説明

放射線計測装置及び放射線計測装置の位置決め精度確認方法

【課題】ビームに対する設置位置を確認可能な積層型放射線計測装置を低コストで提供することを課題とする。
【解決手段】放射線に対して反応するセンサー203を放射線の進行方向へ複数積層した放射線計測装置101であって、センサー203は、このセンサー203の中心を含む領域(中心領域)401と中心領域401を取り囲む他の領域402とに分割され、中心領域401で計測された信号と他の領域402で計測された信号とを独立して計測することを特徴とする放射線計測装置によって、上記課題を解決することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線計測装置と放射線計測装置の位置決め精度確認方法に関する。
【背景技術】
【0002】
粒子線治療ではビーム照射法としてスキャニング照射法が普及しつつある。スキャニング照射法は患部を微少領域(スポット)に分割し、スポット毎に細径(3〜20mm)のビームを照射する。スポットに既定線量が付与されると、照射を停止して次の既定スポットに向けてビームを走査する。照射スポットをビーム進行方向(以下、深部方向)に対して垂直な方向(以下、横方向)に変更する場合は、走査電磁石でビームの照射位置を変更する。ある深さについてすべてのスポットに既定線量が付与されると、照射スポットを深部方向に変更する。照射スポットを深部方向に変更する場合はビームのエネルギーを加速器もしくはレンジシフタで変更する。最終的に患部の照射領域の全てのスポットに一様な線量が付与される。
【0003】
スキャニング照射法を用いる陽子線照射装置はスポット毎のビームが水中に所望のブラッグカーブを形成するように調整される。陽子線照射装置の照射対象となる人体の主成分が水のためである。ブラッグカーブとは深部方向に対するLET(線エネルギー付与:Linear Energy Transfer、単位[J/m])の分布である。LETは媒質中を進むビーム粒子1個が深部方向へ単位距離進む間に媒質へ付与するエネルギーである。
【0004】
調整したブラッグカーブの確認には放射線計測装置を内部に搭載した水ファントムを用いる。放射線計測装置はモーター駆動で水ファントム内部を深部方向に移動できる。放射線計測装置が直接計測できる物理量はビームによって装置の有感領域に生じる電離の量(単位[C])である。これに較正係数を乗じて水中線量D(単位[J/kg])を算出する。得られた線量Dは有感領域の水等価体積で平均化した値である。水等価体積は媒質の横方向面積S×深部方向の水等価厚で表される。水等価厚とは媒質を水で置き換えた場合に放射線に対して等しいエネルギー損失を与える厚みである。線量DはD=LET×Φ/ρの関係を満たす。Φは有感領域へ入射する粒子の平均密度(単位[1/m2])、ρは水の密度(単位[kg/m3])である。線量Dの分布をブラッグカーブ、即ちLETの分布に換算するには深部方向について常にΦ=一定の条件が求められる。
【0005】
有感領域への入射粒子数をnとするとΦはΦ=n/Sを満たす。有感領域が横方向に広がったビームを常に全て捕獲できれば、n=一定となりΦ=一定の条件を満たせる。水ファントム内部に搭載されたブラッグカーブ計測用の放射線計測装置は横方向に広がったビームを常に全て捕獲できる十分広い面積の有感領域を備える。調整対象の照射装置で水ファントムにビーム照射し、放射線計測装置を走査して水中のブラッグカーブを1点ずつ計測する。水ファントムによるブラッグカーブ計測の課題は放射線計測装置の走査に伴う膨大な計測時間である。
【0006】
非特許文献1には、重粒子線のブラッグカーブを一度に計測する積層型放射線計測装置が開示されている。積層型放射線計測装置は深部方向に電離箱を多数積層した構造である。電離箱は有感領域となる電離層(材質は希ガスや大気)を2つの電極で挟んだ構造の放射線計測装置である。一方の電極に高電圧を印加して有感領域に一様な電場を形成し、ビームの通過時に有感領域内に発生した電離電価を収集する。電離箱と電離箱の間に挿入した固体ファントムを取り外した場合、分布の計測間隔は電離箱1層分の水等価厚である。より細かな計測間隔が必要な場合は、上流にレンジシフタを挿入して計測位置を深部方向に平行移動させる。計測間隔は計測条件毎に異なる。例えば、低エネルギービームの条件では計測間隔0.2mmを要求する場合がある。このとき電離箱1層分の水等価厚が1.0mmであると、レンジシフタの厚みを0.2mm,0.4mm,0.6mm,0.8mmと変更して計測を5回繰り返す必要がある。
【0007】
非特許文献2にも同様に、重粒子線のブラッグカーブを一度に計測する積層型放射線計測装置が開示されている。非特許文献2の計測装置は電離箱を構成する2つの電極のうち片方を64本のストリップ状に分割している。有感領域に生じた電離電荷をストリップの位置毎に分けて収集し、ブラッグカーブに加えて各層でのビームの横方向広がりを計測する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】C.Brusasca, et al.,“A dosimetry system for fast measurement of 3D depth dose profiles in charged-particle tumor therapy with scanning techniques”Nucl. Instr. And. Meth. in Phys. Res.B 168 (2000) 578-692
【非特許文献2】R.Cirio, et al.,“Two-dimensional and quasi three dimensional dosimetry of hadron and photon beams with the Magic Cube and the Pixel Ionization Chamber”Phys. Med. Biol. 49 (2004) 3713-3724
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
積層型放射線計測装置を用いてビームのブラッグカーブを正確に計測するには、積層型放射線計測装置をビーム照射方向と平行に設置することが必要となる。また、横方向に広がったビームを最大限捕獲するために、積層型放射線計測装置の有感領域である各電離層の中心とビームの中心を一致させることが望ましい。従来、積層型放射線計測装置の設置位置決めには照射室のレーザーマーカを用いている。しかし、レーザーマーカはビームの中心が通る直線を必ずしも正確に示していない。
