説明

放射線検出装置

【課題】エネルギー弁別機能を有した放射線イメージセンサを、部品点数が少なく、単純な構成で実現することを目的とする。
【解決手段】本発明の放射線検出装置は、放射線の照射により発光を示すシンチレータと、発光を受光する受光部が2次元配列された光センサアレイとを有し、シンチレータは、第1の材料からなる複数の柱状部位が第2の材料の中に埋め込まれた構造からなることで、シンチレータ内部で発光した光が特定の方向である光伝搬方向に優先的に伝搬する構造を有し、放射線を光伝搬方向とは非平行な方向からシンチレータに照射し、シンチレータ内部で発光した光は、シンチレータ内部を光伝搬方向に伝搬し、シンチレータの端面に配置された光センサアレイで受光されることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の方向に光を優先的に伝搬しうるシンチレータを用いた放射線検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
医療用や工業用においてX線やガンマ線の検出に用いられる放射線検出装置として、放射線をシンチレータで受け、そのシンチレータが発した光を光検出器で検出する構成の放射線検出装置が知られている。また、光検出器が2次元に配列されたセンサアレイを用いることで、放射線のイメージを得ることが行われている。
【0003】
さらに、特許文献1に挙げられるように、放射線のエネルギーを弁別する機能を併せ持たせることが行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−271333号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
エネルギー弁別機能を有した放射線検出装置として、特許文献1には、透光性材料からなる基板にシンチレータが堆積したパネルを複数積層した構成が開示されている。
しかしながら、このような構造の放射線検出装置は、弁別するエネルギーごとにシンチレータを用意し、それらを積層して形成するために、部品点数が多いことや、構造が複雑であるという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明はかかる問題を解決するためになされたものであって、エネルギー弁別機能を有した放射線検出装置(放射線イメージセンサ)を、部品点数が少なく、単純な構成で実現することを目的とする。
【0007】
さらに、エネルギー弁別能が高く、精細度が高い画像を取得可能な放射線検出装置(放射線イメージセンサ)を、比較的単純な構成で実現することを目的とする。
【0008】
すなわち本発明の放射線検出装置は、放射線の照射により発光を示すシンチレータと、発光を受光する受光部が2次元配列された光センサアレイとを有し、シンチレータは、第1の材料からなる複数の柱状部位が第2の材料の中に埋め込まれた構造からなることで、シンチレータ内部で発光した光が特定の方向である光伝搬方向に優先的に伝搬する構造を有し、放射線は光伝搬方向とは非平行な方向からシンチレータに照射され、シンチレータ内部で発光した光は、シンチレータ内部を光伝搬方向に伝搬し、シンチレータの端面に配置された光センサアレイで受光されることを特徴とする。
【0009】
特に本発明の放射線検出装置は、光センサアレイの列方向信号から放射線強度の位置分布を取得し、同時に、光センサの行方向信号から放射線のエネルギー情報を取得することを特徴とする。
また本発明の放射線検出装置は、シンチレータが直方体の形状を有し、シンチレータの上面に放射線が照射なされ、シンチレータの側面に面して光センサアレイが配されることを特徴とする。
【0010】
また本発明の放射線検出装置は、シンチレータの上方に、放射線の一部を遮蔽する線スリットを有し、更に、線スリットを移動させる機構と、移動に伴う光センサアレイの出力変化を読み出す機構を有することを特徴とする。
【0011】
さらに本発明の放射線検出装置は、第1の材料の屈折率が第2の材料の屈折率よりも小さいこと、該放射線に対する第1の材料の線吸収係数が、第2の材料の線吸収係数より小さいことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、特定の方向に光を優先的に伝搬しうるシンチレータを用いた新規な構成を適用することで、エネルギー弁別機能を有した放射線検出装置(放射線イメージセンサ)を、少ない部品数で実現することができる。
特に、エネルギー弁別能に優れ、精細度が高い画像を取得可能な放射線検出装置(放射線イメージセンサ)を、比較的単純な構成で、実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に適用可能なシンチレータを示す模式図である。
【図2】本発明に適用可能なシンチレータの製造方法を示す概略図である。
【図3】本発明の放射線検出装置の構成を示す概略図である。
【図4】本発明の放射線検出装置(放射線イメージセンサ)の構成を示す概略図である。
【図5】本発明の棒状の放射線検出装置の構成を示す概略図である。
【図6】複数のシンチレータと光センサを用いた放射線検出装置の構成を示す概略図である。
【図7】CsIの線吸収係数のX線エネルギー依存性を示すグラフである。
【図8】本発明の放射線検出装置を放射線透過像撮影装置に使用する概念図である。
【図9】本発明の放射線検出装置を放射線透過像撮影装置に使用する概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面等を用いて本発明を実施するための形態を説明する。
【0015】
(放射線イメージセンサの構成)
図3を用いて、本発明の放射線検出装置の構成について説明する。
