説明

放熱性繊維シート及びこれを用いた衣類

【課題】発汗して湿潤した際に放熱性、速乾性及び涼感性が高く、発汗時においても着心地の良い放熱性繊維シートと衣類を提供する。
【解決手段】本発明の放熱性繊維シートは、合成繊維単独か又は合成繊維を含む織物、編物及び不織布から選ばれる少なくとも一つの繊維シートからなる放熱性繊維シートであって、前記繊維シートを構成する繊維表面に水溶性ジルコニウム化合物と樹脂架橋剤とコラーゲンとキトサンが固定されている。本発明の放熱性衣類は、前記の繊維シートを縫製した放熱性衣類であって、合成繊維表面にはジルコニウム化合物と樹脂架橋剤とコラーゲンとキトサンが固定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放熱性繊維シート及びこれを用いた衣類に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から繊維表面に無機粒子をバインダーとともに固定させ、様々な性質を付与することは知られている。特許文献1にはジルコニウムなどの陽イオンをコラーゲン水溶液に分散させ、これを繊維表面に固定して風合いを改善する提案がされている。特許文献2〜3には繊維表面にジルコニアなどのセラミックス粒子をバインダーで固定し、マイナスイオンを発生させることが提案されている。また、放熱性を改善するための提案としては、特許文献4には吸放湿を高める粒子を付着させ、発熱、放熱を高める生地が提案されている。特許文献5にはウール、セルロース系繊維にトリアロジン誘導体を付着させることで放熱、保熱を高める方法が提案されている。
【0003】
しかし、特許文献1〜3は放熱性に着目したものはなく、発汗して湿潤した際に放熱性を有する繊維の要請は高い。特許文献4は放熱が高まるが、発熱も高まるため、身体を冷却する状況において不適格である。また、吸放湿つまり気相の水分による効能のみが記載されており、液相の水分による効果、効能に関する分析はされていない。特許文献5に記載の繊維は放熱するが、保熱もするため、スポーツなどで身体を冷却させる状況においては適さない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−241514号公報
【特許文献2】特開2006−305304号公報
【特許文献3】特許第3193653号公報
【特許文献4】特開2002−180375号公報
【特許文献5】特開2007−308857号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、前記従来の問題を解決するため、発汗して湿潤した際に放熱性、速乾性及び涼感性が高く、発汗時においても着心地の良い放熱性繊維シート及びこれを用いた衣類を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の放熱性繊維シートは、合成繊維単独か又は合成繊維を含む織物、編物及び不織布から選ばれる少なくとも一つの繊維シートからなる放熱性繊維シートであって、前記繊維シートを構成する繊維表面にジルコニウム化合物と樹脂架橋剤とコラーゲンとキトサンが固定されていることを特徴する。
【0007】
本発明の放熱性衣類は、前記の繊維シートを縫製した放熱性衣類であって、合成繊維表面にはジルコニウム化合物と樹脂架橋剤とコラーゲンとキトサンが固定されていることを特徴する。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、合成繊維表面にはジルコニウム化合物と樹脂架橋剤とコラーゲンとキトサンが固定されていることにより、発汗して湿潤した際に放熱性、速乾性及び涼感性が高く、発汗時においても着心地の良い放熱性繊維シートと衣類を提供できる。加えて抗菌性があり、風合いも柔軟な繊維製品を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1A】図1Aは本発明の一実施例で得られた繊維表面の走査電子顕微鏡(SEM)拡大写真である。
【図1B】図1Bは本発明の一実施例で得られた繊維表面の走査電子顕微鏡(SEM)拡大写真である。
【図2A】図2Aは比較例品(繊維表面にジルコニウム化合物等を付与していない繊維)表面の走査電子顕微鏡(SEM)拡大写真である。
【図2B】図2Bは比較例品(繊維表面にジルコニウム化合物等を付与していない繊維)表面の走査電子顕微鏡(SEM)拡大写真である。
【図3】図3は本発明の実施例1品と比較例1品の放熱性データを示すグラフである。
【図4】図4は本発明の一実施例品と比較例品の編物シャツの着用試験の結果を示すグラフである。
【図5】図5A−Bは本発明の一実施例で使用する元素分析付高分解能電界放出型走査型電子顕微鏡による分析データを示すチャートであり、図5AはZr化合物を固定した繊維製品の分析データ、図5BはZr化合物を固定していない(ブランク試料)繊維製品の分析データである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
液相の汗を発した時、放熱が大きく身体を冷却する。運動時などにおいては、人体は身体を冷却するため本能的に発汗する。液相から気相の汗に変化する事で放熱が高まる。汗の成分の殆んどは水である。液体の汗は気化して蒸発潜熱により身体を冷却する。これは有効発汗である。液体の汗が身体の表面から滴下したり、水滴のまま衣服や皮膚表面に溜まったままであると身体の冷却には効果が少なく、無効発汗となる。従って、放熱量を高めるには衣類を構成する繊維の放熱性、速乾性及び涼感性を高めることが重要である。
【0011】