【0010】
非特許文献1の計測装置をビームに対して前述の望ましい位置、即ちビームに対して平行で、且つビームの中心が各層のセンサーの中心を通過する位置に設置できたことを確認するには、ビームの横方向広がりを計測できる機器、例えば放射線感応フィルムが必要となる。ビームの経路上に2枚以上のフィルムを挿入し、ビームの中心位置と計測装置への入射角度を計測する。計測結果から、計測装置とビームの位置関係を確認する。このようなフィルムを用いた設置位置の確認作業には時間を要し、さらに計測作業従事者にとって労力となる。
【0011】
一方、非特許文献2の計測装置は単体でビームの横方向広がりを計測できるため、設置位置の確認にフィルムは不要である。ところが、電極を細かく分割したことで装置の電荷収集チャンネル数が増大し、高コストな装置となっている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明では、放射線計測装置は放射線に対して反応するセンサーを放射線の照射方向へ複数積層し、このセンサーは中心領域(領域A)とその中心領域を取り囲む領域(領域B)に分割されて構成され、領域A及び領域Bからそれぞれ独立して放射線の検出信号を収集することによって上記課題を解決する。
【0013】
領域Aと領域Bの出力比から各層毎にビーム線量の横方向分散を算出する。横方向分散がビーム照射方向に従って二次関数的に増加している場合は、ビームに対して平行で、且つビームの中心が各層のセンサーの中心を通過する位置に計測装置を設置できたと判断する。
【0014】
設置位置の確認について、本発明の放射線計測装置を用いた他の方法を説明する。まず、放射線感応フィルム等を用いて確認しながら、前述の望ましい位置、即ちビームに対して平行で、且つビームの中心が各層のセンサーの中心を通過する位置へ正確に計測装置を設置する。この状態でビームを照射し、さらに領域AとBの出力比を計測し、参照データとして各層毎に記録する。次回からの試験では、まず初めに参照データ取得時と同じ照射条件で計測装置にビームを照射し、領域AとBの出力比を計測する。計測結果が参照データと一致した場合は、ビームに対して平行で、且つビームの中心が各層のセンサーの中心を通過する位置に計測装置を設置できたと判断する。
【発明の効果】
【0015】
ビームに対する設置位置を確認可能な積層型放射線計測装置を低コストで提供する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の好適な一実施例である放射線計測装置の陽子線照射装置への適用例を示す図である。
【図2】図1に示す放射線計測装置の構成図である。
【図3】図2に示すセンサー部の構成図である。
【図4】図3に示す電荷収集用プリント基板の構成図である。
【図5】図3に示す高電圧印加用プリント基板の構成図である。
【図6】(A)は放射線計測装置が正確に位置決めされているときに放射線計測装置でビームを計測する概略図を示し、(B)はこのときに、式(1)から再構成されたビーム線量の横方向分散σが深部方向について示す分布を説明する図である。
【図7】(A)は放射線計測装置が正確に位置決めされていないときに放射線計測装置でビームを計測する概略図を示し、(B)はこのときに、式(1)から再構成されたビーム線量の横方向分散σが深部方向について示す分布を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を、図面を用いて説明する。
【実施例1】
【0018】
本発明の好適な一実施例である放射線計測装置について、図1を用いて説明する。スキャニング照射法を用いる陽子線照射装置102の調整及び性能評価を行うため、本実施例の放射線計測装置101は陽子線照射装置102から照射されたビームが水中に形成するブラッグカーブを計測する。陽子線照射装置102は放射線照射装置の1種である。本実施例では放射線照射装置として陽子線照射装置102を例に説明するが、陽子より質量の重い粒子(炭素線等)を用いた重粒子線照射装置にも適用することが可能である。この場合、放射線計測装置は、重粒子線照射装置から照射された重粒子ビームが水中に形成するブラックカーブを計測する。
【0019】
図1へ示すように、陽子線照射装置102は陽子線発生装置103,陽子線輸送装置104及び回転式照射装置105を有する。本実施例では回転ガントリーを備える回転式照射装置105を例に説明するが、照射装置は固定式であってもよい。
【0020】
陽子線発生装置103は、イオン源106,前段加速器107(例えば、直線加速器)及びシンクロトロン108を有する。まず、イオン源106から発生した陽子イオンを前段加速器107で加速する。前段加速器107から出射した陽子線(以下、ビーム)は、シンクロトロン108で所定のエネルギーまで加速された後、出射デフレクタ109から陽子線輸送装置104に出射される。さらに、ビームは回転式照射装置105を経て放射線計測装置101に照射される。回転式照射装置105は回転ガントリー(図示せず)及び照射野形成装置110を有する。回転ガントリーに設置された照射野形成装置110は回転ガントリーと共に回転する。陽子線輸送装置104の一部は回転ガントリーに取り付けられている。本実施例では陽子線の加速装置としてシンクロトロン108を採用したが、サイクロトロンや直線加速器であってもよい。
【0021】
本実施例の照射野形成装置110によって実現されるスキャニング照射法の概略を説明する。スキャニング照射法では照射範囲を微少領域(スポット)に分割し、スポット毎にビームを照射する。1本1本のビームの横方向線量分布は2次元のガウス分布で近似できる。スポットに既定線量が付与されると、照射を停止して次の既定スポットに向けてビームを走査する。照射スポットを横方向に変更する場合は照射野形成装置110に搭載した2対の走査電磁石(図示せず)を用いてビームの照射位置を変更する。ある深さについてすべてのスポットに既定線量が付与されると、ビームのエネルギーをシンクロトロン108もしくは照射野形成装置110等に搭載したレンジシフタ(図示せず)で変更して照射スポットを深部方向に変更する。このような手順を繰り返して最終的に全てのスポットに一様な線量が付与される。本実施例では走査電磁石を励磁しない状態でビームの中心が通る直線をビーム軸と呼ぶ。また、回転式照射装置105の回転軸とビーム軸との交点をアイソセンタと呼ぶ。スキャニング照射法では、ビーム線量の横方向分散σはアイソセンタ付近においてσ=3mm〜20mmである。放射線計測装置101に入射したビームの横方向分散σはビームが深部方向へ進むに従って二次関数的に単純増加すると近似できる。
