説明

放射線治療用の頭頸部固定具、それを作製するためのテンプレート、シール及びシート材料、放射線治療用の頭頸部固定具の作製方法

【課題】 頭頸部の放射線治療を受ける患者が特に幼い子供である場合に、患者の精神的苦痛を軽減して放射線治療を円滑に進めることができるようにした放射線治療用の頭頸部固定具を提供する。
【解決手段】 放射線治療用の頭頸部固定具1には、放射線治療を受ける子供の精神的苦痛を軽減するように、顔面を覆う部分にパンダの顔模様が表されている。頭頸部固定具1は、シート材料3を用いて作製する。即ち、加温して軟化させたシート材料3を頭部及び顔面等の患部に被せ、患部の凹凸に密着するように伸長させる。温度が下がると患部の凹凸に合わせてシート材料3が硬化するので、患部から取り外し、周縁の不要な部分を切除する。病巣に正確に放射線を照射するために、成形したシート材料3にマーキングを行う。マーキング後に、テンプレート6と黒色の油性インク等のペン7を用いて成形したシート材料3にパンダの顔模様を描く。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線治療用の頭頸部固定具、それを作製するためのテンプレート、シール及びシート材料、放射線治療用の頭頸部固定具の作製方法に関する。
更に詳しくは、頭頸部の放射線治療を受ける患者が特に幼い子供である場合に、患者の精神的苦痛を軽減して放射線治療を円滑に進めることができるようにしたものに関する。
【背景技術】
【0002】
脳腫瘍などの頭部の放射線治療を行う際には、一般に「シェル」と呼ばれる患者の頭部を固定する頭頸部固定具が使用される。放射線照射時に患者の頭部を動かないように固定することによって、放射線を病巣に正確に照射できる。
【0003】
例えば特許文献1に記載されているように、頭頸部固定具は、治療用ベッドに横になった患者の頭部や顔面をマスクのように密着させた状態で覆うことができるものである。そして、頭頸部固定具を治療用ベッドに固定することにより、頭頸部が定位置に保たれる。
【特許文献1】特開2001−170071号公報
【0004】
通常、頭頸部固定具は熱可塑性樹脂製のシート材料を成形して作られ、患者一人一人に合わせて用意される。詳しくは、放射線治療前の診察の段階で作られ、シート材料が患者の頭部や顔面の患部の形状に密着するように立体的に成形される。即ち、まずシート材料を加温して軟化させ、これを頭部等の患部に拡げた状態で載せ、患部の凹凸に密着するように伸長させる。温度が下がると患部の凹凸に合わせてシート材料が硬化するので、患部から取り外し、周縁の不要な部分を切除し、頭頸部固定具を得る。
【0005】
放射線治療は、通常、一日一回数分程度の放射線照射を20回〜35回程度に分け、4週間から7週間程度かけて行う。このため、毎回、病巣に正確に放射線を照射するために、頭頸部固定具の表面にインク等によってマーキングする。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特に患者が幼い子供である場合、上記した頭頸部固定具を用いた放射線治療は子供にとっては極めて大きな精神的苦痛を伴うものである。
【0007】
即ち、まず、放射線照射時には、放射線を浴びないように医師や放射線技師は放射線治療室から外へ出る。このため、子供はコンクリートで囲まれた治療室内で、たった一人取り残されたような不安な状況におかれる。また何よりも、頭部を頭頸部固定具で固定されるため、「そこから逃げられない」といった恐怖感に襲われる。更に、放射線は子供にとって良いイメージを与えるものではないので、それを頭部に照射されるということは、子供にとって極めて大きな精神的苦痛となる。現に、大人の患者でも涙ぐむ方が見られるほどである。
【0008】
このようなことから、麻酔薬を使用して子供を眠らせた状態で放射線を照射することが一般に行われている。しかし、治療用ベッドに横になって実際に寝てしまうまでには、少なくとも1時間程度はかかり、それまでは治療を待つことになる。その結果、一回数分の放射線照射のために、大人の数倍の治療時間(2〜4時間)を要してしまう。よって、大人の治療がある程度終了した午後遅い時間に治療せざるを得ないなど、治療時間帯の制約もある。
【0009】
