説明

教 具

【目的】 数の概念を意識付けるための学習の初期の段階で使用する際に極めて効果的な教具を提供する。
【構成】 上面の長さ方向にほぼ一定間隔をあけて複数個の芯棒挿入孔12aが開口された台座10と、芯棒挿入孔にそれぞれの基端部を密状態に挿入可能な複数本の芯棒13と、芯棒にそれぞれ一端側から挿入して積み重ねることが可能な複数個の珠14とを具備することを特徴とする。

【考案の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本考案は、数の概念を意識付けるための教材用の道具(以下、教具と記す)に関する。さらに詳しくは、芯棒に挿入して積み重ねることが可能な珠を使用し、珠を自由に動かすことが可能な教具に関する。
【0002】
【従来の技術】
数字は記号であって数ではなく、数の概念を意識付けるために各種の玩具・教具が開発されている。その一例として、数字が表示された積み木とか、コンピュータの表示画面上で四角なブロック像を縦横に並べて数と面積との対応関係を視覚的に認識させるためのソフトウエアなどが挙げられる。 一方、計算に使用される算盤は、10進数の各桁毎に、横桟より下側に配列された一の重みを有する4個あるいは5個の珠および横桟より上側に配列された五の重みを有する1個の珠が設けられており、5進の概念と10進の概念とを内包している。 このような算盤は、実用的な道具ではあるが、5進の概念と10進の概念とを利用して計算を行うものであり、特に数の概念(数の意味と仕組みなど)を意識付けるための教具としての利用を考えた場合、幼児あるいは小学学1、2年生程度の子供が既に受けている数のイメージに秩序を与えて整理し、記号に置き換える過程を学習する初期の段階では、必ずしも適切な教具として使用できない。
【0003】
【考案が解決しようとする課題】
本考案は、上記したように数の概念を意識付けるための学習の初期の段階で使用する教具として算盤は必ずしも適切ではないという問題を解決するためになされたもので、数の概念を明確に意識付けることが可能になる教具を提供することを目的とする。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本考案の教具は、上面の長さ方向にほぼ一定間隔をあけて複数個の芯棒挿入孔が開口された台座と、上記複数個の芯棒挿入孔にそれぞれの基端部を密状態に挿入可能な複数本の芯棒と、上記複数本の芯棒にそれぞれ一端側から挿入して積み重ねることが可能な複数個の珠とを具備することを特徴とする。
【0005】
【作用】
本考案の教具は、複数本の芯棒にそれぞれ一端側から挿入して積み重ねて自由に動かすことが可能な珠を複数個使用しているので、数の概念を意識付けるための学習の初期の段階で使用することにより、日常何気なく使っている数に関する言葉と生徒が持っているイメージを結び付け、そのイメージを引き出し、具体化し、さらに記号に置き換える動作(認識行為)を助け、数の概念を明確に意識付けることが可能になる。また、台座と芯棒と珠とを分解した状態で保管できるので、保管スペースは少なくて済む。
【0006】
【実施例】
以下、図面を参照して本考案の実施例を詳細に説明する。 図1は、本考案の教具の一実施例を分解した状態で斜視図である。 図1において、11は例えば黒色に着色された長方体の合成樹脂製の枠であり、その上面には平面長方形で底面が平坦な溝11aを有する。12はそれぞれの底部が上記枠の溝内に嵌挿された状態で一列に配列可能な例えば黒色に着色された長方体もしくは直方体の合成樹脂製の台(以下、キューブと称する)であり、本例では10個が一列に配列可能になっている。各キューブ12は、その上面の中央部に一定深さを有する芯棒挿入孔12aが開口されている。 換言すれば、それぞれの上面に芯棒挿入孔12aが開口された長方体もしくは直方体の10個のキューブ12と、上記10個のキューブ12が一列に配列された状態でそれぞれの底部が嵌挿される溝11aを上面に有する1個の長方体の枠11は、上面の長さ方向にほぼ一定間隔をあけて10個の芯棒挿入孔12aが開口された台座10を構成する。なお、キューブ12を上記10個以外に余分に1個用意しておくことが望ましい。
【0007】
13はそれぞれ上記各キューブ12の芯棒挿入孔12aにそれぞれの基端部を密状態に挿入可能な合成樹脂製の細い円柱状の芯棒であり、上記芯棒挿入孔12aの数より余分に用意しておくことが望ましい。ここで、密状態に挿入可能とは、芯棒13の基端部を芯棒挿入孔12aに挿入した状態で、芯棒13が安定した状態で立つように挿入可能であることを意味する。
【0008】
