説明

放電ランプ

【課題】波長300〜340nmの紫外線の積分分光放射強度が大きい放電ランプを提供する。
【解決手段】発光管11と、この発光管11内に配置された一対の電極13,14 と、前記発光管11内に封入された発光物質とを有してなる放電ランプ10において、
前記発光物質は、亜鉛および水銀を含有してなり、当該亜鉛に対する当該水銀のモル比が3〜35であることを特徴とする。
また、前記亜鉛の封入量が0.1μmol/cm3 以上であることが好ましい。
また、前記発光管11内には、ヨウ素または臭素が封入されており、前記発光管11内に封入された亜鉛のモル数が、2原子分子に換算されたヨウ素または臭素のモル数より大きいことが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶ディスプレイの製造工程において好適に用いることができる放電ランプに関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイの製造工程においては、互いに対向するよう配置された2枚のガラス基板の周縁部を、紫外線硬化性接着剤によって接着して封止する封止工程と、この封止工程に続き、封入された液晶分子を、例えばガラス基板の厚み方向若しくは面方向に対して傾斜するよう配向させた状態で、液晶ディスプレイの画素を形成する際に液晶分子と共に封入された感光性のモノマーを重合させることにより、液晶分子の配向方向を固定させるプレチルト角付与工程とを有する。
【0003】
封止工程においては、2枚のガラス基板の間に液晶分子および感光性のモノマーが注入されており、当該モノマーに紫外線が照射されることを防止するため、ガラス基板の中央部分にマスクが配置され、この状態で紫外線硬化性接着剤が塗布されたガラス基板の周縁部に紫外線が照射される。ここで、照射される紫外線は、紫外線硬化性接着剤に応じて選択され、通常、波長340nm以下の紫外線がフィルターによってカットされた、波長340〜390nmの紫外線が用いられる(特許文献1参照。)。
一方、プレチルト角付与工程において用いられる紫外線は、液晶分子に与えるダメージが小さいこと、モノマーの感度が高いこと、ガラス基板に対する透過性が高いことなどを考慮して、波長300〜380nmの紫外線が用いられ、そのため、感光性のモノマーとしては、波長300〜380nmの紫外線によって重合が引き起こされるもの、例えば感度のピークが波長340nm付近にあるモノマーが用いられている(特許文献2参照。)。
【0004】
而して、封止工程においては、ガラス基板の間に封入されるモノマーに紫外線が照射されることを確実に防止するためには、ガラス基板に対してマスクを高い精度で位置合わせして配置することが肝要である。
然るに、ガラス基板に対してマスクを高い精度で位置合わせして配置しても、内部に紫外線が進入し、これにより、モノマーが重合してしまい、特に、波長340nmの紫外線が内部に進入すると、モノマーの重合が急速に生じる、という問題がある。
このような理由から、最近においては、封止工程においてモノマーが重合することを防止するために、ピーク感度が波長340nmよりも相当に短い波長域にあるモノマーを用いる傾向にあり、これにより、封止工程においてモノマーの重合が生じることを防止することができる。
【0005】
そして、プレチルト角付与工程においては、当該工程に用いられる紫外線をモノマーのピーク感度と合わせる必要性があり、そのため、波長300〜340nmの紫外線を利用することが望まれている。
このような放電ランプとしては、発光管内に発光物質として、波長333nmおよび波長338nmに発光スペクトルを有する亜鉛が封入されてなるものが知られている。
しかしながら、亜鉛が封入された従来の放電ランプは、放射光における波長300〜340nmの紫外線の積分分光放射強度が大きいものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−269976
【特許文献2】特開2008−269977
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は以上のような事情に基づいてなされたものであって、その目的は、波長300〜340nmの紫外線の積分分光放射強度が大きい放電ランプを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の放電ランプは、発光管と、この発光管内に配置された一対の電極と、前記発光管内に封入された発光物質とを有してなる放電ランプにおいて、