図3において、1は放射線、2はシンチレータ、3はシンチレータから発せられる光、4は光センサアレイである。なお、以降の図において、同じ符号は同じ構成要素を表す。
放射線1は、X線、ガンマ線、電子線あるいは中性子線などの放射線である。
【0016】
図3の上方(光伝播方向とは非平行)から飛来した放射線1は、略Z方向に沿ってシンチレータ2に照射され、シンチレータを励起、発光させる。放射線飛来方向(照射方向、Z方向)に対してある角度を有した(図では、Z方向に対して垂直なY方向)に伝搬したシンチレータ光3は、その方向に面して配置された光センサアレイ4によって検出される。光センサアレイで検出された信号を処理することで、放射線強度の位置分布や放射線のエネルギー情報を検出することができる。
【0017】
光センサアレイの列方向信号(図3のX方向信号)から放射線強度の位置分布を取得し、同時に、光センサアレイの行方向信号(図3のZ方向信号)から放射線のエネルギー情報を取得する。
ここでエネルギー情報とは、放射線のエネルギースペクトルに起因した信号情報である。例えば、高エネルギー放射線と低エネルギー放射線の比率や、ある特定のエネルギーの放射線の強度、あるエネルギー範囲の放射線の割合、あるエネルギー範囲の放射線と別のエネルギー範囲の放射線の比率、放射線の線質、半値層などがあげられる。他にも、照射される放射線の中で主たる放射線のエネルギー、照射される放射線の中に含まれるもっとも大きなエネルギーの放射線、放射線の平均エネルギーなどがあげられる。放射線のエネルギースペクトルの差異に起因して、差異が生じうる信号であれば、これに限られるものではない。
【0018】
本発明において、シンチレータ2は、例えば図1に示すような特徴的な構造を有することで、特定の方向(図3のY方向、図1の矢印の方向)に光を優先的に伝搬しうる機能を有している。シンチレータ2は、図1(A)に示すように、第1の材料からなる複数の柱状部位(相11)が第2の材料の相12中に埋め込まれた構造からなる。2つの材料のうちの屈折率が高い材料において光が優先的に導波されるため、このシンチレータは特定の方向(図1の矢印の方向)に光を優先的に伝搬することができる。図3において、直方体の形状を有するシンチレータ2は、図1の矢印の方向をY方向に向けて配置されている。
【0019】
シンチレータ内部で発せられた光は、特定の方向(図3のY方向)に優先的に伝搬される。この光は、シンチレータ2の光伝搬方向を延長した位置に配置された光センサアレイ4によって受光、検出される。この際、たとえば、光センサアレイの受光面に鉛直な方向が、光伝搬方向と一致すること好ましい。図3に示した配置構成では、受光素子の受光面は、X−Z面に一致し、光伝搬方向と垂直な方向を向いている。
【0020】
光センサアレイ4は、受光面に、受光素子が2次元配列して形成されている。
例えば、CCDイメージセンサやCMOSイメージセンサのような半導体受光素子を用いることが好ましい。他にも、ガラス基板上にアモルファスSi受光素子を配列して形成したセンサアレイを用いることができる。他にも、受光素子と放射線計数回路をアレイ状に配列配置したものを用いても良い。
【0021】
上述のように、図3のY方向に光を優先的に伝搬しうるシンチレータを用いることにより、X方向やZ方向への光の拡がりを抑制できる。これにより、放射線が照射された位置におけるシンチレータ光のX方向分布は、大きく乱されることなく光センサアレイまで到達する。よって、光センサアレイ4において光強度分布を測定することで、放射線が照射されたX方向位置や、放射線が吸収された深さ(Z方向位置)を知ることが出来る。更には、放射線のX方向強度分布や、放射線がシンチレータ光を発したZ方向位置分布を、十分な精度で、知ることができる。
【0022】
このような特徴により、この放射線検出装置は、X方向の空間分解能に優れた装置となる。また、後述するように放射線のエネルギーを精度よく評価、弁別することができる。
【0023】
本発明の放射線検出装置は、光センサアレイが放射線入射方向(Z方向)に垂直な方向(−Y方向)を向いているため、放射線が直接、光センサアレイに照射されにくい。よって、光センサアレイが放射線照射にともなうダメージを受けにくいという利点がある。また、放射線が直接、光センサアレイに照射されることによるノイズ信号が少ないため、S/Nに優れた放射線検出装置となる。
【0024】
(エネルギー弁別)
本発明の放射線検出装置は、放射線照射位置や放射線強度の位置分布(イメージ像)に加えて、放射線のエネルギー弁別機能を有するという特徴がある。以下において、本発明の放射線検出装置におけるエネルギー弁別機能について説明する。
【0025】
図3に示す放射線検出装置において、放射線1はZ方向に沿って入射する。低エネルギーの放射線はシンチレータの比較的上層(表面から見て浅い部分)においてシンチレータを発光させるのに対し、高エネルギーの放射線はシンチレータの比較的下層にまでわたり(表面から見て深い部分まで)シンチレータを発光させる。よって、シンチレータの発光の深さ位置(深さ方向の分布)を評価することで、放射線のエネルギーに関する情報を得ることができる。すなわち、この深さ方向(図3のZ方向)の発光位置分布を精度良く測定できれば、高い精度で放射線のエネルギーを分析することができる。更には、放射線のエネルギーを弁別して、その放射線量を検出することができる。放射線イメージセンサにおいては、エネルギーを弁別して、そのエネルギー毎にイメージを取得できる。
【0026】
放射線は、そのエネルギーに応じて入射深さが異なり、エネルギーが大きいものほど深くまで侵入する。すなわち、放射線1はシンチレータ内を伝搬しながら、その強度Iが式(1)に従って減衰する。
I = I0 exp(-μt) (1)
ここでI0はシンチレータに照射する前の放射線強度、μ(1/cm)はシンチレータの材質や放射線のエネルギーに依存した線吸収係数、t(cm)は放射線の浸入深さである。