14はそれぞれ上記各芯棒13に挿入して積み重ねて自由に動かすことが可能な珠であり、中心部を貫通する芯棒挿入孔14aを有し、積み重ねた状態で個数の視認が容易であるような形状を有する。本例では、算盤珠のような形状(つまり、2個の同じ円錐台の底面同士を張り合わせたような形状)の珠を使用しており、珠を積み重ねた状態で上下の珠の周縁部相互間に空間部が生じるので、個数の視認が容易である。
【0009】
なお、キューブ12により支持されている状態の1本の芯棒13に挿入して積み重ねることが可能な珠14の数は少なくとも10個であり、珠14を最大10個積み重ねた場合に芯棒13の上端部(先端部)が若干(本例では数mm程度)露呈する程度に設定されており、珠全体の数は、少なくとも10個×10本分(100個)用意しておくことが望ましい。 なお、上記教具の非使用時には、珠14を芯棒13から抜き取ったバラバラの状態とし、芯棒13を台座10の芯棒挿入孔12aから抜き取り、キューブ12を必要に応じて枠11から取り出し、分解した状態で保管することが可能であり、保管スペースは少なくて済む。 また、上記各部材の寸法の一例は、枠11は横31.5cm、縦4.5cm であり、キューブ12は横3cm、縦3cm、高さ1.7cm であり、芯棒13は直径2mm、長さ13.4cmである。
【0010】
次に、上記実施例の教具を使用して小学学1、2年生程度の子供に数の概念を意識付けるための複数例の学習方法のうち、(1)基数・序数・系列の形成に関する学習方法、(2)かけざん 九九の構成に関する学習方法について順次説明する。 なお、以下の説明では、先生の発言をT、生徒の発言をSで表わし、先生は本実施例の教具を「パスカル盤」と呼ぶものとする。 まず、教具を準備し、図2に示すように教具を配置する。ここで、20は机上に敷かれた布、10は前記した台座、21は前記した複数本の芯棒13が入れられた容器、22は前記した複数個の珠14および余分に用意された1個のキューブ12が入れられた容器、23および24は机上に置かれた記録用紙および筆記用具である。
【0011】
(1)基数・序数・系列の形成に関する学習(小学校1年生を対象とする)。
なお、教具の使用状態を図3(a)乃至(d)、記録用紙の記録状態を 図4に示す。 (a)教具の提示および生徒による活動。 T:パスカル盤を使って数の階段を作ります。 棒(芯棒)を取り、左手に持ち変えて下さい。 キューブの下側(手前側)に棒を1本づつ並べて下さい。 図3(a) 棒とキューブの数は同じですか。 S:はい。 T:キューブの穴(芯棒挿入孔)に棒を1本づつ入れて下さい。 図3(b) 何本ありましたか。 S:10本です。 T:左から1番目の棒に珠を1個入れて下さい。 図3(c) 左から2番目の棒に珠を1個入れて下さい。 2の次は何ですか。 S:3です。 T:3ですね。作り方はもう分かりましたか。 最後まで続けて下さい。 図3(d) (b)言葉の提示 T:一番高い珠は左から何番目ですか。 S:10番目です。 T:そこには珠が幾つありますか。 S:10個です。 T:一番低い珠は左から何番目ですか。 S:1番目です。 T:そこには珠が幾つありますか。 S:1個です。 T:左から6番目には珠が幾つありますか。 S:6個です。 T:6より1多い数は何ですか。 S:7です。 T:6より1少ない数は何ですか。 S:5です。 T:8の次の数は何ですか。 S:9です。 T:4の前の数は何ですか。 S:3です。 T:1の前の数は何ですか。 S:零です。 T:零ですね。それでは零を作ります。(余分の1個のキューブに1本の棒を挿入し、珠は挿入しないままの状態で台座の左端側に並べる。) 上述したような学習過程において、生徒は、指示され手順にしたがって活動し、五感を通した形成された概念を記号に置き換える(例えば図4に示すように記録する)動作を行う。これにより、生徒は、記憶をより鮮明にし、新たな発見の作業を行うことが可能になる。
【0012】
(2)かけざん 九九の構成に関する学習(小学学2年生を対象とする)。 なお、教具の使用状態を図5(a)乃至(d)、記録用紙の記録状態を 図6(a)、(b)に示す。先生は目隠し用紙(例えば色画用紙)を1枚 用意するものとする。 (a)教具の提示および生徒による活動。 T:パスカル盤を使って五の段の九九づくりを始めます。 今から三段階の方法でしますので、よく見ていて下さい。 第1段階 左から1番目のキューブに棒を立て、棒に珠を5個入れます。 図5(a)
第2段階 このように5個が1つ分あることを、5の1倍は5といいます。 第3段階 これを式に書きます。 5×1=5 記録用紙に書いて下さい。図6(a)
T:続けます。 左から2番目のキューブに棒を立て、棒に珠を5個入れます。 図5(b)
5個が1つ分増えたので、全体の数は5増えました。 このように5個が2つ分あることを、5の2倍は10といいます。 これを式に書きます。5×2=10 記録用紙に書いて下さい。 図6(b)
T:このようにして九九を作ります。 それでは最初から始めて下さい。 (b)言葉の提示 T:棒1本あたりの珠の数は幾つですか。 図5(c)
S:5です。 T:これは5が幾つありますか。 図5(d)
S:6つです。 T:それを5の何倍といいますか。 S:5の6倍です。 T:掛け算の式にして書いて下さい。 S:5×6= T:では、足し算の式にして書いて下さい。 S:5+5+5+5+5+5= T:このように5が6つ分あることを5の6倍といいます。 では、五の段の九九を読みますので聞いて下さい。貴方も後から読んで 下さい。 なお、上記したような九九づくりの学習は、通常の算盤を併用し、算盤による掛け算の操作方法(3つの定位点にそれぞれ被乗数、乗数、積数を置く操作)を提示しながら進めるようにしてもよい。このようにすれば、生徒は、算盤にも馴染みが生じるので、算盤の操作訓練を導入する場合に抵抗が少なくなる。
【0013】
上述したような教具によれば、複数本の芯棒にそれぞれ一端側から挿入して積み重ねて自由に動かすことが可能な珠を複数個使用している。したがって、上記したような使用例を工夫することにより、日常何気なく使っている数に関する言葉と生徒が持っているイメージを結び付け、そのイメージを引き出し、具体化し、さらに記号に置き換える動作(認識行為)を助け、数の概念を明確に意識付けることが可能になる。
【0014】
【考案の効果】
本考案の教具によれば、数の概念を意識付けるための学習の初期の段階で使用する教具として、その実用的な効果は顕著である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本考案の教具の一実施例の一部を示す分解斜視図。
【図2】図1の教具の使用前における準備状態を概略的に示す平面図。
【図3】図1の教具の一使用例における使用状態の変化を示す図。
【図4】図3の使用例における記録用紙の記録状態の一例を示す図。
【図5】図1の教具の他の使用例における使用状態の変化を示す図。
【図6】図5の使用例における記録用紙の記録状態の一例を示す図。
【符号の説明】
10 台座 11 枠 11a 溝
12 台 12a 芯棒挿入孔 13 芯棒
14 珠 14a 芯棒挿入孔

【実用新案登録請求の範囲】
【請求項1】上面の長さ方向にほぼ一定間隔をあけて複数個の芯棒挿入孔が開口された台座と、上記複数個の芯棒挿入孔にそれぞれの基端部を密状態に挿入可能な複数本の芯棒と、上記複数本の芯棒にそれぞれ一端側から挿入して積み重ねることが可能な複数個の珠とを具備することを特徴とする教具。
【請求項2】前記台座は、10個の芯棒挿入孔を有することを特徴とする請求項1記載の教具。
【請求項3】前記各芯棒は、前記珠を少なくとも10個挿入可能な長さを有することを特徴とする請求項1記載の教具。
【請求項4】前記各芯棒は、前記珠を少なくとも10個挿入可能な長さを有することを特徴とする請求項2記載の教具。
【請求項5】前記台座は、それぞれの上面に芯棒挿入孔が開口された10個の台と、上記10個の台が一列に配列された状態でそれぞれの底部が嵌挿される溝を上面に有する1個の長方体の枠とを具備することを特徴とする請求項1記載の教具。
【請求項6】前記台座は、それぞれの上面に芯棒挿入孔が開口された10個の台と、上記10個の台が一列に配列された状態でそれぞれの底部が嵌挿される溝を上面に有する1個の長方体の枠とを具備し、上記台座とは別に上記各台と同じ構造を有する1個の台がさらに付加されていることを特徴とする請求項1記載の教具。
【請求項7】前記芯棒は、前記台座の芯棒挿入孔の数に対応する本数よりも多く設けられていることを特徴とする請求項1記載の教具。
【請求項8】前記芯棒は、前記台座の芯棒挿入孔の数に対応する本数のほかに少なくとも前記付加されている1個の台に対応する1本設けられていることを特徴とする請求項6記載の教具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【登録番号】第3004710号
【登録日】平成6年(1994)9月14日
【発行日】平成6年(1994)11月22日
【考案の名称】教 具
【国際特許分類】
【評価書の請求】未請求
【出願番号】実願平6−7248
【出願日】平成6年(1994)5月27日
【出願人】(594104375)
【代理人】
【氏名又は名称】山内 康伸