説明

放射線治療システム及び放射線治療プログラム

【課題】 高速で正確な減弱補正方法を用いて散乱源の再構成を行うことで、散乱線が被検体自体で減弱されるために生じる治療線の線量の測定誤差を低減し、定量性の高い散乱源分布を計測することができる放射線治療システム等を提供すること。
【解決手段】 治療放射線の線量を散乱線によりモニタする方式の放射線治療システムにおいて、散乱線が体内を通過することによる減弱を補正するため、散乱源の存在する平面を決定し、散乱源から検出器の間の通過パスをCT画像を元に決定し、源弱の程度を推定し散乱線の検出結果に含まれる源弱による影響を補正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線治療システムにおいて実際に照射した線量を計測し表示する機能を持つ放射線治療システムに関し、特に、散乱線画像から線量分布を3次元再構成する際に、体内での散乱線の減弱を補正するものに関する。
【背景技術】
【0002】
X線外照射治療に代表される放射線治療では、治療前に、患者画像上で照射計画(病変部に対してどの方向から、どれだけの線量を照射するか)が立案され、これに基づいて患者への照射行われる。しかし、現在のところ実際に計画通りの位置、線量が患者に照射されているか否かを確認する手段がなく、病変部への過少照射や正常組織への過剰照射が起こっても気づかれないのが現状である。照射前にファントムとX線検出器を用いて、計画通りの照射が行えることが確認されることもあるが、簡便に持ち運びができ、自由に位置を調整できるファントムと異なり、患者を寝台上の、照射計画どおりの位置に置くことは困難であり、これらの照射前確認は、患者への計画通りの照射を完全に保証するものではない。
【0003】
ところで、従来より、可視光像と散乱線発生源の画像をピンホールカメラにて同時に撮影する装置がある(例えば、非特許文献1参照)。本装置は放射線防護の研究のため、どの場所で散乱線が発生しているかを調べるためのものであり、そのため散乱線発生源の画像と可視像(写真)といういずれも2次元の画像を同時撮影するものとなっている。放射線治療中の3次元線量分布を測定するためには3次元画像の撮影が必要であるが、そのような構成にはなっていない。また、視覚的に確認することが目的であり、ファントム内部での散乱線の減弱についてもまったく考慮されておらず、本装置では定量的な数値を求めることはできない。
【非特許文献1】散乱X線発生源の視覚的特定 ―第1報 基本原理―ピンホールカメラを用いた散乱X線発生源の観察、日本放射線技術学会東北部会 第12号P181(2003年1月)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
治療のため患部へ向けて照射している治療用X線から散乱する散乱X線の画像を多方向で計測し、3次元再構成することで、散乱線の発生源の3次元分布を得ることができると考えられる。ところが、散乱線は被検体の内部で源弱されるので、散乱線画像を用いて直接再構成を行うと、散乱線画像に誤差が生じる。例えば500keVの散乱線が体内を10cm通過すると仮定すると約10%の減弱が生じ、これを用いて再構成を行えば同様に10%程度の誤差が散乱源分布に生じる。放射線治療中の線量分布を計測することは、その計測値を用いて患部や健常部への照射線量をコントロールすることが目的であり、10%の誤差は全く見過ごすことはできない。従って、散乱源分布を定量的に求めるためには、散乱線に対しての減弱補正が必要である。
【0005】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたもので、高速で正確な減弱補正方法を用いて散乱源の再構成を行うことで、散乱線が被検体自体で減弱されるために生じる治療線の線量の測定誤差を低減し、 定量性の高い散乱源分布を計測することができる放射線治療システム、放射線治療データ処理装置及び放射線治療プログラムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記目的を達成するため、次のような手段を講じている。
【0007】
請求項1に記載の発明は、被検体に対して治療用放射線ビームを照射する第1の照射手段と、前記治療用放射線ビームに基づいて発生する前記被検体内からの散乱線を検出し散乱線データを発生する第1の検出手段と、前記治療用放射線ビームが照射される前記被検体の被照射領域に関する放射線の減弱係数の空間分布と、前記各散乱線データとに基づいて、減弱補正が施された散乱線ボリュームデータを生成する再構成手段と、前記散乱線ボリュームデータを、吸収された放射線量の三次元分布を示す吸収線量ボリュームデータに変換する変換手段と、前記吸収線量ボリュームデータを用いて、前記被検体内における吸収線量画像を生成する画像生成手段と、前記吸収線量画像を表示する表示手段と、を具備することを特徴とする放射線治療システムである。
【0008】
請求項9に記載の発明は、治療用放射線ビームが照射される前記被検体の被照射領域から散乱線を複数の方向から検出した散乱線データと、前記被照射領域に関する放射線の減弱係数の空間分布と、を記憶する記憶手段と、前記散乱線データと前記放射線の減弱係数の空間分布とに基づいて、減弱補正が施された散乱線ボリュームデータを生成する生成手段と、を具備することを特徴とする放射線治療データ処理装置である。
【0009】
請求項10に記載の発明は、コンピュータに、治療用放射線ビームが照射される前記被検体の被照射領域から散乱線を複数の方向から検出した散乱線データと、前記被照射領域に関する放射線の減弱係数の空間分布と、に基づいて、減弱補正が施された散乱線ボリュームデータを生成させる生成機能と、を実現させることを特徴とする放射線治療プログラムである。
【発明の効果】
【0010】
以上本発明によれば、高速で正確な減弱補正方法を用いて散乱源の再構成を行うことで、散乱線が被検体自体で減弱されるために生じる治療線の線量の測定誤差を低減し、 定量性の高い散乱源分布を計測することができる放射線治療システム、放射線治療データ処理装置及び放射線治療プログラムを実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の第1実施形態乃至第6実施形態を図面に従って説明する。なお、以下の説明において、略同一の機能及び構成を有する構成要素については、同一符号を付し、重複説明は必要な場合にのみ行う。
【0012】
(第1実施形態)
[原理と方法]
本実施形態に係る放射線治療システムは、被検体に対して照射した放射線に基づく当該被検体からの散乱線を計測し、これに基づいて被検体のどの部位に、どれだけの線量が照射されたかを客観的に示す情報を取得するものである。その原理と方法は、次の様である。
【0013】
