説明

放電加工装置

【課題】 並列放電が確実に実施でき、放電加工速度を向上させることができる放電加工装置を得る。
【解決手段】 層状異方性導電体11と抵抗体12と給電体13とで放電用加工電極14を構成し、層状異方性導電体11は、絶縁被膜をコーティングした金属の薄板を積み重ねて圧着された部材で、層状に導電層と不良導電層とが交互に積層されており、不良導電層に平行な方向の導電度が不良導電層を横断する方向の導電度よりも著しく高い異方性導電度を有し、かつ各導電層の被加工物との対向面積が0.1平方mm以上である。抵抗体12は層状異方性導電体11の積層横断端面11cに接続し、また、給電体13は抵抗体12に接続している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は放電加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
放電加工における加工速度を向上させる方策の一つとして、同時に複数の放電を発生させること(以下、並列放電と呼ぶ)が考えられる。この並列放電を実現する方法は、大面積の仕上げ加工領域における加工面粗度の悪化への対策に、その端緒が見出せる。
【0003】
例えば、特開昭61−71920号公報では、電極の表面を抵抗体とすることにより、大面積の仕上げ加工領域において加工面粗度を改善する方法(以下、抵抗体電極法と呼ぶ)が開示されている。
図11は、抵抗体電極法における電極を示す構造図である。図において、厚さ1.5mmのシリコンの薄板からなる抵抗体1と、銅からなる給電体2とを導電性接着剤で接着して電極を構成している。
【0004】
抵抗体電極法の原理は、電極とワークとの間(以下、加工間隙と呼ぶ)に形成される浮遊容量を、電極表面に設置した抵抗体1に内在する抵抗により分割して分布定数状態となし、上記浮遊容量から放電発生地点への投入エネルギー量を小面積加工時並みに減少させることにより、大面積加工における加工面粗度の悪化を防止することにある。ところが、僅かではあるが、上記開示例の中に、電極の表面を抵抗体とすれば電極内に電位勾配が生じるため、複数の放電が同時に発生する(すなわち、並列放電が実現する)可能性について言及されているが、後述のような問題点がある。
【0005】
なお、上記と類似の放電加工方法として、特開昭58−186532号公報や特開昭62−84920号公報があり、電極を柱状に分割することにより、大面積の仕上げ加工領域において加工面粗度を改善する方法(以下、分割電極法と呼ぶ)が開示されている。
【0006】
図12は、分割電極法における電極を示す構造図、図13は分割電極法における電極の全体を示す斜視図である。図11と同一または相当部分には同一の符号を付して説明を省略する。図12、図13において、3は絶縁体、4は銅などの低抵抗材からなる柱状部材である。
【0007】
分割電極法の原理は、図12に示すように絶縁体3によって互いに絶縁された複数の柱状部材4を抵抗体1を介して給電体2へ接続することにより、電極全体を図13に示すごとく柱状電極の結束体となし、加工間隙に形成される浮遊容量を小面積加工時並みに小さく分割して減少させて、大面積加工における加工面粗度の悪化を防止することにある。しかし、上記分割電極法の開示例には、並列放電に関する言及は見あたらない。
【0008】
また、上記の抵抗体電極法と分割電極法の放電加工方法をまとめた文献(精密工学会誌vol.53,No.1,P124〜130参照)においても、並列放電に関しては、抵抗体電極法においてわずかに言及されているのみであり、分割電極法においてはまったく言及がない。なお、該文献の場合の並列放電は、後述のような問題点がある。
【0009】
【特許文献1】特開昭61−71920号公報
【特許文献2】特開昭58−186532号公報
【特許文献3】特開昭62−84920号公報
【非特許文献1】精密工学会誌(vol.53,No.1,P124〜130)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
以上のように,抵抗体電極法では、大面積の仕上げ加工において仕上面粗さが悪化する問題に対し、加工間隙に形成される浮遊容量を抵抗によって小さく分割することにより、小面積加工時と同等の仕上面粗さを得ることを主眼としている。すなわち,電極表面に設置した抵抗体により,放電発生時に加工に寄与する浮遊容量を放電発生地点近傍(おおむね半径数百ミクロン程度の円内)に形成される容量に限定し,大面積の仕上げ加工時に問題となる加工間隙に形成される浮遊容量の影響をできるだけ小さくしている。