【0022】
図2を用いて放射線計測装置101の構造を説明する。放射線計測装置101は、レンジシフタ201,レンジシフタ駆動制御機構202,センサー部203,高電圧電源204,信号処理装置205及び主制御装置206を有する。
【0023】
レンジシフタ201は、深部方向に対してセンサー部203よりも上流側に配置し、陽子線照射装置102の調整及び性能評価の項目に応じて放射線計測装置101の計測位置を深部方向に変更する。レンジシフタ201は、厚さが異なる複数のエネルギー吸収体207を有する。例えば本実施例では、0.1mm,0.2mm,0.4mm,0.8mm,1.6mm,3.2mm,6.4mmの7つである。1つ又は複数のエネルギー吸収体207をビーム通過位置に配置してビームのエネルギーを減衰させ、放射線計測装置101の計測位置を深部方向に変更する。本実施例のレンジシフタ201の場合、0.1mm間隔で深部方向に計測位置を変更できる。変更範囲は0.1mmから12.7mmである。エネルギー吸収体207の素
材と厚みの種類は陽子線照射装置102の調整及び性能評価の項目に応じて任意である。本実施例ではABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン(Acrylonitrile butadiene styrene)樹脂)を使用する。また、放射線に対するABSと水の阻止能の比は1とする。レンジシフタ駆動制御装置202はセンサー部203の上流に所望の厚みのエネルギー吸収体207が配置されるよう、レンジシフタ201を駆動・制御する。
【0024】
図3へ示すように、センサー部203は、電荷収集用プリント基板(以下、基板A)301と高電圧印加用プリント基板(以下、基板B)302を深部方向へ交互に積層した構造である。基板A301と基板B302の間にはスペーサ303を挿入して電離層、即ち放射線の有感領域を形成する。スペーサ303は絶縁体である。電離層は電離ガスで満たされる。本実施例では電離層を大気開放し、空気を電離ガスとして用いる。電離層を密封し、外部のガスポンプを用いてアルゴン等の電離ガスを循環させる構成でも同様の効果が得られる。積層した基板A301,基板B302及びスペーサ303はボルト304を用いて固定する。ただし、基板A301,基板B302及びスペーサ303を安定して積層,固定できる方法であれば、本発明はボルト304を用いた方法に限らない。基板A301と基板B305は深部方向と直交する面に電極を蒸着したガラスエポキシ板である。電極はニッケルと金でメッキした銅である。なお、絶縁体であれば基板はガラスエポキシに限らない。同様に、導体であれば電極は銅に限らない。
【0025】
図4へ示すように、基板A301の電極は3つの領域へ電気的に分割される。本実施例では、基板A301の中心を含む領域(中心領域)を小電極(第1電極)401、小電極401を取り囲む領域を大電極(第2電極)402、最も外側の領域をガード電極(第3電極)403と呼ぶ。小電極401は導線404に接続し、大電極402は導線405に接続し、ガード電極403は導線406に接続する。このように、電極の各領域は、導線404,405,406とそれぞれ独立に接続する。小電極401に接続する導線404と大電極402に接続する導線405のもう一端は、基板の内層を通って信号処理装置205の入力側に接続する。つまり、導線404が小電極401と信号処理装置205を接続し、導線405が大電極402と信号処理装置205を接続する。信号処理装置205は、既定時間中に入力した電荷を積算し、積算値を主制御装置206に送信する。ガード電極403に接続する導線406の一端は接地する。ガード電極403は基板B302から小電極401及び大電極402へのリーク電流を防止する。本実施例では基板A301の電極を二重同心円状に分割した。電離層で発生した電荷の収集電極の形状が中心領域とその領域を取り囲む領域へ電気的に分割されており、各領域から独立して電荷を収集できる構成であれば、本実施例と同様の効果が得られる。基板A301の電極は両面対称構造であり、表面と同様に裏面に面した電離層からも電荷を収集する。小電極401と大電極402が構成する電極は、放射線計測装置101中の散乱とドリフトによって横方向へ2次元ガウス分布状に広がったスキャニング照射法のビーム(分散3〜20mm)を十分捕獲可能な面積及び形状を備える。
【0026】
図5へ示すように、基板B302の電極は2つの領域へ電気的に分割される。本実施例では中心領域を高電圧印加電極501、外側をガード電極502と呼ぶ。高電圧印加電極501は導線503に接続し、ガード電極502は導線504に接続する。このように、電極の各領域は導線503,504とそれぞれ独立に接続する。導線503は高電圧印加電極501と高電圧電源204を接続し、高電圧電源204からの高電圧(絶対値数千V以下)を高電圧印加電極501に印加する。ガード電極502と接続する導線504の一端は接地する。ガード電極502は基板B302から基板A301の小電極401及び大電極402へのリーク電流を防止する。基板B302の電極は両面対称構造であり、表面と同様に裏面の高電圧印加電極にも高電圧が印加される。基板Aの小電極401及び大電極402はほぼ0Vであり、電離層には電場が生じる。
【0027】
本実施例の放射線計測装置101を用いてブラッグカーブを計測する手順について説明する。まず、操作者は陽子線照射装置102の照射室(図示せず)に放射線計測装置101を搬送し、患者カウチ(図示せず)上に固定する。次に、患者位置決め用レーザーマーカを参考に患者カウチを可動させて放射線計測装置101を仮位置決めする。本実施例では、ビーム軸が各層の小電極401の中心を通過するように位置決めする。放射線計測装置101専用に位置決め用可動冶具を製作し、患者カウチの替わりに用いても良い。
【0028】
仮位置決め完了後、操作者は照射室から制御室(図示せず)に移動する。制御室では、主制御装置206を用いて放射線計測装置101の計測制御と陽子線照射装置102のビーム照射制御を行う。まず、操作者は主制御装置206を通してレンジシフタ駆動制御装置202,高電圧電源204,信号処理装置205に電源を投入する。基板B302の高電圧印加電極501に高電圧が印加され電離層に電場が発生する。本実施例では接地0Vに対して負極の高電圧を高電圧印加電極501に印加する。レンジシフタ201の全てのエネルギー吸収体207はビーム通過位置から外れた状態で待機する。
【0029】
