説明

救命装置

【課題】 被救助者に安全かつ確実に救命具を受け渡すことのできる救命装置を提供すること。
【解決手段】 水流を受けることにより移動するカイト8を有する構成。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、河川の増水時等において、中州あるいは対岸に取り残された人や河川で流されている人、または海において岩場に座礁し救助艇が接近できない船に取り残された人に対してロープや救命ボート、食料などの救命具を確実に受け渡し、人命救助を行なうことのできる救命装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、河川が増水して中州あるいは対岸に人が取り残された際、その取り残された人に対して救命ロープを受け渡し、人命の救助が行なわれていた。
【0003】
このような従来の河川増水時における救命装置の一例としては、例えば特許文献1に示すように、先端が丸くなっている略円錐形状の頭部の下端にリール収容室が螺合固定され、リール収容室の下端部に下部の周面に4枚の羽根が等間隔に平行に配設された推進室が螺合固定されたロケットとなっている。
【0004】
前記リール収容室内には、物資を輸送するための輸送ロープとしてのテグスの一端が巻付けられたリールが収容されており、前記テグスの他端は、前記リール収容室に設けられた送り出し孔からロケットの外部に出され、ロケットの外壁に設けられた滑車および円筒形状のガイド部を通して救援ロープに接続されている。
【0005】
前記推進室の内部は、ロケットの射出に使用される噴射エネルギ源としての液体および気体が充填されるように空洞に形成されている。さらに、前記推進部の下端には、前記噴射エネルギ源を噴射を行なう作動部が形成されている。
【0006】
つぎに、前記ロケットを発射するための発射台は、発射時の仰角を調整する機構と、左右方向の角度を調整する機構を備えており、ロケットを支持する支持部と、前記作動部に係合される取付部とから構成されている。
【0007】
前記取付部には、スイッチ機構と気体充填部とが設けられており、前記気体充填部には、圧縮気体の供給源としての自転車のタイヤ等に空気を充填する際に使用される空気入れが接続されている。
【0008】
このような構成において、前記ロケットを使用する際には、作動部より推進部に適量の水を入れた後、作動部を取付部に係合させて発射台にロケットを取付ける。ロケットを取付けた後、気体充填部を通じて空気入れから圧縮空気を推進室に送込み、適度な圧力に達したときに、スイッチ機構を作動させてロケットを発射する。
【0009】
そして、発射されたロケットが被救助者に到達した後、被救助者はロケットのリール収容部と頭部の螺合固定を解除してリール収容部に収容されたリールを取り出し、リールを作動させることにより、テグスが巻取られ、救援ロープが被救助者に到達する(例えば、特許文献1参照)。
【0010】
【特許文献1】特開2003−210601号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、前述したように従来の河川増水時における救命装置においては、河川の幅によっては中州あるいは対岸に到達できない場合が生じるとともに、発射されたロケットが被救助者に当たってしまうという危険があった。
【0012】
そこで、本発明は、被救助者に安全かつ確実に救命具を受け渡すことのできる救命装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前述した目的を達成するため本発明に係る救命装置の特徴は、水流を受けることにより移動するカイトを有することにある。また、前記カイトが可撓性材料あるいは剛性材料により形成されていることにある。
【0014】
このような構成を採用したことにより、カイトを水流中に投入すると、カイトが水流を受け、水流から受ける力により移動するので、当該カイトによって救命具を被救助者の所へ運搬することができる。
【0015】
また、本発明の救命装置においては、前記カイトは、上流側をロープを介して河岸あるいは船上に固定された固定部材に連結し、下流側に救命具が連結するように構成される。
【0016】
このような構成を採用したことにより、例えば河川が増水して、中州あるいは対岸に被救助者が取り残された際、固定部材を被救助者の取り残された中州あるいは対岸に対する河岸の被救助者から上流側、もしくは被救助者の上流側に配置された船上に固定するとともに、カイトの下流側に救命ロープや救命ボート、食料といった救命具を連結し、カイトの上流側をロープを介して固定部材に連結させて、最初にカイト、つぎにロープと救命具を河川に投入すると、カイトが河川の水流を受けて被救助者方向に移動していき、救命具を被救助者に安全かつ確実に受け渡すことができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の救命装置によれば、水流を利用してカイトを移動させて被救助者に救命具を受け渡すため、被救助者に対して安全かつ確実に救命具を受け渡すことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、図面を用いて本発明の救命装置の実施形態について説明する。