【0011】
したがってこの場合、加工間隙に形成される浮遊容量による加工分は無視できるほど小さいので、加工に供されるエネルギーは全て加工電源からパルス状に供給されるとみなしてよい。このため、並列放電発生の有無に関わらず、加工に供されるエネルギーはほぼ一定と考えることができるので、並列放電が発生した場合には加工電源から供給される加工電流が複数の放電点に分流されるにすぎなく、並列放電であっても放電加工速度が向上しないという問題点があった。
また、抵抗体電極法では、荒加工など大きな加工電流が流れる場合には加工電流に起因する抵抗加熱により電極が発熱してしまうため、電極の消耗が大きいという問題点があった。
【0012】
また、分割電極法による電極では、実際には並列放電がほとんど発生しないという問題点があった。これは、放電加工では加工屑濃度が高いほど放電の発生可能な極間距離が長くなるため、一旦放電が始まるとその近傍で放電が連続発生する性質があり、上記文献に記述されているような、例えば一辺10mm程度の柱状部材を結束した分割電極では、放電が始まった特定の柱状部材において放電が連続発生してしまうためと考えられる。なお、分割電極法において、上記文献中に並列放電に関する言及がないのは、この問題に起因していると推察される。
さらに、分割電極法では電極の構造が複雑になるという問題点があった。
【0013】
この発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、第1の目的は、放電加工速度を向上させることができる放電加工装置を得るものである。
また、第2の目的は、電極の消耗を抑制できる放電加工装置を得るものである。
さらに、第3の目的は、並列放電を確実に実施でき、且つ電極構造が簡単にできる放電加工装置を得るものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この発明に係る放電加工装置においては、被加工物と加工間隙を介して対向する放電加工用電極を備えた放電加工装置であって、放電加工用電極が、薄板形状の導電層と不良導電層とが交互に積層された層状異方性導電体と、この層状異方性導電体の積層横断端面に接続された抵抗体と、この抵抗体に接続された給電体とからなり、導電層の被加工物との対向面積が0.1平方mm以上であるものである。
【発明の効果】
【0015】
この発明は、以上説明したように構成されているので、以下に示すような効果を奏する。
【0016】
被加工物と加工間隙を介して対向する放電加工用電極を備えた放電加工装置であって、薄板形状の導電層と不良導電層とが交互に積層された層状異方性導電体と、この層状異方性導電体の積層横断端面に接続された抵抗体と、この抵抗体に接続された給電体とから放電加工用電極が構成され、この導電層の被加工物との対向面積が0.1平方mm以上であることにより、各々の導電層の厚みは薄いものの、被加工物との対向面が細長く、同一の蓄電器とみなし得る対向面積を広くすることができる。このため、被加工物との加工間隙に形成される静電容量は互いに抵抗を介して並列接続された微小な蓄電器の集合体となり、それぞれの蓄電器は、その静電容量が放電加工を行うに十分な静電容量であって、かつ並列放電の発生が十分可能な距離に近接して存在しているので、同時並行的に放電加工を確実に行うことができ、簡単な構造の放電加工用電極を用いて放電加工速度を向上することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
実施の形態1.
図1はこの発明の実施の形態1における放電加工用電極の構造を示す斜視図、図2は図1の放電加工装置の放電の原理を示す等価回路図、図3は図1の放電加工用電極を備えた放電加工装置の概略構成を示す構成図である。図1において、層状異方性導電体11と抵抗体12と給電体13とで電極14が構成されている。層状異方性導電体11は、例えば表面にアルミナなどのセラミックスやエナメルなどからなる絶縁被膜をコーティングした銅などからなる金属の薄板を積み重ねて圧着された部材で、層状に導電層と不良導電層とが交互に積層されており、不良導電層に平行な方向の導電度が不良導電層を横断する方向の導電度よりも著しく高い異方性導電度を有する。
【0018】
