説明

放射能検出方法及び放射能検出器

【課題】離れた位置からでも放射能を検出することができ、さらに生体内や装置体内の放射性物質の放射能を検出感度よく検出することのできる放射能検出方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る放射能検出方法は、検査対象となる検査対象体に内在する空間内から収集された、電荷が中性の無帯電粒子と、電離放射線の作用によって生じた正イオンが付着してなる、正に帯電した正帯電粒子と、電離放射線の作用によって生じた負イオンが付着してなる、負に帯電した負帯電粒子と、が混在するエアロゾル粒子から、前記正帯電粒子のみ又は前記負帯電粒子のみを選別して得る選別ステップS1と、選別して得られた前記正帯電粒子又は前記負帯電粒子の電気量を測定して放射能を検出する検出ステップS2と、を含んでなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射能を検出する方法及び放射能を検出する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、人や動物など、生体が放射能を帯びた物質(以下「放射性物質」という。)を吸入してしまう吸入摂取事故が生じた場合や、小さな装置体内に放射性物質をこぼしたことが懸念される場合、生体内や装置体内に放射性物質が存在するか否か、また、それがどの程度のものであるか、放射能の有無および放射線量を調べる必要がある。
【0003】
放射能の有無は、放射能検出器により調べることができる。かかる放射能検出器としては、例えば、放射能の強弱を放射線の量として数値で表示することのできるガイガー=ミュラー検出器や電離箱、空間線量を測定することのできるシンチレーション検出器、Ge(ゲルマニウム)やNaI(ヨウ化ナトリウム)を用いた半導体検出器などが広く用いられている。これらの放射能検出器は、放射性物質から放出されるα線、β線、γ線などの電離放射線を直接計測して放射能を検出している。
【0004】
他方、電離放射線を直接計測しないで放射能を検出する放射能検出器も提案されている。
例えば、非特許文献1には、図9に示すように、α線の作用によって生じさせたイオンを検出して、元の放射能を推定する検出器について記載されている。かかる放射能検出器は、α線の放出源がある場に電場を掛けてイオンを集め、集めたイオンを電位計で計測することにより放射能を検出する。
【0005】
【非特許文献1】Richard Bolton, “Air-Quality Monitoring For Alpha Contamination - Long Range Alpha Detection”, CMST-IP Technology Summary, April 1994.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、検査対象がα線を放出する放射性物質である場合には、α線の物質透過力が弱いため空気中で届く範囲(飛程)が短く、離れた位置から放射能を検出することが困難である。また、複雑な構造である生体内や装置体内に放射性物質がある場合、これを検出することができない。
【0007】
また、非特許文献1に記載されている放射能検出器は、α線の作用によって生じさせたイオンを検出して放射能を検出するものであるが、α線の作用によって生じさせたイオンは、正負のイオン対として生じるため、クーロン引力により相互に引き寄せられて再結合し、早期に消失してしまったり、拡散力によって生体内の表面や装置体内の表面に付着して気体中から消失してしまったりする。そのため、検出感度が良好であるとはいえない場合がある。
さらに、非特許文献1に記載されている放射能検出器は、α線の放出源がある場に電場を掛けなければならないため、検査対象が生体である場合、放射性物質を検出することができない。また、装置体内にこれを構成する構造物などがある場合、構造物にイオンが衝突して消失するため検出感度が悪くなる場合がある。
【0008】
本発明は前記問題に鑑みてなされたものであり、離れた位置からでも放射能を検出することができ、さらに生体内や装置体内の放射性物質の放射能を検出感度よく検出することのできる放射能検出方法及び放射能検出器を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決した本発明に係る放射能検出方法は、検査対象となる検査対象体に内在する空間内から収集された、電荷が中性の無帯電粒子と、電離放射線の作用によって生じた正イオンが付着してなる、正に帯電した正帯電粒子と、電離放射線の作用によって生じた負イオンが付着してなる、負に帯電した負帯電粒子と、が混在するエアロゾル粒子から、前記正帯電粒子のみ又は前記負帯電粒子のみを選別して得る選別ステップと、選別して得られた前記正帯電粒子又は前記負帯電粒子の電気量を測定して放射能を検出する検出ステップと、を含むことを特徴としている(請求項1)。
