説明

故障点標定装置、故障点標定方法および故障点標定プログラム

【課題】送電線故障時の故障点の標定精度を向上すること。
【解決手段】故障前電圧算出部110が各観測箇所の故障前電圧を算出し、電圧残留率計算値算出部150が故障位置を移動しながら各観測箇所における電圧残留率の計算値を故障前電圧算出部110により算出された故障前電圧を用いて算出し、評価部260が、観測箇所の電圧残留率の実測値と計算値の差に瞬低電圧低下度に基づいて重み付けした値の標準偏差に電圧残留率の実測値と計算値の差の絶対値に瞬低電圧低下度に基づいて重み付けした値の平均値を加えた評価値Fを各故障位置に対して算出し、評価値Fが最小となる故障位置を故障点として標定するよう構成する。また、実測値評価部270が事前計算により実測値と計算値の差が評価基準より大きい観測箇所を特定し、評価部260が誤差の多い観測箇所を除外する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電力系統を構成する送電線に故障が発生した際に複数の観測箇所で測定した瞬低電圧の実測値に基づいて故障点を標定する故障点標定装置、故障点標定方法および故障点標定プログラムに関し、特に、高精度で故障点を標定することができる故障点標定装置、故障点標定方法および故障点標定プログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
電力系統を構成する送電線に故障が発生した場合、電力会社は、故障が発生した場所や範囲を迅速に特定し、故障の早期復旧に努める必要がある。また、故障状況やその影響を解析し、需要家へ透明性のある情報提供を行う必要がある。
【0003】
このため、送電線には故障点を早期に特定する装置としてフォルトロケータ(以下、FLと呼ぶ)が設置されている。FLは、送電線に故障が発生した場合、変電所から故障点までを「距離」として標定する装置である。FLには、サージ受信形、パルスレーダ形などが存在するが、一般的にはインピーダンス演算形が用いられている。インピーダンス演算形は、送電線の片端子に設置された装置において故障発生時の電圧・電流から故障点までのインピーダンスを求め、故障点を標定する。
【0004】
しかし、FLは、系統の重要性や投資コストの抑制などの観点から、基幹系統などの高電圧、長距離送電線において設置されることが多く、下位系統を含め全ての送電線に設置されることはない。FLが設置されていない送電線では、落雷位置情報システムや送電線経路図などから故障点範囲の予測が行われるが、広範囲の巡視を要する場合や現場に赴くのが困難な送電線の場合は、故障点の特定に膨大な時間と労力を要する。また、保守コスト削減や既存FLの高経年化なども進みつつあり、簡易に適用可能な新たな故障点標定手法が求められている。
【0005】
そこで、送電線の故障時に発生する瞬低(瞬時電圧低下)現象に着目し、瞬低時に各観測箇所において測定される瞬低電圧値を用いて故障点を標定する故障点標定手法が開発されている(例えば、非特許文献1および2参照)。この故障点標定手法では、各故障位置に対して各観測箇所における瞬低電圧を計算し、計算した瞬低電圧値と故障発生時に測定された瞬低電圧値の差を評価して故障点の標定を行う。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】吉村、森、古川、木原 「瞬低実測値と故障計算値による故障点標定手法の開発(その1)」、平成18年電気学会電力・エネルギー部門大会、No.415、平成18年9月
【非特許文献2】末次、堤、吉村、井出、木原 「瞬低実測値と故障計算値による故障点標定手法の開発(その2)」、平成18年電気学会電力・エネルギー部門大会、No.416、平成18年9月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の故障点標定手法では、計算した瞬低電圧値と故障発生時に測定された瞬低電圧値の差の2乗和を評価して故障点の標定を行うため、正確に故障点を標定できない場合があるという問題があった。例えば、観測箇所を2ヶ所とし、正しい故障点Xに対する計算値Vc1およびVc2と測定値Vm1およびVm2と差の2乗が(Vc1−Vm12=aおよび(Vc2−Vm22=bであるとすると、(Vc1−Vm12=bおよび(Vc2−Vm22=aとなるような別の故障点Yについても2乗和は同じa+bとなり、故障点がXであるかYであるかを特定することができない。
【0008】
