説明

整流子の製造方法及び製造装置

【課題】生産効率を向上させると共に、切削工具の局所的な摩耗を抑制する。
【解決手段】本発明の整流子の製造方法では、第一工程において、切削工具16を整流子素材56の軸方向一方側から他方側へ相対移動させて整流子素材56の外周面を荒削り切削し、第二工程において、切削工具16を整流子素材56の軸方向一方側から他方側へ相対移動させて整流子素材56の外周面を仕上げ切削する。従って、切削工具16を整流子素材56の軸方向他方側から一方側へ相対移動させることが無駄となること(所謂エアカットとなること)を防止できるので、これにより、生産効率を向上させることができる。また、仕上げ切削前に切削工具16の角度を変更することで第一工程と第二工程とで切削工具16の刃面における使用領域を互いに異ならせているので、切削工具16の局所的な摩耗を抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、整流子の製造方法及び製造装置に係り、特に切削具で整流子素材の外周面を切削してこの整流子素材から整流子を製造する整流子の製造方法及び製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、整流子の製造方法及び製造装置としては、例えば、次のものがある(例えば、特許文献1参照)。この特許文献1に記載の例では、整流子素材の外周面を荒削り切削した後に、この荒削り切削により生じたバリを除去するために仕上げ切削をし、整流子素材から整流子を製造するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−163092号公報
【特許文献2】特開2004−289921号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、整流子素材を切削して整流子素材から整流子を製造する際に、切削具を整流子素材に対し軸方向一方側から他方側へ相対移動させるとき(往路移動時)のみ整流子素材の外周面を切削し、切削具を整流子素材に対し軸方向他方側から一方側へ相対移動させるとき(復路移動時)を原点位置に復帰させるためのエアカットとすると、この切削具を整流子素材に対し軸方向他方側から一方側へ相対移動させることが無駄となり、生産効率が低下する。
【0005】
また、この種の整流子の製造方法及び製造装置においては、切削具の寿命を確保するために、切削具の局所的な摩耗を抑制できることが望まれる。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、生産効率を向上させることができると共に、切削具の局所的な摩耗を抑制できる整流子の製造方法及び製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、請求項1に記載の整流子の製造方法は、切削具に形成された刃面における第一の刃面領域で整流子素材を切削できるように前記切削具の前記整流子素材に対する相対姿勢を第一の相対姿勢に設定した状態で、前記切削具を整流子素材に対し前記整流子素材の周方向に相対移動させながら前記整流子素材の軸方向一方側から他方側へ相対移動させて、前記整流子素材の外周面を前記切削具により切削する第一工程と、前記刃面における前記第一の刃面領域とは異なる第二の刃面領域で前記整流子素材を切削できるように前記切削具の前記整流子素材に対する相対姿勢を前記第一の相対姿勢から第二の相対姿勢に変更すると共に、前記切削具を前記整流子素材に対し前記整流子素材の周方向に相対移動させながら前記整流子素材の軸方向他方側から一方側へ相対移動させて、前記整流子素材の外周面を前記切削具により切削する第二工程と、を備えている。
【0008】
請求項1に記載の整流子の製造方法によれば、整流子素材を切削して整流子素材から整流子を製造する際に、切削具を整流子素材に対し軸方向一方側から他方側へ相対移動させるとき(往路移動時)に加えて、切削具を整流子素材に対し軸方向他方側から一方側へ相対移動させるとき(復路移動時)にも、整流子素材の外周面を切削具により切削する。従って、切削具を整流子素材に対し軸方向他方側から一方側へ相対移動させることが無駄となることを防止できるので、これにより、生産効率を向上させることができる。
【0009】
また、請求項1に記載の整流子の製造方法によれば、切削具の整流子素材に対する相対姿勢を第一の相対姿勢から第二の相対姿勢に変更することにより、第一工程と第二工程とで切削具の刃面における使用領域を互いに異ならせている。従って、切削具の局所的な摩耗を抑制することができる。
【0010】
請求項2に記載の整流子の製造方法は、請求項1に記載の整流子の製造方法において、前記刃面の刃先が円弧状に形成された前記切削具を用い、前記第二工程において前記刃先における円弧形状の中心点を中心として前記切削具を前記整流子素材に対して相対回転させて前記切削具の前記整流子素材に対する相対姿勢を前記第一の相対姿勢から前記第二の相対姿勢に変更させる方法である。
【0011】
請求項2に記載の整流子の製造方法によれば、切削具の刃先における円弧形状の中心点を中心として切削具を整流子素材に対して相対回転させることにより、第一工程と第二工程とで切削具の刃面における使用領域を互いに異ならせることができる。
【0012】
また、前記課題を解決するために、請求項3に記載の整流子の製造装置は、整流子素材を切削するための刃面を有する切削具と、前記切削具を整流子素材に対し前記整流子素材の周方向に相対移動させるための周方向駆動手段と、前記切削具を前記整流子素材に対し前記整流子素材の軸方向に相対移動させるための軸方向駆動手段と、前記切削具の整流子素材に対する相対姿勢を、前記刃面における第一の刃面領域で前記整流子素材を切削する第一の相対姿勢から、前記刃面における前記第一の刃面領域とは異なる第二の刃面領域で前記整流子素材を切削する第二の相対姿勢に変更させるための姿勢変更駆動手段と、前記周方向駆動手段、前記軸方向駆動手段、及び前記姿勢変更駆動手段を制御する制御手段と、を備え、前記制御手段は、前記切削具の前記整流子素材に対する相対姿勢が前記第一の相対姿勢に設定された状態で、前記切削具が前記整流子素材に対し前記整流子素材の周方向に相対移動されるように前記周方向駆動手段を制御しながら、前記切削具が前記整流子素材の軸方向一方側から他方側へ相対移動されるように前記軸方向駆動手段を制御して、前記整流子素材の外周面を前記切削具により切削させる第一ステップと、前記切削具の前記整流子素材に対する相対姿勢が前記第一の相対姿勢から前記第二の相対姿勢に変更されるように前記姿勢変更駆動手段を制御すると共に、前記切削具が前記整流子素材に対し前記整流子素材の周方向に相対移動されるように前記周方向駆動手段を制御しながら、前記切削具が前記整流子素材の軸方向他方側から一方側へ相対移動されるように前記軸方向駆動手段を制御して、前記整流子素材の外周面を前記切削具により切削させる第二ステップとを実行する、構成とされている。
【0013】
請求項3に記載の整流子の製造装置によれば、整流子素材が切削されて整流子素材から整流子が製造される際に、切削具が整流子素材に対し軸方向一方側から他方側へ相対移動されるとき(往路移動時)に加えて、切削具が整流子素材に対し軸方向他方側から一方側へ相対移動されるとき(復路移動時)にも、整流子素材の外周面が切削具により切削される。従って、切削具が整流子素材に対し軸方向他方側から一方側へ相対移動されることが無駄となることを防止できるので、これにより、生産効率を向上させることができる。
【0014】
また、請求項3に記載の整流子の製造装置によれば、切削具の整流子素材に対する相対姿勢が第一の相対姿勢から第二の相対姿勢に変更されることにより、第一工程と第二工程とで切削具の刃面における使用領域を互いに異ならせることができる。従って、切削具の局所的な摩耗を抑制することができる。
【0015】
請求項4に記載の整流子の製造装置は、請求項3に記載の整流子の製造装置において、前記切削具は、前記刃面の刃先が円弧状に形成されると共に、前記刃先における円弧形状の中心点を中心として回転可能に構成され、前記姿勢変更駆動手段は、前記刃先における円弧形状の中心点を中心として前記切削具を前記整流子素材に対して相対回転させて前記切削具の前記整流子素材に対する相対姿勢を前記第一の相対姿勢から前記第二の相対姿勢に変更させる、構成とされている。
【0016】
請求項4に記載の整流子の製造装置によれば、切削具の刃先における円弧形状の中心点を中心として切削具が整流子素材に対して相対回転されることにより、第一工程と第二工程とで切削具の刃面における使用領域を互いに異ならせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態に係る整流子の製造装置の全体構成を示す正面図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る整流子の製造装置の全体構成を示す側面図である。