本発明者らは、繊維の放熱性、速乾性及び涼感性を高くする検討した結果、驚くべきことに合成繊維の表面にジルコニウム化合物と樹脂架橋剤とコラーゲンとキトサンを固定することにより、実現できることがわかった。
【0012】
(1)改質加工
本発明の放熱繊維シートは、シートの状態で加工処理する。繊維シートは織物、編物、不織布である。繊維シートは水溶性ジルコニウム化合物と樹脂架橋剤とコラーゲンとキトサンを含む混合水溶液と接触させる。接触させる具体的手段は、浸漬、パッド、吹き付け、ロールコーティングなどいかなる手段であっても良い。前記混合水溶液に繊維シートを接触させた状態で加熱架橋する。浸漬法の場合は、加熱温度は100〜150℃が好ましく、加熱時間は20〜90分間が好ましい。パッド・ドライ・キュアの場合は、繊維シートに前記混合水溶液を絞り率60〜80%でパッドして絞った後、100〜150℃、より好ましくは100〜120℃で乾燥し、140〜180℃で30秒〜5分間キュアする。これにより繊維表面にジルコニウム化合物と樹脂架橋剤とコラーゲンとキトサンを固定する。前記処理により、ジルコニウムは水不溶性となる。
【0013】
水溶性ジルコニウム化合物は、酸塩化ジルコニウム、水酸化塩化ジルコニウム、硫酸ジルコニウム、硝酸ジルコニウム、燐酸ジルコニウム、炭酸ジルコニウム、酢酸ジルコニウム及び脂肪酸ジルコニウム、並びにそれら化合物のナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、リチウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、アンモニウム塩などを挙げることができる。より具体的には、第一希元素化学工業社製の商品名:酸塩化ジルコニウム、ジルコゾールZC、ジルコゾールZC−20、ジルコゾールZC−2、硫酸ジルコニウム、ジルコゾールZN、ジルコゾールAC−7、ジルコゾールAC−20、酢酸ジルコゾール、ジルコゾールZA−20、ジルコゾールZA−30、ステアリン酸ジルコニウム、オクチル酸ジルコニウム、燐酸ジルコニウム銀などがある。繊維シートに対してジルコニウム化合物を0.1〜20%owf(owfはon the weight of fiberの略)固定するのが好ましい。さらに好ましくは2〜15%owfである。
【0014】
固定したジルコニウム化合物の量を調べる方法として、元素分析付高分解能電界放出型走査型電子顕微鏡による分析がある。この装置には、高分解能電界放出形走査電子顕微鏡及びエネルギー分散型X線分析装置から構成されており、繊維表面の元素分析及び定量計測ができる。ジルコニウム化合物が固定した繊維に炭素を蒸着させ、X線分析を行う事で繊維表面に存在する元素のスペクトルが計測でき、そのピーク値から各元素の重量割合を求める事ができる。この方法によって本発明品の繊維シートを分析し、繊維表面上に固着した物質の各元素の重量割合を計測した場合、ジルコニウム元素の重量割合が0.1〜20%であり、さらに好ましくは2〜15%である。
【0015】
樹脂架橋剤はアルデヒド樹脂架橋剤、エポキシ樹脂架橋剤、イソシアネート樹脂架橋剤、不飽和カルボン酸樹脂架橋剤などの合成繊維用樹脂架橋剤が好ましい。例えばアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸等の不飽和カルボン酸類を含む樹脂架橋剤、マロンジアルデヒド、グルタルアルデヒド、テレフタルアルデヒド、アクロレインなどのアルデヒド類を含むアルデヒド樹脂架橋剤、エステル基−C(R)=CH2(Rは水素原子、ハロゲン原子、メチル基などのアルキル基)を有しかつ反応の際にエステル基が加水分解してカルボキシル基が生成する(メタ)アクリル酸アルキルエステルなども使用できる。
【0016】
エポキシ樹脂架橋剤の具体例としては、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、グリセロールポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテルなどを挙げることができる。商品名ではナガセケムテックス社製のデナコール、共栄社化学社製のエポライトなどがある。
【0017】
イソシアネート樹脂架橋剤の例としては、4−トリレンジイソシアネート、メチレンビスフェニルイソシアネート、ヘキサメチレンイソシアネート、メチレンビス−4−シクロヘキシリックイソシアネートなどがある。
【0018】
樹脂架橋剤の好ましい量は繊維シートに対して1〜20%owfであり、さらに好ましくは5〜20%owfである。触媒を使用する場合は1〜10%owfが好ましい。
【0019】
コラーゲンの好ましい量は繊維シートに対してそれぞれ1〜10%owfであり、さらに好ましくは1〜5%owfである。
キトサンの好ましい量は繊維シートに対してそれぞれ1〜30%owfであり、さらに好ましくは3〜20%owfである。
【0020】
(2)柔軟加工
改質加工した後は染色加工し、その後に柔軟加工するのが好ましい。または、染色加工中に同時に柔軟加工を行っても良い。これにより、好ましい風合いの繊維シートとなる。柔軟加工は、界面活性剤を含む水溶液を前記繊維シートに接触させる。柔軟加工することにより、吸水性が向上し、放熱性の向上に寄与する。吸水性はJIS L1907滴下法の測定法において、10秒以内が好ましく、さらに好ましくは3秒以内である。
【0021】
柔軟加工は界面活性剤型柔軟剤を使用する。具体的には、非イオン系界面活性剤及び/又はアニオン系界面活性剤が好ましい。これらの界面活性剤は、カチオン系界面活性剤、両性界面活性剤に比べて繊維の官能基に与える影響が少ないことから好ましい。
【0022】
