説明

放射線硬化性組成物及びそれを用いた硬化物、及び積層体

【課題】 硬化膜を形成した際の積層体の変形が少なく、硬化物表面において高い耐クリープ性を有する積層体を与える放射線硬化性組成物を提供する。
【解決手段】 (メタ)アクリレート、光重合開始剤を含有する放射線硬化性組成物であって、放射線を照射させることによって硬化させた厚み100±10μmの硬化物の、波長400nmにおける光線透過率が85%以上であり、10Hz、80℃における貯蔵弾性率E’(80)が500MPa以下、かつ10Hz、37℃における貯蔵弾性率E’(37)と45℃における貯蔵弾性率E’(45)と60℃における貯蔵弾性率E’(60)とから導かれる値Fが0.006以下であることを特徴とする放射線硬化性組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化物表面に高い耐クリープ性を有し、積層体とした時の基材の変形の少ない積層体を得ることのできる放射線硬化性組成物、該組成物に放射線を照射して得られる硬化物、及びそれからなる硬化膜を有する積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
放射線硬化性樹脂は様々な用途に用いられているが、その一つに基材を被覆するいわゆるコーティング剤としての用途がある。ただし従来の放射線硬化性樹脂は、その放射線硬化の際に硬化収縮を生じるため、大きな厚みのコーティング層を形成しようとすると基材を大きく変形させてしまう問題があった。特に光記録媒体の保護層等に用いる場合は、寸法安定性に対する要求は非常に厳しく、適用が困難であった。
【0003】
この問題を解決する目的で、特定の成分を特定の配合割合で含有させた放射線硬化性組成物が提案されている。(例えば、特許文献参照)
この組成物は、硬化の際の基材の変形を抑制できる特性を有しているが、本発明者らのその後の検討によって、表面の耐クリープ性に問題があることが判った。耐クリープ性が高いとは、ある一定荷重を一定時間硬化物表面に負荷させた際に、表面に痕が付きにくいことを示す。その耐クリープ性を向上させるために成分を調整しようとすると、組成物が硬化する際の収縮に由来する基材の変形が著しく増大する傾向があり、それらの両立が困難であることが判明した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−270119
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、前述の課題を解決するべくなされたものであり、硬化物表面の耐クリープ性と透明性を高く維持しつつ、かつ、硬化膜の形成による基材の変形が少ない積層体を実現することのできる放射線硬化性組成物、及びその硬化物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、いくつかの温度における貯蔵弾性率が一定の条件を満たした場合に上記課題を解決できることを見出し、本発明に到達した。
即ち、本発明の要旨は、(メタ)アクリレート、光重合開始剤を含有する放射線硬化性組成物であって、放射線を照射させることによって硬化させた厚み100±10μmの硬化物の、波長400nmにおける光線透過率が85%以上であり、10Hz、80℃における貯蔵弾性率E’(80)が500MPa以下、かつ10Hz、37℃における貯蔵弾性率E’(37)と45℃における貯蔵弾性率E’(45)と60℃における貯蔵弾性率E’(60)とから下記の式(I)によって導かれる値Fが0.006以下であることを特徴とする放射線硬化性組成物に存する。
【0007】
式(I) F=1/E’(37)+1/E’(60)−1/E’(45)
ここで、前記放射線硬化性組成物が、ウレタン結合を有する化合物を含有することが好ましい。
【0008】
また、本発明は、前記放射線硬化性組成物に放射線を照射して得られる硬化物にも関する。
また、本発明は、基材上に、前記硬化物からなる硬化膜を積層してなる積層体にも関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、透明性に優れ、高い耐クリープ性を維持しつつ、硬化物を形成した際の変形の少ない積層体を実現することができる放射線硬化性組成物、及びその硬化物を提供することができるので、その工業的価値は極めて高い。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】貯蔵弾性率の温度変化の周波数依存性を示した図である。
【図2】押し込み荷重と押し込み量の関係を示した図である。
【図3】耐クリープ性評価に用いたおもりを上方から見た模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態につき詳細に説明するが、本発明は以下の実施の形態に制限されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施することができる。また、本発明において、分子量とは、とくに断らない限り数平均分子量を指す。なお、本明細書において(メタ)アクリレートとはアクリレートとメタクリレートとの総称である。
【0012】
1.放射線硬化性組成物の硬化物
本発明に用いられる放射線硬化性組成物の具体的な内容については後述するが、ここでは、本発明の放射線硬化性組成物の硬化物の製造方法及び要求される特性について詳述する。
1−1.放射線硬化性組成物の硬化物の製造方法
本発明における放射線硬化性組成物の硬化物は、放射線(活性エネルギー線や電子線)を照射して重合反応を開始させる、いわゆる「放射線硬化」によって得られる。重合反応の形式に特に制限はなく、例えば、ラジカル重合、アニオン重合、カチオン重合、配位重合等の公知の重合形式を用いることができる。これらの重合形式のうち、重合反応の開始が重合系内で均質かつ短時間に進行することによる生成物の均質性等の面から、ラジカル重合が特に好ましい。
【0013】
ここで、放射線とは、必要とする重合反応を開始する重合開始剤に作用して該重合反応を開始する化学種を発生させる働きを有する電磁波(ガンマ線、エックス線、紫外線、可視光線、赤外線、マイクロ波等)、又は粒子線(電子線、α線、中性子線、各種原子線等)である。本発明において好ましく用いられる放射線の一例は、エネルギーと汎用光源を使用可能であることから、紫外線、可視光線、及び電子線が好ましく、最も好ましくは紫外線、及び電子線である。
【0014】
放射線として紫外線を用いる場合、重合開始剤としては、前述の重合開始剤の中で紫外線によりラジカルを発生する光ラジカル発生剤をもちいるのが好ましい。この際、必要に応じて増感剤を併用してもよい。その紫外線の波長は、通常200nm以上、好ましくは240nm以上、又、通常400nm以下、好ましくは350nm以下の範囲である。
紫外線を照射する装置としては、高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、キセノンフラッシュランプ、マイクロ波によって紫外線を発生させる構造の紫外線ランプ等、公知の装置を好ましく用いることができる。該装置の出力は通常10W/cm以上、好ましくは30W/cm以上、又、通常200W/cm以下、好ましくは180W/cm以下であり、該装置は、被照射体に対して通常5cm以上、好ましくは30cm以上、又、通常80cm以下、好ましくは60cm以下の距離に設置するようにすると、被照射体の光劣化や熱劣化、熱変形等が少なく、好ましい。
【0015】
放射線の照射強度としては、通常0.1J/cm2 以上、好ましくは0.2J/cm2
以上、又、通常20J/cm2 以下、好ましくは10J/cm2以下、より好ましくは5J/cm2 以下、更に好ましくは3J/cm2 以下、特に好ましくは2J/cm2以下で
照射する。照射強度がこの範囲内であれば、放射線硬化性組成物の種類によって適宜選択可能である。
【0016】
放射線の照射時間は通常1秒以上、好ましくは10秒以上、又、通常3時間以下、反応促進と生産性の点で好ましくは1時間以下である。放射線の照射エネルギーや照射時間が極端に少ない場合、重合が不完全なため硬化物の耐熱性、機械特性が十分に発現されない場合がある。又、逆に極端に過剰な場合は黄変等光による色相悪化に代表される劣化を生ずる場合がある。
【0017】
該放射線の照射は、一段階で行ってもよく、複数段階に分けて行ってもよい。その線源としては、通常、放射線が全方向に広がる拡散線源を用いる。放射線の照射は、通常、型内に賦形された放射線硬化性組成物を固定静置した状態、又は、コンベアで搬送された状態で、放射線源を固定静置して行う。又、放射線硬化性組成物を適当な基板(例えば、樹脂、金属、半導体、ガラス、紙等)上の塗布液膜とし、そこに放射線を照射して該塗布液膜を硬化させることも可能である。
【0018】
又、放射線として電子線を用いる場合、照射に用いられる電子線照射装置としては、特にその方式に制限はないが、例えば、カーテン型、エリアビーム型、ブロードビーム型、パルスビーム型等が挙げられ、照射の際の加速電圧は、通常10kV以上、好ましくは100kV以上、又、通常1,000kV以下、好ましくは200kV以下とする。電子線照射の光源及び照射装置は高価であるものの、重合開始剤の使用が省略可能であること、及び酸素による重合阻害を受けず、従って表面硬度が良好となるという利点があり、又、機械特性、特に引張伸びに優れた硬化物を得ることができる。
【0019】
1−2.放射線硬化性組成物の硬化物の特性
本発明の放射線硬化性組成物の硬化物の膜厚は、通常10μm以上、好ましくは20μm以上、より好ましくは30μm以上、更に好ましくは70μm以上、特に好ましくは85μm以上、又、通常300μm以下、好ましくは130μm以下、より好ましくは115μm以下である。この膜厚であれば、特に光記録媒体の保護層として好適に用いることができる。
【0020】
本発明の放射線硬化性組成物の硬化物は、硬化後の膜厚が100±10μmに調整した場合において、波長400nmにおける光線透過率が、85%以上であり、好ましくは89%以上、又、上限に制限はなく、100%に近いほど好ましい。光線透過率が低すぎると、硬化物としての透明性が劣ることとなって、例えば光記録媒体の保護層に用いた場合に、記録された情報の読み出し時にエラーが増加することとなる。尚、光線透過率は、例えば、ヒューレットパッカード社製HP8453型紫外・可視吸光光度計にて公知の方法で、室温で測定することができる。
【0021】
本発明の硬化物は、10Hz、80℃における貯蔵弾性率E’(80)が500MPa以下であることが必要である。
ここで言う貯蔵弾性率とは、動的粘弾性測定装置(「DMA」または「DMS」とも称する)を用いることにより、材料の粘弾性を評価する際に得られる特性である。貯蔵弾性率の測定は、動的粘弾性測定装置を用いて、所望の周波数を設定し、引っ張りモードにて行うことができる。
【0022】
動的粘弾性測定により、材料の数Hz〜数十Hzの高周波数の歪みを負荷させた際に生じる応力および発現する弾性率の大きさと位相を知ることができるが、貯蔵弾性率とは、発現する弾性率のうち、歪みの周波数と同位相のものを言う。動的粘弾性測定装置は、サンプルを制御された温度で冷却及び加熱を行うこともできるので、サンプルの各温度における貯蔵弾性率を知ることができる。
【0023】
本発明者らは、各温度における貯蔵弾性率と実際の硬化物の特性との相関を鋭意検討した結果、硬化する際の収縮に由来する基材の変形(以下「初期ソリ」と記載)が大きい組成は、高温時、特に80℃における貯蔵弾性率が大きく、逆に初期ソリが小さい組成はE’(80)が小さい関係があることを見出した。特に、数十cm程度の大きさの基板に放射線硬化性組成物による硬化膜を形成したような積層体において、初期ソリがほとんど観測されない硬化膜のE’(80)は500MPa以下であるという強い相関があることを見出した。E’(80)はより好ましくは200MPa以下、更に好ましくは100MPa以下、最も好ましくは50MPa以下である。E’(80)は、初期ソリを小さくするためには小さければ小さいほどよいが、通常は5MPa以上である。