図1は、本放射線治療システムの治療用放射線に基づく被検体からの散乱線計測の原理、方法を説明するための図である。
【0014】
外照射X線照射による治療効果は、主として患者体内で起こるX線の散乱によってもたらされる。すなわち、治療X線ビームが患者体内の電子によって散乱される際、エネルギーを受け取った電子は組織内を飛行したのち、停止する。このとき、電子は停止するまでに、組織内の分子をラジカル化し、細胞内のDNAに損傷を与える。そして、損傷を受け、修復することができなかった細胞は最終的に死に至る。これがX線照射による治療効果である。反跳電子が多く発生すればするほど組織を構成する細胞が死に至る確率が高くなるため、治療効果は、散乱反応が起こる回数に比例する。
【0015】
上述から、組織内で起こった散乱の回数が分かれば、治療効果(=組織がどれだけ損傷を受けたか)を知ることができる。そして起こった散乱の回数は、散乱線の数を測定することで知ることができる。散乱されたX線の多くは、電子に進行方向を変えられた後、患者体外に出てくるため、患者体外に設置したX線検出器で測定することができる。
【0016】
本実施形態の第1の実施例に係る放射線治療システムでは、治療X線ビームに対して特定の角度をなす位置にコリメータを備えた検出器を設置し、その方向に来た散乱線のみを選択的に検出する。コンプトン散乱で、どの角度に、どれだけX線が散乱されるかは理論的に分かるため、ある角度での散乱線を検出できれば、他の角度への散乱線の数も推定できる。さらに、患者体内の、散乱の起こった場所の分布を3次元的に得るために、照射中に検出器を回転させ、一周のすべての方向から散乱線の測定を行う(例えば、図4参照)。その後、再構成処理を行い、被検体内部の散乱線の発生分布を3次元的に画像化する。
【0017】
また、本実施形態の第2の実施例に係る放射線治療システムでは、治療X線ビームに対して所定の角度(散乱角)をなす位置にコリメータを備えた検出器を設置し、その方向に来た散乱線のみを選択的に検出し、この検出を、照射部から照射される治療用X線ビームの軸と検出器の検出面とのなす角を維持しつつ治療用X線ビームと検出面とを移動させながら実行することで、被検体内の3次元領域をスキャンする。得られた所定の散乱角に関する3次元散乱線データを用いて、散乱線ボリュームデータを再構成すると共に、当該散乱線ボリュームデータを吸収された放射線量の3次元分布を示す吸収線量ボリュームデータに変換し、吸収線量画像を生成する。
【0018】
[構成]
図2は、本実施形態に係る放射線治療システム1のブロック構成図を示している。同図に示すように、本放射線治療システム1は、放射線照射システム2、散乱線検出システム3、データ取得制御部4、データ処理システム5、表示部6、記憶部7、操作部8、ネットワークI/F9を具備している。放射線照射システム2及び散乱線検出システム3は架台(ガントリ)に設置され、架台を移動、回転させることで、被検体に対して任意の位置に配置することができる。また、データ取得制御部4、データ処理システム5、表示部6、記憶部7、操作部8、ネットワークI/F9は、例えば放射線治療システム1の本体(筐体)に設置される。
【0019】
[放射線照射システム]
放射線照射システム2は、電力供給部201、照射部203、タイミング制御部205、ガントリ制御部207を有している。
【0020】
電力供給部201は、データ取得制御部4からの制御に従って照射部203に電力を供給する。
【0021】
照射部203は、例えば線形加速器(ライナック)等の機構を有する放射線照射装置である。当該照射部203では、加速管の一端に設けられた電子銃により、陰極から放射された熱電子は数100keVになるまで加速される。次に、クライストロンで発生したマイクロ波は導波管を使って加速管まで導かれ、そこでこの熱電子は数MeVのエネルギーに達するまで加速される。この加速された熱電子は磁石によってその方向を変えられ、透過型ターゲットに衝突する。このとき制動放射により、数MeVのエネルギーのX線(γ線)が発生する。照射部203は、コリメータによってこのX線を所定の形状(例えば、円錐形状、或いは薄い平面形状)に成形し、寝台上に配置された被検体の三次元領域に照射する。
【0022】
タイミング制御部205は、データ取得制御部4からの制御に従って所定のタイミングで照射部203に電力が供給されるように、電力供給部201を制御する。
【0023】
ガントリ制御部207は、例えば操作部8やデータ取得制御部4からの制御指示に従って、ガントリの移動位置・回転位置を制御する。
【0024】
[散乱線検出システム]
散乱線検出システム3は、検出器301、コリメータ303、移動機構部305、位置検出部307を有している。
【0025】
検出器301は、数100keVのX線を検出できる半導体検出器や、イメージング・プレート等であり、被検体に対して照射した放射線に基づく当該被検体からの散乱線を検出する。この検出器の好ましいサイズ、照射ビーム軸に対する配置角度、画素数等については、後述する。
【0026】
コリメータ303は、特定の方向に来た散乱線のみを選択的に検出するための絞り装置である。
【0027】
移動機構部305は、照射部203の照射ビーム軸に対する検出器301の検出面の角度(すなわち、照射ビーム軸と検出器301の検出面の法線との角度)、放射線ビーム軸を中心とした検出器301の回転角、被検体と検出器301の検出面との距離等を制御するために、検出器301の位置や角度を移動させるための移動機構部である。
【0028】
位置検出部307は、検出器301の位置を検出するためのエンコーダである。
【0029】
[データ取得制御部]
データ取得制御部4は、放射線治療時における散乱線計測に関する総合的な制御を行う。例えば、データ取得制御部4は、放射線照射システム2のタイミング制御部205からの信号を得て、散乱線検出システム3に対して散乱線計測開始トリガーや検出データの伝送トリガーを送信する等、放射線照射、散乱線計測、データ処理、画像表示、ネットワーク通信等について、本放射線治療システム1を静的又は動的に制御する。また、データ取得制御部4は、必要に応じて、ネットワークを介して放射線治療計画装置から受け取った治療計画に基づいて、各照射の照射時間に合わせてスキャン時間を最適化する。
【0030】
[データ処理システム]
データ処理システム5は、補正処理部501、散乱源存在領域決定部502、再構成処理部503、変換処理部505、データ処理部507を有している。
【0031】
補正処理部501は、必要に応じてデータのキャリブレーション処理やノイズを除去するための補正処理等を行う。
【0032】
減弱係数分布推定部502は、治療計画用に取得されたCT画像等を用いて、放射線治療部位を含む放射線被照射領域についての減弱係数の空間分布を推定する。この推定処理の内容については、後で詳しく説明する。