操作者は、主制御装置206に所望の計測間隔を設定する。本実施例では、ビームエネルギーが低い条件でのブラッグカーブ計測を想定して0.2mmに設定する。放射線計測装置101本来の計測間隔、即ち1層分の水等価厚は1.0mmとする。空気のエネルギー損失量は無視できるので、基板1枚分の水等価厚が1.0mmである。ただし、本実施例では基板A301と基板B302は同じ水等価厚とする。操作者は主制御装置206から陽子線照射装置102の照射条件(ビームエネルギー,照射スポット位置,照射スポット数等)を設定し、ビーム照射開始を指示する。ブラッグカーブ計測ではビーム軸上のスポットに対してビーム照射するため、走査電磁石は励磁されない。ビーム照射開始の指示を受けると、陽子線照射装置102は主制御装置206に対して照射開始信号を送信する。照射開始信号を受信すると主制御装置206は信号処理装置205へ計測開始信号を送信する。計測開始信号を受信すると、信号処理装置205は入力電荷の積算を開始する。直後、シンクロトロン108で加速されたビームは、陽子線輸送装置104を経て回転式照射装置105に出射する。最終的に、操作者が主制御装置206に設定した条件に従って放射線計測装置101にビームが照射される。
【0030】
ビームが電離層を通過すると電離層中のビーム線量に比例した数のイオン対、即ち正イオンと電離電子のペアが生成する。生成したイオン対は電場の向きと平行にドリフトする。ビーム軸が各層の小電極401の中心を通過するよう正確に放射線計測装置101を位置決めできた場合、ビーム軸からの距離が小電極401半径未満の位置で生成した電離電子は小電極401に到達し、ビーム軸からの距離が小電極401半径以上大電極402半径未満の位置で生成した電離電子は大電極402に到達する。小電極401及び大電極402へ到達した電子の数に比例して、それぞれに接続した導線404と導線405に電荷が発生する。信号処理装置205はビーム照射中に入力した電荷、即ち基板A301の小電極401に接続する導線404で発生した電荷と、大電極402に接続する導線405で発生した電荷を、それぞれ独立に積算する。従って、信号処理装置205の入力チャンネルは電離層1層あたり2つ必要である。電離層が200層のとき必要なチャンネル数は400となる。1層あたり64チャンネル必要な非特許文献2の積層型放射線計測装置の場合、チャンネル数を400以下に抑えるためには電離層を6層以下にしなくてはならない。
【0031】
本実施例のように、電離層と、電離層を挟んで配置した2枚の電極で構成される放射線用センサーを電離箱という。本実施例のセンサー部203は電離箱をビーム照射方向に積層した構造といえる。電離箱は、放射線照射によって電荷を発生する半導体検出器やシンチレーションカウンタに置き換えられる。即ち、センサー部203はビーム照射方向に半導体検出器やシンチレーションカウンタを積層した構造であっても、本実施例と同様の効果が得られる。一般に半導体検出器はp型半導体とn型半導体を接合した半導体素子である。放射線用センサーとしての使用時には素子に逆電圧を印加して接合部に空乏層を形成する。空乏層は有感領域の役割を示し、放射線が入射するとエネルギー損失量に比例した数の正孔・電子対を生成する。正孔・電子対は素子内の電場の向きに従ってドリフトし、電離箱と同様にp型及びn型半導体に接続した電極から電荷として信号処理装置205へ出力される。シンチレーションカウンタは蛍光物質(NaI結晶,GSO結晶,有機EL等)と光素子で構成される放射線用センサーである。蛍光物質は有感領域の役割を示し、放射線が入射するとエネルギー損失量に比例した量の蛍光を発する。光素子は発光量に比例した電荷を生成し、信号処理装置205へ出力する。
【0032】
操作者の設定した条件に従ってビーム照射を完了すると陽子線照射装置102は主制御装置206に照射完了信号を送信する。照射完了信号を受信すると、主制御装置206は信号処理装置205に計測完了信号を送信する。計測完了信号を受信すると、信号処理装置205は電荷の積算を停止し、積算値をチャンネル毎に主制御装置206へ記録する。
記録完了後、信号処理装置205は全チャンネルの積算値をリセットする。
【0033】
積算値を記録すると主制御装置206はレンジシフタ駆動制御装置202にエネルギー吸収体207の挿入を指示する。本実施例では、まず厚さ0.2mmのエネルギー吸収体207を挿入する。エネルギー吸収体207の挿入が完了すると、主制御装置206は最初に操作者が設定した照射条件で陽子線照射装置102に再度ビーム照射開始を指示する。ビーム通過位置からエネルギー吸収体207を全て外した最初の計測と同様に、放射線計測装置101は電離層で発生した電荷を信号処理装置205で積算する。ビーム照射完了後に信号処理装置205が計測完了信号を受信すると、電荷の積算を停止して積算値をチャンネル毎に主制御装置206へ新たに記録する。記録完了後、信号処理装置205は全チャンネルの積算値をリセットする。積算値を記録すると主制御装置206は厚さ0.4mmのエネルギー吸収体207の挿入を指示する。厚さ0.2mmのエネルギー吸収体207はビーム通過位置から外される。エネルギー吸収体207の挿入が完了すると、主制御装置206は最初に操作者が設定した照射条件で陽子線照射装置102に再度ビーム照射開始を指示する。計測間隔0.2mmでブラッグカーブを計測するためには、このようにエネルギー吸収体207の厚みを0.0mm(ビーム通過位置からエネルギー吸収体207を全て外した状態),0.2mm,0.4mm,0.6mm(0.2mmと0.4mmのエネルギー吸収体を2枚挿入した状態),0.8mmと5回変更して計測を繰り返す。
【0034】
挿入したエネルギー吸収体207の厚みがrのとき、センサー部203の表面から数えてi番目の電離層(以下、電離層i)に面する小電極401で得られた積算電荷をQs(i,r)、大電極402で得られた積算電荷をQl(i,r)とする。エネルギー吸収体207の厚みを変更した全計測が完了すると、主制御装置206はQs(i,r)とQl(i,r)を加算してQ(i,r)を得る。即ち、Q(i,r)=Qs(i,r)+Ql(i,r)である。基板A301,基板B302、電離層及びエネルギー吸収体207の水等価厚は事前に計測されており、この情報に基づいて主制御装置206はQ(i,r)をQ(x)に変換する。xは水面からの深さである。さらに、主制御装置206は較正係数を乗じてQ(x)を水中線量D(x)に換算する。小電極401と大電極402が構成する電極は横方向へ2次元ガウス分布状に広がったスキャニング照射法のビームを全て捕獲可能な面積及び形状を備えるので、小電極401と大電極402に接する電離層へ入射するビームの粒子数nは一定である。従って、D(x)=LET(x)×Φ/ρ,Φ=n/Sより、D(x)は最終的にLET(x)へ変換される。Sは小電極401と大電極402が構成する電極の面積である。nは加速器の蓄積電荷から概算できるが、仮にnが不明の場合でもLET(x)の相対的な分布が得られる。主制御装置206は得られたxについてのLET(x)の分布、即ちブラッグカーブをディスプレイ(図示せず)に表示する。ディスプレイに表示されたブラッグカーブを確認して操作者は陽子線照射装置102の調整結果及び性能を評価する。