【0019】
図1は本発明の救命装置の実施形態を示す概略図、図2乃至図5は本発明の救命装置の使用状態を示す概略図、図6および図7は本発明の救命装置に使用されるカイトの他の実施形態を示す概略図である。
【0020】
本実施形態の救命装置1は、図1に示すように、長尺なロープ2の上流側の一端に、このロープ2を河岸に固定するための杭状の固定部材3が配設されており、前記ロープ2の下流側の一端には、シャックル4、スイベル5および合流用シャックル6が順次連結されている。この固定部材3としては、ロープ2を固定できるものであればよく、例えば、救援用の車の一部分でもよい。
【0021】
そして、前記合流用シャックル6の下流側には、少なくとも2本のラインロープ7が連結されており、各ラインロープ7の下流側の端部には、カイト8が連結されている。
【0022】
さらに、前記カイト8の下流側には、少なくとも2本のラインロープ14が連結されており、各ラインロープ14の下流側には、合流用シャックル15、スイベル16およびシャックル17が順次連結され、前記シャックル17の下流側には、後述する救命具19を連結するための救命具連結用ロープ18が連結されている。
【0023】
前記カイト8は、前記各ラインロープ7,14が連結される略四角形状の剛体製の矩形の枠体9の上辺9aおよび下辺9bに、それぞれキャンバス地等からなる略三角形状の可撓性材料10が上流側に一辺を連接するようにして配設されるとともに、前記枠体9の下流側の側辺9dから両可撓性材料10の斜辺を連結するようにしてキャンバス地等からなる略四角形状の可撓性材料11が配設されている。そして、前記可撓性材料11の外側には、キャンバス地等からなる上流側の断面が略W形状に開いており、最下流側が可撓性材料11の最下流側辺に閉じている可撓性材料12が配設されており、前記各可撓性材料10,11,12は、水流を受けることにより、その力によって拡開されるようになっている。
【0024】
また、前記カイト8の上側の可撓性材料10の端部もしくは枠体9の上辺9a(本実施形態においては可撓性材料10のみ)には、前記カイト8を水面あるいは水面近傍位置に浮遊させるための浮体としての複数の浮子13が配設されている。
【0025】
つぎに、前述した構成からなる本実施形態の救命装置1の作用について説明する。なお、本実施形態では、河川が増水して中州に被救助者が取り残された場合を例として説明する。
【0026】
まず、図2に示すように、救命装置1の固定部材3を、被救助者が取り残された中州よりも上流側の対岸の河岸に固定する。そして、救命装置1の救命具連結用ロープ18に救命具(本実施形態においては救命ボート)19を連結する。なお、救命具19が救命ロープや救命ボートなどである場合には、あらかじめ救命具19に引き戻し用の牽引ロープ20を連結しておくことが望ましく、救命具19を被救助者に受け渡した後、ロープ2および牽引ロープ20を引き寄せることにより、被救助者の救助を行う。
【0027】
つぎに、ロープ2、カイト8および救命具19を河川に投入する。すると、河川に投入されたカイト8が、複数の浮子13の浮力によって水面あるいは水面近傍位置に浮遊する。そして、カイト8が河川の水流を受けると、可撓性材料11,12によって形成される上流側の開口より内部に水流が入り、外側の可撓性材料12が断面が略W形状に膨らんで剛体状となって、内側の可撓性材料11を矩形平面状に展張させるように拡開させる。その後、カイト8の展張状態にある可撓性材料11が水流を受け、図3に示すように、カイト8が中州方向に移動する。そして、カイト8に救命具連結用ロープ18を介して連結された救命具19が、カイト8に引っ張られるようにして中州に到達し、被救助者に対して救命具19を安全かつ確実に受け渡すことができる。
【0028】
そして、救命具19を受け取った被救助者が、この救命具19に乗り込むか、あるいは保持した後、牽引ロープ20を引き寄せることにより、被救助者を中州の対岸の河岸に引き揚げ、救助することができる。
【0029】
以上説明したように、本実施形態の救命装置1によれば、従来のように、救命具が被救助者に到達することができなかったり、被救助者に当たってしまうことなく、救命具を安全かつ確実に被救助者に受け渡すことができる。
【0030】
また、本発明の救命装置1の他の実施形態として、図4に示すように、前記固定部材3を船21上に配設してもよい。この場合、前記船21を被救助者の上流側に配置し、前記船21上からロープ2、カイト8および救命具19を河川に投入することにより、カイト8の可撓性材料11,12によって形成される上流側の開口より内部に水流が入り、カイト8を中州方向に移動させ被救助者に対して救命具19を安全かつ確実に受け渡すことができる。さらに、前記固定部材3を船21上に配設した場合、図5に示すように、例えば、海において他の船31が岩場32に座礁し、この他の船31に取り残された被救助者を救助するために岩場32が障害となり救助艇(図示せず)の接近が不可能な場合などに使用することができる。このとき、船21上からロープ2、カイト8および救命具19を海中に投入し、船21を岩場32から離れた位置で進行させ、カイト8の可撓性材料11,12によって形成される上流側の開口より内部に水流が入るようにして、カイト8を岩場32方向に移動させることにより、船21を岩場23に接近させることなく他の船31に取り残された被救助者に救命具19を安全かつ確実に受け渡すことができる。
【0031】
また、本発明の救命装置1を構成するカイト8の他の実施形態としてのカイト22は、図6に示すように、金属や強化プラスチックといった剛性材料により凹入した内面を有し、内面の鉛直方向における中央にそれぞれラインロープ7が連結される貫通孔23a,23aが穿設された内側に水平に張り出したフランジ23が形成されている。
【0032】
また、前記カイト22の外面の鉛直方向における上縁部近傍および下縁部近傍にそれぞれラインロープ14が連結される貫通孔24aが穿設されたフランジ24が形成されている。
【0033】
さらに、前記カイト22の下縁には、それぞれ踏部材25が設けられており、その前端は上方に彎曲されている。
【0034】
このような構成からなるカイト22を河川に投入すると、凹入した内面に水流を受けてカイト22が移動するため、前記カイト8と同様の効果を奏することができる。
【0035】
さらに、本発明の救命装置1を構成するカイト8の他の実施形態としてのカイト26は、図7に示すように、それぞれ金属や強化プラスチックといった剛性材料により凹入した内面を有する2枚のフレーム27,27が平行に配置されている。そして、前記各フレーム27,27は上縁部近傍において略四角形状の枠状の連結部材28、鉛直方向における中央において水平ボード29、下縁部において踏部材30によって連結されている。なお、前記踏部材30の前端は上方に彎曲されている。そして、前記水平ボード29の前縁部近傍にそれぞれラインロープ7を連結するための貫通孔29a,29aが所定の間隔を隔てて穿設されているとともに、前記水平ボード29の後縁部近傍にはそれぞれラインロープ14を連結するための貫通孔29b,29bが所定の間隔を隔てて穿設されている。
【0036】
このような構成からなるカイト26を河川に投入すると、各フレーム27,27のそれぞれ凹入した内面に水流を受けてカイト26が移動するため、前記カイト8と同様の効果を奏することができる。
【0037】
なお、本発明は、前述した実施の形態に限定されるものではなく、必要に応じて種々の変更が可能である。例えば、救命具連結用ロープ18に救命具19ではなく、人員が保持することのできるロープ等の保持具を連結することにより、このロープを人員が保持した状態で救命装置1を河川に投入して、人員を中州あるいは対岸に送出すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の救命装置の実施形態を示す概略図
【図2】本発明の救命装置の使用状態を示す概略図
【図3】本発明の救命装置の使用状態を示す概略図
【図4】本発明の救命装置の使用状態を示す概略図
【図5】本発明の救命装置の使用状態を示す概略図
【図6】本発明の救命装置に使用されるカイトの他の実施形態を示す概略図
【図7】本発明の救命装置に使用されるカイトの他の実施形態を示す概略図
【符号の説明】
【0039】
1 救命装置
2 ロープ
3 固定部材
7 ラインロープ
8 カイト
9 枠体
10 可撓性材料
11 可撓性材料
12 可撓性材料
13 浮子
14 ラインロープ
18 救命具連結用ロープ
19 救命具
20 牽引ロープ
21 船
22 カイト
23 フランジ
24 フランジ
25 踏部材
26 カイト
27 フレーム
28 連結部材
29 水平ボード
30 踏部材
31 他の船
32 岩場

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水流を受けることにより移動するカイトを有することを特徴とする救命装置。
【請求項2】
前記カイトが可撓性材料により形成されていることを特徴とする請求項1に記載の救命装置。
【請求項3】
前記カイトが剛性材料により形成されていることを特徴とする請求項1に記載の救命装置。
【請求項4】
前記カイトは、上流側をロープを介して河岸に固定された固定部材に連結し、下流側に救命具が連結されるように構成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項3に記載の救命装置。
【請求項5】
前記カイトは、上流側をロープを介して船上に固定された固定部材に連結し、下流側に救命具が連結されるように構成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項3に記載の救命装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2007−245778(P2007−245778A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−68128(P2006−68128)
【出願日】平成18年3月13日(2006.3.13)
【出願人】(501168814)独立行政法人水産総合研究センター (103)
【出願人】(000110882)ニチモウ株式会社 (52)