【図3A】図1に示される切削工具の先端部を示す図である。
【図3B】図3Aに示される切削工具の先端部の要部拡大図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る整流子の製造方法を説明する図である。
【図5】本発明の一実施形態に係る整流子の製造方法を説明する図である。
【図6】本発明の一実施形態に係る整流子の製造方法の変形例を示す図である。
【図7】本発明の一実施形態に係る整流子の製造装置の変形例を示す図である。
【図8】本発明の一実施形態に係る整流子の製造方法の変形例を示す図である。
【図9】比較例に係る整流子の製造方法を説明する図である。
【図10】比較例に係る整流子の製造方法を説明する図である。
【図11】比較例に係る整流子の製造方法を説明する図である。
【図12】比較例に係る整流子の製造方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面に基づき、本発明の一実施形態について説明する。
【0019】
図1,図2に示される整流子の製造装置10は、例えば、ブラシ付き直流モータに備えられる電機子50の整流子を製造するものであり、刃物台11と、支持台12と、回転機構14と、切削工具16(切削具)と、入力操作部18と、周方向駆動用モータ20(周方向駆動手段)と、軸方向駆動用モータ22(軸方向駆動手段)と、径方向駆動用モータ24と、刃物台駆動用モータ25(姿勢変更駆動手段)と、制御回路26(制御手段)と有して構成されている。
【0020】
刃物台11は、切削工具16を保持している。この刃物台11は、支持台12に支持された整流子素材56(整流子になる前の段階の部材)に対して、整流子素材56の軸方向及び径方向に移動可能に構成されると共に、整流子素材56に対する角度(相対姿勢)を変更可能に構成されている。なお、この刃物台11の角度変更時の回転中心は、後述する切削バイト38に形成された刃面39の刃先における円弧形状の中心点(図3B参照)と一致されている。
【0021】
支持台12は、一対の支持部28を有して構成されており、支持部28は、電機子50に備えられた回転シャフト52の軸方向両端部を回転可能に支持する構成とされている。
【0022】
回転機構14は、駆動ベルト30と、駆動プーリ32と、複数の従動プーリ34A〜34Dとを有して構成されている。駆動ベルト30は、駆動プーリ32及び複数の従動プーリ34A〜34Dにそれぞれ掛け渡しされている。複数の従動プーリ34A〜34Dのうち電機子50側に配置された一対の従動プーリ34A,34Bは、電機子50に備えられたコア54の外周部54A(この場合、鉛直方向上端部)に対し回転シャフト52側にオフセットして配置されており、駆動ベルト30における一対の従動プーリ34A,34B間の部分をコア54に押し付けている。そして、この回転機構14では、駆動プーリ32が回転されると、駆動ベルト30が回転されて、コア54と共に電機子50全体を回転させる構成とされている。
【0023】
切削工具16は、整流子素材56に対し径方向に対向して配置されており、図3Aに示されるように、ホルダ36と、切削バイト38とを有して構成されている。切削バイト38は、整流子素材56を切削するための刃面39(すくい面)を有して構成されており、この刃面39の刃先は、図3Bに示されるように、中心点Oを中心とする円弧状に形成されている。
【0024】
入力操作部18は、送り速度、送り量、切り込み量などの加工条件や、加工開始及び加工終了の指令を入力できる操作パネル等により構成されている。
【0025】
周方向駆動用モータ20は、上述の駆動プーリ32を回転させる構成とされており、軸方向駆動用モータ22は、上述の刃物台11を整流子素材56に対し整流子素材56の軸方向に移動させて、切削工具16を移動させる構成とされている。
【0026】
また、径方向駆動用モータ24は、上述の刃物台11を整流子素材56に対し整流子素材56の径方向に移動させて、切削工具16を移動させる構成とされており、刃物台駆動用モータ25は、刃物台11を回転させて、切削工具16の整流子素材56に対する角度(姿勢)を変更させる構成とされている。
【0027】
制御回路26は、例えば、CPU、ROM、RAM等を有する電子回路により構成されており、整流子素材56を荒削り切削及び仕上げ切削するためのプログラム(すなわち、本発明における第一ステップ及び第二ステップに関するプログラム)を予め記憶している。
【0028】