【0010】
このように、本発明に係る放射能検出方法は、放射性物質から放出された電離放射線の作用によって生じた正イオン又は負イオンをエアロゾル粒子に付着させて生じた正帯電粒子又は負帯電粒子を用いるので、これらの粒子は、電荷を保ったまま比較的長時間かつ長距離気体中を移動させて、その電荷によって電気量を測定することができる。したがって、離れた位置からでも放射能を検出することができる。
【0011】
本発明においては、前記選別ステップの前に、粒子を含む懸濁液を霧状化させて当該粒子を前記エアロゾル粒子にする霧状化ステップと、霧状化した前記エアロゾル粒子に帯電する正及び負の電荷を中和する中和ステップと、中和した前記エアロゾル粒子のみを選別して前記空間内に導入する導入ステップと、を含むのが好ましい。
【0012】
本発明においては、前記選別ステップの前に、前記無帯電粒子のみを選別して前記空間内に導入する無帯電粒子選別ステップを含むのが好ましく(請求項2)、前記無帯電粒子選別ステップの前に、前記エアロゾル粒子に帯電する正及び負の電荷を中和して電荷が中性の無帯電粒子とする中和ステップを含むのがより好ましく(請求項3)、前記中和ステップの前に、粒子を含む懸濁液を霧状化させて当該粒子を前記エアロゾル粒子にする霧状化ステップを含むのがさらに好ましい(請求項4)。
【0013】
このようにすれば、本発明に係る放射能検出方法は、選別ステップの前に行われる無帯電粒子選別ステップ、中和ステップおよび霧状化ステップによって、放射能の検出に適した無電荷のエアロゾル粒子のみを用いて検査対象体の空間内の放射能を検出することができるので、さらに感度よく放射能を検出することができる。
【0014】
本発明で用いる前記エアロゾル粒子は、平均粒径が0.1〜1.0μmであるのが好ましく(請求項5)、また、前記導入ステップにおいて、前記空間内に導入する前記エアロゾル粒子の個数密度が100〜10000個/cmであるのが好ましい(請求項6)。
【0015】
このような特定の範囲の平均粒径を有するエアロゾル粒子を用いると、粒径が付着対象物として十分な表面積を持つのでイオンがこれに付着しやすいだけでなく、ブラウン熱運動による拡散が強くなく比較的長時間かつ長距離気体中を浮遊することができる粒径でもあるので、エアロゾル粒子が検査対象体の表面に付着して損失される、つまり収集不能となるのを低減することができる。また、エアロゾル粒子をこのような特定の範囲の個数密度で用いると、エアロゾル粒子同士の凝集反応が生じにくく正帯電粒子及び負帯電粒子を効率良く収集することができ、結果的に強いシグナルを得ることができるようになる。
【0016】
本発明で用いる前記エアロゾル粒子は、ラテックスで形成されているのが好ましく(請求項7)、ポリスチレン、スチレン・アクリレート、スチレン・ブタジエン、ジビニルベンゼン又はポリビニールトルエン、又はこれらを混合したもので形成されているのがより好ましい(請求項8)。
【0017】
これらの材質で形成された粒子を用いると、物性が不活性であるため検査対象体が生体であっても悪影響を及ぼす心配がない。また、粒径や濃度の制御も容易で、ほぼ均一の粒子を適切な濃度で用いることができる。
【0018】
本発明に係る放射能検出器は、検査対象となる検査対象体に内在する空間内から収集された、電荷が中性の無帯電粒子と、電離放射線の作用によって生じた正イオンが付着してなる、正に帯電した正帯電粒子と、電離放射線の作用によって生じた負イオンが付着してなる、負に帯電した負帯電粒子と、が混在するエアロゾル粒子から前記正帯電粒子のみ又は前記負帯電粒子のみを選別して得る選別手段と、選別して得られた前記正帯電粒子又は前記負帯電粒子の電気量を測定して放射能を検出する検出手段と、を備えたことを特徴としている(請求項9)。
【0019】
このように、本発明に係る放射能検出器は、放射性物質から放出された電離放射線の作用によって生じた正イオン又は負イオンをエアロゾル粒子に付着させて生じた正帯電粒子又は負帯電粒子を用いるので、これらの粒子は、電荷を保ったまま比較的長時間かつ長距離気体中を移動させて、その電荷によって電気量を測定することができる。したがって、離れた位置からでも放射能を検出することができる。
【0020】
