説明

放射線被曝による損傷の処置または防止

電離放射線被曝による損傷を処置または防止するための方法は、こうした処置を必要とする対象に、1)アミノ酸配列LKKTETを含む放射線損傷阻害ポリペプチド(チモシンβ4など)、LKKTETの保存的変異体、アクチン封鎖剤、抗炎症剤を含む化合物、2)対象における化合物の生成を刺激する薬剤、3)対象における化合物を調整する薬剤、または4)化合物のアンタゴニストを含む組成物の有効量を投与することによって、対象における放射線損傷を阻害するステップを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の背景
関連出願に対する相互参照
この出願は、2003年7月18日に提出された米国仮出願連続番号第60/488,097号の利益を主張する。
【0002】
1.発明の分野
この発明は、放射線による損傷の処置または防止の分野に関する。
【背景技術】
【0003】
2.背景技術の説明
何十年もの間、多くの種類の癌および組織異常の処置のための理学療法としてしばしば電離放射線が用いられてきた。こうした放射線の送達の制御は改善されてきたが、それは体の多くの領域において正確に制御できないことから特定の望ましくない生物的副作用が与えられ、その副作用には健康な組織の破壊、放射線火傷および疾病、ならびに組織および細胞構成の崩壊、細胞骨格組織中の構造変化およびアクチンの構造組織の崩壊などのその他の類似の損傷、ならびに血液、血管、微小血管系、放射線治療に従属的な健康な組織および器官に対するさまざまな変性的、免疫学的およびその他の傷害が含まれる。特に、放射線処置を受ける癌患者およびその他の患者における治療の効力は現在、周囲の健康な組織に対する顕著な損傷によって制限されており、その損傷には炎症反応の増加、ならびに炎症性サイトカイン、ケモカイン、エイコサノイドおよび患者における電離放射線の有効用量を制限するような代謝産物を含む有害な中間生成物の放出が含まれる。
【0004】
日光、ガンマ線、X線、核装置、核設備、核兵器、「汚い」爆弾、高電圧電流などを含むその他の供給源からの放射線は、被曝者の組織にときに深刻な損傷をもたらし得る。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
当該技術分野においては、放射線被曝によってもたらされる損傷を処置または防止するための改善された方法および組成物がなおも要求される。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明の概要
この発明に従うと、放射線被曝による損傷を処置または防止する方法は、こうした処置を必要とする対象に、1)アミノ酸配列LKKTETを含む放射線損傷阻害ポリペプチド、LKKTETの保存的変異体、アクチン封鎖剤、抗炎症剤を含む化合物、2)対象におけるその化合物の生成を刺激する薬剤、3)対象におけるその化合物を調整する薬剤、または4)その化合物のアンタゴニストを含む組成物を有効量投与することによって、対象における放射線損傷を阻害するステップを含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
発明の詳細な説明
実施の形態の1つに従うと、この発明は一般的に、ペプチドのチモシンベータ4(チモシンβ4もしくはTβ4)、またはLKKTETなどのTβ4のフラグメント、またはその保存的変異体の使用による、電離放射線の被曝によってもたらされる物理的、認知的および生物的傷害の処置、防止または反転に関する。これらのペプチドはしばしばLKKTETペプチドまたはポリペプチドと呼ばれる。KLKKTETおよびLKKTETQなど
のNまたはC末端変異体が含まれる。
【0008】