また麻酔薬を使用すると吐き気を催すことがあるため、子供は治療の前に食事をとることができない。このため、空腹で機嫌が悪いことが多く、更に治療時間がかかるといった悪循環となっている。このことは、子供だけではなく、付き添いの保護者にとっても大きなストレスとなっている。
【0010】
更には、上記したように大人の患者に比べて治療時間が長くかかることから、患者が幼い子供の場合には医療点数をもっと上げるべきだといった意見もある。このことは、ひいては医療費高騰といった問題にもつながる。
【0011】
(本発明の目的)
そこで本発明の目的は、頭頸部の放射線治療を受ける患者が特に幼い子供である場合に、患者の精神的苦痛を軽減して放射線治療を円滑に進めることができるようにした放射線治療用の頭頸部固定具を提供することにある。
【0012】
本発明の他の目的は、上記した頭頸部固定具を作製するためのテンプレート、シール及びシート材料、放射線治療用の頭頸部固定具の作製方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために本発明が講じた手段は次のとおりである。
【0014】
第1の発明にあっては、
加温して軟化させたシート材料を顔面を含む患部に当てて成形する放射線治療用の頭頸部固定具であって、
顔面を覆う部分に、患者が受ける精神的苦痛を軽減できるようにした顔模様が表してあることを特徴とする、
頭頸部固定具である。
【0015】
第2の発明にあっては、
加温して軟化させたシート材料を顔面を含む患部に当てて成形する放射線治療用の頭頸部固定具であって、
患者が受ける精神的苦痛を軽減するように、顔面を覆う部分に動物またはキャラクターの顔模様が表してあることを特徴とする、
頭頸部固定具である。
【0016】
第3の発明にあっては、
第1または第2の発明に係る頭頸部固定具を作製するために使用するテンプレートであって、
顔模様の各部の形に対応した開口部または/及び切込部が形成されていることを特徴とする、
テンプレートである。
【0017】
第4の発明にあっては、
第2の発明に係る頭頸部固定具を作製するために使用する成形補助具であって、
被せられたシート材料の一部で動物の耳を成形できるようにした耳型体と、患者の頭部に取り付けできる取付要素を備えていることを特徴とする、
成形補助具である。
【0018】
第5の発明にあっては、
第1または第2の発明に係る頭頸部固定具を作製するための貼付体であって、
顔面を覆う部分に貼って顔模様を表わすことができることを特徴とする、
貼付体である。
【0019】
第6の発明にあっては、
第1または第2の発明に係る頭頸部固定具を作製するためのシート材料であって、
顔模様が施してあり、患部に当てて成形することにより顔面を覆う部分に顔模様が表れるようにしたことを特徴とする、
シート材料である。
【0020】
第7の発明にあっては、
加温して軟化させたシート材料を顔面を含む患部に当てて成形する放射線治療用の頭頸部固定具の作製方法であって、
顔面を覆う部分に、患者が受ける精神的苦痛を軽減できるようにした顔模様を表す工程を含むことを特徴とする、
頭頸部固定具の作製方法である。
【0021】
第8の発明にあっては、
頭頸部固定具を成形するためのシート材料の一部で動物の耳を作ることを特徴とする、
第7の発明に係る頭頸部固定具の作製方法である。
【0022】
(作 用)
本発明は次のように作用する。
患者の精神的苦痛を軽減するように、頭頸部固定具の顔面を覆う部分には例えば動物やキャラクター等の顔模様を表されている。よって、頭頸部の放射線治療を受ける患者が特に幼い子供である場合に、子供は頭頸部固定具をあたかも楽しいお祭りのお面のように感じ、恐怖心や不安感などが和らぐ。これにより、抵抗なく頭頸部固定具を装着させ、放射線治療を円滑に進める。
【0023】
頭頸部固定具を作製するためにテンプレートを使用する場合は、患部に当てて成形したシート材料にテンプレートを当て、その状態で開口部または/及び切込部内を油性インク等のペンで塗りつぶし、顔模様を描く。これにより、絵が不得意な作製者であっても、容易に顔模様を描くことができる。
【0024】
