説明

放電解析装置、放電解析方法及び電子写真転写プロセス解析装置

【課題】放電開始判定基準ならびに放電による移動電荷量算出モデルの見直しを行ない、より現実に近い現象が再現可能な3次元計算モデルを有する放電解析方法、放電解析装置及びこれを応用する電子写真転写プロセス解析装置を提供することにある。
【解決手段】全体制御部は、転写プロセスの解析を行うために、第1電界計算部12、放電判定前処理部13、放電開始判定部14、移動電荷量算出部15、放電電荷配置部16、第2電界計算部17、トナー挙動解析部18を備えて構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放電を考慮した数値計算手法を実施する放電解析装置、放電解析方法、及びこの放電解析装置を応用している電子写真転写プロセス解析装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、シミュレーションを用いた設計方法が急速に普及し始めている。これはコンピュータ性能の大幅な向上と、汎用性の高い電磁場解析ソフトや気流解析ソフトが数多く市販されていることによるものである。
電子写真プロセスにおいてもそれは例外ではなく、とくに、放電による画像劣化の影響が大きい帯電プロセスや転写プロセスに、シミュレーションを用いる動きが活発である。 しかしながら、転写プロセスの詳細検討では、一般的な電位分布解析の他に、放電や粉体挙動を同時に扱わなければならない。
そのため、このような高度な解析は汎用ソフトで対応できないため、かかるプロセスに特化した専用シミュレータを作成して対応を行なうことが、従来から提案されている(例えば、特許文献1及び2参照)。
【0003】
特許文献1に開示されている技術は、オームの法則、ポアソン方程式、パッシェンの放電則に基づく放電及びコンデンサ理論に基づく移動電荷量(放電電荷量)の算出で最終的な電位分布を2次元で解析し、帯電や転写プロセスのシミュレータに応用しようというものである。
しかしながら、特許文献1の技術には次のような不都合があった。例えば、カーボンを分散して導電性を持たせた高分子材の場合、カーボンが内部に分散されず表面に固着する場合、超微細な表面の傷等、局所的に放電発生確率が著しく高くなるところが生じる。これらの微小な表面形状の粗さは、計算時間と計算規模の都合上考慮できず、実際の現象と合わないことがあった。
さらに、紙や高分子ベルトのような、媒体の移動を考慮する必要がある放電解析の場合に、放電解析と媒体挙動を同時に考慮すると、膨大な計算時間が必要となり、計算が容易ではない。そのため、移動媒体のバタツキによる放電の変動を考慮することはできなかった。
これらは帯電プロセスや転写プロセスといった、超微細な領域における解析が重要視される場合、とくに、影響が増大し、計算誤差が大きく詳細な解析を行なうことができなかった。
さらに、電子写真プロセスで言うと、紙のすきムラや、感光体内部にあるピンホールと呼ばれる中空による放電の乱れ、中間転写ベルト内部におけるカーボンの凝集等を考慮することはできなかった。
【0004】
一方、前記課題に対応する解析装置として、特許文献2の技術が提示されている。この技術の目的とする処は、放電計算において、媒体の内部及び表面の形状や移動媒体による放電の変動を簡単に放電計算に組み込むことで、現象再現性を向上することである。
現象再現性を向上するために、特許文献2の技術は、放電の開始判定工程と、放電による移動電荷量を算出する工程を備える放電解析方法において、乱数発生工程を有し、放電開始の判定基準又は放電による移動電荷量を乱数で与えることを特徴としている。
特許文献2に開示された技術によれば、放電開始条件、又は移動電荷量計算条件を乱数で与えることにより、簡単に表面粗さや媒体のバタツキの影響による放電のバラツキを考慮できるようになる。とくに、転写のような超微細な領域での放電が重要になる場合、著しく優れた効果があるとしている。
