説明

故障原因診断方法及び故障原因診断装置

【課題】機械診断で予め設定される故障原因よりも詳細な故障原因を提示できる故障原因診断装置を提供する。
【解決手段】設備13の状態を示す設備状態データを含む故障事例レコードを故障事例入力手段2により故障事例データベース6に格納する。原因診断手段3が、故障事例データベース6からの故障事例レコード及び原因データベース4からの判断規則に基づいて、推定した、設備13で発生した故障原因を表示手段8に表示する。保守員が入力手段7に入力した故障部品を、該当する故障事例レコードと対応付けて故障事例データベース6に登録する。原因データベース更新手段5が、或る判断規則に含まれる故障原因を含む全ての故障事例レコードを、故障事例データベース6から読み出し、故障原因を含む全ての故障事例レコードに含まれる設備状態データ及び故障部品に基づいて、故障原因及び故障部品を含む新たな判断規則を生成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、故障原因診断方法及び故障原因診断装置に係り、特に、プラントに設けられた設備が正常に動作しないとき、設備を制御する信号及び設備の状態を監視するセンサの検出信号に基づいて正常に動作しない原因を推定するのに好適な故障原因診断方法及び故障原因診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
故障とは、一般に、設備が正常に機能を果たしていない状態を意味する。例えば、設備の部品等が破損して設備が停止している状態、及び設備の設計された性能を果たしていない状態などがある。そのような状態になる理由としては、外乱、及び製造時、施工時及び修理時での欠陥、摩耗及び材料の劣化などによる経年劣化、プラントの運転時の過負荷などが考えられる。故障した設備の状態を分析することによって、故障に至った理由、すなわち、故障原因を推定することを故障原因診断という。
【0003】
故障原因診断には、プラントを保守する保守員が、プラントに設けられた設備等を直接目視することで故障の原因を推定する方法、及び設備に取り付けたセンサの出力信号、及び対象の設備を制御するために制御装置から出力される制御信号を用いて故障の原因を推定する方法がある。センサの出力信号及び制御装置から出力される制御信号を、設備状態データと称する。
【0004】
設備状態データを用いた故障原因診断の一例の概念を、図9を用いて説明する。この故障原因診断では、設備の故障時における設備状態データと故障原因とを関連付けた情報を、故障事例データとして記憶装置に蓄積する。図9に示す例は、2つのセンサのそれぞれの測定値をプロットして示したものであり、設備の正常時及び設備の故障時における各設備状態データは点で表される。故障事例データを蓄積した記憶媒体を故障事例データベースと呼ぶ。この故障事例データベースは上記した記憶装置内に存在する。そして、故障原因診断時には、対象設備から取得した設備状態データと故障事例データベースに蓄積した故障事例データを比較することによって、設備の故障原因を推定する。
【0005】
しかしながら、設備から取得された設備状態データと故障事例データが完全に一致することは現実的にはあり得ないので、どの故障原因かを判断する判断規則を故障原因と対応付けて作成し、この判断規則に基づいて故障原因診断を実施する。例えば、図9では、判断規則は点線で囲まれた円として表現されている。判断規則を蓄積した記憶媒体をここでは、原因データベースと呼ぶ。この原因データベースも、上記した記憶装置内に存在する。
【0006】
原因データベースの例を図10に示す。判断規則301は、図9に示すように、円で表現しているため、原因名302、この原因名の中心303及び半径304を関連付けたレコードで表現することができる。ここで、中心303を原因中心、半径304を判断半径と呼ぶ。新たに設備状態データ(X1,Y1)が得られた場合、図9の空間上にプロットする。この設備状態データ(X1,Y1)が、例えば、判断規則「a:水漏れ」を表現する円内に入っていれば、故障原因を「水漏れ」と推定する。原因中心(Xa,Ya)と設備状態データ(X1,Y1)の距離Lを計算し、得られた距離Lと判断半径Raを比較して計算された距離Lが判断半径Raよりも小さい場合には、故障原因は「水漏れ」となる。
【0007】
この方法では、センサの出力信号及び制御装置から出力された制御信号の数が多い場合には、人手によって判断規則を作成することは困難である。そこで、コンピュータを用いて判断規則を自動的に作成する方法が、例えば、特開平6ー95883号公報に記載されている。特開平6ー95883号公報では、故障事例データの集合を属性と分類クラスを用いて分類し、この分類に基づいてあいまい性を含んだ判断規則を自動的に作成することができる。
