説明

放射線治療システム

放射線治療システムは、磁気共鳴撮像(MRI)装置と、放射ビームを生成する線形加速器とを有している。線形加速器は、MRI磁場に入れられており、内部の複数の粒子を中心軸線に沿うように向ける磁力に曝されるようにMRI磁場に対して方向が設定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、35 U.S.C. 119(e)の下で、その内容が本明細書に参照により完全に援用される2008年6月24日に提出された米国仮特許出願第61/129,411号からの優先権を主張する。
【0002】
本発明は、一般に放射線治療に関し、特に、線形加速器がMRI装置の磁場の中に入れられており、内部の電子を中心軸線に沿うように向ける磁力に線形加速器が曝されるように、MRI装置の磁場に対して該線形加速器の方向が設定されている放射線治療システムに関する。
【背景技術】
【0003】
放射線治療のための画像誘導は、研究と技術開発とが活発な領域である。現在の放射線治療の実践は、正確に定められている標的領域に向けられている高度原体照射ポータルを利用している。この標的領域は、肉眼的腫瘍体積(GTV)、臨床的標的体積(CTV)、および計画標的体積(PTV)からなる。GTVおよびCTVは肉眼的腫瘍疾病および肉眼的疾病の無症状微視的延長部分からなる。放射処置時に、これらの体積は、患者を適切に処置するために十分な線量で照射されなければならない。処置時にこの体積を特定することにおける不確かさと、患者と腫瘍とが動くことが避けられないために、より大きなPTVが通常照射される。
【0004】
疾病の生物学的範囲よりも大きな体積が通常照射されるため、健康な組織への不必要な照射のせいで正常な組織の合併症の危険性が増加する。したがって、放射ビームをGTVとCTVのみに適合させ、放射ビームを処置時にこの体積上に位置合わせするのを助ける撮像方法を提供することが好ましい。この技法は、画像誘導放射線治療(IGRT)として知られている。
【0005】
IGRTに使用可能な市販の技法は、平面X線画像、CT画像または3D超音波画像を作成するように、X線または超音波撮像技法を通常使用する。さらに、コントラストを改善するように、これらの撮像技法と共に基準マーカーを使用することができる。しかしながら、基準マーカーは、侵襲性技法を使用して配置しなければならず、したがって、好ましくない。X線や超音波に基づいているIGRT技法は、IGRTには理想的には適していない。X線は、軟組織のコントラストが低いという問題があり、腫瘍の撮像に対しては理想的には適しておらず、超音波は体の全ての位置で利用することができない。さらにX線ベースの技法は、電離放射線を使用するため、患者に対する線量が増加する。最後にX線と超音波ベースのIGRT技法は、処置を行うのと同時に実時間で任意の撮像平面内で画像を生成できるように線形加速器内に統合することが困難である。
【0006】
これらの問題を克服するために、放射線治療システムを磁気共鳴撮像(MRI)装置と統合することが提案されている。公知のように、MRIは軟組織の撮像に優れており、任意の平面内を実時間で撮像することができる。
【0007】
MRIは、標的の複数の核の複数の核磁気モーメントを揃える均一で強力な磁場を発生することによって機能し、MRIにおいて水素原子核(陽子)は、最も一般的な撮像標的である。磁場が存在する場合、複数の核の複数の磁気モーメントは均一な磁場に揃い、磁場強度によって定まる周波数で振動し、この周波数はラーモア周波数として知られている。この揃った状態を、磁化が磁場(B0磁場)の方向から垂直な方向に変化することによって横方向磁化を示すように、無線周波数(RF)パルスを使用して乱すことができる。複数の核が元の状態に戻ったときに、横方向の磁気モーメントは0(零)に減衰するのに対して、縦方向の磁気モーメントはその元の値まで増加する。異なる軟組織は、異なる横緩和時間と縦緩和時間を示す。特定の磁場強度が、複数の勾配磁気コイルを利用して組織の小さい標本に適用され、乱すためのRFパルスの特定のシーケンスを生成して、複数の核が最初のRFパルスによって乱された後に元の磁化状態に戻るときにこれらの複数の核から放射される複数の信号を分析することによって、これらの軟組織の画像が構成される。
【0008】
