説明

斜板式可変容量型液圧回転機

【課題】斜板の傾転方向の振動を効果的に低減することができる斜板式可変容量型液圧回転機の提供。
【解決手段】サーボピストン16と斜板9が、サーボピストン16に形成された凹部16aと、この凹部16a摺動可能に挿入されたスライダ18と、一端に形成されたピン部20がスライダ18の丸孔18aに摺動可能に挿入されていて他端が斜板9に固定されている運動方向変換部19とを介して結合していることで、サーボピストン16の動作方向を斜板9が傾転する方向に変換して斜板9に伝達するようになっている。運動方向変換部19のピン部20とスライダ18との間には、ピン部20を包囲するように制振部材22が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧ショベル、ホイルローダ等の建設機械に搭載される油圧ポンプまたは油圧モータとして適し、サーボピストンの動作を斜板に伝達することで斜板を傾転させるように構成されている斜板式可変容量型液圧回転機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の斜板式可変容量型液圧回転機としては、例えば特許文献1,2に示されるものがある。特許文献1に示される斜板式可変容量型液圧回転機を第1従来技術といい、特許文献2に示される斜板式可変容量型液圧回転機を第2従来技術という。これら第1,第2従来技術はいずれも、ポンプピストンから斜板に与えられる衝撃に起因する振動や騒音を低減するための制振部材を備えている。
【0003】
第1従来技術では、斜板とハウジングとの間に、制振部材としてのクッションプレートが設けられている。第2従来技術では、ポンプピストンと斜板の間に、制振部材としての制振板が設けられている。
【特許文献1】特開平6−26444号公報
【特許文献2】特開2000−205117公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前述した第1,第2従来技術では、斜板式可変容量型液圧回転機の回転軸の軸線方向の振動を効果的に低減することができるが、斜板の傾転方向の振動を効果的に低減することはできないという問題がある。
【0005】
本発明は、前述した実状を考慮してなされたものであり、その目的は、斜板の傾転方向の振動を効果的に低減することができる斜板式可変容量型液圧回転機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
〔1〕 本発明は、前述した目的を達成するために、サーボピストンの動作を斜板に伝達することで斜板を傾転させるように構成されている斜板式可変容量型液圧回転機において、前記斜板と前記サーボピストンとの間に制振部材が設けられていることを特徴とする。
【0007】
このように構成された本発明では、斜板とサーボピストンとの間で制振部材による制振が行われるので、斜板の傾転方向の振動を効果的に低減することができる。
【0008】
〔2〕 本発明は、「〔1〕」記載の発明において、前記サーボピストンとともに往復運動するスライダと、このスライダに一端が摺動可能に挿入されていて他端が前記斜板に固定されていて前記サーボピストンの動作方向を前記斜板が傾転する方向に変換して前記斜板に伝達する運動方向変換部とを備え、前記スライダと前記運動方向変換部の一端との間に、前記制振部材が設けられていることを特徴とする。
【0009】
〔3〕 本発明は、「〔1〕記載の発明において、前記サーボピストンが、斜板式可変容量型液圧回転機の回転軸の軸線と平行な方向に前記斜板を押圧することによって、前記斜板が傾転するようになっていて、前記サーボピストンと前記斜板との間に、前記制振部材が設けられていることを特徴とする。
【0010】
〔4〕 本発明は、「〔2〕」または「〔3〕」記載の発明において、前記制振部材が、制振合金または樹脂からなっていることを特徴とする。
【0011】
このように構成された本発明では、制振部材が制振合金からなっている場合に、広い周波数帯の振動を低減することができる。また、制振部材が樹脂からなっている場合に、ポンプピストンから斜板に与えられる衝撃力の急激な上昇を、効果的に低減することができる。
【0012】
〔5〕 本発明は、「〔3〕」記載の発明において、前記サーボピストンと前記斜板との間に静圧軸受を含むシューが設けられていることを特徴とする。
【0013】
このように構成された本発明では、斜板とシューとの間に静圧軸受によって油膜が形成され、この油膜によりサーボピストンから斜板に与えられる衝撃力が吸収される。この結果、斜板式可変容量型液圧回転機が発する振動や騒音を、さらに効果的に低減することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、前述したように斜板の傾転方向の振動を効果的に低減できるので、