前記発光物質は、亜鉛および水銀を含有してなり、当該亜鉛に対する当該水銀のモル比が3〜35であることを特徴とする。
【0009】
本発明の放電ランプにおいては、前記亜鉛の封入量が0.1μmol/cm3 以上であることが好ましい。
また、前記発光管内には、ヨウ素または臭素が封入されており、
前記発光管内に封入された亜鉛のモル数が、2原子分子に換算されたヨウ素または臭素のモル数より大きいことが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の放電ランプによれば、発光管内に発光物質として亜鉛および水銀が封入され、当該亜鉛に対する当該水銀のモル比が特定の範囲にあるため、波長300〜340nmにおける積分分光放射強度が大きい紫外線が得られる。
また、亜鉛の封入量が0.1μmol/cm3 以上であることにより、波長300〜340nmにおける積分分光放射強度が大きい紫外線を放射する放電ランプが確実に得られる。
また、発光管内には、ヨウ素または臭素が封入された放電ランプによれば、発光管内にいわゆるハロゲンサイクルが形成されるので、比較的低い温度で、亜鉛による放射光が得られると共に、発光管と亜鉛との反応による黒化が生じることが抑制され、更に、封入された亜鉛のモル数が、2原子分子に換算されたヨウ素または臭素のモル数より大きい放電ランプによれば、長時間点灯させることによって、発光に供される亜鉛が消耗した場合にも、遊離ハロゲンが発生して電子をトラップすることによりランプ電圧を上昇させ、電源の許容範囲を越えてランプが立ち消えするような不具合を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の放電ランプの一例における構成の概略を示す説明図である。
【図2】実験例1において測定した、放電ランプの放射光における波長250〜450nmの光の相対出力強度を示す曲線図である。
【図3】発光管内に封入された亜鉛に対する水銀のモル比と、放電ランプの波長300〜340nmの紫外線の積分分光放射強度(相対強度比)との関係を示す曲線図である。
【図4】発光管内における亜鉛の封入量と、放電ランプの波長300〜340nmの紫外線の積分分光放射強度(相対強度比)との関係を示す曲線図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
図1は、本発明の放電ランプの一例における構成の概略を示す説明図である。
この放電ランプ10は、両端に封止管部12が形成された石英ガラス製の発光管11を有し、この発光管11内には、一対の電極13,14が互いに対向するよう管軸方向に沿って配置されている。発光管11における封止管部12の各々には、円筒状の口金15が設けられ、この口金15の各々の周側面には、電極13,14間に電力を供給するための給電線16が設けられ、この給電線16の先端部には、点灯装置に接続される給電端子17が設けられている。
【0013】
発光管11内には、発光物質および希ガスが封入されており、発光物質としては、亜鉛および水銀が用いられる。
このように、発光物質として亜鉛の他に水銀が封入されることにより、亜鉛による波長333nmおよび波長338nmの紫外線に加えて、水銀による波長313nmおよび波長334nmの紫外線が放射される放電ランプ10が得られると共に、電極13,14間の抵抗値が低くなるため、ランプ電流が小さく、電極13,14に加わる負荷が小さい放電ランプ10が得られる。
【0014】
発光管11内に封入された亜鉛に対する水銀のモル比は3〜35とされ、好ましくは6〜20とされる。このようなモル比で亜鉛および水銀が封入されることにより、波長300〜340nmにおける積分分光放射強度が大きい紫外線が得られる。このモル比が3未満である場合には、水銀による波長313nmおよび波長334nmの紫外線が十分に得られず、その結果、波長300〜340nmにおける積分分光放射強度が大きい紫外線が得られない。一方、このモル比が35を超える場合には、水銀による波長365nmおよび波長436nmの紫外線の強度が過大となり、波長313nmおよび波長334nmの紫外線の強度が相対的に小さくなるため、波長300〜340nmにおける積分分光放射強度が大きい紫外線が得られない。
【0015】
また、発光管11内における亜鉛の封入量は、0.1μmol/cm3 以上であることであることが好ましく、より好ましくは0.2μmol/cm3 以上である。また、亜鉛の封入量の上限は、特に限定されないが、通常、5μmol/cm3 以下である。このような量の亜鉛が封入されることにより、波長300〜340nmにおける紫外線を高い強度で得ることができる。
