説明

放射線硬化型インク組成物、インクジェット記録方法、及びインクジェット記録装置

【課題】プリントヘッドのノズル面が優れた撥インク性を示し、吐出安定性にも優れた放射線硬化型インク組成物、並びにこれを用いたインクジェット記録方法及びインクジェット記録装置を提供する。
【解決手段】ノズル面を含むプリントヘッドを備えたインクジェット記録装置に用いられる放射線硬化型インク組成物であって、前記ノズル面は、インクが接触する部分の少なくとも一部にフッ素原子を有し、該放射線硬化型インク組成物は、ジベンジリデンソルビトール骨格を有する化合物及び糖のうち少なくとも一以上と重合性化合物とを含み、前記ジベンジリデンソルビトール骨格を有する化合物及び糖のうち少なくとも一以上の総含有量が、該放射線硬化型インク組成物の総質量に対し、0.5〜5.0質量%である、放射線硬化型インク組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線硬化型インク組成物、並びにこれを用いたインクジェット記録方法及びインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、被記録媒体に、画像データ信号に基づき画像を形成する記録方法として、種々の方式が利用されてきた。このうち、インクジェット方式は、安価な装置で、必要とされる画像部のみにインクを吐出し被記録媒体上に直接画像形成を行うため、インクを効率良く使用でき、ランニングコストが安い。
【0003】
近年、紫外線、電子線その他の放射線の照射により硬化可能な無溶媒系の放射線硬化型インク組成物の開発が進められており、この放射線硬化型インク組成物をインクジェット記録方式に適用する試みがなされている(例えば、特許文献1参照)。放射線硬化型インク組成物を適用したインクジェット記録方式は、ガラス、金属、プラスチック基材等の非吸収基材への記録が可能であるため基材の適応範囲が広い。そのため、放射線硬化型インク組成物は、画像の耐擦性、硬化性、及び生産性の点で、従来の水性インク及び溶剤系インク等の溶媒系インクよりも優れている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−233976号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、放射線硬化型インク組成物をインクジェット記録装置に適用する場合、プリントヘッドのノズル面の放射線硬化型インク組成物に対する撥インク性が劣るものであるため、その吐出安定性を劣化させるという問題が生じる。
【0006】
そこで、本発明は、プリントヘッドのノズル面が優れた撥インク性を示し、吐出安定性にも優れた放射線硬化型インク組成物、並びにこれを用いたインクジェット記録方法及びインクジェット記録装置を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決するため鋭意検討した。まず、ノズル面を改良することで、放射線硬化型インク組成物の撥インク性を良好にし、吐出安定性をも良好なものとすることを試みた。しかし、ノズル面の改良のみでは撥インク性を良好にし、吐出安定性をも良好なものとすることは困難であることが明らかとなった。
【0008】
そこで、本発明者らがさらに検討を重ねた結果、放射線硬化型インク組成物、さらにはノズル面の材質を改良することで、ノズル面に対する放射線硬化型インク組成物の撥インク性に優れ、吐出安定性にも優れたものとすることができることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
即ち、本発明は下記のとおりである。
[1]
ノズル面を含むプリントヘッドを備えたインクジェット記録装置に用いられる放射線硬化型インク組成物であって、前記ノズル面は、インクが接触する部分の少なくとも一部にフッ素原子を有し、該放射線硬化型インク組成物は、ジベンジリデンソルビトール骨格を有する化合物及び糖のうち少なくとも一以上と重合性化合物とを含み、前記ジベンジリデンソルビトール骨格を有する化合物及び糖のうち少なくとも一以上の総含有量が、該放射線硬化型インク組成物の総質量に対し、0.5〜5.0質量%である、放射線硬化型インク組成物。
[2]
前記ジベンジリデンソルビトール骨格を有する化合物及び糖のうち少なくとも一以上が、ジベンジリデンソルビトール骨格を有する化合物である、[1]に記載の放射線硬化型インク組成物。
[3]
前記ジベンジリデンソルビトール骨格を有する化合物及び糖のうち少なくとも一以上が、1,3:2,4−ジベンジリデンソルビトール及び1,3:2,4−ジ(p−メチルベンジリデン)ソルビトールのうち少なくともいずれかを含む、[1]又は[2]に記載の放射線硬化型インク組成物。
[4]
前記インクが接触する部分の少なくとも一部にフッ素原子を有するノズル面を含むプリントヘッドを備え、該プリントヘッドは[1]〜[3]のいずれかに記載の放射線硬化型インク組成物を吐出するものである、インクジェット記録装置。
[5]
前記ノズル面は、前記インクが接触する部分から1μm未満の領域にシロキサン結合を有する、[4]に記載のインクジェット記録装置。
[6]
[1]〜[3]のいずれかに記載の放射線硬化型インク組成物を、前記プリントヘッドから吐出することを含む、インクジェット記録方法。
[7]
ジベンジリデンソルビトール骨格を有する化合物及び糖のうち少なくとも一以上と重合性化合物とを含む放射線硬化型インク組成物であって、前記ジベンジリデンソルビトール骨格を有する化合物及び糖のうち少なくとも一以上の総含有量が、該インク組成物の総質量に対し、0.5〜5.0質量%である、放射線硬化型インク組成物。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本実施形態で使用可能なインクジェット記録装置の斜視図である。
【図2】プリントヘッドの一例を模式的に示す断面図である。
【図3】ノズルプレート面におけるフッ素樹脂膜の結合の概念図である。
【図4】図1に示した放射線照射装置の正面図である。
【図5】図4のA−A矢視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に制限されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0012】
本明細書において、「撥インク性」とは、放射線硬化型インク組成物をはじく性質を意味する。「吐出安定性」とは、ノズルの目詰まりがなく常に安定したインク滴をノズルから吐出させる性質をいう。「硬化性」とは、光に感応して硬化する性質をいう。
【0013】
本明細書において、「(メタ)アクリレート」は、アクリレート及びそれに対応するメタクリレートのうち少なくともいずれかを意味し、「(メタ)アクリル」はアクリル及びそれに対応するメタクリルのうち少なくともいずれかを意味する。
【0014】
本明細書において、「ノズル面」とは、インク滴が接触する可能性のあるノズルの部分(面)全てを指し、ノズル材料そのものの表面、ノズル面の性質を変化させるために物理的又は化学的な処理が施された表面、又はノズル面上に形成された膜の表面を含む。この「ノズル面」は、平面に限られず、曲面などの平面以外の面でもよく、具体的にはノズルプレートの外面のみならずインク吐出口の内壁(内面)及びその近傍も含む。
【0015】
[放射線硬化型インク組成物]
本発明の一実施形態に係る放射線硬化型インク組成物は、ジベンジリデンソルビトール骨格を有する化合物及び糖のうち少なくとも一以上と重合性化合物とを含み、当該ジベンジリデンソルビトール骨格を有する化合物及び糖のうち少なくとも一以上が、当該放射線硬化型インク組成物の総質量(100質量%)に対し、0.5〜5.0質量%含まれるものである。
【0016】
以下、本実施形態の放射線硬化型インク組成物(以下、単に「インク組成物」ともいう。)に含まれるか、又は含まれ得る添加剤(成分)を説明する。
【0017】
〔ジベンジリデンソルビトール骨格を有する化合物及び糖〕
本実施形態のインク組成物は、ジベンジリデンソルビトール骨格を有する化合物及びジベンジリデンソルビトール骨格を有する糖のうち少なくともいずれかの化合物を一種以上含む。これらの化合物は、分子中に2以上の水酸基を含有する化合物である。
【0018】
これらの中でも、ノズル孔からのインクの吐出安定性に優れるため、ジベンジリデンソルビトール骨格を有する化合物が好ましい。
【0019】