なお、以下では説明のため、この導電層や不良導電層と平行な面を積層面11aと呼び、層状異方性導電体11の端面のうち、積層面11aと平行な端面を積層平行端面11b、積層面11aを横断する端面を積層横断端面11cと呼ぶことにする。また、図示する際には、図1に示すように積層横断端面11cには積層面11aを複数描くことにより積層平行端面11bと区別することにする。
【0019】
層状異方性導電体11の製作については、例えば薄いシート状の材料を切断して積層する方式を用いるラピッドプロトタイピング装置に対して絶縁被膜をコーティングした金属薄板を供給すれば、3次元CADデータから直接に所望の形状の電極を簡便に製作できる。なお、各導電層の厚さは1mm以下が望ましく、100μm以下であれば申し分ない。また、不良導電層の厚さはできる限り薄いほど望ましく、導電層の厚さと同程度以下を目安とする。
【0020】
抵抗体12は層状異方性導電体11の積層横断端面11cに接続された電気抵抗を有する炭素やニッケルクロム合金などからなり、例えば電気抵抗を有する薄板を積層横断端面11c上で層状異方性導電体11へ圧着したり、真空プロセスで電気抵抗薄膜を形成することなどにより構成される。
また、給電体13は抵抗体12に接続された導電性を有する銅などからなり、抵抗体12の場合と同様に圧着や薄膜形成などにより抵抗体12に接続される。
【0021】
このような構成により、層状異方性導電体11内のそれぞれの導電層は、抵抗体12を介して給電体13に接続されることになる。給電体13から導電層への電気抵抗値は様々な要因によって望ましい値が変化するが、おおむね10Ω〜10kΩ程度が望ましい。
【0022】
次に、上記の構造を持つ電極14を使用した場合の特徴を、図2を用いて説明する。放電加工では電極とワークとを微小な間隙を隔てて対向させるため、加工間隙に浮遊容量による蓄電器が形成されることは既に述べたとおりである。該電極14を用いる場合には、図2に示した等価回路のように、層状異方性導電体11内のそれぞれの導電層が、抵抗体12内の電気抵抗を介して互いに並列に接続された蓄電器を形成することになる。
【0023】
したがって、電極14とワーク15との間に電圧を印加すれば、各々の蓄電器に充電された後、加工間隙に放電が発生する。各々の蓄電器は互いに抵抗を介して並列接続しているため、その端子間電圧はそれぞれ異なった値をとる。すなわち、ある蓄電器で放電が発生しても、その放電位置から十分に離れた蓄電器の端子間電圧はほとんど変化しないため、並列放電を発生することができる。
【0024】
この実施の形態1が従来の抵抗体電極法と異なる点を次に説明する。該抵抗体電極法の場合には、図11に示すように、シリコンの薄板からなる抵抗体1と、銅からなる給電体2とを導電性接着剤で接着して電極を構成していることにより、電極とワークとの加工間隙に形成される浮遊容量を抵抗によって小さく分割している。すなわち、電極表面に設置した抵抗体により、放電発生時に加工に寄与する浮遊容量を放電発生地点近傍(おおむね半径数百ミクロン程度の円内)に形成される容量に限定し,大面積の仕上げ加工時に問題となる加工間隙に形成される浮遊容量の影響をできるだけ小さくしている。
【0025】
したがってこの場合、加工間隙に形成される浮遊容量による加工分は無視できるほど小さいので、加工に供されるエネルギーは全て加工電源からパルス状に供給されるとみなしてよい。このため、並列放電発生の有無に関わらず、加工に供されるエネルギーはほぼ一定と考えることができるので、並列放電が発生した場合には加工電源から供給される加工電流が複数の放電点に分流されるにすぎなく、並列放電であっても放電加工速度が向上しない。
【0026】
一方、この発明では、図1に示すように、導電層と不良導電層とが積層された層状異方性導電体11と、この層状異方性導電体11の積層横断端面11cに接続された電気抵抗を有する抵抗体12と、この抵抗体12に接続された導電性を有する給電体13とを備えた電極14を提示している。この場合、同一の導電層内での2点間の電気抵抗はほとんどゼロであるから、各々の導電層はそれぞれ一つの蓄電器とみなすことができるため、一つの蓄電器と見なし得る範囲は放電発生地点からの距離に依存せず、同一の導電層である限り一つの蓄電器と見なし得る点が該抵抗体電極法と大きく異なる点である。各導電層は、厚みは薄いがワーク15との対向面が細長く存在しているため、同一の蓄電器とみなし得る対向面積が該抵抗体電極法よりも広くすることができるので、各々の導電層が形成する蓄電器による加工の寄与が無視できないほど静電容量を大きくすることが可能となる。
【0027】