【0035】
放射線計測装置101の位置決め精度を直接確認する手順について説明する。基板A301,基板B302,電離層及びエネルギー吸収体207の水等価厚は事前に計測されており、この情報に基づいて主制御装置206はQs(i,r),Ql(i,r)をQs(x),Ql(x)に変換する。xは水面からの深さである。前述のように、ビーム線量の横方向分
布は2次元のガウス分布で近似できる。また、基板A301の電極は二重同心円であり、小電極401と大電極402が構成する電極はビームを十分捕獲できる面積と形状を備える。このときビーム軸が各層の小電極401の中心を通過するように位置決めされていると、Qs(x)とQl(x)は以下の式(1)を満たす。
【0036】
Qs(x)/Ql(x)=1/exp(−r02/2σ(x))−1 (1)
ここで、σ(x)はビームの受けたエネルギー損失量が水面からの深さx(単位[mm])に相当する位置での放射線計測装置101中のビームの分散、r0は小電極401の半径である。主制御装置206は式(1)にQs(x)とQl(x)を代入してσ(x)を計算し、xについての関数としてディスプレイに表示する。σ(x)はxについて二次関数的に単純増加すると近似できるので、σ(x)の分布形状より位置決めの精度を確認できる。
【0037】
例えば、図6(A)に示すように、放射線計測装置101が正確に位置決めされている、即ちビーム軸が各層の小電極401の中心を通過するように位置決めされている場合、陽子線照射装置102から出射されたビームは積層型放射線計測装置101に対して平行に入射し、小電極401及び大電極402で計測される。図6(B)は、放射線計測装置が正確に位置決めされているとき、式(1)から再構成されたビーム線量の横方向分散σをxについて示した分布である。つまり、図6(B)は放射線計測装置101が正確に位置決めされているときのQs(x),Ql(x)を計算で求め、式(1)からσ(x)を求めた結果である。計算条件としてビーム線量の横方向分布を2次元のガウス分布、放射線計測装置101表面でのビーム分散σ(x=0mm)を実測に基づいて5mm、飛程終端でのビーム分散σ(x=380mm)をモンテカルロ法による粒子輸送計算に基づいて15mm、ビーム分散σは深部方向について二次関数的に単純増加するとした。図6(B)では、σ(x)がxについて二次関数的に単純増加していることを確認できるため、位置決めは正確であると判定できる。
【0038】
一方、図7(A)に示すように、放射線計測装置101が正確に位置決めされていない場合、陽子線照射装置102から出射されたビームは積層型放射線計測装置101に対して斜めに入射し、小電極401及び大電極402で計測される。図7(B)は、放射線計測装置が正確に位置決めされていないとき、式(1)から再構成されたビーム線量の横方向分散σをxについて示した分布である。つまり、図7(B)のグラフは、ビームが放射線計測装置101に正確に位置決めされていないと仮定した場合に計算で求めたQs(x),Ql(x)を、式(1)に代入して得られるσ(x)を示す。図7(B)では、σ(x)がxについて二次関数的に単純増加していることを確認できず、位置決めは正確でないと判定できる。なお、図7(B)からも分かるように、小電極401の中心から12mm離れた位置に対し垂直から約2度、ビーム軸方向に傾いた角度でビームが入射している。
【0039】
基板A301の電極が二重同心円形状でない場合に、放射線計測装置101の位置決め精度を直接確認する手順を説明する。まず、患者位置決め用レーザーマーカを参考にしてビーム軸と小電極401の中心が一致するように放射線計測装置101を仮位置決めする。放射線計測装置101の上流側にビーム線量の横方向分布を計測可能な放射線感応フィルム(図示せず)を設置して放射線計測装置101へのビームの入射角度及び入射位置を計測する。フィルムの計測結果より放射線計測装置101が前述の所望の位置へ正確に位置決めできていることを確認した後、同じセットアップのままフィルムだけを取り外し放射線計測装置101に再度ビームを照射する。このビーム照射で得られたQs(x)とQl(x)の比を参照用データとして主制御装置206へ記録する。
【0040】
2回目以降にブラッグカーブを計測する場合はまず参照用データを計測したときと同じ照射条件で放射線計測装置101にビーム照射する。ただし、フィルムは設置しない。Qs(x)とQl(x)の比が参照用データと一致していれば放射線計測装置101の位置決めは正確である。このように位置決めの精度を確認した後、目的の計測条件で改めてブラッグカーブを計測する。1回目のブラッグカーブ計測ではフィルムを使った位置決め精度の確認を必要とするが、2回目以降のブラッグカーブ計測では放射線計測装置101のみで位置決め精度を確認できる。本実施例では放射線計測装置101の位置決め精度を直接確認する機器として放射線感応フィルムを用いたが、ビーム線量の横方向分布を計測可能な機器であれば同様の効果が得られる。
【0041】
本実施例の放射線計測装置101を用いれば体積照射時の深部線量分布を計測できる。体積照射とは、スキャニング照射法の手順に従って被照射体の任意の領域へ一様線量を付与することである。体積照射時の深部線量分布を放射線計測装置101で計測する方法について、以下説明する。
【0042】