斜板式可変容量型液圧回転機が発する振動及び騒音を低減でき、また、斜板式可変容量型液圧回転機の疲労破壊や取付ボルトの緩みを抑制できる。これにより、斜板式可変容量型液圧回転機の信頼性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の斜板式可変容量型液圧回転機の実施形態について説明する。
【0016】
<第1実施形態>
第1実施形態について図1を用いて説明する。図1は本発明の斜板式可変容量型液圧回転機の第1実施形態を示す断面図である。
【0017】
第1実施形態は図1に示す斜板式可変容量型ピストンポンプ1である。この斜板式可変容量型ピストンポンプ1は、ハウジング2と、このハウジング2に軸受3,4により回転可能に支持される回転軸すなわちドライブシャフト5と、このドライブシャフト5にスプライン結合するシリンダブロック6と、このシリンダブロック6に形成される複数のシリンダボア7のそれぞれに摺動可能に挿入される複数のポンプピストン8と、これらのポンプピストン8のストロークを可変にする斜板9とを備えている。
【0018】
ハウジング2の一端部に対向する斜板9の面には、断面形状が円弧状に湾曲して突出する凸湾曲面10,11が形成されている。これらの凸湾曲面10,11とハウジング2の一端部との間には、軸受12,13が設けられている。これらの軸受12,13によって、斜板9はハウジング2に傾転可能に支持されている。
【0019】
斜板9とポンプピストン8との間には静圧軸受を含むシュー14が設けられている。このシュー14は、シリンダブロック6から突出したポンプピストン8の端部に揺動可能に結合している。
【0020】
また、斜板式可変容量型ピストンポンプ1は、斜板9の傾転角を制御するサーボシリンダ15を備えている。このサーボシリンダ15は、サーボピストン16と、このサーボピストン16が摺動可能に配置されるシリンダボア17とを備えている。シリンダボア17は、ドライブシャフト5の軸線に直交する方向と平行な方向に延びている。つまり、サーボシリンダ15では、ドライブシャフト5の軸線に直交する方向と平行な方向に、サーボピストン16が往復運動するようになっている。
【0021】
サーボピストン16と斜板9とは、サーボピストン16とともに往復運動するスライダ18と、サーボピストン16の動作方向を斜板9が傾転する方向に変換して斜板9に伝達する運動方向変換部19とを介して結合している。
【0022】
スライダ18は、サーボピストン16に形成された凹部16aに挿入されていて、この凹部16a内においてドライブシャフト5の軸線と平行な方向への移動が許容されている。スライダ18と運動方向変換部19は、運動方向変換部19の一端に形成された円柱状のピン部20が、スライダ18に形成された丸孔18aに摺動可能に挿入されることによって、結合している。ピン部20の始端側からはアーム21が、ドライブシャフト5の軸線に平行な方向に延びている。このアーム21の終端、すなわち運動方向変換部19の他端は斜板9に固定されている。
【0023】
特に、第1実施形態では、運動方向変換部19のピン部20とスライダ18との間に、制振部材22が設けられている。この制振部材22は、例えば樹脂が成形されてなる円筒状の部材であり、ピン部20に圧入されている。
【0024】
第1実施形態によれば次の効果を得られる。
【0025】
第1実施形態では、斜板9とサーボピストン16との間で制振部材22による制振が行われるので、斜板9の傾転方向の振動を効果的に低減することができる。これにより、斜板式可変容量型ピストンポンプ1が発する振動及び騒音を低減でき、また、斜板式可変容量型ピストンポンプ1の疲労破壊や取付ボルトの緩みを抑制できる。この結果、斜板式可変容量型ピストンポンプ1の信頼性を向上させることができる。
【0026】
また、第1実施形態では、運動方向変換部19のピン部20を包囲するように制振部材22が設けられているので、制振部材を設けることに伴う斜板式可変容量型ピストンポンプの大型化を抑えることができる。
【0027】
また、第1実施形態では、制振部材22が樹脂製の部材からなるので、ポンプピストン8から斜板9に与えられる衝撃力の急激な上昇に起因する斜板9の振動を、効果的に低減することができる。
【0028】
なお、第1実施形態では、運動方向変換部19のピン部20に制振部材22が設けられているが、本発明はこれに限るものではなく、スライダと運転方向変換部との間に制振部材が介在していればよい。したがって、制振部材はスライダ及び運転方向変換部のどちらに設けられていてもよい。
【0029】