上記のジベンジリデンソルビトール骨格を有する化合物として、以下に限定されないが、例えば、1,3:2,4−ジベンジリデンソルビトール、1,3:2,4−ジ(p−メチルベンジリデン)ソルビトール、1,3:2,4−ジ(p−エチルベンジリデン)ソルビトール、1,3:2,4−ジ(p−n−プロピルベンジリデン)ソルビトール、1,3:2,4−ジ(p−i−プロピルベンジリデン)ソルビトール、1,3:2,4−ジ(p−n−ブチルベンジリデン)ソルビトール、1,3:2,4−ジ(p−s−ブチルベンジリデン)ソルビトール、1,3:2,4−ジ(p−t−ブチルベンジリデン)ソルビトール、1,3:2,4−ジ(p−メトキシベンジリデン)ソルビトール、1,3:2,4−ジ(p−エトキシベンジリデン)ソルビトール、1,3:2,4−ジ(p−クロルベンジリデン)ソルビトール、1,3:2,4−ジ(p−クロルベンジリデン)ソルビトール、及び1,3:2,4−ビス(ジメチルベンジリデン)ソルビトールなどの分子中に同種のベンジリデン基を有する化合物、1,3−ベンジリデン−2,4−p−エチルベンジリデンソルビトール、1,3−ベンジリデン−2,4−p−クロルベンジリデンソルビトール、1,3−p−メチルベンジリデン−2,4−ベンジリデンソルビトール、1,3−p−メチルベンジリデン−2,4−p−クロルベンジリデンソルビトール、1,3−p−メチルベンジリデン−2,4−p−エチルベンジリデンソルビトール、1,3−p−エチルベンジリデン−2,4−ベンジリデンソルビトール、1,3−p−エチルベンジリデン−2,4−p−メチルベンジリデンソルビトール、1,3−p−エチルベンジリデン−2,4−p−クロルベンジリデンソルビトール、1,3−p−クロルベンジリデン−2,4−ベンジリデンソルビトール、1,3−p−クロルベンジリデン−2,4−p−メチルベンジリデンソルビトール、及び1,3−p−クロルベンジリデン−2,4−p−エチルベンジリデンソルビトールなどの分子中に異種のベンジリデン基を有する化合物が挙げられる。
【0020】
ジベンジリデンソルビトール骨格を有する化合物の市販品としては、IRGACLEAR D、IRGACLEAR DM(以上、BASF社製商品名)、ゲルオールMD、ゲルオールD、ゲルオールMD−R、ゲルオールDH、ゲルオールT(以上、新日本理化社(New Japan Chemical Co., Ltd.)製商品名)、EC1、EC1−55、EC−4(以上、イーシー化学社(EC Chemical Productions Ltd,)製商品名)が挙げられる。
【0021】
上記の糖として、以下に限定されないが、例えば、グルコース、フルクトース、及びガラクトースなどの単糖、サッカロース、マルトース、及びラクトースなどの二糖、並びにデンプン及びグリコーゲンなどの多糖が挙げられる。
【0022】
なお、本実施形態のインク組成物は、上記ジベンジリデンソルビトール骨格を有する化合物及び糖以外の分子中に2以上の水酸基を含有する化合物をさらに含んでもよい。そのような化合物としては、以下に限定されないが、例えば糖アルコールや多価アルコールが挙げられる。
【0023】
上記の糖アルコールとして、以下に限定されないが、例えば、グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、及びエリスリトールが挙げられる。
【0024】
上記の多価アルコールとして、以下に限定されないが、例えば、ソルビトール、マルトース、キシリトール、及びマルチトールが挙げられる。
【0025】
これらの中でも、ノズル孔からのインクの吐出安定性に優れるため、1,3:2,4−ジベンジリデンソルビトール及び1,3:2,4−ジ(p−メチルベンジリデン)ソルビトールのうち少なくとも一以上が好ましい。
【0026】
本実施形態のインク組成物が上記ジベンジリデンソルビトール骨格を有する化合物を含む場合、当該化合物は1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、本実施形態のインク組成物が上記ジベンジリデンソルビトール骨格を有する糖を含む場合、当該糖は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。そして、本実施形態のインク組成物が上記ジベンジリデンソルビトール骨格を有する化合物及び糖を共に含む場合、当該化合物及び当該糖は、それぞれ1種単独で用いてもよく、少なくとも一方を2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0027】
上記のジベンジリデンソルビトール骨格を有する化合物及び糖のうち少なくとも一以上は、インク組成物中の総含有量として、インク組成物の総質量(100質量%)に対し、0.5〜5.0質量%含まれ、1.0〜2.0質量%含まれることが好ましい。含有量が上記範囲内であると、これらの化合物の塗膜表面への析出が抑制できる。
【0028】
〔重合性化合物〕
本実施形態のインク組成物は重合性化合物を含む。この重合性化合物は、後述する光重合開始剤の作用により光照射時に重合されて、印刷されたインクを硬化させることができる。
【0029】
(ビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル類)
上記の重合性化合物は、所定のビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル類(以下、「モノマーA」という。)を含むことが好ましい。このモノマーAは、分子中にビニル基及び(メタ)アクリル基を共に有する化合物であり、下記一般式(I)で示される。
CH=CR−COOR−O−CH=CH−R ・・・(I)
(式中、Rは水素原子又はメチル基であり、Rは炭素数2〜20の2価の有機残基であり、Rは水素原子又は炭素数1〜11の1価の有機残基である。)
【0030】
インク組成物がモノマーAを含有することにより、インクの硬化性などを良好なものとすることができる。
【0031】
上記の一般式(I)において、Rで表される2価の有機残基としては、炭素数2〜20の直鎖状、分枝状又は環状のアルキレン基、構造中にエーテル結合及びエステル結合の少なくとも一方による酸素原子を有する炭素数2〜20のアルキレン基、炭素数6〜11の置換されていてもよい2価の芳香族基が好適である。これらの中でも、エチレン基、n−プロピレン基、イソプロピレン基、及びブチレン基などの炭素数2〜6のアルキレン基、オキシエチレン基、オキシn−プロピレン基、オキシイソプロピレン基、及びオキシブチレン基などの構造中にエーテル結合による酸素原子を有する炭素数2〜9のアルキレン基が好適に用いられる。
【0032】
上記の一般式(I)において、Rで表される炭素数1〜11の1価の有機残基としては、炭素数1〜10の直鎖状、分枝状又は環状のアルキル基、炭素数6〜11の置換されていてもよい芳香族基が好適である。これらの中でも、メチル基又はエチル基である炭素数1〜2のアルキル基、フェニル基及びベンジル基などの炭素数6〜8の芳香族基が好適に用いられる。
【0033】
上記の有機残基が置換されていてもよい基である場合、その置換基は、炭素原子を含む基及び炭素原子を含まない基に分けられる。まず、上記置換基が炭素原子を含む基である場合、当該炭素原子は有機残基の炭素数にカウントされる。炭素原子を含む基として、以下に限定されないが、例えばカルボキシル基、アルコキシ基が挙げられる。次に、炭素原子を含まない基として、以下に限定されないが、例えば水酸基、ハロ基が挙げられる。
【0034】
上記の一般式(I)で表されるモノマーAの具体例としては、以下に限定されないが、(メタ)アクリル酸2−ビニロキシエチル、(メタ)アクリル酸3−ビニロキシプロピル、(メタ)アクリル酸1−メチル−2−ビニロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ビニロキシプロピル、(メタ)アクリル酸4−ビニロキシブチル、(メタ)アクリル酸1−メチル−3−ビニロキシプロピル、(メタ)アクリル酸1−ビニロキシメチルプロピル、(メタ)アクリル酸2−メチル−3−ビニロキシプロピル、(メタ)アクリル酸1,1−ジメチル−2−ビニロキシエチル、(メタ)アクリル酸3−ビニロキシブチル、(メタ)アクリル酸1−メチル−2−ビニロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2−ビニロキシブチル、(メタ)アクリル酸4−ビニロキシシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸6−ビニロキシヘキシル、(メタ)アクリル酸4−ビニロキシメチルシクロヘキシルメチル、(メタ)アクリル酸3−ビニロキシメチルシクロヘキシルメチル、(メタ)アクリル酸2−ビニロキシメチルシクロヘキシルメチル、(メタ)アクリル酸p−ビニロキシメチルフェニルメチル、(メタ)アクリル酸m−ビニロキシメチルフェニルメチル、(メタ)アクリル酸o−ビニロキシメチルフェニルメチル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシイソプロポキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシ)プロピル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシ)イソプロピル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシイソプロポキシ)プロピル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシイソプロポキシ)イソプロピル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシイソプロポキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシイソプロポキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシイソプロポキシイソプロポキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシエトキシ)プロピル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシイソプロポキシ)プロピル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシイソプロポキシエトキシ)プロピル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシイソプロポキシイソプロポキシ)プロピル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシエトキシ)イソプロピル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシイソプロポキシ)イソプロピル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシイソプロポキシエトキシ)イソプロピル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシイソプロポキシイソプロポキシ)イソプロピル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシエトキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシエトキシエトキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2−(イソプロペノキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2−(イソプロペノキシエトキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2−(イソプロペノキシエトキシエトキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2−(イソプロペノキシエトキシエトキシエトキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸ポリエチレングリコールモノビニルエーテル、及び(メタ)アクリル酸ポリプロピレングリコールモノビニルエーテルが挙げられる。
【0035】
上記したものの中でも、(メタ)アクリル酸2−ビニロキシエチル、(メタ)アクリル酸3−ビニロキシプロピル、(メタ)アクリル酸1−メチル−2−ビニロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ビニロキシプロピル、(メタ)アクリル酸4−ビニロキシブチル、(メタ)アクリル酸4−ビニロキシシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸5−ビニロキシペンチル、(メタ)アクリル酸6−ビニロキシヘキシル、(メタ)アクリル酸4−ビニロキシメチルシクロヘキシルメチル、(メタ)アクリル酸p−ビニロキシメチルフェニルメチル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシエトキシエトキシ)エチルが好ましい。
【0036】
これらの中でも、低粘度で、引火点が高く、かつ、硬化性に優れるため、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシ)エチルが好ましく、さらに、臭気が低く、皮膚への刺激を抑えることができ、かつ、反応性及び密着性に優れるため、アクリル酸2−(ビニロキシエトキシ)エチルがより好ましい。
【0037】
(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシ)エチルとしては、(メタ)アクリル酸2−(2−ビニロキシエトキシ)エチル及び(メタ)アクリル酸2−(1−ビニロキシエトキシ)エチルが挙げられ、アクリル酸2−(ビニロキシエトキシ)エチルとしては、アクリル酸2−(2−ビニロキシエトキシ)エチル及びアクリル酸2−(1−ビニロキシエトキシ)エチルが挙げられる。
【0038】
モノマーAは、インク組成物の総質量(100質量%)に対し、20〜50質量%含まれ、好ましくは22〜40質量%含まれる。含有量が上記範囲内であると、インクの密着性、耐擦性、及びアルコール耐性を良好なものとすることができる。
【0039】
上記一般式(I)で表されるモノマーAの製造方法としては、以下に限定されないが、(メタ)アクリル酸と水酸基含有ビニルエーテル類とをエステル化する方法(製法B)、(メタ)アクリル酸ハロゲン化物と水酸基含有ビニルエーテル類とをエステル化する方法(製法C)、(メタ)アクリル酸無水物と水酸基含有ビニルエーテル類とをエステル化する方法(製法D)、(メタ)アクリル酸エステル類と水酸基含有ビニルエーテル類とをエステル交換する方法(製法E)、(メタ)アクリル酸とハロゲン含有ビニルエーテル類とをエステル化する方法(製法F)、(メタ)アクリル酸アルカリ(土類)金属塩とハロゲン含有ビニルエーテル類とをエステル化する方法(製法G)、水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル類とカルボン酸ビニルとをビニル交換する方法(製法H)、水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル類とアルキルビニルエーテル類とをエーテル交換する方法(製法I)が挙げられる。
【0040】
これらの中でも、本実施形態に所望の効果を一層発揮することができるため、製法Eが好ましい。
【0041】
(上記以外の重合性化合物)
上記以外の重合性化合物(以下、「その他の重合性化合物」という。)としては、従来公知の、単官能、2官能、及び3官能以上の多官能といった種々のモノマー及びオリゴマーが使用可能である。上記モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸及びマレイン酸等の不飽和カルボン酸やそれらの塩又はエステル、ウレタン、アミド及びその無水物、アクリロニトリル、スチレン、種々の不飽和ポリエステル、不飽和ポリエーテル、不飽和ポリアミド、並びに不飽和ウレタンが挙げられる。また、上記オリゴマーとしては、例えば、直鎖アクリルオリゴマー等の上記のモノマーから形成されるオリゴマー、エポキシ(メタ)アクリレート、オキセタン(メタ)アクリレート、脂肪族ウレタン(メタ)アクリレート、芳香族ウレタン(メタ)アクリレート及びポリエステル(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0042】
また、他の単官能モノマーや多官能モノマーとして、N−ビニル化合物を含んでいてもよい。そのようなN−ビニル化合物として、例えば、N−ビニルカプロラクタム、N−ビニルフォルムアミド、N−ビニルカルバゾール、N−ビニルアセトアミド、N−ビニルピロリドン、及びアクリロイルモルホリン、並びにそれらの誘導体が挙げられる。
【0043】
その他の重合性化合物のうち、(メタ)アクリル酸のエステル、即ち(メタ)アクリレートが好ましく、2官能以上である多官能の(メタ)アクリレートがより好ましく、多官能のアクリレートがさらに好ましい。特に、本実施形態のインク組成物が、重合性化合物として、上記所定量のモノマーAに加えて多官能アクリレートをも含むことで、インクの密着性、耐擦性、及びアルコール耐性に優れたものとなる。
【0044】
上記(メタ)アクリレートのうち、単官能(メタ)アクリレートとしては、例えば、イソアミル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、イソミリスチル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル−ジグリコール(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシプロピレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、ラクトン変性可とう性(メタ)アクリレート、t−ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、及びジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0045】