すなわち、ワーク15との加工間隙に形成される浮遊容量は、該抵抗体電極法では排除すべき対象であって、加工は主に加工電源から供給されるパルス電流に依っていた。しかし、この発明ではこの浮遊容量を積極的に利用し、加工電源から供給される電流をこの浮遊容量で形成される各蓄電器に一度蓄電したのちに加工に供するため、各々の導電層が形成する蓄電器の放電による並列放電加工を実現することができ、簡単な構造の電極14を用いて放電加工速度を向上することが可能となる。なお、この発明の場合には加工電源から供給される電流は各蓄電器への充電電流であって、該抵抗体電極法のように直接放電に用いられるわけではないから、供給電流波形は必ずしもパルス状である必要はなく、定常電流波形などの任意の電流波形で供給が可能である。
【0028】
次に、この発明の実施の形態1が従来の分割電極法と異なる点を説明する。該分割電極法の場合には、図12に示すように絶縁体3によって互いに絶縁された複数の柱状部材4を、抵抗体1を介して給電体2へ接続することにより、電極全体を図13に示すごとく柱状電極の結束体となし、加工間隙に形成される浮遊容量を小面積加工時並みに小さく分割して減少させている。しかし、既に述べたように放電加工では一度放電が発生すると、その周囲に連続して発生しやすい性質があり、並列放電を発生させるためには各々の柱状部材を例えば数百ミクロン程度に十分近接させて設置する必要がある。しかしながら、柱状部材を互いに近接させるためには各々の柱状部材を細くする必要があるから、必然的に各々の柱状部材とワークとの対向面積が小さくならざるを得ず、各々の柱状部材が形成する浮遊容量も小さくなってしまうため、この浮遊容量に蓄電された電荷はほとんど加工に寄与できない。
【0029】
すなわち、各々の柱状部材がワーク15と対向することで形成する浮遊容量に蓄電して加工を行うためには柱状部材4が十分太く、例えば1平方mm以上の広い面積でワーク15と対向する必要がある。一方、並列放電を発生させるためには柱状部材4が十分細く、例えば数百ミクロン程度以下の距離で他の柱状部材と隣接する必要があり、両立は非常に困難である。したがって、実際に電極が製作可能な数mm四方程度以上の太さを持つ柱状部材を用いた分割電極法では、放電が始まった特定の柱状部材において放電が連続発生してしまうため、並列放電がほとんど発生しない。
【0030】
しかし、この発明の場合では、上述したように、各々の導電層は薄くかつ長いため、各々の導電層は加工に寄与できる程度に大きな静電容量を形成するために十分な対向面積をワーク15との間に保ちつつ、他の導電層とは並列放電の発生が十分可能な距離に隣接できる。例えば、各導電層間の距離が数百ミクロン程度であって、1平方mm程度以上の対向面積を実現するためには、数mm程度の長さにわたって各導電層とワークとが対向していればよい。このように、この発明では大きな容量を持つ蓄電器を近接させて配置することが可能となるため、該分割電極法のように実質的に一つの蓄電器にばかり放電が発生する状況とはならず、並列放電加工を確実に実現でき、簡単な構造の電極14を用いて放電加工速度を向上することが可能となる。
【0031】
次に、この発明の実施の形態1に係る放電加工用電極を備えた放電加工装置の構成および動作について、図3を用いて説明する。上記で説明した構造の電極14は放電加工装置の主軸16に装着され、ワーク15は加工槽17内に設置される。ここで、電極14内の各導電層とワーク15との対向面積は、あまり狭いと抵抗体電極の場合と同様に加工に寄与する浮遊容量が小さくなりすぎてしまう。望ましい対向面積は電極14とワーク15の距離によって異なるが、おおむね0.1平方mm以上が望ましく、1平方mm以上であれば申し分ない。すなわち、導電層の厚さが100μm程度であれば、長さ10mm以上にわたって導電層とワークとが対向していれば申し分ないといえる。
【0032】
加工槽17内は加工液18が満たされている。加工電源19は十分な電流供給能力を有する定電圧電源であって、電極14上に設けられた給電体13とワーク15に接続されている。制御装置20は電極14とワーク15の間隔が一定となるように主軸16を介して電極14の位置を制御する。その制御方法は、例えば加工電流が一定となるように電極位置を制御するなどの既知の方法が採用可能である。すなわち、加工間隙に形成された蓄電器への充電電流を、ホール素子や変流器などの電流検出器や、充電回路へ直列に挿入したシャント抵抗の端子間電圧値を用いて測定し、加工電流があらかじめ設定された値を下回った場合には電極14とワーク15の距離を減少させ、上回った場合には増大させるように電極14の位置を制御すればよい。加工電流は加工電源19から給電体13、抵抗体12を経由して各導電層とワーク15間に形成される個々の蓄電器へ充電された後、同時並列的に発生する放電によって加工に供せられる。