また、第1実施形態では、ポンプピストン8から斜板9に与えられる衝撃力の急激な上昇に伴う斜板9の振動を効果的に低減することを目的としているために、制振部材22が樹脂製の部材になっているが、本発明の制振部材は樹脂製の部材に限るものではなく、制振可能な部材であればよい。つまり、制振部材は金属製の部材でもよいし、金属製の部材と樹脂の部材とを組み合わせた部材であってもよい。
【0030】
また、第1実施形態は、ドライブシャフト5の軸線に直交する方向と平行な方向に往復運動するサーボピストン16と、このサーボピストン16の動作方向を斜板9が傾転する方向に変換する運動方向変換部19とを備えているものであるが、本発明はこれに限るものではなく、ドライブシャフトの軸線と平行な方向に往復運動するサーボピストンと、このサーボピストンの動作方向を斜板が傾転する方向に変換する運動方向変換部とを備えているものに適用してもよい。
【0031】
また、第1実施形態は斜板式可変容量型ピストンポンプ1であったが、本発明は斜板式可変容量型ピストンポンプだけでなく、斜板式可変容量型ピストンポンプ1と同様の構成の斜板式可変容量型ピストンモータに適用してもよい。
【0032】
<第2実施形態>
第2実施形態について図2,3を用いて説明する。図2は第2実施形態を示す断面図、図3は図2に示した斜板及び制振部材をシリンダブロック側から見た状態を示す図である。図2,3に示したもののうち、図1に示したものと同等のものに対しては、図1に付した符号と同じ符号を付してある。
【0033】
第2実施形態は図2に示す斜板式可変容量型ピストンポンプ30である。この斜板式可変容量型ピストンポンプ30では、シリンダブロック6を挟む位置に、ドライブシャフト5の軸線と平行な方向に往復運動する1対のサーボピストン31,32が設けられていて、1対のサーボピストン31,32がドライブシャフト5の軸線と平行な方向に斜板9を押圧することによって、斜板9が傾転するようになっている。
【0034】
図3に示すように、第2実施形態では、斜板9が、サーボピストン31,32のそれぞれにより押圧される押圧部35,36を備えている。なお、図3において、9aはドライブシャフト5(2点鎖線)が挿通される孔9a、9b(斜線部)はポンプピストン8に設けられたシュー14が摺動する円環状の平滑面である。
【0035】
特に、第2実施形態では、図2に示すように、サーボピストン31と斜板9の押圧部35との間、及び、サーボピストン32と斜板9の押圧部36との間のそれぞれに、制振部材37,38のそれぞれが設けられている。制振部材37,38は例えば制振合金製の板からなっている。これら図3に示すように制振部材37,38のそれぞれは、押圧部35,36のそれぞれに固着されていて、サーボピストン31,32のそれぞれが摺動する平滑面を兼ねている。
【0036】
第2実施形態によれば次の効果を得られる。
【0037】
第2実施形態では、サーボピストン31と斜板9の押圧部35との間、及び、サーボピストン32と斜板9の押圧部36との間のそれぞれで制振を行うので、斜板9の傾転方向の振動を効果的に低減することができる。これにより、斜板式可変容量型ピストンポンプ30が発する振動及び騒音を低減でき、また、斜板式可変容量型ピストンポンプ30の疲労破壊や取付ボルトの緩みを抑制できる。この結果、斜板式可変容量型ピストンポンプ30の信頼性を向上させることができる。
【0038】
また、第2実施形態では、斜板9に対するサーボピストン31の摺動範囲、及び、斜板9に対するサーボピストン32の摺動範囲のそれぞれに、板状の制振部材37,38のそれぞれが設けられているので、制振部材を設けることに伴う斜板式可変容量型ピストンポンプの大型化を抑えることができる。
【0039】
また、第2実施形態では、制振部材37,38が制振合金製の部材なので、広い周波数帯の振動を低減することができる。
【0040】
なお、第2実施形態では、斜板9の押圧部35,36のそれぞれに制振部材37,38それぞれが設けられているが、本発明はこれに限るものではなく、斜板9の押圧部35,36のそれぞれとサーボピストン31,32のそれぞれとの間に制振部材37,38に介在していればよい。つまり、制振部材37,38は斜板9の押圧部35,36及びサーボピストン31,32のどちらに設けられていてもよい。
【0041】
また、第2実施形態では、低減できる振動の周波数帯を広くすることを目的としているために、制振部材37,38が制振合金製の部材になっているが、本発明の制振部材は制振合金に限るものではなく、制振可能な部材あればよい。つまり、制振部材は樹脂性の部材でもよいし、金属製の部材と樹脂の部材とを組み合わせた部材でもよい。
【0042】