【0016】
また、発光管11内には、ヨウ素または臭素が封入されていることが好ましくこれにより、発光管11内において、いわゆるハロゲンサイクルが形成される。すなわち、発光管11内において、亜鉛のハロゲン化物(ヨウ化物または臭化物)が生成され、このハロゲン化物は、金属亜鉛よりも蒸気圧が高いために比較的低い温度で気化し、電極13,14間に形成される、温度が極めて高いアーク内においては、ハロゲン化物が解離して金属蒸気が生成され、更に、金属蒸気が、温度が低い発光管11の管璧に近づくと、再びハロゲンと反応してハロゲン化物が生成される。従って、ヨウ素または臭素が封入されることにより、比較的低い温度で、亜鉛による放射光が得られると共に、発光管11に、これを構成する石英ガラスと亜鉛との反応による黒化が生じることが抑制される。
【0017】
発光管11内にヨウ素または臭素を封入する場合には、発光管11内に封入された亜鉛のモル数が、2原子分子に換算されたヨウ素または臭素のモル数より大きいことが好ましく、具体的には、亜鉛のモル数が、2原子分子に換算されたヨウ素または臭素のモル数の2〜10倍であることが好ましい。このような量のヨウ素または臭素が封入されることにより、放電ランプ10を長時間点灯させることによって、発光に供される亜鉛が消耗した場合にも、遊離ハロゲンが発生して電子をトラップすることによりランプ電圧を上昇させ、電源の許容範囲を越えてランプが立ち消えするような不具合を防止することができる。
【0018】
発光管11内に、ヨウ素または臭素を封入する際には、亜鉛のハロゲン化物(ヨウ化亜鉛または臭化亜鉛)として封入してもよいが、これらのハロゲン化物は、水分と反応しやすくて取り扱いが容易なものではなく、封入作業が煩雑となるため、ヨウ素または臭素を単独で封入することが好ましい。
【0019】
上記の放電ランプ10によれば、発光管11内に発光物質として亜鉛および水銀が封入され、当該亜鉛に対する当該水銀のモル比が特定の範囲にあるため、波長300〜340nmにおける積分分光放射強度が大きい紫外線が得られる。
また、亜鉛の封入量が0.1μmol/cm3 以上であることにより、波長300〜340nmにおける積分分光放射強度が大きい紫外線を放射する放電ランプ10が確実に得られる。
また、発光管11内にヨウ素または臭素が封入された放電ランプ10によれば、発光管11内にいわゆるハロゲンサイクルが形成されるので、比較的低い温度で、亜鉛による放射光が得られると共に、発光管と亜鉛との反応による黒化が生じることが抑制され、更に、封入された亜鉛のモル数が、2原子分子に換算されたヨウ素または臭素のモル数より大きい放電ランプ10によれば、長時間点灯させることによって、発光に供される亜鉛が消耗した場合にも、遊離ハロゲンが発生して電子をトラップすることによりランプ電圧を上昇させ、電源の許容範囲を越えてランプが立ち消えするような不具合を防止することができる。
このような放電ランプ10は、波長300〜340nmの紫外線の積分分光放射強度が大きいため、液晶ディスプレイの製造工程におけるプレチルト角付与工程において使用される放電ランプとして好適である。
【0020】
〈実験例1〉
中央部分の内径が22mmで、内容積が95cm3 の発光管を用い、図1に示す構成に従い、下記表1および下記表2に示す量のヨウ素亜鉛(ZnI2 )若しくは臭化亜鉛(ZnBr2 )および水銀が封入されると共に、キセノンガスが点灯時の封入圧が5kPaとなるよう封入され、250mmの離間距離で電極(13,14)が配置された放電ランプ(A1)〜(A10)および放電ランプ(B1)〜(B8)を作製した。
これらの放電ランプはいずれも、定格電圧が500V、定格電流が14A、ランプ電力が7000Wのものである。
【0021】
放電ランプ(A5)および放電ランプ(A10)の各々を点灯させ、その放射光における波長250〜450nmの光の相対出力強度を測定した。結果を図2に示す。但し、図2において、実線は、放電ランプ(A5)に係るものであり、破線は、放電ランプ(A10)に係るものである。
図2の結果から明らかなように、ヨウ化亜鉛が封入された放電ランプ(A5)は、亜鉛による波長333nmおよび波長338nmの紫外線に加えて、水銀による波長313nmおよび波長334nmの紫外線が放射されるため、放電ランプ(A10)に比較して、波長300〜340nmの紫外線の積分分光放射強度が大きいものであることが理解される。
【0022】