この発明は、上述した従来技術による問題点を解消するためになされたものであり、高精度で故障点を標定することができる故障点標定装置、故障点標定方法および故障点標定プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決し、目的を達成するため、本発明の一つの態様では、電力系統を構成する送電線に故障が発生した際に複数の観測箇所で測定した瞬低電圧の実測値に基づいて故障点を標定する故障点標定装置であって、複数の故障位置それぞれに対して各観測箇所における瞬低電圧の計算値を算出する計算値算出手段と、前記計算値算出手段により算出された各観測箇所における計算値と前記実測値に基づいて該実測値を評価し、誤差の大きい実測値が観測される観測箇所を特定する誤差大観測箇所特定手段と、前記誤差大観測箇所特定手段により特定された観測箇所を除外して、前記計算値と前記実測値に基づいて各故障位置に対して評価値を算出する評価値算出手段と、前記評価値算出手段により各故障位置に対して算出された評価値に基づいて複数の故障位置から故障点を特定する故障点特定手段とを備えたことを特徴とする。
【0010】
また、本発明の他の態様では、電力系統を構成する送電線に故障が発生した際に複数の観測箇所で測定した瞬低電圧の実測値に基づいて故障点を標定する故障点標定装置による故障点標定方法であって、複数の故障位置それぞれに対して各観測箇所における瞬低電圧の計算値を算出する計算値算出ステップと、前記計算値算出ステップにより算出された各観測箇所における計算値と前記実測値に基づいて該実測値を評価し、誤差の大きい実測値が観測される観測箇所を特定する誤差大観測箇所特定ステップと、前記誤差大観測箇所特定ステップにより特定された観測箇所を除外して、前記計算値と前記実測値に基づいて各故障位置に対して評価値を算出する評価値算出ステップと、前記評価値算出ステップにより各故障位置に対して算出された評価値に基づいて複数の故障位置から故障点を特定する故障点特定ステップとを含んだことを特徴とする。
【0011】
また、本発明の他の態様では、電力系統を構成する送電線に故障が発生した際に複数の観測箇所で測定した瞬低電圧の実測値に基づいて故障点を標定する故障点標定プログラムであって、複数の故障位置それぞれに対して各観測箇所における瞬低電圧の計算値を算出する計算値算出手順と、前記計算値算出手順により算出された各観測箇所における計算値と前記実測値に基づいて該実測値を評価し、誤差の大きい実測値が観測される観測箇所を特定する誤差大観測箇所特定手順と、前記誤差大観測箇所特定手順により特定された観測箇所を除外して、前記計算値と前記実測値に基づいて各故障位置に対して評価値を算出する評価値算出手順と、前記評価値算出手順により各故障位置に対して算出された評価値に基づいて複数の故障位置から故障点を特定する故障点特定手順とをコンピュータに実行させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一つの態様によれば、高精度で故障点を評定することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、本実施例1に係る故障点標定装置による故障点標定手法の概要を説明するための説明図である。
【図2】図2は、本実施例1に係る故障点標定装置の構成を示す機能ブロック図である。
【図3】図3は、電圧残留率の定義を示す図である。
【図4】図4は、評価部が電圧残留率の計算値および実測値の一致度を評価するために用いる評価関数を説明するための説明図である。
【図5】図5は、瞬低電圧低下度合に基づいた重み付けを説明するための説明図である。
【図6】図6は、瞬低電圧低下度合に基づいた重み付けの考え方を示す図である。
【図7】図7は、本実施例1に係る故障点標定装置による故障点標定処理の処理手順を示すフローチャートである。
【図8】図8は、本実施例1に係る故障点標定装置の評価に用いた故障データを示す図である。
【図9】図9は、2回線送電線ルートの故障種別を示す図である。
【図10】図10は、本実施例1に係る故障点標定装置による故障点標定結果を示す図である。
【図11】図11は、[条件2]と[条件4]の電圧様相を示す図である。
【図12】図12は、本実施例2に係る故障点標定装置の構成を示す機能ブロック図である。
【図13】図13は、本実施例2に係る故障点標定装置による故障点標定処理の処理手順を示すフローチャートである。
【図14】図14は、本実施例2に係る故障点標定装置による故障点標定結果を示す図である。
【図15】図15は、各負荷ノードにおける個別無効電力の推定精度を向上する方法を説明するための説明図である。