上記(メタ)アクリレートのうち、多官能(メタ)アクリレートとしては、例えば、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジメチロール−トリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、及びポリテトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレート等の2官能(メタ)アクリレート、並びに、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、グリセリンプロポキシトリ(メタ)アクリレート、カウプロラクトン変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ソルビトールペンタ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、及びペンタエリスリトールエトキシテトラ(メタ)アクリレート等のペンタエリスリトール骨格を有する(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、カプロラクタム変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、及びカプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等のジペンタエリスリトール骨格を有する(メタ)アクリレート、プロピオン酸変性トリペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールヘプタ(メタ)アクリレート、及びトリペンタエリスリトールオクタ(メタ)アクリレート等のトリペンタエリスリトール骨格を有する(メタ)アクリレート、テトラペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、テトラペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、テトラペンタエリスリトールヘプタ(メタ)アクリレート、テトラペンタエリスリトールオクタ(メタ)アクリレート、テトラペンタエリスリトールノナ(メタ)アクリレート、テトラペンタエリスリトールノナ(メタ)アクリレート、及びテトラペンタエリスリトールデカ(メタ)アクリレート等のテトラペンタエリスリトール骨格を有する(メタ)アクリレート、ペンタペンタエリスリトールウンデカ(メタ)アクリレート及びペンタペンタエリスリトールドデカ(メタ)アクリレート等のペンタペンタエリスリトール骨格を有する(メタ)アクリレート、並びにこれらのエチレンオキサイド(EO)付加物及びプロピレンオキサイド(PO)付加物のうち少なくともいずれか等、3官能以上の(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0046】
これらの中でも、塗膜の柔軟性に優れるため、フェノキシエチル(メタ)アクリレート及び4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートのうち少なくともいずれかが好ましく、フェノキシエチルアクリレート及び4−ヒドロキシブチルアクリレートのうち少なくともいずれかがより好ましい。
【0047】
上記その他の重合性化合物は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
上記その他の重合性化合物は、インク組成物の総質量(100質量%)に対し、5〜50質量%含まれるとよい。
【0048】
〔重合禁止剤〕
本実施形態のインク組成物は、重合禁止剤を含んでもよい。重合禁止剤として、以下に限定されないが、例えば、p−メトキシフェノール、クレゾール、t−ブチルカテコール、ジ−t−ブチルパラクレゾール、ヒドロキノンモノメチルエーテル、α−ナフトール、3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシトルエン、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−ブチルフェノール)、及び4,4’−チオビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)等のフェノール化合物、p−ベンゾキノン、アントラキノン、ナフトキノン、フェナンスラキノン、p−キシロキノン、p−トルキノン、2,6−ジクロロキノン、2,5−ジフェニル−p−ベンゾキノン、2,5−ジアセトキシ−p−ベンゾキノン、2,5−ジカプロキシ−p−ベンゾキノン、2,5−ジアシロキシ−p−ベンゾキノン、ヒドロキノン、2,5−ジーブチルヒドロキノン、モノ−t−ブチルヒドロキノン、モノメチルヒドロキノン、及び2,5−ジ−t−アミルヒドロキノン等のキノン化合物、フェニル−β−ナフチルアミン、p−ベンジルアミノフェノール、ジ−β−ナフチルパラフェニレンジアミン、ジベンジルヒドロキシルアミン、フェニルヒドロキシルアミン、及びジエチルヒドロキシルアミン等のアミン化合物、ジニトロベンゼン、トリニトロトルエン、及びピクリン酸などのニトロ化合物、キノンジオキシム及びシクロヘキサノンオキシム等のオキシム化合物、フェノチアジン等の硫黄化合物が挙げられる。
【0049】
〔光重合開始剤〕
本実施形態のインク組成物は、光重合開始剤を含むことが好ましい。上述の重合性化合物として光重合性の化合物を用いることにより、光重合開始剤の添加を省略することが可能である。しかし、光重合開始剤を用いた方が、重合の開始を容易に調整することができ、好適である。
【0050】
上記の光重合開始剤は、放射線の照射による光重合によって、被記録媒体の表面に存在するインクを硬化させて画像を形成するために用いられる。ここで、前記放射線としては、γ線、β線、電子線、紫外線(UV)、可視光線及び赤外線が挙げられる。中でも、安全性に優れ、且つ光源にかかるコストを抑えることができるため、紫外線が好ましい。光重合開始剤としては、光のエネルギーによって、ラジカルやカチオンなどの活性種を生成し、上記重合性化合物の重合を開始させるものであれば、制限はないが、光ラジカル重合開始剤や光カチオン重合開始剤を使用することができ、中でも光ラジカル重合開始剤を使用することが好ましい。
【0051】
上記の光ラジカル重合開始剤としては、例えば、芳香族ケトン類、アシルホスフィンオキサイド化合物、芳香族オニウム塩化合物、有機過酸化物、チオ化合物(チオキサントン化合物、チオフェニル基含有化合物など)、ヘキサアリールビイミダゾール化合物、ケトオキシムエステル化合物、ボレート化合物、アジニウム化合物、メタロセン化合物、活性エステル化合物、炭素ハロゲン結合を有する化合物、及びアルキルアミン化合物が挙げられる。
【0052】
これらの中でも、特にインクの硬化性を良好にすることができるため、アシルホスフィンオキサイド化合物及びチオキサントン化合物のうち少なくともいずれかが好ましく、アシルホスフィンオキサイド化合物及びチオキサントン化合物がより好ましい。
【0053】
光ラジカル重合開始剤の具体例としては、アセトフェノン、アセトフェノンベンジルケタール、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、キサントン、フルオレノン、べンズアルデヒド、フルオレン、アントラキノン、トリフェニルアミン、カルバゾール、3−メチルアセトフェノン、4−クロロベンゾフェノン、4,4’−ジメトキシベンゾフェノン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、ミヒラーケトン、ベンゾインプロピルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンジルジメチルケタール、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、チオキサントン、ジエチルチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルホリノ−プロパン−1−オン、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−フォスフィンオキサイド、2,4−ジエチルチオキサントン、及びビス−(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルフォスフィンオキシドが挙げられる。
【0054】
光ラジカル重合開始剤の市販品としては、例えば、IRGACURE 651(2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン)、IRGACURE 184(1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン)、DAROCUR 1173(2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン)、IRGACURE 2959(1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン)、IRGACURE 127(2−ヒドロキシ−1−{4−[4−(2−ヒドロキシ−2−メチル−プロピオニル)−ベンジル]フェニル}−2−メチル−プロパン−1−オン}、IRGACURE 907(2−メチル−1−(4−メチルチオフェニル)−2−モルフォリノプロパン−1−オン)、IRGACURE 369(2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1)、IRGACURE 379(2−(ジメチルアミノ)−2−[(4−メチルフェニル)メチル]−1−[4−(4−モルホリニル)フェニル]−1−ブタノン)、DAROCUR TPO(2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−フォスフィンオキサイド)、IRGACURE 819(ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド)、IRGACURE 784(ビス(η5−2,4−シクロペンタジエン−1−イル)−ビス(2,6−ジフルオロ−3−(1H−ピロール−1−イル)−フェニル)チタニウム)、IRGACURE OXE 01(1.2−オクタンジオン,1−[4−(フェニルチオ)−,2−(O−ベンゾイルオキシム)])、IRGACURE OXE 02(エタノン,1−[9−エチル−6−(2−メチルベンゾイル)−9H−カルバゾール−3−イル]−,1−(O−アセチルオキシム))、IRGACURE 754(オキシフェニル酢酸、2−[2−オキソ−2−フェニルアセトキシエトキシ]エチルエステルとオキシフェニル酢酸、2−(2−ヒドロキシエトキシ)エチルエステルの混合物)(以上、BASF社製)、Speedcure TPO(Lambson製)、KAYACURE DETX−S(2,4−ジエチルチオキサントン)(日本化薬社(Nippon Kayaku Co., Ltd.)製)、Lucirin TPO、LR8893、LR8970(以上、BASF社製)、及びユベクリルP36(UCB社製)などが挙げられる。
