説明

放射能測定方法,放射能測定システム,および放射能測定用試料

【課題】簡便かつ安全に液体放射能を測定できる放射能測定方法,放射能測定システム,および放射能測定用試料を提供する。
【解決手段】放射能測定方法が,吸水性高分子ポリマを有する放射能測定用試料に,放射能を含む液体を吸収させる工程と,前記放射能測定用試料に吸収された液体の量を検知する工程と,前記液体を吸収した放射能測定用試料の放射能の量を測定する工程と,前記測定された放射能の量と,前記検知された液体の量とに基づいて,前記液体の放射能濃度を算出する工程と,を具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,放射能測定方法,放射能測定システム,および放射能測定用試料に関する。
【背景技術】
【0002】
放射性物質を含んだ液体の放射能(液体放射能)を測定することがある。この場合,サンプリングした液体を容器に採取し,放射能測定装置が設置されている場所に運び,容器内の液体から放射される放射線の線量が測定される。
【0003】
このとき,取扱の不注意による容器の破損等により,放射性物質を含んだ液体が飛散して,施設を汚染する可能性が有る。また,サンプリングした試料を放射能測定装置が設置している場所まで運ぶ際に,被曝する恐れが有る。
【0004】
ここで,固体高分子物質を気相又は液相中に一定時間設置して放射性核種を吸収させ,該放射性核種を吸収した固体高分子物質を溶媒にて溶解し,該溶解液の放射線計数値から上記気相又は液相中の放射性核種の濃度を測定する技術が公開されている(特許文献1参照)。
しかしながら,特許文献1記載の技術では,放射性核種を吸収した固体高分子物質を溶解し,この溶解液の放射線計数値を測定することから,簡便性,安全性が十分とは言い難い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−21652号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記に鑑み,本発明は簡便かつ安全に液体放射能を測定できる放射能測定方法,放射能測定システム,および放射能測定用試料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係る放射能測定方法は,吸水性高分子ポリマを有する放射能測定用試料に,放射能を含む液体を吸収させる工程と,前記放射能測定用試料に吸収された液体の量を検知する工程と,前記液体を吸収した放射能測定用試料の放射能の量を測定する工程と,前記測定された放射能の量と,前記検知された液体の量とに基づいて,前記液体の放射能濃度を算出する工程と,を具備する。
【0008】
本発明の一態様に係る放射能測定システムは,吸水性高分子ポリマを有する放射能測定用試料に前記液体を吸収させる手段と,前記放射能測定用試料に吸収された液体の量を検知する手段と,前記液体を吸収した放射能測定用試料の放射能の量を測定する手段と,前記測定された放射能の量と,前記検知された液体の量とに基づいて,前記液体の放射能濃度を算出する手段と,を具備する。
【0009】
本発明の一態様に係る放射能測定用試料は,開口を有する容器と,前記容器内に配置され,前記開口から流入し,放射能を含む液体を吸収する吸水性高分子ポリマ層と,を具備する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば,簡便かつ安全に液体放射能を測定できる放射能測定方法,放射能測定システム,および放射能測定用試料を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】放射能モニタシステム100の構成図である。
【図2】吸水性高分子ポリマーフィルタ150の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下,本発明の実施形態に係る液体放射能モニタシステム10を説明する。
図1は,放射能モニタシステム100の構成図である。放射能モニタシステム100は,試料吸水部110,測定部120,試料排出部130,試料移動部140を有し,吸水性高分子ポリマーフィルタ150を用いて,液体放射能をモニタする。
【0013】
試料吸水部110は,試料設置部111,サンプリング配管112,液供給配管113,洗浄水配管114,ドレン回収タンク115を有し,吸水性高分子ポリマーフィルタ150に放射能測定用の液体(測定用液体,例えば,水)を吸水させる。即ち,試料吸水部110は,吸水性高分子ポリマーフィルタ150(吸水性高分子ポリマを有する放射能測定用試料)に測定用液体を吸収させる手段として機能する。
【0014】