頭頸部固定具を作製するために成形補助具を使用する場合は、まず、取付要素により成形補助具を患者の頭部に取り付ける。次に、シート材料を加温して軟化させ、これを拡げた状態で顔面を含む患部に被せると共に、耳型体の上からもシート材料を被せ、シート材料の一部で動物の耳を作る。患部から取り外すと、動物の顔模様と同時に動物の耳まで一枚のシート材料で成形することができる。このように、同じ一枚のシート材料で連続的に耳を成形できるので、別部材で耳を作ったものを接着剤等で後付けする場合と比べ、長期の使用でも耳の部分が外れにくい。
【0025】
頭頸部固定具を作製するために貼付体を使用する場合は、シート材料を顔面を含む患部に当てて成形した後、顔面を覆う部分に貼付体を貼って顔模様を表わす。これにより、絵が不得意な作製者であっても、容易に顔模様を描くことができる。
【0026】
頭頸部固定具を作製するためにシート材料を使用する場合は、顔模様が施してあるシート材料を患部に当てて成形することにより、顔面を覆う部分に顔模様が表れた頭頸部固定具を得ることができる。このように予め顔模様が施してあるシート材料を使用すれば、上記したテンプレートや貼付体を使用しなくても、容易に頭頸部固定具を作製できる。
【発明の効果】
【0027】
(a)本発明によれば、頭頸部の放射線治療を受ける患者が特に幼い子供である場合に、患者の精神的苦痛を軽減するように、頭頸部固定具の顔面を覆う部分に顔模様を表している。よって、子供は頭頸部固定具をあたかも楽しいお祭りのお面のように感じて恐怖心や不安感などが和らぎ、抵抗なく頭頸部固定具を装着できる。また恐怖心や不安感などが和らぐことにより、麻酔薬を使用しなくても治療できる場合もあり、その場合は子供が眠るまでの時間を待たずに治療を開始でき、大幅な治療時間の短縮が可能となる。
【0028】
(b)また頭頸部固定具を作製するために使用するテンプレート、成形補助具、貼付体及びシート材料によれば、絵が不得意な作製者であっても容易に顔模様を表した頭頸部固定具を作製できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
放射線治療用の頭頸部固定具は、顔面を覆う部分に、患者が受ける精神的苦痛を軽減できるようにした顔模様が表してある。顔模様としては、患者が治療に対する恐怖心を軽減できるようなものが好ましい。具体例を挙げれば、パンダ、犬、猫、ウサギ等といった子供に人気のある動物や、テレビや絵本に出てくる人気のキャラクターやアクションヒーロー等の顔模様を挙げることができる。例えばテレビの子供番組の中で悪者を退治するアクションヒーローの顔模様を採用すれば、それを装着することによって、自分自身がヒーローになった気分になり、勇気がわいて治療に対する恐怖心も軽減される。
【0030】
頭頸部固定具に顔模様を作製する方法としては、油性インク等のペンなどを使用し、患部に当てて整形したシート材料に顔模様を描く方法を挙げることができる。その場合は、動物やキャラクターの顔に合った色(例えばパンダであれば白色)のシート材料を選択すすれば良い。
【0031】
また予めシート材料に動物やキャラクターの顔模様が施してあり、それを成形するだけで頭頸部固定具の顔を覆う部分に顔模様が表れるようなものを使用して作製することもできる。なお、使用するシート材料は患者の顔面に被せるものであるので、ムレを防止できるように、通気性を有するものが好ましい。
【0032】
顔模様のうち、耳や鼻を立体的に出っ張りをもたして成形することもできる。その際は、同じ一枚のシート材料でその出っ張り部分を形成することもできるし、別のシート材料で別に作った出っ張り部分を接着剤等を使って後付けすることもできる。
【0033】
頭頸部固定具に表す顔模様は、患者が希望した好みの模様を施すことが好ましい。よって、放射線治療開始前の診察の段階等で、患者が希望する好みの顔模様を予め聞いておき、それに沿った頭頸部固定具を作製することが好ましい。したがって、頭頸部固定具を作製するためにテンプレートや成形補助具、あるいは貼付体等を使用する場合は、患者の希望に合ったものを作製できるように、各種の動物やキャラクターの顔模様に対応できるものを予め複数種用意しておくことが好ましい。
【0034】
テンプレートを使用する場合は、患部に当てて成形したシート材料の曲面や凹凸に合わせて密着できるように、テンプレートは柔軟性、可撓性または変形性を有するものが好ましい。これにより、シート材料とテンプレートに隙間がなくなり、ペン等によって顔模様を描き損じることを防止できる。
【0035】
通気性を有するシート材料に貼付体を貼り付ける場合は、貼付体によってシート材料の通気性が妨げられないようにすることが好ましい。例えば貼付体を通気性を有する素材で形成したり、多数の通気孔を有する貼付体を使用することが挙げられる。
【0036】
また貼付体を使用する場合は、口、鼻、目といった顔模様の各部(各パーツ)の形に対応した貼付体をそれぞれ順番に貼るようにしても良い。また口、鼻、目といった顔模様の全体(全パーツ)を一度に貼ることができるように、一枚の貼付体に顔模様全体が表れてものを使用することもできる。なお、顔模様全体を一枚の貼付体で貼るようにする場合は、目と鼻、鼻と口といった各パーツを繋ぐ合わせるための橋渡し部分を透明な素材で形成することができる。
【0037】
貼付体は接着面または粘着面を備えたものを使用してもよく、別途接着剤または粘着剤を塗布して貼り付けるようにしたものでも良い。貼付体は、上から擦って絵模様を写すことができる転写シールのようなものでも良い。
【0038】
放射線の治療後には、例えば可愛い動物やキャラクター等が表された頭頸部固定具を患者である子供にプレゼントするようにしても良い。その際には、子供が喜ぶように、花飾りやリボンやワッペン等の装飾物を付けて手渡すようにしても良い。
【0039】
なお、以上の具体例はあくまで代表的なものであり、特にこれらに限定するものではない。
【0040】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0041】
本発明を図面に示した実施例に基づき更に詳細に説明する。
図1は、本発明に係る放射線治療用の頭頸部固定具の第一の実施例を示す説明図であり、頭頸部固定具を使用して放射線治療を行っている状態を示している。
図2及び図3は、図1に示す頭頸部固定具の作製方法を説明するための図である。図2はシート材料を顔面に覆って成形する工程を示しており、図3は成形後、顔面を覆う部分にパンダの顔を描いている工程を示している。
【0042】
図1に示すように、頭頸部固定具1は、放射線治療を受ける患者の精神的苦痛を軽減するように、顔面を覆う部分にパンダの顔模様が表されている。顔面の顔模様は、子供の希望に合わせたものを表すようにすることが好ましい。
【0043】
そして、実際の放射線治療時には、治療用ベッドBに寝かせた子供の頭部及び顔面を頭頸部固定具1で覆い、更に頭頸部固定具1を治療用ベッドBに固定された固定具取付装置2に装着する。これにより、頭頸部が定位置に保たれ、放射線発生装置9から正確に病巣部に放射線を照射できる。
【0044】
図2及び図3を参照して、頭頸部固定具1の作製方法を説明する。
符号3は、頭頸部固定具1を成形する素材であるシート材料を示している。シート材料3は、メッシュ状に形成され通気性を有するシート本体30と、シート本体30の両端縁に設けてある装着部31,31を有している。シート本体30は熱可塑性樹脂製で加温して軟化させることができる。装着部31はシート本体30よりもやや厚く、加温しても変形しない素材(合成樹脂製等)で形成されている。
【0045】
本実施例ではパンダの顔模様を表すために、シート材料3(少なくともシート本体30)の色は白色である。各装着部31には、固定具取付装置2の取付ピン21に嵌め込むための孔311が所要の間隔をおいて所要数(本実施例では三箇所)設けてある。
【0046】
ここで、固定具取付装置2について説明する。
固定具取付装置2は、取付ピン21に嵌め入れたシート材料3の装着部31を、それぞれ側方から挟んで固定する棒状の挟持体22を有している。挟持体22は、図3の想像線に示すように、端部の軸ピン221を中心に左右側方に回動し、薄板状の当接体23と協働してシート材料3の装着部31を挟むことができる。そして、シート材料3を挟んだ状態で締付ネジ222で締め付けて、挟持体22,22が動かないように固定する。
【0047】
挟持体22及び当接体23は、それぞれ板状のスライド体24の上面に取り付けられている。スライド体24は左右一対に設けてあり、それぞれ挟持体22と当接体23が取り付けてある。スライド体24,24は、締付ネジ241,241が嵌め入れられた長孔242,242に沿ってスライドさせることで、互いに左右方向の間隔を調整できる。図2に示すように、スライド体24,24の間に枕4を置く。枕4は患者の後頭部が収まるように凹ませてある。そして、スライド体24,24で左右から枕4を挟み込んだ状態で、締付ネジ241,241で締め付け、枕4を動かないように固定する。
【0048】
以上のようにして固定した枕4に頭を載せた状態で、子供を横に寝かせる。次に、子供の頭部に、パンダの耳の部分を成形するための成形補助具5を装着する。成形補助具5は、シート材料3の一部でパンダの耳の部分を成形できるようにしたものである。
【0049】
成形補助具5は、一対の耳型体51,51と、耳型体51,51を頭部の所要位置に取り付けるための取付要素である取付バンド52を備えている。耳型体51,51は、パンダの耳の形に合わせて形成されている。取付バンド52は帯状の取付体であり、頭に嵌め込むことができるようにU字状に形成されている。耳型体51,51及び取付バンド52は、厚紙やプラスチック、その他の材料で形成できる。
【0050】
取付バンド52は、その両端部分に子供の耳に引っ掛けて取り付け可能なリング状の引掛部521,521(図2では紙面奥側が隠れて表れず)を備えている。本実施例では、引掛部521,521を輪ゴムで形成しているが、その他伸縮性または弾性を有する素材で形成することもできる。そうして、引掛部521,521を子供の耳に引っ掛けて、頭部から成形補助具5が容易に外れないようにする。
【0051】
次に、シート材料3を加温して軟化させ、これを拡げた状態で頭部及び顔面等の患部に被せ、患部の凹凸に密着するように伸長させる。このとき、成形補助具5の耳型体51,51の上からもシート材料3を被せ、シート材料3の一部でパンダの耳を作る。温度が下がると患部の凹凸に合わせてシート材料3が硬化するので、患部から取り外し、周縁の不要な部分を切除する。
【0052】
このように、成形補助具5を使用すれば、顔模様と同時にパンダの耳まで一枚のシート材料3で成形することができる。また、同じ一枚のシート材料3で連続的に耳を成形できるので、別部材で耳を作ったものを接着剤等で後付けする場合と比べ、長期の使用でも耳の部分が外れにくい。
【0053】
その後、実際の放射線治療の際に、病巣部に正確に放射線を照射するため、成形したシート材料3にマーキングを行う。マーキングは、成形したシート材料3を子供に装着した状態で、エックス線装置で放射線を照射する方向・範囲を決め、シート材料3の表面に油性インクのペンなどを用いて行う(マーキングの印は図示省略)。
【0054】
なお、マーキングは、成形したシート材料3に直接ペンで印を付けるのではなく、シート材料3の一部に医療用の白色の粘着テープを貼りその上から印を付けるようにする。このようにすれば、マーキングの位置を再度変更しやすく、また放射線の治療後にパンダの顔模様が表された頭頸部固定具を子供にプレゼントする場合にも、粘着テープを剥がすだけで簡単にマーキングが取れるという利点もある。
【0055】
次いで、マーキング後に、成形したシート材料3にパンダの顔模様を描いていく(図3参照)。なお、図3では既に顔模様を表した状態を図示しているので、シート材料3の符号の後に頭頸部固定具1の符号を括弧を付けて表している。
【0056】
顔模様は、テンプレート6と黒色の油性インク等のペン7を用いて描く。この際、上記マーキングした印と重ならないように注意する。またペン7で描く際にシート材料3がズレないように、図3に示すように、シート材料3は固定具取付装置2に固定しておくことが好ましい。
【0057】
テンプレート6には、パンダの顔模様の各部の形に対応した開口部61や切込部62が形成されている。テンプレート6は、柔軟性、可撓性または変形性を有するプラスチック製のシートで形成されている。これにより、シート材料3の湾曲した面にテンプレート6を当てて変形させ、テンプレート6をシート材料3の曲面に密着させることができる。
【0058】
そうして、開口部61や切込部62内をペン7で塗りつぶせば、絵が不得意な作製者であっても、容易にパンダの顔模様を描くことができる。また、パンダの耳に相当する部分は、耳型体51,51で成形して得られた突部分をペンで塗りつぶせば良い。このようにして、目的とするパンダの顔模様を表した頭頸部固定具1を得る。
【0059】
[実験例]
上記のようにして得られた頭頸部固定具1の効果を確認するため、以下ような実験を行った。3際〜8歳の患者15名に対し、例えばパンダ等の顔模様が表れている頭頸部固定具(実施例)を用いた放射線治療を行った。そして、治療に要した時間を測定し、その平均を概算して求めた。
【0060】
また比較例として、3際〜8歳の別の患者15名に対し、上記したような顔模様が全く表されていない単色の頭頸部固定具(図示省略)を用いた放射線治療を行い、同様に治療に要した時間の平均を概算して求めた。下記表1のその結果を示す。
【0061】
【表1】

【0062】
(考察)
(1)の「診察・説明」
この「診察・説明」の行程では、一般的な診察、放射線治療センターの見学と治療方法の説明、両親の面談等を行う。よって、未だ頭頸部固定具の作製・使用前であるため、時間的な差は生じない。ただし、実施例の場合では、この段階で頭頸部固定具に表す動物やキャラクターの顔模様について子供から希望を聞くため、子供との会話もスムーズに進み、医師との信頼関係が深まりやすい。
【0063】
(2)の「位置決め」及び(3)の「放射線治療室での確認」
(2)の「位置決め」の行程では、加温して軟化させたシート材料を顔面を含む患部に当てて成形し、エックス線発生装置を使用してマーキングを行う。更に(3)の「放射線治療室での確認」の行程では、成形したシート材料を治療用ベットに寝かせた患者に装着し、放射線の照射にズレが生じないか(マーキングが正確であるか)、再現性があるか等を確認する。
【0064】
この段階の実施例では、成形したシート材料に未だ顔模様を表してはいないが、表1に示すように、比較例に対して大幅な時間短縮ができた。これは、成形したシート材料に今後どのような顔模様が描かれるかという期待感から、子供は比較的抵抗なく成形したシート材料を装着するため、マーキングや放射線治療室での確認作業がスムーズに進むことによる。
【0065】
これに対し、比較例では、単色であたかも「のっぺらぼう」のお化けのお面のような頭頸部固定具によって顔面と頭部を固定されるため、恐怖心と今後の治療に対する不安から、子供が嫌がり作業が円滑に進まないことによる。また、この行程では麻酔薬を使用し、子供を眠らせた状態で作業を進めることが多いが、実施例では上記した期待感から比較的短時間で眠りにつくのに対し、比較例では恐怖心や不安感から気持ちが高ぶり、眠りにつくまでに時間がかかるといったことも要因となっている。
【0066】
(4),(5) 「放射線照射の治療時間」
この行程では頭頸部固定具で固定した状態で実際に放射線照射による治療を行っていく。実施例では上記したように顔面を覆う部分にパンダ等を表した頭頸部固定具を使用する。その結果、1時間かかる比較例に対し、30分以内と治療時間を大幅に短縮できることが分かる。これは、パンダ等の顔模様が表されていることによって、あたかもお祭りのお面を被るような楽しい気持ちが芽生え、それによって恐怖心が和らぎ、その結果、抵抗なく頭頸部固定具を装着することによる。更に二回目以降に行う毎日の治療では、殆どの子供が麻酔薬を全く使用しないで起きたまま治療ができるようになり、その結果、眠るまでの時間を待たずに治療を開始でき、10〜15分といった大幅な治療時間の短縮が可能となった。
【0067】
これに対し、比較例では、以前として頭頸部固定具を装着することを子供が嫌がるため、麻酔薬を使用して眠らせた状態でないと治療が進まず、大人の数倍の時間を要する。
【実施例2】
【0068】
図4は、本発明に係る放射線治療用の頭頸部固定具の他の実施例を示す説明図であり、実施例1と別の方法で頭頸部固定具を作製した場合を示している。
なお、実施例1と同一または同等箇所には同一の符号を付して示している。また、実施例1で説明した箇所については、説明を省略し、主に相異点を説明する。
【0069】
シート材料3を加熱して軟化させ、患者である子供の頭部及び顔面の凹凸形状に合わせて成形するまでは同じである。その後、本実施例では、パンダの顔模様をペンで描くのではなく、顔模様の各部(各パーツ)の形に対応した貼付体であるシール8を貼って顔模様を表している。
【0070】
シール8は剥離紙81から剥がしてそのまま貼り付けることができるように、裏に粘着面または接着面を有する。粘着面または接着面には、一度貼ったら簡単には剥がれないように、シート材料3との親和性が良い粘着剤または接着剤が塗布されている。シール8には、シート材料3の通気性を妨げないように、小さな通気孔(図示省略)が多数設けられている。