【0055】
上記光重合開始剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0056】
光重合開始剤は、放射線硬化速度を十分に発揮させ、且つ、光重合開始剤の溶け残りや光重合開始剤に由来する着色を避けるため、インク組成物の総質量(100質量%)に対し、5〜20質量%含まれることが好ましい。
【0057】
〔色材〕
本実施形態のインク組成物は、色材をさらに含むことが好ましい。色材は、顔料及び染料のうち少なくとも一方を用いることができる。
【0058】
(顔料)
本実施形態において、色材として顔料を用いることにより、インク組成物の耐光性を良好なものとすることができる。顔料は、無機顔料及び有機顔料のいずれも使用することができる。
【0059】
無機顔料としては、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャネルブラック等のカーボンブラック(C.I.ピグメントブラック7)類、酸化鉄、酸化チタンを使用することができる。
【0060】
有機顔料としては、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、アゾレーキ、キレートアゾ顔料等のアゾ顔料、フタロシアニン顔料、ペリレン及びペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサン顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフタロン顔料等の多環式顔料、染料キレート(例えば、塩基性染料型キレート、酸性染料型キレート等)、染色レーキ(塩基性染料型レーキ、酸性染料型レーキ)、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラック、昼光蛍光顔料が挙げられる。
【0061】
更に詳しくは、ブラックインクとして使用されるカーボンブラックとして、No.2300、No.900、MCF88、No.33、No.40、No.45、No.52、MA7、MA8、MA100、No.2200B等(以上、三菱化学社(Mitsubishi Chemical Corporation)製)、Raven 5750、Raven 5250、Raven 5000、Raven 3500、Raven 1255、Raven 700等(以上、コロンビアカーボン(Carbon Columbia)社製)、Rega1 400R、Rega1 330R、Rega1 660R、Mogul L、Monarch 700、Monarch 800、Monarch 880、Monarch 900、Monarch 1000、Monarch 1100、Monarch 1300、Monarch 1400等(キャボット社(CABOT JAPAN K.K.)製)、Color Black FW1、Color Black FW2、Color Black FW2V、Color Black FW18、Color Black FW200、Color B1ack S150、Color Black S160、Color Black S170、Printex 35、Printex U、Printex V、Printex 140U、Special Black 6、Special Black 5、Special Black 4A、Special Black 4(以上、デグッサ(Degussa)社製)が挙げられる。
【0062】
ホワイトインクに使用される顔料としては、C.I.ピグメントホワイト 6、18、21が挙げられる。
【0063】
イエローインクに使用される顔料としては、C.I.ピグメントイエロー 1、2、3、4、5、6、7、10、11、12、13、14、16、17、24、34、35、37、53、55、65、73、74、75、81、83、93、94、95、97、98、99、108、109、110、113、114、117、120、124、128、129、133、138、139、147、151、153、154、167、172、180が挙げられる。
【0064】
マゼンタインクに使用される顔料としては、C.I.ピグメントレッド 1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、14、15、16、17、18、19、21、22、23、30、31、32、37、38、40、41、42、48(Ca)、48(Mn)、57(Ca)、57:1、88、112、114、122、123、144、146、149、150、166、168、170、171、175、176、177、178、179、184、185、187、202、209、219、224、245、又はC.I.ピグメントヴァイオレット 19、23、32、33、36、38、43、50が挙げられる。
【0065】
シアンインクに使用される顔料としては、C.I.ピグメントブルー 1、2、3、15、15:1、15:2、15:3、15:34、15:4、16、18、22、25、60、65、66、C.I.バット ブルー 4、60が挙げられる。
【0066】
また、マゼンタ、シアン、及びイエロー以外の顔料としては、例えば、C.I.ピグメントグリーン 7,10、C.I.ピグメントブラウン 3,5,25,26、C.I.ピグメントオレンジ 1,2,5,7,13,14,15,16,24,34,36,38,40,43,63が挙げられる。
【0067】
上記顔料は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0068】
上記の顔料を使用する場合、その平均粒子径は10〜300nmが好ましく、50〜250nmがより好ましい。平均粒子径が上記の範囲内にあると、インク組成物における吐出安定性や分散安定性などの信頼性に一層優れるとともに、優れた画質の画像を形成することができる。ここで、本明細書における平均粒子径は、動的光散乱法により測定される。
【0069】
(染料)
本実施形態において、色材として染料を用いることができる。染料としては、特に限定されることなく、酸性染料、直接染料、反応性染料、及び塩基性染料が使用可能である。前記染料として、例えば、C.I.アシッドイエロー 17,23,42,44,79,142、C.I.アシッドレッド 52,80,82,249,254,289、C.I.アシッドブルー 9,45,249、C.I.アシッドブラック 1,2,24,94、C.I.フードブラック 1,2、C.I.ダイレクトイエロー 1,12,24,33,50,55,58,86,132,142,144,173、C.I.ダイレクトレッド 1,4,9,80,81,225,227、C.I.ダイレクトブルー 1,2,15,71,86,87,98,165,199,202、C.I.ダイレクドブラック 19,38,51,71,154,168,171,195、C.I.リアクティブレッド 14,32,55,79,249、C.I.リアクティブブラック 3,4,35が挙げられる。
【0070】
上記染料は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0071】
色材の含有量は、優れた隠蔽性及び色再現性が得られるため、インク組成物の総質量(100質量%)に対して、1〜20質量%が好ましい。
【0072】
〔分散剤〕
本実施形態のインク組成物が顔料を含む場合、顔料分散性をより良好なものとするため、分散剤をさらに含んでもよい。分散剤として、特に限定されないが、例えば、高分子分散剤などの顔料分散液を調製するのに慣用されている分散剤が挙げられる。その具体例として、ポリオキシアルキレンポリアルキレンポリアミン、ビニル系ポリマー及びコポリマー、アクリル系ポリマー及びコポリマー、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリウレタン、アミノ系ポリマー、含珪素ポリマー、含硫黄ポリマー、含フッ素ポリマー、及びエポキシ樹脂のうち一種以上を主成分とするものが挙げられる。高分子分散剤の市販品として、味の素ファインテクノ社製のアジスパーシリーズ、アビシア社(Avecia Co.)から入手可能なソルスパーズシリーズ(Solsperse 36000等)、BYK社製のディスパービックシリーズ(DISPERBYK−168等)、楠本化成社製のディスパロンシリーズが挙げられる。