【特許文献1】特開2003−262617公報
【特許文献2】特開2006−300794公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、転写過程での現象について、詳細に現象を解析したところ、転写部材によっては放電による電荷量(放電電荷量)や放電電荷が配置される領域は放電空隙に大きく依存することが判明した。
この傾向は、カーボンを分散して導電性を持たせた高分子材料において、カーボンが内部に分散されず表面に固着する時、超微細な表面の傷等、局所的に放電発生確率が著しく高くなるところが生じた場合に顕著であった。
特許文献2の計算モデルでは、乱数で放電限界や放電電荷量を与えているだけであり、上述した放電空隙の影響を十分には考慮しておらず、実際の現象をうまく再現できていないといった不具合がある。
一方、特許文献1では、均一放電を仮定しており、放電電荷量が放電空隙に依存していないため、前述のような不均一放電には対応できないといった問題がある。
さらに、ドット画像の解析を行なうには3次元解析が必須であるが、既存の技術は2次元解析であったため、ドット画像解析は不可能であり、高画質に向けて詳細な解析を行なうには不向きであった。
そこで、本発明の目的は、上述した実情を考慮して、放電開始判定基準ならびに放電による移動電荷量算出モデルの見直しを行ない、より現実に近い現象が再現可能な3次元計算モデルを有する放電解析方法、放電解析装置及びこれを応用する電子写真転写プロセス解析装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、電位分布を計算する第1電界計算部と、放電対を抽出して放電判定を行うための電位差を算出する放電判定前処理部と、与えられた放電発生条件との比較によって放電発生対間で放電が発生するかを判断する放電開始判定部と、放電による移動電荷量を算出する移動電荷量算出部と、該移動電荷量算出部により得られた移動電荷量を所定の領域に分配して配置する放電電荷配置部と、電位分布を再度計算する第2電界計算部と、該第2電界計算部により得られた電界に従ってトナー挙動を計算するトナー挙動解析部と、制御部と、を備える放電解析装置であって、前記制御部は、放電により発生する放電電荷量が放電空隙の2乗に比例すると仮定して該放電電荷量を求めることを特徴とする。
また、請求項2に記載の発明は、前記制御部は、放電が発生した際に前記放電電荷量を、放電発生点を中心とした所定の領域に配分するように制御することを特徴とする。
また、請求項3に記載の発明は、前記制御部は、前記所定の領域に放電電荷量を配分する際に、正規分布するように放電電荷量を配置することを特徴とする。
また、請求項4に記載の発明は、前記制御部は、前記正規分布の標準偏差Rを放電空隙の関数とすることを特徴とする。
また、請求項5に記載の発明は、前記制御部は、前記正規分布の分散Rを前記放電空隙と等しい値とすることを特徴とする。
また、請求項6に記載の発明は、転写領域でのトナー挙動を3次元で解析する電子写真転写プロセス解析装置において、請求項1乃至5の何れか1項記載の放電解析装置を用いることを特徴とする。
また、請求項7に記載の発明は、電位分布を計算する第1電界計算工程と、放電対を抽出して放電判定を行うための電位差を算出する放電判定前処理工程と、与えられた放電発生条件との比較によって放電発生対間で放電が発生するかを判断する放電開始判定工程と、放電による移動電荷量を算出する移動電荷量算出工程と、該移動電荷量算出工程により得られた移動電荷量を所定の領域に分配して配置する放電電荷配置工程と、電位分布を再度計算する第2電界計算工程と、該第2電界計算工程により得られた電界に従ってトナー挙動を計算するトナー挙動解析工程と、制御工程と、を備える放電解析方法であって、前記制御工程は、放電空隙の2乗に比例すると仮定して放電により発生する放電電荷量を求めることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、3次元でトナーの転写挙動をより忠実に再現できる転写挙動解析装置を提供することが可能となる。