そして、制御回路26は、入力操作部18から入力された送り速度、送り量、切り込み量などの加工条件や加工開始及び加工終了の指令に基づいて、上述の周方向駆動用モータ20、軸方向駆動用モータ22、径方向駆動用モータ24、刃物台駆動用モータ25を制御し、切削工具16により整流子素材56を荒削り切削及び仕上げ切削する構成とされている。
【0029】
次に、上記構成からなる整流子の製造装置10を用いた整流子の製造方法について説明する。
【0030】
(第一工程:荒削り切削加工)
入力操作部18に加工開始指令が入力されると、制御回路26は、軸方向駆動用モータ22及び径方向駆動用モータ24を制御し、切削工具16を図4左図の矢印(1)で示されるように原点位置から整流子素材56の軸方向一方側(Z1側)に移動させる。
【0031】
このとき、切削工具16の先端の位置は、次の荒削り切削加工の切り込み量に合わせて設定される。また、切削工具16の整流子素材56に対する角度は、図5左図に示されるように、切削バイト38に形成された刃面39における第一の刃面領域39A(中心角がθaの領域)で整流子素材56を切削する第一の角度(本発明における第一の相対姿勢に相当)に設定されている。
【0032】
そして、制御回路26は、周方向駆動用モータ20を制御し、駆動プーリ32を回転させる。これにより、駆動ベルト30が回転されて、電機子50と共に整流子素材56が回転される。
【0033】
続いて、制御回路26は、整流子素材56を回転させながら、軸方向駆動用モータ22を制御し、切削工具16を図4左図の矢印(2)で示されるように整流子素材56の軸方向一方側(Z1側)から他方側(ライザ側;Z2側)に移動させる。
【0034】
これにより、図5左図に示されるように、切削バイト38に形成された刃面39における第一の刃面領域39Aで整流子素材56が切削され、整流子素材56の外周面が軸方向一方側から他方側に荒削り切削される。なお、荒削り切削時の送りはfa[mm/rev]に設定されている。
【0035】
(第二工程:仕上げ切削加工)
続いて、制御回路26は、刃物台駆動用モータ25を制御し、図4中図の矢印(A)で示されるように、切削工具16をθxだけ回転させて、この切削工具16の整流子素材56に対する角度を変更させる。
【0036】
つまり、切削工具16の整流子素材56に対する角度を、図5左図に示される第一の角度から、図5中図に示される第二の角度(本発明における第二の相対姿勢に相当)に変更させる。この第二の角度は、後述するように、切削バイト38に形成された刃面39における第一の刃面領域39Aとは異なる第二の刃面領域39B(中心角がθbの領域)で整流子素材56を切削できる角度である(図5右図参照)。
【0037】
その後、制御回路26は、径方向駆動用モータ24を制御し、切削工具16を図4中図の矢印(B)で示されるように上述の位置から次の仕上げ切削加工の切り込み量の分だけ整流子素材56の径方向内側に移動させる。
【0038】
続いて、制御回路26は、整流子素材56を回転させながら、軸方向駆動用モータ22を制御し、図4右図の矢印(3)で示されるように整流子素材56の軸方向他方側(ライザ側;Z2側)から一方側(Z1側)に移動させる。
【0039】
これにより、図5右図に示されるように、切削バイト38に形成された刃面39における第二の刃面領域39Bで整流子素材56が切削され、整流子素材56の外周面が軸方向他方側から一方側に仕上げ切削される。なお、仕上げ切削時の送りはfb[mm/rev]に設定されている。
【0040】
続いて、制御回路26は、軸方向駆動用モータ22及び径方向駆動用モータ24を制御し、切削工具16を図4右図の矢印(4)で示されるように整流子素材56の軸方向一方側(Z1側)から原点位置に復帰させる。
【0041】
(バリ取り工程)
そして、整流子素材56は、上述の切削加工の後、バリ取り工程に搬送される。そして、このバリ取り工程において、整流子素材56は、バリ取り装置によってアンダーカット溝に残されたバリ等を除去される。本発明の一実施形態に係る整流子の製造方法では、以上の要領により、整流子素材56から整流子が製造される。
【0042】
なお、本実施形態において、上述の第一工程において制御回路26が実行する動作が本発明における第一ステップに相当し、上述の第二工程において制御回路26が実行する動作が本発明における第二ステップに相当する。
【0043】
次に、上述の本発明の一実施形態に係る整流子の製造方法の効果について説明する。