また、第2実施形態は斜板式可変容量型ピストンポンプ30であったが、本発明は斜板式可変容量型ピストンポンプだけでなく、斜板式可変容量型ピストンポンプ30と同様の構成の斜板式可変容量型ピストンモータに適用してもよい。
【0043】
<第3実施形態>
第3実施形態について図4を用いて説明する。図4は第3実施形態を示す断面図である。図4に示したもののうち、図2に示したものと同等のものには、図2に付した符号と同じ符号を付してある。
【0044】
第3実施形態は、図4に示す斜板式可変容量型ピストンポンプ40である。このポンプ40では、サーボピストン31と斜板9の押圧部35との間、及び、サーボピストン32と斜板9の押圧部36との間のそれぞれに、静圧軸受を含むシュー41,42のそれぞれが設けられている。これ以外の点は、第2実施形態と同様に構成されている。
【0045】
シュー42には、サーボピストン32が挿入されているシリンダボア34内の作動油を、シュート42と押圧部36との間に導く油道42aが形成されている。この油道42aにより、シュー42と押圧部36との間に油膜が形成されているようになっている。シュー41にも、シリンダボア33内の作動油をシュー41と押圧部35との間に導く油道(図示しない)が形成されている。
【0046】
第3実施形態によれば次の効果を得られる。
【0047】
第3実施形態では、斜板9とシュー41,42のそれぞれとの間に静圧軸受によって油膜が形成され、これらの油膜のそれぞれによりサーボピストン31,32のそれぞれから斜板9に与えられる衝撃力が吸収される。これにより、斜板9の振動を第2実施形態よりも低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の斜板式可変容量型液圧回転機の第1実施形態を示す断面図である。
【図2】第2実施形態を示す断面図である。
【図3】図2に示す斜板及び制振部材をシリンダブロック側から見た状態を示す図である。
【図4】第3実施形態を示す断面図である。
【符号の説明】
【0049】
1 斜板式可変容量型ピストンポンプ
2 ハウジング
3,4 軸受
5 ドライブシャフト
6 シリンダブロック
7 シリンダボア
8 ポンプピストン
9 斜板
9a 孔
9b 平滑面
10,11 凸湾曲面
12,13 軸受
14 シュー
15 サーボシリンダ
16 サーボピストン
16a 凹部
17 シリンダボア
18 スライダ
18a 丸孔
19 運動方向変換部
20 ピン部
21 アーム
22 制振部材
30 斜板式可変容量型ピストンポンプ
31,32 サーボピストン
33,34 シリンダボア
35,36 押圧部
37,38 制振部材
40 斜板式可変容量型ピストンポンプ
41,42 シュー
42a 油道

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サーボピストンの動作を斜板に伝達することで斜板を傾転させるように構成されている斜板式可変容量型液圧回転機において、前記斜板と前記サーボピストンとの間に制振部材が設けられていることを特徴とする斜板式可変容量型液圧回転機。
【請求項2】
請求項1記載の発明において、
前記サーボピストンとともに往復運動するスライダと、このスライダに一端が摺動可能に挿入されていて他端が前記斜板に固定されていて前記サーボピストンの動作方向を前記斜板が傾転する方向に変換して前記斜板に伝達する運動方向変換部とを備え、
前記スライダと前記運動方向変換部の一端との間に、前記制振部材が設けられていることを特徴とする斜板式可変容量型液圧回転機。
【請求項3】
請求項1記載の発明において、
前記サーボピストンが、斜板式可変容量型液圧回転機の回転軸の軸線と平行な方向に前記斜板を押圧することによって、前記斜板が傾転するようになっていて、
前記サーボピストンと前記斜板との間に、前記制振部材が設けられていることを特徴とする斜板式可変容量型液圧回転機。
【請求項4】
請求項2または3記載の発明において、
前記制振部材が、制振合金または樹脂からなっていることを特徴とする斜板式可変容量型液圧回転機。
【請求項5】
請求項3記載の発明において、
前記サーボピストンと前記斜板との間に静圧軸受を含むシューが設けられていることを特徴とする斜板式可変容量型液圧回転機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−291911(P2007−291911A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−119293(P2006−119293)
【出願日】平成18年4月24日(2006.4.24)
【出願人】(000005522)日立建機株式会社 (2,611)
【Fターム(参考)】