また、従来解析困難であった3次元画像が解析できるため、例えば、ドットの解析が可能となり、より詳細な解析が可能となる。さらに、転写部材のカーボン分散の偏りや抵抗ムラに起因する放電の不均一性を考慮することができ、例えば、ベルト差による画像の良否をシミュレーションすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を詳細に説明する。本発明は、放電現象を精度良く算出するための放電解析装置及び方法である。図1は本発明の一実施形態に係る放電解析装置の概略構成を示すブロック図である。図1には全体の処理の流れを示している。
放電解析方法を実施する本実施の形態に係る放電解析装置は、データ入力部1、放電計算部とトナー挙動計算部2、結果表示部3を有している。データ入力部1では、本放電解析方法で行なうシミュレーションに必要な入力パラメータを入力する。入力パラメータとしては、メッシュモデル、電荷量分布、放電を起こす可能性のある節点対(放電発生可能性対と呼ぶ)の指定、放電電荷量算出に必要なパラメータなどがある。
【0009】
図2は放電計算部を構成するコンピュータを示す概略図である。上記放電計算部2におけるコンピュータ処理の概略を説明する。このコンピュータ4は、各種判断及び処理を行なう、放電開始判定部14、移動電荷量算出部15、乱数発生部としての中央処理装置(CPU)8を含んでいる。
コンピュータ4は、また、各処理プログラム及び固定データを格納した処理工程記憶部としてのROM10と処理データを格納するデータメモリであるパラメータ記憶手段としてのRAM7と、パラメータ入力手段としての入出力回路(I/O)9から構成されている。
このコンピュータ4には、例えば、キーボード等の入力装置からのデータが入力データ5としてI/O9を介して入力され、コンピュータ4により処理された処理結果がI/O9を介して、出力データ6として出力される。
【0010】
図3は放電計算部とトナー挙動解析部の構成を示すブロック図である。図3を参照して、図1の放電計算部2の処理について詳しく説明する。図3の構成には、転写プロセスの解析を行うために、第1電界計算部12、放電判定前処理部13、放電開始判定部14、移動電荷量算出部15、放電電荷配置部16、第2電界計算部17、トナー挙動解析部18を制御する全体制御部11が示されている。
まず、第1電界計算部12は、ポアソン方程式に基づいて電位分布を計算する。放電判定前処理部13は、放電対を抽出して、放電判定を行うための電位差を算出する構成となっている。放電開始判定部14は、与えられた放電発生条件との比較によって、放電発生対間で放電が発生するかを判断する。
移動電荷量算出部15は、放電判定前処理部13で抽出した放電対に対し、指定した方法で移動電荷量(放電電荷量)を計算する。得られた移動電荷量は放電電荷量配置部16において、所定の領域に分配して配置される。放電によって電位分布が変動するために、第2電界計算部17において電位分布を、再度、計算する。
さらに、トナー挙動解析のために電界分布が必要となるため、ここでは電位分布の空間部分を計算し、電界分布を得る。次に、得られた電界に従って、トナー挙動解析部18においてトナー挙動を計算する。
【0011】
図4は第1電界計算部からトナー挙動解析部までの一連の処理の流れを示すフローチャートである。次に、図3及びズ4を参照して、第1電界計算部12からトナー挙動解析部18までの処理の流れについて説明する。
計算を開始すると、まず、データ入力部1(図1)により、キーボードやファイル等から入力パラメータを読み込み、その入力パラメータをRAM7(図2)に記憶する(S1)。
次に、第1電界計算部12により電界計算処理(S2)を行なう。入力された条件や現在の時刻の条件を基に、第1電界計算を行ない、計算領域内で必要な点の電位を得る。計算手法は差分法、有限要素法、電荷重畳法等いずれの方法でも構わない。