【0044】
ここで、本発明の一実施形態に係る整流子の製造方法の効果をより明確にするために、図9〜図12を参照しながら、第一、第二比較例に係る整流子の製造方法について説明する。
【0045】
図9,図10に示される第一比較例に係る整流子の製造方法では、荒削り切削加工と仕上げ切削加工とでそれぞれ別々の整流子の製造装置110が使用される。つまり、図8に示される整流子の製造装置110は、荒削り切削加工用とされており、図9に示される整流子の製造装置110は、仕上げ切削加工用とされている。
【0046】
そして、この比較例に係る整流子の製造装置110では、次の方法で、整流子の製造が行われる。
【0047】
(第一工程:荒削り切削加工)
すなわち、図9に示される荒削り切削加工用の整流子の製造装置110では、切削工具116が図9の矢印(1)で示されるように原点位置から整流子素材56の軸方向一方側(Z1側)に移動される。そして、電機子50と共に整流子素材56が回転される。
【0048】
続いて、整流子素材56を回転させながら、切削工具116が図9の矢印(2)で示されるように整流子素材56の軸方向一方側(Z1側)から他方側(ライザ側;Z2側)に移動される。これにより、整流子素材56の外周面が軸方向一方側から他方側に荒削り切削される。
【0049】
続いて、切削工具116が図9の矢印(3)で示される如く第一工程における終了位置から整流子素材56の径方向外側へ退避される。そして、その後、切削工具116は図9の矢印(4)で示されるように上述の退避位置から原点位置に復帰される。
【0050】
そして、整流子素材56は、上述の荒削り切削加工の後、図10に示される仕上げ切削加工用の整流子の製造装置110に搬送される。なお、荒削り切削加工と仕上げ切削加工とで共通の整流子の製造装置110を用いる場合には、切削具を荒削り切削加工用から仕上げ切削加工用に交換したり、次の仕上げ切削加工に合わせて切削具を最適角度に傾斜させたりする必要がある。
【0051】
(第二工程:仕上げ切削加工)
続いて、図10に示される仕上げ切削加工用の整流子の製造装置110では、切削工具116が図10の矢印(5)で示されるように原点位置から整流子素材56の軸方向一方側(Z1側)に再び移動される。そして、電機子50と共に整流子素材56が回転される。
【0052】
そして、整流子素材56を回転させながら、切削工具116が図10の矢印(6)で示されるように整流子素材56の軸方向一方側(Z1側)から他方側(ライザ側;Z2側)に移動される。これにより、整流子素材56の外周面が軸方向一方側から他方側に仕上げ切削される。
【0053】
続いて、切削工具116が図10の矢印(7)で示される如く第二工程における終了位置から整流子素材56の径方向外側へ退避される。そして、その後、切削工具116が図10の矢印(8)で示されるように上述の退避位置から原点位置に復帰される。
【0054】
(バリ取り工程)
続いて、整流子素材56は、上述の切削加工の後、バリ取り工程に搬送される。そして、このバリ取り工程において、整流子素材56は、バリ取り装置によってアンダーカット溝に残されたバリ等を除去される。比較例に係る整流子の製造方法では、以上の要領により、整流子素材56から整流子が製造される。
【0055】
しかしながら、上述の比較例に係る整流子の製造方法のように、整流子素材56を切削して整流子素材56から整流子を製造する際に、切削工具116を整流子素材56に対し軸方向一方側(Z1側)から他方側(Z2側)へ相対移動させるとき(往路移動時)のみ整流子素材56の外周面を切削し、切削工具116を整流子素材56に対し軸方向他方側(Z2側)から一方側(Z1側)へ相対移動させるとき(復路移動時)を原点位置に復帰させるためのエアカットとすると、この切削工具116を整流子素材56に対し軸方向他方側(Z2側)から一方側(Z1側)へ相対移動させることが無駄となり、生産効率が低下する。
【0056】
これに対し、本発明の一実施形態に係る整流子の製造方法によれば、図4に示されるように、整流子素材56を切削して整流子素材56から整流子を製造する際に、切削工具16を整流子素材56に対し軸方向一方側(Z1側)から他方側(Z2側)へ相対移動させるとき(往路移動時)に加えて、切削工具16を整流子素材56に対し軸方向他方側(Z2側)から一方側(Z1側)へ相対移動させるとき(復路移動時)にも、整流子素材56の外周面を切削工具16により切削する。従って、切削工具16を整流子素材56に対し軸方向他方側(Z2側)から一方側(Z1側)へ相対移動させることが無駄となることを防止できるので、これにより、生産効率を向上させることができる。