ブラッグカーブ計測の場合と同様に、操作者は照射室に放射線計測装置101を搬送し患者カウチ上に固定する。次に、レーザーマーカを参考にカウチを可動させ、放射線計測装置101を仮位置決めする。本実施例では、ビーム軸が各層の小電極401の中心を通過するように位置決めする。仮位置決め完了後、操作者は照射室から制御室に移動し、主制御装置206を設定してビーム開始信号を指示すると、陽子線照射装置102は、任意のエネルギーを有するビームを出射する。このビームは放射線計測装置101に入射され、放射線計測装置101がビームのブラッグカーブを計測する。前述の手順に従い、計測結果から位置決めの正確さを判断する。位置決めが不正確な場合、正確と判断できるまで放射線計測装置101の位置決めとブラッグカーブ計測を繰り返す。位置決めが正確と判断できたら位置決め完了とする。位置決め完了後、操作者は照射室から制御室に移動し、体積照射時の深部線量分布を計測する。ビーム軸と平行な異なる軸上の深部線量分布を計測する場合、位置決め完了後に患者カウチを横方向へ平行に可動させる。制御室では、主制御装置206を用いて放射線計測装置101の計測制御と陽子線照射装置102のビーム照射制御を行う。まず、操作者は主制御装置206を通してレンジシフタ駆動制御装置202,高電圧電源204,信号処理装置205に電源を投入する。操作者は主制御装置206に所望の計測間隔を設定する。本実施例では0.2mmに設定する。
【0043】
ブラッグカーブ計測と同様の手順で計測を開始する。操作者は、主制御装置206から体積照射用の陽子線照射装置102の照射条件(ビームエネルギー,照射スポット位置,照射スポット数等)を設定し、ビーム照射開始を指示する。体積照射時の横方向の照射範囲は小電極401に対して十分大きいものとする。ビーム照射開始の指示を受けると、陽子線照射装置102は主制御装置206に対して照射開始信号を送信する。照射開始信号を受信すると、主制御装置206は信号処理装置205へ計測開始信号を送信する。計測開始信号を受信すると信号処理装置205は入力側で発生する電荷を積算し始める。直後、シンクロトロン108で加速されたビームは陽子線輸送装置104を経て、回転式照射装置105に出射する。最終的に、操作者が主制御装置206に設定した条件に従って放射線計測装置101へビームが照射される。あるスポットに既定線量が付与されると、照射を停止して次の既定スポットに向けてビームを走査する。照射スポットを横方向に変更する場合は走査電磁石でビームの照射位置を変更する。ある深さについてすべてのスポットに既定線量が付与されると、照射スポットを深部方向に変更する。照射スポットを深部方向に変更する場合はビームのエネルギーを加速器もしくはレンジシフタで変更する。最終的に全てのスポットに一様な線量が付与される。
【0044】
操作者の設定した条件に従って体積照射が完了すると、陽子線照射装置102は主制御装置206に照射完了信号を送信する。照射完了信号を受信すると、主制御装置206は信号処理装置205に計測完了信号を送信する。計測完了信号を受信すると、信号処理装置205は電荷の積算を停止し、積算値をチャンネル毎に主制御装置206へ記録する。
記録完了後、信号処理装置205は全チャンネルの積算値をリセットする。
【0045】
積算値を記録すると主制御装置206はレンジシフタ駆動制御装置202にエネルギー吸収体207の挿入を指示する。本実施例では、まず厚さ0.2mmのエネルギー吸収体207を挿入する。エネルギー吸収体207の挿入が完了すると、主制御装置206は最初に操作者が設定した照射条件で陽子線照射装置102に再度体積照射開始を指示する。ビーム通過位置からエネルギー吸収体207を全て外した最初の計測と同様に、放射線計測装置101は電離層で発生した電荷を信号処理装置205で積算する。ビーム照射完了後に信号処理装置205が計測完了信号を受信すると、電荷の積算を停止して積算値をチャンネル毎に主制御装置206へ新たに記録する。記録完了後、信号処理装置205は全チャンネルの積算値をリセットする。積算値を記録すると主制御装置206は厚さ0.4mmのエネルギー吸収体207の挿入を指示する。厚さ0.2mmのエネルギー吸収体207はビーム通過位置から外される。エネルギー吸収体207の挿入が完了すると、主制御装置206は最初に操作者が設定した照射条件で陽子線照射装置102に再度体積照射開始を指示する。計測間隔0.2mmで深部線量分布を計測するため、エネルギー吸収体207の厚みを0.0mm(ビーム通過位置からエネルギー吸収体207を全て外した状態),0.2mm,0.4mm,0.6mm(0.2mmと0.4mmのエネルギー吸収体を2枚挿入した状態),0.8mmと5回変更して計測を繰り返す。
【0046】
ブラッグカーブ計測と同様に、主制御装置206は計測結果からQs(x)を算出する。小電極401の面積は体積照射時の横方向の照射範囲と比べて十分小さく、計測で得られた線量は放射線計測装置101中における小電極401中心の局所的な線量と等価である。主制御装置206はQs(x)を水中線量Ds(x)に換算し、xについてディスプレイへ表示する。ディスプレイに表示された深部線量分布を確認して、操作者は陽子線照射装置102の調整結果及び性能を評価する。
【0047】
本実施例の放射線計測装置101によれば、ビームに対する設置位置を確認可能な構成であるため、ビームのブラックピークをより正確に計測することができる。
【0048】
本実施例の放射線計測装置101によれば、電荷収集チャンネル数を増大させることなくビームに対する設置位置を確認できるため、積層型放射線計測装置のコストを低減することができる。また、スキャニング照射法ではビーム軸が各層の小電極401の中心を通過するように位置決めされている場合、電荷収集チャンネル数を増大させることなくビームの横方向広がりを計測できる。積層型放射線計測装置のコストを低減することができる。
【0049】
本実施例の放射線計測装置101で深部線量分布を計測する場合、照射装置の線種が光子線,電子線,ミュオン線,パイ中間子線,中性子線であっても同様の効果が得られる。
【実施例2】
【0050】
以下、本発明の他の実施例である放射線計装装置について説明する。
【0051】
本実施の放射線計測装置101は、散乱体照射法によって水中に形成する深部線量分布を計測できる。本実施例の陽子線照射装置は、実施例1の陽子線照射装置101とほぼ同じ構造である。照射野形成装置110の構造のみ若干異なる。以下、実施例1と同じ図を用いて説明する。
【0052】
本実施例の照射野形成装置110によって実現される散乱体照射法の概略を、散乱体照射法の代表的例であるウォブラー照射法を用いて以下に説明する。実施例1と同様に照射野形成装置110は走査電磁石を有する。加えて、本実施例の照射野形成装置110は散乱体,コリメータ,ボーラス,拡大ブラッグピーク形成フィルタ(図示せず)を有する。
【0053】