【0033】
なお、上記実施の形態1の例では、加工電源19は一定電圧を供給していたが、通常の放電加工装置や該抵抗体電極法のようにパルス状に電圧を印加する電源などを使用してもよく、この場合、アーク放電の発生を抑制する効果が期待できる。また、印加する電圧値が変更可能な電源を用いれば、様々な面粗さの加工が実現できたり、異常放電状態の回避制御に利用可能となるので都合が良い。
【0034】
また、上記実施の形態1の例では蓄電器への充電電流を測定して電極14の位置を制御するよう構成したが、加工電源19の出力電圧値は既知であるから、蓄電器の充電回路に直列に抵抗を挿入したり、出力インピーダンスの高い加工電源を用いれば、充電電流値は給電体13とワーク15との電位差からも得ることが出来るので、充電電流値の測定を省略し、この給電体13とワーク15との電位差に基づいて電極14の位置を制御してもよいことは言うまでもない。すなわち、給電体13とワーク15との間の電圧があらかじめ設定された値を下回ると、電極14とワーク15の距離を増大させ、上回ると減少させるように電極14の位置を制御する既知の制御方法が使用できる。
【0035】
なお、上記実施の形態1の例では層状異方性導電体11として絶縁被膜をコーティングした金属薄板の層状異方性導電体11を例示したが、不良導電層は完全な絶縁体である必要はなく、電気抵抗体であってもよく、上記と同様の作用効果を奏する。この場合は、安価に電極を実現できる。ただし、異なる積層面間に有意な電位差を生じさせる程度には抵抗値が大きい必要があるから、積層厚さ1cm当り100Ω以上の抵抗値を持つ物質を採用することが望ましい。
【0036】
なお、上記実施の形態1においては抵抗体および給電体は電極の上面に形成したが、これらの位置は積層面を横断する積層横断端面11c上であればどこでもよく、たとえば電極の側面に形成してもよい。
【0037】
また、上記実施の形態1においては給電体13の形状については特に言及しなかったが、加工進行方向の単位電極移動距離当たりの各導電層毎の加工体積が大きいほど、導電層に対向する給電体13の幅の総和を大きく設定すれば、加工量の多い部分ほど蓄電器への充電抵抗が低くなるため放電周波数を高くすることができる。したがって、単位加工体積当たりの放電周波数が均一化されるので、狭い範囲に高い周波数で放電が集中して発生することが無く、電極の異常消耗が防止される利点がある。
【0038】
例えば、通常の荒加工の場合のように、加工進行方向が鉛直下向きの場合には、鉛直方向への電極投影面積が大きい導電層に接続する部分ほど給電体の幅を広げる。このためには、図4に示すように、電極14eを水平面で切断し、切断面全体に抵抗体12eおよび給電体13eを形成すればよい。なお、たとえば仕上げ加工段階の揺動加工の場合のように、横方向の加工が主であって、どの導電層の加工進行方向の投影面積もほぼ等しい場合には、給電体の形状は積層面と平行な方向の幅が一定にすればよい。
【0039】
以上、この実施の形態1によれば、導電層と不良導電層とが交互に積層された層状異方性導電体と、この層状異方性導電体の積層横断端面に接続された抵抗体と、この抵抗体に接続された給電体とから放電加工用電極が構成されていることにより、各々の導電層の厚みは薄いものの、ワークとの対向面が細長く存在しているため、同一の蓄電器とみなし得る対向面積を広くすることができる。このため、ワークとの加工間隙に形成される静電容量は互いに抵抗を介して並列接続された微小な蓄電器の集合体となり、それぞれの蓄電器は、その静電容量が放電加工を行うに十分な静電容量であって、かつ並列放電の発生が十分可能な距離に近接して存在しているので、同時並行的に放電加工を確実に行うことができ、簡単な構造の放電加工用電極を用いて放電加工速度を向上することが可能となる。
【0040】
また、層状異方性導電体の不良導電層が電気抵抗体からなることにより、電極を安価に製作できる。
【0041】
さらにまた、加工進行方向の単位電極移動距離当たりの各導電層毎の加工体積が大きいほど、導電層に対向する給電体の幅の総和を大きく設定することにより、加工量が多い部分ほど放電周波数を高くすることができるので、電極の異常消耗が防止できる。
【0042】
実施の形態2.