界面活性剤型柔軟剤は浸漬又はパッド法により繊維に付与する。浸漬法の場合、好ましい処理温度は40〜150℃であり、好ましい処理時間は10〜180分である。柔軟剤の好ましい量は繊維シートに対してそれぞれ0.5〜10%owfであり、さらに好ましくは1〜5%owfである。パッド法の場合、処理温度は常温程度で良く、柔軟剤の好ましい量は0.5〜10%soln.であり、さらに好ましくは1〜5%soln.である(soln.はsolutionの略)。
【0023】
以上のようにして図1A,図1Bに示す繊維のシートが得られる。図2A,図2Bの無処理品と比較すると、繊維表面にはジルコニウム化合物と樹脂架橋剤とコラーゲンとキトサンが固定されていることがわかる。この繊維シートを使用してシャツなどの衣類にすると、発汗して湿潤した際に放熱性、速乾性及び涼感性が高く、発汗時においても着心地の良いものとなる。加えて抗菌性があり、風合いも柔軟な衣類となる。図1A及び図1B,図2A及び図2Bは各々倍率が異なるSEM写真である。
【0024】
(3)繊維素材
本発明の放熱性繊維シートとは、ポリエステル、ポリアミド(ナイロン)、アクリル系繊維等の合成繊維からなる糸、生地、不織布の他、天然繊維と合成繊維との混紡糸、合成繊維と天然繊維との交織・交編した生地、合成繊維と天然繊維を混合した不織布も適用可能であり、混紡・交織・交編・混合する場合の混合比率は任意の範囲とすることができる。好ましくは合成繊維を50質量%以上含んでいる糸または生地である方が、放熱性が高まる。合成繊維の中にはポリ乳酸、アセテート系繊維、ポリウレタン系繊維、エチレンビニルアルコール樹脂を含む繊維(商品名:ソフィスタ クラレ株式会社製)を含んでいても良い。また、アクリル系繊維の中にはアクリル酸メチルなどのアクリレートとの共重合繊維であっても良い。
【0025】
本発明の放熱性衣類は、織物シャツ、ニットシャツ、スポーツ衣料、ユニフォーム、中敷き、靴下、靴の裏地、シューズ側地、肌着、下着、中着、上着、夏用衣服の表地、裏地、布団側地、椅子の側地、帽子、手袋、セーター、スラックス、スカートなどが挙げられる。本発明の繊維は肌側に配置するのが好ましい。
【実施例】
【0026】
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。なお本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0027】
<放熱量の測定>
カトーテック社製、商品名“KES−F7精密迅速熱物性測定装置サーモラボII”を使用して測定した。保温性計測部の下に電子天秤を設置し、放熱量を計測しながら、重量変化の履歴も記録した。温度20℃、相対湿度65%の条件において、試料全体が均一に湿潤するように水1gを付与して、温度40℃に設定した保温性計測部に設置し、放熱量と水分変化量を測定した。試料の大きさはタテ100mm,ヨコ100mmとした。
【0028】
<抗菌性の測定>
JIS L 1902 2008菌液吸収法に従い、評価を行った(供試菌:黄色ブドウ球菌)。試料は洗濯前と洗濯10回後の2種類を用意した。洗濯方法は、JIS L 0217 103号に従った(但し、JAFET標準洗剤を使用)。
【0029】
<ジルコニウムの定量>
固定したジルコニウム化合物の量を調べる方法として、元素分析付高分解能電界放出型走査型電子顕微鏡による分析がある。この装置には、高分解能電界放出形走査電子顕微鏡及びエネルギー分散型X線分析装置から構成されており、繊維表面の元素分析及び定量計測ができる。ジルコニウム化合物が固定した繊維に炭素を蒸着させ、X線分析を行う事で繊維表面に存在する元素のスペクトルが計測でき、そのピーク値から各元素の重量割合を求める事ができる。この方法によって本実施例の繊維シートを分析し、繊維表面上に固着した物質の各元素の重量割合を測定し、ジルコニウム元素の重量割合を算出する。
【0030】
<吸水性の測定>
吸水性はJIS L1907滴下法で測定した。測定綿は裏面とした。
【0031】
<洗濯方法>
洗濯方法はJIS L0217 103に従った。
【0032】
(実施例1)
ナイロン−6からなるマルチフィラメント(トータル繊度78dtex,繊維本数48本)を丸編み機でニッティングした編物(目付け130g/m2)5kgをウィンス染色機にセットして浴比1:20となるように水を100kg入れた。その後、次の薬剤を加えた。
(1)水溶性ジルコニウム化合物として酢酸ジルコニウムを6%owf
(2)エポキシ樹脂架橋剤として共栄社化学社製、商品名“エポライト40E”を10%owf
(3)コラーゲンとして旭陽化学工業社製、商品名“フィシュコラーゲン”を2%owf
(4)キトサン10%owf
(5)その他:脱気剤としてCIBA社製、商品名“ALBEGAL FFA”1%owf、均染剤として日華化学社製、商品名“ニッカサンソルト7000”6%owf、触媒としてホウフッ化亜鉛3%owf,ギ酸3%owf
【0033】
2℃/分で130℃まで昇温して60分間加熱循環させた。次いで80℃まで除冷して排液し、常法で水洗し、ソーピングと水洗をした。
【0034】
その後、常法により染色し、次いで柔軟剤を用いて柔軟加工をした。柔軟剤として日華化学社製、商品名“ナイスポールPR9000”を2%owf使用した。染色後、同じ浴内に柔軟剤を入れ、80℃を保ち、その後温度を下げ、廃液を行った。
【0035】
以上により得られた加工品と、上記処理をしていない編物(比較例1品)を放熱量と水分量変化(速乾性)の測定をした。結果を表1と図3に示す。表1内の放熱量と水分量変化は計測開始1分後から4分後までの安定した状態の平均値である。
【0036】