【0033】
再構成処理部503は、散乱線検出システム3において検出された散乱線画像データと各散乱線画像データを検出した位置を示す位置情報とを用いて画像再構成処理を実行し、散乱イベント回数(散乱発生回数)の密度の三次元的分布を示す散乱線ボリュームデータを取得する。再構成法式としては、例えば、コリメータの方向がスキャン軸と直交していればCTの再構成手法を、一方直交していなければ、断層撮影の再構成手法を用いる。特に、本再構成処理部503は、推定された減弱係数の空間分布を用いて、減弱補正を伴う画像再構成処理を実行し、減弱補正が施された散乱線ボリュームデータを取得する。この減弱補正を伴う画像再構成処理の内容については、後で詳しく説明する。
【0034】
変換処理部505は、画像再構成処理によって得られた三次元画像データを、吸収された放射線量(吸収線量)の三次元分布を示す吸収線量ボリュームデータに変換する。
【0035】
[表示部、記憶部、操作部、ネットワークI/F]
表示部6は、LCD等のディスプレイで構成される。表示部6は、上記データ処理部507の各種モジュールにより出力されるデータをもとに、例えば、吸収線量画像を計画画像や照射直前、照射中に得た画像とフュージョンして表示を行う。
【0036】
記憶部7は、照射する放射線ビームの軸を中心として検出器301を回転させながら散乱線データを取得(スキャン)するための所定のスキャンシーケンス701、補正処理、画像再構成処理、変換処理、表示処理等の実行、および治療計画を当該システムで表示、編集するための制御プログラム702や、当該放射線治療システム1によって取得された散乱線ボリュームデータ703、吸収線量ボリュームデータ704、X線コンピュータ断層撮影装置等の他のモダリティによって取得された形態画像データ705等を記憶する。当該記憶部7に記憶されているこれらのデータは、ネットワークI/F90を経由して外部装置へ転送することも可能となっている。
【0037】
操作部8は、オペレータからの各種指示、条件、関心領域(ROI)の設定指示、種々の画質条件設定指示等を装置本体11にとりこむための各種スイッチ、ボタン、トラックボール13s、マウス13c、キーボード13d等を有している。
【0038】
ネットワークI/F9は、当該放射線治療システム1によって得られた吸収線量画像データ等をネットワーク経由で他の装置に転送し、また、例えば放射線治療計画装置において作成された治療計画等をネットワーク経由で取得する。
【0039】
(散乱線ボリュームデータ等の生成方法)
(第1の実施例)
次に、第1の実施例に係る放射線治療システム1を用いた散乱線ボリュームデータ等の生成方法について説明する。本実施形態に係る放射線治療システムでは、治療X線ビームに対して特定の角度をなす位置にコリメータを備えた検出器を設置し、その方向に来た散乱線のみを選択的に検出する。さらに、患者体内の、散乱の起こった場所の分布を3次元的に得るために、照射中に検出器を回転させ、複数の方向から散乱線の測定を行う(例えば、図6参照)。その後、再構成処理を行い、被検体内部の散乱線の発生分布を3次元的に画像化する。
【0040】
図3は、本実施形態に係る吸収線量画像データの生成処理を含む放射線治療時における処理の流れを示したフローチャートである。以下、各ステップの処理内容について説明する。
【0041】
[被検体の配置等:ステップS1a]
まず、データ取得制御部4は、例えばネットワークを介して当該被検体に関する治療計画情報を取得し、表示部6に表示する。術者は、表示された治療計画に従って寝台上に被検体を配置すると共に、操作部8を介して、放射線照射時間の設定、散乱線計測を行う回転角度の設定、スキャンシーケンスの選択等を行う(ステップS1a)。なお、放射線照射時間の設定等については、取得した治療計画情報に基づいて、自動的に行うようにしてもよい。
【0042】
[放射線照射/多方向における散乱線画像データの取得:ステップS2a]
図4は、本放射線治療システム1の散乱線の測定形態を示した図である。同図に示すように、放射線照射システム2は被検体に対して、三次元領域を照射するための治療用放射線を所定のタイミングで発生する。また、散乱線検出システム2は、当該照射放射線に基づいて被検体外に出てくる散乱線を照射される放射線ビームの軸を中心とした複数の回転角において検出する(ステップS2a)。例えば、ある1つの方向から3分間照射が行える場合、1方向につき10秒ずつ、18方向のデータを収集する。このとき、18方向はビーム軸を中心として等角度間隔であることが好ましい。検出器303が各方向で検出した散乱線のカウント数及び位置検出部307で計測した散乱線検出時における検出器303の位置情報は、データ処理システム5に伝送される。
【0043】
なお、本実施形態では、検出器301の配置角度を、散乱角θが120°≦θ≦165°の範囲のいずれか(例えば、155°)である後方散乱線を検出するように、検出器301の配置角度を設定するものとする。
【0044】
また、上記の例において、例えば2Gyの照射が3方向から行われる場合、1方向あたりのカウント数は、1.24×10×1/3となりおよそ4×104[counts/cm2]である。1方向あたり180秒で照射されるとして10秒間測定すると、4×104×10/180=2×103[counts/cm2]となるが、S/N比に問題はない。
【0045】
また、散乱線の検出は、少なくとも2つ以上の方向が必要であるが、現実にはできる限り多くの方向において検出することが好ましい。また、各検出位置は、照射ビームの軸を中心として等角度間隔に配置されていることが好ましい。
【0046】
[前処理(補正処理等):ステップS3a]
収集されたデータは、検出器設置角度方向に散乱されたX線のみカウントしている。しかし実際には、X線はあらゆる方向への散乱が起こっている。データ処理システム5の補正処理部501は、検出器のカウント値を補正し、所定の計算しきに従って、すべての方向への散乱数を取得する(ステップS3a)。
【0047】
[画像再構成処理:ステップS4a]
次に、データ処理システム5の画像再構成処理部503は、多方向の投影データを用いて画像再構成処理を実行し、散乱線ボリュームデータを取得する(ステップS4a)。このとき、検出器301の回転軸とコリメータの方向が直交しており、180度(+α)以上の角度範囲で画像を撮影する場合はCTの再構成方法を用いればよいが、その他の場合はX線断層撮影の再構成方法を用いる。断層撮影の手法として、例えば投影画像にフィルタ処理を適用した後バックプロジェクション処理を行うfiltered backprojection法を用いる。filterの構成方法としては古典的なShepp-Logan filterや、特願2006−284325, 特願2007−269447に開示されているフィルタを用いる。特に、特願2006−284325, 特願2007−269447に記載されている方法を用いれば、物理的意味が明確な散乱源分布画像を生成することができる。