すべての癌患者の50%より多くが腫瘍の大きさを減少させるために放射線治療を受ける。放射線療法の効力は、放射線の有害な副作用および通常の組織構成の崩壊、ならびに周囲組織に対する炎症、変性および免疫効果のために用量制限的であり、これはx線もしくはガンマ線の直接的な効果、または腫瘍からの有害量の組織および細胞破片の放出によってもたらされる副作用によるものである。腫瘍の全タンパク質の最高10%がアクチンであり、腫瘍組織の破壊に続いてGアクチンが血中に放出されるときにこのタンパク質の50%が単量体の形で封鎖されるため、血液の物理化学的性質によって、Gアクチンのこの分子の原繊維形であるFアクチンへの重合が誘導される。このFアクチンの氾濫が血液のアクチンを封鎖する性質を圧倒し、深刻な病状をもたらし得る。Fアクチンのみを実験動物に投与してもかなりの毒性を有し、多臓器不全ARDSおよび敗血症性ショックに関連する他の症候群における役割を有すると考えられる。骨髄の幹細胞、脾臓およびリンパ節などのリンパ組織、ならびに腸の内皮細胞などのいくつかの組織は、電離放射線の悪影響に高度に感受性であることが長く知られている。これらの組織に対する悪影響は、副腎皮質ステロイドの放出またはさまざまなその他の付加的なホルモンおよび成長因子による直接的または間接的な影響によるものとされてきた。加えて、放射線の直接的または間接的な影響によるアクチンの構造解体が、観察される毒性に顕著に寄与していると考えられる。炎症性サイトカインおよびケモカインを含む成長因子のいくつか、ならびにエイコサノイドなどのその他の薬剤が、副作用および現在の放射線療法の制限に顕著に寄与しているかもしれない。Tβ4、類似体およびアイソフォームおよびその他の誘導体は、全身的、局部的または局所的に投与されるときには、それらの特異な性質によって、放射線療法の有毒な副作用を減少させる効果を有する。さらに、Tβ4の特異な性質は放射線保護効果を含み、よって放射線治療の有効用量を増加させることができる。この発明はまた、日光、x線、ガンマ線、核装置、核設備、核兵器、「汚い」爆弾、高電圧電流およびその他の放射線源を含む他の供給源からの放射線による損傷の処置または防止にも適用可能である。
【0009】
いかなる特定の理論にも束縛されることなく、この発明は、抗炎症性ペプチドおよびTβ4などのアクチン封鎖ペプチド、ならびにアクチン結合モチーフおよびアミノ酸配列LKKTETを含むいくつかのその他のアクチン封鎖ペプチドが、電離放射線に対する被曝によって起こる特定の生物的プロセスの処置または防止に有用であり、電離放射線被曝による損傷の処置または防止を促進するという発見に基づいていると考えられる。これらのペプチドが修復および治癒を促進する能力を有するのは、末端デオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ(鋳型によらない(non−template directed)DNAポリメラーゼ)を誘導できることにより、1つまたはそれ以上の炎症性サイトカインおよびケモカインのレベルを減少させ、また内皮細胞に対する走化性および脈管形成因子として作用して、特定のx線、ガンマ線またはその他の形の電離放射線に対する被曝、および(i)癌患者、(ii)皮膚疾患に対する放射線または光線治療を受けている患者、または(iii)急性線量または致死量の電離放射線に被曝した個体の放射線療法を含むいくつかの因子によって起こる影響を防止および/または治癒および反転するためである。Tβ4は「救助分子」として作用し、アクチンの永続的な重合を防ぎ、放射線に被曝した細胞におけるアクチンの機能を保存し、通常細胞が分裂する能力を保護し得る。Tβ4はアポトーシスを誘導する酵素の誘導を阻害することによって、放射線によってもたらされ得る通常細胞のアポトーシスの誘導を阻害し得る。Tβ4はまた、組織の生存の改善にかかわる転写因子の調節によって組織に対する損傷を防ぎ得る。Tβ4は、細胞の生存に必須であるLIMドメインタンパク質PINCHおよびインテグリン結合キナーゼ(ILK)と機能性の三元複合体を形成する。Tβ4にさらされることにより、ILKの誘導、局在性の変化および活性化がもたらされる。細胞中でのTβ4−PINCH−ILK複合体の形成は、アクチン重合とは独立にTβ4の保護および/または修復効果を媒介し得る。加
えて、Tβ4は組織を保護するかまたはその修復を促進し得る細胞中のラミニン−5の生産を刺激する。
【0010】