【図16】図16は、故障前潮流断面作成方法の違いによる故障点標定結果を示す図である。
【図17】図17は、故障送電線および故障様相の情報がない場合に、故障送電線候補をスクリーニングすることによって、効率良く故障点を標定する方法を説明するための説明図である。
【図18】図18は、スクリーニング手法による故障点標定結果を示す図である。
【図19】図19は、本実施例に係る故障点標定プログラムを実行するコンピュータの構成を示す機能ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に添付図面を参照して、この発明に係る故障点標定装置、故障点標定方法および故障点標定プログラムの好適な実施例を詳細に説明する。
【実施例1】
【0015】
まず、本実施例1に係る故障点標定装置による故障点標定手法の概要について説明する。図1は、本実施例1に係る故障点標定装置による故障点標定手法の概要を説明するための説明図である。ある送電線において故障が発生した場合、その故障付近およびそれより下位系統においては瞬低が発生する。この際、各観測箇所では、オシログラフや瞬低記録装置などからその時の瞬低電圧の実測値を得ることができる。一方、ある特定の故障送電線、故障位置、故障様相に対して複数の地点(観測箇所)の瞬低電圧の計算値を得ることができる。
【0016】
そこで、本実施例1に係る故障点標定装置は、図1に示すように、トリップした遮断器や保護リレーからの情報によって故障送電線と故障様相が与えられた条件下で、瞬低時に各観測箇所で測定される瞬低電圧の実測値(Vm1,Vm2,・・・VmN)と解析的に算出される瞬低電圧の計算値とを比較し、故障位置を特定する。
【0017】
具体的には、本実施例1に係る故障標定装置は、故障送電線および故障様相は所与とした上で様々な故障位置において故障点抵抗(アーク抵抗Ra、塔脚抵抗Rr)を推定しながら瞬低電圧を繰返し計算し、実測値と計算値が最も一致する位置を故障点とする。言い換えれば、「どこで故障を発生させれば、各観測箇所の瞬低電圧が得られたような実測値分布になるか」を繰返し計算によって探索し、故障点を標定する。
【0018】
次に、本実施例1に係る故障点標定装置の構成について説明する。図2は、本実施例1に係る故障点標定装置の構成を示す機能ブロック図である。同図に示すように、この故障点標定装置100は、故障前電圧算出部110と、故障前電圧記憶部120と、送電線故障データ読込部130と、送電線故障データ記憶部140と、電圧残留率計算値算出部150と、評価部160とを有する。
【0019】
故障前電圧算出部110は、各観測箇所における故障前の電圧を算出し、故障前電圧記憶部120に格納する処理部である。具体的には、この故障前電圧算出部110は、基準となる系統データと故障発生直前の遮断器・送電線のジャンパー入切状態、発電機の個別出力、調相設備投入容量などの情報から、各観測箇所の電圧が適正範囲になるよう発電機出力などを調整し、故障前潮流断面の作成を行う。そして、作成した故障前潮流断面に基づいて潮流計算を行い、各観測箇所における故障前電圧を算出する。故障前電圧記憶部120は、各観測箇所における故障前電圧を記憶する記憶部である。
【0020】
なお、この故障前電圧算出部110は、故障前潮流断面を作成する場合に、系統全体の有効電力(総P)より無効電力(総Q)を推定し、基準潮流断面より比例配分することによって各観測箇所における有効電力および無効電力を算出する。
【0021】
送電線故障データ読込部130は、各観測箇所における瞬低電圧の実測値、トリップした遮断器や保護リレーから特定された故障送電線および故障様相の情報を読み込み、送電線故障データ記憶部140に格納する処理部である。なお、送電線故障データ読込部130は、瞬低電圧の実測値として電圧残留率を読み込む。ここで、電圧残留率は、図3に示すように、瞬低電圧(残留電圧)/基準電圧(定格電圧)で定義される。電圧残留率を用いることによって、電圧階級に依存しない残留電圧の評価が可能となる。送電線故障データ記憶部140は、各観測箇所における電圧残留率の実測値、故障送電線および故障様相の情報を記憶する記憶部である。
【0022】
電圧残留率計算値算出部150は、故障送電線および故障様相において故障位置を移動させ、故障点抵抗を推定しながら各観測箇所における電圧残留率の計算値を故障前電圧記憶部120が記憶する故障前電圧を用いて算出する処理部である。
【0023】