【0048】
検出器画像にフィルタ処理を施し、バックプロジェクションを行って得られる画像は、単位体積あたりの散乱線発生密度(単位体積あたりの散乱回数)である。上記の再構成処理の全ステップ(各種補正処理、フィルタ処理、バックプロジェクション処理)をとおして、治療用放射線が被検体を通過する近傍での散乱線発生密度の3次元分布(散乱線ボリュームデータ)を取得することができる。
【0049】
なお、本実施形態に係る放射線治療システムでは、本ステップにおいて後述する条件付き反復再構成処理が実行されることになる。
【0050】
[変換処理:ステップS5a]
次に、データ処理システム5の変換処理部507は、ボクセル(voxel)ごとに算出された単位体積あたりの散乱回数nを、吸収線量に換算することで、散乱線ボリュームデータを吸収された放射線量(吸収線量)の三次元分布を示す吸収線量ボリュームデータに変換する(ステップS5a)。
【0051】
[吸収線量画像データの生成/画像データの表示:ステップS6a、S7a]
次に、画像処理部507は、吸収線量ボリュームデータ等を用いて、被検体の所定部位に関する吸収された放射線量(吸収線量)の分布を示す吸収線量画像データを生成し、例えばフュージョン表示するためにCT画像と合成する(ステップS6a)。表示部6は、所定の形態にて吸収線量画像を表示する(ステップS7a)。
【0052】
(第2の実施例)
次に、第2の実施例に係る放射線治療システム1を用いた散乱線ボリュームデータ等の生成方法について説明する。本実施形態に係る放射線治療システムでは、治療X線ビームに対して所定の角度(散乱角)をなす位置にコリメータを備えた検出器を設置し、その方向に来た散乱線のみを選択的に検出し、この検出を照射部から照射される治療用X線ビームの軸と検出器の検出面とのなす角を維持しつつ治療用X線ビームと検出面とを移動させながら実行することで、被検体内の3次元領域をスキャンする。得られた所定の散乱角に関する3次元散乱線データを用いて、散乱線ボリュームデータを再構成すると共に、当該散乱線ボリュームデータを吸収された放射線量の3次元分布を示す吸収線量ボリュームデータに変換し、吸収線量画像を生成する。
【0053】
図5は、本実施形態に係る吸収線量画像データの生成処理を含む放射線治療時における処理の流れを示したフローチャートである。以下、各ステップの処理内容について説明する。
【0054】
[被検体の配置等:ステップS1b]
まず、第1の実施形態と同様に、被検体の配置等が実行される(ステップS1b)。
【0055】
[放射線照射(散乱線データの取得):ステップS2]
図6は、本放射線治療システム1の散乱線の測定形態の一例を示した図である。同図に示すように、放射線照射システム2は、被検体に対して薄い平面状に整形されたX線ビームB2を所定のタイミングで照射し、放射線検出システム2は、当該照射放射線に基づいて被検体外に出てくる所定の散乱角の散乱線を検出する。また、データ取得制御部4は、照射部203から照射される治療用のX線ビームB2の軸と検出器301の視線方向とのなす角を維持しながらX線ビームB2による励起断面を移動させ、当該被検体内の3次元領域を走査(スキャン)するように、ガントリ制御部207或いは移動機構部305を制御する(ステップS2)。この治療用のX線ビームB2を用いた3次元領域のスキャンにより、X線ビームB2の平面に対応する複数の二次元散乱線データからなる3次元散乱線データが取得される。
【0056】
なお、図6は、散乱線の測定形態の一例である。従って、本実施形態に係る散乱線の測定形態は、当該例に拘泥されない。例えば、図7に示すように、検出器301の検出面(及びコリメータ303の開口面)を、治療用放射線ビームの照射方向に対する検出面のなす角度を一定に保ちながら、治療用放射線ビームの軸の位置の移動に連動して移動させることによっても、複数の二次元散乱線データからなる3次元散乱線データを取得することができる。
【0057】
[前処理(補正処理等):ステップS3b]
次に、データ処理システム5の補正処理部501は、減弱補正を含む前処理を実行し、投影データを取得する(ステップS3)。ここで、減弱補正とは、治療用放射線や散乱線が被検体内を伝播することに起因する信号減弱に関する補正処理である。
【0058】
[画像再構成処理:ステップS4b]
次に、データ処理システム5の画像再構成処理部503は、取得された投影データを用いて画像再構成処理を実行し、散乱線ボリュームデータを取得する(ステップS4)。なお、本実施形態に係る放射線治療システムでは、本ステップにおいて後述する条件付き反復再構成処理が実行されることになる。
【0059】
[変換処理:ステップS5b]
次に、データ処理システム5の変換処理部507は、第1の実施形態と同様に、散乱線ボリュームデータを吸収された放射線量(吸収線量)の3次元分布を示す吸収線量ボリュームデータに変換する(ステップS5)。
【0060】
[吸収線量画像データの生成/画像データの表示:ステップS6b、S7b]
次に、画像処理部507は、吸収線量ボリュームデータ等を用いて、被検体の所定部位に関する吸収された放射線量(吸収線量)の分布を示す吸収線量画像データを生成し、例えばフュージョン表示するためにCT画像と合成する(ステップS6b)。表示部6は、所定の形態にて吸収線量画像を表示する(ステップS7b)。
【0061】
(減弱係数分布の推定機能)
次に、本放射線治療システム1が有する減弱係数分布の推定機能について説明する。この機能は、治療計画用に取得されたCT画像等を用いて、放射線治療部位を含む放射線被照射領域についての減弱係数を推定するものである。ここで用いるCT画像としては、計画用の術前CT画像、治療直前のCT画像、放射線治療システムに組み込まれたMVCTによるCT画像または放射線治療システムに組み込まれたMVCTによるCT画像が挙げられるが、それぞれどのCT画像を用いるかに応じて異なる減弱係数推定処理が必要である。また、この減弱係数分布の推定機能に従う処理(減弱係数分布の推定処理)は、放射線治療前の任意のタイミングで実行され、当該処理によって得られる減弱係数分布は、記憶部7に記憶される。
【0062】
図8は、減弱係数分布の推定処理の流れを示したフローチャートである。同図を利用して、減弱係数分布の推定処理部502において実行される減弱係数分布の推定処理の内容を以下説明する。
【0063】
減弱係数分布の推定処理部502は、X線CT装置によって取得され、放射線の被照射領域に対応するCT画像を入力する(ステップSA)。このCT画像から得られる減弱係数μ60は、CT値から、次の式(1)の様に求めることができる。
【数1】