【0027】
よって、エネルギーの異なる放射線は、シンチレータ内での減衰(吸収)の振舞いが異なる。また、シンチレータ光の発行強度は、この吸収を反映し、類似な振る舞いをする。
【0028】
本発明の放射線検出装置においては、シンチレータ光のZ方向強度分布を、光センサアレイ4のZ方向に配列した受光素子の受光強度分布から得る。センサアレイで検知されるシンチレータ光のZ方向強度分布は、放射線のエネルギーに依存して異なるため、これを評価することにより、放射線のエネルギーに関する情報を得ることができる。更には、センサアレイの中から用いる受光部のZ方向位置を選択することで、放射線のエネルギーを弁別して評価できる。
【0029】
たとえば、シンチレータの表面から深さZ1に対応する受光部で検出される信号と、深さZ2に対応する受光部で検出される信号の比を比較することで、放射線のエネルギーに関する情報を抽出できる。例えばZ1<Z2において、Z1から低エネルギー放射線のイメージLIを取得し、Z2から高エネルギー放射線のイメージHIを取得できる。ここでは例として2種類のエネルギーの弁別としたが、2種類のエネルギーに限らず、任意の数のエネルギーを弁別した放射線イメージセンサとすることができる。このようにして、たとえば、高エネルギー放射線のイメージHIと低エネルギー放射線のイメージLIを一度に取得することができる。
【0030】
他にも、シンチレータの表面から深さZX以上に対応する受光部で検出される信号の積算により、高エネルギーの放射線を選択的に検出する放射線検出装置とすることができる。すなわち、放射線ノイズ環境に応じて深さZXを選ぶことで、適切に低エネルギー放射線を排除して放射線を検出できる。
【0031】
他にも、本発明の放射線検出器で得られたシンチレータ光強度のZ依存性(深さ依存性)のデータに対して、(1)式を用いたパラメータフィッティングを行うことで、放射線のエネルギーを推定してもよい。パラメータとしてμを見積もることができれば、すでに知られているシンチレータ材料の線吸収係数の放射線エネルギー依存性を基に、エネルギーを見積もることができる。図7には、一例として、CsIの線吸収係数の放射線エネルギー依存性を記す。シンチレータがCsIの場合であれば、このグラフからパラメータフィッティングで得られたμの値から放射線のエネルギーを見積もることができる。
【0032】
特に、本発明の放射線検出装置においては、図3のY方向に光を優先的に伝搬しうるシンチレータを用いているために、放射線が吸収された位置(X,Y位置)におけるZ方向強度分布を、大きく損なうことなく光センサアレイにおいて取得できる。光センサアレイとして、pixel pitchの小さいセンサを用いることで、高いエネルギー弁別機能を実現できる。
【0033】
また、パルス波高弁別回路をはじめとする複雑な放射線計数回路を用いることなく、低コストのCCDセンサやCMOSセンサを用いてエネルギー弁別機能を実現できる。
【0034】
上述の放射線検出装置は、X方向のラインセンサとして用いることができる。この放射線装置を、(たとえばY方向に)空間移動させることで、面内イメージセンサとして使用することができる。この放射線検出装置を物体透過イメージ像の撮影に用いる際には、対象となる物体を放射線検出装置の上方において、Y方向に移動させることで物体透過像(2次元イメージ)を取得することができる。
【0035】
(シンチレータの態様)
次に、本発明の放射線検出装置に適用可能なシンチレータについて説明する。
図1(A)、(B)は本発明に適用可能なシンチレータを示す模式図である。
シンチレータ2は、互いに同一面上に位置しない第一の主面と第二の主面とを有し、前記主面間の方向に一方向性を有する多数の柱状をなす第一の相と、第一の相の側面を埋める第二の相の2相からなる。
図1(A)は、一方向性を有する多数の柱状をなす第一の相11と、第一の相11の側面を埋める第二の相12の2相からなる構成を示す。
図1(B)は、第一の相11と第二の相12の双方が一方向に立った板状からなり、それらが交互に密接した構成を示す。
【0036】
図1の構造のシンチレータは、後述するように相分離の手法によって作成することができる。これを鑑み、本明細書中において用いられる「相分離構造」という用語は、図1の構造を指す。また本明細書中において用いられる「相分離シンチレータ」という用語は、この構造を有したシンチレータを指す。本発明に適用可能なシンチレータは相分離シンチレータに限定されるものではない。上述の構造を有していれば、相分離以外の手法で作成されたシンチレータであってもよい。
【0037】
シンチレータは、a)第一の相の(シンチレータの発光波長の)光の屈折率が第二の相の屈折率より大きい場合、b)第二の相の屈折率が第一の相の屈折率より大きい場合、のいずれの構成であってもよい。その中でも、低屈折率相である第一の相が、高屈折率相である第二の相中に位置している構成が好ましい。これによって、シンチレータにおける第一の相が占める割合を抑えながら、十分な導波機能(光ガイディング機能)を得ることができる。
【0038】
高屈折率の相(材料)の中を伝搬する光は、高屈折率相の周りに位置する低屈折率の相(材料)によって全反射され、結果、高屈折率の相内を導波されながら進む。その際、高屈折率の相は、第一の主面と第二の主面とに露出するとともに、この露出部がつながっているため、導波(光ガイディング)は、第一の主面または第二の主面に向けて行われる。これらは換言すると、シンチレータ内で生じた光は、第二の相内に閉じ込められながら(つまり光が広がることなく)、第一の主面または第二の主面に向けて進行するといえる。このようにして、シンチレータ自体が、導波機能(光ガイディング機能)を有する。また、低屈折率相である第一の相も、第一の主面と第二の主面とに露出する部分を有し、これら露出部がつながっている構成が好ましい。これによって、高屈折率相の光を、より確実に、第一の主面または第二の主面に、広がることなく導波(光ガイディング)することが可能となる。
