説明

放電表面処理用電極及び放電表面処理用電極の製造方法

【課題】製造が容易であり、材料粒子の選択枝が多い放電表面処理用電極等を提供する。
【解決手段】
被処理材料(18)との間に放電を発生させ、そのエネルギーにより前記被処理材料表面に被膜(20)を形成する放電表面処理用電極(10)であって、炭素に被覆された材料粒子を含む放電表面処理用電極。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放電表面処理に用いられる放電表面処理用電極及び当該放電表面処理用電極の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
油液中に設置した被処理材料と電極の間に放電を発生させ、当該放電のエネルギーを利用する技術として、放電加工と放電表面処理が開発されている。放電加工に用いられる電極が、放電による加工を実現できれば足りるのに対して、放電表面処理には、被処理材料に形成する被膜の材料となる材料粒子を圧縮成形した、内部に空隙を有する電極が用いられ、このような電極には、放電加工に用いられる電極とは異なる性質・機能が求められる。すなわち、放電表面処理用電極は、その構成材料の少なくとも一部が、放電エネルギーによって被処理材料表面に移動する必要があり、構成材料、強度(壊れやすさ)、電気伝導率などが、放電加工用の電極とは大きく異なる。
【0003】
このような放電表面処理用電極に関する従来技術としては、例えば金属粉末あるいは金属化合物粉末を加圧成形した圧粉体を用いた電極が開示されている(特許文献1等参照)。従来技術に係る放電表面処理用電極は、金属粉末あるいは金属化合物粉末に、必要に応じてAg等の軟性金属粉末等を混入させて加圧成形することにより、要求される強度や電気伝導率を確保しようとするものである。
【0004】
また、放電表面処理用電極に関する他の従来技術として、炭素あるいは黒鉛を混入した放電表面処理用電極も提案されている(特許文献2等参照)。しかし、このような放電表面処理用電極は、被処理材料に形成される硬質被膜の高度をより高くするために、電極に含まれる炭素量を増やす目的で炭素粉末を混入させたものにすぎず、炭素粉末を導電材料として用いる旨の示唆はなく、また、開示された炭素粉末は、分散性が悪く、電気伝導率が低い電極となるおそれがあり、導電材料として好適に機能できる態様ではなく、また、用いる材料粒子が不導体の場合、電気伝導率が低すぎて、電極として用いられないおそれがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】再公表WO99/46423
【特許文献2】再公表WO99/47730
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来技術に係る放電表面処理用電極は、基本的に粉体粒子同士の接合の度合いを微妙に調整することにより、放電表面処理用電極に求められる強度や、電気伝導率を確保しようとするものであるため、加圧条件等の製造条件の合わせこみが難しいという問題を有する。したがって、従来技術に係る放電表面処理用電極は、生産性を向上させることが難しく、また、品質にばらつきを生じやすいという問題を有している。
【0007】
また、従来技術に係る放電表面処理用電極の強度及び導電率は、材料となる粉体粒子自体の性質に大きく依存するため、使用可能な粉体粒子が限定され、たとえ被処理材料表面に移動させたい材料であっても、放電表面処理用電極に用いる材料粒子として採用することが難しい場合があった。
【0008】
本発明は、このような課題に鑑みてなされ、その目的は、製造が容易であり、材料粒子の選択枝が多い放電表面処理用電極及び当該放電表面処理用電極の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述の課題を解決するために、本発明に係る放電表面処理用電極は、
被処理材料との間に放電を発生させ、そのエネルギーにより前記被処理材料表面に被膜を形成する放電表面処理用電極であって、
炭素に被覆された材料粒子を含む。
【0010】
本発明に係る放電表面処理用電極は、材料粒子が導電材料である炭素に被覆されているため、材料粒子がたとえ不導体であっても、材料粒子を被覆する炭素が導通経路となり、放電表面処理用電極として好適に用いることができる。つまり、本発明に係る放電表面処理用電極は、材料粒子として導体、不導体のどちらでも用いることができ、導体と不導体が混合したものを用いることもできる。また、各材料粒子が導電材料である炭素に被覆されているため、放電表面処理用電極に含まれる導電材料の量を、当該炭素の量を調整することにより、適切な量にコントロールすることができ、さらに、放電表面処理用電極中に均一に分散する導電経路を形成することができる。そのため、本発明に係る放電表面処理用電極は、放電処理時において放電箇所に偏りが生じることを防止することができ、高精度な放電表面処理を実施できる。