【0064】
これは、X線CT装置が発生するX線の実効単色エネルギーにおける減弱係数である。減弱補正に必要なのは散乱線のエネルギーにおける減弱係数μscであるから、上の減弱係数をそのまま用いることはできない。従って、種々の方法で散乱線のエネルギーでの減弱係数に変換が必要である。
【0065】
減弱係数分布の推定処理部502は、次の式(2)に従って、線形変換による減弱係数を推定する(ステップSB)。なお、変換パラメータaおよびbは水、筋肉、脂肪、骨などの各光子エネルギーにおける減弱係数の計測値からあらかじめ決めておく。
【数2】

【0066】
減弱係数のエネルギー依存は原子によって異なるため、正確な減弱係数を求めるためには、組織ごとに異なる係数を用いて変換する必要がある。従って、減弱係数分布の推定処理部502は、例えば次の式(3)に従って、大まかに減弱係数が大きい組織と小さい組織に分割し、それぞれ異なる変換式により減弱係数を推定する(ステップSC)。
【数3】

【0067】
ここで、μ60は実効単色エネルギーが60eVのX線CT装置にて撮影して得た減弱係数である。Escはは散乱線の実効単色エネルギーであり、次の式(4)により求めることができる。
【数4】

【0068】
ここで、hνは治療線の実効単色エネルギー、mは電子の静止質量である。上の方法でμ60≦0.2244の場合の変換式は筋肉に対する減弱係数の変換式であり、μ60>0.2244の場合の変換式は骨の領域に対する減弱係数の変換式である。同様に、脂肪や空気の領域に対する変換式を加えることも容易である。
【0069】
減弱係数分布の推定処理部502は、被照射領域(治療用放射線が照射される予定の領域又は過去に照射された領域)内の全ての位置についてステップSA〜SCまでの処理を繰り返し、当該被照射領域に関する減弱係数分布を作成する(ステップSD)。
【0070】
(減弱補正機能)
次に、本放射線治療システム1が有する減弱補正機能について説明する。この機能は、例えば既述の推定処理によって得られた減弱係数分布を用いて、減弱補正を伴う画像再構成処理を実行し、当該補正がなされた散乱線ボリュームデータを生成するものである。当該減弱補正機能に従う処理(減弱補正処理)は、例えば図3のステップS4a、図5のステップS4bにおいて実行される。
【0071】
図9は、減弱補正処理の流れを示したフローチャートを示している。同図に示すように、再構成処理部503は、Np個の位置で測定し補正されたNp個の投影画像の各々についてバックプロジェクション処理を実行し、各バックプロジェクションの結果を補正値c(x)にて除算したのち、加算して散乱線ボリュームデータを生成する。ここで、c(x)は減弱の影響を補正する係数であり、点状線源の位置(x)からk番目の検出器位置までの間の総減弱を次の式(5)を用いて計算することで得られる。
【数5】

【0072】
ここで、図10に示すように、xは再構成空間内の位置を、nはk番目のプロジェクションの投影方向をそれぞれ表す。減弱補正を伴うバックプロジェクションは、次の式(6)で表すことができる。
【数6】

【0073】
ここで、f(x)は減弱補正後の再構成画像、g(u)は検出器上の位置uにおける第kプロジェクションの投影画像、p(x)は再構成空間内の位置xを、第kプロジェクションの検出面に投影した検出器上の位置である。なお、バックプロジェクション処理の実装方法には様々な方法があり、上式の表現方法は単なる一例に過ぎない。
【0074】
なお、参考のため、図11に、減弱補正を行わない従来の再構成処理の流れの一例を示した。
【0075】
(再構成処理の詳細な説明)
次に、再構成処理503によって実行される再構成処理の詳細について説明する。
【0076】
[プロジェクション過程のモデル化]
被検体内のある点で散乱した散乱線が検出器に入射する様子を次のようにモデル化する。
【0077】
1.散乱の角度依存性と検出器への入射確率
治療用放射線の照射方向に対して、角度θだけ異なる方向に散乱した散乱線が、検出器画素に入射するものとする。散乱は全方位に起こるが、角度依存性がある。全散乱のうち検出器画素に入射する散乱線の割合をRΔΩ(x)で表すものとする(入射確率)。このとき、コリメータの存在は無視する。ΔΩ(x)は位置xから検出器画素を見込む立体角である。比例係数R(単位立体角当たりの入射確率)は、微分散乱断面積dσ(θ)/dΩを全散乱断面積で割った値である。
【0078】
2.コリメータ感度分布
検出器位置uに入射する散乱線にも角度依存性がある。コリメータの軸方向からの散乱線は最も大きな確率で検出器に入射し、軸から大きく外れる方向からの散乱線は検出器へは入射しない。図12(a)、(b)に示すように、被検体空間の位置xから検出器画素位置uに入射する散乱線の確率をコリメータ感度h(x,u)とする。
【0079】
3. 散乱線の入射モデルA
被検体の微小体積dxから位置u検出器画素に入射する散乱線の面積密度e(u)は、次の式(7)で表すことができる。
【数7】

【0080】
ここで、Nνは全方位散乱密度(単位体積当たりの全方位散乱数)、e(u)は検出器位置uの入射散乱線密度、Aは検出器画素の面積である。積分記号は被検体周囲の空間での体積積分を表す。
【0081】
4.散乱線の入射モデルB
上記式(7)を簡単化するため、式(7)の体積積分を次の式(8)の様にコリメータ軸tの方向とその直交面Sの積分に分解する。
【数8】

【0082】
ここで、dsは直交面Sの面要素である。直交面の面積積分の範囲ではNν、R、ΔΩには大きな変動がないことから、式(8)のtに関する被積分関数は、次の式(9)の様に近似することができる。
【数9】

【0083】
なお、式(9)の右辺の積分はコリメータの開口面積に対応し、検出面からの距離の2乗に比例する。また、立体角ΔΩは検出面からの距離の2乗に反比例する従って、両者の積である式(9)の右辺の括弧内は、コリメータ軸方向の各位置においてほぼ一定値を示す。そこで、次の式(10)のに示す面積Aを導入する。
【数10】

【0084】
この式(10)を用いれば、式(9)は次の式(11)の様に簡単化することができる。
【数11】

【0085】
この式(11)を式(10)に代入すると、次の式(12)又は式(13)が得られる。
【数12】

【0086】
なお、式(13)は、投影画像の補正処理のうち、散乱線の散乱角依存性の補正およびコリメータで絞られた特定方向範囲の散乱線から全方位散乱数への補正に相当する。
【0087】
[再構成に適用するプロジェクションおよびバックプロジェクションの演算式]
再構成処理では、再構成空間内の関数f(x)を、N個の投影画像g(u)から推定する(k=1,2,・・・、N)。特願2006−284325、特願2007−269447などの方法で再構成処理を行うためには、バックプロジェクション(投影)処理と、プロジェクション(逆投影)処理を本提案書の問題に沿うように変更する必要がある。その2つの例を下記に示す。
【0088】
散乱線の入射モデルAを直接用いれば、プロジェクション演算の定義式として、式(7)を直接用いることができる。この場合のプロジェクション演算の定義式は、次の式(14)の様である。
【数13】

【0089】
バックプロジェクション演算の定義式は、式(14)を反転させた次の式(15)を用いる。
【数14】

【0090】
ここで、uに関する積分は、検出面上での面積積分を表す。Tは長さの次元を持つ定数であるが値には任意性がある。式を簡単にするため、T/A=1としても良い。
【0091】
式(13)による散乱線の入射モデルBを用いると、プロジェクション演算は次の式(16)の様に表すことができる。
【数15】

【0092】
この式(16)を用いて、バックプロジェクション演算もより簡単に式(17)の様に表すことができる。
【数16】

【0093】
ここで、Tは長さの次元を持つ定数であるが値には任意性がある。式を簡単にするため、T=1としても良い。式(16)、式(17)はX線CT装置やX線断層撮影のプロジェクション演算とバックプロジェクション演算と同じ形をしている。従って、これらの式を用いればX線CT装置やX線CT撮影の様々な再構成方法を利用することができる。
【0094】
既述の減弱補正処理では、減弱補正を伴うバックプロジェクション処理が式(6)に従って実行される。式(6)は式(17)と非常に近い形をしているが、減弱補正の補正係数cが式(6)の分母に乗算されている点が異なっている。すなわち、減弱補正を伴うバックプロジェクション処理の構成では、通常のバックプロジェクション処理に補正係数cでの除算が新たに追加されている。
【0095】
[減弱補正を考慮し吸収線量を求める再構成]
既述の減弱補正において、全方位散乱密度に1散乱あたりの吸収エネルギーと密度の逆数を乗じて、その場所の吸収線量(J/kg)を求めることを述べた。ここでは、減弱補正を考慮しつつ、さらに吸収線量へ変換した値を再構成する方法について説明する。
【0096】
投影画像g(u)を離散化し、各画素の値を縦に並べたベクトルをg、プロジェクションkの投影画像gをプロジェクション数分だけさらに縦に並べたベクトルをgとする。また、再構成空間の画像f(x)を離散化し縦に並べたベクトルfとする。式(15)または式(17)をこれらのベクトルを用いると、次の式(18)の様に表すことができる。
【数17】

【0097】
ここで、Wはプロジェクション演算を表す係数行列である(プロジェクションkのバックプロジェクション演算を表す行列をWと記すことにする)。
【0098】
減弱補正および吸収エネルギーへの変換を加えると、式(18)は、次の式(19)又は式(20)の様に表すことができる。
【数18】

【0099】
ここで、Cは減弱補正の係数c(x)を対角要素にもつ対角行列、Bは1散乱あたりの吸収エネルギーを密度で割った値b(x)を対角要素にもつ対角行列である。
【0100】
2乗平均推定法によれば方程式(19)の解は、次の式(21)の様に表すことができる。
【数19】

【0101】
γは推定パラメータであるが投影データの分散を解の分散で割った値が最適値であることが知られている。特願2006−284325、特願2007−269447には、例えば次の式(22)に示すようなフィルタ後投影画像を投影画像から求めるためのフィルタ係数の算出方法が記載されている。
【数20】

【0102】
本実施形態に係る再構成処理に適用するために、A=WBであることによる修正を行えば、特願2006−284325、特願2007−269447の技術を用いてフィルタ後投影画像を求めることができる。ここで、式(22)によるフィルタ係数の算出の過程でCを用いた減弱補正および、Bを用いた吸収エネルギーへの変換を実施する点が、従来と異なる重要な点である。
【0103】
フィルタ後投影画像が求まれば、次の式(23)により解を得ることができる。
【数21】

【0104】
この処理において、フィルタ後投影画像を各プロジェクションに分解したベクトルをxとすると、式(23)は、次の式(24)の様に表すことができる。
【数22】

【0105】
ここで、Wはプロジェクションkのバックプロジェクション演算である。式(24)を用いる処理ステップは、図13に示すようになる。なお、図13に示す処理においては、(2)、(3)の処理は、プロジェクションkの各々についてするものとする。また、全てのプロジェクションについて(2)、(3)の処理が終わった後、(4)、(5)の処理が実行される。
【0106】
(効果)
以上述べた様に、本実施形態では、治療計画用に取得されたCT画像等を用いて、治療用放射線の被照射領域における減弱係数c(x)の空間分布を取得し、これを用いて各プロジェクション画像のバックプロジェクションの再にc(x)にて除算を行うことで、減弱補正を伴う再構成処理を行っている。これにより、散乱線が被検体自体で減弱されるために生じる治療用放射線の測定誤差を低減させることができ、定量性の高い散乱源の空間分布を高精度で計測することができる。
【0107】
(第2の実施形態)
図14は、第2の実施形態に係る減弱補正処理及び再構成処理の流れを示したフローチャートである。同図に示すように、本実施形態では、バックプロジェクションを実施する前の投影データに減弱補正処理を適用する。
【0108】
放射線治療を行う際は、被検体に対してどの位置におおよそ放射線錐があたるかがわかっていなければならない。そのため、治療線の焦点位置と放射方向の測定装置および、被検体の位置合わせ方法がかならず実施されている。本実施形態では、それらの位置あわせの結果を用いて、図15(a)、(b)に示す様に、放射線錐のおよその中心軸の位置を求める。さらに、求められた中心軸を通り、かつ、放射線錐の中心軸と検出器の投影軸(コリメータの方向)の両方に直交する直線を通る平面(散乱源平面)を求める。ここでは、この平面上の座標値をxとする。
【0109】
本実施形態による減弱補正方法は、散乱源平面と検出器の間の総減弱量を求め、検出器での計測値を総減弱量で除算するものである。平面と検出器の間の総減弱量は次の式(25)の様に求められる。
【数23】

【0110】
総減弱量Cはプロジェクション毎に異なった値であるとともに、画素ごとにも異なる値を持っている。この総減弱量にて検出器の各画素の計測値eを除算して、式(26)に示す様な補正後の投影データe’が得られる
【数24】

【0111】
得られた投影データe’に対しフィルタを適用して投影データgを求め、gを次の式(27)のバックプロジェクションして再構成画像が得られる。
【数25】

【0112】
得られた再構成画像を用いて、反復処理により減弱補正の精度をさらに改善することも可能である。再構成画像内で大きな画素値を持つ領域は放射線錐にあたる領域と考えられるから、一定値以上の画素値を持つ領域の中心軸を求め、その中心軸から散乱源平面を求めなおす。修正した散乱源平面を用いて減弱補正と再構成を再実行し、再構成画像を作成する。3回以上反復する構成も考えられるが2回の反復で十分である。
【0113】
(第3の実施形態)
第1、第2の実施形態では、治療計画に用いるCT画像など通常のX線CT装置で撮影したCT画像から散乱線の減弱係数分布を推定する例について述べた。これに対し、本実施形態では、減弱係数の推定に用いるCT画像の取得方法として、本放射線治療システム1に備えられている治療用放射線源を使ったCT画像を作成する例について述べる。
【0114】
図16は、第3の実施形態に係る放射線治療システム1の回転撮像系の構成及び動きを説明するための図である。図16に示す放射線治療システム1の特徴的な点は、照射部203と対向して設けられた(検出器301とは別体の)第2の検出器309をさらに具備することである。
【0115】
通常の照射部203(治療用X線源)には、放射口を患部の形に合わせて絞る絞りが備えられている。治療用のX線の照射時には、この絞りを用いて照射を行う。本実施形態では、治療用の放射線照射とは別に、減弱係数の推定に利用するCT画像を撮影するため、治療用X線源203を用いて治療より小線量のX線照射を行う。CT画像を撮影のための照射時は、線量を小さくするとともに絞りを大きく開いて、治療時より大きな領域にX線が照射される。照射部203と対向する位置には第2の検出器309が配置され、被検体の患部周辺の大きな領域(大視野)のX線画像を撮影する。照射部203と第2の検出器309とは、対向した位置関係を保ちつつ被検体周囲を1回転し、回転中の複数箇所にてX線画像を撮影する。これらX線画像を用いてCT画像を再構成すれば、治療用X線のエネルギーを用いたCT画像を生成することができる。減弱係数の空間分布は、こうして得られたCT画像を利用して、既述の手法により推定することが可能である(なお、治療用X線のエネルギーと散乱線のエネルギーは大きく異なるため、既述の減弱係数変換が必要である)。
【0116】
(第4の実施形態)
図17は、第4の実施形態に係る放射線治療システム1の構成及び回転撮像系の動きを説明するための図である。同図に示すように、第4の実施形態に係る放射線治療システム1は、散乱線検出用の検出器301と対向する位置に第2の照射部(X線源)209を備え、さらに第2の照射部209との回転軌道面と検出器301の回転軌道面とが平行になるように、第2の照射部209と検出器301とを所定の位相間隔を維持しながら同期回転させる回転機構を備える。
【0117】
すなわち、検出器301と対向する位置に第2の照射部209を置き、検出器301と第2の照射部209とを対向させながら、例えば放射線ビームの中心軸を中心として同期回転させ、回転中の複数個所でX線画像を撮影する。検出器301のコリメータは、第2の照射部209の焦点を向くように形成する。さらに、第2の照射部209のX線管が発生するX線のエネルギー分布が散乱線のエネルギー分布と近くなるように、第2の照射部209の管電圧を設定する。代表的な管電圧は300kVから1000kVの間である。得られたX線画像を用いて断層撮影を行えば、減弱係数分布を得ることができる。本方法では、X線管のエネルギー分布が散乱線のエネルギー分布とほぼ等しいので、減弱係数の変換を行う必要は無く、第1及び第3の実施形態に係る放射線治療システムよりも正確な減弱係数を迅速且つ簡単に求めることができる。
【0118】
(第5の実施形態)
第5の実施形態に係る放射線治療システム1は、図18に示すように、第4の実施形態と同様に散乱線検出用の検出器301と対向する位置に第2の照射部309を配置し、検出器301と第2の照射部309との位置関係を保ったまま(対向させつつ)、例えば被検体の体軸を中心に両者を回転させ、回転中の複数位置でのX線画像を撮影し、これら撮影データを用いてCT画像を再構成する。このとき、第2の照射部309が発生するX線のエネルギー分布が散乱線のエネルギー分布と近くなるように、第2の照射部309の管電圧を設定する。本方法では、第4の実施形態と同様にX線管のエネルギー分布が散乱線のエネルギー分布とほぼ等しいので、減弱係数の変換を行う必要は無く、第1及び第3の実施形態に係る放射線治療システムよりも正確な減弱係数を迅速且つ簡単に求めることができる。
【0119】
(第6の実施形態)
第6の実施形態に係る放射線治療システム1は、平板状放射線を用いて散乱源分布の3次元再構成を行う方法(すなわち、図6、図7に示した方法)に対して、第1乃至第5の実施形態に係るいずれか減弱補正処理を適用するものである。
【0120】
図19は、照射角度bにて照射を行う場合の減弱補正方法を説明する図である。一点鎖線は照射角度bの平板状放射線の中心面を表している。この中心面位置は、照射部203が有するエンコーダなどの計測値から算出される。中心面と検出器の間の総減弱量は次の式(28)の様に求められる。
【数26】

【0121】
ここで、kは照射角度a,b,c,dを区別する番号である。μ(x)は、位置xでの減弱係数で、例えば第1の実施形態に係る減弱係数推定処理により得られた値である。xは中心面上の座標置、nは検出器への散乱線の入射方向、p(x)はxをnの方向に検出面上に投影したときの検出器面上の位置である。総減弱量Cは照射角度毎に異なった値であるとともに、画素ごとにも別個の値を持っている。この総減弱量にて検出器の各画素の計測値eを除算して、式(29)に示すような補正後の投影データe’が得られる。
【数27】