【0073】
〔スリップ剤〕
本実施形態のインク組成物は、優れた耐擦性が得られるため、スリップ剤(界面活性剤)をさらに含んでもよい。スリップ剤としては、特に限定されないが、例えば、シリコーン系界面活性剤として、ポリエステル変性シリコーンやポリエーテル変性シリコーンを用いることができ、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン又はポリエステル変性ポリジメチルシロキサンを用いることが特に好ましい。具体例としては、BYK−377、BYK−UV3500(以上、BYK社製)、及びKF−615A(信越化学社製)を挙げることができる。
【0074】
〔その他の添加剤〕
本実施形態のインク組成物は、上記に挙げた添加剤以外の添加剤(成分)を含んでもよい。このような成分としては、特に制限されないが、例えば従来公知の、重合促進剤、浸透促進剤、及び湿潤剤(保湿剤)、並びにその他の添加剤があり得る。上記のその他の添加剤として、例えば従来公知の、定着剤、防黴剤、防腐剤、酸化防止剤、放射線吸収剤、キレート剤、pH調整剤、及び増粘剤が挙げられる。
【0075】
[被記録媒体]
本実施形態の放射線硬化型インク組成物は、後述するインクジェット記録方法によって、被記録媒体上に吐出されること等により、記録物が得られる。この被記録媒体として、例えば、吸収性又は非吸収性の被記録媒体が挙げられる。上記のインクジェット記録方法は、インク組成物の浸透が困難な非吸収性被記録媒体から、インク組成物の浸透が容易な吸収性被記録媒体まで、様々な吸収性能を持つ被記録媒体に幅広く適用できる。ただし、当該インク組成物を非吸収性の被記録媒体に適用した場合は、放射線を照射し硬化させた後に乾燥工程を設けること等が必要となる場合がある。
【0076】
吸収性被記録媒体としては、特に限定されないが、例えば、インクの浸透性に優れた電子写真用紙などの普通紙、インクジェット用紙(シリカ粒子やアルミナ粒子から構成されたインク吸収層、あるいは、ポリビニルアルコール(PVA)やポリビニルピロリドン(PVP)等の親水性ポリマーから構成されたインク吸収層を備えたインクジェット専用紙)から、インクの浸透性が比較的低い一般のオフセット印刷に用いられるアート紙、コート紙、キャスト紙等が挙げられる。
【0077】
非吸収性被記録媒体としては、特に限定されないが、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のプラスチック類のフィルムやプレート、鉄、銀、銅、アルミニウム等の金属類のプレート、又はそれら各種金属を蒸着により製造した金属プレートやプラスチック製のフィルム、ステンレスや真鋳等の合金のプレート等が挙げられる。
【0078】
このように、本実施形態によれば、放射線硬化型インク組成物をインクジェット記録装置に適用する場合に、プリントヘッドのノズル面における撥インク性に優れ、吐出安定性にも優れた放射線硬化型インク組成物を提供することができる。
【0079】
[インクジェット記録装置]
本発明の一実施形態に係るインクジェット記録装置は、ノズル面の少なくとも一部にフッ素を有するプリントヘッドを備えたインクジェット記録装置に関する。
【0080】
上記実施形態の放射線硬化型インク組成物は、上記インクジェット記録装置に用いられ、上記ノズル面が優れた撥インク性を示すものである。以下では、このインクジェット記録装置について詳細に説明する。
【0081】
図1は、本実施形態で使用可能なインクジェット記録装置の斜視図である。図1に示したインクジェット記録装置20は、被記録媒体Pを副走査方向SSに送るモーター30と、プラテン40と、放射線硬化型インク組成物を微小粒径にしてヘッドノズルから噴射して被記録媒体Pに吐出する記録ヘッドとしてのプリントヘッド52と、該プリントヘッド52を搭載したキャリッジ50と、キャリッジ50を主走査方向MSに移動させるキャリッジモーター60と、プリントヘッド52によって放射線硬化型インク組成物を吐出した被記録媒体P上のインク付着面に放射線を照射する一対の放射線照射装置90A、90Bとを備えている。
【0082】
キャリッジ50は、キャリッジモーター60に駆動される牽引ベルト62によって牽引され、ガイドレール64に沿って移動する。
【0083】
キャリッジ50のホームポジション(図1の右側の位置)には、停止時にプリントヘッド52のノズル面を密閉するためのキャッピング装置80が設けられている。記録ジョブが終了してキャリッジ50がこのキャッピング装置80の上まで到達すると、図示しない機構によってキャッピング装置80が自動的に上昇して、プリントヘッド52のノズル面を密閉する。このキャッピングにより、ノズル内のインクの乾燥が防止される。キャリッジ50の位置決め制御は、例えば、このキャッピング装置80の位置にキャリッジ50を正確に位置決めするために行われる。
【0084】
図1に示したプリントヘッド52は、3色以上のインクを噴射するフルカラー記録用のシリアル型ヘッドであり、色毎に多数のヘッドノズルが備えられている。かかるプリントヘッド52が搭載されるキャリッジ50には、前記プリントヘッド52の他に、プリントヘッド52に供給される黒色インクを収容したブラックインク容器としてのブラックカートリッジ54と、プリントヘッド52に供給されるカラーインクを収容したカラーインクとしてのカラーインクカートリッジ56とが搭載されている。各カートリッジ54、56に収容されているインクは、上記実施形態の放射線硬化型インク組成物である。
【0085】
図2は、プリントヘッドの一例を模式的に示す断面図である。図2に示したプリントヘッド152は、ノズルプレート110、圧力室基板112、振動板114、圧電素子116等の主要部材から構成されている。ノズルプレート110上には、圧力室基板112が設けられており、圧力室基板112によって仕切られることで圧力室118が形成される。圧力室基板112上には、可撓性を有する振動板114が設けられており、振動板114が撓むことで圧力室118の内部圧を瞬間的に高めることができるようになっている。振動板114上には、圧力室118に対応する位置に圧電素子116が設けられている。圧力PSがかかる圧電素子116は、カバー120で全体を覆われている。
【0086】
圧力室基板112には、インクをヘッド内部へ導入する図示しないインク導入口が設けられている。このインク導入口は、図示しないインク溜まりと接続しており、このインク溜まりにおいてインクを溜めることができるように形成されている。また、インク溜まりは流路122を介して圧力室118と連通しており、圧力室118のインク吐出側はノズルプレート110に設けられたインク吐出口124と接続している。
【0087】
ノズルプレート110は圧力室118に供給され、加圧されたインクを吐出するインク吐出口124が複数設けられている。特に本実施形態では、ノズルプレート110は、ノズルプレート面110aの少なくとも一部にフッ素原子を有している点に特徴がある。
ノズルプレート110の材質は、特に制限されず、ステンレス鋼(例えばSUS等)、ポリイミド等を用いることができる。ノズルプレート110の材質がステンレス鋼の場合には、ノズルプレート面110aにシリコーン材料をプラズマ重合することによりプラズマ重合膜126が形成される。プラズマ重合膜126の原料、即ち上記シリコーン材料としては、シリコーン油、ジメチルポリシロキサン等のアルコキシシランが挙げられる。具体的な商品としては、TSF451(ジーイー東芝シリコーン社(GE Toshiba Silicones Co., Ltd.)製)、SH200(東レ・ダウコーニング・シリコーン社(Dow Corning Toray Co.,Ltd.)製)等が挙げられる。
【0088】
また、プラズマ重合膜126の表面には撥インク性のフッ素樹脂膜128が形成されている。このフッ素樹脂膜128は、フッ素原子を含む長鎖高分子鎖を有するアルコキシシランの単分子膜であることが好ましい。フッ素原子を含む長鎖高分子鎖としては、分子量が1000以上の、パーフルオロアルキル鎖、パーフルオロポリエーテル鎖等が挙げられる。この長鎖高分子鎖を有するアルコキシシランとしては、例えば前記例示した長鎖高分子鎖を有するシランカップリング剤等が挙げられる。このシランカップリング剤としては、例えばヘプタトリアコンタフルオロイコシルトリメトキシシラン等が挙げられ、市販品としてはオプツールDSX(商品名、ダイキン工業社(Daikin Industries, Ltd.)製)、KY−130(商品名、信越化学工業社(Shin-Etsu Chemical Co., Ltd.)製)等が挙げられる。
なお、ノズルプレート110の材質がポリイミドの場合には、プラズマ重合膜126を形成せずにノズルプレート110上に直接フッ素樹脂膜128を形成してもよい。
【0089】