【0012】
次に、図3で示すように、放電判定前処理部13で放電対を抽出し、放電対間の電位差を算出する(S3)。放電開始判定部14では、予め設定してある放電発生判定条件に基づいて放電の発生有無を判断する(S4)。放電が発生しないと判定された場合はステップ(S8)に進む。
ここで、放電が発生すると判定された場合、ステップ(S5)に進み、移動電荷量算出部15は放電による移動電荷量(放電電荷量)を計算する。 ステップ(S5)の移動電荷量計算では、予め設定してある移動電荷量計算条件を基に、移動電荷量算出部15にて、移動電荷量を算出する。
ステップ(S6)で放電による移動電荷を配置する。即ち、制御部は、放電が発生した際に放電電荷量を、放電発生点を中心とした所定の領域に配分するように制御する。そして、第2電界計算部17により各場所での電位分布を、再度、算出し(S7)、電界強度分布を求める。次いで、計算処理が終了かどうかを判断する(S8)。終了ならば、次に、トナー挙動解析処理に進む。
即ち、全体制御部11は、放電が発生した際に放電電荷量を、放電発生点を中心とした所定の領域に配分するように制御し、所定の領域に放電電荷量を配分する際に、正規分布するように放電電荷量を配置する。また、正規分布の標準偏差Rを放電空隙の関数として、正規分布の分散Rを放電空隙と等しい値とする。
【0013】
次いで、トナー帯電量や各場所での電界からトナーの軌跡を計算する。トナー軌跡は一般的によく知られており、ニュートンの運動方程式から簡単に算出可能である。
結果出力(S9)にて計算結果をRAM7(図2)に記録する。所定の放電空隙になるまで、放電空隙を小さくして、再度、第1電界計算処理から各処理を繰り返す。この場合、第1電界計算(S2)から結果出力(S9)までの処理を1工程とする。
1工程後に変更する放電空隙の大きさは、放電空隙変化(S10)で入力データとして与えてもよいが、実際の機器の感光体や転写部材の径から決まる放電空隙変化を与えてもよい。次いで、放電空隙変化終了かどうかを判断し(S11)、終了ならば、フローを終了する。
経験及び実験から、通常の転写バイアスを印加した際の放電は200μm〜パッシェンミニマム値である約7μmの範囲で起こると考えられるため、放電空隙変化は300μm〜5μmとすればよい。
しかしながら、下限はトナー直径で制限されるため、実際には300μm〜10μm程度となる。1工程で変化する放電空隙量は小さい程詳細な解析となるが、計算時間が膨大となるため10μm刻みくらいが妥当である。
【0014】
図5はポリイミドにカーボンを分散した転写ベルトとPET(ポリエチレンテレフタレート)間の放電実験によって得られた放電空隙と放電電荷量の関係をグラフで示す図である。
次に、放電電荷量算出モデルについて説明する。図5に示す結果から放電電荷量は放電空隙の2乗に比例して多くなることが理解できる。ただし、この傾向はカーボン分散量が多い、又は不均一な場合に顕著であり、イオン導電性ベルトの場合にはこのような傾向が得られなかった。
図6は放電空隙と放電パターンの大きさを実験から求めた結果をグラフで示す図である。図6において、ポリイミドにカーボンを分散した転写ベルトとPET間の放電実験によって、放電パターンは電荷パターンの半径である。放電空隙が大きくなるほど、放電後の放電パターンのサイズが大きくなることが解かる。
【0015】
図7はリヒテンベルグ図形として知られている放電パターンを示す概略図である。図7の放電パターンは、社団法人電気学会出版課、新・放電ハンドブック出版委員会編(1998年)の放電ハンドブック上巻、317ページ、図5.5を引用している。図7の(a)では正極性の逆放電を、(b)では、負極性の逆放電を示している。
この放電パターンはリヒテンベルグ図形として知られており、放電点から放電表面を伝わって沿面放電で形成されることが考察されている。放電による電荷の移動は、電界を乱すため、転写時のトナー挙動に影響を与えることが懸念される。従って、放電電荷の放電空隙依存性と、放電電荷が配置される領域の放電空隙依存性をより現実に近い形で考慮することが必要と判断した。
また、放電電荷は、図7に示すように、放電面に対して2次元的に分布することから、3次元の計算が必要と判断される。ただし、放電空隙はおよそ20μm〜200μmであることから、感光体やローラの曲率の影響は小さく、平行平板モデルで十分と判断した。
【0016】
図8はトナー担持体と転写部材を平板でモデル化した模式図である。上述した状況から、図8のようにトナー担持体と転写部材を平板でモデル化する。まず、3次元電界計算を行い、各場所での電位分布を算出する。
図8において、時間T=0mSの場合に、放電発生可能性対であるトナー担持体20と転写部材22との関係では、放電が発生してないため、トナー担持体である感光体(OPC)20にすべてのトナー21が付着しており、転写部材22にはトナー21が移動していないことを示している。時間T=4.5mS、T=9mSと経過すると、放電空隙Gが狭まる。
実際には感光体20と転写部材22間の放電空隙は場所によって異なるが、感光体20上の点を固定すると、この感光体20の回転に伴って放電空隙はいったん狭くなり、ニップ通過後は広がることになる。転写チリはニップ前の転写入口部で発生すると考えられているため、放電空隙は時間とともに狭くなると考えればよい。
平行平板であるため、放電発生可能性対は上下対の点と仮定する。乱数で任意の放電発生可能対を選び、その放電発生可能対の電位差がパッシェン放電限界電圧よりも大きい場合には放電が発生すると判断する。パッシェンの放電限界電圧は、放電空隙Gで異なる。放電空隙Gは、
(式1)

である。
【0017】
次に、放電電荷量を算出する。ここでは、放電電荷量は放電空隙の2乗に比例すると仮定し、次式で放電電荷量を算出する。パラメータβは実験から求める値であり、具体的には、図5とのフィッティングで決まる値である。図5の場合β=1×1012となった。
単位面積あたりの放電電荷量△qは、他の部材の誘電厚みの和をD、放電空隙をG、空隙間電位差Vg、真空の誘電率εとした時に、以下の式が成り立つ。
(式2)

(式3)

(式4)

ここで、式4の第1項は第2項に比べて十分に小さいため、放電電荷量は放電空隙の2乗に比例する傾向となる。なお、放電が均一の場合(イオン導電性ベルトの場合)、放電開始電圧を越えると放電が発生し、開始電圧以下になると速やかに放電が停止すると考えて、
(式5)

で与える。
【0018】
次に、この放電電荷量を上下の面に配分する。電界を打ち消すように、片面に正電荷、逆面に負電荷を配置する。厳密には、沿面放電現象をモデル化して電荷分布の進展をシミュレーションすべきであるが、ここでは簡略化して放電点を中心に正規分布に広がると仮定した。
もちろん、沿面放電の進展をきちんと計算してもよい。図6から放電空隙に対して、正規分布の幅(標準偏差)を近似して計算に反映させる。ここでは、標準偏差R=放電空隙とした。
この放電電荷量で電位分布が乱されるため、再度、電界計算を行なう。乱数で、再度、放電発生可能対を選び、同様の処理を繰り返していく。全ての点が評価されるまで、一連の処理を繰り返すのが理想であるが、乱数で放電発生可能対を選定しているため、これは得策ではない。
所定の数だけ一連の処理を繰り返したら、その放電空隙での放電判定は終わりとする。又は、例えば、10回繰り返しても新たな放電が発生しないようになったら終了と判断してもよい。以上で放電発生処理は終了となる。
【0019】
次に、トナー挙動解析を行うが、この手法はすでに周知であり、多数の文献に述べられているので割愛する。これらの文献は、例えば、
・仲野 正雄:「現像プロセスでの帯電粉体の挙動解析」、電子写真学会誌、36,3,p185−195(1997).
・川本広行:「粉体挙動のシミュレーション」、日本画像学会1998年度シンポジウム、50−65(1998).