医療用線形加速器は円柱状の導波器を使用することによって機能し、導波器は電場が中心軸線上に位置するようにTM010モードで励起される。この構造の位相速度は、複数のキャビティを構成する複数の隔壁を導波器に導入することによって制御される。複数の隔壁は電子ビームが通過できるようにする小さい複数の穴を中心に有している。複数の隔壁には、MW範囲にあるRF入力電力に対して電場がMeV/mの範囲で勾配するように電場を導波器の中心で増強するというさらなる利点がある。電子は、加速構造の一方の端部に導入され、それから加速導波器の中心電場によってMeVエネルギーまで加速される。これらの電子は、高原子番号の標的に向けられ、電子エネルギーは、制動放射過程によって高エネルギーX線に変換される。導波器は、導波器の中心軸線が地面に並行になるようにCアームガントリに通常搭載されている。この導波器は、回転の中心軸線上に横たわっている患者の周囲を回転する。医療用加速器は、導波器によって生成された放射ビームをアイソセンターとして知られている回転の中心軸線上の点に収束させるように270°の偏向磁石を採用している装置を利用している。
【0009】
公知のように、線形加速器のMRI装置への統合に関連する数個の重大な技術的な問題が存在している。
【0010】
たとえば、線形加速器が物理的にMRIに近い場合、MRI磁石の大きな磁場が加速導波器内の電子の加速に影響する可能性があるが、これは、電子は、電荷を帯びている粒子であって、したがって、ローレンツ力、F=q(v×B)の影響を受けるからであって、v×Bは電子の速度vと磁束密度Bとの間の外積である。電子の動きの方向が、磁場の方向に垂直な場合、電子の経路の偏向が最大となり、電子が線形加速器の側壁に衝突しがちになることが非常に多く、それが粒子加速過程を停止させることになる。
【0011】
さらなる問題は、線形加速器のパルス状の電力の特性である。十分なRF電力(メガワットMWのオーダー)を加速導波器に供給するために、医療用線形加速器はパルス状電力モードで動作し、高電圧がパルス構成ネットワーク(PFN)を使用してパルス状電力に変換される。高電圧を発生する過程には、大電流の瞬間的な開始と停止とが伴い、これらの開始と停止によってスペクトルが撮像対象内の複数の水素の原子核のラーモア周波数に重なることもある無線周波数放射を発生させる。これは、これらの水素の原子核によって緩和時に放射される複数の信号に干渉し、したがって、MRIの画像形成過程に悪影響を与えることになる。
【0012】
MRIを医療用線形加速器に統合する時に存在するさらなる問題は、導波器が磁石から遮られずに患者に向けられるようなMRI磁石の加速導波器に対する向きに関連している。
【0013】
さらなる問題は、MRIによる撮像に使用される強力な磁場が存在している場合の放射線治療で使用される高エネルギーX線に患者が曝されたときの線量投与パターンに関する。MRIによって投与される線量は、光電子過程、コンプトン過程、または対生成過程によって入射する光子が散乱させる電子による。これらの電子は、荷電粒子であって、同様にローレンツ力を受ける。磁束密度の方向が、X線ビームの入射方向に垂直な場合、これによって、投与線量パターンを相当に混乱させ、混乱の大きさは磁束密度が増加すると増大する。
【0014】
Greenに対する米国特許第6,366,798号は、開いている2平面磁石を従来のCアーム医療用線形加速器に取り付ける方法を開示している。線形加速器の構成は、特許譲受人(Varian)によって構築された構成からは変更されておらず、特許の多くは、MRI磁石を線形加速器の既存の構成に後付けする方法を記述している。MRI磁石の数個の構成が説明されている。たとえば、磁石はCアーム加速器とは独立して取り付けることが可能で、したがって静止したままである。この構成において、磁石は、数個の角度からの放射を可能にするように十分に広い開口を有している。その代わりに、MRI磁石はCアームガントリに搭載され、回転治療を提供するようにガントリと共に回転する。GreenはVarian Medical Sysemsが製造した既存の医療加速器に追加できるようにMRI磁石が十分に小さいことに依存している。
【0015】
さらに、Greenによれば、MRI磁石は放射ビーム自体が主な磁場の方向に並行または垂直になるように配置されている。数個の磁石の方向が記述されており、(患者または放射ビームの通過のための)中心の開口を備えていたりいなかったりする複数のコイルが含まれている。
【0016】
電子加速または線形加速器の270°の偏向磁石とMRIとの干渉を避けるために、Greenは、ビームを組織の指定された領域に揃えるために最低品質の画像を得ることのみに十分な低磁場を提案している。医療用線形加速器の加速導波器の位置でのMRI磁石からの磁場を減少させる能動的な遮蔽方法も採用されている。Greenは、前述のRF干渉問題への解決策は考慮していない。
【0017】
Greenの文書は、X線ビームが照射されている組織のNMRスペクトルでスペクトル変化を引き起こす機構も提案しており、さらに提案しているNMRスペクトル変化に基づいて照射されている組織の領域を撮像する方法を記述している。
【0018】