【0024】
本発明の硬化物は、10Hz、37℃における貯蔵弾性率E’(37)と45℃における貯蔵弾性率E’(45)と60℃における貯蔵弾性率E’(60)とから下記の式(I)によって導かれる値Fが0.006以下であることが必要である。
【0025】
式(I) F=1/E’(37)+1/E’(60)−1/E’(45)
本発明者らは当初、初期ソリを低減させるために鋭意材料の改良を進めてきたが、初期ソリを低減していくと、硬化物表面の耐クリープ性が低下し、硬化物表面の一部に何らかの荷重が加えられた場合、硬化物表面に痕が付きやすくなる傾向があることを見出した。その耐クリープ性を向上させるために放射線硬化性組成物の成分を調整しようとすると、今度は逆に初期ソリが著しく増大してしまい、これら二つの特性を両立させることが困難であることが判明した。
【0026】
これらの現象を考察するに、硬化物の表面に生じる表面の痕を回避する方法は、以下の2つが考えられる。
(1)硬化物表面が硬く、一定時間荷重を加えた状態でも変形しない。
(2)硬化物表面が逆に軟らかく、荷重を加えた状態においては変形していたものが、荷重を除いた後すぐに回復(以下「弾性回復」と記載)し、見かけ上痕が残らない。
【0027】
(1)のように、瞬間的に負荷される荷重ではなく、長時間継続して負荷される荷重によって生じる変形は、その荷重が負荷される時間に対応する周波数における貯蔵弾性率と相関しており、貯蔵弾性率が高ければ変形も小さくなることが知られている。また上記の周波数は、通常の貯蔵弾性率測定において用いられる周波数である10Hzよりも遙かに小さいと考えられる。 例えば荷重負荷時間が24時間の場合、対応する周波数はその秒数の逆数である1.16×10−5Hzであり、10Hzより6桁近く小さい。
【0028】
樹脂材料において一般的特性として知られているのは、貯蔵弾性率を測定する際の周波数を低くすると、貯蔵弾性率の特性がより低温側にシフトするという経験則である。その例を図1(後述する実施例1で作成した硬化物の動的粘弾性の周波数依存性である)に示した。図1においては、1Hzの貯蔵弾性率特性は、10Hzの貯蔵弾性率特性をより低温に平行移動したものとなっており、0.1Hzの貯蔵弾性率特性は、それを更に低温に平行移動したものとなっていることが分かる。また、そのシフト温度は、周波数の桁数差に比例している。すなわち、10Hzから1桁下がった1Hzの貯蔵弾性率のシフト温度と、1Hzから1桁下がった0.1Hzの貯蔵弾性率のシフト温度はほぼ同等になっているのが分かる。これらのことを言い換えると、10Hzの貯蔵弾性率特性に着目した場合、周波数を一桁下げた1Hzの貯蔵弾性率は、シフト温度に相当する温度分高温の貯蔵弾性率を読み取ればよい。例えば、10Hzの貯蔵弾性率特性から、その1桁下がった1Hzの25℃における貯蔵弾性率を読み取るには、(25+シフト温度)℃の貯蔵弾性率を読み取ればよいことになる。0.1Hzの25℃における貯蔵弾性率を読み取るには、(25+シフト温度×2)℃の貯蔵弾性率を読み取ればよい。前記の荷重負荷時間が24時間の場合で言うと、周波数が1.16×10−5Hzであり、10Hzより6桁近く小さいので、概ね(25+シフト温度×6)℃(以下tと記載する)の貯蔵弾性率を読み取ればよいことになる。
【0029】
(2)の場合の弾性回復も、弾性回復が起こる時間に対応する周波数における貯蔵弾性率と相関しており、貯蔵弾性率が高ければ弾性回復は小さくなり、貯蔵弾性率が小さければ逆に弾性回復が大きくなることが知られている。この貯蔵弾性率についても前記と同様に、周波数が低くなれば、貯蔵弾性率特性がより低温側にシフトするという経験則が当てはまる。例えば5分間で起こる弾性回復を考える場合、周波数はその秒数の逆数である0.00333Hzであり、10Hzより3.5桁ほど小さい。したがって、10Hzの貯蔵弾性率特性においては、(25+シフト温度×3.5)℃(以下tと記載する)の高温貯蔵弾性率を見ればよく、tにおける貯蔵弾性率が低い方が、弾性回復力が高くなるはずであるということが導かれる。
【0030】
なお、クリープによる変形量fを考える場合、荷重一定の場合の歪み量に相関していると考えられるので、「応力=歪み×弾性率」の材料力学の関係から、
f=荷重工程における歪み−弾性回復工程における歪み(以下「弾性回復量」と記載))=荷重工程における(応力/弾性率)−弾性回復工程における(応力/弾性率)となり、fが{1/E’(t)−1/E’(t)}に比例するという関係が導かれる。
【0031】
本発明者らは、上記fとt、tおよび室温25℃における耐クリープ特性との相関を、多変量解析等の手法を用いて検討したが、残念ながら相関性は低かった。そこで更にこの現象について考察を深めたところ、荷重を加える初期の段階において、その荷重を加える瞬間における瞬間的な変形(以下「初期変形工程」)を考慮する必要があるとの推定に至った。この考察は、図2に示したビッカース硬度計を用いた押し込み荷重と押し込み量の関係とも整合している。この図に示されているのは、本発明の実施例1で作成した積層体表面に対して、ビッカース硬度計を用いてプローブを押し込んだ後、加える荷重を一定時間保持し、荷重を取り除く操作を行った際のプローブ押し込み量経時変化であるが、加える荷重が増加する過程(図中の「初期押し込み領域」)では押し込み量は急激に増加し、荷重を保持する過程(図中の「クリープ領域」)では押し込み量は徐々に増加し、荷重を除去する過程(図中の「弾性回復領域」)では押し込み量はやや急激に減少している。この3つの領域のうちの第1の領域である初期押し込み領域が「初期変形工程」に、第2の領域であるクリープ領域が「荷重工程」に、第3の領域である弾性回復領域が「弾性回復工程」に、それぞれ対応していると見なすことができる。
【0032】
以上のことを考慮し、上記fが{1/E’(t)+1/E’(t)−1/E’(t)}に比例することを導き出した。
上式では、1/E’(t)が初期変形工程における歪みに対応し、1/E’(t)が荷重工程における歪みに対応し、1/E’(t)が弾性回復工程における歪みに対応している。
このf、t、t、tおよび室温25℃における耐クリープ特性との相関を多変量解析等の手法を用いて検討したところ、t=37℃、t=60℃、t=45℃としたときに、fと耐クリープ性との間に非常に強い相関があることを突き止めた。すなわち、Fが0.006以下のときに、耐クリープ性が著しく向上することが判明した。ここで、上記t、t、tの温度の論理的妥当性を以下のように検討した。
【0033】
前記で参照した図1は、本発明の実施例1で作成した硬化物の動的粘弾性の周波数依存性であるが、該図より、前記シフト温度、すなわち「10Hzとの桁数の差が−1のときのシフト温度」は、約6℃と読み取ることができる。室温を25℃としたとき、t=37℃、t=60℃、t=45℃の室温25℃との差は、それぞれ12℃、35℃、20℃であり、これを単位シフト温度である6で割ると、それぞれ2、5.833、3.333という数値が得られるが、これらは10Hzとの桁数差を示していることになる。10Hzからの桁数差が上記2、5.8333、3.333である周波数値、すなわちt、t、tに対応する周波数を計算したところ、表1のようになった。
【0034】
【表1】

その周波数の逆数から、各工程時間の計算値を求めたところ、表1にあるように、それぞれ10秒、約19時間、約3.5分と算出された。つまり、初期変形工程が10秒、荷重工程が約19時間、弾性回復工程が約3.5分であることを示している。これらの数字が意味することは、荷重を加えた初期段階の変形は10秒で起こり、荷重を加えて静値した場合の変形は、約19時間で一定量に収束し、弾性回復は、荷重を除いてから約3.5分で一定量に達することを意味している。また、第1の項と第2の項は痕が増加する方向であるからプラス、第3の項は弾性回復で跡が減少する方向であるからマイナスとなっており、実際の現象とよく整合していることが分かる。
【0035】
以上の考察から、本発明者らが導いたFの式は、3つの工程のそれぞれの変形が生じる
時間に対応した3つの項から成り立っており、もともとは帰納的に導出された式ではあったが、本発明者らの上記検討によれば、実際の現象と良好な整合性を備えており、理論的根拠が明示された式であると言える。
ところで、単位シフト温度は組成物の構成により変化するが、本発明者らの検討によれば、放射線硬化性組成物の場合3〜8℃の範囲にあり、その中でも(メタ)アクリレートおよび光重合開始剤を含有する放射線硬化性組成物の場合は5〜7℃の範囲にあり、おおむね6℃である。
【0036】
Fの値は0.006以下、好ましくは0.004以下、より好ましくは0.003以下、より好ましくは0.0027以下、更に好ましくは0.002以下、最も好ましくは0.001以下である。耐クリープ性の観点からはFは小さければ小さいほどよいが、0.0005よりも小さくなると初期ソリが著しく増大したり、環境温湿度変化に伴う寸法変化が著しく悪化したりするなどの問題が生じやすい傾向があるため好ましくない。
【0037】
ところで、上記において、貯蔵弾性率に関する温度と時間との相関を議論したが、これに相当する理論が、レオロジー学と呼ばれる粘弾性に関する学術領域において一般的に利用されている。樹脂材料については、特に樹脂が結晶化や非晶化等の相転移を起こさない温度領域においては、時間と温度が換算されることが経験的に正しいことが実証されており、これは「時間温度換算則」と名付けられている。本発明の組成物も、通常使用温度領域である−20〜100℃においては、特段の相転移が観測されないことから、上記「時間温度換算則」が適用できると考えられる。
【0038】
2.放射線硬化性組成物
本発明の放射線硬化性組成物は、(メタ)アクリレートおよび光重合開始剤を含有する組成物である。塗布性に優れることから、液状であることが好ましい。
機械特性や熱特性に優れる点で、分子量1000以上の(メタ)アクリレートオリゴマーが好適に用いられる。中でも、密着性に優れる点で、ウレタン結合を有する(メタ)アクリレートオリゴマーが特に好ましい。また、適度な塗布性を付与するため、分子量300以下の(メタ)アクリレートモノマーが好ましく併用される。
なお、本明細書において(メタ)アクリレートとはアクリレートとメタクリレートとの総称である。(メタ)アクリロイル基、(メタ)アクリル酸についても同様である。
【0039】
2−1.ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー
本発明のウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーは、1分子中に2個以上のウレタン結合及び2個以上の(メタ)アクリロイル基を有するオリゴマーが好ましいが、低い照射量の放射線を照射して硬化させる際の低照射量硬化性に優れ、タック(べたつき)が残りにくいことから、本発明の組成物ではウレタンアクリレートオリゴマーが特に好ましい。ここで、低照射量硬化性とは、照射量が通常の1/10程度で硬化反応が殆ど進んでいない状態であるにも関わらず、表面はタック性が少なく、見かけ上硬化している様に見えるような性質をいう。
ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーとしては、例えば、原料としてポリイソシアネート、2個以上のヒドロキシル基を含有する化合物、及び1個以上のヒドロキシル基を含有する(メタ)アクリレートを用いて得られる反応物等が挙げられる。
【0040】
(1)ポリイソシアネート