評価部160は、電圧残留率計算値算出部150により故障位置ごとに算出された電圧残留率の計算値と送電線故障データ記憶部140が記憶する電圧残留率の実測値を比較し、両者が最も一致する故障点抵抗の推定と故障位置の特定を行う処理部である。この評価部160は、電圧残留率の計算値および実測値の分布様相に基づいて両者の一致度を評価することによって故障位置を特定する。
【0024】
図4は、評価部160が電圧残留率の計算値および実測値の一致度を評価するために用いる評価関数を説明するための説明図である。評価部160は、N個の観測箇所における電圧残留率の実測値と計算値の差の標準偏差と実測値と計算値の差の絶対値の平均値とに基づく値を評価値Fとしている。
【0025】
図4に示すように、実測値と計算値の差の標準偏差によって、実測値と計算値の「形」の一致度、すなわち、実測値を結んだ折れ線と計算値を結んだ折れ線の形の一致度を評価することができ、実測値と計算値の差の絶対値の平均値によって、実測値と計算値の「間隔」、すなわち、実測値と計算値の一致度を評価することができる。
【0026】
また、実測値と計算値の差の標準偏差や実測値と計算値の差の絶対値の平均値を計算する場合に、評価部160は、故障点付近の観測箇所の情報は故障点を探索する上で大きな手がかりとなると考えられるため、瞬低電圧低下度合に基づいた重み付けを行う。
【0027】
図5は、瞬低電圧低下度合に基づいた重み付けを説明するための説明図である。図5に示すように、評価部160は、実測値Vmiと計算値Vciの差に重みwiを付ける。ここで、wiは以下の式で定義される。
【数1】

【0028】
図6に、k=7とした場合の瞬低電圧低下度合に基づいた重み付けの考え方を示す。同図に示すように、この場合には、「故障点至近で電圧低下が大きい(平均値から大幅に電圧値が低い)」(a)の実測値と計算値の差を、「故障点から離れており、電圧低下の小さい(平均値よりやや電圧が高い)」(b)群の実測値と計算値の差の合計と同程度で扱うこととなる。
【0029】
具体的には、評価部160は、以下の手順で故障点を特定する。まず、各観測箇所における実測値と計算値の差に瞬低電圧低下度合に基づいて重み付けした値の平均をとり、「差の平均(低下度合考慮)」を計算する。すなわち、
【数2】

を計算する。ここで、Vmiは観測箇所iにおける電圧残留率の実測値であり、Vciは観測箇所iにおける電圧残留率の計算値である。
【0030】
そして、各観測箇所における実測値と計算値の差に瞬低電圧低下度合に基づいて重み付けした値が、「差の平均(低下度合考慮)」からどれだけ離れているかを計算し、実測値と計算値の差に瞬低電圧低下度合に基づいて重み付けした値の標準偏差(低下度合考慮)を計算する。すなわち、
【数3】

を計算する。ここで、この標準偏差(低下度合考慮)を小さくすることにより実測値と計算値のばらつきをなくし、実測値と計算値の「形」を近づけることができる。
【0031】
また、実測値と計算値の「間隔」を評価するために、実測値と計算値の差の絶対値に瞬低電圧低下度合に基づいて重み付けした値の平均値を計算する。すなわち、
【数4】

を計算する。
【0032】
以上より、次式で表される評価関数の値が計算される。
【数5】

【0033】
そして、この評価関数を最小化することにより、瞬低電圧低下度合を考慮しながら、電圧残留率の実測値と計算値の「形」および「間隔」を近づけることができる。すなわち、この評価関数を用いた両者の比較評価を行うことで、両者が最も一致する故障点抵抗を推定し、故障位置を特定することができる。
【0034】
次に、本実施例1に係る故障点標定装置100による故障点標定処理の処理手順について説明する。図7は、本実施例1に係る故障点標定装置100による故障点標定処理の処理手順を示すフローチャートである。同図に示すように、この故障点標定処理では、故障前電圧算出部110が、故障前潮流断面を作成し(ステップS1)、作成した故障前潮流断面を用いて各観測箇所の故障前電圧を計算する(ステップS2)。
【0035】
そして、送電線故障データ読込部130が、電圧残留率の実測値、故障送電線および故障様相の情報を読み込み(ステップS3)、送電線故障データ記憶部140に格納する。そして、電圧残留率計算値算出部150が故障位置を移動させながら故障計算により各観測箇所における電圧残留率の計算値を算出し(ステップS4)、評価部160が実測値と計算値の評価値Fを計算して(ステップS5)、評価値Fを最小にする計算値に対応する故障点抵抗、故障位置を特定する(ステップS6)。
【0036】