Lagendijkに対する国際公開第2004/024235号は、円柱状のソレノイドの形状のMRI磁石であって、この磁石に(中間の位置で)垂直に取り付けられており、磁石の中心軸線を指している線形加速器に組み合わされているMRI磁石を開示している。患者は、頭尾方向の磁場を備えている円柱状の磁石の中心軸線上に横たわる。放射ビームは、磁場の方向に垂直である。磁石は、加速導波器が位置している場所の磁場が低い値に減少するように、能動遮蔽を使用して構成されている。放射ビームは、ソレノイドの内側に位置している患者に到達するようにソレノイド状の磁石を貫通しなければならず、したがって磁石によって減衰する。ソレノイド状磁石のX線ビームの品質に対する影響を補償する複数のフィルタが記述されている。減衰していないX線ビームが患者に到達するようにソレノイド状磁石が分離される実施形態も記述されている。RF干渉やB0場による線量分散の乱れについては記述されていない。
【0019】
Bucholz他に対する米国特許出願第6,862,469号は、陽子ビームをMRI装置と組み合わせる方法を開示している。この発明は、現在の開示に間接的に関連しているが、それは、この発明が陽子治療に関連しており、医療用線形加速器をMRI磁石の近くに配置する方法について説明していないからである。この開示は、B0磁場と同じ方向にMRI磁石の開口を通して衝突し、したがって、ベクトル積v×Bがこの場合0になるため、B0磁場によって偏向しない光子ビームを記述している。この開示の限界は、磁石内の小さい開口の大きさである。
【0020】
陽子ビームとMRI動作との間の干渉ついては具体的には説明されていない。通常、陽子照射器において、陽子ビームは、患者から離れて、所望のエネルギーまで加速される。したがって、陽子加速過程では、MRIとの磁気干渉が発生しないということである。
【0021】
Bucholz他の開示の重要な部分は、フィードバック方法に関連しており、それによって、MRI撮像情報が陽子ビームを患者の適切な位置に配置するために使用される。
【0022】
Bucholz他は、患者が回転治療のために回転される装置を記述しているが、陽子ビームのガントリの回転については簡単に触れられている。ガントリの回転については、Bucholzは静止しているMRI磁石を記述しており、磁石の隙間を通したビームのアクセスが提案されている。
【0023】
Bucholz他は、磁力とRFとの他の干渉を簡単にさらに触れており、必要に応じてそれらを取り除くために遮蔽方法を使用できることを示している。
【0024】
Kruip他に対する国際公開第2006/136865号は、陽子治療と組み合わせることができるMRI装置を開示している。陽子ビームをMRIのB0磁場と同じ方向とすることができるが、陽子ビームの直動を可能にする大きな開口を備えている洗練されている磁石構成が記述されている。磁石の構成は複雑であって、非円形で複雑な複数のコイルが含まれている。Bucholz他と同じように、陽子源は、磁石から離れており、2つの装置は互いに磁気的には干渉しないと仮定されている。さらに、回転治療については説明がない。
【0025】
Dempseyに対する米国特許出願公開第2005/0197564号は、開いているソレノイドMRIと組み合わせて電離放射線源として放射性核種を使用した治療を行う方法を開示している。患者は、磁場が頭尾方向に並行になるようにMRI磁石の孔の中に配置される。使用される放射性核種は60Coであって、患者がMRIソレノイドの開口を通して照射され、磁場がX線ビームの方向に垂直となるように配置されている。60Coは放射性であって、光子を1.25MeVの平均エネルギーで放射する。
【0026】
Dempseyの構成において、加速導波器は使用されず、そのためMRIのB0磁場による加速導波器内での電子ビームの偏向の問題は発生しない。医療用線形加速器とMRIとの間のRF干渉も回避することができるが、これは60CoがPFNを使用しないためである。しかし、この方法は、60Coは強磁性体であって、そのためMRIのB0磁場を不均一にするという新しい問題をもたらす。60Co線源が回転すると、これらの不均一性はMRI画像の品質を低下させ、そのために画像の品質を回復させるために新規の技法の使用が必要になる。また、60Coは所与の60Co線源活性に対して線量率が有限であり、60Coの半減期のためにやがて減少する。この線量率は医療用線形加速器よりも一般に低く、したがって好ましくない。60Co線源の大きさも、放射源の焦点が医療用線形加速器の焦点よりも大きくなるように、十分に大きい。これによって、医療用線形加速器のX線ビームの品質に比べて60Co線源のX線ビームの品質が低下する。
【0027】
Dempseyは、磁場による患者内の線量の分散に対する乱れの効果をある程度詳細に記述している。彼は、1.5Tにおいて、垂直方向の放射について乱れは著しいが、たとえば0.3Tの低磁場MRIが垂直方向の放射に使用された場合には、乱れは無くならないにしても、かなり減少すると指摘している。
【0028】
Dempseyは、陽子または中性子などの代替の放射源の使用についても記述している。