Tβ4は初め、インビトロにおける内皮細胞の移動および分化の際にアップレギュレートされるタンパク質として確認された。Tβ4は元々胸腺から単離された、さまざまな組織において確認される43アミノ酸、4.9kDaの遍在するポリペプチドである。内皮細胞の分化および移動、T細胞の分化、アクチン封鎖ならびに血管新生における役割を含むいくつかの役割がこのタンパク質に帰されている。
【0011】
実施の形態の1つに従うと、この発明は電離放射線被曝による損傷を処置または防止する方法であって、こうした処置を必要とする対象に、LKKTETを含む放射線損傷阻害ポリペプチド、または放射線損傷阻害活性を有するその保存的変異体、好ましくはTβ4、Tβ4のアイソフォーム、酸化Tβ4、Tβ4スルホキシド、またはTβ4のアンタゴニストを含む組成物の有効量を投与するステップを含む。投与は対象の放射線被曝の前、間または後であることにより、組織を保護して損傷を防ぎ、および/または組織を救いかつ修復できる。
【0012】
この発明に従って用いられてもよい好ましい組成物は、アミノ酸配列LKKTET、アミノ酸配列KLKKTETまたはLKKTETQ、Tβ4、Tβ4のN末端変異体、Tβ4のC末端変異体、Tβ4のアイソフォーム、Tβ4のスプライシング変異体、酸化Tβ4、Tβ4スルホキシド、リンパ系Tβ4、ペグ化(pegylated)Tβ4、またはアクチン結合ドメインを有するあらゆるその他のアクチンを封鎖もしくは束ねるたんぱく質、または放射線損傷阻害活性を有する、アミノ酸配列LKKTETもしくはその保存的変異体を含むかもしくは本質的にそれからなるペプチドフラグメントを含む。ここに引用により援用される国際出願連続番号第PCT/US99/17282号は、この発明に従って有用であり得るTβ4のアイソフォームならびにアミノ酸配列LKKTETおよびその保存的変異体を開示しており、これらはこの発明とともに利用されてもよい。ここに引用により援用される国際出願連続番号第PCT/GB99/00833(WO99/49883)号は、この発明に従って利用され得る酸化Tβ4を開示する。この発明は以後主にTβ4およびTβ4アイソフォームに関して記載されるが、以下の記載は放射線損傷阻害活性を有するアミノ酸配列LKKTET、KLKKTET、LKKTETQ、およびLKKTET、KLKKTETまたはLKKTETQを含むかもしくは本質的にそれからなるペプチドおよびフラグメント、その保存的変異体、ならびに酸化Tβ4およびTβ4スルホキシドにも同等に適用可能であることが意図されることが理解される。
【0013】
実施の形態の1つにおいて、この発明は、処置すべき領域をTβ4またはTβ4アイソフォームを含む放射線損傷阻害組成物の有効量と接触させることによって、対象における放射線損傷を治癒する方法を提供する。接触は局所的に、全身的に、腸から、肺送達などによって行なわれてもよい。局所的投与の例はたとえば、Tβ4を単独で、またはTβ4の浸透を促進するかもしくは処置される領域へのTβ4ペプチドの放出を遅延もしくは遅らせる少なくとも1つの薬剤と組合せて含む、ローション剤、軟膏剤、ゲル、クリーム、ペースト、スプレー、懸濁液、分散体、ヒドロゲル、軟膏または油を皮膚に接触させることを含む。全身的投与はたとえば、Tβ4またはTβ4アイソフォームなどを含む組成物の静脈内、腹腔内、筋肉内もしくは皮下への注射、または吸入、経皮もしくは経口投与を含む。腸からの投与は経口または直腸投与を含んでもよい。対象は哺乳動物、好ましくはヒトであってもよい。
【0014】
Tβ4またはその類似体、アイソフォームもしくは誘導体はあらゆる有効量で投与されてもよい。たとえば、Tβ4は約0.1−50マイクログラムのTβ4の範囲内の用量、より好ましくは約1−25マイクログラムの量で投与されてもよい。
【0015】
この発明に従う組成物は、毎日、1日おきなどに、投与日当り単一の投与または複数回の投与で、たとえば投与日当り2回、3回、4回またはより多くの回数の適用などで投与され得る。
【0016】