【0039】
シンチレータは、1)第一の相が発光機能を有し第二の相は発光機能を有さない場合、2)第二の相が発光機能を有し第一の相は発光機能を有さない場合、3)第一の相と第二の相の両方が発光機能を有する場合、のいずれの構成であってもよい。
特に3)は、発光輝度を高くする観点から好ましい構成である。
【0040】
一方で、十分な導波機能(光ガイディング機能)を得るためには、高屈折率相で発光を示すことが好ましい。よって、低屈折率相である第一の相が、高屈折率相である第二の相中に位置している構成において、第二の相において発光機能を有する構成は、高い導波機能(光ガイディング機能)と高い発光機能を実現でき、好ましい。
【0041】
また、発光機能を有する相における放射線の線吸収係数μ1が発光機能を有さない相のμ2より大きいことが望ましい。このような構造により、放射線は、発光機能を有する相で優先的に吸収される。これにより、シンチレータは放射線照射により高い発光強度を示す。よって、第一の相が第二の相の中に位置している構成において、第一の相が第二の相に比べて屈折率が低く、第二の相が発光機能を有し、第一の相が第二の相に比べて線吸収係数が小さい構成が好ましい。このような構成は、高い導波機能(光ガイディング機能)と高い発光機能を実現でき、好ましい構成である。
【0042】
このようなシンチレータを本発明の放射線検出装置に適用することで、感度が高く、空間分解能とエネルギー弁別能に優れた放射線検出装置とすることができる。
【0043】
相分離シンチレータの第一の相11を構成する柱状部18(図1(A))の断面は円形、楕円、四角形に限らず、複数の面から構成され、多角形を構成してよい。また、柱状部18の直径13は50nm以上30μm以下、好ましくは200nm以上10μm以下の範囲であることが望ましい。また、第一の相の柱状部18の周期14は500nm以上50μm以下、好ましくは1μm以上20μm以下の範囲であることが望ましい。ただし、シンチレータと検出器ないし検出器アレイと組み合わせた場合、光検出器の受光部領域上に多数の柱状部が配置されるような構造サイズを有したものを組み合わせることが好ましい。例えば、受光領域が正方で一辺が20μmの場合、柱状部の直径は5μm、周期は8μmの構造サイズを有していることが好ましい。従って、受光領域のサイズに合わせて、上記構造サイズの範囲にとらわれず、構造サイズの小さいものを組み合わせることが好ましい。
【0044】
柱状部は、厚み方向16に渡って真っ直ぐ続いていることが好ましいが、途中で途切れたり、枝分かれや融合が生じたり、一直線でなく曲がった部分が含まれていたり、また直径が部分的に変化している場合などでもよい。
【0045】
2つの相のうちで、発光機能を示す相を構成する材料としては、CsI, CsI:Tl, CsI:In, NaI, GdO2S:Tb, Bi4Ge3O12, CeF3, Lu2SiO5:Ce, BaF2, ZnS:Agなどを用いることができる。この中でも、特にCsI:Tl, CsI:In, NaIなどは、相分離構造を作りやすい点で、好ましい材料である。発光機能を示さない相においては、NaClをはじめとしたアルカリハライドや、SiO2、Al2O3などの酸化物材料や、アクリルやポリミドなどの樹脂材料など、任意の透明材料を適用できる。
【0046】
これらの中でも、第一の相、第二の相にアルカリハライドからなる相を用いることが好ましい。例えば、第一の相、第二の相の組み合わせとして、NaBr-CsI、NaCl-CsI、NaF-CsI、KCl-CsIがあげられる。これらの材料においては、第二の相であるCsIにおいて優先的な発光が生じる。他にも、第一の相、第二の相の組み合わせとして、CsI-NaI、RbI-NaI、NaCl-NaI、NaF-NaIなどがあげられる。これらの系は、2つの相ともに発光を示すため、高い発光能を示す材料の組み合わせである。
【0047】
他にも、NaF-RbI、NaCl-RbI、RbI-NaBr、NaF-CsBr、NaCl-CsBr、NaBr-CsBr、NaF-RbBr、RbBr-NaCl、RbBr-NaBr、NaCl-CsCl、NaF-RbCl、RbCl-NaClがあげられる。また、アルカリ土類金属を用いた系として、NaI-BaI2、NaBr-BaBr2、NaCl-BaCl2、NaBr-SrBr2、NaCl-SrCl2が挙げられる。これらでは図1(B)の構造のシンチレータを得ることができる。
【0048】
これらの材料群の中でも、図1(a)に示す構造を比較的容易に作成できる点で、NaBr-CsI、NaCl-CsI、NaF-CsI、KCl-CsIは、好ましい組み合わせである。この中でも、特に、NaCl-CsIは、構造制御性が観点で好ましい。この際、NaClにNaBrを、またNaClにKClを添加してもよい。第二の相は、CsI以外にRbI(ヨウ化ルビジウム)、CsBr(臭化セシウム)、RbBr(臭化ルビジウム)を含有しても良い。
【0049】
上述の光の特定方向への優先的な伝搬(ガイディング)を実現するためには、第一の相と第二の相の屈折率の差が大きいことが好ましい。CsI(屈折率1.80)との組み合わせでは、NaF(屈折率1.32)が最もよく、次いでKCl(屈折率1.49)、NaCl(屈折率1.55)、NaBr(屈折率1.64)の順で良好となる。
【0050】
(相分離の手法を用いたシンチレータの作成方法)
図1の構造のシンチレータ、すなわち相分離シンチレータは、相分離の手法によって作成することができる。すなわち、構成材料が溶融している構造のない一様な液体状態から、凝固状態に至るとき、2相の相が同時に晶出し、ある程度の周期性を有した構造を形成することができる。