本発明においては、前記無帯電粒子のみを選別して前記空間内に導入する無帯電粒子選別手段を備えているのが好ましく(請求項10)、前記無帯電粒子選別手段には、前記エアロゾル粒子に含まれる、正に帯電した正帯電粒子及び負に帯電した負帯電粒子を中和して、電荷が中性の無帯電粒子とする中和手段が接続されているのがより好ましく(請求項11)、前記中和手段には、粒子を含む懸濁液を霧状化させて当該粒子を前記エアロゾル粒子にする霧状化手段が接続されているのがさらに好ましい(請求項12)。
【0021】
このようにすれば、本発明に係る放射能検出器は、検査対象体に内在する空間にエアロゾル粒子を導入する無帯電粒子選別手段、これに接続された中和手段、及びこれに接続された霧状化手段によって、放射能の検出に適した無電荷のエアロゾル粒子のみを用いることができるので、検査対象体の空間内の放射能を、さらに感度よく検出することができるようになる。
つまり、かかる空間内に導入されて正帯電粒子又は負帯電粒子となった粒子は、結果的に電離放射線の作用によって生じたものとみなすことができるため、シグナル/ノイズ比が向上し、放射能の検出感度をより向上させることができる。
【0022】
本発明で用いる前記エアロゾル粒子は、平均粒径が0.1〜1.0μmであるのが好ましく(請求項13)、また、前記導入手段において、前記空間内に導入する前記エアロゾル粒子の個数密度が100〜10000個/cmであるのが好ましい(請求項14)。
【0023】
このような特定の範囲の平均粒径を有するエアロゾル粒子を用いると、粒径が付着対象物として十分な表面積を持つのでイオンがこれに付着しやすいだけでなく、ブラウン熱運動による拡散が強くなく比較的長時間かつ長距離気体中を浮遊することができる粒径でもあるので、エアロゾル粒子が検査対象体の表面に付着して損失されるのを低減することができる。また、エアロゾル粒子をこのような特定の範囲の個数密度で用いると、エアロゾル粒子同士の凝集反応が生じにくく正帯電粒子及び負帯電粒子を効率良く収集することができ、結果的に強いシグナルを得ることができるようになる。
【0024】
本発明で用いる前記エアロゾル粒子は、ラテックスで形成されているのが好ましく(請求項15)、ポリスチレン、スチレン・アクリレート、スチレン・ブタジエン、ジビニルベンゼン又はポリビニールトルエン、又はこれらを混合したもので形成されているのがより好ましい(請求項16)。
【0025】
エアロゾル粒子をこれらの材質で形成すると、物性が不活性であるため検査対象体が生体であっても悪影響を及ぼす心配がない。また、粒径や濃度の制御も容易で、ほぼ均一の粒子を適切な濃度で用いることができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明の放射能検出方法によれば、離れた位置からでも放射能を検出することができ、さらに生体内や装置体内の放射性物質の放射能を検出感度よく検出することができる。
また、本発明の放射能検出器によれば、離れた位置からでも放射能を検出することができ、さらに生体内や装置体内の放射性物質の放射能を検出感度よく検出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
図1に示すように、α線やβ線は、荷電をもつ粒子線であり、それ自体が直接、原子の軌道電子あるいは分子に束縛された電子に電気的な力を及ぼして電離を起こさせ、正負のイオンを生じさせる。1対の正負のイオン(以下、イオン対)を生じさせるのに必要なエネルギーを一般的にW値といい、物質が気体である場合には、気体の種類によって僅かに異なるが約35eVである。放射能が1Bqあれば、1秒間に1回放射性壊変が生じる。例えば、放射性核種239Puはα壊変するので、1Bq当たり1秒間に1個のα線が放出される。239Puから放出されるα線のエネルギーは約5.1MeVであるので、全エネルギーが気体の電離に使われたとすると、1個のα線により1.5×10のイオン対が生成される。したがって、239Puを検出するためには、1個のα線を検出するよりも、約15万倍に増幅されたイオン対の個数を計数したり、電気量を測定したりする方が、放射能の検出感度の点で飛躍的な向上が期待できる。
【0028】
しかし、図2(a)に示すように、α線やβ線の電離作用によって生じたイオン対は通常、これらがクーロン引力により相互に引き寄せられて再結合し、早期に消失したり、拡散力によって検査対象体に内在する空間の表面に付着して気体中から消失したりしてしまう。
【0029】
本発明者らは、前記知見を基に鋭意研究した結果、図2(b)に示すように、気体中に浮遊する微粒子(エアロゾル粒子)にイオンを付着させ、これに電荷を帯びさせれば、再結合によるイオンの消失を防ぐことができるだけでなく、検査対象体に内在する空間の表面にイオンが付着して消失するのを防ぎつつ、比較的長時間、長距離にわたって気体中を移動させることが可能であることを見出すとともに、収集したエアロゾル粒子の電気量を測定することで放射能の検出が可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0030】