ポリイソシアネートは、1分子中に2個以上のイソシアネート基を有する化合物であればよく、例えば、1分子中に2個のイソシアネート基を有するジイソシアネートや、3個のイソシアネート基を有するトリイソシアネート等が挙げられる。中でも特に、脂環式構造を含んでいてもよい炭素数1〜20のアルキレン基、置換基を有していても良い炭素数1〜15のシクロアルキレン基を有するジイソシアネートが好ましく、具体的にはテトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート;ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、シクロヘキサンジイソシアネート、ビス(イソシアナトシクロヘキシル)メタン、イソホロンジイソシアネート等の脂環式ジイソシアネート;トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、m−フェニレンジイソシアネート、α、α、α’、α’−テトラメチルキシリレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート;1,3,5−トリイソシアネートシクロヘキサン、1,3,5−トリメチルイソシアネートシクロヘキサン、2−(3−イソシアネートプロピル)−2,5−ジ(イソシアネートメチル)−ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、2−(3−イソシアネートプロピル)−2,6−ジ(イソシアネートメチル)−ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、3−(3−イソシアネートプロピル)−2,5−ジ(イソシアネートメチル)−ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、5−(2−イソシアネートエチル)−2−イソシアネートメチル−3−(3−イソシアネートプロピル)−ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、6−(2−イソシアネートエチル)−2−イソシアネートメチル−3−(3−イソシアネートプロピル)−ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、5−(2−イソシアネートエチル)−2−イソシアネートメチル−2−(3−イソシアネートプロピル)−ビシクロ[2.2.1]−ヘプタン、6−(2−イソシアネートエチル)−2−イソシアネートメチル−2−(3−イソシアネートプロピル)−ビシクロ[2.2.1]ヘプタン等のトリイソシアネート、及びこれらの多量体等が挙げられる。これらの1種を単独で用いてもよく、又、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0041】
これらの中で、得られるウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーの色相が良好である点で、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネートと、ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、シクロヘキサンジイソシアネート、ビス(イソシアナトシクロヘキシル)メタン、及びイソホロンジイソシアネート等の脂環式ジイソシアネートが好ましい。組成物に放射線を照射して得られる硬化物(以下、硬化物と称することがある)の表面硬度が高くなるため、ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、シクロヘキサンジイソシアネート、ビス(イソシアナトシクロヘキシル)メタン、及びイソホロンジイソシアネート等の脂環式ジイソシアネートがさらに好ましい。
【0042】
(2)2個以上のヒロドキシル基を含有する化合物
2個以上のヒロドキシル基を含有する化合物は、1分子中に2個以上のヒドロキシル基を有していればよく、例えば、2個のヒドロキシル基を有するグリコール、3個以上のヒドロキシル基を有する多価アルコール、又は2個以上のヒドロキシル基を有し、化合物中に繰り返し単位構造を有するポリオール等が使用可能である。
【0043】
中でも、硬化物の表面硬度が高くなることからグリコールが好ましく、特に脂環式構造を含んでいてもよい炭素数2〜20のアルキレン基、アルケニレン基、置換基を有していても良い炭素数2〜20のシクロアルキレン基を有するグリコールが好ましい。具体例としては、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、2−メチル−1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2,3,5−トリメチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2−エチル−1,6−ヘキサンジオール、2,2,4−トリメチル−1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,12−ドデカンジオール、1,14−テトラデカンジオール、1,16−ヘキサデカンジオール、1,2−ジメチロールシクロヘキサン、1,3−ジメチロールシクロヘキサン、1,4−ジメチロールシクロヘキサン等のアルキレングリコールが挙げられる。
【0044】
この中で、硬化物の表面硬度を高くするためには、ヒドロキシル基間の炭素数が10以下のグリコールが好ましい。また本発明の組成物の粘度を低下させるためには、側鎖を有しているグリコールが好ましい。
多価アルコールとして具体的には、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、1,2,6−ヘキサントリオール、1,2,4−ブタントリオール、エリスリトール、ソルビトール、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、マンニトール、等のヒドロキシル基を3個以上含有するアルキレン多価アルコールが挙げられる。
【0045】
ポリオールとして代表的なものは、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール等公知のものが使用可能である。硬化物からなる硬化膜を積層してなる積層体(以下、積層体と称することがある)の反りを抑制させることを目的としてポリオールを添加するため、比較的柔軟な構造を有するポリオールが好ましい。中でも、本発明の組成物を光記録媒体の保護層として用いる場合には、保護層が金属を含有する層と直接接触するため、金属を含有する層が腐食しにくいことからポリエステルポリオールが好ましい。
【0046】
ポリオールの分子量は、本発明の組成物の粘度を適当な範囲に調整しやすいことから500以上が好ましく、5000以下であると硬化物の表面硬度が高くなる傾向になるため好ましい。
ポリエーテルポリオールの具体例としては、前記グリコールの多量体の他に、テトラヒドロフラン等の環状エーテルの開環重合体としてのポリテトラメチレングリコール、及び、前記グリコールと、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、1,2−ブチレンオキサイド、1,3−ブチレンオキサイド、2,3−ブチレンオキサイド、テトラヒドロフラン、エピクロルヒドリン等のアルキレンオキサイドとの付加物等が挙げられる。
【0047】
又、ポリエステルポリオールの具体的としては、前記グリコールと、マレイン酸、フマール酸、アジピン酸、セバシン酸、フタル酸等の多塩基酸との反応物、及び、カプロラクトン等の環状エステルの開環重合体としてのポリカプロラクトン等が挙げられる。
又、ポリカーボネートポリオールの具体例としては、前記グリコールと、エチレンカーボネート、1,2−プロピレンカーボネート、1,2−ブチレンカーボネート等のアルキレンカーボネート;又はジフェニルカーボネート、4−メチルジフェニルカーボネート、4−エチルジフェニルカーボネート、4−プロピルジフェニルカーボネート、4,4’−ジメチルジフェニルカーボネート、2−トリル−4−トリルカーボネート、4,4’−ジエチルジフェニルカーボネート、4,4’−ジプロピルジフェニルカーボネート、フェニルトルイルカーボネート、ビスクロロフェニルカーボネート、フェニルクロロフェニルカーボネート、フェニルナフチルカーボネート、ジナフチルカーボネート等のジアリールカーボネート;又はジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジ−n−プロピルカーボネート、ジイソプロピルカーボネート、ジ−n−ブチルカーボネート、ジイソブチルカーボネート、ジ−t−ブチルカーボネート、ジ−n−アミルカーボネート、ジイソアミルカーボネート等のジアルキルカーボネート等との反応物等が挙げられる。
【0048】
(3)1個以上のヒドロキシル基を含有する(メタ)アクリレート
1個以上のヒドロキシル基を含有する(メタ)アクリレートは、1分子中に1個以上のヒドロキシル基及び1個以上の(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリレートであればよく、組成物の硬化性の点から、好ましくは下記一般式(1)で表される化合物であり、好ましくは一般式(1)におけるnが1〜30の整数である化合物、さらに好ましくはヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートである。一般式(1)におけるnが小さいと、硬化物の表面硬度が高くなる傾向があり好ましい。
【0049】
【化1】

【0050】
(Rは水素原子又はメチル基、Rは炭素数2〜6で表されるアルキレン基、nは1〜50の整数を表す。)
また、これ以外にもグリシジルエーテルと(メタ)アクリル酸との付加反応物、ポリオールのモノ(メタ)アクリレート体等を用いることができる。
1個以上のヒドロキシル基を含有する(メタ)アクリレートとしては、これらの1種を単独で用いてもよく、又、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
1個以上のヒドロキシル基を含有する(メタ)アクリレートの分子量は、40以上、更には80以上であるのが好ましく、又、800以下、更には400以下であるのが好ましい。
【0051】
(4)ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーの特性
ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーとしては、透明性の高いものであるのが好ましく、例えば、芳香環を有していない化合物であるのが好ましい。ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーが芳香環を有する場合、放射線硬化性組成物及びその硬化物は、得られるものが着色物であったり、最初は着色していなくても保存中に着色したり着色が強まること(いわゆる黄変)がある。
【0052】
これは芳香環を形成する二重結合部分が、放射線によってその構造を不可逆的に変化させることが原因であると考えられており、このため、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーは、芳香環を有しない構造を持つことで、色相の悪化がなく、かつ光線透過性も低下することなく、光記録媒体等の無色透明が要求される用途への応用に特に適する利点がある。
【0053】
芳香環を有しないウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーは、芳香環を有しないポリイソシアネートと、芳香環を有しない2個以上のヒドロキシル基を含有する化合物と、芳香環を有しない1個以上のヒドロキシル基を含有する(メタ)アクリレートとを原料として選択することにより製造できる。
芳香環を有しないポリイソシアネートの具体例としては、ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、シクロヘキサンジイソシアネート、ビス(イソシアナトシクロヘキシル)メタン、イソホロンジイソシアネート等の脂環式ジイソシアネートが挙げられ、又、芳香環を有しない2個以上のヒドロキシル基を含有する化合物の具体例としては、アルキレンポリオール、及び、アルキレンポリエステル、アルキレンカーボネートの各ポリオール等が挙げられ、又、芳香環を有しない1個以上のヒドロキシル基を含有する(メタ)アクリレートの具体例としては、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート等が挙げられる。尚、これらの1種を単独で用いてもよく、又、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0054】
ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーの分子量は、組成物の粘度と硬化物の機械特性とのバランスの面から、1000以上であるのが好ましく、又、4000以下、更には2000以下であるのが好ましい。
また、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーの重量平均分子量は、組成物の粘度と硬化物の機械特性とのバランスの面から、1400以上、更には1500以上であるのが好ましく、又、10000以下、更には4000以下であるのが好ましい。
【0055】
2−2.特に好ましいウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーの組み合わせ
以下、本発明において、特に好ましいウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーの組み合わせについて詳述する。本発明の放射線硬化性組成物においては、以下に記載する化合物(A)及び化合物(B)を、(A)/(B)=2.0〜7.0(重量比)の割合で含むことが好ましい。更には、以下に記載する化合物(C)を含むことが好ましい。
このようなウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーの組み合わせを含む放射線硬化性組成物を用いることで、低いE‘(80)を維持しつつ、高いE’(37)、E‘(60)、及び低いE’(45)を両立する硬化物を実現する放射線硬化性組成物を得やすくなる。
【0056】
2−2−1.化合物(A)
本発明における化合物(A)は、下記一般式(2)で表されるウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーである。本発明の組成物が化合物(A)を含むことにより、硬化物の表面硬度が高くなり、且つ放射線の照射量が低くても十分に硬化可能であり、硬化性に優れるため好ましい。
【0057】
【化2】

【0058】
(Rは水素原子またはメチル基、Rは炭素数が2〜6のアルキレン基、Rは脂環式構造を含んでいてもよい炭素数1〜20のアルキレン基、置換基を有していても良い炭素数1〜15のシクロアルキレン基、Rは脂環式構造を含んでいてもよい炭素数2〜20のアルキレン基、アルケニレン基、置換基を有していても良い炭素数2〜20のシクロアルキレン基を表し、nは1〜50の整数を表す。)
化合物(A)は、一般式(2)で表されるものであれば特に限定されないが、通常、前記ジイソシアネート、前記グリコール、及び前記一般式(1)で表される化合物の反応物であることが好ましい。
【0059】
一般式(2)におけるRは、水素原子又はメチル基であり、本発明の組成物の硬化性に優れることから水素原子であることが好ましい。
一般式(2)におけるRは、炭素数2〜6のアルキレン基であり、好ましくは炭素数2〜4のアルキレン基である。
一般式(2)におけるRは、通常、ジイソシアネートに由来する連結基で、脂環式構造を含んでいてもよい炭素数1〜20のアルキレン基、又は置換基を有していても良い炭素数1〜15のシクロアルキレン基である。前記アルキレン基は分岐構造をとっていても良い。ここで、Rがシクロアルキレン基の場合とは、イソシアネート基由来の窒素原子が脂環式構造に直接結合しており、間にアルキレン基を含まない構造を言う。
【0060】
好ましくはシクロヘキサンジイソシアネート等に由来する置換基を有していても良い炭素数6〜15のシクロアルキレン基、又はビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、ビス(イソシアナトシクロヘキシル)メタン、イソホロンジイソシアネート等に由来する脂環式構造を含んでいてもよい炭素数6〜20のアルキレン基であり、特に好ましくは、シクロヘキサンジイソシアネート、ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、ビス(イソシアナトシクロヘキシル)メタン、又はイソホロンジイソシアネートに由来する連結基である。
【0061】
一般式(2)におけるRは、通常、グリコールに由来する連結基で、脂環式構造を含んでいてもよい炭素数2〜20のアルキレン基、アルケニレン基、置換基を有していても良い炭素数2〜20のシクロアルキレン基である。前記アルキレン基及びアルケニレン基は分岐構造をとっていても良い。
組成物の硬化性が良好であり、得られる硬化物の表面硬度が高いことから、好ましくは炭素数3〜9のアルキレン基であり、具体的には、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、2−メチル−1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2,3,5−トリメチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2−エチル−1,6−ヘキサンジオール、2,2,4−トリメチル−1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール等に由来する連結基であるアルキレン基及び分岐構造をもつアルキレン基であることがより好ましい。
一般式(2)におけるnは1〜50の整数であり、硬化物の表面硬度が良好なことから好ましくは1〜30である。
【0062】
2−2−2.化合物(B)
本発明における化合物(B)は、下記一般式(3)で表されるウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーである。
【0063】
【化3】

【0064】
(Rは水素原子またはメチル基、Rは炭素数が2〜6のアルキレン基、Rは脂環式構造を含んでいてもよい炭素数1〜20のアルキレン基、置換基を有していても良い炭素数1〜15のシクロアルキレン基を表し、nは1〜50の整数を表す。)
化合物(B)は、一般式(3)で表されるものであれば特に限定されないが、通常、前記ジイソシアネート、及び前記一般式(1)で表される化合物の反応物であることが好ましい。
一般式(3)における、R、R、R、及びnは、一般式(2)における構造と同様である。
【0065】
2−2−3.化合物(C)
本発明における化合物(C)は、上記化合物(A)、(B)以外のウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーであれば特に限定されず、例えば上述のポリイソシアネート、2個以上のヒドロキシル基を含有する化合物、及び1個以上のヒドロキシル基を含有する(メタ)アクリレートの反応物のうち化合物(A)、(B)以外のウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーが挙げられる。具体的には、前記ジイソシアネート、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール等の前記ポリオール、及び前記一般式(1)で表される化合物の反応物;前記ジイソシアネート、前記グリコール、及び前記一般式(1)で表される化合物の反応物等であって、下記一般式(4)で表されるウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーなどが挙げられる。
【0066】
【化4】

【0067】
(Rは水素原子またはメチル基、Rは炭素数が2〜6のアルキレン基、Rは脂環式構造を含んでいてもよい炭素数1〜20のアルキレン基、置換基を有していても良い炭素数1〜15のシクロアルキレン基、Rは脂環式構造を含んでいてもよい炭素数2〜20のアルキレン基、アルケニレン基、置換基を有していても良い炭素数2〜20のシクロアルキレン基を表し、nは1〜50の整数、mは2以上の整数を表す。)
一般式(4)における、R、R、R、R及びnは、一般式(2)における構造と同様である。
【0068】
本発明の放射線硬化性組成物は、化合物(A)及び(B)を(A)/(B)=2.0〜7.0(重量比)の割合で含むことが好ましい。2.0以下になると反りが大きくなる傾向になり、7.0以上になると硬度が低下するため好ましくない。硬化物の表面硬度が高く、組成物の粘度を低くするためは、2.8以上であって、5.0以下であることが好ましい。
【0069】
なお、化合物(A)及び(B)の含有量は、組成物の分子量分布を測定することで測定可能である。分子量分布はサイズ排除クロマトグラフィー、特にゲルパーミエーションクロマトグラフィー(以下、GPCと略記することがある)で測定する。夫々の含有量は、分子量分布測定結果から、化合物(A)又は(B)の分子量に相当するピークのピーク面積比を算出して得られる。例えば、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーを製造する際の原料の分子量から、得られる化合物(A)及び(B)の分子量を算出し、これに相当するピークを特定する。
【0070】
また、本発明の放射線硬化性組成物が化合物(C)を含む場合は、化合物(A)、(B)及び(C)の総和としてウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーを組成物全体の20重量%以上含むことが好ましく、より好ましくは30重量%以上、更に好ましくは40重量%以上であって、全体の90重量%以下とすることが好ましく、より好ましくは80重量%以下、更に好ましくは70重量%以下である。下限値以上であると硬化物の表面硬度と積層体の反り抑制が両立しやすい傾向となり、上限値以下であると、組成物の粘度が平滑に塗布するのに適した粘度になりやすいため好ましい。
【0071】
また、化合物(A)、(B)及び(C)からなるウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー混合物の数平均分子量は、組成物の粘度と硬化物の機械特性とのバランスの面から、700以上、更には800以上であるのが好ましく、又、4000以下、更には2000以下であるのが好ましい。また、重量平均分子量は、組成物の粘度と硬化物の機械特性とのバランスの面から、1400以上、更には1500以上であるのが好ましく、又、10000以下、更には4000以下であるのが好ましい。
【0072】
2−2−4.ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーの製造方法
本発明に用いられるウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーの製造方法は、特に限定されないが、例えば、前記ポリイソシアネートと、前記2個以上のヒドロキシル基を含有する化合物と、前記1個以上のヒドロキシル基を含有する(メタ)アクリレートとを付加反応させることにより、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーを製造することができる。具体的には、ポリイソシアネート、又はポリジイソシアネートと2個以上のヒドロキシル基を含有する化合物を付加反応させて得られる分子内に2個以上のイソシアネート基を有する化合物1分子と、1個以上のヒドロキシル基を含有する(メタ)アクリレート2分子とを付加反応させることにより、両末端に(メタ)アクリロイル基を有する、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーを製造することができる。
【0073】
このときの付加反応触媒としては、例えば、ジブチルスズラウレート、ジブチルスズジオクトエート、ジオクチルスズジラウレート、及び、ジオクチルスズジオクトエート等が好ましく、これらの1種を単独で用いてもよく、又、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
この付加反応は、特に限定されず、通常は公知の何れの方法でも行うことができる。例えば、ポリイソシアネートと、2個以上のヒロドキシル基を含有する化合物、1個のヒドロキシル基を含有する(メタ)アクリレート及び付加反応触媒との混合物とを、通常40℃以上、好ましくは50℃以上、又、通常90℃以下、好ましくは75℃以下の条件下で混合する。その際の混合の方法としては、ポリイソシアネートと、2個以上のヒロドキシル基を含有する化合物、1個のヒドロキシル基を含有する(メタ)アクリレート及び付加反応触媒を一括で混合して反応させてもよいし、まず、ポリイソシアネート及び2個以上のヒロドキシル基を含有する化合物を付加反応させて、次いで1個以上のヒドロキシル基を含有する(メタ)アクリレートと付加反応触媒との混合物を滴下して2段階で付加反応を行なうこともできる。化合物(B)の含有量を少なくし、化合物(A)及び(B)の比((A)/(B))を所望の範囲に調整するためには、2段階での付加反応を行う方が好ましい。
【0074】
ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーを製造する際には、特に溶媒を用いる必要は無いが、酢酸エチル、酢酸ブチル、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、トルエン、キシレンなどの有機溶媒を用いてもよい。
なお、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーを製造する時に、本発明の効果を損なわない限り、ポリイソシアネート、1個以上のヒドロキシル基を含有する化合物、及び1個以上のヒドロキシル基を含有する(メタ)アクリレートの他に、その他の成分を含有させてもよい。
【0075】
2個以上のヒドロキシル基を有する化合物として、2種以上の化合物、例えばグリコールとポリオールを用いて2種以上のウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーを得て、その混合物を使用する場合には、グリコールとポリオールとを一括混合してポリイソシアネートと反応させて一度に混合物を得てもよいし、グリコールとポリオールとを別々にポリイソシアネートと反応後、得られたウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーを混合して混合物としても構わない。
【0076】
中でも、化合物(A)及び(B)は、脂環式構造を含んでいてもよい炭素数1〜20のアルキレン基、置換基を有していても良い炭素数1〜15のシクロアルキレン基を有するジイソシアネート(以下、ジイソシアネート(I)と称することがある)、脂環式構造を含んでいてもよい炭素数2〜20のアルキレン基、アルケニレン基、置換基を有していても良い炭素数2〜20のシクロアルキレン基を有するグリコール(以下、グリコール(II)と称することがある)、及び前記一般式(1)で表される化合物(以下、化合物(III)と称することがある)を反応させて製造することができる。具体的には、例えば、ジイソシアネート(I)とグリコール(II)を反応させた後、化合物(III)を加えて付加反応を行なうことによって、化合物(A)、化合物(B)、及び前記一般式(4)で代表される化合物(C)に相当するウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーなどの種々のウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーが得られる。
【0077】
ここで、ポリイソシアネート、2個以上のヒドロキシル基を有する化合物及び1個以上のヒドロキシル基を有する(メタ)アクリレートを反応させて得られる種々のウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー中の化合物(A)及び化合物(B)の割合は、原料として用いるポリイソシアネートのイソシアネート基の数と2個以上のヒドロキシル基を有する化合物のヒドロキシル基の数の比率(以下、NCO/OH比と称することがある)と、2個以上のヒドロキシル基を有する化合物中のグリコールの比率により制御することが可能である。
【0078】
一般的に、2個以上のヒドロキシル基を有する化合物中のグリコールの比率が高い場合、NCO/OH比が大きいと化合物(A)の含有量が増加し、NCO/OH比が1に近づくに従い化合物(A)の含有量は0%に近くなる。一方、2個以上のヒドロキシル基を有する化合物のグリコールの含有量を低くすると化合物(A)の含有量は低下する。
また、化合物(B)も化合物(A)と同様に、2個以上のヒドロキシル基を有する化合物のグリコールの比率が高い場合、NCO/OH比が大きいと化合物(B)の含有量は増加し、NCO/OH比が1に近づくに従い化合物(B)の含有量は0%に近くなる。
【0079】
さらに、2個以上のヒドロキシル基を有する化合物のグリコールの比率が高い場合、NCO/OH比が大きいと化合物(A)と化合物(B)の比率である(A)/(B)(重量比)の値は小さくなる傾向にあり、NCO/OH比が1に近づくに従い(A)/(B)(重量比)の値は大きくなる傾向にある。また、2個以上のヒドロキシル基を有する化合物のグリコールの含有量を低くすると(A)/(B)(重量比)の値は大きくなる傾向にある。
【0080】
そのため、NCO/OH比を1.2〜1.8の範囲にすることが好ましい。NCO/OH比が1.2より大きい場合、得られるオリゴマー化合物の分子量が大きくなりすぎず、組成物の粘度を適度な範囲に調製しやすく、また、化合物(A)、(B)以外の多数のウレタン結合を含む化合物の割合が少なくなるので剛直性が適度であって積層体の反りが小さくなるため好ましい。NCO/OHが1.8よりも小さいと、化合物(B)の割合が多くなりすぎず、積層体としたときの反り、及び温度、湿度変化時の反りが小さくなり好ましい。
【0081】
2−3.分子量300以下の(メタ)アクリレートモノマー
本発明の放射線硬化性組成物は、粘度を低下させ、適度な塗布性を得るために、分子量300以下の化合物(以下、化合物(D)と記載)を適宜含有するのが好ましい。
化合物(D)は、放射線によって重合しうるビニル基、(メタ)アクリロイル基等の放射線硬化性基を有する化合物、とりわけ(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリレートが好ましい。更にその中でも好ましくは1分子中に1個以上の(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリレート(以下、単官能(メタ)アクリレートと記載することがある)、1分子中に2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリレート(以下、多官能(メタ)アクリレートと記載することがある)である。
【0082】
単官能(メタ)アクリレートとしては、具体的には、例えば、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド;ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート;(メタ)アクリロイルモルフォリン、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、トリシクロデカン骨格を有する(メタ)アクリレート等の脂環式(メタ)アクリレート;フェノキシエチル(メタ)アクリレート等の芳香族系(メタ)アクリレート等が挙げられ、これらの中では、粘度が低く、硬化収縮が小さい点で脂環式(メタ)アクリレートと芳香族系(メタ)アクリレートが好ましく、中でも、硬化性が良好なことから、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、トリシクロデカン骨格を有する(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレートが特に好ましい。
【0083】
多官能(メタ)アクリレートとしては、脂肪族ポリ(メタ)アクリレート、脂環式ポリ(メタ)アクリレート、芳香族ポリ(メタ)アクリレート等が挙げられ、具体例としては、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,2−ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリテトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,2−ポリブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリイソブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールA、ビスフェノールF、或いはビスフェノールS等のビスフェノールのエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、或いはブチレンオキサイド等のアルキレンオキサイド付加物のジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールA、ビスフェノールF、若しくはビスフェノールS等のビスフェノールの水添誘導体のジ(メタ)アクリレート、各種ポリエーテルポリオール化合物と他の化合物とのブロック、或いはランダム共重合体のジ(メタ)アクリレート等のポリエーテル骨格を有するジ(メタ)アクリレート、及び、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、オクタンジオールジ(メタ)アクリレート、ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、デカンジオールジ(メタ)アクリレート、2,2−ビス[4−(メタ)アクリロイルオキシフェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(2−(メタ)アクリロイルオキシエトキシ)フェニル]プロパン、ビス(ヒドロキシメチル)トリシクロ[5.2.1.02,6 ]デカン=ジ(メタ)アクリレート、p−ビス[β−(メタ)アクリロイルオキシエチルチオ]キシリレン、4,4′−ビス[β−(メタ)アクリロイルオキシエチルチオ]ジフェニルスルホン等の2官能の(メタ)アクリレート;トリメチロールプロパントリス(メタ)アクリレート、グリセリントリス(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリス(メタ)アクリレート等の3官能の(メタ)アクリレート;ペンタエリスリトールテトラキス(メタ)アクリレート等の4官能の(メタ)アクリレート;ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等の5官能以上の(メタ)等が挙げられる。
【0084】
これらのうち、放射線を照射した際の架橋生成反応の制御性から、2官能の(メタ)アクリレートが好ましい。中でも、2官能の(メタ)アクリレートとして、脂肪族ジ(メタ)アクリレート、脂環式ジ(メタ)アクリレートが好ましく、更には、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ビス(ヒドロキシメチル)トリシクロ[5.2.1.02,6 ]デカン=ジ(メタ)アクリレートが好ましい。又、硬化物のE’(37)およびE’(60)が大きくなることによりFが小さくなる傾向がある点で、炭素数6〜20、更には炭素数8〜12のジオールのジ(メタ)アクリレート、具体的には、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、オクタンジオールジ(メタ)アクリレート、ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ビス(ヒドロキシメチル)トリシクロ[5.2.1.02,6 ]デカン=ジ(メタ)アクリレート等が特に好ましい。
これらの化合物は、以上の1種を単独で用いてもよく、又、2種以上を組み合わせて用いてもよい。但し、硬化物の硬度の点から、少なくとも1種以上の多官能(メタ)アクリレートを含有することが好ましい。
【0085】
一方、単官能(メタ)アクリレートを含有する場合の単官能(メタ)アクリレートの含有量は、本発明の放射線硬化性組成物中の40重量%以下であることが好ましく、より好ましくは20重量%以下である。単官能(メタ)アクリレートの含有量が40重量%以下であると、硬化物のE’(37)およびE’(60)が大きくなることによりFが小さくなるため好ましい。一方で、単官能(メタ)アクリレートの含有量を低減させるためには、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーとして低粘度のものを用いたり、比較的粘度の低い多官能(メタ)アクリレートを用いたりして、放射線硬化性組成物としての粘度と硬化物としての諸物性のバランスをとることが好ましい。
【0086】
多官能(メタ)アクリレートを含有する場合の多官能(メタ)アクリレートの含有量は、本発明組成物化合物中の40重量%以下であることが好ましく、より好ましくは20重量%以下である。単官能(メタ)アクリレートの含有量が多すぎると、E’(80)が増大する傾向にあり、かつ硬化時の残留応力が増大し、環境温度変化に由来する積層体の変形が大きくなる傾向があるため好ましくない。逆に含有量が小さすぎると、硬化物のE’(37)およびE’(60)が小さくなることによりFが大きくなる傾向があるため好ましくない。
以上のことから、粘度を低く保ちつつ高い諸物性を実現するためには、主成分であるオリゴマーとして低粘度の化合物を選択し、その上で単官能(メタ)アクリレートと多官能(メタ)アクリレートの含有量を注意深く調整する必要がある。
【0087】
2−4.放射線硬化性化合物の好ましい含有割合
本発明の放射線硬化性組成物において、化合物(A)、(B)、(C)及び(D)(以下、これらをまとめて放射線硬化性化合物と称することがある)の合計含有量を100重量部とした場合、化合物(A)、(B)及び(C)の合計(ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー)の含有量は、好ましくは30重量部以上、より好ましくは40重量部以上であって、好ましくは70重量部以下、より好ましくは60重量部以下である。30重量部以上であると硬化物の強度が高くなり、70重量部以下であると組成物の粘度が高くなりすぎず適当な範囲に調整しやすいため好ましい。
【0088】
本発明の放射線硬化性組成物における化合物(D)の含有量は、放射線硬化性化合物100重量部に対して好ましくは30重量部以上、より好ましくは40量部以上であって、好ましくは70重量部以下、より好ましくは60重量部以下である。
また、化合物(A)の含有量は、放射線硬化性化合物100重量部に対して好ましくは5重量部以上、より好ましくは10重量部以上であって、好ましくは30重量部以下、より好ましくは20重量部以下である。5重量部以上であると、硬化物の表面硬度や、E’(37)およびE’(60)が大きくFが小さくなる傾向があり、また硬化性に優れるため好ましい。ただし30重量部以上になると、高いE’(37)、高いE’(60)と、低いE’(80)を同時に満たすことが難しくなる傾向があるため好ましくない。これは化合物(A)がやや剛直すぎる構造であること等の理由により、得られる硬化物の架橋網目が緻密すぎてしまうため、貯蔵弾性率のバランスが実現し難くなっているためと推定される。
化合物(B)の含有量は、放射線硬化性化合物100重量部に対して、0.1重量部以上、10重量部以下とすることが好ましく、5重量部以下とすることがより好ましい。10重量部以下であると、積層体の常温での使用を想定した場合(25℃、50%RH)での反りが小さく、E’(80)が小さくなる傾向があるため好ましい。
【0089】
2−5.光重合開始剤
本発明の放射線硬化性組成物は、更に、放射線(例えば紫外線、電子線等)によって進行する重合反応を開始するための光重合開始剤を含有する。 光重合開始剤としては、光によりラジカルを発生する性質を有する化合物であるラジカル発生剤が一般的であり、本発明の効果を著しく損なわない限り、何れのラジカル発生剤でも使用可能であり、通常は公知のラジカル発生剤を使用することができる。
【0090】
このようなラジカル発生剤の具体例としては、ベンゾフェノン、2,4,6−トリメチルベンゾフェノン、4,4−ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、4−フェニルベンゾフェノン、メチルオルトベンゾイルベンゾエート、チオキサントン、ジエチルチオキサントン、イソプロピルチオキサントン、クロロチオキサントン、2−エチルアントラキノン、t−ブチルアントラキノン、ジエトキシアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、ベンジルジメチルケタール、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、メチルベンゾイルホルメート、2−メチル−1−〔4−(メチルチオ)フェニル〕−2−モルホリノプロパン−1−オン、2,6−ジメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルホスフィンオキシド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド、2−ヒドロキシ−1−[4−{4−(2−ヒドロキシ−2−メチル−プロピオニル)ベンジル}フェニル]−2−メチル−プロパン−1−オン等が挙げられる。中でも、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、及び、2−ヒドロキシ−1−[4−{4−(2−ヒドロキシ−2−メチル−プロピオニル)ベンジル}フェニル]−2−メチル−プロパン−1−オンが挙げられる。
【0091】
又、硬化速度が速く架橋密度を十分に上昇させることができる点では、前記のラジカル発生剤のうち、ベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシ−1−[4−{4−(2−ヒドロキシ−2−メチル−プロピオニル)ベンジル}フェニル]−2−メチル−プロパン−1−オン、及び、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシドが好ましい。
【0092】
又、本発明の放射線硬化性組成物の硬化物を、レーザーを光源とする光記録媒体等に用いる場合には、読み取りに必要なレーザー光が十分に該硬化物層を通過するように、ラジカル発生剤の種類及び使用量を選択して用いることが好ましい。特に波長が380〜800nmのレーザー光を光源として用いる場合、得られる硬化物層がレーザー光を吸収し難い短波長感光型のラジカル発生剤を使用するのが特に好ましい。
【0093】
前記のラジカル発生剤のうち、このような短波長感光型のラジカル発生剤としては、ベンゾフェノン、2,4,6−トリメチルベンゾフェノン、4−フェニルベンゾフェノン、メチルオルトベンゾイルベンゾエート、ジエトキシアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、ベンジルジメチルケタール、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、メチルベンゾイルホルメート等が挙げられ、中でも、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン等の水酸基を有するものが特に好ましい。
【0094】
尚、これらのラジカル発生剤は、1種を単独で用いてもよく、又、2種以上を組み合わせて用いてもよい。又、ラジカル発生剤の量は、放射線硬化性化合物100重量部に対し、好ましくは0.1重量部以上、より好ましくは1重量部以上、更に好ましくは2重量部以上であって、好ましくは10重量部以下、より好ましくは9重量部以下、これより好ましくは7重量部以下、更に好ましくは5重量部以下、特に好ましくは4重量部以下である。0.1重量部以上であると放射線硬化性組成物を十分に硬化させること可能となり、一方、10重量部以下であると、重合反応が適当な速度で進行し、光学歪みを生じず、色相も良好となり好ましい。
【0095】
又、ベンゾフェノン系光重合開始剤を用いる場合は、その使用量は好ましくは0.5重量部以上であって、好ましくは2重量部以下、更に好ましくは1重量部以下である。ベンゾフェノン系光重合開始剤の量が多いと、放射線硬化性組成物の硬化物中の揮発成分が多くなり、高温、高湿環境下で膜厚が減少する場合がある。
又、これらのラジカル発生剤と共に、例えば、4−ジメチルアミノ安息香酸メチル、4−ジメチルアミノ安息香酸エチル、4−ジメチルアミノ安息香酸アミル、4−ジメチルアミノアセトフェノン等の公知の増感剤に代表される増感剤を併用してもよい。増感剤は1種を単独で用いてもよく、又、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0096】
尚、ラジカル発生剤以外の光重合開始剤としては、酸化剤等が挙げられ、これらの光重合開始剤は、1種を単独で用いてもよく、又、2種以上を組み合わせて用いてもよい。尚、光重合開始剤は、塩素原子、硫黄原子、燐原子、ナトリウム原子等の不純物を含有していることがあるが、それらの不純物の含有量は少ないことが好ましく、それぞれの含有量は好ましくは重合開始剤に対して100ppm以下、より好ましくは50ppm以下、更に好ましくは30ppm以下、特に好ましくは10ppm以下である。
尚、放射線として電子線によって光重合反応を開始させる場合には、上記の光重合開始剤を用いることもできるが、光重合開始剤を用いなくても十分硬化するため、ラジカル発生剤やその他の光重合開始剤を用いない方が好ましい。
【0097】
2−6.補助成分
本発明の放射線硬化性組成物には、本発明の効果を著しく損なわない限りにおいて、必要に応じて添加剤等の補助成分が含有されていてもよい。その補助成分の具体例としては、酸化防止剤、熱安定剤、或いは光吸収剤等の安定剤類;ガラス繊維、ガラスビーズ、シリカ、アルミナ、酸化亜鉛、酸化チタン、マイカ、タルク、カオリン、金属繊維、金属粉等のフィラー類;炭素繊維、カーボンブラック、黒鉛、カーボンナノチューブ、C60等のフラーレン類等の炭素材料類(フィラー類、炭素材料類を総称して無機成分と称する場合がある);帯電防止剤、可塑剤、離型剤、消泡剤、レベリング剤、沈降防止剤、界面活性剤、チクソトロピー付与剤、エポキシ基含有化合物等の改質剤類;顔料、染料、色相調整剤等の着色剤類;上述の化合物(A)〜(D)以外のモノマー又は/及びそのオリゴマー、または無機成分の合成に必要な硬化剤、触媒、硬化促進剤類等が挙げられる。これらの補助成分は、1種を単独で用いてもよく、又、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これら補助成分の含有量は、放射線硬化性組成物の通常20重量%以下、好ましくは10重量%以下、更に好ましくは5重量%以下である。
【0098】
これらの中で、本発明の放射硬化性組成物において使用が可能な、フィラー類としてのシリカについて詳述する。ここでいうシリカとは、珪素酸化物一般を指し、珪素と酸素の比率や、結晶であるかアモルファスであるかは問わない。該シリカ粒子の例としては、工業的に生産されている、溶媒中に分散されている状態のシリカ粒子、又は粉体のシリカ粒子;アルコキシシラン等の原料から誘導、合成されたシリカ粒子等を挙げることができる。中でも、本発明の放射線硬化性組成物に用いる場合、混合や分散のしやすさから、溶媒中に分散されている状態のシリカ粒子、又は、アルコキシシラン等の原料から誘導、合成されたシリカ粒子が好ましい。
【0099】
シリカ粒子の粒径は任意であるが、TEM(透過型電子顕微鏡)等を用いた形態観察によって測定される数平均粒径として、好ましくは0.5nm以上、更に好ましくは1nm以上であり、又、好ましくは50nm以下、より好ましくは40nm以下、更に好ましくは30nm以下、特に好ましくは15nm以下、最も好ましくは12nm以下である。シリカ粒子としては超微粒子であることが好ましいが、小さすぎると、超微粒子の凝集性が極端に増大して、硬化物の透明性や機械的強度が極端に低下する傾向がある。
【0100】
2−7.放射線硬化性組成物の製造方法
本発明の放射線硬化性組成物は、例えば化合物(A)、(B)及び化合物(C)等のウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー、化合物(D)、光重合開始剤、若しくは前記補助成分等を、放射線を遮断した状態で、攪拌し均一に混合することにより調製される。その際の各化合物の添加順序としては、特に限定されるものではないが、低粘度の液体成分に高粘度の液体成分及び/又は固体成分を加え攪拌するのが好ましく、又、光重合開始剤は最後に加えるのが好ましい。
又、その際の攪拌条件は、特に限定されるものではなく、攪拌温度としては、通常、常温とし、加熱する場合は、通常90℃以下、好ましくは70℃以下の温度に加熱してもよい。
【0101】
3.積層体
本発明の積層体とは、基材上に本発明の硬化物からなる硬化膜を積層してなる積層体である。
通常、異なる素材からなる複数の層を有する積層体では、各層の間でひずみが起こり積層体自体に反りが生じる。本発明の積層体では、硬化膜を形成した場合の積層体の変形を抑制し、硬化物表面の耐クリープ性を高めることができる。
本発明の積層体の基材としては、本発明の効果を損なわない限り特に限定されないが、プラスチック基材、または透明基材が挙げられる。
【0102】
プラスチック基材としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、またはメタクリル酸メチル(MMA)共重合体(例えばメタクリル酸メチル−スチレン共重合樹脂(MS樹脂))、ポリカーボネート、特殊ポリカーボネート(例えば、帝人製のピュアエース)、トリアセチルセルロース、アクリロニトリルブタジエンスチレン共重合樹脂(ABS樹脂)、変性ポリオレフィン樹脂、水素化ポリスチレン樹脂、シクロオレフィン系透明樹脂(例えばJSR製のア−トン、日本ゼオン製のゼオノア、など)等が挙げられる。あるいは、その他の透明基材の例として、熱硬化性や光硬化性の透明樹脂(例えば、透明エポキシ樹脂、透明ウレタン樹脂、熱硬化性のアクリル系樹脂、光硬化性のアクリル系樹脂、熱硬化性の各種有機無機ハイブリッド樹脂、光硬化性の各種有機無機ハイブリッド樹脂などの硬化物)も挙げることができる。
【0103】
また、これらの基材は、成形品(物品)の形のものであってもよいし、積層体とした後に所望の物品の形にしてもよい。また、基材と塗布面との間に他の層を介していてもよい。
本発明の硬化物からなる硬化膜を形成する方法は特に限定されず、本発明の組成物からなる硬化膜などを形成してから基材と張り合わせても良いし、本発明の組成物を基材に塗布して塗膜を形成し、これを硬化させて硬化膜を形成するなどの方法でも良い。
【0104】
塗布方法としては、スピンコート、デイップコート、フローコート、スプレーコート、バーコート、グラビアコート、ロールコート、ブレードコート、エアナイフコート等を好ましい例として挙げることができる。
上記基材に上記塗布方法で塗膜を形成後、加熱乾燥により揮発成分を除去した後、放射線を照射することにより、硬化膜が得られる。
放射線の種類や照射法は、前述の硬化物の製造方法の場合と同様である。このような放射線で硬化した硬化膜は生産性・物性のバランスに優れ、特に好ましい。
【0105】
4.本発明の放射線硬化性組成物及びその硬化物、積層体の用途
本発明の放射線硬化性組成物及びその硬化物、積層体は、以下に説明する光記録媒体用の材料、特に情報記録層の保護層形成用の材料として好適に利用される。
現在、一般的に用いられている光記録媒体としては、再生専用型の媒体(ROM媒体)、一度の記録のみ可能な追記型の媒体(WriteOnce媒体)、及び、記録消去を繰り返し行える書き換え可能型の媒体(Rewritable媒体)等があるが、本発明の光記録媒体用放射線硬化性組成物及びその放射線硬化物は、それらの何れにも適用することができるが、再生専用型の媒体(ROM媒体)に対して特に好ましく適用できる。
【0106】
これらの光記録媒体は、それぞれの使用目的に応じた層構成が採用されている。例えば、再生専用型の媒体においては、再生用の凹凸を形成した基板上に、通常、例えばアルミニウム、銀、金等の金属を含有する単層が形成されている。又、追記型の媒体においては、基板上に、通常、例えばアルミニウム、銀、金等の金属を含有する反射層と、有機色素を含有する記録層とがこの順に積層された記録再生機能層が形成されている。又、書き換え可能型の媒体においては、基板上に、通常、例えばアルミニウム、銀、金等の金属を含有する反射層と、誘電体層と、有機色素を含有する記録層と、誘電体層とがこの順に積層された記録再生機能層が形成されている。本発明の放射線硬化性組成物及びその硬化物は、それらの再生専用型の媒体における単層上、追記型の媒体における記録再生機能層上、及び書き換え可能型の媒体における記録再生機能層上に形成される保護層として用いるのに好適である。
【0107】
保護層が形成された面とは反対側の基板表面に、金属酸化物等からなる無機化合物層(「バックスパッタ層」とも言う)が、スパッタリング等の方法により形成されることがある。その主な目的は、基板への酸素および水蒸気透過の抑制である。本発明の組成物は、特にバックスパッタ層が形成された光記録媒体において媒体の変形を顕著に小さくできる特徴がある。再生専用型の媒体(ROM媒体)の大半はバックスパッタ層を備えているので、本発明の組成物が特に好適に用いられる。
【0108】
又、一方、光記録媒体の記録再生のための記録再生光としてのレーザー光の波長は、CD、DVD、ブルーレイディスク、HDDVD等、その規格によって、最適な波長の光が用いられている。また、近年のリッチコンテンツの普及に伴い、光記録媒体の高密度化、高容量化の要請が高まる中で、より波長の短い青色レーザーを用いる研究も盛んになされている。この青色レーザーを用いる次世代高密度光記録媒体は、基板上に、誘電体層、記録層、反射層等からなる記録再生機能層を形成し、その上に保護層が形成されている光記録媒体であって、波長が通常350nm以上、好ましくは380nm以上、又、通常450nm以下、好ましくは430nm以下の記録再生光が用いられる。この次世代高密度光記録媒体に、本発明の放射線硬化性組成物及びその硬化物を特に好適に用いることができる。
【0109】
尚、本発明の放射線硬化性組成物及びその硬化物が用いられる積層体や光記録媒体としては、例えば、記録層と反射層とをそれぞれ2層ずつ有する2層式の層構成を採るものであってもよい。この2層式の場合、基板上に、順に1層ずつ積層したものであってもよいが、記録層と反射層とを一対積層したものを2枚貼り合わせて形成されたものであってもよい。又、3層式の層構成を採るものであってもよく、それらの貼り合わせが接着層を介してなされていてもよい。更には、必要に応じて、ハブを付け、カートリッジへ組み込まれたものであってもよい。
【0110】
保護層としての膜厚は、通常10μm以上、好ましくは20μm以上、より好ましくは30μm以上、更に好ましくは70μm以上、特に好ましくは85μm以上、又、通常300μm以下、好ましくは130μm以下、より好ましくは115μm以下である。膜厚をこのような範囲とすれば、保護層表面に付着したゴミや傷の影響を低減することができ、又、記録再生機能層を外気の水分等から保護するのに十分な厚さとすることができる。又、スピンコート等で用いられる一般的な塗布方法で均一な膜厚を容易に形成することができる。
【実施例】
【0111】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明の具体的態様を更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、これらの実施例によって限定されるものではない。
<製造例1> ウレタンアクリレートオリゴマー組成物(a)の合成
4つ口フラスコにヘキサメチレンジイソシアネート3量体(ローディア社製「トロネートHDT」)20.4gとジブチルスズラウレート10mgとを入れ、オイルバスにて70〜80℃に加熱し、温度が一定になるまで静かに撹拌したのち、ポリプロピレングリコール変性ヒドロキシアクリレート(日油社製「ブレンマーAP−400」)30.1gとp−メトキシヒドロキノン10mgの混合物を滴下漏斗にて滴下し、滴下が終わったら温度を80℃に保ち、更に10時間撹拌させ、ウレタンアクリレートオリゴマー(a1)を合成した。
【0112】
別の4つ口フラスコに前記ウレタンアクリレートオリゴマー(a1)を移し取ったのち、追加してウレア法によって製造されたイソホロンジイソシアネート296gを入れ、オイルバスにて70〜80℃に加熱し、温度が一定になるまで静かに撹拌する。温度が一定になったら、1,6−ヘキサンジオール103gを滴下漏斗にて滴下し、温度を80℃に保ちながら2時間撹拌する。温度を70℃まで下げてから、ヒドロキシエチルアクリレート100gとp−メトキシヒドロキノン0.1gの混合物を滴下漏斗にて滴下し、滴下が終わったら温度を80℃に保ち、10時間撹拌させ、ウレタンアクリレートオリゴマー(a1)と混合したウレタンアクリレートオリゴマー(a2)を合成した。次いで、テトラヒドロフルフリルアクリレート(大阪有機社製「V#150」)246g、フェノキシエチルアクリレート(日立化成社製「FA−310A」)100g、ノナンジオールジアクリレート(大阪有機社製「V#260」)100g、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン30gを加えてウレタンアクリレートオリゴマー組成物(a)を調製した。
【0113】
<製造例2> ウレタンアクリレートオリゴマー組成物(b)の合成
4つ口フラスコにヘキサメチレンジイソシアネート3量体(ローディア社製「トロネートHDT」)114gとジブチルスズラウレート60mgとを入れ、オイルバスにて70〜80℃に加熱し、温度が一定になるまで静かに撹拌したのち、ヒドロキシエチルアクリレート23.4gとポリプロピレングリコール変性ヒドロキシアクリレート(日油社製「ブレンマーAP−400」)84.4gとp−メトキシヒドロキノン60mgの混合物を滴下漏斗にて滴下し、滴下が終わったら温度を80℃に保ち、更に10時間撹拌させ、ウレタンアクリレートオリゴマー(b1)を合成した。
【0114】
別の4つ口フラスコに前記ウレタンアクリレートオリゴマー(b1)を移し取ったのち、追加してウレア法によって製造されたイソホロンジイソシアネート183gを入れ、オイルバスにて70〜80℃に加熱し、温度が一定になるまで静かに撹拌する。温度が一定になったら、1,6−ヘキサンジオール28gとポリエステルポリオール(クラレ社製「P−510」)73gとポリエステルポリオール(クラレ社製「P−1010」)30gの混合物を滴下漏斗にて滴下し、温度を80℃に保ちながら2時間撹拌する。温度を70℃まで下げてから、ヒドロキシエチルアクリレート86gとp−メトキシヒドロキノン0.7gの混合物を滴下漏斗にて滴下し、滴下が終わったら温度を80℃に保ち、10時間撹拌させ、ウレタンアクリレートオリゴマー(b1)と混合したウレタンアクリレートオリゴマー(b2)を合成した。次いで、テトラヒドロフルフリルアクリレート(大阪有機社製「V#150」)120g、フェノキシエチルアクリレート(日立化成社製「FA−310A」)90g、ジシクロペンタジエニルジメタノールジアクリレート(ダイセルサイテック社製「IRR−214K」)90g、ノナンジオールジアクリレート(大阪有機社製「V#260」)70g、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン30gを加えてウレタンアクリレートオリゴマー組成物(b)を調製した。
【0115】
<製造例3> ウレタンアクリレートオリゴマー組成物(c)の合成
4つ口フラスコにウレア法によって製造されたイソホロンジイソシアネート298gを入れ、オイルバスにて70〜80℃に加熱し、温度が一定になるまで静かに撹拌する。温度が一定になったら、1,6−ヘキサンジオール57gとポリテトラメチレンエーテルグリコール(三菱化学社製「PTMG650」)125gを合わせて滴下漏斗にて滴下し、温度を80℃に保ちながら2時間撹拌する。温度を70℃まで下げてから、ヒドロキシエチルアクリレート156gとp−メトキシヒドロキノン0.1gの混合物を滴下漏斗にて滴下し、滴下が終わったら温度を80℃に保ち、10時間撹拌させ、ウレタンアクリレートオリゴマー(c)を合成した。次いで、テトラヒドロフルフリルアクリレート(大阪有機社製「V#150」)365g、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン30gを加えてウレタンアクリレートオリゴマー組成物(c)を調製した。
【0116】
<製造例4> ウレタンアクリレートオリゴマー組成物(d)の合成
4つ口フラスコにヘキサメチレンジイソシアネート3量体(ローディア社製「トロネートHDT」)272gとジブチルスズラウレート0.1gとを入れ、オイルバスにて70〜80℃に加熱し、温度が一定になるまで静かに撹拌したのち、ヒドロキシエチルアクリレート111gとp−メトキシヒドロキノン0.1gの混合物を滴下漏斗にて滴下し、滴下が終わったら温度を80℃に保ち、更に10時間撹拌させ、ウレタンアクリレートオリゴマー(d1)を合成した。
【0117】
別の4つ口フラスコに前記ウレタンアクリレートオリゴマー(d1)を移し取ったのち、追加してウレア法によって製造されたイソホロンジイソシアネート147gを入れ、オイルバスにて70〜80℃に加熱し、温度が一定になるまで静かに撹拌する。温度が一定になったら、ヘキサンジオール39gを滴下漏斗にて滴下し、温度を80℃に保ちながら2時間撹拌する。温度を70℃まで下げてから、ヒドロキシエチルアクリレート77gとp−メトキシヒドロキノン50mgの混合物を滴下漏斗にて滴下し、滴下が終わったら温度を80℃に保ち、10時間撹拌させ、ウレタンアクリレートオリゴマー(d1)と混合したウレタンアクリレートオリゴマー(d2)を合成した。次いで、テトラヒドロフルフリルアクリレート(大阪有機社製「V#150」)88g、ノナンジオールジアクリレート(大阪有機社製「V#260」)270g、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン30gを加えてウレタンアクリレートオリゴマー組成物(d)を調製した。
【0118】
(チルトの測定)
チルトの測定は、変位センサLT−9010(KEYENCE社製)を用いる。
本発明におけるチルトとは、基板上面の中央部が水平になるように固定した際、該基板上面の中心から58mmの箇所の水平面に対する傾きを角度で表現したものであり、積層体の反り度合いを反映する値である。硬化膜の形成による積層体の反り度合いは、積層体の、硬化膜形成前後のチルト値の差で表現出来る。この値が小さいほど硬化膜の形成による基材の変形が少ないと言える。
なお、積層体の硬化膜を下にしたときの、上向きの反り、即ち上から見て凹状に変形した状態をプラスとし、下向きの反り、即ち上から見て凸状に変形した状態をマイナスとした。
【0119】
(実施例1)
厚さ1.1mm、直径120mmの円形ポリカーボネート板に100nmの厚みのAg反射層をスパッタにて形成した状態でのチルトdを測定した後、その表面に、製造例1にて調製したウレタンアクリレートオリゴマー組成物(a)を塗膜の厚さが100±10μmとなるようにスピンコートにより塗布後、酸素濃度20%の条件下で、500mJ/cmの積算光量となるようにUV照射装置(JATEC社製「J−cure100」;高圧水銀ランプを内蔵)で照射して保護層を形成することにより、積層体を作成した。この積層体を2昼夜静置した後、再びチルトdを測定し、(d−d)を初期ソリ値として表2に示した。
【0120】
本発明の放射線硬化性組成物により、大容量の光記録媒体であるブルーレイディスクのカバー層を形成した場合を想定すると、ブルーレイディスクの前記初期ソリの絶対値は0.4°以下が好ましいとされている。
また、厚さ1.1mm、直径120mmの円形ポリカーボネート板に、製造例1にて調製したウレタンアクリレートオリゴマー組成物(a)を塗膜の厚さが100±10μmとなるようにスピンコートにより塗布後、酸素濃度20%の条件下で、500mJ/cmの積算光量となるようにUV照射装置(JATEC社製「J−cure100」;高圧水銀ランプを内蔵)で照射して保護層を形成した。この保護層の端部にカッターナイフで切り込みを入れ、保護層を基板から丁寧に剥離させ、剥離フィルムを得た。 同様の操作を繰り返し、剥離フィルムを合計2枚得た。
【0121】
(光線透過率)
上記で得た剥離フィルムについて、紫外・可視吸光光度計(ヒューレットパッカード社製;HP8453型)を用いて、波長400nmにおける光路長0.1mm当たりの光線透過率を測定した。
(貯蔵弾性率)
剥離フィルムから、30×4mmの短冊状のサンプルを切り出し、それについて動的粘弾性測定装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製「DMS6100」)を用いて、引っ張りモード、スパン幅20mm、周波数10Hz、昇温速度:2℃/minにて、−10〜120℃の範囲の貯蔵弾性率を測定した。得られた37℃、45℃、65℃、80℃における貯蔵弾性率をそれぞれE’(37)、E’(45)、E’(60)、E’(80)として表1に示した。
【0122】
(耐クリープ係数)
上記で得られたE’(37)、E’(45)、E’(60)、E’(80)を下記の式(I)に代入してFを求め、求めたFを耐クリープ係数として表1に示した。
【0123】
式(I) F=1/E’(37)+1/E’(60)−1/E’(45)
(耐クリープ性)
上記で作成した積層体を、保護層を上にして定盤の上に置き、保護層上にサンドプラストされた100mm角、厚み5mmのガラス板を重ね、その上に重さ640gの鋼鉄製のおもり(図3に示す)を7個積み重ねて乗せ、5分静置した後、おもりとガラス板を取り除き、直ちに、保護層表面を目視にて観察し、サンドブラストの痕がつきにくいものを耐クリープ性が高いと判定した。サンドプラスト痕が全体面積の75%以上において目視観察された場合を「×」、全体面積の75%未満において目視観察された場合を「△」、目視観察されなかった場合を「○」として評価した。結果を表2に示した。
【0124】
(実施例2)
実施例1において、ウレタンアクリレートオリゴマー組成物(a)の代わりにウレタンアクリレートオリゴマー組成物(b)を用いた以外は実施例1と同様に行った。結果を表2に示した。
(比較例1)
実施例1において、ウレタンアクリレートオリゴマー組成物(a)の代わりにウレタンアクリレートオリゴマー組成物(c)を用いた以外は実施例1と同様に行った。結果を表2に示した。
(比較例2)
実施例1において、ウレタンアクリレートオリゴマー組成物(a)の代わりにウレタンアクリレートオリゴマー組成物(d)を用いた以外は実施例1と同様に行った。結果を表2に示した。
【0125】
【表2】


表2から明らかなように、耐クリープ係数が小さい保護層が形成された積層体では、耐クリープ性が高いことが分かる。また、80℃における貯蔵弾性率が大きいと、保護層形成段階の変形である初期ソリが大きくなり、好ましくないので、80℃における貯蔵弾性率が小さい実施例1および実施例2の保護層が好ましいことが示されている。
【0126】
このような放射線硬化性組成物は、寸法安定性を要求される用途、特に光記録媒体をはじめとする光学用途に有利に利用できる。
【産業上の利用可能性】
【0127】
本発明の放射線硬化性組成物は、これを硬化させて積層体とした場合の変形が少なく、また硬化物表面の十分な耐クリープ性を有する積層体を与えることができる。特に、光記録媒体において記録膜保護性が高い保護層を得るために好適な放射線硬化性組成物である。
これにより、本発明の放射線硬化性組成物から得られる硬化物を積層してなる積層体はブルーレイディスクを始めとする光記録媒体等に有効に適用することが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(メタ)アクリレート、光重合開始剤を含有する放射線硬化性組成物であって、放射線を照射させることによって硬化させた厚み100±10μmの硬化物の、波長400nmにおける光線透過率が85%以上であり、10Hz、80℃における貯蔵弾性率E’(80)が500MPa以下、かつ10Hz、37℃における貯蔵弾性率E’(37)と45℃における貯蔵弾性率E’(45)と60℃における貯蔵弾性率E’(60)とから下記の式(I)によって導かれる値Fが0.006以下であることを特徴とする放射線硬化性組成物。
式(I) F=1/E’(37)+1/E’(60)−1/E’(45)
【請求項2】
前記放射線硬化性組成物が、ウレタン結合を有する化合物を含有することを特徴とする、請求項1に記載の放射線硬化性組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の放射線硬化性組成物に放射線を照射して得られる硬化物。
【請求項4】
基材上に、請求項3に記載の硬化物からなる硬化膜を積層してなる積層体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−222451(P2010−222451A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−70243(P2009−70243)
【出願日】平成21年3月23日(2009.3.23)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】