図5はこの発明の実施の形態2における放電加工用電極の構造を示す斜視図、図6は図5の放電加工用電極を備えた放電加工装置の概略構成を示す構成図である。図5、図6において図1〜図3と同じ符号は、同じまたは相当部分を示し、その説明を省略する。図5において、層状異方性導電体11と抵抗体12と給電体13と誘電体21と接地体22とで電極24が構成されている。誘電体21は、層状異方性導電体11の積層横断端面11cに設置された誘電性を有する部材であって、例えば酸化チタンやチタン酸バリウムの薄膜などで形成される。接地体22は誘電体21に設置された導電性を有する部材で、給電体13と同様に圧着や薄膜形成などで形成される。
【0043】
次に、動作について説明する。実施の形態2に係る放電加工装置と実施の形態1のものとは、図6に示すように、接地体22とワーク15とをワイヤーなどで接続している点が異なる。実施の形態1では加工液18を介して対向している各導電層とワーク15の間に形成される浮遊容量によって加工していたが、実施の形態2ではこれに加えて各導電層と接地体22の間に形成される静電容量も加工に寄与する。ここで、各導電層と接地体22との間に存在する誘電体21には様々な材料が使用可能であって、例えば上記チタン酸バリウムなどの高誘電率材料を使用すれば、加工液を介して対向する場合よりも同一面積で数千倍の静電容量が容易に得られる。
【0044】
さらに、誘電体21を形成する積層横断端面11cは電極の上面だけでなく側面にも存在するから、例えば、積層横断端面11cの表面に微細なスリットを多数設けることも可能であって、多数設けた微細なスリットの表面すべてに誘電体21を形成するなどの方法により、積層横断端面11cと接地体22との対向面積を著しく増大させることも可能であるから、実施の形態1よりも著しく大きな静電容量を得ることが実現できる。
【0045】
したがって、この実施の形態2によれば、層状異方性導電体11の積層横断端面11cに、誘電体21を介して導電性の接地体22を設け、接地体22をワーク15と接続することにより、実施の形態1の場合に比し、電極24とワークとの加工間隙に形成される静電容量がさらに大きくなるので、同時並行的に放電加工をより確実に行うことができ、簡単な構造の放電加工用電極を用いて放電加工速度をさらに向上することが可能となる。
【0046】
また、実施の形態1の場合には電極14とワーク15の間の距離が変化すると加工に用いる静電容量が変動してしまうが、実施の形態2の場合には接地体22と層状異方性導電体11の積層横断端面11cとの間に形成される静電容量値は加工間隙長の影響を受けないので、電極24とワークとの対向面積に左右されない均一な面粗さの加工面が実現できる。
【0047】
なお、上記実施の形態2においては誘電体および接地体は電極の側面に形成したが、これらの位置は積層面を横断する積層横断端面上であればどこでもよく、たとえば電極の上面に形成してもよい。また、給電体13の形状に関しては、図4と同様に、加工進行方向の単位電極移動距離当たりの各導電層毎の加工体積が大きいほど、導電層に対向する給電体13の幅の総和を大きく設定してもよく、実施の形態1の場合と同様の作用効果を奏する。
【0048】
実施の形態3.
図7はこの発明の実施の形態3における放電加工用電極の構造を示す斜視図、図8は図7の放電加工用電極を備えた放電加工装置の概略構成を示す構成図である。図7、図8において図1〜図3と同じ符号は、同じまたは相当部分を示し、その説明を省略する。図7において、層状異方性導電体11と抵抗体12と給電体33とで電極34が構成されている。給電体33は第1の給電体33aおよび第2の給電体33bとからなり、層状異方性導電体11の積層面11aを横断する方向に互いに離れた2個所に抵抗体12に接続され、導電性を有する銅などからなり、圧着や薄膜形成などにより抵抗体12に形成される。
【0049】
実施の形態3に係る放電加工装置と実施の形態1のものとは、図8に示すように、第1の給電体33aおよび第2の給電体33bが、給電線35a,35bを介して加工電源19に接続され、各給電線35a,35bには制御装置20に接続されている第1の電流検出器36aおよび第2の電流検出器36bが設けられている点が実施の形態1と異なる。
【0050】
次に、動作について説明する。並列放電が発生する仕組みは実施の形態1と同じであるので、その説明を省略する。
一般に、グラファイトなど比較的電気抵抗の高い電極材料を用いた場合、複数の給電点を設け、それぞれの加工電流を計測することで放電の発生位置を特定できることは既知である。
層状異方性導電体11は、積層面11aに平行な方向の電気抵抗は低いが、積層面11aを横断する方向の電気抵抗は著しく高い。したがって、充電電流が積層面11aを横断する方向に流れる際には、層状異方性導電体11の内部ではなく抵抗体12の内部を流れる。
【0051】
したがって、上記グラファイト電極の場合と同様に、第1および第2の電流検出器36a,36bを用いて第1および第2の給電体33a,33bを流れる給電電流をそれぞれ計測することにより、二つの給電点間のどの蓄電器に充電しているかを検出できる。このため、実施の形態1で述べたような加工電流が一定となるように電極位置を制御する既知の方法や、同じく実施の形態1で述べたような給電体とワークとの電位差に基づいて電極の位置を制御する既知の方法に加え、二つの電流検出器35a,35bの出力から特定の蓄電器に充電電流が集中していると判断できる場合には、短絡が発生しているとみなして電極とワークを離す制御を加えることができ、ワーク15の加工面の損傷を避けることが可能となる。
【0052】
なお、上記実施の形態では給電体を二個所設けたが、三個所以上に給電体を設けてもよい。
【0053】
以上のように、この実施の形態3によれば、給電体がすくなくとも2個の給電体からなり、各給電体が層状異方性導電体の積層面を横断する方向に互いに離れて抵抗体に接続され、各給電体へ流れる電流を計測する電流検出器を備えることにより、特定の蓄電器に充電電流が集中しているか否かを判別できるため、ワークの加工面の損傷を避けることができる。
【0054】
実施の形態4.