横方向に均一な線量分布を形成するための手段を説明する。患部領域とビームの入射エネルギーに応じて走査電磁石電源(図示せず)から適切な時間変化量を持った電流が供給される。走査電磁石電源からは、ビームを円形に走査するため周期的に正負が反転し、走査電磁石毎に位相が90度ずれ、最大電流値の等しい交流電流が供給される。このときの最大電流値がビームの走査範囲を決めている。また、ビームの散乱量をコントロールするため、ビーム径路には散乱体が設置される。コリメータは患部形状に合わせて適切な形に可動し、患部領域外への被曝量を低減する。この結果、設定された患部領域において照射線量が集中し、可能な限り均一な線量分布の照射野を形成する。横方向に均一な線量分布を形成する手段としては走査電磁石の替わりに2つの散乱体をビーム経路上に配置した二重散乱体法も有効である。
【0054】
次に、深部方向へ均一な線量分布を形成するための手段を説明する。ビームエネルギーは患部の深さに応じてシンクロトロン等を用いて変更し、ビームの到達深度を患部領域と一致させる。また、ボーラスは患部形状に合わせて適切なものが選択される。患部領域とビームの入射エネルギーに応じて適切な拡大ブラッグピーク形成フィルタ(以下、SOBP(Spread Out Bragg Peak)フィルタと略す)を選択する。SOBPフィルタはビーム径路上に設置される。SOBPフィルタの機能ついて説明する。SOBPフィルタはビームが通過する面に厚みの異なる階段状の構造を持つ。ビームがSOBPフィルタの各段を適切な配分で通過することで単一エネルギーのビームに適切な配分のエネルギー分布を与え、単一エネルギーの粒子線が深部方向へ形成する鋭いブラッグピークを患部形状に合わせて拡大する。このようなSOBPフィルタをリッジフィルタという。本実施例では、以上のようにSOBPフィルタとしてリッジフィルタを用いる例を示したが、このリッジフィルタに替えて飛程変調ホイールを用いた場合にも適用することができる。
【0055】
散乱体照射法の深部線量分布を放射線計測装置101で計測する方法について、以下説明する。実施例1と同様に、操作者は照射室に放射線計測装置101を搬送し患者カウチ上に固定する。次に、レーザーマーカを参考にカウチを可動させ、放射線計測装置101を仮位置決めする。本実施例ではビーム軸と小電極401の中心が一致するように位置決めする。仮位置決め完了後、操作者は照射室から制御室に移動する。さらに、照射野形成装置110のビーム経路から散乱体,コリメータ,ボーラス,拡大ブラッグピーク形成フィルタ全て取り外す。また、走査電磁石は励磁しない。取り外し後、実施例1と同様に任意のエネルギーでブラッグカーブを計測する。実施例1の手順に従い、計測結果から位置決めの正確さを判断する。位置決めが不正確な場合、正確と判断できるまで放射線計測装置101の位置決めとブラッグカーブ計測を繰り返す。位置決めが正確と判断できたら位置決め完了とする。位置決め完了後、操作者は照射室から制御室に移動し、散乱体照射法の深部線量分布を計測する。ビーム軸と異なる軸上の深部線量分布を計測する場合、位置決め完了後に患者カウチを横方向へ平行に可動させる。制御室では、主制御装置206を用いて放射線計測装置101の計測制御と陽子線照射装置102のビーム照射制御を行う。まず、操作者は主制御装置206を通してレンジシフタ駆動制御装置202,高電圧電源204,信号処理装置205に電源を投入する。操作者は主制御装置206に所望の計測間隔を設定する。本実施例では0.2mmに設定する。
【0056】
本実施例では、実施例1の体積照射と同様の手順でビームの深部線量分布を計測する。操作者は、主制御装置206から陽子線照射装置102の照射条件(ビームエネルギー,拡大ブラッグピーク幅,コリメータ形状,散乱体の厚み等)を設定し、ビーム照射開始を指示する。照射野形成装置110内のビーム経路上に設定条件に対応した散乱体,コリメータ,拡大ブラッグピーク形成フィルタが挿入される。ボーラスを用いる場合は操作者が直接照射野形成装置110に取り付ける。照射範囲とビームエネルギーに応じて、走査電磁石電源から適切な時間変化量を持った交流電流が走査電磁石に供給される。横方向の照射範囲は小電極401に対して十分大きいものとする。ビーム照射開始の指示を受けると、陽子線照射装置102は主制御装置206に対して照射開始信号を送信する。照射開始信号を受信すると主制御装置206は信号処理装置205へ計測開始信号を送信する。計測開始信号を受信すると信号処理装置205は入力側で発生する電荷を積算し始める。直後、シンクロトロン108で加速されたビームは陽子線輸送装置104を経て、回転式照射装置105に出射する。最終的に、操作者が主制御装置206に設定した条件に従って放射線計測装置101へビーム照射される。
【0057】
操作者の設定した条件に従って照射が完了すると、陽子線照射装置102は主制御装置206に照射完了信号を送信する。照射完了信号を受信すると主制御装置206は信号処理装置205に計測完了信号を送信する。計測完了信号を受信すると、信号処理装置205は電荷の積算を停止し、積算値をチャンネル毎に主制御装置206へ記録する。記録完了後、信号処理装置205は全チャンネルの積算値をリセットする。
【0058】
積算値を記録すると主制御装置206はレンジシフタ駆動制御装置202にエネルギー吸収体207の挿入を指示する。本実施例では、まず厚さ0.2mmのエネルギー吸収体207を挿入する。エネルギー吸収体207の挿入が完了すると、主制御装置206は最初に操作者が設定した照射条件で陽子線照射装置102に再度照射開始を指示する。ビーム通過位置からエネルギー吸収体207を全て外した最初の計測と同様に、放射線計測装置101は電離層で発生した電荷を信号処理装置205で積算する。ビーム照射完了後に信号処理装置205が計測完了信号を受信すると、電荷の積算を停止して積算値をチャンネル毎に主制御装置206へ新たに記録する。記録完了後、信号処理装置205は全チャンネルの積算値をリセットする。積算値を記録すると主制御装置206は厚さ0.4mmのエネルギー吸収体207の挿入を指示する。厚さ0.2mmのエネルギー吸収体207はビーム通過位置から外される。エネルギー吸収体207の挿入が完了すると、主制御装置206は最初に操作者が設定した照射条件で再度陽子線照射装置102に照射開始を指示する。計測間隔0.2mmで深部線量分布を計測するため、エネルギー吸収体207の厚みを0.0mm(ビーム通過位置からエネルギー吸収体207を全て外した状態),0.2mm,0.4mm,0.6mm(0.2mmと0.4mmのエネルギー吸収体を2枚挿入した状態),0.8mmと5回変更して計測を繰り返す。
【0059】