【0051】
以下、この相分離の手法を用いたシンチレータの作成方法について説明する。
相分離シンチレータの製造方法は、第一の相を構成する材料と第二の相を構成する材料とを混合する工程と、混合された第一の相を構成する材料と第二の相を構成する材料とを溶解する工程と、溶解された第一の相を構成する材料と第二の相を構成する材料とを一方向に沿って凝固させて共晶体を生成させる工程を有する。
【0052】
相分離シンチレータの製造方法は、所望の材料系を最適組成にて一方向性を持たせて熔融凝固する方法であればいずれの方法でも可能である。ブリッジマン法、チョクラルスキー法、フローティングゾーン法を用いることができる。特に、固液界面を平滑にするよう温度勾配を制御することが要求され、混合物の固液界面における温度勾配が30℃/mm以上の条件で行うことが好ましい。
【0053】
図2は、本実施形態のシンチレータの製造方法を示す概略図である。
図2に示すように、ブリッジマン法では、材料が酸化しないよう円筒状の石英管等に封じた試料を縦型に配置し、ヒーターないし試料を一定速度で移動させることにより、試料の凝固界面の位置を制御できるので、本実施形態の相分離シンチレータを製造することが可能である。
【0054】
特に、図2(A)に示す装置のように、試料23の長さに匹敵するヒーター部21と、混合物である試料23の固液界面の温度勾配が30℃/mm以上を実現するための水冷部22から構成される。
また、図2(B)に示す装置のように、水冷部22が上下にあり、ヒーター部21が試料23の一部の領域にしか対応していない場合でも構わない。さらに、同等の手段を講じる製法でも可能である。ただし、固液界面が平滑にできるのであれば、温度勾配は30℃/mm未満であっても構わない。
【0055】
また、チョクラルスキー法のように融液からの結晶引上げでも同様に作製可能である。この場合は、ブリッジマン法における試料容器内での凝固ではないために、容器壁面の影響を受けずに固液界面を形成できる点でより好ましい。さらに、フローティングゾーン法でも作製可能性はあるが、本実施形態の材料系に着目すれば赤外吸収がほとんど無いために、加熱手段として赤外線による直接加熱ができないので添加材料などの工夫が必要となる。
【0056】
シンチレータに含有される第一の相および前記第二の相を構成する材料の組成は、共晶点における組成であることが好ましい。共晶点とは、平衡状態図における共晶反応が生じる点であり、液相から2種の固溶体を同時に排出して凝固が完了する点を表す。
このような組成を選ぶことで、後述の製法により、図1に示すような構造のシンチレータ、すなわち相分離シンチレータを作成できる。
【0057】
本実施形態の第一の相と第二の相の材料系の好ましい組み合わせの組成比の例を以下の表1に示す。
【表1】

【0058】
これらの組成近傍の範囲を用いることで、構造形成時において各相間が共晶関係にあり、共晶組成近傍では一方向性凝固により図1(A)のような良質な構造体を得ることができる。
【0059】
また、相分離シンチレータの柱状晶の直径やその周期は、試料の凝固速度に依存する。製法上の制限として固液界面を平面かつ平滑に制御できる凝固速度があるため、好ましい周期λの範囲は500nm以上50μm以下の範囲となる。また、それに対応して柱状部の直径も50nm以上30μm以下の範囲となる。
【0060】
ここで、柱状部の直径とは円形で無い場合もあり、不定形であれば最短直径が上記範囲に含まれる。また、多数の柱状部の平均値で、最長直径と最短直径の比が10以下であることが好ましい。
【実施例】
【0061】
[実施例1]
本実施例は、本発明のエネルギー弁別機能を有した放射線検出装置の例である。CsIとNaClからなる相分離シンチレータを用いている。
【0062】
まず、図1に示す構造のシンチレータを用意した。
CsI(第二の相を構成する材料)に対して、NaCl(第一の相を構成する材料)を31.5mol%混合した粉末を準備し、それらを個別に石英管に真空封じし、試料とした。また、InI(ヨウ化インジウム(I))を0.01mol%添加した。次に、それらの試料を図2(A)のようなブリッジマン炉に導入し、800℃まで昇温させ試料全体が溶解(溶融)した後30分保持してから、融液温度を表1にある共晶温度より20℃高い温度まで降温した。その後、各々の試料を約10mm/時の速度で引き下げて試料下部より逐次凝固するようにした。
また、試料の引き下げにより、炉の冷却水が循環している領域に突入することで、試料が溶解している部分と凝固している部分の境界である固液界面での温度差が30℃/mm以上となるようにした。このようにして、一方向に沿って凝固させることで、共晶体を生成した。
【0063】
このようにして作製した試料を切り出し、走査型電子顕微鏡(SEM)にて構造観察を行った。その結果、図1に示すように、凝固方向に垂直面の構造(第一の主面及び第二の主面からみた構造)が得られた。また、SEMに付属している組成分析により柱状部はNaClを有しており、その周辺部はCsIを有していることが判明した。このように、多数のNaClの柱状部が一方向性を有して、その周辺部をCsIが取り囲む構造が形成されていることが示された。すなわち、第一の相がNaClからなり、第二の相がCsIから構成される相分離シンチレータ構造を得た。
【0064】
この相分離シンチレータの発光を、カソードルミネッセンス(CL)にて調べた。
CsIの部分を励起した際と、NaClを有する柱状部を励起した時のいずれも、緑色発光を示すが、発光強度はCsIの部分が強い。すなわち、本実施例の相分離シンチレータは、放射線励起にて第一と第二の相の双方が発光するが、第二の相で優先的に発光を示す。
【0065】