まず、図3及び図4を参照して本発明に係る放射能検出方法について詳細に説明する。
参照する図面において、図3は、本発明に係る放射能検出方法の一実施形態を説明するフローチャートであり、図4(a)〜(c)は、本発明のより好ましい実施形態に係る放射能検出方法を説明するフローチャートである。
【0031】
図3に示すように、本発明に係る放射能検出方法の一実施形態は、検査対象となる検査対象体に内在する空間内から収集されたエアロゾル粒子から、これに含まれている正帯電粒子のみ又は負帯電粒子のみを選別して得る選別ステップS1と、選別ステップS1で選別して得られた正帯電粒子又は負帯電粒子の電気量を測定して放射能を検出する検出ステップS2と、を含んでなる。
【0032】
検査対象となる検査対象体に内在する空間内に放射性物質が存在していた場合、この空間内から収集されたエアロゾル粒子には、放射性物質から放出された電離放射線の作用によって生じた正イオンが付着してなる、正に帯電した正帯電粒子と、電離放射線の作用によって生じた負イオンが付着してなる、負に帯電した負帯電粒子と、正イオン又は負イオンの何れも付着せず、電荷が中性を保った無帯電粒子と、が混在している。
【0033】
電離放射線の作用によって生じた正イオン又は負イオンは、他の物質に付着すると空気中からは消失してしまい、そのシグナルを取り出すことができない。一方、エアロゾル粒子は、正イオン又は負イオンの付着の有無に関わらず空気中に長時間浮遊している。正イオン及び負イオンが付着することによってエアロゾル粒子全体がそれに対応した電荷を帯び、その電荷を長時間保つことが可能である。なお、長時間とは、本発明においては少なくとも電離放射線によってイオンが生じてから、これがエアロゾル粒子に付着し、収集されるまでの時間をいうが、これよりも長い時間も含まれることはいうまでもない。
【0034】
ここで、本発明の放射能検出方法の検査対象となる検査対象体としては、例えば、人や動物などの生体や、各種の装置体などを挙げることができる。
また、検査対象体に内在する空間内とは、例えば、人や動物などの生体であれば、肺内、気管内、鼻腔内などを例示することができ、各種の装置体などであれば、当該装置体のカバー体に覆われた内部などを例示することができる。
【0035】
この選別ステップS1においては、検査対象体から収集されたエアロゾル粒子を用いるので、当該エアロゾル粒子がどのようにして収集されたかは特に問題とはならないが、かかるエアロゾル粒子の収集は、例えば、検査対象体が人や動物などの生体であれば、その呼気を収集したり、検査対象体が装置体であれば、吸引器で吸引したり、検査対象体に応じて適宜に行うことができる。また、検査対象体から収集したエアロゾル粒子を捕集しておく場合は、これを捕集することができる適宜の手法によって捕集しておくのもよい。
【0036】
また、収集した正帯電粒子又は負帯電粒子の選別は、例えば、電極間に電場をかけて、負極側又は正極側に正帯電粒子又は負帯電粒子を引き寄せることにより行うことができる。しかし、本発明においては、正帯電粒子又は負帯電粒子を選別できれば他の方法によって行ってもよく、前記した選別方法に限定されるものではない。
【0037】
次の検出ステップS2で行う正帯電粒子又は負帯電粒子の電気量の測定は、正帯電粒子又は負帯電粒子の帯びる電荷を積算等することで好適に行うことができる。また、単位時間当たりの積算量としてもよい。
【0038】
なお、キャリアとしての役割を担うエアロゾル粒子は、長時間気体中に浮遊することができ、かつイオンが付着しやすいものであればよい。例えば、微粒子が浮遊している大気をそのまま用いることもできる。しかし、正帯電粒子や負帯電粒子を確実かつ大量に得るため、粒子の平均粒径や、単位体積あたりの個数密度、材質などを制御して適切化した上で使用するのが好ましい。
【0039】
エアロゾル粒子の平均粒径は0.1〜1.0μmとするのが好ましい。エアロゾル粒子の平均粒径が0.1μmよりも小さいと、ブラウン運動による熱拡散が働くため、気体中に長時間浮遊することができない。また、エアロゾル粒子の平均粒径が1.0μmよりも大きいと、重力沈降や慣性力により気体中に長時間浮遊することができない。なお、エアロゾル粒子の平均粒径は、0.1〜0.5μmとするのがより好ましく、0.1〜0.3μmとするのがさらに好ましい。
【0040】