【0008】
特開2003−216923号公報は、故障診断装置を記載している。この故障診断装置は、オペレータが不具合現象を入力すると、記憶されている知識データを用いて推論により仮説を生成し、FTA推論により仮説が生成されたときにはこの仮説を探求結果とする。故障診断装置は、もし、FTA推論による仮説が生成されず、FMECA推論による仮説が生成されたときには、この仮説を探求結果とする。そして、不具合現象が解消されたとの入力を受けて、故障診断装置は、該当する探求結果を入力された不具合現象と関連付けて記憶部に記憶する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平6−95883号公報
【特許文献2】特開2003−216923号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特開平6−95883号公報に記載された技術では、予め与えられた属性及び分類クラスについての故障原因の判断規則しか作成することができない。すなわち、原因データベースのレコードは作成時点から増えることはない。プラントの設けられた実際の設備の保守においては、センサ等の出力信号に基づいて故障を特定し、この特定された故障に対して、保守員が目視を含めた詳細な保守作業を実施する。一般に、保守員からの不具合状態の文章入力を用いずにセンサ等の出力信号を用いてコンピュータで診断する(以下、機械診断という)よりも、保守員の保守作業のなかで得られた結果を用いた方が詳細な故障原因を診断できる可能性が高い。
【0011】
しかし、特開平6−95883号公報では保守員の診断により詳細な診断結果が得られても、原因データベースに反映されない。
【0012】
特開2003−216923号公報は,不具合現象がセンサ等の出力信号ではなく,保守員の入力言語を前提としているため,故障診断を自動化できないという問題を生じる。
【0013】
本発明の目的は、機械診断で予め設定される故障原因よりも詳細な故障原因を提示できる故障原因診断方法及び故障原因診断装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記した目的を達成する本発明の特徴は、センサの出力信号である設備状態データを含む新たな故障事例記録情報を、複数の故障事例記録情報を格納している第1データベースに格納し、
第1データベースから読み出した新たな故障事例記録情報、及び故障原因を推定するため用いられる複数の判断規則を格納している第2データベースから読み出された判断規則に基づいて、新たな故障事例記録情報に含まれる設備状態データが発生した故障原因を原因診断手段により推定し、
推定された故障原因を表示装置に表示し、
推定された故障原因を基に得られたこの故障原因の下位の第1故障原因を入力装置から入力して、この第1故障原因を、第1データベースに格納された新たな故障事例記録情報と対応させて第1データベースに格納し、
第2データベースに格納された或る判断規則に含まれる第2故障原因であって第1故障原因を包含する第2故障原因を含む全ての故障事例記録情報を、第1データベースから読み出し、
第2故障原因を含む全ての故障事例記録情報に含まれる設備状態データ及び第1故障原因に基づいて、第1及び第2故障原因を対象にした新たな判断規則を生成することにある。
【0015】
本発明によれば、推定された故障原因に基づいた保守員による診断の結果得られたこの故障原因の下位の第1故障原因を、保守員によって入力装置を使って第1データベースに入力することができ、第1データベースに登録された新たな故障事例記録情報と対応させて第1データベースに格納することができる。この結果、第2故障原因を含む全ての故障事例記録情報に含まれる設備状態データ及び第1故障原因に基づいて、第2故障原因及びこの第2故障原因の下位の故障原因である第1故障原因を対象にする新たな判断規則を生成することができる。このため、保守員による診断結果である第1故障原因を故障事例記録情報へ反映させ、機械診断において予め設定された故障原因よりも、詳細な故障原因を提示することができる
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、保守員による診断結果を事例集合へ反映させ、機械診断において予め設定された故障原因よりも、詳細な故障原因を提示することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の好適な一実施例である故障原因診断方法に用いられる故障原因診断装置の構成図である。
【図2】図1に示す故障原因診断装置に用いられる原因表示手段及び保守結果入力手段を備えた入出力装置の例を示す説明図である。