Tβ4アイソフォームは確認されており、Tβ4の公知のアミノ酸配列に対して約70%、または約75%、または約80%またはそれより高い相同性を有する。こうしたアイソフォームは、たとえばTβ4ala、Tβ9、Tβ10、Tβ11、Tβ12、Tβ13、Tβ14およびTβ15を含む。Tβ10およびTβ15アイソフォームは、Tβ4と同様にアクチンを封鎖することが示されている。Tβ4、Tβ10およびTβ15、ならびにこれらその他のアイソフォームは、アクチン封鎖または結合の媒介に関わると考えられるアミノ酸配列LKKTETを共有する。いかなる特定の理論に束縛されることも望むものではないが、Tβ4アイソフォームの活性は部分的には、アクチンの重合を調整する能力によるものと思われる。たとえば、Tβ4は皮膚におけるアクチン重合を調節できる(たとえばβチモシンは遊離Gアクチンを封鎖することによってFアクチンを解重合させるようである)。したがってTβ4がアクチン重合を調節する能力は、全面的または部分的に、LKKTET配列を介してアクチンを結合または封鎖する能力に起因し得る。よって、Tβ4と同様に、アミノ酸配列LKKTETを有するTβ4アイソフォームを含む、アクチンを結合もしくは封鎖するかまたはアクチン重合を調節する他のタンパク質も、ここに示すように単独またはTβ4との組合せで、放射線損傷を防止または低減すると考えられる。
【0017】
よって、Tβ4ala、Tβ9、Tβ10、Tβ11、Tβ12、Tβ13、Tβ14およびTβ15などの公知のTβ4アイソフォーム、ならびにまだ確認されていないTβ4アイソフォームがこの発明の方法において有用となることが特定的に予期される。このようにTβ4アイソフォームは、対象において実行される方法を含むこの発明の方法において有用である。したがってこの発明はさらに、Tβ4、ならびにTβ4アイソフォームのTβ4ala、Tβ9、Tβ10、Tβ11、Tβ12、Tβ13、Tβ14およびTβ15、ならびに医薬上許容可能な担体を含む医薬組成物を提供する。
【0018】
加えて、適切な封鎖、結合、可動化もしくは重合アッセイによって示されるか、またはたとえばLKKTETなどのアクチン結合を媒介するアミノ酸配列の存在によって確認されるような、アクチン封鎖もしくは結合能力を有するか、またはアクチンを可動化できるかもしくはアクチン重合を調節できる他のタンパク質も、この発明の方法において同様に用いられ得る。こうしたタンパク質はたとえばゲルゾリン、ビタミンD結合タンパク質(DBP)、プロフィリン、コフィリン、アドセベルチン(adsevertin)、プロポミオシン、フィンシリン、デパクチン、DNアーゼI、ビリン、フラグミン、セベリン、キャッピングタンパク質、βアクチニンおよびアクメンチンを含む。こうした方法は対象において実行されるものを含むため、この発明はさらに、ここに示されるようなゲルゾリン、ビタミンD結合タンパク質(DBP)、プロフィリン、コフィリン、デパクチン、DNアーゼI、ビリン、フラグミン、セベリン、キャッピングタンパク質、βアクチニンおよびアクメンチンを含む医薬組成物を提供する。よってこの発明は、アミノ酸配列LKKTET(主要アミノ酸配列内にあってもよい)およびその保存的変異体を含む放射線損傷阻害ポリペプチドの使用を含む。
【0019】
ここで用いられる「保存的変異体」という用語またはその文法上の変形は、別の生物学上類似の残基によるアミノ酸残基の置換を示す。保存的変異体の例は、イソロイシン、バリン、ロイシンもしくはメチオニンなどの疎水性残基による別の残基の置換、極性残基による別の残基の置換、たとえばアルギニンによるリジンの置換、グルタミン酸によるアスパラギン酸の置換、またはグルタミンによるアスパラギンの置換などを含む。
【0020】
Tβ4はいくつかの組織および細胞型に局在化されているため、Tβ4の生成を刺激する薬剤を加えるかまたは組成物に含ませることによって、組織および/または細胞からのTβ4生成をもたらすことができる。こうした薬剤は、インシュリン様成長因子(IGF−1)、血小板由来成長因子(PDGF)、上皮成長因子(EGF)、ベータ型トランスフォーミング成長因子(TGF−β)、塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)、チモシンα1(Tα1)および血管内皮成長因子(VEGF)など、成長因子のファミリーのメンバーを含む。より好ましくは、その薬剤はベータ型トランスフォーミング成長因子(TGF−β)、またはTGF−βスーパーファミリーの他のメンバーである。この発明のTβ4組成物は、細胞外基質堆積、細胞移動および血管新生を通じた結合組織の成長をもたらすことによって放射線の特定の影響を減少させ得る。