エアロゾル粒子の平均粒径は、後記するように、エアロゾル粒子となる、懸濁液に含まれる粒子の平均粒径を調節することによって制御することができる。かかる粒子の平均粒径は、例えば、前記したラテックスを用いる場合、その重合度を変更することで任意に調節することができる。
【0041】
また、エアロゾル粒子の単位体積あたりの個数密度は100〜10000個/cmとするのが好ましい。エアロゾル粒子の単位体積あたりの個数密度が100個/cmよりも小さいと、得られるシグナルが弱くなり、検出感度が悪くなる。また、エアロゾル粒子の単位体積あたりの個数密度が10000個/cmよりも大きいと、エアロゾル粒子同士がくっつきやすくなる。エアロゾル粒子同士がくっつくと体積が大きくなるとともに重量も重くなり、重力沈降によって検査対象体に内在する空間の表面(底面)に沈着する率(表面沈着率)が高くなってしまうので好ましくない。エアロゾル粒子の単位体積あたりの個数密度は、1000〜5000個/cmとするのがより好ましく、およそ3000個/cmとするのがさらに好ましい。
【0042】
なお、エアロゾル粒子の単位体積あたりの個数密度は、例えば、後記する、エアロゾル粒子となる粒子を含む懸濁液の霧状化条件を制御することによって適宜に設定可能である。つまり、霧状化条件を弱くすれば、エアロゾル粒子の単位体積あたりの個数密度が小さくなり、霧状化条件を強くすれば、エアロゾル粒子の単位体積あたりの個数密度が大きくなる。具体的な霧状化条件は、霧状化する装置等によって異なるので、かかる装置ごとに設定するのがよい。
【0043】
エアロゾル粒子は、不活性な材質で形成するのがよく。例えば、ラテックスを用いて形成するのが好ましい。具体的には、ポリスチレン、スチレン・アクリレート、スチレン・ブタジエン、ジビニルベンゼン又はポリビニールトルエン、又はこれらを混合したものを用いて形成するのが好ましい。
【0044】
以上説明したように、本発明の放射能検出方法によれば、選別ステップS1で放射性物質から放出された電離放射線の作用によって生じた正イオン又は負イオンをエアロゾル粒子に付着させて生じた正帯電粒子又は負帯電粒子を選別して得、検出ステップS2で正帯電粒子又は負帯電粒子に帯電した電気量を測定し、放射能を検出するので、離れた位置からでも放射能を検出することができる。また、生体内や装置体内の放射性物質の放射能であっても、検出感度よくこれを検出することができる。
【0045】
次に、本発明のより好ましい実施形態に係る放射能検出方法について説明する。
本発明のより好ましい実施形態に係る放射能検出方法は、図4(a)に示すように、前記した選別ステップS1の前に、無帯電粒子選別ステップS13を含むものである。
無帯電粒子選別ステップS13は、無帯電粒子のみを選別して前記空間内に導入する。このように、無帯電粒子のみを選別して前記空間内に導入すれば、前記した空間内に導入されるエアロゾル粒子に元々含まれる正帯電粒子や負帯電粒子による電気量(シグナル)を検出することがないので、検出ステップS2において放射能をより正確に検出することができる。
【0046】
無帯電粒子のみを選別する手法としては、例えば、電極間に電場をかけて、これに引き寄せられなかった粒子(エアロゾル粒子)のみを用いるようにすることで行うことができるが、本発明においては、無帯電粒子のみを選別することができれば、他の手法によってもよいことはいうまでもない。
【0047】
本発明に係る放射能検出方法のより好ましい、他の実施形態は、図4(b)に示すように、前記した無帯電粒子選別ステップS13の前に、エアロゾル粒子に含まれる、正に帯電した正帯電粒子及び負に帯電した負帯電粒子を中和して、電荷が中性の無帯電粒子とする中和ステップS12を含むものである。
通常、エアロゾル粒子には、正に帯電した正帯電粒子及び負に帯電した負帯電粒子が相当量含まれている(エアロゾル粒子を人工的に発生させた場合を含め、正帯電粒子や負帯電粒子の量は、測定する環境条件によって異なる。)。前記したように、無帯電粒子選別ステップS13によってそのような粒子を除くことができるが、単位体積当たりの個数密度が小さくなるおそれがある。したがって、これを防止するとともに、無帯電粒子選別ステップS13で得られる効果を確実にするためにも、エアロゾル粒子に含まれる正帯電粒子及び負帯電粒子を中和するのが好ましい。
【0048】
中和ステップS12は、エアロゾル粒子に含まれる正帯電粒子や負帯電粒子に対して、電子を供与又は授受させることで行うことができ、例えば、コロナ放電させた気体内にエアロゾル粒子を導入することで行うことができる。
【0049】
本発明に係る放射能検出方法のより好ましい、更に他の実施形態は、図4(c)に示すように、前記した中和ステップS12の前に、粒子を含む懸濁液を霧状化させて、当該粒子をエアロゾル粒子にする霧状化ステップS11を含むものである。