試料設置部111は,吸水性高分子ポリマーフィルタ150に測定用液体を吸収させるための領域である。試料設置部111に配置される吸水性高分子ポリマーフィルタ150に,サンプリング配管112,液供給配管113を経由して,測定用液体が供給される。液供給配管113から排出された測定用液体が試料設置部111の漏斗111aから吸水性高分子ポリマーフィルタ150に注入,吸収される。もし,注入された測定用液体の量が多く,吸水性高分子ポリマーフィルタ150から溢れた場合,シンク(液体受け)111bで受け止められる。
【0015】
サンプリング配管112は,測定用液体を移送するための配管である。サンプリング配管112は,測定用液体をサンプリングしたい箇所(例えば,原子力発電所の復水,冷却水のタンクや配管)に接続され,このサンプリング箇所から測定用液体を移送する。複数の箇所での効率的なサンプリングを可能とするため,複数のサンプリング配管112が複数のサンプリング箇所に接続され,切り替えて用いられる。弁112aを開状態とし,不図示のポンプを動作させることで,所望のサンプリング箇所から測定用液体を移送する。
【0016】
液供給配管113は,サンプリング配管112によって移送された測定用液体を吸水性高分子ポリマーフィルタ150に移送する配管である。既述のように,液供給配管113の端部から漏斗111aを経由して,吸水性高分子ポリマーフィルタ150に注入される。
【0017】
洗浄水配管114は,液供給配管113を洗浄するための配管である。例えば,サンプリング箇所(サンプリング配管112)を切り替える場合に,液供給配管113に洗浄用の液体(洗浄液)を流通させ,切り替え前のサンプリング配管112から流入した測定用液体が除去される。切り替え前後での測定用液体の混合を防止することで,測定の誤りが防止される。この洗浄の際には,試料設置部111から吸水性高分子ポリマーフィルタ150が除去され,洗浄液が液供給配管113からシンク111bを経由して,ドレン回収タンク115に流入する。洗浄後には,液供給配管113から一旦液体が除去される。
【0018】
ドレン回収タンク115は,試料設置部111に配置された吸水性高分子ポリマーフィルタ150から漏れた測定用液体を回収するためのタンクである。また,ドレン回収タンク115は,液供給配管113を洗浄するための洗浄液を回収するためのタンクでもある。
【0019】
試料吸水部110は,「吸水性高分子ポリマーフィルタ150(放射能測定用試料)に吸収された測定用液体の量を検知する手段」として機能する。例えば,次のa)〜c)の何れかによって,水性高分子ポリマーフィルタ150に吸収された測定用液体の量を検知できる。なお,この詳細は後述する。
【0020】
a)液供給配管113から注入された液体量
b)液体の注入の前後の吸水性高分子ポリマーフィルタ150の質量の測定
c)吸水性高分子ポリマーフィルタ150の吸収限界
【0021】
測定部(サンプラ)120は,放射線検出器121,遮蔽部122を有し,測定用液体を吸収した吸水性高分子ポリマーフィルタ150の放射能の量を測定する。
【0022】
放射線検出器121は,測定部120内に設置される,例えば,半導体(例えば,Ge)検出器,GM(ガイガー−ミュラー)検出器,シンチレーション検出器(例えば,NaI)であり,測定用液体を吸収した吸水性高分子ポリマーフィルタ150からの放射線量を測定する。
【0023】
測定部120は,放射線検出器121で測定された放射線量に基づき,測定用液体を吸収した吸水性高分子ポリマーフィルタ150中の放射能の量を,例えば,ベクレル(Bq)を単位として,算出する。即ち,測定部120は,「測定用液体を吸収した吸水性高分子ポリマーフィルタ150(放射能測定用試料)の放射能の量を測定する手段」として機能する。
【0024】
また,測定部120は,「測定された放射能の量と,前記検知された液体の量とに基づいて,前記液体の放射能濃度を算出する手段」としても機能する。即ち,測定部120は,測定された放射能量を検知された液体量(体積,または質量)で除算することで,放射能濃度(「Bq/cm」,「Bq/g」)を算出する。
【0025】
遮蔽部122は,測定部120内外で放射線を遮断するための,例えば,鉛の遮蔽板である。遮蔽部122は,測定部120内に浸入するバックグランド放射線量を低下させて,放射能の測定精度の向上が図られる。
【0026】
試料排出部130は,測定された吸水性高分子ポリマーフィルタ150を一時的に蓄積し,排気するための区画である。
【0027】
試料移動部140は,ベルトコンベヤ,ロボットアーム等であり,吸水性高分子ポリマーフィルタ150を試料設置部111,測定部120,試料排出部130間で移動させる。吸水した吸水性高分子ポリマーフィルタ150を測定部120に移動し,測定が完了した吸水性高分子ポリマーフィルタ150を測定部120から試料排出部130へと移動する。
【0028】