【表1】

【0037】
表1に示すように実施例1品は比較例1品より放熱量が0.98 J/sec高かった。水1gの蒸発量は540calであり、この値から蒸発熱を計算すると実施例1品は比較例1品より0.76J/sec高かった。実際の放熱量のほうが蒸発熱より高いのは、放熱量測定では必ずしも水の蒸発熱の全部を捕捉して測定できていないからと思われる。しかし放熱量を測定することにより、水分量変化にともなう速乾性の尺度にはなると考えられる。このような理由から、実施例1品は速乾性があるとともに放熱性及び涼感性も高いと評価できる。実施例1品の繊維はSEMで観察すると図1A,図1Bであり、比較例1品は図2A,図2Bであった。
【0038】
さらに実施例1品と比較例1品の抗菌性を測定すると表2に示すとおりであった。
【0039】
【表2】

【0040】
さらに実施例1品と、現在市販されている夏物衣類商品との比較を行った。比較例として、本出願人の商品“アイスタッチ”経編品、A社の商品a,b,cを取り上げた。放熱量を比較すると次の表3のとおりである。
【0041】
【表3】

【0042】
表3から実施例1品の放熱量が高いことがわかる。
【0043】
(実施例2)
ナイロン−6からなるマルチフィラメント(トータル繊度111dtex,繊維本数60本)を丸編み機でニッティングした編物(目付け140g/m2)を使用した以外は実施例1と同様とし、比較例として表4に示す条件で処理し、放熱量を測定した。結果を表4に示す。
【0044】
【表4】

【0045】
表4から、実施例2品の組成の編物は放熱量が高いことがわかる。
【0046】
(実施例3)
ナイロン−6からなるマルチフィラメント(トータル繊度111dtex,繊維本数60本)を丸編み機でニッティングした編物(目付け145g/m2)を使用した以外は実施例1と同様とし、比較例として表5に示す条件で処理し、放熱量を測定した。結果を表5に示す。
【0047】
【表5】

【0048】
表5に示すように、柔軟剤を使用すると放熱量の向上効果が認められ、さらに風合いも良好になった。
【0049】
次に実施例3、比較例4〜5の編物の吸水性を測定した。結果を表6に示す。
【0050】
【表6】

【0051】
表6から明らかなとおり、比較例品に比べて実施例品は吸水が速く、吸水性が高いことがわかる。
【0052】
(実施例4)
実施例1品及び比較例1品を編地シャツとしたものと、さらに比較例6品として目付けが同一のポリエステル100%編地シャツ、比較例7品として目付けが同一の綿100%編地シャツを使用して着用試験をした。着用試験は、健康な20歳台から40歳台の男性10名を選び、8〜9月の最高気温が30℃を超える夏日に前記シャツを着用し、表7に示す項目について5段階評価を行い、平均値を算出した。
【0053】
【表7】

【0054】
実施例1品の着用試験の結果を表8に示す。
【0055】
【表8】

【0056】
比較例1品の着用試験の結果を表9に示す。
【0057】
【表9】

【0058】
比較例6品の着用試験の結果を表10に示す。
【0059】
【表10】

【0060】
比較例7品の着用試験の結果を表11に示す。
【0061】


【表11】

【0062】
以上の着用試験の5段階評価の結果を図4にまとめて示す。図4から明らかなとおり、実施例1品の評価はいずれにおいても最も高い評価結果が得られた。
【0063】
(実施例5)
実施例3で得られた編物と比較例5で得られた編物を洗濯10回し、乾燥した後に元素分析付高分解能電界放出型走査型電子顕微鏡により分析した。図5Aは実施例3で得られた編物の分析データを示すチャートであり、図5BはZr化合物を固定していない(比較例5:未処理品)編物の分析データである。図5A−Bから表12に示すデータが算出される。
【0064】
【表12】

【0065】
表12から、ジルコニウムの存在は編物からも分析できることが明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成繊維単独か又は合成繊維を含む織物、編物及び不織布から選ばれる少なくとも一つの繊維シートからなる放熱性繊維シートであって、
前記繊維シートを構成する繊維表面にジルコニウム化合物と樹脂架橋剤とコラーゲンとキトサンが固定されていることを特徴する放熱性繊維シート。
【請求項2】
前記放熱性繊維シートは染色及び柔軟加工されている請求項1に記載の放熱性繊維シート。
【請求項3】
前記柔軟加工は、界面活性剤を含む水溶液を前記繊維シートに接触させる加工である請求項2に記載の放熱性繊維シート。
【請求項4】
前記繊維表面へのジルコニウム化合物と樹脂架橋剤とコラーゲンとキトサンの固定は、前記繊維シートを水溶性ジルコニウム化合物と樹脂架橋剤とコラーゲンとキトサンを含む混合水溶液と接触させ、加熱架橋させるにより発現している請求項1〜3のいずれかに記載の放熱性繊維シート。
【請求項5】
前記樹脂架橋剤がアルデヒド樹脂架橋剤、エポキシ樹脂架橋剤、イソシアネート樹脂架橋剤及び不飽和カルボン酸樹脂架橋剤から選ばれる少なくとも一つの合成繊維用樹脂架橋剤である請求項1〜4のいずれかに記載の放熱性繊維シート。
【請求項6】
前記水溶性ジルコニウム化合物が、酸塩化ジルコニウム、水酸化塩化ジルコニウム、硫酸ジルコニウム、硝酸ジルコニウム、燐酸ジルコニウム、炭酸ジルコニウム、酢酸ジルコニウム及び脂肪酸ジルコニウム、並びにそれら化合物のナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、リチウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩及びアンモニウム塩からなる群より選ばれる1種以上である請求項1〜5のいずれか1項に記載の放熱性繊維シート。
【請求項7】
前記繊維シートに対して前記ジルコニウム化合物を0.1〜20%owf固定する請求項1〜6のいずれか1項に記載の放熱性繊維シート。
【請求項8】
請求項7に記載の繊維シートを縫製した放熱性衣類であって、
合成繊維表面にはジルコニウム化合物と樹脂架橋剤とコラーゲンとキトサンが固定されていることを特徴する放熱性衣類。

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図1A】
image rotate

【図1B】
image rotate

【図2A】
image rotate

【図2B】
image rotate


【公開番号】特開2012−214955(P2012−214955A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−48250(P2012−48250)
【出願日】平成24年3月5日(2012.3.5)
【出願人】(000005935)美津濃株式会社 (239)
【出願人】(503267548)飯田繊工株式会社 (5)
【出願人】(511099032)
【Fターム(参考)】