説明

放射能測定装置

【課題】遮蔽壁が不要であり、しかも従来に比して多種の放射性核種を測定可能な放射能測定装置を提供する。
【解決手段】
放射能測定装置100は、静磁場磁石10と、傾斜磁場電源20と、送信部30と、受信部40と、シーケンス制御部50と、情報処理ユニット60とを備えている。静磁場中におかれた測定対象に対して、傾斜磁場電源20から供給された電流により傾斜磁場を印加した状態で、送信部30が周波数を切り替えながら高周波パルスを発生させ、これにより周波数を切り替えながら電磁波を測定対象に照射する。各周波数において、NMR信号を受信部が受信し、このNMR信号に基づいて測定対象の断面画像を生成する。この断面画像における放射性核種の存在箇所を、放射性核種毎に定められた色で着色した画像を表示することで、測定対象における放射性核種の存在位置を示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人及び食物等の測定対象における放射能を測定する放射能測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ホールボディカウンタ、シンチレーション検出器、半導体検出器等の放射能測定装置が知られている。従来の放射能測定装置は、測定対象から放出される電離放射線を直接検出器で受け、これにより放射線量を測定する。かかる従来の放射能測定装置は、放射線を直接検出する構成であるため、その測定結果が自然放射能の影響を非常に強く受ける。したがって、自然放射能による測定精度の低下を抑制する必要があるため、鉄又は鉛により構成された遮蔽壁により測定対象の周囲を覆った状態で測定が行われる(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−43471号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したように、従来の放射能測定装置にあっては、遮蔽壁を必要とする。遮蔽壁は鉄又は鉛により構成されており、しかも測定対象(例えば、人)の全体を覆う程の大きさが必要であるため、装置が非常に大型であり、重量が大きかった。また、従来の放射能測定装置では、特定の放射線(例えば、γ線)のみしか測定することができず、このため測定可能な放射性核種が限られていた(例えば、セシウム137及びヨウ素131)。2011年3月11日に発生した福島第一原子力発電所事故により、人体及び食物等の放射能汚染が問題となっており、小型であり、しかも従来より多種の放射性核種を測定可能な放射能測定装置が要望されている。
【0005】
本発明は、斯かる事情を鑑みてなされたものであり、その主たる目的は、遮蔽壁が不要であり、しかも従来に比して多種の放射性核種を測定可能な放射能測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決するために、本発明の一の態様の放射能測定装置は、測定対象が置かれた空間に静磁場を発生させる静磁場発生部と、前記空間に傾斜磁場を発生させる傾斜磁場発生部と、測定対象に対して複数の周波数の電磁波を照射する電磁波照射部と、測定対象から発生する核磁気共鳴信号を検出する信号検出部と、前記傾斜磁場発生部、前記電磁波照射部、及び前記信号検出部を制御し、前記傾斜磁場発生部により傾斜磁場が発生されている間に、前記電磁波照射部に周波数を切り替えながら電磁波を照射させ、複数の周波数の電磁波それぞれが照射されたときに測定対象から発生する核磁気共鳴信号を前記信号検出部に検出させる制御部と、前記電磁波照射部により特定の放射性核種に対応する周波数の電磁波が照射されたときに前記信号検出部により検出された核磁気共鳴信号に基づいて、測定対象における前記特定の放射性核種の存在に関する情報を出力する出力部と、を備える。
【0007】
この態様において、前記出力部は、測定対象における前記特定の放射性核種の存在に関する情報として、測定対象において前記特定の放射性核種が存在する量を示す指標を出力するように構成されていてもよい。
【0008】
また、上記態様において、前記出力部は、前記信号検出部により検出された核磁気共鳴信号に基づいて、測定対象における前記特定の放射性核種の存在箇所を示す画像を出力するように構成されていてもよい。
【0009】
また、上記態様において、前記制御部は、前記電磁波照射部に、放射性核種とは異なる特定の核種に対応する第1周波数と、特定の放射性核種に対応する第2周波数とを含む複数の周波数の電波のそれぞれを測定対象に照射させるように構成されており、前記放射能測定装置は、前記第1周波数の電磁波が照射されたときに前記信号検出部により検出された核磁気共鳴信号に基づいて、測定対象の断面画像を生成し、前記第2周波数の電磁波が照射されたときに前記信号検出部により検出された核磁気共鳴信号に基づいて、前記特定の放射線核種が存在する位置を示す位置情報を前記断面画像に付加する情報処理部をさらに備え、前記出力部は、前記情報処理部において生成された前記位置情報が付加された前記断面画像を出力するように構成されていてもよい。
【0010】
また、上記態様において、前記制御部は、前記電磁波照射部に、前記第1周波数の電磁波として、プロトンのラーモア周波数の電磁波を測定対象に照射させるように構成されていてもよい。
【0011】
また、上記態様において、前記制御部は、前記電磁波照射部に、複数の周波数の電磁波を、所定時間ずつ、時分割で測定対象に照射させるように構成されていてもよい。
【0012】
また、上記態様において、前記制御部は、前記電磁波照射部に、アルファ線又はベータ線を放出する複数の放射性核種のそれぞれに対応する複数の周波数の電磁波を測定対象に照射させるように構成されていてもよい。
【0013】
また、上記態様において、前記制御部は、前記電磁波照射部に、アルファ線を放出する放射性核種、ベータ線を放出する放射性核種、及びガンマ線を放出する放射性核種のそれぞれに対応する複数の周波数の電磁波を測定対象に照射させるように構成されていてもよい。
【0014】
また、上記態様において、前記制御部は、陽子数及び中性子数が共に偶数の放射性核種の娘核種に対応する周波数の電磁波を測定対象に照射させるように構成されており、前記出力部は、前記娘核種の存在に関する情報を、その親核種の存在に関する情報として出力するように構成されていてもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る放射能測定装置によれば、遮蔽壁が不要であり、しかも従来に比して多種の放射性核種を測定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施の形態に係る放射能測定装置の構成を示すブロック図。
【図2】実施の形態に係る放射能測定装置が備える情報処理ユニットの構成を示すブロック図。
【図3】実施の形態に係る放射能測定装置の動作の手順を示すフローチャート。
【図4】実施の形態に係る放射能測定装置が出力する測定結果画面の一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図を用いて本発明の実施形態について説明する。
【0018】
[放射能測定装置の構成]
図1は、本実施の形態に係る放射能測定装置の構成を示すブロック図である。図に示すように、静磁場磁石10と、傾斜磁場電源20と、送信部30と、受信部40と、シーケンス制御部50と、情報処理ユニット60とを備えている。
【0019】
静磁場磁石10は、円筒形状をなしており、内側の測定空間に一様な静磁場を発生させる。静磁場磁石10としては、永久磁石又は超電導磁石等が用いられる。
【0020】
静磁場磁石10の内側には、円筒形状をなす傾斜磁場コイル21が配置されている。傾斜磁場コイル21は、X軸、Y軸、及びZ軸の互いに直行する3軸のそれぞれに対応する3つのコイルにより構成されている。これらの3つのコイルにより、X方向傾斜磁場、Y方向傾斜磁場、及びZ方向傾斜磁場のそれぞれが発生される。傾斜磁場コイル21には、傾斜磁場電源20が接続されており、傾斜磁場コイル21に電流を供給可能となっている。傾斜磁場電源20から傾斜磁場コイル21に電流が供給されることで、測定空間に傾斜磁場が形成される。
【0021】
X方向傾斜磁場は、スライス選択用傾斜磁場であり、Y方向傾斜磁場は、位相エンコード用傾斜磁場であり、Z方向傾斜磁場は、周波数エンコード用傾斜磁場である。スライス選択用傾斜磁場は、撮像断面を決定するために用いられる。位相エンコード用傾斜磁場は、空間位置に応じてNMR信号(核磁気共鳴信号)の位相を変化させるために用いられる。周波数エンコード用傾斜磁場は、空間位置に応じてNMR信号の周波数を変化させるために用いられる。
【0022】
傾斜磁場コイル21の内側には、送信用RFコイル31が配置されている。かかる送信用RFコイル31には、送信部30が接続されており、送信用RFコイル31に高周波パルスを供給可能となっている。送信部30から高周波パルスが供給されることにより、送信用RFコイル31は高周波パルスに対応する周波数の電磁波を測定空間に発生する。送信部30は、出力する高周波パルスの周波数を変更することが可能である。つまり、送信部30は、複数の核種のラーモア周波数に対応する高周波パルスを出力することができる。
【0023】
また、傾斜磁場コイル21の内側には、受信用RFコイル41が配置されている。かかる受信用RFコイル41には、受信部40が接続されている。送信用RFコイル31から高周波の電磁波が測定対象に照射されると、測定対象からNMR信号が発せられる。測定対象から発生したNMR信号は、受信用RFコイル41によって受信され、受信部40に与えられる。受信部40は、受信されたNMR信号を増幅し、アナログ−デジタル変換する。
【0024】
傾斜磁場コイル21の内側には、測定対象を載置するための架台70が配置されいている。架台70は、人が横臥することが可能な大きさである。架台70に測定対象が配置された状態で、上述した傾斜磁場電源20、送信部30及び受信部40が駆動され、測定対象から発せられたNMR信号が受信用RFコイル41により検出される。
【0025】
シーケンス制御部50は、情報処理ユニット60から与えられた制御データに基づいて、シーケンス制御を実行し、傾斜磁場電源20、送信部30及び受信部40を駆動する。これにより、測定対象のスキャンが行われる。なお、シーケンス制御部50が実行するシーケンス制御には、スピンエコー法、グラディエントエコー法、EPI(Echo Plana Imaging)法等の公知の撮影シーケンスが用いられる。受信部40によってアナログ−デジタル変換されたNMR信号と、そのときの送信用RFコイル31から照射される電磁波の周波数(以下、「照射周波数」という。)を示す情報とを含む測定データがシーケンス制御部50により生成され、前記測定データが情報処理ユニット60に送信される。
【0026】
図2は、情報処理ユニット60の構成を示すブロック図である。情報処理ユニット60は、コンピュータ60aによって実現される。図2に示すように、コンピュータ60aは、本体61と、表示部62と、入力部63とを備えている。本体61は、CPU61aと、ROM61b、RAM61c、ハードディスク61d、読出装置61e、入出力インタフェース61f、及び画像出力インタフェース61gを備えており、CPU61a、ROM61b、RAM61c、ハードディスク61d、読出装置61e、入出力インタフェース61f、および画像出力インタフェース61gは、バス61iによって接続されている。
【0027】
CPU61aは、RAM61cにロードされたコンピュータプログラムを実行することが可能である。そして、後述するデータ処理プログラム64aを当該CPU61aが実行することにより、コンピュータ60aが情報処理ユニット60として機能する。
【0028】
ROM61bは、マスクROM、PROM、EPROM、又はEEPROM等によって構成されており、CPU61aに実行されるコンピュータプログラムおよびこれに用いるデータ等が記録されている。RAM61cは、SRAMまたはDRAM等によって構成されている。RAM61cは、ハードディスク61dに記録されているコンピュータプログラムの読み出しに用いられる。また、CPU61aがコンピュータプログラムを実行するときに、CPU61aの作業領域として利用される。
【0029】
ハードディスク61dは、オペレーティングシステムおよびアプリケーションプログラム等、CPU61aに実行させるための種々のコンピュータプログラムおよび当該コンピュータプログラムの実行に用いられるデータがインストールされている。データ処理プログラム64aも、このハードディスク61dにインストールされている。
【0030】
読出装置61eは、フレキシブルディスクドライブ、CD−ROMドライブ、またはDVD−ROMドライブ等によって構成されており、可搬型記録媒体64に記録されたコンピュータプログラムまたはデータを読み出すことができる。また、可搬型記録媒体64には、データ処理プログラム64aが格納されており、コンピュータ60aが当該可搬型記録媒体64からデータ処理プログラム64aを読み出し、当該データ処理プログラム64aをハードディスク61dにインストールすることが可能である。
【0031】
なお、データ処理プログラム64aは、可搬型記録媒体64によって提供されるのみならず、電気通信回線(有線、無線を問わない)によってコンピュータ60aと通信可能に接続された外部の機器から前記電気通信回線を通じて提供することも可能である。例えば、データ処理プログラム64aがインターネット上のサーバコンピュータのハードディスク内に格納されており、このサーバコンピュータにコンピュータ60aがアクセスして、当該コンピュータプログラムをダウンロードし、これをハードディスク61dにインストールすることも可能である。
【0032】
また、ハードディスク61dには、例えば米マイクロソフト社が製造販売するWindows(登録商標)等のマルチタスクオペレーティングシステムがインストールされている。以下の説明においては、本実施の形態に係るデータ処理プログラム64aは当該オペレーティングシステム上で動作するものとしている。
【0033】
入出力インタフェース61fは、例えばUSB,IEEE1394,又はRS-232C等のシリアルインタフェース、SCSI,IDE,又はIEEE1284等のパラレルインタフェース、およびD/A変換器、A/D変換器等からなるアナログインタフェース等から構成されている。入出力インタフェース61fには、キーボードおよびマウスからなる入力部63が接続されており、ユーザが当該入力部63を使用することにより、コンピュータ60aにデータを入力することが可能である。
【0034】
また、入出力インタフェース61fには、前述したシーケンス制御部50がデータ通信可能に接続されている。
【0035】
画像出力インタフェース61gは、LCDまたはCRT等で構成された表示部62に接続されており、CPU61aから与えられた画像データに応じた映像信号を表示部62に出力するようになっている。表示部62は、入力された映像信号にしたがって、画像(画面)を表示する。
【0036】
かかる構成の情報処理ユニット60は、シーケンス制御部50がシーケンス制御を実行するための制御データを生成し、この制御データをシーケンス制御部50に送信するようになっている。制御データは、傾斜磁場電源20が傾斜磁場コイル21に供給する電流の強さ及び電流供給のタイミング、送信部30が送信用RFコイル31に供給する高周波パルスの周波数、強さ、及び供給タイミング、並びに受信部40がNMR信号を検出するタイミング等を定義するデータである。かかる制御データに基づいてシーケンス制御部50がシーケンス制御を実行し、その結果生成された測定データは、情報処理ユニット60により受信される。情報処理ユニット60は、この測定データに基づいて、測定結果画面を生成し、当該測定結果画面を表示部62に表示させる。
【0037】
[放射能測定装置の動作]
次に、本実施の形態に係る放射能測定装置100の動作について説明する。
【0038】
図3は、本実施の形態に係る放射能測定装置100の動作の手順を示すフローチャートである。測定対象における放射能を測定する場合、オペレータは放射能測定装置100の架台70に測定対象を載置する。ここで、測定対象としては、架台70に載置可能なサイズであれば、人でもよいし、食物等の人工物又は自然物でもよい(但し、電磁波を遮蔽する導電性材料等により構成された物は除く)。測定対象を架台70に載置された状態で、オペレータは入力部63を使用して、撮像する観察領域、撮像条件の設定、及び測定対象の情報(人の場合は氏名、物の場合は名称等)を情報処理ユニット60に入力し、撮像開始の指示入力を行う。情報処理ユニット60のCPU61aは、撮像開始の指示を受け付けると(ステップS101)、設定された観察領域及び撮像条件に基づいて、シーケンス制御部50に与える制御データを生成し(ステップS102)、当該制御データをシーケンス制御部50へ送信する(ステップS103)。
【0039】
シーケンス制御部50は、制御データを受信し(ステップS201)、受信した制御データに定義されている条件で、傾斜磁場電源20を駆動する(ステップS202)。これにより、傾斜磁場電源20から傾斜磁場コイル21に電流が供給され、測定対象が配置された測定空間に傾斜磁場が形成される。
【0040】
次にシーケンス制御部50は、送信用RFコイル31から発生される電磁波の照射周波数を、初期値に設定する(ステップS203)。この初期値は、照射周波数のうちの最低値であり、測定対象の核種のうちで最も小さいラーモア周波数とする。
【0041】
シーケンス制御部50は、送信部30を制御して、設定された照射周波数の高周波パルスを送信用RFコイル31へT秒間だけ供給させる(ステップS204)。これにより、送信用RFコイル31が照射周波数の電磁波を測定対象にT秒間照射する。
【0042】
原子核は陽子及び中性子から構成され、全体でスピンを行っているとみなされる。例えば、水素原子核であるプロトン(1個の陽子)は、スピン量子数1/2で現される回転を行っている。原子核がスピンすることで、原子核内に分布する正電荷が回転し、磁気モーメントμが発生する。磁性方向がバラバラの複数の原子核が存在している空間に静磁場Bが印加されると、それぞれの原子核が静磁場の方向に揃えられる。このとき、各原子核は、静磁場の軸の周りを磁場強度Bに比例したラーモア周波数ω(次式参照)で歳差運動を行う。
ω=γB
ここで、γは磁気回転比を示しており、プロトンの場合は42.58MHz/Tである。また、例えばテクネチウム99の磁気回転比γは、約9.7MHz/Tである。
【0043】
この状態の原子核に対し、周波数ωの電磁波を照射すると、核磁気共鳴現象が生じ、原子核のエネルギー状態が高くなる。但し、ラーモア周波数は核種に固有の周波数であり、プロトンのラーモア周波数の電磁波を他の核種の原子核に照射しても、核磁気共鳴現象は生じない。つまり、印加された電磁波の周波数に対応する特定の原子核のみが共鳴することになる。
【0044】
この状態から電磁波の印加を停止すると、高いエネルギー準位に遷移された原子核は、緩和時間と呼ばれる時定数で定まる時間の後に元のエネルギー準位に戻る。このとき、原子核から角周波数ωの核磁気共鳴信号が放出される。緩和時間には、縦緩和時間(スピン−格子緩和時間)T1と、横緩和時間(スピン−スピン緩和時間)T2とがある。上述したように傾斜磁場には、スライス選択用傾斜磁場、位相エンコード用傾斜磁場、及び周波数エンコード用傾斜磁場の直交する3方向の傾斜磁場があり、これらの傾斜磁場によりNMR信号がエンコードされる。
【0045】
測定対象から発生したNMR信号は、受信用RFコイル41によって受信される。受信部40は、このNMR信号を増幅し、デジタル信号に変換した後、シーケンス制御部50に送信する。シーケンス制御部50は、NMR信号を受け付け(ステップS205)、その時点における照射周波数を含む撮像条件のデータをNMR信号に付加して測定データを生成し、当該測定データを情報処理ユニット60へ送信する(ステップS206)。
【0046】
続いて、シーケンス制御部50は、設定されている照射周波数が、照射周波数として取り得る値の最大値であるか否かを判別し(ステップS207)、最大値でない場合には(ステップS207においてNO)、その時点での照射周波数を所定値だけ増加させた周波数を、新たな照射周波数として設定する(ステップS208)。このときの周波数の増加量は、例えば1MHzである。その後、シーケンス制御部50は、処理をステップS204へ移し、新たな照射周波数の電磁波を測定対象にT秒間照射する(ステップS204)。
【0047】
このようにして、測定対象には照射周波数を増加させながら、順次電磁波が時分割で照射される。上述したように、核種毎にラーモア周波数が異なっており、照射周波数が変更される間に、複数の放射性核種のラーモア周波数の電磁波が測定対象に照射される。本実施の形態では、キセノン135、ジルコニウム93、セシウム137、テクネチウム99、ヨウ素131、プロメチウム147を含む複数の放射性核種のラーモア周波数が照射周波数として設定されるようになっている。
【0048】
特に、テクネチウム99のようなベータ線を放射する核種にあっては、従来の放射能測定装置では検出することが難しく、簡便に検出することができれば非常に有用性が高い。また、アルファ線を放射する核種についても同様であるため、例えば、プルトニウム239,240のようなアルファ線放出核種に対応するラーモア周波数を照射周波数として設定することも有用である。
【0049】
また、ストロンチウム90のような、陽子数と中性子数とが共に偶数の核種では、核スピンが0であり、NMR信号が発生しない。したがって、このような核種の場合には、娘核種を測定することで、間接的に測定可能である。例えば、ストロンチウム90の娘核種はイットリウム90であり、このイットリウム90のラーモア周波数を照射周波数として設定することで、間接的にストロンチウム90を測定可能である。
【0050】
ステップS207において、設定されている照射周波数が最大値である場合には(ステップS207においてYES)、シーケンス制御部50は、処理を終了する。
【0051】
情報処理ユニット60は、シーケンス制御部50から送信された測定データを受信する(ステップS104)。CPU61aが測定データを受け付け、測定データに含まれるNMR信号に対してフーリエ変換を実行し、この処理結果に基づいて測定対象の断面撮像画像を生成する(ステップS105)。
【0052】
ここで、上述した照射周波数として、プロトン及びカーボン13(放射性核種以外の核種)のラーモア周波数も設定される。人又は食物等の水素原子が多く含まれている測定対象の場合には、プロトンのラーモア周波数に対応するNMR信号により、測定対象の断面画像が生成される。また、炭素が多く含まれている測定対象の場合には、カーボン13のラーモア周波数に対応するNMR信号により、測定対象の断面画像が生成される。さらに、放射性核種のラーモア周波数に対応するNMR信号に基づいて、当該核種の原子が存在する位置が特定され、測定対象の断面画像に放射性核種の原子の位置情報が付加される。
【0053】
CPU61aは、このようにして生成された撮像画像を含む測定結果画面を表示部62に表示させ(ステップS106)、処理を終了する。
【0054】
図4は、測定結果画面の一例を示す図である。図に示すように、測定結果画面80の最上部には、測定対象の情報81、例えば、測定対象が人の場合には氏名、測定対象が物である場合にはその物の名称等が表示される。また、測定対象の情報の下方には測定日時82が表示される。かかる測定対象の情報81及び測定日時82の下方には、測定対象から検出された放射性核種の情報が表示される領域83が設けられる。この領域83には、複数の放射線核種(検出対象の放射線核種)毎に、検出量が示される。この検出量は、単位重量当たりの放射能の量を示す単位であるBq/kgにより表記される。また、「不検出」の表示は、検出結果が検出限界を下回ったことを示している。
【0055】
領域83の右方には、撮像画像84が表示される。撮像画像84は、測定対象の断面画像に、放射性核種の原子の検出情報が付加されたものである。具体的には、測定対象の断面画像において放射性核種の原子が検出された範囲が、その位置で検出された放射性核種を示す色で表示される。例えば、セシウム137に対応する色として青色が、ヨウ素131に対応する色として黄色が、ストロンチウム90に対応する色として赤色がそれぞれ設定されている。測定対象の断面画像においてセシウム137が検出された範囲は青色に着色されている。同様に、測定対象の断面画像においてヨウ素131が検出された範囲は黄色に着色され、ストロンチウム90が検出された範囲は赤色に着色されている。また、撮像画像84の右方には、各放射線核種が対応する色が凡例として示されている。これにより、測定対象のどの部分にどの放射性核種が存在するかが、容易に把握される。
【0056】
ここで、ストロンチウム90は、上述したように陽子数と中性子数とが共に偶数の核種であるため、直接測定することができない。本実施の形態では、測定対象の断面画像においてイットリウム90が検出された箇所を、ストロンチウム90に対応する赤色で着色している。つまり、ストロンチウム90の娘核種であるイットリウム90の測定結果を、親核種であるストロンチウム90の測定結果として表示している。ストロンチウム90の発生直後はイットリウム90が殆ど発生していないが、1ヶ月程度経過すると放射平衡に達し、ストロンチウム90の量に対して約3900分の1のイットリウム90が定常的に含まれるようになる。すなわち、イットリウム90の測定値を約3900倍することで、ストロンチウム90の測定値が得られる。これにより、直接測定することができないストロンチウム90についても、その測定対象における存在位置及び存在量をユーザに提示することができる。
【0057】
また、撮像画像84おいては、放射性核種の密度が高い部分が濃い色として、放射性核種の密度が低い部分を淡い色として表示される。つまり、放射性核種の密度の高低に応じて、当該放射性核種に対応する色が濃淡表示される。これにより、どの部位で放射性核種の存在密度が高く、どの部位で放射性核種の存在密度が低いかが容易に把握される。
【0058】
上述した如く構成したことにより、本実施の形態に係る放射能測定装置100は、ガンマ線以外の放射線を放出する核種を簡便に検出することが可能である。また、本実施の形態に係る放射能測定装置100は、放射線量を直接検出するのではなく、放射性核種の原子を検出する構成であるため、放射線量が微弱である場合にも精度よく放射能を測定することができ、さらに外部の放射線を遮蔽するための遮蔽壁を設ける必要もない。
【0059】
また、本実施の形態に係る放射能測定装置100は、測定対象の汚染部位、即ち、放射性核種が存在する位置を特定し、その位置を示す撮像画像を表示する。このため、オペレータは測定対象の汚染部位を容易に把握することができる。例えば、人の体内に存在している放射性核種の量及び存在位置を撮像画像から容易に把握することができる。また、食物が放射能汚染されている場合には、食物において汚染されている部位を特定することができるため、食物から汚染部位を取り除き、出荷する等の対応が可能である。
【0060】
また、本実施の形態に係る放射能測定装置100は、電磁波を遮蔽する物でなければ、どのような物でも測定可能である。人だけでなく、例えば、肉、野菜、米、牛乳等の食物も測定可能である。水又は牛乳のような液体、又は空気等の気体については、容器に収容した状態であれば、架台70に載置することができ、測定可能である。
【0061】
放射能汚染は微量であることが多く、従来の放射能測定装置では、十分な精度を確保した測定結果を得るために、長時間測定する必要があった。これに対し本実施の形態に係る放射能測定装置100によれば、放射能を直接測定する構成ではないため短時間に測定することが可能であり、また、放射線の量に関係なく常に一定の測定時間で高精度な測定結果を得ることが可能である。また、半減期が非常に長い放射性核種では、放射線の放出が微量であるため、従来の放射能測定装置では、十分な精度を確保した測定結果を得るために、長時間測定する必要があった。本実施の形態に係る放射能測定装置100によれば、このような放射性核種についても、短時間で精度よく測定することができる。
【0062】
(その他の実施の形態)
なお、上述した実施の形態においては、一定量ずつ照射周波数を増加させながら、各照射周波数の電磁波を測定対象に照射する構成について述べたが、これに限定されるものではない。検査対象の核種のラーモア周波数のみを照射周波数として設定可能とし、一の核種のラーモア周波数を照射周波数として電磁波を測定対象に照射した後、照射周波数を他の核種のラーモア周波数に切り替え、この照射周波数の電磁波を測定対象に照射する構成とすることもできる。この場合、何の核種のラーモア周波数にも対応しない照射周波数が設定されることがなく、より効率的な測定が可能となる。
【0063】
また、上述した実施の形態においては、自動的に照射周波数を切り替えて、測定対象を測定する構成について述べたが、これに限定されるものではない。例えば、オペレータが撮像開始の指示を放射能測定装置に与えるときに、検査対象の核種を指定し、指定された核種に対応するラーモア周波数を照射周波数として設定し、測定対象における指定された核種の存在量及び存在位置を検出する構成とすることもできる。この場合、一回の測定につき1つの核種のみを指定するようにしてもよいし、一回の測定につき複数の核種を検査対象として指定するようにしてもよい。
【0064】
また、上述した実施の形態においては、測定結果画面において、検出された放射性核種について、単位重量あたりの放射能の量を表示する構成について述べたが、これに限定されるものではない。例えば、放射性核種の原子数を示す情報等、放射性核種の量を示す情報を表示する構成としてもよい。また、検出された放射性核種についての単位重量あたりの放射能の量のような数値情報を表示せず、撮像画像のみを表示する構成とすることもできる。また、複数の断面の撮像画像を生成し、複数の撮像画像を1画面に表示することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の放射能測定装置は、人及び食物等の測定対象における放射能を測定する放射能測定装置として有用である。
【符号の説明】
【0066】
100 放射能測定装置
10 静磁場磁石
20 傾斜磁場電源
21 傾斜磁場コイル
30 送信部
31 送信用RFコイル
40 受信部
41 受信用RFコイル
50 シーケンス制御部
60 情報処理ユニット
61a CPU
61c RAM
61d ハードディスク
62 表示部
63 入力部
64 可搬型記録媒体
64a データ処理プログラム
70 架台
80 測定結果画面
84 撮像画像


【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象が置かれた空間に静磁場を発生させる静磁場発生部と、
前記空間に傾斜磁場を発生させる傾斜磁場発生部と、
測定対象に対して複数の周波数の電磁波を照射する電磁波照射部と、
測定対象から発生する核磁気共鳴信号を検出する信号検出部と、
前記傾斜磁場発生部、前記電磁波照射部、及び前記信号検出部を制御し、前記傾斜磁場発生部により傾斜磁場が発生されている間に、前記電磁波照射部に周波数を切り替えながら電磁波を照射させ、複数の周波数の電磁波それぞれが照射されたときに測定対象から発生する核磁気共鳴信号を前記信号検出部に検出させる制御部と、
前記電磁波照射部により特定の放射性核種に対応する周波数の電磁波が照射されたときに前記信号検出部により検出された核磁気共鳴信号に基づいて、測定対象における前記特定の放射性核種の存在に関する情報を出力する出力部と、
を備える、
放射能測定装置。
【請求項2】
前記出力部は、測定対象における前記特定の放射性核種の存在に関する情報として、測定対象において前記特定の放射性核種が存在する量を示す指標を出力するように構成されている、
請求項1に記載の放射能測定装置。
【請求項3】
前記出力部は、前記信号検出部により検出された核磁気共鳴信号に基づいて、測定対象における前記特定の放射性核種の存在箇所を示す画像を出力するように構成されている、
請求項1又は2に記載の放射能測定装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記電磁波照射部に、放射性核種とは異なる特定の核種に対応する第1周波数と、特定の放射性核種に対応する第2周波数とを含む複数の周波数の電波のそれぞれを測定対象に照射させるように構成されており、
前記第1周波数の電磁波が照射されたときに前記信号検出部により検出された核磁気共鳴信号に基づいて、測定対象の断面画像を生成し、前記第2周波数の電磁波が照射されたときに前記信号検出部により検出された核磁気共鳴信号に基づいて、前記特定の放射線核種が存在する位置を示す位置情報を前記断面画像に付加する情報処理部をさらに備え、
前記出力部は、前記情報処理部において生成された前記位置情報が付加された前記断面画像を出力するように構成されている、
請求項3に記載の放射能測定装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記電磁波照射部に、前記第1周波数の電磁波として、プロトンのラーモア周波数の電磁波を測定対象に照射させるように構成されている、
請求項4に記載の放射能測定装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記電磁波照射部に、複数の周波数の電磁波を、所定時間ずつ、時分割で測定対象に照射させるように構成されている、
請求項1乃至5の何れかに記載の放射能測定装置。
【請求項7】
前記制御部は、前記電磁波照射部に、アルファ線又はベータ線を放出する複数の放射性核種のそれぞれに対応する複数の周波数の電磁波を測定対象に照射させるように構成されている、
請求項1乃至6の何れかに記載の放射能測定装置。
【請求項8】
前記制御部は、前記電磁波照射部に、アルファ線を放出する放射性核種、ベータ線を放出する放射性核種、及びガンマ線を放出する放射性核種のそれぞれに対応する複数の周波数の電磁波を測定対象に照射させるように構成されている、
請求項1乃至7の何れかに記載の放射能測定装置。
【請求項9】
前記制御部は、陽子数及び中性子数が共に偶数の放射性核種の娘核種に対応する周波数の電磁波を測定対象に照射させるように構成されており、
前記出力部は、前記娘核種の存在に関する情報を、その親核種の存在に関する情報として出力するように構成されている、
請求項1乃至8の何れかに記載の放射能測定装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−63155(P2013−63155A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−203220(P2011−203220)
【出願日】平成23年9月16日(2011.9.16)
【出願人】(511143553)株式会社Quan Japan (3)
【Fターム(参考)】