光伝搬方向の厚みが約4mmの相分離シンチレータを文字が記された紙面上に配置したところ、紙面に印刷された文字がシンチレータを通して浮き出て見えることが観察できた。すなわち相分離シンチレータは、図1における光伝搬方向に優先的に光を伝搬する特性を有している。
【0066】
光学顕微鏡にて透過画像を観察すると図1に対応した構造が観察された。また、透過像には、明瞭にNaCl柱状部が暗点として観察され、マトリックス側であるCsIの方が明るく見えた。つまり、高屈折率材料であるCsIマトリックス側を光が多く導波した。
よって、本実施例の相分離シンチレータは、柱状部方向に優先的に光を導波する特性を有していることが確認できた。
【0067】
次に、上述の相分離シンチレータを光伝搬方向が光センサアレイの受光面に鉛直になるように配置し、図3に示す放射線検出器を構成した。光センサアレイには、49mm x 49mm サイズでピクセルピッチ48μm(画素数は1024x1024)のCMOSセンサを用いた。シンチレータの大きさは、X方向サイズ30mm、 Y方向サイズ20mm、Z方向サイズを10mmとした。すなわち、シンチレータの第一の主面または第二の主面が、光検出器アレイの受光面に対向するように配置した。
本実施例では、光センサアレイと相分離シンチレータ間は直接的に接触させているが、光センサアレイの表面に保護層や反射防止等の機能を有した膜や層を介して接合または配置してもよい。
【0068】
比較例として、相分離シンチレータの代わりにCsI単結晶からなるシンチレータを用いた放射線検出装置を用意した。
次に、放射線検出器にX線を照射した。放射線は、タングステン管球用い、60kV、1mA、Alフィルター無しの条件で得られるX線を用いた。2mm厚のタングステン板にあるφ100μm開口を用い、スポット形状のX線をシンチレータに照射した。スポット位置は、光センサアレイの表面から―Y方向に30mm離れた位置である。
【0069】
実施例1の放射線検出装置において、光センサアレイで得られるX方向の信号出力、すなわち光強度分布を評価したところ、X線の照射スポット形状を反映して、ピーク状の光強度分布が得られた。また、実施例1の相分離シンチレータを用いた構成においては、比較例に比べて、ピーク状の光強度プロファイルの拡がり(分布幅)が小さい。相分離シンチレータが光伝搬方向(Y方向)に優先的にシンチレータ光を伝搬しているためである。このことは、実施例1の放射線検出装置の方が、比較例に比べて、空間分解能が高いイメージを取得できることを示している。
【0070】
次に、実施例1の放射線検出装置に、30kV、Alフィルター無しの条件で得られるX線と、200kV、Alフィルタ6mmの条件で得られるX線を同時に照射した。それぞれのX線強度P1,P2を独立に変化させたところ、光センサアレイの行方向の出力プロファイルが変化することを確認できた。これは、シンチレータ光のZ方向の強度プロファイルが変化していることを示しており、また、照射する放射線のエネルギースペクトルの差異を、光センサアレイの行方向出力で検出(弁別)できることを示している。
【0071】
また、実施例1の相分離シンチレータを用いた構成においては、比較例に比べて、Z方向の強度プロファイルの変化が顕著であり、その差異を抽出することが容易であった。すなわち、実施例1の放射線検出装置は、比較例に比べて、X線のエネルギーに関する情報を高い感度(精度)で抽出可能である。
【0072】
実施例1の放射線検出装置は、光センサアレイのZ方向の信号強度プロファイルから、エネルギーの異なる放射線を弁別することができる。また、この放射線のエネルギー弁別を、X座標ごと(光センサアレイの列ごと)に実施できる。
このように本発明の構成により、X方向のラインイメージ取得機能に加えて、各X座標でエネルギー弁別機能を有した放射線検出装置を実現できる。
【0073】
従来のエネルギー弁別機能を有したイメージセンサと比べると、部品点数が大幅に少ない。また、特定の方向に優先的に光を導波するシンチレータと、高精細な光センサアレイが適用されているため、高精細のイメージと高いエネルギー弁別能を実現できる。
本発明の放射線検出装置は、医療用・産業用・高エネルギー物理用・宇宙用の放射線検出装置として用いることが可能である。
特にこのようなエネルギー弁別機能を有したX線検出装置を、X線非破壊検査装置に適用すれば、物質の材質に関する情報を取得することができる。
【0074】
[実施例2]
本実施例は、図4に示す構成の放射線検出器の例である。本実施例では、実施例1と同様な放射線検出装置の上方に、放射線の一部を遮蔽するための線スリット5を配した。線スリット5はX方向長さ80 mm、 幅(Y方向)200μmの開口を有し、厚さ3mmのタングステンからなる。線スリット5は、シンチレータ2に面して、1cmの距離をおいて設置されており、さらにY方向への移動機構を付随している。
【0075】
本実施例の光センサアレイには、99mm x 49mm サイズでピクセルピッチ48μm(画素数は2048x1024)のCMOSセンサを用いている。
本実施例に用いたシンチレータは、チョクラスキー法で作成されたCsIとNaClからなる相分離シンチレータである。発光中心として、0.05mol%のTlが添加されている。X方向サイズ30mm、 Y方向サイズ50mm、Z方向サイズが10mmのシンチレータをCMOSセンサの上に、3個並べて配置することで90mm(X方向) x 50mm(Y方向)のエリアを有している。
【0076】
本実施例においては、放射線検出器の上面の全面にわたり放射線を照射しつつ、線スリットをY方向(光伝搬方向)に3mm/secで動かした。光センサアレイでは、線スリットの移動とともに、光センサアレイの時系列の出力変化を取得した。
【0077】