本実施では、実施例1と同様に、主制御装置206は計測結果からQs(x)を算出する。小電極401の面積は横方向の照射範囲と比べて十分小さく、計測で得られた線量は放射線計測装置101中における小電極401中心の局所的な線量と等価である。主制御装置206はQs(x)を水中線量Ds(x)に換算し、xについてディスプレイへ表示する。ディスプレイに表示された深部線量分布を確認して、操作者は陽子線照射装置102の調整結果及び性能を評価する。
【0060】
本実施例の放射線計測装置101によれば、ビームに対する設置位置を確認可能な構成であるため、ビームのブラックピークをより正確に計測することができる。
【0061】
本実施例の放射線計測装置101によれば、電荷収集チャンネル数を増大させることなくビームに対する設置位置を確認できるため、積層型放射線計測装置のコストを低減することができる。また、スキャニング照射法ではビーム軸が各層の小電極401の中心を通過するように位置決めされている場合、電荷収集チャンネル数を増大させることなくビームの横方向広がりを計測できる。積層型放射線計測装置のコストを低減することができる。
【0062】
本実施例の放射線計測装置101で深部線量分布を計測する場合、照射装置の線種が光子線,電子線,ミュオン線,パイ中間子線,中性子線であっても同様の効果が得られる。
【符号の説明】
【0063】
101 放射線計測装置
102 陽子線照射装置
103 陽子線発生装置
104 陽子線輸送装置
105 回転式照射装置
106 イオン源
107 前段加速器
108 シンクロトロン
109 出射デフレクタ
110 照射野形成装置
201 レンジシフタ
202 レンジシフタ駆動制御装置
203 センサー部
204 高電圧電源
205 信号処理装置
206 主制御装置
207 エネルギー吸収体
301 電荷収集用プリント基板(基板A)
302 高電圧印加用プリント基板(基板B)
303 スペーサ
304 ボルト
401 小電極(第1電極)
402 大電極(第2電極)
403 ガード電極(第3電極)
404,405,406,503,504 導線
501 高電圧印加電極
502 ガード電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線に対して反応するセンサーを放射線の進行方向へ複数積層した放射線計測装置であって、
前記センサーは、中心領域とこの中心領域を取り囲む他の領域とに分割され、前記各領域からの出力を独立して計測することを特徴とする放射線計測装置。
【請求項2】
前記センサーが電離箱であることを特徴とする請求項1に記載の放射線計測装置。
【請求項3】
前記センサーが放射線照射によって電流を発生する半導体検出器であることを特徴とする請求項1に記載の放射線計測装置。
【請求項4】
前記センサーがシンチレーションカウンタであることを特徴とする請求項1に記載の放射線計測装置。
【請求項5】
前記センサーは、前記中心領域で計測された放射線に基づく信号を取り出す第1電極と、前記中心領域を取り囲む他の領域で計測された放射線に基づく信号を取り出す第2電極を有し、
前記第1電極から出力された検出信号を処理して、又は前記第1電極から出力された検出信号及び第2電極から出力された検出信号を処理して前記放射線の分布を計測する信号処理装置を備え、
前記信号処理装置は、前記第1電極からの検出信号及び第2電極からの検出信号に基づいて前記放射線計測装置が所定の位置に設置されているか否かを判断することを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の放射線計測装置。
【請求項6】
前記信号処理装置は、
前記第1電極から出力された検出信号と前記第2電極から出力された検出信号との比から前記放射線の進行方向に垂直な平面での放射線線量の分散を算出し、当該算出結果に基づいて前記放射線計測装置が所定の位置に設置されているか否かを判断することを特徴とする請求項5に記載の放射線計測装置。
【請求項7】
前記信号処理装置は、
前記算出した前記放射線の進行方向に垂直な平面での放射線線量の分散が、ビーム進行方向に二次関数で増加するときに前記放射線計測装置が所定の位置に設置されていると判断することを特徴とする請求項6に記載の放射線計測装置。
【請求項8】
前記信号処理装置は、放射線計測装置が所定の位置に設置されていると判断したときの第1電極からの検出信号と第2電極からの検出信号の比を記憶装置に記憶し、それ以降は第1電極から出力された検出信号と第2電極から出力された検出信号から算出された比と、前記記憶装置に記憶される前記比とを比較することによって前記放射線計測装置が所定の位置に設置されているか否かを判断することを特徴とする請求項7に記載の放射線計測装置。
【請求項9】
放射線に対して反応するセンサーを放射線の進行方向へ複数積層した放射線計測装置であって、
前記センサーは、当該センサーの中心領域で計測された放射線に基づく信号を取り出す第1電極と、前記中心領域を取り囲む他の領域で計測された放射線に基づく信号を取り出す第2電極とを有し、
前記第1電極から出力された検出信号及び第2電極から出力された検出信号のそれぞれを処理して前記放射線の分布を計測する信号処理装置を備える前記放射線計測装置の位置決め方法であって、
前記信号処理装置が、前記第1電極からの検出信号及び第2電極からの検出信号に基づいて前記放射線計測装置が所定の位置に設置されているか否かを判断することを特徴とする前記放射線計測装置の位置決め方法。
【請求項10】
前記信号処理装置は、前記第1電極から出力された検出信号と前記第2電極から出力された検出信号との比から前記放射線の進行方向に垂直な平面での放射線線量の分散を算出し、当該算出結果に基づいて前記放射線計測装置が所定の位置に設置されているか否かを判断することを特徴とする請求項9に記載の前記放射線計測装置の位置決め方法。
【請求項11】
前記信号処理装置は、前記算出した前記放射線の進行方向に垂直な平面での放射線線量の分散が、ビーム進行方向に二次関数で増加するときに前記放射線計測装置が所定の位置に設置されていると判断することを特徴とする請求項10に記載の前記放射線計測装置の位置決め方法。
【請求項12】
前記信号処理装置は、放射線計測装置が所定の位置に設置されていると判断したときの第1電極からの検出信号と第2電極からの検出信号の比を記憶装置に記憶し、それ以降は第1電極から出力された検出信号と第2電極から出力された検出信号から算出された比と、前記記憶装置に記憶される前記比とを比較することによって前記放射線計測装置が所定の位置に設置されているか否かを判断することを特徴とする請求項11に記載の放射線計測装置の位置決め方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate