説明

放電管の電極

【課題】電極チップと母材とを、ろう材を使用しないで接続することにより、放電管の電極が安価でかつ容易に製造できるようにする。
【解決手段】頭部(14b)が尖鋭に形成された高融点金属材からなる多孔質焼結体に易電子放射性物質を混入させてなる電極チップ(14)と、高融点金属材により棒状に形成された母材(13)とを設け、前記母材(13)の先端部に先端側が開口した筒状のホルダー(13b)を設け、該ホルダー(13b)に前記電極チップ(14)を嵌合させるとともに、該電極チップ(14)を前記ホルダー(13b)に摩擦係合させ、前記ホルダー(13b)を介して電極チップ(14)を前記母材(13)の先端部に当接させる。また、ホルダー(151)を電極チップ(121)の胴部(141a)にテーパー嵌合させ、該ホルダー(151)の基部を母材(131)に連結する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放電管の電極に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、ファイバースコープ用、あるいは露光用等の光源として放電管が多用されている。該放電管は陰極と陽極とを対向させて放電ガスの雰囲気中に封入し、陰極と陽極との間でアーク放電させて発光させるようになっている。ところで、従来の放電管に使用されている電極(陰極、陽極)は図7に示すようになっている。
【0003】
図7において、1は一方の電極をなす陰極であり、母材2の先端部に陰極チップ3を固着してなる。即ち、前記母材2はモリブデン鋼(高融点金属材)により円柱状に形成するとともに、その先端部に凹部2aを形成してなり、前記陰極チップ3は胴部3aを円柱に、頭部3bを円錐状に形成した高融点金属製の多孔質焼結体内にバリウム(易電子放射性物質)を含浸させてなり、前記凹部2aにモリブデン−ルテニウムからなるろう材4を介在させて陰極チップ3の胴部3aを嵌合させ、これらを加熱処理して前記ろう材4を溶融し、該ろう材4を介して前記陰極チップ3と母材2とを固着する。
【0004】
前記従来のものは、ろう材4の融点1950℃が、多孔質焼結体内にバリウムを含浸させるときの温度約1500℃よりも高く、陰極チップ3を母材2に固着(ろう接)する際の加熱温度が必要以上に高くなると、前記バリウムの一部が多孔質焼結体から流出したり、前記ろう材4の一部が多孔質焼結体内に浸入したりすることになる。このため、陰極チップ3を母材2にろう接する際の温度設定範囲を小さくせねばならず、温度管理が難しくなるものであった。また、高価なモリブデン−ルテニウム製のろう材4を使用する必要があった。
【0005】
【特許文献1】特開2000−215844号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、電極チップと母材とを、ろう材を使用しないで接続することにより、安価でかつ製造の容易な放電管の電極を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に係る発明は、頭部が尖鋭に形成された高融点金属材からなる多孔質焼結体に易電子放射性物質を混入させてなる電極チップと、高融点金属材により棒状に形成された母材とを設け、前記母材の先端部に先端側が開口した筒状のホルダーを設け、該ホルダーに前記電極チップを嵌合させるとともに、該電極チップを前記ホルダーに摩擦係合させ、前記ホルダーを介して前記電極チップを前記母材の先端部に当接させる構成にしたものである。
請求項2に係る発明は、前記母材と別体のホルダーを設け、該ホルダーを、筒状の嵌合部と、該嵌合部の先端部を小径に絞った環状の係合部とを一体に有する構成とし、該ホルダーの嵌合部を電極チップの胴部に嵌合させるとともに、前記係合部を電極チップの頭部の基部側に係合させ、前記嵌合部の基部を母材に連結するようにしたものである。
請求項3に係る発明は、前記電極チップの胴部を先端方向に向かって縮小するテーパー状に形成し、前記ホルダーを先端方向に向かって縮小するテーパー筒状に形成し、該ホルダーを前記電極チップの胴部にテーパー嵌合させ、該ホルダーの基部を母材に連結するようにしたものである。
請求項4に係る発明は、前記ホルダーをコイル状とし、該ホルダーを電極チップの胴部と母材の外周とに圧着嵌合させることにより,前記電極チップを母材に連結するようにしたものである。
【発明の効果】
【0008】