図3は、プラズマ重合膜126の表面に形成されたフッ素樹脂膜128の概念図である。ノズルプレート110を、フッ素原子を含む長鎖高分子鎖を有するアルコキシシラン溶液に浸漬させると、ノズルプレート110上のプラズマ重合膜126の表面にフッ素原子を含む長鎖高分子鎖を有するアルコキシシランの重合したフッ素樹脂膜128が形成される。このフッ素樹脂膜128のケイ素原子は、酸素原子を介してプラズマ重合膜126と結合(いわゆるシロキサン結合)する。そのため、フッ素原子を含む長鎖高分子鎖128aは、表面側に位置することになる。このとき、フッ素樹脂膜128の状態は、ケイ素原子が三次元的に結合し、フッ素原子を含む長鎖高分子鎖同士が複雑に絡み合った状態となっている。このため、フッ素樹脂膜128は高密度な状態となり、フッ素樹脂膜128にインクが浸透しにくくなる。このようなプリントヘッド152は、単分子膜のフッ素樹脂膜128を有しているため、インク吐出口124を形成するノズルプレート面110a(フッ素樹脂膜128の表面)から1μm未満の領域にはシロキサン結合を有していることになる。
【0090】
また、ノズルプレート面110aにNiイオンとフッ素樹脂との共析メッキ膜を形成することで、インク吐出口124を形成するノズルプレート面110aの少なくとも一部にフッ素原子を有するようにしてもよい。
【0091】
インク吐出口124を形成するノズルプレート面110aの少なくとも一部にフッ素原子を有するプリントヘッド152によれば、ノズルプレート面110aにおける前述の放射線硬化型インク組成物の撥インク性が良好となり、これにより記録時におけるプリントヘッドからの吐出安定性を向上させることができる。
【0092】
以上で説明したようなインクジェット記録装置20を使用することにより、上記実施形態の放射線硬化型インク組成物を、プリントヘッド152から被記録媒体に安定して吐出することができる。
【0093】
被記録媒体上に吐出された放射線硬化型インク組成物に対して、放射線を照射することにより、該放射線硬化型インク組成物が硬化されて、被記録媒体上に画像を記録することができる。図4は、図1に示した放射線照射装置90A(図4の190Aに相当)、90B(図4の190Bに相当)の正面図である。図5は、図4のA−A矢視図である。
【0094】
図1、図4及び図5に示すように、放射線照射装置190A、190Bは、キャリッジ50の移動方向に沿った両側端にそれぞれ取り付けられている。
【0095】
図4に示すように、プリントヘッド52の向かって左側に取り付けられた放射線照射装置190Aは、キャリッジ50が右方向(図4の矢印B方向)に移動する右走査時に、被記録媒体P上に吐出されたインク層196に対して放射線照射を行う。一方、プリントヘッド52の向かって右側に取り付けられた放射線照射装置190Bは、キャリッジ50が左方向(図4の矢印C方向)に移動する左走査時に、被記録媒体P上に吐出されたインク層196に対して放射線照射を行う。
【0096】
各放射線照射装置190A、190Bは、キャリッジ50に取り付けられて、放射線光源192をそれぞれ1個ずつ整列支持した筐体194と、放射線光源192の発光及び消灯を制御する(図示しない)放射線光源制御回路とを備えている。図4及び図5に示すように、放射線照射装置190A、190Bには、放射線光源192がそれぞれ1個ずつ設けられているが2個以上設けてもよい。放射線光源192としては、発光ダイオード(LED)又はレーザーダイオード(LD)のいずれかを使用することが好ましい。これにより、放射線光源として水銀灯ランプ、メタルハライドランプ、その他のランプ類を使用した場合と比較して、フィルター等の装備のために放射線光源が大型化することを回避することができる。また、フィルターによる吸収で出射された放射線強度が低下することがなく、放射線硬化型インク組成物を効率良く硬化させることができる。
【0097】
また、各放射線光源192は、出射される波長が同じものでもよいし、異なっていてもよい。放射線光源192としてLED又はLDを使用する場合、出射される放射線の発光ピーク波長は350〜430nm程度の範囲のいずれかとすればよい。
【0098】
以上に説明した放射線照射装置190A、190Bによれば、図4に示すように、プリントヘッド52からの吐出で被記録媒体P上に付着させたインク層196に対して、プリントヘッド52近傍の被記録媒体P上を照射する放射線光源192により放射線192aが照射され、インク層196の表面及び内部を硬化させることができる。
【0099】
放射線の照度は、被記録媒体P上に付着させたインク層196の厚さにより異なるため厳密には特定できず、適宜好ましい条件を選択するものではあるが、上記実施形態の放射線硬化型インク組成物を用いているので、10〜2,000mW/cm程度の照度で十分に硬化させることができる。
【0100】
インクジェット記録装置20によれば、放射線硬化型インク組成物の粘度が低く、インク層の膜厚が比較的薄いフルカラー記録時においても、被記録媒体P上に吐出された複数の放射線硬化型インク組成物を滲みや色混じりという不具合を生じることなく、良好に硬化させることができる。
なお、インクジェット記録装置20の構成は、前述した記録ヘッド、キャリッジ、及び光源等の構成に限定されるものではなく、本実施形態のインクジェット記録装置の趣旨に基づいて種々の形態を採用することができる。
【0101】
このように、本実施形態によれば、プリントヘッドのノズル面における撥インク性に優れ、吐出安定性にも優れた放射線硬化型インク組成物を用いたインクジェット記録装置を提供することができる。
【0102】
[インクジェット記録方法]
本発明の一実施形態に係るインクジェット記録方法は、ノズルプレート面110aの少なくとも一部にフッ素を有するプリントヘッド152を備えたインクジェット記録装置20を用いる方法であって、上記実施形態の放射線硬化型インク組成物を、プリントヘッド152から吐出することを含むものである。
【実施例】
【0103】
以下、本発明の実施形態を実施例及び比較例によってさらに具体的に説明するが、本実施形態はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0104】
[使用材料]
下記の実施例及び比較例において使用した材料は、以下の通りである。
〔重合性化合物〕
・4−ヒドロキシブチルアクリレート(大阪有機化学工業社(OSAKA ORGANIC CHEMICAL INDUSTRY LTD.)製、商品名「4−HBA」、表2及び表3では4−HBAと略記した。)
・アクリル酸2−(2−ビニロキシエトキシ)エチル(日本触媒(Nippon Shokubai Co.,Ltd.)社製、商品名「VEEA」、表2及び表3ではVEEAと略記した。)
・フェノキシエチルアクリレート(大阪有機化学工業社製、商品名「ビスコート#192」、表1〜表3ではPEAと略記した。)
〔ジベンジリデンソルビトール骨格を有する化合物及び糖〕
・化合物A(東京化成社(Tokyo Chemical Industry Co., Ltd.)製、D−(+)−サッカロース)
・化合物B(BASF社製、1,3:2,4−ジベンジリデンソルビトール)
・化合物C(BASF社製、1,3:2,4−ジ(p−メチルベンジリデン)ソルビトール)
なお、以下の表においては、「ジベンジリデンソルビトール骨格を有する化合物及び糖」を、単に「ジベンジリデンソルビトール骨格」と略記した。
〔光重合開始剤〕
・IRGACURE 819(BASF社製商品名、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド、表2及び表3では819と略記した。)
・DAROCUR TPO(BASF社製商品名、2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−フォスフィンオキサイド、表2及び表3ではTPOと略記した。)
〔スリップ剤〕
・BYK−UV3500(BYK社製商品名、ポリエーテル変性アクリル基を有するポリジメチルシロキサン、表2及び表3ではUV3500と略記した。)
〔重合禁止剤〕
・p−メトキシフェノール(関東化学社製商品名、表2及び表3ではMEHQと略記した。)
〔顔料〕
・ホワイト顔料(石原産業社(Ishihara Sangyo Kaisha, Ltd.)製、酸化チタン)
〔分散剤〕
・分散剤B(LUBRIZOL社製、商品名「Solsperse36000」)
【0105】
[実施例1〜16、比較例1〜25]
〔顔料分散液の調製〕
下記表1に記載の材料を、表1に記載の組成(単位:質量部)となるように添加し、1時間スターラーで撹拌した。撹拌後の混合物をビーズミル分散にて分散し、顔料分散液を得た。分散条件は、直径0.65mmのジルコニアビーズを70%の充填率で充填し、周速を9m/sとし、分散時間を2〜4時間とした。このようにして、ホワイト顔料分散液をそれぞれ調製した。
【0106】
【表1】

【0107】
〔放射線硬化型インク組成物の調製〕
下記表2及び表3に記載の材料を、表2及び表3に記載の組成(単位:質量部)となるように添加、撹拌して混合溶解し、インク製造例1〜21の放射線硬化型インク組成物を得た。
【0108】
【表2】

【0109】
【表3】

【0110】
〔評価項目〕
上記で調製した放射線硬化型インクジェット用インク組成物について、以下の方法により撥インク性及び吐出安定性を評価した。
【0111】
(1.撥インク性)
まず、ノズルプレート(以下、「NP」ともいう。)が異なる5種類のプリントヘッドを用意した。使用したNPの特徴は、以下の通りである。