【0029】
本出願の譲受人に譲受されており、その内容が参照によって本明細書に援用されるFallone他に対する国際公開第2007/045076号は、MRIに適している2平面永久磁石に組み合わされている医療用線形加速器について記載している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0030】
前述の文書は様々な進歩を実現しているが、まだ解決すべき技術的問題が存在している。たとえば、前述のいくつかの構成は、磁気遮蔽つまりシミングの使用に依存している。そのような遮蔽は、MRIの線形加速器に対する磁気的な効果を緩和するように、またはMRIに対する強磁性60Coの影響を補償するように、戦略的に装置の周辺に配置される。磁気遮蔽つまりシミングへのこの依存の結果、これらの装置は、MRIと線形加速器または60Co源との間の距離をできるだけ大きくするように構成される傾向にある。残念なことに、MRIと線形加速器との間の距離を増加させると、MRIのアイソセンターの位置で見た光子線量率が低くなる。その結果、必要な線量を提供するための処置時間が長くなる。線形加速器とアイソセンターとの間に必要な長い距離の重大な他の欠点は、組み合わされたMRI−線形加速器の物理的な大きさがそれに応じて増加することである。そのような大きさの増加は、統合されたMRI−ライナック装置を標準的な大きさの放射治療装置一式に取り付けることができることを保障することが困難になることにつながる。理解されるように、磁気的な干渉を減少させるための磁気遮蔽/シミングへの依存がはるかに少ないまたは全く依存しない構成は、ライナックとMRIとの相対的な配置に対する制限が少なくなることであろう。その結果、そのような構成は、好ましくない磁気的な干渉なしに、大きさの減少と線量率の増加とを可能にするであろう。
【0031】
前述の構成に共通の第2の問題は、これらの構成によって、磁場が存在しない場合に比べて、患者内の線量分布が乱れることである。この乱れは光子が患者の生物学的な物質と相互作用することによって発生した散乱している電子に作用するローレンツ力による。1つ以上の前述の提案は、光子ビームがMRI撮像装置のB0磁場に垂直で、したがってこの場合散乱している電子に作用するローレンツ力が最大である装置構成を使用している。B0磁場が光子ビームの方向に平行な装置は、大部分がB0磁場に対して移動の角度が小さく、したがって最小のローレンツ力が作用する散乱している電子を発生させる。これは、患者が受ける線量分布に対して小さい乱れを発生させるに過ぎない。この効果が研究され、Bielajew、Med.Phys、vol20、no.4、pp1171〜1179(1993)に記載されている。
【0032】
しかし、前述のGreenに対する特許はMRIのB0磁場とX線の方向とが平行な実施形態を提案している。しかし、Greenの開示の特徴を定めているのは、それが、加速導波器がCアームガントリに取り付けられており、加速導波器が床に平行であって、同じく床に平行な軸線を中心に回転する標準的な線形加速器構成を使用していることである。さらに、Greenの開示に記載されているMRIと加速導波器のレイアウトでは、線形加速器は光子ビームをMRIに向けるように270°偏向磁石を使用している。しかし、熟慮すれば、当業者にはそのような実施形態は非常に非現実的であることが理解されるであろう。たとえば、大きさが十分で、コントラストが画像誘導放射線治療に十分に役立つ視野を備えている、人間を対象とした画像を生成するMRIは、Greenが提案している標準的な線形加速器に直接取り付けることができるものよりもはるかに大きい。これは、単に、MRI磁石の大きさが所望の視野の大きさに強く関連しており、コントラストが磁場強度に直接関連しているからである。言い換えると、Greenの図に示している割合に従って組み立てられた装置は放射線治療を誘導するのに有用な画像を生成できず、それは、そのために必要な磁石を支持できないからである。
【0033】
Greenに関するさらなる問題は、MRIと線形加速器との間の磁気干渉を減少させるために低い磁場強度に明確に依存していることである。さらに、Greenは、放射ビームの可視化にNMRスペクトル技法を使用する方法を提案している。しかし、当業者は、磁場強度は限定要因であることを知っており、放射線治療の誘導にとにかく適しているMRI画像の生成は低磁場に依存できないことを即座に認識するであろう。さらに、NMR分光法は磁場強度が高い時にだけ良好に動作することは公知である。
【0034】
そのため、本発明の目的は、画像誘導放射線治療用に線形加速器とMRIとを統合する時に遭遇する欠点を少なくとも緩和することである。
【課題を解決するための手段】
【0035】
一態様において、
磁気共鳴撮像(MRI)装置と、