請求項1に係る発明は、母材の先端部に設けた筒状のホルダーに電極チップを嵌合させて摩擦係合させるようにしので、電極チップ及び母材を加熱することなく両者を連結することができ、加熱による電極チップの劣化を防止することができるとともに、安価でかつ製造の容易な電極を得ることができる。
請求項2に係る発明は、筒体の先端部を絞ってホルダーを形成し、該ホルダーの係合部を電極チップに係合させるようにしたので、ホルダーの形状が簡素になって安価になるとともに、電極チップが安定して母材に連結されることになる。
請求項3に係る発明は、ホルダーが電極チップの胴部にテーパー嵌合により摩擦係合するので、ホルダーと電極チップとの接触面積が増大し、ホルダーによる電極チップの放熱効果が高くなるとともに、電極チップが安定して母材に連結されることになる。
請求項4に係る発明は、ホルダーをコイル状としたので、該ホルダーによる電極チップと母材との連結作業が迅速に行えることになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を図面に基いて説明する。図面において、図1は本発明が適用される放電管の部分断面側面図、図2は本発明による陰極の第1実施例を示す部分断面側面図、図3は本発明による陰極の第2実施例を示す部分断面側面図、図4は本発明による陰極の第3実施例を示す部分断面側面図、図5は本発明による陰極の第4実施例を示す部分断面側面図、図6は本発明による陰極の第5実施例を示す部分断面側面図である。
【0010】
図1において、10はキセノンガスと水銀を発光させてファイバースコープ用、あるいは露光用の光源等に利用される放電管であり、キセノンガス及び水銀を封入したガラスバルブ11内に、陰極12と陽極20とを対向させ、両端部に設けた導電箔14、口金15を介して前記陰極12及び陽極20に通電し、ガラスバルブ11内に封入したキセノンガスと水銀を発光させるようにしている。
【0011】
前記陰極12は、図2に示すように、棒状の母材13の先端部にホルダー13bを介して頭部14bが尖鋭に形成された陰極チップ14を一体的に連結してなる。前記母材13は、高融点金属材、本例ではモリブデン鋼により、直径約5mm、長さ約20mmの棒状に形成するとともに、胴部13aの先端部(図2において上端部)に先端(上面)が開口した有底円筒状のホルダー13bを一体に有する。
【0012】
前記陰極チップ14は、高融点金属材、本例では、タングステン粉末、あるいは顆粒タングステン焼結体を高温、高圧下で焼成した多孔質焼結体内に、アルミン酸バリウムを含むアルミン酸アルカリ土類からなる電子放射性物質(エミッタ)を溶融・混入(含浸を含む)させてなり、前記ホルダー13bに嵌合する円柱状の胴部14aと、その先端部(図2において上端部)に位置する円錐状の頭部14bとを一体に有する。
【0013】
前記ホルダー13bの嵌合部13cは、陰極チップ14の胴部14aが密接に嵌合する内径にするとともに、その深さは前記胴部14aの高さよりも若干深く形成しておく。そして、ホルダー13bに陰極チップ14の胴部14aを嵌合させる際には、ホルダー13bを加熱してその内径を拡張させ、この状態で前記胴部14aを嵌合させる。次いで、図2に示すように、ホルダー13bの先端部13dを小径方向にかしめて前記頭部14bの基部側の斜面に沿わせる。これにより、図2に示すような陰極12を得る。
【0014】
前記実施例によれば、円筒状のホルダー13bの先端部をかしめて陰極チップ14の頭部14bの基部に摩擦係合させるようにしたので、母材13への陰極チップ14の取り付けが容易になるとともに、陰極チップ14が安定して母材13に連結されることになる。また、この連結時に陰極チップ12が加熱されないので、該陰極チップ12の劣化を防止することができる。
【0015】
図3は第2実施例を示す。図4において、12は陰極、13は母材、14は陰極チップ、15はホルダーであり、これらは前述した第2実施例と略同様の資材により形成されている。前記母材13は、その先端部に段状かつ小径の載置部131aを形成されている。前記ホルダー15は、母材13と別体に形成されるもので、高融点金属材、本例ではモリブデン鋼により円筒状の嵌合部15aと、その先端部(図3において上端部)を小径に絞った環状の係合部15bとを一体に有する。前記嵌合部15aは陰極チップ14の胴部14a、及び母材13の載置部13eが遊嵌する径とし、前記係合部15bは陰極チップ14の頭部14bの基部側に沿うテーパー状にする。
【0016】