【0021】
加えて、組成物にTβ4またはTβ4アイソフォームとともに他の薬剤が加えられてもよい。こうした薬剤は、脈管形成剤、成長因子、細胞の分化を指示する薬剤、細胞の移動を起こす薬剤、および組織中の細胞外基質材料の供給を刺激する薬剤を含む。たとえば、制限的でなく、Tβ4またはTβ4アイソフォームが単独または組合されて、次の薬剤のいずれか1つまたはそれ以上と組合されて加えられてもよい。すなわち、有効量のVEGF、KGF、FGF、PDGF、TGFβ、IGF−1、IGF−2、IL−1、プロチモシンα、およびチモシンα1。
【0022】
放射線損傷に関連する損傷を治癒する試薬、配合物または組成物実際の用量は、対象の大きさおよび健康状態を含む多くの要素に依存し得る。しかし、通常の当業者は、前述のPCT/US99/17282およびそこに引用される参考文献に開示されるような、臨床的な用量を定めるための方法および技術を記載する教示を用いて、使用する適切な用量を定めることができる。
【0023】
好適な配合物は、この発明の組成物を約0.001−10重量%の範囲内、より好ましくは約0.005−0.1重量%の範囲内、最も好ましくは約0.01−0.05重量%の範囲内の濃度で含む。
【0024】
ここに記載される治療上のアプローチは、Tβ4またはこの発明のその他の化合物を含む試薬または組成物の投与または送達のさまざまな経路を含み、それは対象に対するあらゆる従来の投与技術(たとえば、制限的ではないが、局所的投与、局部注射、吸入、全身的または腸からの投与など)を含む。Tβ4またはこの発明のその他の化合物を用いるかまたは含む方法および組成物は、医薬上許容可能な無毒の賦形剤またはキャリアとの混合によって医薬組成物に配合されてもよい。
【0025】
この発明は、Tβ4ペプチドまたはその機能性フラグメントと相互作用する抗体の使用を含む。異なるエピトープ特性を有するプールされたモノクローナル抗体を含む抗体、および別個のモノクローナル抗体調製物が提供される。モノクローナル抗体は、前述のPCT/US99/17282に開示されるような当業者に周知の方法によって、タンパク質のフラグメントを含む抗原から作られる。この発明において用いられる抗体という用語は、モノクローナルおよびポリクローナル抗体を含むことが意図される。
【0026】
実施の形態の1つにおいて、この発明は電離放射線被曝による損傷を処置または防止する方法を提供し、この方法は、こうした処置を必要とする対象に、アミノ酸配列LKKTETを含む放射線損傷阻害ポリペプチドまたは放射線損傷阻害活性を有するその保存的変異体を含む組成物の有効量を投与するステップを含む。
【0027】
実施の形態の1つにおいて、この発明は、Tβ4またはTβ4アイソフォームを含む組
成物の放射線損傷阻害量を組織に接触させることによって、対象における電離放射線被曝による損傷を処置または防止する方法を提供する。この接触は局所的に、腸から、または全身的に行なわれてもよい。局所的投与の例はたとえば、Tβ4を単独で、またはTβ4浸透を促進するかもしくは処置される領域へのTβ4ペプチドの放出を遅延もしくは遅らせる少なくとも1つの薬剤と組合せて含む、ローション剤、軟膏剤、ゲル、クリーム、ペースト、スプレー、懸濁液、分散体、ヒドロゲル、軟膏または油を、皮膚またはその他の組織に接触させることを含む。全身的投与はたとえば、Tβ4またはTβ4アイソフォームなどを含む組成物の静脈内、腹腔内、筋肉内もしくは皮下への注射、または吸入(口もしくは鼻から)、経皮投与、座薬、浣腸、または経口投与を含む。対象は哺乳動物、好ましくはヒトであってもよい。
【0028】
この発明は、Tβ4、Tβ4類似体、アイソフォーム、またはアミノ酸配列LKKTETを有するペプチドフラグメントおよびその保存的変異体を含む組成物の治療上有効な量の適用によって、X線、ガンマ線またはその他の形の電離放射線、および(i)癌患者、(ii)皮膚またはその他の疾患に対する放射線または光線療法を受けている患者、または(iii)急性線量または致死量の電離放射線に被曝した個体の放射線療法によってもたらされる、体、体組織および器官ならびに/またはそれに関連する症状を防止および/または治癒および反転する方法を提供する。