【0057】
しかも、本発明の一実施形態に係る整流子の製造方法によれば、第一工程において整流子素材56の外周面を切削工具16により荒削り切削した後に、第二工程において整流子素材56の外周面を切削工具16により仕上げ切削するので、生産効率を向上させつつ、整流子の仕上がりの品質(例えば、真円度、各セグメント間の段差、外周面の表面粗さ、バリの完全除去等に関する品質)を確保できる。
【0058】
一方、図11,図12に示される第二比較例に係る整流子の製造方法では、上述の本発明の一実施形態に係る整流子の製造方法に対し、第一工程の終了後において、切削工具16の整流子素材56に対する角度の変更を省略している。
【0059】
しかしながら、この場合には、図12に示されるように、第一工程において整流子素材56を切削する第一刃面領域39C(中心角がθcの領域)と、第二工程において整流子素材56を切削する第二刃面領域39D(中心角がθdの領域)との間に重複する刃面領域39X(中心角がθxの領域)が存在する。従って、この刃面領域39Xにおいて、切削工具16に局所的な摩耗が生じることになる。
【0060】
これに対し、本発明の一実施形態に係る整流子の製造方法によれば、図4,図5に示されるように、切削工具16をθxだけ回転させて、この切削工具16の整流子素材56に対する角度を変更させることにより、第一工程と第二工程とで切削工具16の刃面39における使用領域を互いに異ならせている。従って、切削工具16の局所的な摩耗を抑制することができる。
【0061】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、上記に限定されるものでなく、その主旨を逸脱しない範囲内において種々変形して実施することが可能であることは勿論である。
【0062】
例えば、上記実施形態では、刃物台11が回転されることで、切削工具16の整流子素材56に対する角度(姿勢)が変更される構成とされていたが、次のように構成されていても良い。
【0063】
すなわち、図6に示されるように、支持台12が回転されることで、切削工具16の整流子素材56に対する角度(姿勢)が変更される構成とされていても良い。
【0064】
また、図7に示されるように、切削バイト38がホルダ36に対してボルト37周りに相対回転可能とされると共に、この切削バイト38をホルダ36に対して相対回転させるバイト駆動用モータ27が用いられていても良い。そして、図8に示されるように、切削バイト38がホルダ36に対して回転されることで、切削バイト38の整流子素材56に対する角度(姿勢)が変更される構成とされていても良い。なお、この図7,図8に示される変形例では、バイト駆動用モータ27が本発明における姿勢変更駆動手段に相当し、切削バイト38が本発明における切削具に相当する。
【0065】
また、上記実施形態では、整流子素材56の荒削り切削の後であって仕上げ切削の前に切削工具16の整流子素材56に対する角度を変更していたが、整流子素材56仕上げ切削中に切削工具16の整流子素材56に対する角度を変更しても良い。
【0066】
また、上記実施形態では、回転機構14及び周方向駆動用モータ20を用いて、切削工具16を整流子素材56に対し整流子素材56の周方向に移動させていたが、その他の周方向駆動手段を用いて、切削工具16が整流子素材56に対し整流子素材56の周方向に相対移動されるように、切削工具16及び整流子素材56の少なくとも一つを移動させるようにしても良い。
【0067】
また、上記実施形態では、軸方向駆動用モータ22を用いて、切削工具16を整流子素材56に対し整流子素材56の軸方向に移動させていたが、その他の軸方向駆動手段を用いて、切削工具16が整流子素材56に対し整流子素材56の軸方向に相対移動されるように、切削工具16及び整流子素材56の少なくとも一つを移動させるようにしても良い。
【0068】
また、上記実施形態では、径方向駆動用モータ24を用いて、切削工具16を整流子素材56に対し整流子素材56の径方向に移動させていたが、その他の径方向駆動手段を用いて、切削工具16が整流子素材56に対し整流子素材56の径方向に相対移動されるように、切削工具16及び整流子素材56の少なくとも一つを移動させるようにしても良い。
【符号の説明】
【0069】