そして、前記陰極チップ14をホルダー15に嵌合させるとともに、その頭部14bの基部側をホルダー15の係合部15bにテーパー係合(摩擦係合)させる。この場合、前記陰極チップ14の胴部14aとホルダー15の嵌合部15aとの間隙部にモリブデン箔(高融点金属箔)16を充填するようにしてもよい。次いで、前記陰極チップ14の底面を母材13の上面に当接させるとともに、ホルダー15の基部(下端部)を母材13の載置部13eに嵌合させた後、ホルダー15の基部と母材13の上端部とを溶接17により一体的に連結し、図3に示すような陰極12を得る。
【0017】
前記実施例によれば、円筒状のホルダー15の先端部を絞って係合部15bを形成し、該係合部15bを陰極チップ14の頭部14bの基部側に係合させるようにしたので、ホルダー15の形状が簡素になって該ホルダー15を安価に得ることができるとともに、陰極チップ14が安定して母材13に連結されることになる。また、ホルダー15を溶接17により母材13に連結するようにしので、この連結時に陰極チップ12が加熱されなくなり、陰極チップ12の劣化を防止することができる。
【0018】
また、図3のように、陰極チップ14とホルダー15との間隙部に高融点金属箔16を充填すれば、陰極チップ14とホルダー15との熱伝導率が高くなり、ホルダー15による陰極チップ14の放熱が良好に行われ、陰極12と陽極20間のアーク放電が長期に亘って安定することになる。
【0019】
図4は第3実施例を示す。図4において、12−1は陰極、131は母材、141は陰極チップ、151はホルダーであり、これらは前述した第2実施例と略同様の資材により形成されている。前記母材131は、その先端部に段状かつ先端方向(上方)に向かって縮小するテーパー状の載置部131aを形成する。
【0020】
前記陰極チップ141は、その胴部141aの外周面を先端方向に向かって縮小するテーパー状に形成し、該胴部141aの先端部に円錐状の頭部141bを一体に形成する。前記胴部141aの外周面のテーパー形状は、母材131の載置部131aのテーパー面から連続して延長する形状とする。また、前記ホルダー151は、前記母材131の載置部131a、及び陰極チップ141の胴部141aにテーパー嵌合するテーパー筒状に形成する。
【0021】
そして、前記陰極チップ141をホルダー151にテーパー嵌合させ、次いで、前記陰極チップ141の底面を母材131の上面に当接させるとともに、ホルダー151の基部(下端部)を母材131の載置部131aにテーパー嵌合させた後、ホルダー151の基部を母材131に溶接171して図4に示すような陰極12−1を得る。この場合、前記陰極チップ141の胴部141aとホルダー151との間隙部にモリブデン箔(高融点金属箔)を充填するようにしてもよい。
【0022】
図5は第4実施例を示す。図4において、12−2は陰極、132は母材、142は陰極チップ、152はホルダーであり、これらは前述した第2実施例と略同様の資材により形成されている。前記母材132は、その先端を平坦にした棒状とする。
【0023】
前記陰極チップ142は、その胴部142aの外周面を先端方向に向かって縮小するテーパー状にするとともにその下面は平坦とし、該胴部142aの先端部に円錐状の頭部142bを一体に形成する。また、前記ホルダー152は、前記陰極チップ142の胴部142aとテーパー嵌合するテーパー筒状とする。
【0024】
そして、前記陰極チップ142をホルダー152にテーパー嵌合させ、次いで、前記陰極チップ142の底面、及びホルダー152の底面を母材132の上面に当接させた後、ホルダー152の基部を母材132に溶接172して図5に示すような陰極12−2を得る。この場合、前記陰極チップ142の胴部142aとホルダー152との間隙部にモリブデン箔(高融点金属箔)を充填するようにしてもよい。
【0025】
前記第2、第4実施例によれば、ホルダー151(152)を電極チップ141(142)の胴部141a(142a)にテーパー嵌合させ、該ホルダー151(152)の基部を母材131(132)に溶接171(172)することにより,前記電極チップ141(142)を母材131(132)に連結するようにしたので、両者の接触面積が増大し、ホルダー151(152)による電極チップ141(142)の放熱効果が高くなるとともに、電極チップ141(142)が安定して母材131(132)に連結されることになる。
【0026】