【0029】
この発明の方法は、治療のコースの間治療上有効な量の組成物を継続的または周期的にある部位に、または全身的に適用することによって電離放射線への被曝の影響を減少させるステップを含む。投与の継続時間は、単一の投与から対象の生涯にわたる投与にまで及び得る。投与の好ましいコースは約1−6ヶ月の範囲である。投与は周期的または継続的であり得る。投与のコースの間、この発明に従う組成物は1日当り1回、2回または3回またはより多くの回数投与されてもよく、また毎日、1日おき、3日ごとなどに投与され得る。
【0030】
実施の形態の1つに従うと、対象の目標領域に放射線が投与され、目標領域への放射線投与の前、間および/または後にこの発明に従う組成物が投与されることによって、目標領域の外側の対象の領域における放射線損傷を阻害する。
【0031】
この発明の方法は、LKKTETまたはTβ4またはその変異体またはいくつかのその他のアクチン封鎖もしくは抗炎症化合物の生成を刺激する薬剤を含む組成物の利用を含む。
【0032】
この方法の1つの局面において、治癒ポリペプチドは、ゲル、クリーム、ペースト、ローション剤、スプレー、懸濁液、分散体、軟膏剤、ヒドロゲル、または軟膏配合物中のTβ4またはTβ4のアイソフォームもしくは酸化形、またはTβ4のスプライシング変異体である。
【0033】
この発明の別の局面において、組成物は注射によって全身的に、経口的に、経鼻的に、経皮的に、またはあらゆるその他の手段で送達されてもよい。
【0034】
組成物は天然由来であっても、または組換方法論、もしくは固相および液相合成などであるがこれに制限されないその他の合成手段を用いて生産されてもよい。
【0035】
方法の1つは、対象における電離放射線または他の種類の放射線に対する被曝を処置することを含み、対象にアクチン封鎖ペプチドLKKTETまたはTβ4活性を調整する薬剤を含む組成物を投与するステップを含む。薬剤は抗体であってもよい。抗体はポリクローナルまたはモノクローナルであってもよい。
【0036】
方法の1つは、放射線療法の毒性を改善することを含み、こうした放射線療法に被曝した対象をTβ4活性を調整する薬剤で処置するステップを含む。
【0037】
いくつかの実施の形態において、Tβ4調整薬剤はTβ4ペプチドのアンチセンス形もしくは他の種類のアンタゴニスト、またはその他の好適な組成物である。
【0038】
この発明は、炎症および/またはアクチン毒性を低減し、および/または脈管形成を刺激して、血液、骨髄、胃腸管および/または体の他の部分における放射能感受性幹細胞を保護する、Tβ4、またはTβ4類似体、アイソフォーム、またはアミノ酸配列LKKTETおよびその他の保存的変異体を含むここに記載されるその他の分子の有効量を投与することによって、癌患者が受けることのできる放射線療法の量をかなり増加させ得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線被曝による損傷を処置または防止する方法であって、こうした処置を必要とする対象に、1)アミノ酸配列LKKTETを含む放射線損傷阻害ポリペプチド、LKKTETの保存的変異体、アクチン封鎖剤、抗炎症剤を含む化合物、2)前記対象における前記化合物の生成を刺激する薬剤、3)前記対象における前記化合物を調整する薬剤、または4)前記化合物のアンタゴニストを含む組成物の有効量を投与することによって、前記対象における放射線損傷を阻害するステップを含む、方法。
【請求項2】
