御信号をサンプリングレート調節制御信号として示している。上述したように、サンプリングレート(放射線検出器からのアナログ出力信号がサンプリングされるレート)は、最初はADC300の最大又は最速のサンプリングレートに設定されることが好ましい。ただし、計数率が下がって所定の閾値を下回ると、適切なエネルギー分解能を得るのに、最速のサンプリングは不要である。従って、DSP400は、エネルギー使用量を節約すべく、計数率が所定の閾値を超えて下降した量と直接的な関係を有する量により、サンプリングレートを遅くするように、ADC300のサンプリングレートを調節する。
【0044】
当業者であれば分かるように、前に論じた態様によって、放射線検出器からの出力信号を濾波すること、及び、その出力信号のサンプリングをすることを、イベントが検出された時にリアルタイム、かつ、連続的に調節することが可能になる。従って、ADCを効率的に動作させながら、パイルアップに起因する悪化を回避することができる。
【0045】
別の実施形態では、フィルタユニット200により行なわれるフィルタリング(すなわち、アナログ式のフィルタリング)は、デジタル信号処理ユニット(Digital Signal Processing Unit:DSP)400において、代用的に、又は、組み合わせで、デジタル式のフィルタリングとして実施される。図3は、本開示の一態様に係るデジタル信号処理ユニットによって実施される適応性フィルタリング及び適応性サンプリングを示す機能ブロック図である。図3は、この別の実施形態を例示している。この場合、検出器100は、プリアンプを介してADC300にアナログ信号を出力する。このADC300は、DSP400により処理されるデジタル信号を生成する。デジタル信号処理ユニット400は、内部で計数率を推定し、その推定計数率に基づいて、内部で行なわれるデジタル式のフィルタリングのパラメータを調節するとともに、ADC300にも、サンプリングレート調節制御信号を出力する。
【0046】
上述したように、デジタル式のフィルタリングは、アナログ式のフィルタリングに追加して行なうことができる。図1を振り返ると、DSP400は、図1に示すように構成されているが、更に、上述のデジタルフィルタの機能も含んでも良い。
【0047】
上述したデジタル式のフィルタリング、制御処理及びADC又はフィルタを調節する信号生成の各態様は、コンピュータプロセッサを利用して実現されることが好ましい。図4は、図1及び図3に係るデジタル信号処理ユニットの機能的ハードウェア構成を示す図である。例えば、図4に示すように、DSP400は、中央処理装置(Central Processing Unit:CPU)を含むことが好ましい。このCPUは、複数の処理コアを含むことができる。当業者には自明であるが、CPUは、個別論理ゲート、特定用途向け集積回路(Application Specific Integrated Circuit:ASIC)、フィールドプログラマブルゲートアレイ(Field Programmable Gate Array:FPGA)、又は、他のコンプレックスプログラマブルロジックデバイス(Complex Programmable Logic Device:CPLD)として構築することができる。FPGA又はCPLDの実施態様は、VHDL(VHSIC Hardware Description Language)、Verilog、又は、他の任意のハードウェア記述言語でコード化することができ、そのコードは、そのFPGA若しくはCPLD内部に直接搭載されている電子メモリ、又は、図4に示すような共通のバスによってCPUに接続されたメモリ等の独立した電子メモリとしての電子メモリに格納することができる。
【0048】
いくつかの態様では、その電子メモリは、ROM、EPROM、EEPROM、又は、フラッシュメモリといった不揮発性とすることができる。電子メモリは、更に、スタティックRAM又はダイナミックRAMといった揮発性とすることも可能であり、FPGA又はCPLDと電子メモリとの間の連携のみならず電子メモリを管理するのに、マイクロコントローラ又はマイクロプロセッサ等のプロセッサを設けることができる。
【0049】