・NP1:NP基板としてSUSを用いており、表面処理を行っていないものである。
・NP2:NP基板としてポリイミドを用いており、表面処理を行っていないものである。
・NP3:NP基板としてSUSを用いており、インクが接触する部分を含むNP表面にNiイオンとフッ素樹脂(NP面に局在)との共析メッキ膜を形成したものである。NP3の表面処理は、特開平3−274163号公報及び特開平6−246921号公報の実施例に基づき行った。
・NP4:NP基板としてSUSを用いており、インクが接触する部分を含むNP表面にシリコーン材料であるジメチルポリシロキサンをプラズマ重合することによりプラズマ重合膜を形成した後、フッ素を含む長鎖高分子鎖を有するアルコキシシランでフッ素樹脂膜を形成したものである。NP4の表面処理は、特開2004−351923号公報の段落0034から段落0038までの記載に基づき行った。
・NP5:NP基板としてポリイミドを用いており、インクが接触する部分を含むNP表面にフッ素を含む長鎖高分子鎖を有するアルコキシシランでフッ素樹脂膜を形成したものである。NP5の表面処理は、特開2006−334903号公報の段落0045から段落0049までの記載に基づき行った。
【0112】
次いで、用意したノズルのノズルプレート面へ得られた放射線硬化型インク組成物を連続的に滴下しながら、ブチル製ゴムワイプにより40℃で30,000回ワイピングした。
評価基準は以下のとおりである。○が実用上許容できる評価基準である。具体的にいえば、評価が「○」であると、インクが接触する部分における撥インク性に優れると判断できる。評価結果を表4〜表7に示す。
○:ワイピング30,000回後のノズルプレート上にインクが無かった。
×:ワイピング30,000回後のノズルプレート上にインクが残留していた。
【0113】
(2.吐出安定性)
まず、上記のNP1〜NP5のうちいずれかを備えたインクジェットプリンターPX−5000(セイコーエプソン社製商品名)を計5台用意した。各インクジェットプリンターを用いて、解像度720dpi×720dpi、液滴重量10ng、環境温度40℃の条件で、上記で得られた放射線硬化型インク組成物(インク製造例1〜21)をPETフィルム上にベタパターン画像とする記録を48時間連続で行った。このときのドット抜け、飛行曲がり、インクの飛散の発生を目視により観察した。なお、このベタパターン画像は、記録解像度で規定される最小記録単位領域である画素の全ての画素に対してドットを記録した画像である。
評価基準は以下のとおりである。◎及び○が実用上許容できる評価基準である。評価結果を表4〜表7に示す。
◎:ドット抜け、飛行曲がり、インクの飛散の発生が50回未満であった。
○:ドット抜け、飛行曲がり、インクの飛散の発生が50回以上100回未満であった。
×:ドット抜け、飛行曲がり、インクの飛散の発生が100回以上であった。
【0114】
【表4】

【0115】
【表5】

【0116】
【表6】

【0117】
【表7】

【0118】
NP表面にフッ素を有するNP3、NP4、及びNP5は実施例に相当し、NP表面にフッ素を有しないNP1及びNP2は比較例に相当する。
また、ジベンジリデンソルビトール骨格を有する化合物及び糖のうち少なくとも一方である化合物A、B、及びCの含有量が、インク組成物中0.5質量%未満であるインク製造例1,2,7,及び14は比較例に相当する。なお、化合物A、B、及びCの含有量が、インク組成物中5質量%を超えるインクを調製したところ、これらの化合物が硬化後の塗膜表面に析出するという問題が生じた。
【0119】
(3.硬化性)
上記で得られた放射線硬化型インク組成物(インク製造例1〜21)をPETフィルム上に、バーコーターで(硬化膜の厚さとして)膜厚10μmとなるように塗布した。UV−LED(ピーク波長395nm、照射強度60mW/cm)で照射を行い、タックフリーの状態になるまでに照射した照射エネルギーを求めた。照射エネルギー[mJ/cm2]は、光源から照射される被照射表面における照射強度[mW/cm2]を測定し、これと照射継続時間[s]との積から求めた。照射強度の測定は、紫外線強度計UM−10、受光部UM−400(いずれもコニカミノルタセンシング社(KONICA MINOLTA SENSING, INC.)製)を用いて行った。また、タックフリーになる状態は、下記の条件で判断した。すなわち、綿棒にインクが付着するか否か、又は被記録媒体上のインク硬化物に擦り傷が付くか否かで判断した。その際、使用した綿棒は、ジョンソン・エンド・ジョンソン(Johnson & Johnson)社製のジョンソン綿棒であった。擦る回数は往復10回とし、擦る強さは100g荷重とした。
評価基準は下記のとおりである。評価結果を下記表8に示す。
◎:タックフリー時の照射エネルギー 200mJ/cm以下、
○:タックフリー時の照射エネルギー 200mJ/cm超300mJ/cm以下、
△:タックフリー時の照射エネルギー 300mJ/cm超。
【0120】
【表8】

【0121】
上記表4〜表7より、表面にフッ素を有するノズル面を用い、ジベンジリデンソルビトール骨格を有する化合物及び糖のうち少なくとも一方と重合性化合物とを含み、ジベンジリデンソルビトール骨格を有する化合物及び糖のうち少なくとも一方が0.5〜5.0質量%含まれる放射線硬化型インク組成物は、撥インク性に優れ、さらに吐出安定性にも優れることが分かった。
上記表8から、ジベンジリデンソルビトール骨格を有する化合物及び糖のうち少なくとも一方と重合性化合物とを含み、ジベンジリデンソルビトール骨格を有する化合物及び糖のうち少なくとも一方が7質量%も含まれる放射線硬化型インク組成物は、硬化性が劣ることが分かった。
【符号の説明】
【0122】
20…インクジェット記録装置、30…モーター、40…プラテン、50…キャリッジ、52(152)…プリントヘッド(記録ヘッド)、54…ブラックインクカートリッジ、56…カラーインクカートリッジ、60…キャリッジモーター、62…牽引ベルト、64…ガイドレール、80…キャッピング装置、90A(190A)…放射線照射装置、90B(190B)…放射線照射装置、110…ノズルプレート、110a…ノズルプレート面、112…圧力室基板、114…振動板、116…圧電素子、118…圧力室、120…カバー、122…流路、124…インク吐出口、126…プラズマ重合膜、128…フッ素樹脂膜、128a…フッ素を含む長鎖高分子鎖、152…プリントヘッド、192…放射線光源、192a…放射線、194…筐体、196…インク層、P…被記録媒体、PS…圧力、MS…主走査方向、SS…副走査方向。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノズル面を含むプリントヘッドを備えたインクジェット記録装置に用いられる放射線硬化型インク組成物であって、
前記ノズル面は、インクが接触する部分の少なくとも一部にフッ素原子を有し、
該放射線硬化型インク組成物は、ジベンジリデンソルビトール骨格を有する化合物及び糖のうち少なくとも一以上と重合性化合物とを含み、
前記ジベンジリデンソルビトール骨格を有する化合物及び糖のうち少なくとも一以上の総含有量が、該放射線硬化型インク組成物の総質量に対し、0.5〜5.0質量%である、放射線硬化型インク組成物。
【請求項2】
前記ジベンジリデンソルビトール骨格を有する化合物及び糖のうち少なくとも一以上が、ジベンジリデンソルビトール骨格を有する化合物である、請求項1に記載の放射線硬化型インク組成物。
【請求項3】
前記ジベンジリデンソルビトール骨格を有する化合物及び糖のうち少なくとも一以上が、1,3:2,4−ジベンジリデンソルビトール及び1,3:2,4−ジ(p−メチルベンジリデン)ソルビトールのうち少なくともいずれかを含む、請求項1又は2に記載の放射線硬化型インク組成物。
【請求項4】
前記インクが接触する部分の少なくとも一部にフッ素原子を有するノズル面を含むプリントヘッドを備え、該プリントヘッドは請求項1〜3のいずれか1項に記載の放射線硬化型インク組成物を吐出するものである、インクジェット記録装置。
【請求項5】
前記ノズル面は、前記インクが接触する部分から1μm未満の領域にシロキサン結合を有する、請求項4に記載のインクジェット記録装置。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の放射線硬化型インク組成物を、前記プリントヘッドから吐出することを含む、インクジェット記録方法。
【請求項7】
ジベンジリデンソルビトール骨格を有する化合物及び糖のうち少なくとも一以上と重合性化合物とを含む放射線硬化型インク組成物であって、
前記ジベンジリデンソルビトール骨格を有する化合物及び糖のうち少なくとも一以上の総含有量が、該インク組成物の総質量に対し、0.5〜5.0質量%である、放射線硬化型インク組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−241097(P2012−241097A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−112113(P2011−112113)
【出願日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】