図2に示すように,吸水性高分子ポリマーフィルタ(放射能測定用試料)150は,容器151,表面材152,吸水材153,防水材154により構成できる。なお,図2では,容器151の一部が切り欠いて,その断面が表されている。
【0029】
容器151は,開口(注液口)155を有し,試料吸水部110によって,この開口155から測定用液体が注入される。
【0030】
表面材152は,開口155から注入された測定用液体を吸収し,吸水材153に送り込む。表面材152は,例えば,表面側の繊維が粗で,裏面側の繊維が密な構造の布であり,毛細管現象を利用し,粗な部分から密な部分に液体を移動させる。表面材152は,天然繊維,合成繊維(ポリエステル,ポリプロピレン,ナイロン,さらにはアクリル等)いずれのものでも使用できる。また,織物,編み物,不織布等いずれの組織のものでも使用することができる。
表面材152は,吸水性高分子ポリマ層の上に配置され,かつ上側より下側が密な繊維組織層として機能する。
【0031】
表面材152を通過した液体は,表面材152の下にある吸水材(吸水性高分子ポリマ層)153に送り込まれる。この吸水材153には高分子吸水体(吸水性高分子ポリマー)が含まれ,多量の液体を瞬時に吸収し,保持する(逆戻りしない)。
【0032】
吸水性高分子ポリマーは,例えば,ポリアクリル酸ナトリウム (sodium polyacrylate)からなり,網目状の分子の鎖が,塩(えん)と結合した構造を有する。吸水性高分子ポリマーの中に存在する塩に,液体(特に,水)が引き寄せられる。網目状の分子の鎖は,多量の液体を吸収してもゼリーの形(ゲル)を保ち,液体を安定して保持できる。
【0033】
防水材(防水層)154は,吸水材153で吸収された液体が外部に流出することを防止する。防水材154には,例えば,疎水性または親水性の不織布,プラスチックフィルムを使用できる。防水材154に,通気性を持たすことも可能である。吸水性高分子ポリマーフィルタ150から測定用液体を蒸発させ,吸水性高分子ポリマーフィルタ150に残留する放射性物質(測定用液体に含まれていた放射性物質)に起因する放射能を測定する場合には,防水材154が通気性を有することが好ましい。例えば,微細な開孔を有するプラスチックフィルムを用いて,通気不透水性の防水材154を構成できる。
【0034】
吸水性高分子ポリマーフィルタ150には種々の変形例が考えられる。例えば,(1)吸水材153のみ,(2)容器151および吸水材153,(3)容器151,表面材152,および吸水材153,(4)表面材152,吸水材153,および防水材154から,吸水性高分子ポリマーフィルタ150を構成できる。即ち,吸水材153以外の構成要素(容器151,表面材152,および防水材154)を適宜に組み合わせて用いることができる。
【0035】
(放射能モニタシステム100の動作)
以下,放射能モニタシステム100の動作手順の一例を説明する。放射能モニタシステム100を次の手順A〜Cで動作させることができる。
【0036】
A.液体の供給(吸水)
ここでは,吸水性高分子ポリマーフィルタ150(吸水性高分子ポリマを有する放射能測定用試料)に,測定用液体(放射能を含む液体)を吸収させる。
【0037】
まず,試料移動部140によって,吸水性高分子ポリマーフィルタ150を試料設置部111に設置する。その後,サンプリング配管112より導かれた測定用液体を吸水性高分子ポリマーフィルタ150の吸水材153に吸水させる。吸水材153は,サンプリングした液体を吸水し,固体化(ゲル状)する。測定用液体が固体(ゲル状)中に封じ込められることから,容器151が破損しても,測定用液体が飛散せず,施設の汚染が防止される。
【0038】
B.放射能濃度の測定
固体化した測定試料(吸水性高分子ポリマーフィルタ150)を測定部(サンプラ)120内に移動させ,放射能を測定する。次の段階(1)〜(3)によって,この測定を実行できる。
【0039】
(1)液体の量の検知
吸水性高分子ポリマーフィルタ150に吸収された液体の量が検知される。この検知には種々の手法a)〜c)を用いることができる。なお,液体の量として,液体の体積(cm),質量(g)のいずれかを採用できる。
【0040】
a)液供給配管113から注入された液体量の測定
例えば,液供給配管113の端部に流量計を設置し,液供給配管113から吸水性高分子ポリマーフィルタ150に注入された液体量(体積,質量)を測定することができる。
【0041】
b)液体の注入の前後の吸水性高分子ポリマーフィルタ150の質量の測定
例えば,試料設置部111に質量計(重量計)を設置し,液体の注入の前後の吸水性高分子ポリマーフィルタ150の質量を測定し,この質量の差によって,液体の量を決定できる。
【0042】
c)吸水性高分子ポリマーフィルタ150の吸収限界