或いは、CPUは、本明細書に記載の機能を実施するコンピュータ可読命令を含むコンピュータプログラムを実行する。プログラムは、前に説明した非一時的電子メモリ(固体ドライブ又はフラッシュドライブ等)又はハードディスクドライブ、CDドライブ、DVDドライブ等のディスクドライブのうちのいずれかを含む種々の媒体上に格納することができる。更に、コンピュータ可読命令は、米国インテル社によるXeonプロセッサ(登録商標)又は米国AMD社によるOpteronプロセッサ(登録商標)等のプロセッサ、並びにMicrosoft VISTA(登録商標)、UNIX(登録商標)、Solaris(登録商標)、LINUX(登録商標)、AppleのMAC−OSX(登録商標)、及び、当業者に公知の他のオペレーティングシステム等のオペレーティングシステムと一緒に動作する、ユーティリティアプリケーション、バックグラウンドデーモン、又はオペレーティングシステムの構成要素として提供することができ、それらの組み合わせとして提供することもできる。
【0050】
DSP400が取り込んだ信号は、イベントのエネルギー値、及び/又は、イベントのタイミングを得るために処理される。タイミング及びエネルギーの評価情報は、ディスプレイ制御部によって、LCDディスプレイ等のディスプレイ上に表示される。情報は、記憶制御部によって記憶装置にローカルに格納することもできれば、ネットワーク制御部を介してネットワーク化された装置に伝送することもできる。
【0051】
いくつかの態様では、DSP400は、専用論理デバイス(例えば、特定用途向け集積回路(Application Specific Integrated Circuits:ASIC)又は構成可能論理デバイス(例えば、シンプルプログラマブルロジックデバイス(Simple Programmable Logic Device:SPLD)、コンプレックスプログラマブルロジックデバイス(Complex Programmable Logic Device:CPLD)、及び、フィールドプログラマブルゲートアレイ(Field Programmable Gate Array:FPGA))を含んでいる。DSP400は、図4に示すように、個別のデジタルフィルタを含むことが好ましい。このフィルタは、入力信号に対して数学演算を行なうものであり、FPGA又はASICを含んでいる。或いは、DSP400のCPUは、ソフトウェアで構成されており、デジタル式のフィルタリングを行なう。
【0052】
DSP400は、好ましくはパーソナルコンピュータ内に具現化されており、前に指摘したように、ディスプレイに結合されるディスプレイ制御部を含んでいる。DSP400は、更に、ADC300、DAC302及びフィルタユニット200間で信号を送受信するための入力/出力インターフェース(I/O Interface)も含んでいる。その入力/出力インターフェースは、ユーザがキーボード及びマウスによって、DSP400の態様を制御するための周辺機器と交信することが好ましい。加えて、プリンタ(図示省略)を設けることもできる。また、DSP400は、音響制御部によって、スピーカから音を出力することもできる。
【0053】
自明であるが、図4に示すDSP400は一例に過ぎず、マルチプロセッシング構成のプロセッサを1つ、又は、複数活用して、メモリに収容されている命令シーケンスを実行してもよい。別の実施形態では、ソフトウェアによる命令に代えて、又は、それとの組み合わせで、ハードウェアによる回路を使用することができる。従って、実施形態は、ハードウェア回路及びソフトウェアのいかなる特定の組み合わせにも限定されない。
【0054】
ソフトウェアは、メモリ及び記憶装置を含む、DSP400のコンピュータ可読媒体上に実体的に格納される。コンピュータ可読媒体の他の例には、コンパクトディスク、ハードディスク、フロッピー(登録商標)ディスク、テープ、磁気光学ディスク、PROM(EPROM、EEPROM、フラッシュEPROM)、DRAM、SRAM、SDRAM、又は、コンピュータが読める他の任意の磁気媒体、コンパクトディスク(例えばCD−ROM)、若しくは他の任意の媒体がある。ソフトウェアは、デバイスドライバ、オペレーティングシステム、開発ツール、及び、アプリケーションソフトウェアを例として挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0055】
上述の媒体上のコンピュータ用コードエレメントは、任意の解釈可能な又は実行可能なコード構造とすることができる。スクリプト、解釈可能プログラム、ダイナミックリンクライブラリ(Dynamic Link Library:DLL)、Java(登録商標)クラス、及び完全実行可能プログラムが例として挙げられるが、これらに限定されるものではない。更に、本開示の処理の一部を分散させて、性能、信頼性、及び/又は、コストをより良好なものにすることができる。
【0056】
DSP400は、放射線検出器である検出器100からの出力信号パルスに基づいて、計数率を推定する。一般に、計数は、チャネルごと、又は、放射線検出器である検出器100ごとに行なわれるものであり、振幅閾値に基づいている。具体的には、放射線検出器である検出器100からの出力信号(パルス)の振幅が予め規定された振幅閾値を超えると、計数が行なわれる。次いで、DSP400は、1秒当たりの計数の数を計算する。この数は、計数率の推定に使用される。自明であるが、本開示の態様は、どの特定の計数率推定プロセスにも限定されない。
【0057】
図5A〜図5Cは、本開示の一態様に係る適応性フィルタリング及び適応性サンプリングを得るためのアルゴリズムを示すフローチャートである。図6は、本開示の一態様に係る、推定計数率に基づいて制御信号を伝送するプロセスのアルゴリズムを示すフローチャートである。図5A〜5C及び図6に、適応性フィルタリング及び適応性サンプリングの上述の態様によるアルゴリズム及び手順を示す。図5Aは、フローチャート500Aを使って、図1に示すシステムの手順のアルゴリズムを例示している。図5Bは、フローチャート500Bを使って、図3に示すシステムの手順のアルゴリズムを例示している。
【0058】
フローチャート500Aは、適応性アナログフィルタリングに対応する。ステップS502において、放射線検出器である検出器100によってイベントが検出されると、放射線検出器である検出器100は、信号を生成し、その信号をフィルタユニット200に出力する。ステップS504において、フィルタユニット200は、予め規定されたパラメータ(即ち、予め規定されたRC時定数)に基づいて、アナログフィルタリングを行なう。ステップS506において、この濾波後の信号に、ADC300によりアナログデジタル変換が行なわれる。ADC300は、予め規定されたサンプリングレートに従ってサンプリングを行い、デジタル信号を生成する。この信号は、DSP400に伝送される。
【0059】
ステップS508において、DSP400は、計数率を推定する。ステップS510において、DSP400は、推定計数率に基づき、対応する制御信号をフィルタユニット200に伝送することによってフィルタユニット200のフィルタリングパラメータ(すなわち、RC時定数)を調節する。好ましくは、DSP400は、ステップS510において、対応する制御信号をADC300に伝送することにより、ADC300のサンプリングレートも調節する。
【0060】
フローチャート500Aに示すアルゴリズムの別の実施形態(図示省略)では、ADC300は、計数率の推定プロセスの一部ではない。すなわち、ステップS508は、閾値検出器を使って実施されても良い。閾値検出器は、イベントを検出した時にトリガ信号を生成し、そのトリガ信号を、イベントを計数するDSP400に送出する。かかる場合、デジタル式のフィルタリングを適用せずに、かつ、ADC300を使用せずに、計数率は推定される。
【0061】
図5Bに例示したフローチャート500Bのアルゴリズムは、適応性デジタルフィルタリングに対応する。この場合、ステップS502において、放射線検出器である検出器100によってイベントが検出されると、放射線検出器である検出器100は、信号を生成し、その信号をADC300に出力する。ステップS506において、ADC300によりアナログデジタル変換が行なわれる。ADC300は、予め規定されたサンプリングレートに従ってサンプリングを行い、出力信号からデジタル信号を生成するとともに、そのデジタル信号をDSP400に出力する。ステップS512において、DSP400は、予め規定されたパラメータ(即ち、予め規定されたRC時定数)に基づいてデジタルフィルタリングを行なう。ステップS508において、DSP400は、計数率を推定する。
【0062】
ステップS514において、DSP400は、推定計数レートに基づき、対応する制御信号を使ってデジタルフィルタのフィルタリングパラメータ(即ち、RC時定数)を調節する。好ましくは、DSP400は、ステップS514において、対応する制御信号をADC300に伝送することにより、ADC300のサンプリングレートも調節する。
【0063】
図5Cに例示したフローチャート500Cのアルゴリズムは、適応性アナログフィルタリングと適応性デジタルフィルタリングの組み合わせに対応する。ステップS502において、放射線検出器である検出器100によってイベントが検出されると、放射線検出器である検出器100は、出力信号を生成する。この信号は、フィルタユニット200に出力される。ステップS504において、フィルタユニット200は、予め規定されたパラメータ(即ち、予め規定されたRC時定数)に基づいてフィルタリングを行なう。ステップS506において、この濾波後の信号に、ADC300によるアナログデジタル変換が行なわれる。ADC300は、予め規定されたサンプリングレートに従ってサンプリングを行い、デジタル信号を生成する。この信号は、DSP400に伝送される。
【0064】
ステップS512において、DSP400は、予め規定されたパラメータ(即ち、予め規定されたRC時定数)に基づいてデジタルフィルタリングを行なう。ステップS508において、DSP400は、計数率を推定する。ステップS516において、DSP400は、推定計数率に基づき、対応する制御信号を使って、フィルタユニット200及びデジタルフィルタの両方について、フィルタリングパラメータ(即ち、RC時定数)を調節する。好ましくは、DSP400は、S516において、対応する制御信号をADC300に伝送することにより、ADC300のサンプリングレートも調節する。
【0065】
上述したように、ADC300のサンプリングレートは、計数率が所定値を下回る量と直接的な関係を有する量だけ、最速の設定より遅くなることが好ましい。更に、計数率が予め規定された値を上回る量と直接的な関係を有する量だけ、フィルタのRC時定数が予め規定された値より短縮されることは、好ましい。かかる直接的関係は、線形、指数関数、多項式、又は、階段状とすることができる。ただし、検出器100の特定の様式及び他の動作条件に基づいて、他の直接的関係を使ってもかまわない。
【0066】
図5を使って示したアルゴリズムは、推定計数率に基づいて、フィルタ及びサンプリングレートの調節が行なわれることを規定しているが、当業者には自明であるが、フィルタを調節するかどうか、或いは、サンプリングレートを調節するかどうかを判定するのに、閾値を利用することができる。例えば、ADC300のサンプリングレートが調節される動作領域及び調節されない動作領域(具体的には、計数率の範囲)を規定するのに、上限閾値及び下限閾値を使用することができる。同様に、上述のアナログフィルタ又はデジタルフィルタを、何時調節するかを制御するのに、動作範囲を予め規定しておくことができる。これらの範囲は、DSP400の離散化テーブルに格納し、DSP400のCPUによって、実際の推定計数率と比較することができる。更に、複数の範囲を利用することも可能である。
【0067】
図6は、フローチャート600を使って、DSP400のアルゴリズムを例示している。ステップS602において、DSP400は、濾波後の信号を取り込む。前に論じたように、濾波後の信号は、アナログ式に濾波されていてもよく、デジタル式に濾波されていてもよく、アナログ式とデジタル式の両方で濾波されていてもよい。次いで、ステップS604において、DSP400は、計数率を推定する。
【0068】
好適な態様では、ステップS602においてDSP400によって取り込まれる信号は、デジタル信号である。ただし、これは単に好ましいだけであって、必須ではない。ステップS602においてDSP400によって取り込まれる信号は、アナログ信号とすることも可能である。結果的に、この実施形態では、計数率を推定する際に、図1に示すADC300は利用されておらず、DSP400が、アナログドメインだけで計数率を推定する。即ち、ステップS604において、放射線検出器である検出器100からのアナログ信号を利用することによって、DSP400が、放射線検出器である検出器100により検出されたイベントの計数率を推定することになる。例えば、アナログ信号は、予め規定された、イベントを識別する振幅閾値と比較することができる。
【0069】
ステップS604において、取り込んだアナログ信号、又は、取り込んだデジタル信号から計数率を推定し、その後、ステップS606において、推定計数率に基づいて、DSP400は、パラメータを制御するため、前述したアナログフィルタ及びデジタルフィルタに伝送する制御信号を決定する。すなわち、ステップS606において、DSP400は、(1つ又は複数の)フィルタ、及び/又は、ADC300のために、(1つ又は複数の)制御信号を生成する。次いで、ステップS608において、DSP400は、適宜、該当のアナログフィルタ(フィルタユニット200等)、デジタルフィルタ(DSP400のデジタルフィルタ等)、及び、アナログデジタル変換器(ADC300等)に制御信号を伝送する。このアルゴリズムは、イベントの検出に続くものであり、従って、検出器100からの出力信号に応動するものである。
【0070】
上述したように、別の実施形態は、DSP400の計数率推定プロセスから、前に説明したADC300を排除する。図1及び図3に示す構造の変形例をそれぞれ例示している図7及び図8に、例が示されている。図7は、図1に示す機能ブロック図に改変を加えた態様を示す図であり、図8は、図3に示す機能ブロック図に改変を加えた態様を示す図である。
【0071】
図7において、検出器100は、プリアンプ/バッファ702に信号を出力し、プリアンプ/バッファ702は、上述したフィルタユニット200にアナログ信号を出力し、別途、ハイパスフィルタ704にも出力する。ハイパスフィルタ704は、濾波後の信号を閾値検出器706に出力する。閾値検出器706は、イベントを検出して、DSP400にトリガ信号を出力する。このように構成した結果として、DSP400は、ADC300を利用せずに計数率を推定する。ただし、DSP400は、フィルタユニット200に推定計数率制御信号を出力し、ADC300にサンプリングレート調節制御信号を出力するという前に説明した制御動作を、依然として実施することができる。
【0072】
図8では、プリアンプに接続されるハイパスフィルタ704を含むように、図3に示す実施形態が改変されている。同図において、閾値値検出器706は、イベントを検出して、DSP400にトリガ信号を出力する。従って、今まで通り、DSP400から出力されるサンプリングレート調節制御信号によってADC300を制御しながら、ADC300からの出力を利用せずに、DSP400によって計数率推定プロセスを実施することができる。
【0073】
以上、説明したとおり本実施形態によれば、高計数時にパイルアップに起因する計数損失を最小化することができる。
【0074】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0075】
100 検出器
200 フィルタユニット
300 アナログデジタル変換器(Analog-to-Digital Converter:ADC)
302 デジタルアナログ変換器(Digital-to-Analog Converter:DAC)
400 デジタル信号処理ユニット(Digital Signal Processing Unit:DSP)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルタリング処理を行なう可調節なフィルタにより濾波された信号に基づいて、放射線検出器により検出されたイベントの計数率を推定するレートカウンタと、
前記レートカウンタにより推定された計数率である推定計数率に基づいて、エネルギー分解能を最適化するように前記フィルタのフィルタリング処理を調節するためのフィルタリング制御信号を生成し、前記フィルタリング制御信号を前記フィルタに出力するコントローラと、
を備える、放射線検出装置。
【請求項2】
前記放射線検出器から出力された信号に対して前記フィルタリング処理を行ない、前記フィルタリング処理を調節するためのアナログ可調節部分を含む前記フィルタ、
を更に備え、
前記フィルタは、アナログフィルタであり、
前記アナログ可調節部分は、前記フィルタリング制御信号により調節されるRC時定数を有する、請求項1に記載の放射線検出装置。
【請求項3】
前記RC時定数は、前記推定計数率が閾値を超えて上昇する量と直接的な関係を有する量により、初期値から短縮される、請求項2に記載の放射線検出装置。
【請求項4】
前記フィルタは、前記RC時定数を調節するように、前記フィルタリング制御信号により動作及び不動作が切り替えられる抵抗又はキャパシタを含む、請求項2に記載の放射線検出装置。
【請求項5】
前記フィルタは、電圧制御キャパシタ、電圧制御ダイオードキャパシタ及び電圧制御抵抗のうちの少なくとも1つを含む電圧制御コンポーネントを含み、
前記フィルタリング制御信号は、前記フィルタの前記RC時定数を調節するように前記電圧制御コンポーネントを調節するバイアス電圧である、請求項2に記載の放射線検出装置。
【請求項6】
前記フィルタは、帯域幅可調節フィルタである、請求項2に記載の放射線検出装置。
【請求項7】
前記フィルタから出力された前記信号をアナログ信号からデジタル信号に変換し、前記デジタル信号を前記レートカウンタに出力し、前記アナログ信号をサンプリングする際の可調節なサンプリングレートを有するアナログデジタル変換器(Analog-to-Digital Converter:ADC)、
を更に備え、
前記コントローラは、更に、前記推定計数率に基づいて、前記ADCが前記推定計数率に基づいて前記サンプリングレートを調節するためのサンプリング制御信号を生成し、前記サンプリング制御信号を前記ADCに出力する、請求項2に記載の放射線検出装置。
【請求項8】
前記フィルタリング処理を行なう前記フィルタ、
を更に備え、
前記フィルタは、デジタルフィルタであり、前記フィルタリング処理を調節するためのデジタル可調節部分を含み、
前記デジタル可調節部分は、前記フィルタリング制御信号により調節される、請求項1に記載の放射線検出装置。
【請求項9】
前記フィルタから出力された前記信号をアナログ信号からデジタル信号に変換し、前記デジタル信号を前記レートカウンタに出力し、前記アナログ信号をサンプリングする際の可調節なサンプリングレートを有するアナログデジタル変換器(Analog-to-Digital Converter:ADC)、
を更に備え、
前記コントローラは、更に、前記推定計数率に基づいて、前記ADCが前記推定計数率に基づいて前記サンプリングレートを調節するためのサンプリング制御信号を生成し、前記サンプリング制御信号を前記ADCに出力する、請求項8に記載の放射線検出装置。
【請求項10】
前記ADCによる前記アナログ信号から前記デジタル信号への変換前に、前記放射線検出器から出力された信号を濾波し、前記アナログ信号に適用されるアナログフィルタリング処理を調節するためのアナログ可調節部分を含むアナログフィルタ、
を更に備え、
前記コントローラは、更に、前記推定計数率に基づいて、前記エネルギー分解能を最適化するように前記アナログフィルタのフィルタリング処理を調節するためのアナログフィルタリング制御信号を生成し、前記アナログフィルタリング制御信号を前記アナログフィルタに出力する、請求項9に記載の放射線検出装置。
【請求項11】
アナログデジタル変換器(Analog-to-Digital Converter:ADC)によってアナログ信号からデジタル信号に変換された信号に基づいて、放射線検出器により検出されたイベントの計数率を推定するレートカウンタと、
前記レートカウンタにより推定された計数率である推定計数率に基づいて、前記ADCが前記ADCの可調節なサンプリングレートを調節するためのサンプリング制御信号を生成し、前記サンプリング制御信号を前記ADCに出力するコントローラと、
を備える、放射線検出装置。
【請求項12】
前記アナログ信号を前記デジタル信号に変換し、更に、前記デジタル信号を出力する前記ADC、
を更に備える、請求項11に記載の放射線検出装置。
【請求項13】
前記コントローラは、前記推定計数率が予め規定された値から低下する量と直接的な関係を有する量により、前記ADCの前記サンプリングレートを初期値から低下させるための前記サンプリング制御信号を生成する、請求項12に記載の放射線検出装置。
【請求項14】
前記初期値は、前記ADCの最速サンプリングレートである、請求項13に記載の放射線検出装置。
【請求項15】
アナログ信号を生成する放射線検出器と、
前記アナログ信号を濾波し、前記アナログ信号に適用されるフィルタリング処理を調節するためのアナログ可調節部分を含むアナログフィルタと、
前記フィルタリング処理後のアナログ信号をデジタル信号に変換するアナログデジタル変換器(Analog-to-Digital Converter:ADC)と、
(1)前記デジタル信号から、前記放射線検出器により検出されたイベントの計数率を推定し、(2)推定した計数率である推定計数率に基づいてアナログフィルタリング制御信号を生成し、(3)前記アナログフィルタリング制御信号を前記アナログフィルタの前記アナログ可調節部分に出力して、エネルギー分解能を最適化するように前記アナログ信号に適用される前記フィルタリング処理を調節するデジタル信号処理ユニットと、
を備える、放射線検出システム。
【請求項16】
前記ADCは、前記アナログ信号をサンプリングする際の可調節なサンプリングレートを調節するためのサンプリング可調節部分を含み、
前記デジタル信号処理ユニットは、更に、前記推定計数率に基づいて、サンプリング制御信号を生成し、前記アナログ信号がサンプリングされる前記サンプリングレートを調節するために、前記サンプリング制御信号を前記ADCに出力する、請求項15に記載の放射線検出システム。
【請求項17】
前記放射線検出器は、光電子増倍管(Photo Multiplier Tube:PMT)、テルル化カドミウム(cadmium telluride:CdTe)系の放射線検出器、及びシリコン光電子増倍管(Silicon Photomultiplier:SiPM)のうちのいずれかである、請求項15に記載の放射線検出システム。
【請求項18】
レートカウンタが、可調節なパラメータを有するフィルタによって濾波された信号に基づいて、放射線検出器により検出されたイベントの計数率を推定し、
前記レートカウンタにより推定された計数率である推定計数率に基づいて、前記フィルタの前記パラメータを調節するためのフィルタリング制御信号を生成し、
前記フィルタリング制御信号を、エネルギー分解能を最適化するために、前記フィルタに伝送する、
ことを含む、放射線検出方法。
【請求項19】
前記パラメータは、RC時定数であり、
前記フィルタリング制御信号を生成するステップは、前記推定計数率が閾値を超えて上昇する量と直接的な関係を有する量により、前記RC時定数を初期値より短縮するように、前記フィルタリング制御信号を生成する、
ことを含む、請求項18に記載の放射線検出方法。
【請求項20】
アナログ信号をサンプリングする際のサンプリングレートを有するアナログデジタル変換器(Analog-to-Digital Converter:ADC)が、前記フィルタによる濾波後の信号をアナログ信号からデジタル信号に変換し、
前記推定計数率に基づいて、前記ADCの前記サンプリングレートを調節するためのサンプリング制御信号を生成し、
前記サンプリング制御信号を前記ADCに伝送する、
ことを更に含む、請求項19に記載の放射線検出方法。
【請求項21】
レートカウンタが、可調節なサンプリングレートを有するアナログデジタル変換器(Analog-to-Digital Converter:ADC)によりアナログ信号からデジタル信号に変換された信号に基づいて、放射線検出器により検出されたイベントの計数率を推定し、
前記レートカウンタにより推定された計数率である推定計数率に基づいて、前記ADCの前記サンプリングレートを調節するためのサンプリング制御信号を生成し、
前記サンプリング制御信号を前記ADCに伝送する、
ことを含む、放射線検出方法。
【請求項22】
前記サンプリング制御信号を生成するステップは、前記推定計数率が予め規定された値から低下する量と直接的な関係を有する量により、前記ADCの前記サンプリングレートを初期値から低下させるための前記サンプリング制御信号を生成する、
ことを含む、請求項21に記載の放射線検出方法。
【請求項23】
前記初期値は、前記ADCの最速サンプリングレートである、請求項22に記載の放射線検出方法。

【図1】
image rotate

【図2A】
image rotate

【図2B】
image rotate

【図2C】
image rotate

【図2D】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5A】
image rotate

【図5B】
image rotate

【図5C】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2012−251999(P2012−251999A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−108492(P2012−108492)
【出願日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(594164542)東芝メディカルシステムズ株式会社 (4,066)
【Fターム(参考)】