このように、評価部160が実測値と計算値の評価値Fを計算し、評価値Fを最小にする計算値に対応する故障点抵抗、故障位置を特定することによって、故障点を標定することができる。
【0037】
次に、本実施例1に係る故障点標定装置100の評価結果について説明する。なお、評価に使用した系統は、発電機数:約100機、送電線数:約500、母線数:約450を有する実系統モデルである。また、この系統において、送電線故障発生時の瞬低電圧を観測する記録装置は、主に66kv(一部110kv)母線に設置されており、基本的にはこの記録装置によるデータを使用している。また、3つの線間電圧のうち最も低下した電圧値を瞬低電圧として評価関数の計算に使用している。
【0038】
図8に実系統における送電線故障データ、全28ケースを示す。図8の故障データは、故障が発生した送電線の電圧階級、その故障の様相、瞬低電圧が観測された箇所数を表している。この観測箇所数は故障影響が及ぶ範囲によってばらつきはあるものの、観測された実測値は全て計算に使用している。また、平行2回線送電線故障パターンの表記についてはK法に準拠している。平行2回線送電線の故障パターンについて図9に示す。なお、上記ケースにおける実際の故障位置は、既存FLや事後巡視によって得られており、故障点標定装置100による標定結果との比較評価を行うことが可能である。
【0039】
図10に標定結果の一例を示す。なお、ここでは、送電線を50分割(2%刻み)して計算値を算出し、故障点標定装置100が特定した故障点と実際の故障位置との差を標定誤差としている。また、従来手法とは、瞬低電圧低下度合に基づいた重み付けを行わない場合を示す。
【0040】
図10に示すように、同じ上位系と下位系の混在データを使用している[条件2]ならびに上位系データのみで従来手法を使用した[条件3]と本実施例1に係る故障点標定装置100を使用した[条件4]とを比較して、瞬低による電圧低下度合いを考慮したほうが精度良い標定結果が得られることがわかる。このように、上位系と下位系の混在データを使用した際でも、瞬低による電圧低下度合いを考慮した評価関数によって故障の起きた電圧階級以外のデータを重みにより影響を小さくして、精度を向上させることができる。
【0041】
また、このケースの電圧残留率の比較として、[条件2]と[条件4]の電圧様相を図11に示す。電圧残留率の低い観測箇所(図の矢印箇所を参照)において[条件2]に比べて[条件4]のほうが「実測値と計算値の差」を近づけており、故障点近傍において電圧様相を近づけていることがわかる。
【0042】
上述してきたように、本実施例1では、評価部160が、観測箇所の電圧残留率の実測値と計算値の差に瞬低電圧低下度に基づいて重み付けをした値の標準偏差に電圧残留率の実測値と計算値の差の絶対値に瞬低電圧低下度に基づいて重み付けした値の平均値を加えた評価値Fを各故障位置に対して算出し、評価値Fが最小となる故障位置を故障点として標定することとしたので、瞬低電圧低下度合いを考慮するとともに、各観測箇所で得られた電圧残留率の実測値分布に「形」および「間隔」が最も一致する故障点を標定することができ、高精度で故障点を標定することができる。
【実施例2】
【0043】
観測箇所から得られる実測値には、観測装置の故障や取り込みエラーなどにより大きな誤差が含まれる可能性がある。このような誤差を含んだ実測値は、計算値との適切な比較ができないため、標定結果にも影響を及ぼすことになる。そこで、本実施例2では、誤差の多い実測値を特定し、特定した実測値に対応する観測箇所の測定結果を標定には用いないようにする故障点標定装置について説明する。
【0044】
まず、本実施例2に係る故障点標定装置の構成について説明する。図12は、本実施例2に係る故障点標定装置の構成を示す機能ブロック図である。なお、ここでは説明の便宜上、図2に示した各部と同様の役割を果たす機能部については同一符号を付すこととしてその詳細な説明を省略する。図12に示すように、この故障点標定装置200は、図2に示した故障点標定装置100と比較して、評価部160の代わりに評価部260を有し、実測値評価部270を新たに有する。
【0045】
実測値評価部270は、全観測箇所における実測値を全て使用して、故障発生時に、一度事前に故障点標定計算を実施し、そこで得られた実測値と計算値の差の標準偏差を用いて実測値の精度を評価し、誤差の大きい実測値を特定する処理部であり、特定した実測値に対応する観測箇所を評価部260に通知する。
【0046】
評価部260は、評価部160と同様に、電圧残留率の計算値および実測値の分布様相に基づいて両者の一致度を評価するが、瞬低による電圧低下度合に基づく重み付けは行わない。また、この評価部260は、実測値評価部270から通知された観測箇所を除いて評価値Fを計算する。このように、誤差の大きい実測値を除いて評価値Fを計算することによって、より高精度で故障点を標定することができる。
【0047】
次に、本実施例2に係る故障点標定装置200による故障点標定処理の処理手順について説明する。図13は、本実施例2に係る故障点標定装置200による故障点標定処理の処理手順を示すフローチャートである。同図に示すように、この故障点標定処理では、ステップS1〜S3の処理は故障点標定装置100による故障点標定処理と同様であるので、ステップS31以降の処理について説明する。
【0048】
送電線故障データ読込部130が、電圧残留率の実測値、故障送電線および故障様相の情報を読み込んで送電線故障データ記憶部140に格納した後、電圧残留率計算値算出部150が故障位置を移動させながら故障計算により各観測箇所における仮の電圧残留率の計算値を算出し、実測値評価部270が、実測値と計算値の差の標準偏差より誤差の評価基準を算出する(ステップS31)。なお、ここでは、標準偏差の2倍(2σ)を評価基準として算出する。
【0049】
そして、実測値評価部270は、観測箇所の中で、実測値と計算値の差が評価基準より大きいものがあるか否かを判定し(ステップS32)、大きいものがある場合には、該当する観測箇所を除外するように、電圧残留率計算値算出部150、評価部260に通知する(ステップS33)。
【0050】
そして、電圧残留率計算値算出部150が実測値評価部270により通知された観測箇所を除外して電圧残留値の計算値を算出し(ステップS4)、評価部260が、実測値評価部270により通知された観測箇所を除外して実測値と計算値の評価値Fを計算し(ステップS5)、評価値Fを最小にする計算値に対応する故障点抵抗、故障位置を特定する(ステップS6)。
【0051】
このように、故障発生時に、事前計算により観測箇所を選別することによって、誤差の少ないデータだけを用いて故障点標定精度を向上することができる。
【0052】
図14は、本実施例2に係る故障点標定装置200による故障点標定結果を示す図である。同図に示すように、観測箇所の選別により平均で約0.6kmという改善効果が得られていることがわかる。
【0053】
上述してきたように、本実施例2では、故障発生時に、実測値評価部270が事前計算により実測値と計算値の差が評価基準より大きい観測箇所を特定し、評価部260が誤差の多い観測箇所を除外することとしたので、誤差の少ないデータだけを用いて故障点標定精度を向上することができる。
【0054】
なお、上記実施例1および2では、故障前潮流断面を作成する場合に、故障前電圧算出部110は、系統全体の有効電力(総P)より無効電力(総Q)を推定し、基準潮流断面より比例配分することによって各観測箇所における有効電力および無効電力を算出している。しかしながら、総Pより総Qを推定すると、運用の実態にそぐわない総Qとなる可能性がある。そこで、無効電力の推定精度を向上する方法について説明する。
【0055】
図15は、各負荷ノードにおける個別無効電力の推定精度を向上する方法を説明するための説明図である。同図に示すように、この方法では、まず、ベースとなる断面の値に基づいて、作成断面の総Pおよび総Qを比例配分して個別の有効電力および無効電力を求める。ここで、作成断面の総Pは実測値であり、総Qは総Pから推定した仮の値である。
【0056】
そして、PV指定の潮流計算を行うことによって個別の無効電力を算出する。ここで、Vは、一般的な運用電圧値で指定し、図15ではV=1.03PUを用いている。このように、PV指定の潮流計算を用いて個別の無効電力を算出することによって、各故障断面に適した無効電力を算出することができる。
【0057】
図16は、故障前潮流断面作成方法の違いによる故障点標定結果を示す図である。従来のように、作成断面の総Pおよび総Qを比例配分した場合と比較して、PV指定の潮流計算を用いて個別の無効電力を算出することによって、同等の標定精度で、運用実態に沿った無効電力値を各観測箇所について効率的に求めることができる。
【0058】
また、上記実施例1および2では、故障点標定装置が故障送電線および故障様相の情報を外部から入力する場合について説明した。しかしながら、故障送電線および故障様相の情報がない場合にも、全ての送電線および故障様相について故障計算を行うことによって、故障点を標定することができる。
【0059】
ただし、例えば、全ての平行2回線送電線において10区間に分けて全故障様相12タイプ(1送電線あたり111ケース)にて故障計算を行うとすると、送電線数が300ある場合、3万回以上の故障計算を実施する必要がある。したがって、計算が膨大になり、故障点標定までに多くの時間が必要となる。そこで、故障送電線および故障様相の情報がない場合に、故障送電線候補をスクリーニングすることによって、効率良く故障点を標定する方法について説明する。
【0060】
図17は、故障送電線および故障様相の情報がない場合に、故障送電線候補をスクリーニングすることによって、効率良く故障点を標定する方法を説明するための説明図である。図17に示すように、効率良く故障点を標定するために、故障点標定装置は、瞬低電圧実測値が得られた各観測箇所において全送電線、全故障様相で瞬低概略一覧表を作成する。すなわち、瞬低電圧を検出した観測箇所についてのみ、K法にて系統内全送電線の故障様相における瞬低電圧値を導出し一覧表にまとめる。ただし、この故障計算時に故障点抵抗は考えない。
【0061】
そして、各観測箇所において瞬低電圧実測値と瞬低概略一覧表を比較して、対象送電線の中に1ケースでも実測値より小さくなっている計算値が存在する場合、その送電線を「観測箇所における故障送電線候補」として扱う。この工程を全送電線にて行い、観測箇所ごとに「観測箇所における故障送電線候補」を取りまとめる。そして、すべての観測箇所の「観測箇所における故障送電線候補」において、その共通集合となる送電線をピックアップして最終的な「故障送電線候補」として扱い、故障計算を行う。
【0062】
図18に、図8の故障ケースにて従来法と比較を行った結果を示す。図18に示すように、スクリーニング手法によって従来法と同じ標定結果を得ており、故障送電線の特定については従来法と遜色がないことがわかる。また、スクリーニングの結果については平均でおおよそ25本(観測箇所が1箇所しか得られなかったケースを除けば、おおよそ21本)の送電線に絞り込めていることがわかる。
【0063】
観測箇所数の平均は14箇所であるため,これにより単純計算で500×111=55500回実施していた故障計算が、(14×2)+(25×111)=2803回で済むため、約5%の計算量になることが期待できる。以上より、スクリーニングすることによって計算労力を改善でき、効率化が図ることができる。
【0064】
また、本実施例1および2では、故障点標定装置について説明したが、故障点標定装置が有する構成をソフトウェアによって実現することで、同様の機能を有する故障点標定プログラムを得ることができる。そこで、この故障点標定プログラムを実行するコンピュータについて説明する。
【0065】
図19は、本実施例1および2に係る故障点標定プログラムを実行するコンピュータの構成を示す機能ブロック図である。同図に示すように、このコンピュータ300は、RAM310と、CPU320と、HDD330と、LANインタフェース340と、入出力インタフェース350と、DVDドライブ360とを有する。
【0066】
RAM310は、プログラムやプログラムの実行途中結果などを記憶するメモリであり、CPU320は、RAM310からプログラムを読み出して実行する中央処理装置である。HDD330は、プログラムやデータを格納するディスク装置であり、LANインタフェース340は、コンピュータ300をLAN経由で他のコンピュータに接続するためのインタフェースである。入出力インタフェース350は、マウスやキーボードなどの入力装置および表示装置を接続するためのインタフェースであり、DVDドライブ360は、DVDの読み書きを行う装置である。
【0067】
そして、このコンピュータ300において実行される故障点標定プログラム311は、DVDに記憶され、DVDドライブ360によってDVDから読み出されてコンピュータ300にインストールされる。あるいは、この故障点標定プログラム311は、LANインタフェース340を介して接続された他のコンピュータシステムのデータベースなどに記憶され、これらのデータベースから読み出されてコンピュータ300にインストールされる。そして、インストールされた故障点標定プログラム311は、HDD330に記憶され、RAM310に読み出されてCPU320によって実行される。
【産業上の利用可能性】
【0068】
以上のように、本発明に係る故障点標定装置、故障点標定方法および故障点標定プログラムは、電力系統を構成する送電線の故障位置の特定に有用であり、特に、FLが設置されていない送電線に故障が発生した場合に適している。