10・・・製造装置、11・・・刃物台、12・・・支持台、14・・・回転機構、16・・・切削工具、18・・・入力操作部、20・・・周方向駆動用モータ、22・・・軸方向駆動用モータ、24・・・径方向駆動用モータ、25・・・刃物台駆動用モータ、26・・・制御回路、27・・・バイト駆動用モータ、28・・・支持部、30・・・駆動ベルト、36・・・ホルダ、38・・・切削バイト、39・・・刃面、39A・・・第一の刃面領域、39B・・・第二の刃面領域、50・・・電機子、52・・・回転シャフト、54・・・コア、56・・・整流子素材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
切削具に形成された刃面における第一の刃面領域で整流子素材を切削できるように前記切削具の前記整流子素材に対する相対姿勢を第一の相対姿勢に設定した状態で、前記切削具を整流子素材に対し前記整流子素材の周方向に相対移動させながら前記整流子素材の軸方向一方側から他方側へ相対移動させて、前記整流子素材の外周面を前記切削具により切削する第一工程と、
前記刃面における前記第一の刃面領域とは異なる第二の刃面領域で前記整流子素材を切削できるように前記切削具の前記整流子素材に対する相対姿勢を前記第一の相対姿勢から第二の相対姿勢に変更すると共に、前記切削具を前記整流子素材に対し前記整流子素材の周方向に相対移動させながら前記整流子素材の軸方向他方側から一方側へ相対移動させて、前記整流子素材の外周面を前記切削具により切削する第二工程と、
を備えた整流子の製造方法。
【請求項2】
前記刃面の刃先が円弧状に形成された前記切削具を用い、前記第二工程において前記刃先における円弧形状の中心点を中心として前記切削具を前記整流子素材に対して相対回転させて前記切削具の前記整流子素材に対する相対姿勢を前記第一の相対姿勢から前記第二の相対姿勢に変更させる、
請求項1に記載の整流子の製造方法。
【請求項3】
整流子素材を切削するための刃面を有する切削具と、
前記切削具を整流子素材に対し前記整流子素材の周方向に相対移動させるための周方向駆動手段と、
前記切削具を前記整流子素材に対し前記整流子素材の軸方向に相対移動させるための軸方向駆動手段と、
前記切削具の整流子素材に対する相対姿勢を、前記刃面における第一の刃面領域で前記整流子素材を切削する第一の相対姿勢から、前記刃面における前記第一の刃面領域とは異なる第二の刃面領域で前記整流子素材を切削する第二の相対姿勢に変更させるための姿勢変更駆動手段と、
前記周方向駆動手段、前記軸方向駆動手段、及び前記姿勢変更駆動手段を制御する制御手段と、
を備え、
前記制御手段は、
前記切削具の前記整流子素材に対する相対姿勢が前記第一の相対姿勢に設定された状態で、前記切削具が前記整流子素材に対し前記整流子素材の周方向に相対移動されるように前記周方向駆動手段を制御しながら、前記切削具が前記整流子素材の軸方向一方側から他方側へ相対移動されるように前記軸方向駆動手段を制御して、前記整流子素材の外周面を前記切削具により切削させる第一ステップと、
前記切削具の前記整流子素材に対する相対姿勢が前記第一の相対姿勢から前記第二の相対姿勢に変更されるように前記姿勢変更駆動手段を制御すると共に、前記切削具が前記整流子素材に対し前記整流子素材の周方向に相対移動されるように前記周方向駆動手段を制御しながら、前記切削具が前記整流子素材の軸方向他方側から一方側へ相対移動されるように前記軸方向駆動手段を制御して、前記整流子素材の外周面を前記切削具により切削させる第二ステップと、
を実行する、
整流子の製造装置。
【請求項4】
前記切削具は、前記刃面の刃先が円弧状に形成されると共に、前記刃先における円弧形状の中心点を中心として回転可能に構成され、
前記姿勢変更駆動手段は、前記刃先における円弧形状の中心点を中心として前記切削具を前記整流子素材に対して相対回転させて前記切削具の前記整流子素材に対する相対姿勢を前記第一の相対姿勢から前記第二の相対姿勢に変更させる、
請求項3に記載の整流子の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−161876(P2010−161876A)
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−2559(P2009−2559)
【出願日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【出願人】(000101352)アスモ株式会社 (1,622)
【Fターム(参考)】