図6は第5実施例を示す。図6において、12−3は陰極、133は母材、143は陰極チップ、153はホルダーであり、これらは前述した第2実施例と略同様の資材により形成されている。前記母材133は、胴部133aの先端部に小径かつ短尺な円柱状の載置部133bを形成し、該載置部133b基部に環状のくびれ部133cを形成してなる。また、前記陰極チップ143は、その円柱状の胴部143aを前記載置部133bと略等径にするとともに、該胴部143aの先端部に円錐状の頭部143bを一体に形成してなる。
【0027】
前記ホルダー153は、モリブデン製の線材により密着巻きのコイルにするとともに、該コイルの内径はくびれ部133cよりも若干小径とする。該ホルダー153は、その下端コイル部153aを前記母材133のくびれ部133cに圧着嵌合させ、残余のコイル部は前記載置部133b及び陰極チップ143の胴部143aに圧着嵌合(摩擦係合)させる。
【0028】
前記第5実施例によれば、ホルダー153をコイルにし、これを陰極チップ143と母材133とに圧着嵌合させて陰極チップ143を母材133に連結するようにしたので、両者の連結作業が迅速に行えることになる。なお、本発明は、陽極20も前述した陰極12(121−123)と同様の構造にしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明が適用される放電管の部分断面側面図である。
【図2】本発明による陰極の第1実施例を示す部分断面側面図である。
【図3】本発明による陰極の第2実施例を示す部分断面側面図である。
【図4】本発明による陰極の第3実施例を示す部分断面側面図である。
【図5】本発明による陰極の第4実施例を示す部分断面側面図である。
【図6】本発明による陰極の第5実施例を示す部分断面側面図である。
【図7】従来例を示す陰極の部分断面側面図である。
【符号の説明】
【0030】
10 放電管
11 ガラスバルブ
12(12−1−12−3) 陰極
13(131−133) 母材
13a 胴部
13b ホルダー
13c 嵌合部
13d 先端部
14(141−143) 陰極チップ(電極チップ)
14a(141a−143a) 胴部
14b(141b−143b 頭部
15(151−153) ホルダー
15a 嵌合部
15b 係合部
16 高融点金属箔
17(171,172) 溶接
20 陽極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
頭部(14b)が尖鋭に形成された高融点金属材からなる多孔質焼結体に易電子放射性物質を混入させてなる電極チップ(14)と、高融点金属材により棒状に形成された母材(13)とを設け、前記母材(13)の先端部に先端側が開口した筒状のホルダー(13b)を設け、該ホルダー(13b)に前記電極チップ(14)を嵌合させるとともに、該電極チップ(14)を前記ホルダー(13b)に摩擦係合させ、前記ホルダー(13b)を介して前記電極チップ(14)を前記母材(13)の先端部に当接させたことを特徴とする放電管の電極。
【請求項2】
母材(13)と別体のホルダー(15)を設け、該ホルダー(15)は筒状の嵌合部(15a)と、該嵌合部(15a)の先端部を小径に絞った環状の係合部(15b)とを一体に有し、該ホルダー(15)の嵌合部(15a)を電極チップ(14)の胴部(14a)に嵌合させるとともに、前記係合部(15b)を電極チップ(14)の頭部(14b)の基部側に係合させ、前記嵌合部(15a)の基部を母材(13)に連結したことを特徴とする請求項1記載の放電管の電極。
【請求項3】
電極チップ(141)の胴部(141a)を先端方向に向かって縮小するテーパー状に形成し、ホルダー(151)を先端方向に向かって縮小するテーパー筒状に形成し、該ホルダー(151)を前記電極チップ(141)の胴部(141a)にテーパー嵌合させ、該ホルダー(151)の基部を母材(131)に連結したことを特徴とする請求項1記載の放電管の電極。
【請求項4】
ホルダー(153)はコイル状とし、該ホルダー(153)を電極チップ(143)の胴部(143a)と母材(133)の外周とに圧着嵌合させたことを特徴とする請求項1記載の放電管の電極。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−269307(P2006−269307A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−87488(P2005−87488)
【出願日】平成17年3月25日(2005.3.25)
【出願人】(504383704)ランプテクノロジー株式会社 (3)
【出願人】(503442640)ヒメジ理化株式会社 (7)
【Fターム(参考)】