図9はこの発明の実施の形態4における放電加工用電極の構造を示す斜視図、図10はこの発明の実施の形態4における他の放電加工用電極を示す斜視図である。図9、図10において図1と同じ符号は、同じまたは相当部分を示し、その説明を省略する。図9、図10において、層状異方性導電体11と抵抗体12と給電体43とで電極44が構成されている。給電体43は導電性を有する銅などからなり、第1の給電体43aおよび第2の給電体43bとからなる。
【0055】
第1の給電体43aおよび第2の給電体43bは、積層面11aに平行な方向に互いに離れた状態で、かつ層状異方性導電体11の各導電層と二つの給電体それぞれとの対向面積の差または比が、各導電層毎に異なった状態で設置されている。これは、例えば、図9に示すように、第1の給電体43aを積層面11aに平行な方向の幅を一定となし、第2の給電体43bを積層面11aに平行な方向の幅を徐々に増加させるよう設置すれば実現できる。
【0056】
実施の形態4に係る放電加工装置は、図8と同様に構成されている。例えば、第1の給電体43aおよび第2の給電体43bが、給電線35a,35bを介して加工電源19に接続され、各給電線35a,35bには制御装置20に接続されている第1の電流検出器36aおよび第2の電流検出器36bが設けられている。
【0057】
次に、動作について説明する。並列放電が発生する仕組みは実施の形態1と同じであるので、その説明を省略する。この実施の形態の場合には、第1および第2の給電体43a,43bから各導電層へは、抵抗体12の厚さ方向に電流が流れる。したがって、各導電層とワーク15との間に形成される蓄電器への充電抵抗は、各導電層と第1および第2の給電体43a,43bとの対向面積に反比例する。
【0058】
また、各蓄電器への充電電流は充電抵抗に反比例するのであるから、充電電流は上記対向面積に比例して流れることになる。既に述べた給電体の設置形態から明らかなように、導電層と第1および第2の給電体43a,43bとの対向面積の差または比は、導電層毎に異なった状態で設置されているので、第1および第2の給電体43a,43bを流れる充電電流の差または比も、導電層毎に異なる。したがって、第1および第2の給電体43a,43bを流れる充電電流を実施の形態3と同様に個別に計測することにより、どの蓄電器に充電しているかを検出できるので、特定の蓄電器に充電電流が集中しているか否かを判別できるため、ワークの加工面の損傷を避けることができる。
【0059】
なお、この実施の形態4では、各導電層と二つの給電体それぞれとの対向面積の差または比と各導電層の位置との関係については特に言及しなかったが、対向面積の差または比が各導電層の位置に対して単調に増加または減少するように、さらに望ましくは図10に示すように一次関数の関係で変化するように構成すれば電流検出器出力から充電位置を特定する処理が容易になる利点を有する。
【0060】
さらに、この実施の形態4における充電抵抗は、各導電層と二つの給電体43a,43bとの対向面積の和で決定されるから、この対向面積の和は実施の形態1における各導電層と給電体との対向面積に相当する。したがって、実施の形態1と同様に、単位電極移動距離当たりの各導電層毎の加工体積が大きいほど、導電層に対向する給電体の幅の和が大きい形状にすれば、加工量が多い部分ほど放電周波数を高くすることができるので、電極の異常消耗が防止できる。
なお、上記実施の形態では給電体を二個所設けたが、三個所以上の給電体を設け、必要に応じてそれらのうち二個所を用いるなどしてもよい。
【0061】
以上のように、この実施の形態4によれば、給電体がすくなくとも2個の給電体からなり、各給電体が層状異方性導電体11の積層面11aに平行な方向に互いに離れた状態で、かつ層状異方性導電体11の各導電層と各給電体との対向面積の差または比が、各導電層毎に異なった状態で抵抗体に接続され、各給電体へ流れる電流を計測する電流検出器を備えることにより、特定の蓄電器に充電電流が集中しているか否かを判別できるため、ワークの加工面の損傷を避けることができる。
【0062】
また、各導電層と各給電体との対向面積の差または比が各導電層の位置に対して一次関数の関係で変化するように構成したので、電流検出器出力から充電位置を特定する処理が容易になる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】この発明の実施の形態1における放電加工用電極の構造を示す斜視図である。