放射のビームを生成可能で、内部の複数の電子を中心軸線に沿うように向ける磁力に曝されるようにMRI磁場に入れられており、MRI磁場に対して方向が設定されている線形加速器と、
を有する放射線治療システムが提供される。
【0036】
他の態様において、
磁気共鳴映像(MRI)装置と、
放射のビームを生成可能で、内部の電子ビームを収束させるようにMRI磁場に入れられており、MRI磁場に対して方向が設定されている線形加速器と、
を有する放射線治療システムが提供される。
【0037】
前述の放射線治療システムは特に有利であり、それは、線形加速器がMRI装置の近くとなるように配置されているからであるが、MRI磁石による線形加速器への干渉を制限するために必ずしも磁気遮蔽を必要としないからである。したがって、干渉を制限するための構成上の配慮が少なくなる。
【0038】
本開示に示されている構成上のさらなる利点は、実用的な装置については、線形加速器と組み合わせることができるMRI磁石の磁束密度は、比較的高い。これは、線形加速器内の電子の移動の方向が磁場の方向に常に平行であるためである。したがって、電子に作用するローレンツ力は、この場合0(零)に近いか等しく、MRI磁場によって電子の軌跡の偏向が発生しない。したがって、MRIの画質を改善するために比較的高い磁場強度が必要な場合、本開示を、MRI磁石と線形加速器とを組み合わせるために依然として使用することができる。
【0039】
本開示に示している構成のさらなる利点は、患者内の線量分布の乱れがより好ましくなることである。従来の提案のいくつかにおいて、X線ビームの方向はMRI磁石のB0磁場に対して垂直である。そのような場合、患者の線量分布は、好ましくない態様で乱れ、線量の相当に高いまたは低い域が発生する可能性がある。この効果は、たとえば、Kirkby他、Med.Phys.Vol35、no.3、pp.1019〜1027(2008)に記載されている。この効果は、X線ビームの方向とMRIのB0磁場とが直接の原因であって、取り除くことができない。この効果は磁場の強度がより高いときに強くなり、組み合わされているMRI−線形加速器の有用性を限定する可能性がある。しかし、Bielajew(Med.Phys、vol20、no.4、pp1171〜1179(1993))に記載されているように、X線ビームが外部のB磁場と同じ方向の場合、縦方向の電子散乱が減少する。大きい磁場の中心軸線上で、Bielajawは零B磁場の場合と比較して、線量分布に対する変化がないことを示した。横方向のプロフィール上では、線量分布は変化することになるが、これは、ローレンツ力の収束の効果によって散乱している横方向の電子が減少するためである。この変化によって、ペナンブラ領域で線量が急激に低下し、したがって、放射線治療において有用である。したがって、MRI−線形加速器装置に対する線量分布は、以前に開示されている装置の線量分布よりも品質が高くなる。
【0040】
もたらされる他の利点は、粒子が収束することによって、線量分布がペナンブラ領域でより急激に線量低下し、そのため、ビームの縁でビームの鋭さが改善されることである。
【0041】
本開示に示している構成のさらなる利点はより小さなサイズが可能となることであって、これは、磁気遮蔽をより複雑にすることなく線形加速器をMRI磁石のアイソセンターのより近くに配置できるからである。これは、重要な利点である、そうでない場合には、装置の実用性がその大きさによって限定されることがあるためである。まず、アイソセンターでのX線の線量率は、線形加速器の標的からの距離の2乗に反比例し、そのため、MRIと線形加速器との間の距離が長くなると、1を距離の2乗で除した商に比例して線量率が減少する。第2に、大きすぎるために標準的な放射治療装置一式に組み込むことができない組み合わされたMRI−線形加速器は、技術的に可能であるが、商業的には非実用的であり、それは、病院では既存の放射線治療部門内の利用可能な部屋の寸法を変更できない場合があるためである。既存の放射治療装置一式に組み込むことができるコンパクトな装置は、新しい設備の構築が必要なより大きな装置よりも取り付けと運用とがより安価となり、したがって、経済的および商業的に有利である。
【0042】
本開示に示している構成のさらなる利点は、光子ビームだけでなく電子ビームを使用した放射線治療の処置を可能にすることである。たとえば、電子線治療は、加速導波器の出口から高Z標的を単純に取り除き、代わりにがん治療に直接電子ビームを使用することによって達成される。本開示において、電子の動きの方向は、中心軸線上で磁場と並行であって、電子の軌跡はローレンツ力を受けないことになる。中心軸線から離れると、電子の運動に対して小さいローレンツ力が存在することになる。この力が、半径が電子の横方向運動量に比例しており、磁場強度に反比例している磁場の方向を中心とした電子経路の螺旋状の動きの原因となる。しかし、この運動は、電子の縦方向の運動量を保存し、従って、電子ビームが患者に到達するのを妨害することはない。そのような螺旋状の電子の運動は、シンクロトロン放射の原因となることがあるのに対して、MRIに関連している磁場強度と放射線治療に関連している電子エネルギーとにおいて、そのような影響は最小で、存在したとしても有害な結果にはほとんどならないことがBielajew(Med.Phys、vol20、no.4、pp1171〜1179(1993))によって示されている。