【符号の説明】
【0069】
100,200 故障点標定装置
110 故障前電圧算出部
120 故障前電圧記憶部
130 送電線故障データ読込部
140 送電線故障データ記憶部
150 電圧残留率計算値算出部
160,260 評価部
270 実測値評価部
300 コンピュータ
310 RAM
311 故障点標定プログラム
320 CPU
330 HDD
340 LANインタフェース
350 入出力インタフェース
360 DVDドライブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力系統を構成する送電線に故障が発生した際に複数の観測箇所で測定した瞬低電圧の実測値に基づいて故障点を標定する故障点標定装置であって、
複数の故障位置それぞれに対して各観測箇所における瞬低電圧の計算値を算出する計算値算出手段と、
前記計算値算出手段により算出された各観測箇所における計算値と前記実測値に基づいて該実測値を評価し、誤差の大きい実測値が観測される観測箇所を特定する誤差大観測箇所特定手段と、
前記誤差大観測箇所特定手段により特定された観測箇所を除外して、前記計算値と前記実測値に基づいて各故障位置に対して評価値を算出する評価値算出手段と、
前記評価値算出手段により各故障位置に対して算出された評価値に基づいて複数の故障位置から故障点を特定する故障点特定手段と
を備えたことを特徴とする故障点標定装置。
【請求項2】
前記計算値算出手段は、計算値の算出に必要な故障前潮流断面を作成する際に、各観測箇所における個別有効電力については基準潮流断面に基づいて総有効電力を比例配分し、各観測箇所における個別無効電力についてはPV指定潮流計算により算出することを特徴とする請求項1に記載の故障点標定装置。
【請求項3】
前記故障点特定手段により特定される故障点の範囲を限定する故障点範囲限定手段をさらに備え、
前記計算値算出手段は、前記故障点範囲限定手段により限定された範囲で複数の故障位置それぞれに対して各観測箇所における瞬低電圧の計算値を算出することを特徴とする請求項1または2に記載の故障点標定装置。
【請求項4】
電力系統を構成する送電線に故障が発生した際に複数の観測箇所で測定した瞬低電圧の実測値に基づいて故障点を標定する故障点標定装置による故障点標定方法であって、
複数の故障位置それぞれに対して各観測箇所における瞬低電圧の計算値を算出する計算値算出ステップと、
前記計算値算出ステップにより算出された各観測箇所における計算値と前記実測値に基づいて該実測値を評価し、誤差の大きい実測値が観測される観測箇所を特定する誤差大観測箇所特定ステップと、
前記誤差大観測箇所特定ステップにより特定された観測箇所を除外して、前記計算値と前記実測値に基づいて各故障位置に対して評価値を算出する評価値算出ステップと、
前記評価値算出ステップにより各故障位置に対して算出された評価値に基づいて複数の故障位置から故障点を特定する故障点特定ステップと
を含んだことを特徴とする故障点標定方法。
【請求項5】
電力系統を構成する送電線に故障が発生した際に複数の観測箇所で測定した瞬低電圧の実測値に基づいて故障点を標定する故障点標定プログラムであって、
複数の故障位置それぞれに対して各観測箇所における瞬低電圧の計算値を算出する計算値算出手順と、
前記計算値算出手順により算出された各観測箇所における計算値と前記実測値に基づいて該実測値を評価し、誤差の大きい実測値が観測される観測箇所を特定する誤差大観測箇所特定手順と、
前記誤差大観測箇所特定手順により特定された観測箇所を除外して、前記計算値と前記実測値に基づいて各故障位置に対して評価値を算出する評価値算出手順と、
前記評価値算出手順により各故障位置に対して算出された評価値に基づいて複数の故障位置から故障点を特定する故障点特定手順と
をコンピュータに実行させることを特徴とする故障点標定プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2012−230130(P2012−230130A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−179841(P2012−179841)
【出願日】平成24年8月14日(2012.8.14)
【分割の表示】特願2008−163332(P2008−163332)の分割
【原出願日】平成20年6月23日(2008.6.23)
【出願人】(000173809)一般財団法人電力中央研究所 (1,040)
【Fターム(参考)】