【図2】図1の放電加工装置の放電の原理を示す等価回路図である。
【図3】図1の放電加工用電極を備えた放電加工装置の概略構成を示す構成図である。
【図4】この発明の実施の形態1における他の放電加工用電極の構造を示す斜視図である。
【図5】この発明の実施の形態2における放電加工用電極の構造を示す斜視図である。
【図6】図5の放電加工用電極を備えた放電加工装置の概略構成を示す構成図である。
【図7】この発明の実施の形態3における放電加工用電極の構造を示す斜視図である。
【図8】図7の放電加工用電極を備えた放電加工装置の概略構成を示す構成図である。
【図9】この発明の実施の形態4における放電加工用電極の構造を示す斜視図である。
【図10】この発明の実施の形態4における他の放電加工用電極を示す斜視図である。
【図11】従来の抵抗体電極法における電極を示す構造図である。
【図12】従来の分割電極法における電極を示す構造図である。
【図13】従来の分割電極法における電極の全体を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0064】
11,11e 層状異方性導電体
11a 積層面
11b 積層平行端面
11c 積層横断端面
12,12e 抵抗体
13,13e,33a,33b,43a,43b 給電体
14,14e,24,34,44 放電加工用電極
15 被加工物
21 誘電体
22 接地体
36a,36b 電流検出手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工物と加工間隙を介して対向する放電加工用電極を備えた放電加工装置であって、上記放電加工用電極が、薄板形状の導電層と不良導電層とが交互に積層された層状異方性導電体と、この層状異方性導電体の積層横断端面に接続された抵抗体と、この抵抗体に接続された給電体とからなり、前記導電層の前記被加工物との対向面積が0.1平方mm以上であることを特徴とする放電加工装置。
【請求項2】
層状異方性導電体の積層横断端面に、誘電体を介して導電性の接地体を設け、上記接地体が被加工物と接続されることを特徴とする請求項1記載の放電加工装置。
【請求項3】
層状異方性導電体の不良導電層が非導電材からなることを特徴とする請求項1または2記載の放電加工装置。
【請求項4】
層状異方性導電体の不良導電層が電気抵抗体からなることを特徴とする請求項1または2記載の放電加工装置。
【請求項5】
給電体がすくなくとも2個の給電体からなり、層状異方性導電体の積層面を横断する方向に互いに離れて抵抗体に接続され、上記各給電体へ流れる電流を計測する電流検出手段を備えることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の放電加工装置。
【請求項6】
給電体がすくなくとも2個の給電体からなり、上記各給電体が層状異方性導電体の積層面に平行な方向に互いに離れた状態で、かつ上記層状異方性導電体の各導電層と上記各給電体との対向面積の差または比が、上記各導電層毎に異なった状態で抵抗体に接続され、上記各給電体へ流れる電流を計測する電流検出手段を備えることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の放電加工装置。
【請求項7】
加工進行方向の単位電極移動距離当たりの各導電層毎の加工体積が大きいほど、上記各導電層に対向する給電体の、上記各導電層の長さ方向についての幅の総和が大きく設定されていることを特徴とする請求項1〜4、6のいずれかに記載の放電加工装置。
【請求項8】
層状異方性導電体をなす各導電層と各給電体との対向面積の差または比が上記各導電層の位置に対して一次関数の関係で変化するように構成することを特徴とする請求項6記載の放電加工装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2006−130653(P2006−130653A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−7363(P2006−7363)
【出願日】平成18年1月16日(2006.1.16)
【分割の表示】特願2000−175081(P2000−175081)の分割
【原出願日】平成12年6月12日(2000.6.12)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】