前記したように、本発明においては、大気中に浮遊している微粒子をそのままエアロゾル粒子として用いることもできるが、このような態様であると、エアロゾル粒子の単位体積あたりの個数密度が安定しなかったり、十分に高い密度ではなかったりするおそれがある。そのため、継続的に単位体積あたりの個数密度を一定以上に維持させてこれを確実に得るためには、霧状化ステップS11によってエアロゾル粒子を発生させるのが好ましい。
【0050】
粒子を含む懸濁液を霧状化させてエアロゾル粒子を得る手法としては、従来公知の手法を用いることができる。例えば、粒子を含む懸濁液を圧縮空気で噴霧したり、超音波等によって振動させたりすることによって、好適にエアロゾル粒子とすることができる。
【0051】
本発明の放射能検出方法は、放射能を簡便に検出するという目的や、放射能の検出感度をよくするといった目的に応じて、適宜の実施形態で実施できることはいうまでもない。
例えば、放射能を簡便に検出するという目的の場合は、選別ステップS1及び検出ステップS2の順で処理(図3参照)すればよく、放射能の検出感度をよくするといった目的の場合は、霧状化ステップS11、中和ステップS12、無帯電粒子選別ステップS13、選別ステップS1及び検出ステップS2の順で処理(図4(c)参照)すればよい。
【0052】
また、本発明に係る放射能検出方法においては、選別ステップS1や、望ましくは霧状化ステップS11を行う前に、S/N比を向上させることを目的として、検査対象体以外のものに対して同様の処理を行い、予めバックグラウンドを測定するのが好ましい。予め測定しておいたバックグラウンドを用いて、検出ステップS2で得られた電気量(シグナル)を補正することにより、S/N比を向上させることが可能である。このようにすると、放射能レベルの高い地域や低い地域など、地域的要因によって放射能レベルが変動する場合であっても、そのような地域的要因を排除して、より正確な放射能の検出が可能となる。
【0053】
以下、図5から図8を参照して、本発明に係る放射能検出器について説明する。
参照する図面において、図5は、本発明に係る放射能検出器の一実施形態を説明する説明図であり、図6から図8は、本発明のより好ましい実施形態に係る放射能検出器を説明する説明図である。
なお、エアロゾル粒子の平均粒径が0.1〜1.0μmであると好ましい点、検査対象体に内在する空間内に導入するエアロゾル粒子の個数密度が100〜10000個/cmであると好ましい点、及びエアロゾル粒子をラテックス等で形成すると好ましい点や、これらの特定の範囲に制御する手法等については、既に詳細に説明しているので、以下ではその説明を省略する。
【0054】
図5に示すように、本発明に係る放射能検出器1の一実施形態は、検査対象となる検査対象体に内在する空間内から収集されたエアロゾル粒子から正帯電粒子のみ又は負帯電粒子のみを選別して得る選別手段2と、選別して得られた正帯電粒子又は負帯電粒子の電気量を測定して放射能を検出する検出手段3と、を備えてなる。
【0055】
検査対象となる検査対象体に内在する空間内から収集されたエアロゾル粒子には、電荷が中性の無帯電粒子と、電離放射線の作用によって生じた正イオンが付着してなる、正に帯電した正帯電粒子と、電離放射線の作用によって生じた負イオンが付着してなる、負に帯電した負帯電粒子と、が混在していることは前記したとおりである。
【0056】
選別手段2で用いるエアロゾル粒子の収集は、例えば、検査対象体が人や動物などの生体であれば、その呼気の漏洩を防止するためのマスクと、これと接続された呼気案内用の案内チューブと、を用いることで好適に行うことができる。また、案内チューブで案内された先に、エアロゾル粒子を捕集しておくための捕集フィルターを設けておくのもよい。
【0057】
そして、収集したエアロゾル粒子から正帯電粒子のみ又は負帯電粒子のみを選別するには、例えば、平行平板電極を二つ備えた電極装置の電極間に電場をかけて、負極側又は正極側に引き寄せられたものを得ることで容易になすことができる。しかし、本発明においては、正帯電粒子又は負帯電粒子を選別できれば他の装置等で行ってもよく、前記した選別手段に限定されるものではない。例えば、二重円筒型の電極装置などでも同様に選別することができる。
【0058】
検出手段3としては、一般的に使用される電気計器を用いることができる。例えば、前記した平行平板電極を二つ備えた電極装置に接続された積算電気計器や指示電気計器などを好適に挙げることができる。なお、本発明においては、正帯電粒子又は負帯電粒子の電気量を測定することができればよく、他の電気計器を用いることもできることはいうまでもない。
【0059】