【0011】
また、放電表面処理は油のように炭素が存在する加工液中で行われるため、炭素が材料粒子の被覆材である本発明は、他の材料を被覆材として用いるものよりも、被処理材料に形成される被膜に対して被覆材が及ぼす影響が少なく、所望の被膜を被処理材料に形成できる。また、本発明に係る放電表面処理用電極は、採用可能な材料粒子の機械的性質及び電気的性質の範囲が広く、放電表面処理において被処理材料の表面に形成したい被膜の性質に応じて、様々な種類の材料粒子を含み得る。
【0012】
また、例えば、前記材料粒子を被覆する前記炭素は、樹脂を焼結して形成されたものであっても良い。
【0013】
被覆材としての炭素が樹脂を焼結して形成された放電表面処理用電極は、様々な材料粒子を被処理材料への被膜材料として採用する場合にも、放電表面処理用電極の製造段階における加圧力・焼結温度等を材料粒子の性質に応じて変更しなくても、材料粒子を被覆する樹脂が接触する圧力、及び当該樹脂が炭素化する温度を設定すれば、放電処理用電極の製造を行うことができる。更には、樹脂を炭素化させるため、炭素化に伴う樹脂のガス化により、被覆材に空隙が形成される。これにより、材料粒子間を接合している炭素が適度な結合強度を奏し、このような放電処理用電極は、放電表面処理用電極として好適な強度及び崩れやすさを有する。
【0014】
また、例えば、前記樹脂はフェノール樹脂であっても良い。
【0015】
フェノール樹脂は焼結に伴う炭素化率(焼結後に炭素として残る割合)が高いため、焼結により消失し難く、焼結後の放電表面処理用電極において材料粒子を被覆する炭素を好適に形成することが可能であり、また、フェノール樹脂を焼結して形成された炭素は、放電処理用電極において良好な導電経路となり得る。
【0016】
また、本発明に係る放電表面処理用電極の製造方法は、被処理材料との間に放電を発生させ、そのエネルギーにより前記被処理材料表面に被膜を形成する放電表面処理用電極の製造方法であって、
材料粒子を準備する工程と、
前記材料粒子を樹脂で被覆する工程と、
前記樹脂で被覆された前記材料粒子を成形して成形体を製造する工程と、
前記成形体を焼結する工程と、
を有する。
【0017】
本発明に係る放電表面処理用電極の製造方法は、材料粒子を樹脂で被覆する工程を有する。これにより、被覆材の含有割合が小さくても、焼結工程後において、材料粒子が炭素に被覆されており、炭素が材料粒子の間に好適に介在している状態をつくりだすことができる。
【0018】
また、焼結工程を経ることにより、材料粒子をコーティングしている樹脂は炭素化されて、導電性を帯びる。したがって、本発明に係る放電表面処理用電極の製造方法では、材料粒子として不導体を選択することが可能であり、材料粒子として不導体を用いた場合であっても電極全体としての導電性が確保される。そのため、本発明に係る製造方法によって製造された電極は、材料粒子が導体であっても、不導体であっても、放電表面処理用電極として好適に作用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係る放電表面処理用電極を用いた表面処理の概要を表す概念図である。
【図2】図2は、本発明の一実施形態に係る放電表面処理用電極の製造方法における中間生成物を表す概念図である。
【図3】図3は、本発明の一実施形態に係る放電表面処理用電極の製造方法を表すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、図面等を用いて本発明の一実施形態に係る放電表面処理用電極の説明を行う。
図1は、本発明の一実施形態に係る放電表面処理用電極10を用いた放電表面処理の概要を表す概念図である。放電表面処理では、加工液16中に設置した被処理材料18と放電表面処理用電極10の間に放電を発生させ、そのエネルギーにより、被処理材料18の表面に硬質被膜20を形成する。放電表面処理において形成される被膜20は、放電時に溶融等した放電表面処理用電極10の電極材料、特に材料粒子を用いて形成される。
【0021】
本発明の一実施形態に係る放電表面処理用電極10は、炭素に被覆された材料粒子を含み、炭素に被覆された材料粒子同士が互いに結合された構造を有する。放電表面処理用電極10に含まれる各材料粒子は、被覆材によって被覆されており、被覆材の主な構成元素は炭素である。放電処理用電極に含まれる被覆材と材料粒子の比率は特に限定されず、放電処理用電極の内部には、隣接する材料粒子の間に被覆材が介在している部分だけでなく、材料粒子と材料粒子の間に空隙が介在している部分や、材料粒子が互いに直接接触する部分が含まれていても良い。
【0022】
放電表面処理用電極10において、被覆材である炭素と材料粒子は、電極内部で均一に分散していることが好ましい。被覆材である炭素と材料粒子が均一に分散した構造は、後述するように、樹脂で被覆された材料粒子を加圧・成形して成形体を製造したのち、これを焼結することによって被覆材である樹脂を炭素化させることにより、好適に製造することができる。
【0023】
被覆材には空隙が形成されていても良く、例えば、樹脂を炭素化させることにより炭素の被覆材を形成した場合は、樹脂成分の一部が焼結時にガス化し、被覆材の内部に空隙が形成される。
【0024】
材料粒子を被覆する炭素は、導電性を有するため、放電表面処理用電極10内部において導電経路となる。したがって、本実施形態にかかる放電表面処理用電極10においては、材料粒子として導体、不導体のどちらでも用いることができ、導体と不導体が混合したものを用いることもできる。また、放電表面処理用電極10は、その使用時において、放電エネルギーによって材料粒子を被処理材料18表面に移動させる必要があるため、単に電気が流れるというだけでなく、放電箇所にエネルギーが集中するように、導電率が適切に調整されている必要がある。しかし、本実施形態に係る放電表面処理用電極10では、各材料粒子を被覆する炭素の量を調整することにより、放電表面処理用電極10の導電率等をコントロールすることができるため、材料粒子として様々な電気的特性を有するものを選定することができる。
【0025】
また、放電表面処理用電極10の強度は、材料粒子の間に介在し、材料粒子間を連結する被覆材によって調整することが可能である。ここで、放電表面処理用電極10は、使用時において、放電エネルギーによって材料粒子を被処理材料18表面に移動させる必要があるため、結合力と壊れやすさのバランスが適切に調整されている必要がある。本実施形態に係る放電表面処理用電極10は、放電表面処理用電極10中における被覆材の含有割合、被覆材に形成される空隙の量等によって、その強度を比較的容易に調整することができる。したがって、このような放電表面処理用電極10は、材料粒子として様々な機械的性質を有するものを採用することが可能である。
【0026】
また、図1に示すように、放電表面処理は油のように炭素が存在する加工液16中で行われるため、炭素が材料粒子の被覆材である放電表面処理用電極10は、他の材料を被覆材として用いるものよりも、被処理材料18に形成される被膜20に対して被覆材が及ぼす影響が少なく、所望の被膜20を被処理材料18に形成できる。
【0027】
材料粒子の材質は、放電表面処理用電極10を使用して被処理材料18表面に形成する被膜20に応じて選択され、特に限定されないが、例えば金属、金属化合物、セラミックス等が挙げられる。なお、被処理材料18表面に形成される被膜20の性質は、材料粒子14そのものだけでなく、放電条件、材料粒子14が放電エネルギーにより反応した物質、被処理材料18の材質の影響を受け得る。
【0028】
図2の(a)〜(c)は、放電表面処理用電極10の一製造方法における中間生成物を表す概念図であり、図3は、放電表面処理用電極10の一製造方法を表すフローチャートである。以下、図2及び図3を用いて、放電表面処理用電極10の製造方法の一例を説明する。
【0029】
図3のステップS001では、放電表面処理用電極10の材料粒子14を選定する(図2(a))。材料粒子14は、放電表面処理用電極10を使用する放電表面処理において、電極側から被処理材料18側に移動する物質を含む。放電表面処理においては、材料粒子14が放電エネルギーによって溶解した物質或いは溶解した物質と被処理材料18が融合した物質等が、被処理材料18表面の被膜20となるため、ステップS001で準備される材料粒子14は、被処理材料18表面に形成する被膜20に応じて選定される。材料粒子14の材質は特に限定されないが、チタン(Ti)、チタン水素化物(TiH)、チタン炭化物(TiC)、チタンニッケル合金(TiN)、タングステンカーバイド、クロムカーバイド、コバルト、BN、B4C、ホウ化物、MoSi2、酸化鉄、酸化亜鉛等の導体や、チタン酸化物(TiO)、アルミナ、酸化クロム、ジルコニア等の不導体が挙げられる。その他、通常用いられる溶射材料であって、融点が存在し、炭素で被覆可能な材料(例えば、クロミア、イットリア、セリア、カルシア、グレーアルミナ、アルミナ−チタニア、ムライト、SiO、ベリリア)であれば適用可能である。
【0030】
材料粒子14は、ボールミル等によって粉砕して生成された粉体であってもよく、粉末が凝集した凝集体であっても良い。材料粒子14の粒径は特に限定されないが、例えば1〜100μm程度とすることができる。
【0031】
図3のステップS002では、材料粒子14を被覆材である樹脂で被覆する。図2(b)は、被覆材12によって被覆された材料粒子14の微細状態を表す概念図であり、図2(b)に示す被覆材12は樹脂である。図2(b)に示すように、ステップS001で選定・準備された材料粒子14は、ステップS002を経ることにより、樹脂によって構成される被覆材12で被覆される。ステップS002で製造される中間生成物は、材料粒子14が樹脂で被覆されていれば足り、図2(b)に示すように粒子状であっても良く、樹脂中に材料粒子14が分散された状態であっても良い。
【0032】
ステップS002において被覆材12として使用される樹脂は、特に限定されないが、例えばフェノール樹脂や、エポキシ樹脂、ポリアミド等が使用される。なお、フェノール樹脂は、ステップS004に示す焼結工程で炭素化される割合が高いので、放電処理用電極の電気伝導率を向上させる必要がある場合等に、特に好適に用いることができる。
【0033】
図3のステップS003では、図2(c)に示すように、ステップS002で樹脂コーティングされた材料粒子14を用いて圧縮・成形を行い、成形体を製造する。尚、この際の圧縮における圧縮力は材料粒子14を被覆する被覆材12同士を接触させる程度の力でよく、材料粒子14そのもの同士を接合させる程の力は必要ない。
【0034】
さらにステップS004では、ステップS003で製造された成形体を焼結し、図1に示す放電表面処理用電極10を得る。ステップS004の焼結工程により、被覆材である樹脂が炭素化し、材料粒子14が樹脂に被覆されている状態から、材料粒子14が炭素に被覆されている状態へと変化する。ステップS004における焼結雰囲気は真空、或いはアルゴンガス等の不活性雰囲気中であればよく、焼結温度は、被覆材を構成する樹脂が炭素化する温度以上であれば特に限定されず、例えば700℃〜3000℃程度とすることができる。
【0035】
ステップS004の焼結工程により、樹脂成分の一部がガス化し、炭素化した被覆材の内部に空隙が形成される。炭素によって構成され、空隙を有する被覆材は、放電表面処理用電極10に対して、適度な強度及び電気伝導率をもたらすことができる。また、被覆材と材料粒子の比率や、被覆材の気孔率を調整することにより、放電表面処理用電極10の強度や導電率を調整することが可能である。
【0036】
上述のような放電表面処理用電極10の製造方法は、材料粒子14を樹脂によって構成される被覆材で被覆する工程と、樹脂によって構成される被覆材を炭素化させる工程を経ることにより、材料粒子14及びこれを被覆する炭素を、均一性の高い状態で電極中に分布させることができる。したがって、このような製造方法で製造された放電表面処理用電極10は、機械的・電気的特性の均一性が高く、放電表面処理時に安定した放電を実現することができ、効率的で安定した被膜形成を行うことができる。
【0037】
また、上述のような放電表面処理用電極10の製造方法は、様々な材料粒子14を被処理材料18への被膜材料として採用する場合にも、材料粒子14を被覆する樹脂が接触する圧力、及び当該樹脂が炭素化する温度を設定すれば、材料粒子14の性質に応じた製造条件の詳細な合わせ込みをしなくても、放電処理用電極の製造を行うことができる。更には、樹脂を炭素化させるため、炭素化に伴う樹脂のガス化により、被覆材に空隙が形成される。これにより、材料粒子14間を接合している炭素が適度な結合強度を奏し、このような放電処理用電極は、放電表面処理用電極として好適な強度及び崩れやすさを有する。
【符号の説明】
【0038】
10…放電表面処理用電極
12…被覆材
14…材料粒子
16…加工液
18…被処理材料
20…被膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理材料との間に放電を発生させ、そのエネルギーにより前記被処理材料表面に被膜を形成する放電表面処理用電極であって、
炭素に被覆された材料粒子を含む放電表面処理用電極。
【請求項2】
前記材料粒子を被覆する前記炭素は、樹脂を焼結して形成されたものであることを特徴とする請求項1に記載の放電表面処理用電極。
【請求項3】
前記樹脂はフェノール樹脂であることを特徴とする請求項2に記載の放電表面処理用電極。
【請求項4】
被処理材料との間に放電を発生させ、そのエネルギーにより前記被処理材料表面に被膜を形成する放電表面処理用電極の製造方法であって、
材料粒子を準備する工程と、
前記材料粒子を樹脂で被覆する工程と、
前記樹脂で被覆された前記材料粒子を成形して成形体を製造する工程と、
前記成形体を焼結する工程と、
を有する放電表面処理用電極の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2013−95936(P2013−95936A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−237303(P2011−237303)
【出願日】平成23年10月28日(2011.10.28)
【出願人】(000101879)イーグル工業株式会社 (119)
【Fターム(参考)】