【0122】
以上述べた構成によっても、第1乃至第5の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0123】
なお、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。具体的な変形例としては、例えば次のようなものがある。
【0124】
本実施形態に係る各機能は、当該処理を実行するプログラムをワークステーション等のコンピュータにインストールし、これらをメモリ上で展開することによっても実現することができる。このとき、コンピュータに当該手法を実行させることのできるプログラムは、磁気ディスク(フロッピー(登録商標)ディスク、ハードディスクなど)、光ディスク(CD−ROM、DVDなど)、半導体メモリなどの記録媒体に格納して頒布することも可能である。
【0125】
また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0126】
以上本発明によれば、高速で正確な減弱補正方法を用いて散乱源の再構成を行うことで、散乱線が被検体自体で減弱されるために生じる治療線の線量の測定誤差を低減し、 定量性の高い散乱源分布を計測することができる放射線治療システム、放射線治療データ処理装置及び放射線治療プログラムを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0127】
【図1】図1は、本放射線治療用線量分布測定装置の治療用放射線に基づく被検体からの散乱線計測の原理、方法を説明するための図である。
【図2】図2は、本実施形態に係る放射線治療用線量分布測定装置1のブロック構成図を示している。
【図3】図3は、吸収線量画像データの生成処理を含む放射線治療時における処理の流れを示したフローチャートである。
【図4】図4は、本放射線治療システム1の散乱線の測定形態を示した図である。
【図5】図5は、本実施形態に係る吸収線量画像データの生成処理を含む放射線治療時における処理の流れを示したフローチャートである。
【図6】図6は、本放射線治療システム1の散乱線の測定形態の一例を示した図である。
【図7】図7は、本放射線治療システム1の散乱線の測定形態の他の例を示した図である。
【図8】図8は、減弱係数分布の推定処理の流れを示したフローチャートである。
【図9】図9は、減弱補正処理の流れを示したフローチャートを示している。
【図10】図10は、再構成空間内の位置x、k番目のプロジェクションの投影方向nを示した図である。
【図11】図11に、減弱補正を行わない従来の再構成処理の流れの一例を示したフローチャートである。
【図12】図12(a)、(b)は、検出器に入射する散乱線の角度依存性を説明するための図である。
【図13】図13は、減弱補正を考慮した画像再構成処理の流れの一例を示したフローチャートである。
【図14】図14は、第2の実施形態に係る減弱補正処理及び再構成処理の流れを示したフローチャートである。
【図15】図15(a)、(b)は、放射線錐のおよその中心軸の位置、放射線錐の中心軸と検出器の投影軸の両方に直交する直線を通る散乱源平面を説明するための図である。
【図16】図16は、第3の実施形態に係る放射線治療システム1の回転撮像系の動きを説明するための図である。
【図17】図17は、第4の実施形態に係る放射線治療システム1の回転撮像系の動きを説明するための図である。
【図18】図18は、第5の実施形態に係る放射線治療システム1の回転撮像系の動きを説明するための図である。
【図19】図19は、第6の実施形態に係る減弱補正処理を説明するための図である。
【符号の説明】
【0128】
1…放射線治療用線量分布測定装置、2…放射線照射システム、3…散乱線検出システム、4…データ取得制御部、5…データ処理システム、6…表示部、7…記憶部、8…操作部、9…ネットワークI/F、201…電力供給部、203…照射部、205…タイミング制御部、207…ガントリ制御部、301…検出器、303…コリメータ、305…移動機構部、307…位置検出部、501…補正処理部、502…減弱係数分布推定部、503…再構成処理部、505…変換処理部、507…画像処理部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体に対して治療用放射線ビームを照射する第1の照射手段と、
前記治療用放射線ビームに基づいて発生する前記被検体内からの散乱線を複数の方向から検出した散乱線データを発生する第1の検出手段と、
前記治療用放射線ビームが照射される前記被検体の被照射領域に関する放射線の減弱係数の空間分布と、前記各散乱線データとに基づいて、減弱補正が施された散乱線ボリュームデータを生成する再構成手段と、
前記散乱線ボリュームデータを、吸収された放射線量の三次元分布を示す吸収線量ボリュームデータに変換する変換手段と、
前記吸収線量ボリュームデータを用いて、前記被検体内における吸収線量画像を生成する画像生成手段と、
前記吸収線量画像を表示する表示手段と、
を具備することを特徴とする放射線治療システム。
【請求項2】
前記再構成手段は、前記照射ビームの中心軸及び前記散乱線データの投影軸によって定義される散乱源平面と前記第1の検出手段との間の領域に対応する前記減弱係数の総数を計算し、前記各散乱線データを前記減弱係数の総数で除算することで、前記減弱補正を実行することを特徴とする請求項1記載の放射線治療システム。
【請求項3】
前記再構成手段は、前記被照射領域の各位置と前記第1の検出手段の検出位置との間の領域に対応する前記減弱係数の総数を計算し、前記各散乱線データを前記被照射領域の各位置毎の前記減弱係数の総数で除算することで、前記減弱補正を実行することを特徴とする請求項1記載の放射線治療システム。
【請求項4】
前記放射線の減弱係数の空間分布は、X線CT装置によって取得されたCT画像データを用いて生成されたものであることを特徴とする請求項1乃至3のうちいずれか一項記載の放射線治療システム。
【請求項5】
前記第1の照射手段に対向して設けられた第2の検出手段と、
前記第1の照射手段と前記第2の検出手段とを対向させながら前記被検体の体軸を中心として回転させる回転機構と、をさらに具備し、
前記放射線の減弱係数の空間分布は、前記回転機構によって前記第1の照射手段を回転させながら前記被検体内からの散乱線に近似するエネルギーを持つ放射線を照射させ、前記第2の検出手段により複数の位置で取得された画像データを用いて生成されたものであることを特徴とする請求項1乃至3のうちいずれか一項記載の放射線治療システム。
【請求項6】
前記第1の照射手段に対向して設けられた第2の検出手段と、
前記第1の照射手段の回転軌道面と前記第2の検出手段の回転軌道面とが平行になるように、前記第1の照射手段と前記第2の検出手段とを所定の位相間隔を維持しながら同期回転させる回転機構と、をさらに具備し、
前記放射線の減弱係数の空間分布は、前記回転機構によって前記第1の照射手段を回転させながら前記被検体内からの散乱線に近似するエネルギーを持つ放射線を照射させ、前記第2の検出手段により複数の位置で取得された画像データを用いて生成されたものであることを特徴とする請求項1乃至3のうちいずれか一項記載の放射線治療システム。
【請求項7】
前記第1の検出器に対向して設けられた第2の照射手段と、
前記第2の照射手段と前記第1の検出手段とを対向させながら前記被検体の体軸を中心として回転させる回転機構と、をさらに具備し、
前記放射線の減弱係数の空間分布は、前記回転機構によって前記第2の照射手段を回転させながら放射線を照射させ、前記第1の検出手段により複数の位置で取得された画像データを用いて生成されたものであることを特徴とする請求項1乃至3のうちいずれか一項記載の放射線治療システム。
【請求項8】
前記放射線の減弱係数の空間分布を計算する計算手段をさらに具備することを特徴とする請求項1乃至7のうちいずれか一項記載の放射線治療システム。
【請求項9】
治療用放射線ビームが照射される前記被検体の被照射領域から散乱線を複数の方向から検出した散乱線データと、前記被照射領域に関する放射線の減弱係数の空間分布と、を記憶する記憶手段と、
前記散乱線データと前記放射線の減弱係数の空間分布とに基づいて、減弱補正が施された散乱線ボリュームデータを生成する生成手段と、
を具備することを特徴とする放射線治療データ処理装置。
【請求項10】
コンピュータに、
治療用放射線ビームが照射される前記被検体の被照射領域から散乱線を複数の方向から検出した散乱線データと、前記被照射領域に関する放射線の減弱係数の空間分布と、に基づいて、減弱補正が施された散乱線ボリュームデータを生成させる生成機能と、
を実現させることを特徴とする放射線治療プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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