【図3】図1に示す原因データベース更新手段で実行される処理手順のフローチャートである。
【図4】図1に示す故障事例データベースに記憶されている情報の例を示す説明図である。
【図5】図1に示す原因データベース更新手段で行われる原因データベースの更新処理を示す説明図である。
【図6】図1に示す原因データベース更新手段での原因データベースの更新が終了した時点の原因データを示す説明図である。
【図7】図1に示す原因データベースに記憶された更新後の原因データの例を示す説明図である。
【図8】原因データベースに記憶されている更新された原因データを原因表示手段に表示した表示画像の例を示す説明図である。
【図9】故障原因診断方法の一例の概念を示す説明図である。
【図10】原因データベースに記憶された原因データの例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明の実施例を説明する。
【実施例1】
【0019】
本発明の好適な一実施例である故障原因診断方法を、図面を用いて説明する。まず、本実施例の故障原因診断方法に用いられる故障原因診断装置1を、図1を用いて説明する。故障原因診断装置1は、故障事例入力部2、原因診断手段3、原因データベース4、原因データベース更新手段5、故障事例データベース6及び入出力装置9を備えている。ポータブルタイプの入出力装置9は保守結果入力手段7及び原因表示手段8を有する。
【0020】
例えば、プラントの設備13に設置されたセンサに接続された故障事例入力部2は、故障事例データベース6に接続される。原因診断手段3が原因データベース4、故障事例データベース6及び原因表示手段8にそれぞれ接続される。原因データベース更新手段5が原因データベース4及び故障事例データベース6にそれぞれ接続され、保守結果入力手段7が故障事例データベース6に接続される。原因データベース4及び故障事例データベース6は、記憶装置(図示せず)に含まれる。
【0021】
プラントの設備13に設置されたセンサ(図示せず)によって検出された設備状態データ(例えば、プロセスデータ)(X,Y)が、故障事例入力部2に入力される。故障事例入力部2は、入力された設備状態データ(X,Y)を故障事例ID21(図4参照)と関連付けて故障事例データベース6に格納する。この設備状態データ(X,Y)はその設備が故障時のデータである。本実施例では、故障事例入力部2が設備13に設けられたセンサに、直接、接続されているが、このセンサから出力された設備状態データを、データ処理装置を介して故障事例入力部2に入力しても良い。また、センサから出力された設備状態データ(X,Y)を、設備の故障を判定する故障判定装置を介して故障事例入力部2に入力しても良い。
【0022】
故障事例データベース6は、過去に生じた複数の故障事例のデータを格納している。故障事例データベース6に格納されたそのデータ例を図4に示す。故障事例データベース6に格納された各故障事例のデータは、故障事例レコード25である。各故障事例レコード25は、故障事例ID21、故障時設備状態データ22、故障原因23及び故障部品24の各情報を含んでいる。故障事例ID21は、故障事例データベース6に格納されたそれぞれの故障事例レコード25を識別するための識別番号である。故障原因23は、原因診断手段3によって推定された故障原因の情報であり、原因診断手段3によって、該当する故障事例レコード25の故障事例ID21と対応付けて故障事例データベース6に格納される。故障部品24は、保守員が設備13を詳細に診断することにより特定された故障部品の情報であり、保守結果入力手段7から入力されて該当する故障事例レコード25の故障事例ID21と対応付けて故障事例データベース6に格納される。原因診断手段3による処理が行われていない場合には、故障事例データベース6に格納された該当する故障事例レコード25は、故障原因23の情報を含んでいない。同様に、保守員が保守結果入力手段7から故障部品の情報を入力しない場合には、故障事例データベース6に格納された該当する故障事例レコード25は、故障部品24の情報を含んでいない。例えば、図4に示された故障事例ID21が「2009123101」及び「2009122902」であるそれぞれの故障事例レコード25は、原因診断手段3による処理が行われず、保守結果入力手段7から故障部品の情報が入力されなかったため、故障原因23及び故障部品24の各情報を含んでいない。
【0023】
原因診断手段3は、故障診断を行う故障事例レコード25を、故障事例ID21を用いて故障事例データベース6を検索して故障事例データベース6から検索した故障事例レコード25入力し、この故障事例レコード25の案件に対して故障原因診断を実行する。原因診断手段3で実行される故障原因診断の詳細は、後述する。原因診断手段3は、故障事例データベース6から検索して入力した故障事例データである故障事例レコード25の情報に前処理を施すこともある。この前処理は、例えば、統計的な処理及び主因数分析である。さらに、検索されたデータが振動を信号にしたデータであれば、前処理として、高速フーリエ展開を実施することが望ましい。
【0024】
原因データベース4は、原因診断手段3が使用する複数の判断規則301を格納している。各判断規則301は、図10に示すように、原因名302、設備状態データと同次元数(同じ種類のパラメータの組と対応するデータをもつ)の原因名302の中心303、及び判断半径304を含んでいる。
【0025】
原因表示手段8は、原因診断手段3で得られた故障原因の診断結果を故障事例ID21と共に表示する。原因表示手段8に表示された情報は、対象の設備13を担当する保守員が参照する。保守員は、原因表示手段8に表示された診断結果の情報を参照して対象の設備13の状態を詳細に診断し、詳細な診断により得られた診断結果の情報(故障部品の情報)を保守結果入力手段7から入力する。
【0026】
原因表示手段8及び保守結果入力手段7は、図2に示すように、ポータブルタイプの入出力装置9として一体になっている方が扱いやすい。しかし、原因表示手段8及び保守結果入力手段7は、必ずしも一体である必要はなく、分離して使用しても良い。例えば、原因表示手段8と保守結果入力手段7が一体化された入出力装置9がパソコンであり、このパソコンを事務所に持っていき、原因表示手段8に表示される内容を事務所で印刷し、原因表示手段8を対象の設備13の設置場所に移した状態で設備13の状態を診断し、その後、保守結果入力手段7を別の場所に移して診断結果を入力しても良い。
【0027】
原因データベース更新手段5は、故障事例データベース6に格納された故障事例レコード25を分析し、この分析結果に基づいて原因データベース4に格納された判断規則301を更新する。
【0028】
故障原因診断装置1を用いた本実施例の故障原因診断方法を説明する。まず、原因診断手段3が、故障事例データベース6に格納されている、故障事例ID21として「2009122901」が付与されている1つの故障事例レコード26(図4参照)を読み出す。故障事例レコード25に含まれる設備状態データ(X,Y)は、変数X及び変数Yを含んでいる。変数X及びYは、例えば、温度、圧力、流量、振動周波数及び振幅などの、センサの出力信号及び制御信号である。また、ここでは、2変数(2次元)で説明するが、3変数以上であっても変数の数が有限であれば、2変数の処理と同じ処理を用いることができる。さらに、同じ時刻に得られた設備状態データは、(X,Y)のように括弧で括って表す。これは、設備状態データを必要に応じてベクトルとして扱えることを意味する。
【0029】
原因診断手段3は、故障事例レコード26を読みだした後、原因データベース4から判断規則301を一つずつ読み出す。故障事例レコード26は設備状態データ(X1,Y1)を含んでいる。原因診断手段3は、原因中心303と設備状態データ(X1,Y1)の距離L1を計算する。距離L1の計算では、ユークリッド距離を通常用いるが、ある変数を重要視するように重み付けを行ったり、偏差値を用いたりしても良い。偏差値を用いる場合には、分散の情報を判断規則に付加する必要がある。
【0030】
次に、原因診断手段3において、算出された距離L1と判断規則301の判断半径304であるRaが比較される。距離L1が判断半径Raより小さいとき、対応する判断規則301が故障原因の候補である。複数の故障原因候補があるとき、原因診断手段3は、最も小さい距離L1を有する故障原因を最も有力な故障原因候補として原因表示手段8へ出力する。
【0031】
このとき、原因表示部11を含む表示画像10が、例えば、図2に示すような入出力装置9に設けられた原因表示手段9に表示される。原因表示部11には、原因診断手段3によって推定された原因候補が、故障事例ID21とともに表示される。例えば、「故障事例ID:2009122901」は推定される原因が「水漏れ」であることを示している。表示画像10は、原因表示部11と共に診断結果入力部12を含んでいる。
【0032】
保守員は、表示された原因表示部11の情報(例えば、「水漏れ」)を見て、対象の設備13を詳細に診断する。そして、その診断結果を診断結果入力部12から入力する。例えば、図2に示すように、下段へ「故障部品を入力してください。」などの詳細な診断の結果の入力を促すメッセージとともに、診断結果入力部12が表示される。保守員は、上記の詳細な診断の結果、設備13の「水漏れ」が、「パッキングの劣化」が原因であることを認識した。このとき、保守員は、診断結果入力部12に、故障部品として「パッキング」を入力する。この入力情報(「パッキング」)は、故障原因の情報(「水漏れ」)と共に、保守結果入力手段7から故障事例データベース6に入力される。この結果、図4に示すように、故障事例ID21である「2009122901」、故障時設備状態データ22である「設備状態データ(X1,Y1)」、故障原因23である「水漏れ」及び故障部品24である「パッキング」の各情報を含む故障事例レコード26が、故障事例データベース6に登録される。
【0033】
新たに、故障部品24の情報が故障事例データベース6に登録されたとき、原因データベース更新手段5が動作する。原因データベース更新手段5の動作タイミングは、故障部品24の情報が故障事例データベース6に登録された直後でも良いし、幾つかの故障部品24の情報の登録がなされてからでも良い。さらには、原因データベース更新手段5は、決められた周期で動作しても良い。
【0034】
原因データベース更新手段5で行われる処理を、図3、図5及び図6を用いて説明する。
【0035】
原因名aの判断規則を含む集合S(a)の中に2つ以上の故障部品p,q,,,があるか、が判定される(ステップS1)。原因データベース6から原因名aの判断規則(以後、これを判断規則aと呼ぶ)を一つ読み出し、この判断規則aを含む故障事例レコード25を故障事例データベース6から収集する。収集された判断規則aを含む故障事例レコード25の集合をS(a)とする。例えば、原因データベース4に登録された判断規則301のうち「水漏れ」(図10参照)に相当する故障事例レコード25は、点線の円で示された集合S(水漏れ)内に存在する(図5参照)。この集合S(a)に含まれる故障事例レコード25が複数の故障部品の情報を含んでいるとき、すなわち、ステップS1の判定が「YES」のとき、ステップS2の処理が行われる。ステップS1の判定が「NO」のとき、ステップS7の処理が行われる。ここで、故障部品はp,q,,,と表す。例えば、集合S(水漏れ)は、「パッキング」及び「フランジ」の2つ故障部品を含んでいる。
【0036】
ステップS1の判定が「YES」のとき、故障原因a及び故障部品pを含む故障時設備状態データの集合をS(a,p)とし、集合S(a,p)に含まれる設備状態データの重心G(a,p)を計算する(ステップS2)。故障原因a及び故障部品pを含む故障事例レコード25の故障時設備状態データ22の集合をS(a,p)と表す。設備状態データ(X,Y)をベクトルとみなし、集合S(a,p)の重心G(a,p)を計算する。例えば、集合S(水漏れ、パッキング)の重心G(水漏れ、パッキング)を求める(図5参照)。
【0037】
重心G(a,p)と集合S(a,p)に含まれる故障事例ベクトルとの距離を計算し、最も大きい距離をR(a,p)とする(ステップS3)。集合S(a、p)に含まれる故障時設備状態データ22と重心G(a、p)との距離Rを計算し、算出された距離Rを大きい順に並べる。最も大きい距離をR(a,p)とする。集合S(水漏れ、パッキング)に含まれる各故障時設備状態データ(X,Y)と重心G(水漏れ、パッキング)との距離Rが算出される。算出された複数のRのうち最も大きい距離をR(水漏れ、パッキング)とする。
【0038】
重心G(a,p)から距離をR(a,p)の半径内に存在する故障時設備状態データの集合に含まれる、故障事例レコードが有する故障原因及び故障部品がそれぞれ全てa,pであるか、が判定される(ステップS4)。重心G(a,p)から距離R(a,p)の半径内にある故障時設備状態データ22の集合をT(a,p)とする。なお、集合S(水漏れ、パッキング)に含まれる事例は、全て、故障原因が水漏れで故障部品がパッキングである。一方,集合T(水漏れ、パッキング)は、集合S(水漏れ、パッキング)の重心から距離R以内に含まれる全ての事例である。すなわち,集合T(水漏れ、パッキング)には、故障原因が水漏れで故障部品がパッキングではない事例が含まれている可能性がある。
【0039】
集合T(a,p)内の全ての故障事例レコード25に含まれる故障原因23及び故障部品24がそれぞれすべて故障原因a及び故障部品pであるか、が判定され、この判定結果が「YES」のとき、故障原因a及び故障部品pを含む集合T(a,p)は、判断規則apとして判断規則aから分割可能である。具体的には、重心G(水漏れ、パッキング)から距離R(水漏れ、パッキング)内に存在する故障時設備状態データ22の集合T(水漏れ、パッキング)に含まれる、故障原因及び故障部品がそれぞれ全て「水漏れ」、「パッキング」であるとき、集合T(水漏れ、パッキング)を、判断規則ap、すなわち、判断規則(水漏れ、パッキング)として集合S(水漏れ)から分割することができる。ステップS4の判定が「YES」のとき、ステップS5の処理が行われる。ステップS4の判定が「NO」のとき、ステップS6の処理が行われる。
【0040】
判断規則aを原因データベース4から削除し、判断規則ap及び判断規則azを原因データベース4に登録する(ステップS5)。原因データベース4に登録されている判断規則301のうち判断規則a(例えば、故障原因「水漏れ」を対象にした判断規則301)を削除し、新たな判断規則ap(例えば、故障原因「水漏れ、パッキング」を対象にした判断規則301)及び新たな判断規則az(例えば、故障原因「水漏れ、パッキング以外」を対象にした判断規則301)を原因データベース4に登録する。判断規則apは、原因名302であるap、原因中心303である重心G(a、p)(G(Xp,Yp)と言い換える)、及び判断半径304であるR(a,p)(Rpと言い換える)を含む。また、判断規則azは、原因名302であるaz、原因中心303である、集合S(a)から集合T(a,p)を取り除いた残りの集合Szの重心Gz、及び判断半径304である、重心Gzと集合Szに含まれる全ての故障時設備状態データ22との間の距離のうち最も大きな距離Rzを含んでいる。ステップS5の処理により、図5に示す集合S(水漏れ)の判断規則aが2つの判断規則に分割され、図6に示すように、故障原因「水漏れ、パッキング」を含む新たな判断規則ap(重心G(Xp,Yp)、判断半径Rp)、故障原因「水漏れ、パッキング以外」)を含む新たな判断規則az(重心G(Xz,Yz)、判断半径Rz)が生成される。故障原因「水供給不足」を含む判断基準(重心G(Xb,Yb)、判断半径Rb)は、そのまま残っている。
【0041】
判断規則aに含まれる全ての故障部品について実行されたか、が判定される(ステップS6)。判断規則aに含まれる全ての故障部品について、ステップS2〜S5の各処理が実行されたか、を判定する。ステップS6の判定が「YES」のとき、ステップS7の処理が行われる。ステップS6の判定が「NO」のとき、別の故障部品を対象にステップS2〜S6の処理が繰り返される。
【0042】
原因データベース4に登録された全ての判断規則に含まれる故障原因に対する処理が実行されたか、が判定される(ステップS7)。原因データベース4に登録された全ての判断規則に含まれる故障原因に対してステップS1〜S6の各処理が実行されたかを判定する。ステップS7の判定が「YES」のとき、原因データベース更新手段5での処理が全て終了する。ステップS76の判定が「NO」のとき、別の故障原因を対象にステップS1〜S7の処理が繰り返される。
【0043】
上記した原因データベース更新手段5での処理により、図7に示すように、原因名が「水漏れ(パッキング)」、「水漏れ(パッキング以外)」及び「水供給不足」の3つの判断規則が、原因データベース4に登録される。
【0044】
そして、これ以降において、原因診断手段3が、故障事例データベース6から読み出した故障事例ID「2010032601」が「水漏れ(パッキング)」に係る場合、推定された原因候補として「水漏れ(パッキング)」が故障事例ID「2010032601」と共に原因表示手段8に表示される(図8参照)。
【0045】
本実施例によれば、保守員による診断の結果得られた故障部品の情報を、保守員によって保守結果入力手段7を使って故障事例データベース6に入力することができ、故障事例データベース6に登録された該当する故障事例レコード25の故障部品24の情報として登録することができる。この結果、原因データベース更新手段5における処理で、保守員が入力した故障部品の情報を用いて、ある故障原因の判断規則を基に、より詳細な故障原因の判断規則を生成することができる。この新たに生成した詳細な故障原因の判断規則が原因データベース4に登録されるので、それ以降の故障原因の診断において、新たに生成した詳細な故障原因の判断規則を用いることができる。このため、本実施例は、機械診断において予め設定された故障原因よりも、詳細な故障原因を提示することができ、設備13の故障原因をより適切に求めることができる。
【0046】
本実施例では、ステップS4において、集合T(a,p)に含まれる、故障事例レコードが有する故障原因23及び故障部品24がそれぞれ全て故障原因a,故障部品pと一致するかの判定を行っているが、故障原因23及び故障部品24がそれぞれ80%の故障原因a及び故障部品pであるか、の判定を行っても良い。逆に、重心G(a,p)に近いほうから80%をカバーするように判断半径R‘(a,p)を決定しても良い。この場合には、ステップS5で原因データベース4に格納する判断半径も変更されたR’(a,p)を用いる。
【0047】