以上説明したように、本発明の放射能検出器によれば、選別手段2で放射性物質から放出された電離放射線の作用によって生じた正イオン又は負イオンをエアロゾル粒子に付着させて生じた正帯電粒子又は負帯電粒子を選別して得、検出手段3で正帯電粒子又は負帯電粒子に帯電した電気量を測定し、放射能を検出するので、離れた位置からでも放射能を検出することができる。また、生体内や装置体内の放射性物質の放射能であっても、検出感度よくこれを検出することができる。
【0060】
次に、図6〜8を参照して、本発明のより好ましい実施形態に係る放射能検出器1a、1b、1cについて説明する。
本発明のより好ましい実施形態に係る放射能検出器1aは、図6に示すように、選別手段2及び検出手段3に加えて、無帯電粒子のみを選別して前記空間内に導入する無帯電粒子選別手段23をさらに備えたものである。
かかる無帯電粒子選別手段23としては、例えば、平行平板電極を二つ備えた電極装置を挙げることができる。すなわち、平行平板電極の間に電場をかけ、正極側及び負極側に引き寄せられなかったエアロゾル粒子を、電荷が中性の無帯電粒子として用いることができる。
【0061】
本発明のより好ましい他の実施形態に係る放射能検出器1bは、図7に示すように、前記した無帯電粒子選別手段23に、エアロゾル粒子に含まれる正帯電粒子及び負帯電粒子を中和して、電荷が中性の無帯電粒子とする中和手段22を接続したものである。
かかる中和手段22としては、例えば、コロナ放電を行うコロナ放電器によって好適に行うことができる。
【0062】
本発明のより好ましい他の実施形態に係る放射能検出器1cは、図8に示すように、前記した中和手段22に、粒子を含む懸濁液を霧状化させて当該粒子をエアロゾル粒子にする霧状化手段21を接続したものである。
かかる霧状化手段21としては、例えば、懸濁液を圧縮空気で噴霧する霧吹き器や、懸濁液に対して超音波を発振することのできる超音波ネブライザーなどを挙げることができる。
【0063】
本発明の放射能検出器も放射能検出方法で述べたのと同様に、放射能を簡便に検出するという目的や、放射能の検出感度をよくするといった目的に応じて、適宜の実施形態で実施できることはいうまでもない。
例えば、放射能を簡便に検出するという目的の場合は、選別手段2及び検出手段3を備えればよく(図5参照)、放射能の検出感度をよくするといった目的の場合は、霧状化手段21、中和手段22、無帯電粒子選別手段23、選別手段2及び検出手段3を備えればよい(図8参照)。
【0064】
以上、本発明に係る放射能検出方法及び放射能検出器について、発明を実施するための最良の形態により具体的に説明したが、本発明の趣旨はこれらの記載に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載に基づいて広く解釈されなければならない。また、これらの記載に基づいて種々変更、改変等したものも本発明の趣旨に含まれることはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】電離放射線の作用を説明する図である。
【図2】(a)は、生じたイオン対が消失する様子を説明する図であり、(b)は、本発明の原理を説明する図である。
【図3】本発明に係る放射能検出方法の一実施形態を説明するフローチャートである。
【図4】(a)〜(c)は、本発明のより好ましい実施形態に係る放射能検出方法を説明するフローチャートである。
【図5】本発明に係る放射能検出器の一実施形態を説明する説明図である。
【図6】本発明のより好ましい他の実施形態に係る放射能検出器を説明する説明図である。
【図7】本発明のより好ましい他の実施形態に係る放射能検出器を説明する説明図である。
【図8】本発明のより好ましい他の実施形態に係る放射能検出器を説明する説明図である。
【図9】従来の放射能検出器の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0066】
S1 選別ステップ
S11 霧状化ステップ
S12 中和ステップ
S13 無帯電粒子選別ステップ
S2 検出ステップ
1、1a、1b、1c 放射能検出器
2 選別手段
21 霧状化手段
22 中和手段
23 無帯電粒子選別手段
3 検出手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検査対象となる検査対象体に内在する空間内から収集された、電荷が中性の無帯電粒子と、電離放射線の作用によって生じた正イオンが付着してなる、正に帯電した正帯電粒子と、電離放射線の作用によって生じた負イオンが付着してなる、負に帯電した負帯電粒子と、が混在するエアロゾル粒子から、前記正帯電粒子のみ又は前記負帯電粒子のみを選別して得る選別ステップと、