前記化合物はアミノ酸配列LKKTETを含むポリペプチドまたはその保存的変異体を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ポリペプチドはアミノ酸配列KLKKTETまたはLKKTETQ、チモシンβ4(Tβ4)、Tβ4のN末端変異体、Tβ4のC末端変異体、Tβ4のアイソフォーム、Tβ4のスプライシング変異体、酸化Tβ4、Tβ4スルホキシド、リンパ系Tβ4、またはペグ化Tβ4を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記化合物はチモシンベータ4(Tβ4)である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記化合物はゲル、クリーム、ペースト、ローション剤、スプレー、軟膏剤、懸濁液、分散体、ヒドロゲル、または軟膏中に存在する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記化合物は注射、注入、肺送達によって、もしくは経口的に、直腸から、鼻から、経皮的に、またはその組合せによって前記対象に全身的に送達される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記薬剤は抗体である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記アンタゴニストは前記化合物のアンチセンス形である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記対象に前記化合物を投与することによって前記対象における放射線感受性幹細胞を保護するステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記幹細胞は前記対象の血液、骨髄または胃腸管組織の中にある、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記組成物は全身的に投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記組成物は局所的に投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記組成物は腸から投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記放射線は電離放射線である、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記対象の目標領域に放射線を投与することによって前記目標領域における癌または組織異常を処置するステップをさらに含み、前記組成物は前記目標領域への前記放射線の投与の前、間もしくは後に、またはその組合せで前記対象に投与されることによって、前記目標領域の外側の前記対象における放射線損傷を阻害する、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記組成物は、前記目標領域の外側の前記対象の細胞のアポトーシスの誘導を防止する
、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記組成物は、前記対象への投与のために約0.001−10重量%の範囲内の濃度で配合物に含まれる、請求項3に記載の方法。
【請求項18】
電離放射線被曝による損傷を処置または防止するための薬の製造において用いるための物質であって、1)放射線損傷阻害アミノ酸配列LKKTET、LKKTETの保存的変異体、アクチン封鎖剤、抗炎症剤を含む化合物、2)前記対象における前記化合物の生成を刺激する薬剤、3)前記対象における前記化合物を調整する薬剤、または4)前記化合物のアンタゴニストを含み、前記対象における放射線損傷を阻害する、物質。

【公表番号】特表2007−523878(P2007−523878A)
【公表日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−520394(P2006−520394)
【出願日】平成16年7月19日(2004.7.19)
【国際出願番号】PCT/US2004/023075
【国際公開番号】WO2005/007118
【国際公開日】平成17年1月27日(2005.1.27)
【出願人】(503334769)リジェナークス・バイオファーマスーティカルズ・インコーポレイテッド (16)
【Fターム(参考)】