【0043】
本開示に示しているこの構成のさらなる利点は、患者内の線量の計算が促進されることである。放射線治療において、放射線量は、光子インパルス関数のコンボリューションを実行することによって計算される。このインパルス関数は、1つの点での1次光子の応答であって、線量拡散分布としても知られている。線量拡散分布は、光子相互作用時に放出されるエネルギーの拡散を示している。拡散は、以降の光子と電子との無作為な相互作用による。Bielajewによって記載されているように(Med.Phys、vol20、no.4、pp1171〜1179(1993))、線量拡散関数の電子成分の拡散は、平行な磁場が存在すると減少し、したがって、より小さくなることになる。より少ない線量拡散分布による線量の計算は実行が比較的容易であるが、これは、正確な計算に必要なコンボリューションが比較的複雑でなく、したがって、この場合、線量の計算が簡単になるためである。
【0044】
以降では、添付の図面を参照して実施形態をより完全に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】一実施形態の放射線治療システムの側面図である。
【図2】図1の放射線治療システムの前面図である。
【図3】図1の放射線治療システムの平面図である。
【図4】図1の放射線治療システムのコイル構成の2つの異なるパラメータ設定に対する磁束密度の2つのプロットの図である。
【発明を実施するための形態】
【0046】
本開示は、前述の1つまたは2つ以上の問題に対応している装置を説明している。電子が加速導波器の中心軸線から迷走する程度を減少させ、それによって電子を加速器の標的に収束させるために、線形加速器を加速導波器内の電子の移動の方向に平行な磁場内に入れることが可能で、有利なことに、そして驚くべきことに、磁場をMRI磁石自体によって発生させることができる。
【0047】
図1は、高さが3メートルの部屋に完全に入れることができる一実施形態の放射線治療システム10の側面図である。放射線治療システム10は、標準Sバンド定在波型6MV線形加速器14に組み込まれているオープンボア、0.2Tesla MRI組み立て品12を有している。放射線治療システム10は、30cmの直径の撮像容積50を実現するように構成されており、共通の軸線23を中心に同心状に配置されている2式の直径が異なる14個の円形コイル20を有している。これら2式は、固定された間隔の関係にあり、それによって、それらの間に患者を入れるための空間を設けている。本実施形態において、14個の円形のコイル20のうち最も小さいコイルは内径が24センチメートルであって、それは、線形加速器14を受け入れるのに十分である。14個の円形のコイル20のうち最も大きいコイルは直径が230センチメートルである。磁石の円柱の厚さは5センチメートルであって、14個のコイル20の間の間隔は2.5cmである。この間隔は、支持構造に接続し、水や低温冷媒などの冷媒を散在させることができるようにするために設けられている。図1においてわかるように、ビームの成形のための多分割コリメータ(MLC)40とビーム停止部42との寸法を収容するために内側の2つの円柱がより短くなっている。
【0048】
図1において、患者は右側からシステム10に入り、2式のコイル20の間に水平方向に横たわる。放射線治療システム10は、患者の頭尾軸線に揃っている水平方向の軸線32を中心に回転する。2式のコイル20の内向きの両表面の間の隙間は80cmである。この隙間の寸法は、2式のコイル20の間に70センチメートルの空間を設けながら、2式のコイル20を固定するために使用される2つの5センチメートルのステンレス鋼のプレート34を収容している。70センチメートルの空間は、2式のコイル20全体を患者を中心に回転させるのに十分な空間を依然として確保しながら、追加の傾斜磁石(不図示)を収容するのに十分である。
【0049】
放射線治療システム10の前面図を図2に示している。この図において、回転の軸線32は紙面に垂直であって、紙面内への方向に移動することによって患者はシステムに入る。この図では、回転時に弛んだり撓んだりしないように、複数の支持ポストが組み立て品に必要な剛性をもたらしているのがわかるように、システム10を支持しているガントリリングをはっきりと見ることができる。
【0050】