また、放電ランプ(A1)〜(A10)および放電ランプ(B1)〜(B8)の各々を点灯させ、その放射光における波長300〜340nmの紫外線の積分分光放射強度を測定した。放電ランプ(A1)〜(A10)については、放電ランプ(A10)に係る積分分光放射強度を1.00としたときの強度比を表1に、放電ランプ(B1)〜(B8)については、放電ランプ(A10)に係る積分分光放射強度を1.00としたときの相対強度比を下記表2に示す。
【0023】

【表1】

【0024】
【表2】

【0025】
上記表1および上記表2の結果を基に作成した、亜鉛に対する水銀のモル比と、波長300〜340nmの光の積分分光放射強度(相対強度比)との関係を図3に示す。但し、図3において、実線は、ヨウ化亜鉛(ZnI2 )が封入された放電ランプに係るもの、破線は臭化亜鉛(ZnBr2 )が封入された放電ランプに係るものである。
【0026】
図3の結果から明らかなように、発光管内に封入された亜鉛に対する水銀のモル比が3〜35の放電ランプにおいては、波長300〜340nmにおける積分分光放射強度が大きい紫外線、具体的には、水銀が封入されていない放電ランプの1.2倍以上の紫外線が得られることが確認された。特に、発光管内に封入された亜鉛に対する水銀のモル比が6〜20の放電ランプにおいては、波長300〜340nmにおける積分分光放射強度が極めて大きい、具体的には水銀が封入されていない放電ランプの1.25倍以上の紫外線が得られることが確認された。
【0027】
〈実験例2〉
実験例1と同様の仕様の発光管を用い、図1に示す構成に従い、ヨウ素亜鉛(ZnI2 )若しくは臭化亜鉛(ZnBr2 )および水銀が封入されると共に、キセノンガスが点灯時の封入圧が5kPaとなるよう封入され、250mmの離間距離で電極(13,14)が配置された複数の放電ランプを作製した。これらの放電ランプは、亜鉛の封入量を0.01〜10μmol/cm3 の範囲で段階的に変更したものであり、亜鉛に対する水銀のモル比が12となるよう水銀の封入量を調整した。
また、これらの放電ランプはいずれも、定格電圧が500V、定格電流が14A、ランプ電力が7000Wのものである。
そして、作製した放電ランプの各々を点灯させ、その放射光における波長300〜340nmの紫外線の積分分光放射強度を測定し、 ヨウ化亜鉛が封入された、亜鉛の封入量が1μmol/cm3 の放電ランプに係る積分分光放射強度を1.00としたときの強度比を算出した。その結果を基に作成した、亜鉛の封入量と、波長300〜340nmの光の積分分光放射強度(相対強度比)との関係を図4に示す。但し、図4において、実線は、ヨウ化亜鉛(ZnI2 )が封入された放電ランプに係るもの、破線は臭化亜鉛(ZnBr2 )が封入された放電ランプに係るものである。
【0028】
図4の結果から明らかなように、亜鉛の封入量が0.1μmol/cm3 以上の放電ランプであれば、波長300〜340nmにおいて、亜鉛の封入量が1μmol/cm3 の放電ランプの積分分光放射強度に対して90%以上の積分分光放射強度を有する紫外線が得られることが確認された。
【符号の説明】
【0029】
10 放電ランプ
11 発光管
12 封止管部
13,14 電極
15 口金
16 給電線
17 給電端子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発光管と、この発光管内に配置された一対の電極と、前記発光管内に封入された発光物質とを有してなる放電ランプにおいて、
前記発光物質は、亜鉛および水銀を含有してなり、当該亜鉛に対する当該水銀のモル比が3〜35であることを特徴とする放電ランプ。
【請求項2】
前記亜鉛の封入量が0.1μmol/cm3 以上であることを特徴とする請求項1に記載の放電ランプ。
【請求項3】
前記発光管内には、ヨウ素または臭素が封入されており、
前記発光管内に封入された亜鉛のモル数が、2原子分子に換算されたヨウ素または臭素のモル数より大きいことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の放電ランプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−267403(P2010−267403A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−115527(P2009−115527)
【出願日】平成21年5月12日(2009.5.12)
【出願人】(000102212)ウシオ電機株式会社 (1,414)
【Fターム(参考)】