選別して得られた前記正帯電粒子又は前記負帯電粒子の電気量を測定して放射能を検出する検出ステップと、
を含むことを特徴とする放射能検出方法。
【請求項2】
前記選別ステップの前に、
無帯電粒子のみを選別して前記空間内に導入する無帯電粒子選別ステップ
を含むことを特徴とする請求項1に記載の放射能検出方法。
【請求項3】
前記無帯電粒子選別ステップの前に、
前記エアロゾル粒子に含まれる、正に帯電した正帯電粒子及び負に帯電した負帯電粒子を中和して、電荷が中性の無帯電粒子とする中和ステップ
を含むことを特徴とする請求項2に記載の放射能検出方法。
【請求項4】
前記中和ステップの前に、
粒子を含む懸濁液を霧状化させて当該粒子を前記エアロゾル粒子にする霧状化ステップを
含むことを特徴とする請求項3に記載の放射能検出方法。
【請求項5】
前記エアロゾル粒子は、平均粒径が0.1〜1.0μmであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の放射能検出方法。
【請求項6】
前記導入ステップにおいて、前記空間内に導入する前記エアロゾル粒子の個数密度が100〜10000個/cmであることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の放射能検出方法。
【請求項7】
前記エアロゾル粒子が、ラテックスで形成されていることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の放射能検出方法。
【請求項8】
前記エアロゾル粒子が、ポリスチレン、スチレン・アクリレート、スチレン・ブタジエン、ジビニルベンゼン又はポリビニールトルエン、又はこれらを混合したもので形成されていることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の放射能検出方法。
【請求項9】
検査対象となる検査対象体に内在する空間内から収集された、電荷が中性の無帯電粒子と、電離放射線の作用によって生じた正イオンが付着してなる、正に帯電した正帯電粒子と、電離放射線の作用によって生じた負イオンが付着してなる、負に帯電した負帯電粒子と、が混在するエアロゾル粒子から前記正帯電粒子のみ又は前記負帯電粒子のみを選別して得る選別手段と、
選別して得られた前記正帯電粒子又は前記負帯電粒子の電気量を測定して放射能を検出する検出手段と、
を備えたことを特徴とする放射能検出器。
【請求項10】
前記無帯電粒子のみを選別して前記空間内に導入する無帯電粒子選別手段
を備えていることを特徴とする請求項9に記載の放射能検出器。
【請求項11】
前記無帯電粒子選別手段には、
前記エアロゾル粒子に含まれる、正に帯電した正帯電粒子及び負に帯電した負帯電粒子を中和して、電荷が中性の無帯電粒子とする中和手段
が接続されていることを特徴とする請求項10に記載の放射能検出器。
【請求項12】
前記中和手段には、
粒子を含む懸濁液を霧状化させて当該粒子を前記エアロゾル粒子にする霧状化手段
が接続されていることを特徴とする請求項11に記載の放射能検出器。
【請求項13】
前記エアロゾル粒子は、平均粒径が0.1〜1.0μmであることを特徴とする請求項9から請求項12のいずれか1項に記載の放射能検出器。
【請求項14】
前記導入手段において、前記空間内に導入する前記エアロゾル粒子の個数密度が100〜10000個/cmであることを特徴とする請求項9から請求項13のいずれか1項に記載の放射能検出器。
【請求項15】
前記エアロゾル粒子が、ラテックスで形成されていることを特徴とする請求項9から請求項14のいずれか1項に記載の放射能検出器。
【請求項16】
前記エアロゾル粒子が、ポリスチレン、スチレン・アクリレート、スチレン・ブタジエン、ジビニルベンゼン又はポリビニールトルエン、又はこれらを混合したもので形成されていることを特徴とする請求項9から請求項15のいずれか1項に記載の放射能検出器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−25112(P2009−25112A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−187888(P2007−187888)
【出願日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【出願人】(301032942)独立行政法人放射線医学総合研究所 (149)
【出願人】(505374783)独立行政法人 日本原子力研究開発機構 (727)
【Fターム(参考)】