本実施例の放射線検出器で2次元イメージ像を取得できる。光センサアレイのX方向出力からX方向の放射線強度に対応したデータが得られ、光センサアレイの時間変化からY方向の放射線強度に対応したデータが得られる。この際、Z方向の画素信号については全てを積算することで、短時間で十分な信号強度をえることができる。このようにして、X方向強度分布の時間変化により、放射線のX-Y面強度分布(X-Y面イメージ)を取得できる。
【0078】
更に、光センサアレイのZ方向出力を用いて、各X,Y座標における放射線のエネルギーに関する情報を取得できる。具体的には、Z方向深さが50-300μmの位置のピクセルでの積算信号S1とZ方向深さが500-1500μmの位置のピクセルでの積算信号S2を用い、S1/S2の値を用いた。S1は低エネルギーX線の信号、S2は高エネルギーX線の信号強度とみなすことができる。S1/S2は低エネルギーX線と高エネルギーX線の比率に相当する情報である。R=S1/S2の値を、各X位置、各時刻tで算出することで、R=S1/S2のX-Yイメージ像を得ることができる。
【0079】
このようにして、本実施例の放射線検出装置は、X-Y面の放射線強度イメージと、放射線のエネルギー情報(R)のイメージを同時に取得できる。
本実施例の構成は、エネルギー弁別機能を有したX線イメージセンサとしての利用が可能である。
【0080】
[実施例3]
本実施例は、実施例1と同様な構成であるが、光センサアレイとしては、ガラス基板上にアモルファスSiの受光素子とアモルファスSiのTFTが配列形成されたものを用いている。光センサアレイのサイズは、300mm x 20mmで、ピクセルピッチ150μmである。
X方向サイズ30mm、 Y方向サイズ20mm、Z方向サイズが10mmの相分離シンチレータを光センサアレイの上に、8個並べて配置することで240mm(X方向) x 20mm(Y方向)のシンチレータエリアを有している。
【0081】
光センサアレイの各列において、1行から2行(Z方向の深さが0から300μmに相当)のデータを積算したものを出力D1(x)、3から6行(Z方向の深さが300μmから900μmに相当)のデータを積算したものを出力D2(x)、7行以上(Z方向の深さが900μm以上に相当)のデータを積算したものを出力D3(x)として得られるようになっている。出力D1,D2,D3はそれぞれ、低エネルギー、中エネルギー、高エネルギーとして、放射線エネルギーを弁別できる。
【0082】
本実施例は、放射線のエネルギーに関する情報を取得する機能を有したX線ラインセンサとしての利用が可能である。このラインセンサを平行移動することで、2次元の放射線イメージを取得することも可能である。
【0083】
[実施例4]
本実施例は、図5のように棒状のシンチレータを適用した放射線検出装置の例である。
シンチレータは直径20mm、長さ100mmの円柱状の形状をしている。円柱の軸方向が光伝搬方向である。棒形状のシンチレータ端部に、受光面が36x24mmのCMOSセンサが配置されている。シンチレータの別の端部にはタングステン製の厚さ5mmのキャップ9が付いている。このキャップ9により、放射線が棒状シンチレータの端面から入射することを抑制している。端面に照射される放射線によりシンチレータ光が発生しないので、エネルギー情報の正確な評価が可能となる。
【0084】
また光センサアレイの周囲には、放射線が光センサアレイに直接照射されないように、放射線防御カバー(不図示)が設置されている。
【0085】
また、本実施例においては、放射線が円柱の軸に垂直な方向から照射されるように、放射線検出装置を配置している。ただしこれに限られるものでなく、円柱の軸方向でなければ、任意の方向から放射線を照射してもよい。
【0086】
この装置では、光センサアレイの全画素出力の総和から放射線強度を計測できる。また光センサアレイの中心からの軸中心から外形方向への距離(r)に対する光強度出力のグラフを作成し、このグラフから放射線のエネルギーに関する情報を抽出できる。円柱の直径を2Rとすると、円柱の表面からの深さがR−rに相当する。
【0087】
本実施例では、光強度のr依存性のグラフから光グラフフィッティングによってエネルギー情報を抽出する。複数種類のエネルギーの放射線の存在の仮定のもとに、光強度のZ依存性のグラフに対して(1)式に基づいたパラメータI0とμのfittingを行うことができる。(1)式の基づき、I0とμをfitting parameterとし、2種類のexp関数を用いたfittingにより、2種類の放射線の強度I0_a, I0_bとμ_1,μ_2を抽出することができる。シンチレータ材料のμのエネルギー依存性を用いることで、μの値から放射線のエネルギーを見積もることができる。
このようにして、本実施例の放射線検出装置は、放射線のエネルギー情報を抽出できる。
さらに、この放射線検出器をプローブとして、空間中で移動させることで放射線の空間分布を取得することが可能である。
【0088】
[実施例5]
本実施例は、図6に示すように実施例1の放射線検出器を複数個並べた構成の放射線イメージセンサの例である。また、各シンチレータのY方向の厚さは0.5mmである。
複数の光センサアレイで出力を統合して評価することにより、Y方向の位置依存性を評価できる。すなわち、シンチレータと光センサアレイのY方向厚さの和がY方向のピッチとなる画像を取得できる。X方向は光センサアレイの列方向出力で得られるため、両者を用いることで、放射線強度のX−Y分布イメージを取得することができる。更に、Z方向でエネルギーに関する情報を取得できる。すなわち、エネルギー弁別機能を有した放射線検出器として機能する。
【0089】
[実施例6]
本実施例は、実施例3の放射線検出装置(エネルギー弁別機能を有したX線ラインセンサを用いた、放射線透過像撮影装置の例である。
図8に示すように、実施例3の放射線検出装置8と放射線源7の間に、物体6(被検体)を配置する。
放射線源から放射線を出力するとともに、物体6を移動させ、同時に光センサアレイ4において物体を透過した放射線の像およびエネルギー情報を取得する。符号2はシンチレータを表す。放射線源は、160kVのタングステン管球であり、幅ひろいエネルギー範囲でのX線を出力する。
【0090】
この構成において、放射線の物体透過率に起因した濃淡イメージを光センサアレイにおいて取得する。物体をY方向に移動させることで、光センサアレイのX方向の位置分布出力とその時間変化から、2次元像(X−Y面像)を取得できる。さらに光センサアレイのZ方向の出力から、放射線のエネルギーに関する情報を取得できる。実施例3と同様な手法により、特定のZ方向位置の画素出力を用いることで、高エネルギー放射線の透過像と低エネルギー放射線の透過像を分別して、同時に取得できる。このようなエネルギー分別能を有した放射線検出装置を用いることで、放射線エネルギーの違いを利用して、物体の材質に関した情報を取得することができる。
このようなエネルギー弁別機能を有したX線検出装置を、放射線透過像撮影装置(X線非破壊検査装置)に適用すれば、物質の材質に関する情報を取得することができる。
【0091】
[実施例7]
本実施例は、実施例3の放射線検出装置(エネルギー弁別機能を有したX線ラインセンサを用いた、放射線透過像撮影装置の例である。
図9に示すように、実施例3の放射線検出装置8と放射線源7の間に、物体6(被検体)を配置する。
放射線源から放射線を出力するとともに、放射線検出装置8を移動させ、同時に光センサアレイ4において物体を透過した放射線の像およびエネルギー情報を取得する。符号2はシンチレータを表す。放射線源は、160kVのタングステン管球であり、幅ひろいエネルギー範囲でのX線を出力する。
【0092】
この構成において、放射線の物体透過率に起因した濃淡イメージを光センサアレイにおいて取得する。放射線検出装置をY方向に移動させることで、光センサアレイのX方向の位置分布出力とその時間変化から2次元像(X−Y面像)を取得できる。さらに光センサアレイのZ方向の出力から、放射線のエネルギーに関する情報を取得できる。実施例3と同様な手法により、特定のZ方向位置の画素出力を用いることで、高エネルギー放射線の透過像と低エネルギー放射線の透過像を分別して、同時に取得できる。このようなエネルギー分別能を有した放射線検出装置を用いることで、放射線エネルギーの違いを利用して、物体の材質に関した情報を取得することができる。
【0093】
このようなエネルギー弁別機能を有したX線検出装置を、放射線透過像撮影装置(X線非破壊検査装置)に適用すれば、物質の材質に関する情報を取得することができる。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明のエネルギー弁別機能を有した放射線検出装置は、X線やガンマ線等の放射線を用いた医療用・産業用の放射線イメージセンサや、高エネルギー物理用・宇宙用の計測装置等に用いることが可能である。
【符号の説明】
【0095】
1 放射線
2 シンチレータ
3 シンチレータ光
4 光センサアレイ
5 線スリット
6 物体
7 放射線源
8 放射線検出装置
9 キャップ
11 第一の相
12 第二の相
13 第一の相の直径
14 第一の相の最近接距離
15 シンチレータの厚さ
16 厚み方向
18 柱状部
19、101 第一の主面
20、102 第二の主面
21 ヒーター部
22 水冷部
23 試料
103 基板104 光検出器
105 シンチレータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線の照射により発光を示すシンチレータと、
発光を受光する受光部が2次元配列された光センサアレイとを有し、
前記シンチレータは、第1の材料からなる複数の柱状部位が第2の材料の中に埋め込まれた構造からなることで、前記シンチレータ内部で発光した光が特定の方向である光伝搬方向に優先的に伝搬する構造を有し、
放射線を前記光伝搬方向とは非平行な方向から前記シンチレータに照射し、
前記シンチレータ内部で発光した光は、前記シンチレータ内部を前記光伝搬方向に伝搬し、前記シンチレータの端面に面して配置された前記光センサアレイで受光されることを特徴とする放射線検出装置。
【請求項2】
前記光センサアレイの列方向信号から放射線強度の位置分布を取得し、同時に、前記光センサの行方向信号から放射線のエネルギー情報を取得することを特徴とする請求項1に記載の放射線検出装置。
【請求項3】
前記シンチレータは直方体の形状を有し、前記シンチレータの上面に放射線が照射され、前記シンチレータの側面に前記光センサアレイが配置されることを特徴とする請求項2に記載の放射線検出装置。
【請求項4】
前記シンチレータの上方に、放射線の一部を遮蔽する線スリットを有し、更に、前記線スリットを移動させる機構と、移動に伴う前記光センサアレイの出力変化を読み出す機構を有することを特徴とする請求項1に記載の放射線検出装置。
【請求項5】
第1の材料の屈折率が第2の材料の屈折率よりも小さいことを特徴とする請求項1に記載の放射線検出装置。
【請求項6】
放射線に対する第1の材料の線吸収係数が、第2の材料の線吸収係数より小さいことを特徴とする請求項5に記載の放射線検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−24731(P2013−24731A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−159915(P2011−159915)
【出願日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】