吸水性高分子ポリマーフィルタ150の吸収限界を予め測定しておき,この吸収限界を液体の量とすることができる。即ち,吸水性高分子ポリマーフィルタ150に吸収限界を超える測定用液体を供給し,吸収しきれなかった測定用液体を除去する。例えば,吸水性高分子ポリマーフィルタ150の容器151の底に,吸収し切れなかった測定用液体を排出する開口部を設ける。
【0043】
ここで,測定用液体の種別(成分,PH等)毎に吸水性高分子ポリマーフィルタ150の吸収限界を測定しておくことが好ましい。そのときの測定用液体の種別(サンプリング箇所,サンプリング配管112)に応じて,吸収限界の値を切り替えることができる。
【0044】
(2)放射能量の測定
ここでは,吸水性高分子ポリマーフィルタ150(放射能測定用試料)の放射能の量を測定する。まず,液体を吸収した吸水性高分子ポリマーフィルタ150の放射線量を測定する。その後,測定された放射線量に基づき,吸水性高分子ポリマーフィルタ150の放射能の量(例えば,ベクレル(Bq))が算出される。
【0045】
(3)放射能濃度の算出
測定された放射能の量と,検知された液体の量とに基づいて,測定用液体の放射能濃度が算出される。即ち,測定された放射能量を検知された液体量で除算することで,放射能濃度が算出される。例えば,「Bq/cm」,「Bq/g」を単位として,放射能濃度を表現できる。
【0046】
C.排出
放射能測定の終了した後,吸水性高分子ポリマーフィルタ150を測定部(サンプラ)120外へと排出する。
【0047】
以上のように,本実施形態では,放射能を含んだ液体(測定用液体)を吸水性高分子ポリマーを内蔵するフィルタ(吸水性高分子ポリマーフィルタ150)に吸水させて固体化(ゲル状)し,放射能を測定する。この結果,放射能の含んだ液体のより安全な取扱が可能になる。また,測定用液体をサンプリング配管112により吸水性高分子ポリマーフィルタ150に導くことで,測定用液体の運搬の必要性が無くなる。
【0048】
(その他の実施形態)
本発明の実施形態は上記の実施形態に限られず拡張,変更可能であり,拡張,変更した実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0049】
10…液体放射能モニタシステム,100…放射能モニタシステム,110…試料吸水部,111…試料設置部,111a…漏斗,111b…シンク,112…サンプリング配管,112a…弁,113…液供給配管,114…洗浄水配管,115…ドレン回収タンク,120…測定部,121…放射線検出器,122…遮蔽部,130…試料排出部,140…試料移動部,150…吸水性高分子ポリマーフィルタ,151…容器,152…表面材,153…吸水材,154…防水材,155…開口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸水性高分子ポリマを有する放射能測定用試料に,放射能を含む液体を吸収させる工程と,
前記放射能測定用試料に吸収された液体の量を検知する工程と,
前記液体を吸収した放射能測定用試料の放射能の量を測定する工程と,
前記測定された放射能の量と,前記検知された液体の量とに基づいて,前記液体の放射能濃度を算出する工程と,
を具備する放射能測定方法。
【請求項2】
前記検知する工程が,前記液体の吸収の前後での前記放射能測定用試料の質量の差に基づいて,前記液体の量を決定する工程を含む,
請求項1記載の放射能測定方法。
【請求項3】
前記検知する工程が,前記放射能測定用試料の吸収量の限界に基づいて,前記液体の量を決定する工程を含む,
請求項1記載の放射能測定方法。
【請求項4】
前記放射能測定用試料が,
開口を有する容器と,
前記容器内に配置され,前記開口から流入し,放射能を含む液体を吸収する前記吸水性高分子ポリマと,を有する
ことを特徴とする請求項1乃至に記のいずれか1項に記載の放射能測定方法。
【請求項5】
吸水性高分子ポリマを有する放射能測定用試料に前記液体を吸収させる手段と,
前記放射能測定用試料に吸収された液体の量を検知する手段と,
前記液体を吸収した放射能測定用試料の放射能の量を測定する手段と,
前記測定された放射能の量と,前記検知された液体の量とに基づいて,前記液体の放射能濃度を算出する手段と,
を具備する放射能測定システム。
【請求項6】
開口を有する容器と,
前記容器内に配置され,前記開口から流入し,放射能を含む液体を吸収する吸水性高分子ポリマ層と,
を具備する放射能測定用試料。
【請求項7】
前記吸水性高分子ポリマ層の上に配置され,かつ上側より下側が密な繊維組織層,
をさらに具備する請求項6記載の放射能測定用試料。
【請求項8】
前記吸水性高分子ポリマ層の下に配置される防水層,
をさらに具備する請求項7記載の放射能測定用試料。

【図1】
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【図2】
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