【0071】
このように、シート材料3の顔面を覆う部分にシール8を貼ることで、絵が不得意な作製者であっても、容易にパンダの顔模様を描くことができる。なお、実施例1と同様に、パンダの耳にあたる部分はペンで塗りつぶしても良いし、耳にあたる部分全体を覆うことができるシールを貼り付けて形成しても良い。これにより、比較的短時間で顔模様を施すことができる。
【0072】
なお、本明細書で使用している用語と表現はあくまで説明上のものであって、限定的なものではなく、上記用語、表現と等価の用語、表現を除外するものではない。また、本発明は図示の実施例に限定されるものではなく、技術思想の範囲内において種々の変形が可能である。
【0073】
更に、特許請求の範囲には、請求項記載の内容の理解を助けるため、図面において使用した符号を括弧を用いて記載しているが、特許請求の範囲を図面記載のものに限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明に係る放射線治療用の頭頸部固定具1の一実施例を示す説明図。
【図2】図1に示す頭頸部固定具の作製方法を説明するための図であり、シート材料を顔面に覆って成形する工程を示している。
【図3】図1に示す頭頸部固定具の作製方法を説明するための図であり、成形後、顔面を覆う部分にパンダの顔を描いている工程を示している。
【図4】本発明に係る放射線治療用の頭頸部固定具の他の実施例を示す説明図であり、実施例1と別の方法で頭頸部固定具を作製した場合を示している。
【符号の説明】
【0075】
1 頭頸部固定具
2 固定具取付装置
221 軸ピン
222 締付ネジ
21 取付ピン
22 挟持体
23 当接体
24 スライド体
241 締付ネジ
242 長孔
3 シート材料
30 シート本体
31 装着部
311 孔
4 枕
5 成形補助具
51 耳型体
52 取付バンド
521,521 引掛部
6 テンプレート
61 開口部
62 切込部
7 ペン
8 シール
81 剥離紙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加温して軟化させたシート材料を顔面を含む患部に当てて成形する放射線治療用の頭頸部固定具であって、
顔面を覆う部分に、患者が受ける精神的苦痛を軽減できるようにした顔模様が表してあることを特徴とする、
頭頸部固定具。
【請求項2】
加温して軟化させたシート材料を顔面を含む患部に当てて成形する放射線治療用の頭頸部固定具であって、
患者が受ける精神的苦痛を軽減するように、顔面を覆う部分に動物またはキャラクターの顔模様が表してあることを特徴とする、
頭頸部固定具。
【請求項3】
請求項1または2記載の頭頸部固定具を作製するために使用するテンプレートであって、
顔模様の各部の形に対応した開口部または/及び切込部が形成されていることを特徴とする、
テンプレート。
【請求項4】
請求項2記載の頭頸部固定具を作製するために使用する成形補助具であって、
被せられたシート材料の一部で動物の耳を成形できるようにした耳型体と、患者の頭部に取り付けできる取付要素を備えていることを特徴とする、
成形補助具。
【請求項5】
請求項1または2記載の頭頸部固定具を作製するための貼付体であって、
顔面を覆う部分に貼って顔模様を表わすことができることを特徴とする、
貼付体。
【請求項6】
請求項1または2記載の頭頸部固定具を作製するためのシート材料であって、
顔模様が施してあり、患部に当てて成形することにより顔面を覆う部分に顔模様が表れるようにしたことを特徴とする、
シート材料。
【請求項7】
加温して軟化させたシート材料を顔面を含む患部に当てて成形する放射線治療用の頭頸部固定具の作製方法であって、
顔面を覆う部分に、患者が受ける精神的苦痛を軽減できるようにした顔模様を表す工程を含むことを特徴とする、
頭頸部固定具の作製方法。
【請求項8】
頭頸部固定具を成形するためのシート材料の一部で動物の耳を作ることを特徴とする、
請求項7記載の頭頸部固定具の作製方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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