放射線治療システム10の平面図を図3に示している。この図は、14個の同心の磁石コイルをはっきりと示しており、中心軸線23に沿って配置されている線形加速器を示している。
【0051】
放射線治療システム10は水平方向の軸線24を中心に一体で回転することが有利である。線形加速器14と連動している伝送RF導波器44は本実施形態ではタイプ284である。伝送RF導波器44は、軸線32を中心に回転する回転継ぎ手46まで延びている。回転継ぎ手46は、それに対して、本実施形態では放射線治療システム10から離れて位置しているRF電源に結合されている。この構成では、RF電源は回転しない。
【0052】
線形加速器14内の粒子の移動の軸線も中心軸線23と同心であることが有利である。本実施形態では、線形加速器14は、線形加速器のアイソセンターから標的までの距離を75センチメートルにするように、部分的に14個の円形コイル20の最小の円形コイルによって構成されている25センチメートルの孔内に中心軸線23に沿って配置されており、それによって、処置中に高線量率を適用することを可能にしている。この位置において、内部の粒子を線形加速器14の中心軸線23に沿った方向に向ける(つまり「収束させる」)ために、線形加速器14を磁力に曝すように、線形加速器14は14個のMRIコイル20によって発生した磁場の中に配置され、この磁場に対して方向が設定されている。
【0053】
収束させる機構は、線形加速器14が配置されている中心軸線23の位置の長さ方向と半径方向の両方の磁場の存在による。線形加速器の中心軸線23から離れて線形加速器14に進入した粒子は、14個のMRI磁石の半径方向の磁場によって、z軸を中心とした回転角の方向にローレンツ力を受けることになる。それから、その結果としての粒子の回転運動は、14個のMRI磁石の長さ方向の磁場との相互作用による内向きの半径方向のローレンツ力の原因となる。最終的に、複数の粒子を線形加速器14の中心軸線23へ拘束することになる。したがって、この構成は浮動粒子を線形加速器14の中心軸線23に再度向けることによって線形加速器14を助けるローレンツ力をもたらす。
【0054】
線形加速器14を前述のように配置することによって、線形加速器は磁場の均質性が妥当なレベルにある領域に配置されることが理解されるであろう。この配置は、それによって、粒子ビームを線形加速器14内に収束させるのに有利な半径方向の磁場を保証する。
【0055】
粒子を収束させるRF磁場の使用によって、新しい定在波型線形加速器14は、前述のように追加の収束動作を必ずしも必要としないが、前述のように追加の収束動作を行う線形加速器14の配置は、加速器の機能を損なうことが無く、もちろん、前述の小型化、混乱の減少、および線量の増加の利点をもたらすことになる。さらに、MRI磁場に対する線形加速器14の有利な配置によって実現される追加の粒子の収束動作のせいで線形加速器14の性能が向上することもある。そのような追加の収束動作は、特に、ビームスポットの大きさを減少させ、放射治療の精度を高めるのに役立つ。
【0056】
例として、Varian2100および2300シリーズ医療用加速器は定在波型加速構造と、また導波器収束磁石コイルを利用している。したがって、この種類の収束磁場は、任意の線形加速器に適用可能で、線形加速器をMRIに組み合わせるために利用できる。
【0057】
選択された一式の性能パラメータの例を表1と2とに示しており、結果の中心軸線磁場のプロットを図4に示している。
【0058】
表1は、放射線治療システム10の14個のコイル20を表している複数のパラメータを示しており、14個のコイル20は、磁気のアイソセンターの位置の30cmの球状の撮像体積内に、非一様性が約71ppmの程度の一様な磁場を発生させる。本実施形態において、14個のコイル20の導線のゲージは18AWGであって、コイルの総重量は17,363キログラムであって、総電力損失は1207kWである。
【表1】

表2は、放射線治療システム10の14個のコイル20を表している複数のパラメータを示しており、14個のコイル20は、磁気アイソセンターの位置の30cmの球状の撮像体積内に、非均質性が約80ppmの程度の許容可能な均質な磁場を発生させる。本実施形態において、14個のコイル20の導線のゲージは8AWGであって、コイルの総重量は18,093キログラムであって、総電力損失は1486kWである。
【表2】

図4は、動作パラメータが表1と2の場合の、図1〜3に示しているように配置されている14個の磁石コイルの中心軸線に沿った長さ方向の磁束密度のプロットである。上のプロットは、表1のデータを表しているのに対して、下のプロットは表2のデータを表している。
【0059】