また、本実施例では保守結果入力手段7から入力されるデータ保守員による詳細な診断結果で特定された故障部品だけを用いたが、他の保守情報を用いても良い。例えば、故障部品の中のさらに詳細な部位であったり、保守員の第一印象(ひどい故障、軽度の故障)だったり、故障が起きた季節、天気、湿度、温度、気圧であったり、設備が据え付けられた状況(しっかり据付、据付が甘い)であったり、曜日などでも良い。
【0048】
上記した実施例1では、ステップS5において、判断規則aを原因データベース4から削除し、新たな判断規則ap及び新たな判断規則azを原因データベース4に登録している。しかしながら、新たな判断規則apが対象とする故障原因apが判断規則aが対象とする故障原因aの下位の故障原因である場合には、判断規則aを原因データベース4から削除しなく、新たな判断規則apを、判断規則aの下位の判断規則として原因データベース4に登録してもよい。図5を用いて具体的に説明すると、故障原因「水漏れ、パッキング」を含む新たな判断規則301を、故障原因「水漏れ」を含む判断規則301内に含まれる下位の判断規則とする。
【符号の説明】
【0049】
1…故障原因診断装置、2…故障事例入力部、3…原因診断手段、4…原因データベース、5…原データベース更新手段、6…故障事例データベース、7…保守結果入力手段、8…原因表示手段、9…入出力装置、13…設備。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
センサの出力信号である設備状態データを含む新たな故障事例記録情報を、複数の故障事例記録情報を格納している第1データベースに格納し、
前記第1データベースから読み出した前記新たな故障事例記録情報、及び故障原因を推定するため用いられる複数の判断規則を格納している第2データベースから読み出された前記判断規則に基づいて、前記新たな故障事例記録情報に含まれる設備状態データが発生した故障原因を原因診断手段により推定し、
前記推定された故障原因を表示装置に表示し、
推定された故障原因を基に得られた前記故障原因の下位の第1故障原因を入力装置から入力して、この第1故障原因を、前記第1データベースに格納された前記新たな故障事例記録情報と対応させて前記故障事例データベースに格納し、
前記第2データベースに格納された或る判断規則に含まれる第2故障原因であって前記第1故障原因を包含する前記第2故障原因を含む全ての前記故障事例記録情報を、前記第1データベースから読み出し、
前記第2故障原因を含む全ての前記故障事例記録情報に含まれる設備状態データ及び前記第1故障原因に基づいて、前記第1及び第2故障原因を対象にした新たな判断規則を生成することを特徴とする故障原因診断方法。
【請求項2】
生成された前記新たな判断規則を、前記第2故障原因を含む前記或る判断規則から削除し、前記新たな判断規則を削除した、前記第2故障原因を含む前記或る判断規則に基づいて、前記新たな判断規則とは別の判断規則を生成する請求項1に記載の故障原因診断方法。
【請求項3】
生成された前記新たな判断規則が、前記第2故障原因を含む前記或る判断規則に含まれている請求項1に記載の故障原因診断方法。
【請求項4】
前記第1故障原因が故障部品の情報である請求項1または2に記載の故障原因診断方法。
【請求項5】
複数の故障事例記録情報を格納している第1データベースと、
センサの出力信号である設備状態データを入力してこの設備状態データを含む新たな故障事例記録情報を前記第1データベースに格納する故障事例入力手段と、
故障原因を推定するため用いられる複数の判断規則を格納している第2データベースと、
前記第1データベースから読み出した前記新たな故障事例記録情報、及び前記第2データベースに格納された前記判断規則に基づいて、前記新たな故障事例記録情報に含まれる設備状態データが発生した故障原因を推定する原因診断手段と、
前記原因診断手段で推定された故障原因を表示する表示装置と、
推定された故障原因を基に得られた前記故障原因の下位の第1故障原因を入力し、この第1故障原因を、前記第1例データベースに格納された前記新たな故障事例記録情報と対応させて前記第1データベースに格納する入力装置と、
前記第2データベースに格納された或る判断規則に含まれる第2故障原因であって前記第1故障原因を包含する前記第2故障原因を含む全ての前記故障事例記録情報を、前記第1データベースから読み出し、前記第2故障原因を含む全ての前記故障事例記録情報に含まれる設備状態データ及び前記第1故障原因に基づいて、前記第1及び第2故障原因を対象にした新たな判断規則を生成し、前記新たな判断規則を前記第2データベースに格納するデータベース更新手段とを備えたことを特徴とする故障原因診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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