・伊藤 朋之、川本 広行、岡本英樹:「レーザプリンタの磁性一成分現像におけるかぶり現像の二次元解析」、第11回「電磁力関連のダイナミックス」シンポジウム講演論文集、p254−257(1999)
等である。
【0020】
図9はβ=1×1012,β=1×1013,β=1×1014の3条件での、転写部材上へのトナー転写後の画像を示す図である。図9では、放電空隙を300μm〜10μmまで変えて計算を実行した。β=1×1012、β=1×1013、β=1×1014の3条件での、転写部材上へのトナー転写後の画像である。
各条件において、転写バイアスが大きくなるに従って転写チリがひどくなっていく傾向が非常にリアルに再現されていることが解かる。βは転写部材の特性を示し、βが大きい程ベルトの均一性が悪いと考えられる。βが大きくなると、転写チリが悪化しており、これはベルトの抵抗等の不均一によってドット画像が劣化する傾向を示している。
図10は均一放電モデルで計算した結果の転写部材上へのトナー転写後の画像を示す図である。放電が均一であれば、転写チリが少なく良好な画像となることが解かる。また、この傾向は現実の傾向と一致しており、転写ベルト部材の差による画像を表現できている。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】放電解析装置の実施の形態の概略構成を示すブロック図である。
【図2】放電計算部を構成するコンピュータを示す概略図である。
【図3】放電計算部とトナー挙動解析部の構成を示すブロック図である。
【図4】第1電界計算部からトナー挙動解析部までの一連の処理の流れを示すフローチャートである。
【図5】ポリイミドにカーボンを分散した転写ベルトとPET(ポリエチレンテレフタレート)間の放電実験によって得られた放電空隙と放電電荷量の関係をグラフで示す図である。
【図6】放電空隙と放電パターンの大きさを実験から求めた結果をグラフで示す図である。
【図7】リヒテンベルグ図形として知られている放電パターンを示す概略図である。
【図8】トナー担持体と転写部材を平板でモデル化した模式図である。
【図9】β=1×1012、β=1×1013、β=1×1014の3条件での、転写部材上へのトナー転写後の画像を示す図である。
【図10】均一放電モデルで計算した結果の転写部材上へのトナー転写後の画像を示す図である。
【符号の説明】
【0022】
1 データ入力部、2 放電計算部とトナー挙動計算部、3 結果表示部、4 コンピュータ、7 RAM、8 中央処理装置(CPU)、9 入出力回路(I/O)、10 ROM、11 全体制御部、12 第1電界計算部、13 放電判定前処理部、14 放電開始判定部、15 移動電荷量算出部、16 放電電荷配置部、17 第2電界計算部、18 トナー挙動解析部、20 OPC(感光体)、21 トナー、22 転写部材、G 放電空隙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電位分布を計算する第1電界計算部と、放電対を抽出して放電判定を行うための電位差を算出する放電判定前処理部と、与えられた放電発生条件との比較によって放電発生対間で放電が発生するかを判断する放電開始判定部と、放電による移動電荷量を算出する移動電荷量算出部と、該移動電荷量算出部により得られた移動電荷量を所定の領域に分配して配置する放電電荷配置部と、電位分布を再度計算する第2電界計算部と、該第2電界計算部により得られた電界に従ってトナー挙動を計算するトナー挙動解析部と、制御部と、を備える放電解析装置であって、
前記制御部は、放電により発生する放電電荷量が放電空隙の2乗に比例すると仮定して該放電電荷量を求めることを特徴とする放電解析装置。
【請求項2】
前記制御部は、放電が発生した際に前記放電電荷量を、放電発生点を中心とした所定の領域に配分するように制御することを特徴とする請求項1記載の放電解析装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記所定の領域に放電電荷量を配分する際に、正規分布するように放電電荷量を配置することを特徴とする請求項1記載の放電解析装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記正規分布の標準偏差Rを放電空隙の関数とすることを特徴とする請求項1記載の放電解析装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記正規分布の分散Rを前記放電空隙と等しい値とすることを特徴とする請求項1記載の放電解析装置。
【請求項6】
転写領域でのトナー挙動を3次元で解析する電子写真転写プロセス解析装置において、請求項1乃至5の何れか1項記載の放電解析装置を用いることを特徴とする電子写真転写プロセス解析装置。
【請求項7】
電位分布を計算する第1電界計算工程と、放電対を抽出して放電判定を行うための電位差を算出する放電判定前処理工程と、与えられた放電発生条件との比較によって放電発生対間で放電が発生するかを判断する放電開始判定工程と、放電による移動電荷量を算出する移動電荷量算出工程と、該移動電荷量算出工程により得られた移動電荷量を所定の領域に分配して配置する放電電荷配置工程と、電位分布を再度計算する第2電界計算工程と、該第2電界計算工程により得られた電界に従ってトナー挙動を計算するトナー挙動解析工程と、制御工程と、を備える放電解析方法であって、
前記制御工程は、放電空隙の2乗に比例すると仮定して放電により発生する放電電荷量を求めることを特徴とする放電解析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図7】
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【図9】
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【図10】
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