線形加速器は、磁石のアイソセンターから75cmと115cmとの間の領域内に位置しており、したがって、(a)18AWGの銅線:約0.025T(標的側の端部)から約0.12T(ガン側の端部)と(b)8AWGの銅線:0.11T(標的側の端部)から0.145T(ガン側の端部)の値の間の範囲の磁束密度に曝されることが好ましい。これらの磁場強度において、線形加速器内での電子ビームの収束は優れている。この収束は、線形加速器の例外的な性能を可能にすることになる。
【0060】
前述の部分は、具体的なパラメータを有している実施形態を示しているが、当然、磁石コイルは様々な態様で構成することができる。たとえば、当業者は、さまざまな撮像体積と形状にわたって許容可能な均一な磁場を発生できる多くの他のコイルの巻き数と電流との組み合わせが存在することを理解するであろう。たとえば、0.2Tよりも高い磁場が必要な代替の実施形態において、複数のコイル20を低温冷媒を使用して超伝導温度に冷却し、したがって、複数の超伝導コイルも使用することができる。そのような実施形態において、前述のような有利な配置によって線形加速器14の動作に悪影響を与えずに、線形加速器14を配置しながら、1Tまたはそれ以上のオーダーの磁束密度を発生させることができる。均質性の度合い(非均質性が80ppmまたはそれ以下)は、多くのMRI撮像用途に対しては十分であって、30センチメートルの撮像体積は画像誘導放射線治療に役立つのに十分に大きい。
【0061】
前述の構成については、MRIにおいて役立つのに十分安定している電源と冷却装置とが市販されている(Danfysic、コペンハーゲン、デンマーク)。
【0062】
表1と2にまとめられている構成において、抵抗性コイルが使用された。
【0063】
理解されるように、図1から3に示しているMRI組み立て品は、縁の部分の磁力線の範囲を限定するために能動コイルは一切有していない。これは、MRIにおいて最適ではないが、それは磁石のアイソセンターから遠くまで延びる磁力線は危険であり、したがって好ましくないからである。MRIのB0磁場の範囲を限定するために能動的な遮蔽方法を使用するのが一般的である。図1から3に示している統合されているMRI磁石と線形加速器の例は能動的な遮蔽を有していないが、当業者は、磁石組み立て品の中心軸線上で磁場の半径方向の成分を0(零)に維持しながら能動的な遮蔽技法を使用可能なことを理解するであろう。これは、本開示と整合しており、これは本開示の機能を妨げることはない。
【0064】
当業者は、図1から3に示している構成は、線形加速器をMRI磁石組み立て品に組み込むことが可能で、線形加速器の長い軸線がMRIのB0磁場に平行な方向にある数個の構成の1つに過ぎないことも理解するであろう。他の実施形態は非円形通電コイルまたは永久磁石も使用してもよい。
【0065】
好適な実施形態を説明し図示したが、併記の請求の範囲によって定まる本発明の目的と範囲から逸脱することなく、さまざまな変形や修正が可能なことを当業者は理解することであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気共鳴撮像(MRI)装置と、
放射ビームを生成可能で、MRI磁場に入れられており、内部の複数の粒子を中心軸線に沿うように向ける磁力に曝されるように前記MRI磁場に対して方向が設定されている線形加速器と、
を有する、放射線治療システム。
【請求項2】
複数の前記粒子は複数の電子である、請求項1に記載の放射線治療システム。
【請求項3】
前記MRI装置は中心軸線に沿って同軸に揃えられている複数の磁石を有している磁石組み立て品を有しており、少なくとも1つの前記磁石は前記中心軸線に沿っている穴を有しており、前記線形加速器は前記中心軸線に揃えられるように前記穴内に配置されている、請求項1に記載の放射線治療システム。
【請求項4】
複数の前記磁石は複数のコイル磁石である、請求項3に記載の放射線治療システム。
【請求項5】
磁気共鳴撮像(MRI)装置と、
放射ビームを生成可能で、MRI磁場に入れられており、内部の粒子ビームを収束させるように前記MRI磁場に対して方向が設定されている線形加速器と、
を有する、放射線治療システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2011−525390(P2011−525390A)
【公表日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−515035(P2011−515035)
【出願日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際出願番号】PCT/CA2009/000873
【国際公開番号】WO2009/155700
【国際公開日】平成21年12月30日(2009.12.30)
【出願人】(508117547)アルバータ ヘルス サービシズ (3)
【氏名又は名称原語表記】ALBERTA HEALTH SERVICES
【Fターム(参考)】