説明

斜面付浮体設置護岸

【課題】箱状浮体構造物に作用する波力に基づく水平力を軽減し、箱状浮体構造物が円滑に海水面の上下動に連動して昇降できるようにすると共に、箱状浮体構造物の破損を防止する。
【解決手段】鋼製の箱状浮体構造物2(高さ4000mm、幅1000mm、奥行き2000mm)の前面壁に上向きの角度45°の斜面21が間隔をあけて複数設けてあり、概略鋸歯状の断面形状をしている。斜面21の奥行きは、500mmであり、箱状浮体構造物の幅の2分の1であり、斜面同士は150mmの間隔をあけて設置してある。この箱状浮体構造物を護岸構造物の前面に設置した格子体の内部に設置して波による海水面の上下動に応じて昇降させ、越波を防止する。沖波波高H0'=2.0m、周期T=10.0sの波が作用したとき水平方向の波圧によって箱状浮体構造物が護岸に押し付けられる力は約1/2であると試算された。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
護岸や防波堤などの構造物は、その前面において水深が浅くなっているため、構造物に到達する波浪は構造物の前面で砕波して構造物へ作用する。このとき、波浪が構造物の前壁を遡上し越波するため、背後地が浸水し被害が拡大する場合がある。地球温暖化による海面上昇が懸念されている今日、越波量を低減して災害を減少させることが要求されている。
【背景技術】
【0002】
単純に護岸の天端を嵩上げしたり、護岸の前面に高潮を防ぐパネルを設置すると、景観や親水性を阻害することになる。また、嵩上げの規模が大きくなると、構造物の背後地占有面積が大きくなり、近接して設けてある歩道や道路にまで張り出し、歩道や道路の有効利用面積が減ってしまう問題がある。
護岸等の防災施設と居住域との間にあるこれら歩道や道路は、被災時のバッファーになっており、この領域が狭くなる、あるいは、消滅してしまうと、被害が直接居住域へ及ぶこととなる。
【0003】
景観の問題を解決するため、図4に示すように、護岸前面あるいは護岸構造物の内部に海水に連通する溝を設け、溝内に海面水位の上昇に連動する箱状浮体構造物を設置し、この付帯構造物が護岸の天端の上方に突出させて波浪の越波・越流を防ぐことが提案されている。通常は、箱状浮体構造物はその天端が護岸天端とほぼ一致するようにして突出しないように設置してあるので景観に悪影響を与えない。
【0004】
箱状浮体構造物には、波浪によって水平圧力が生じる。箱状浮体構造物が護岸の前面に無く、護岸構造物本体に設けた溝に設置してある場合でも、護岸天端より箱状浮体構造物が飛び出している場合は、同様に水平圧力が生じる。
この水平圧力は、箱状浮体構造物を背後の壁やガイドなどに押し付けるため上下スライドが抑制され、円滑に上下動しない場合がある。
また、背後の壁の頂部(角)を支点とし構造物に波圧が作用するので、その点で折れ曲がったり、破損する場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−298952号公報
【特許文献2】特開2006−70536号公報
【特許文献3】特開2007−126945号公報
【特許文献4】特開2008−57311号公報
【特許文献5】米国特許第6338594号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、以上の課題を解決するものであり、海面上昇によって波浪が越波することないようにするものであり、箱状浮体構造物に作用する波浪による水平力を分散し、箱状浮体構造物の背後に存在する護岸構造物に浮体構造物が押し付けられる力を軽減し、浮体構造物と護岸との間に作用する摩擦を軽減することによって箱状浮体構造物が円滑に海水面の上下動に連動して昇降できるようにすることで箱状浮体構造物の破損を防止するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
直接、波圧を低減することは困難であるため、構造物に影響を与える水平波圧を軽減させ、かつ箱状浮体構造物の海水面の上昇に伴う上方への移動を助長する方法を提案するものであり、箱状浮体構造物の前面に複数の上向きの45°の斜面を設け、箱状浮体構造物の前面に作用した波圧を鉛直方向と水平方向の2方向に分割させ、水平分力を減少させることによって箱状浮体構造物が護岸などの近接構造物に押し付けられて昇降運動が抑制されたり、箱状浮体構造物が破損するのを防止するものである。
【発明の効果】
【0008】
箱状浮体構造物の前面の45°の上向の斜面によって、波力が鉛直方向と水平方向に半分ずつに分割されるので、斜面が無い場合に比べて、水平波圧を半減することができる。水平方向の波圧を半減すると共に、垂直方向の分力が箱状浮体構造物の自重による鉛直下向きの力を相殺するので、箱状浮体構造物の上昇運動が円滑になる。また、水平分力を小さくすることによって、箱状浮体構造物の破損が防止される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の斜面付箱状浮体構造物の側面図及び波圧の分布図。
【図2】斜面の無い場合の波圧の説明図。
【図3】斜面を設けた場合の波圧の説明図。
【図4】従来の浮体構造物を使用した護岸の断面図。
【符号の説明】
【0010】
1 護岸
2 箱状浮体構造物
21 斜面
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1に示すように、鋼製の箱状浮体構造物2(高さ4000mm、幅1000mm、奥行き2000mm)の前面壁に45°の斜面21が間隔をおいて複数設けてあり、概略鋸歯状の断面形状をしている。斜面21の奥行きは、500mmであり、箱状浮体構造物の幅の2分の1であり、斜面は150mmの間隔をあけて設置してある。
この箱状浮体構造物2の喫水が2000mm(高さの半分の位置)であるとすると、作用する波浪の波圧(P)の分布は、図示のように箱状浮体構造物の中央部の喫水部分が最大で、上下に向かって減少する対称型である。
喫水部分の波圧が最大となるので、水面から箱状浮体構造物の天端までの高さ(hc)を一定にするという考え方に基づくと、海域に応じた設置条件によっては、箱状浮体構造物の高さ6000mm、喫水4000mm、hcが2000mmの場合もあり、この場合は、図1に示すような中心を最大とし、ほぼ上下均等な圧力とはならず、箱状浮体構造物に作用する波圧は非対称分布となる。
【0012】
この箱状浮体構造物2を護岸1の前面に箱状浮体構造物2の上下動をガイドする格子体内に設置した場合の波圧の減少効果について、斜面の無い場合とある場合について説明する。
沖波波高H0'=2.0m、周期T=10.0sの波が作用したとすると、斜面の無い箱状浮体構造物2には、図2(1)に示す圧力分布の波圧が作用する。箱状浮体構造物2の背後の護岸1には、箱状浮体構造物2を介して荷重が護岸に伝わり、図2(2)に示す波圧が作用する。
【0013】
図3には、箱状浮体構造物2の前壁面に角度45°の斜面を形成してある場合を示している。斜面上での力の作用を説明するためのものであるので、斜面21は便宜的に1個のみ表示している。
【0014】
図3(1)に示すように、p1が作用する箱状浮体構造物の前面を斜面とすると、水平方向(p1x)と鉛直上向き方向(p1z)に分散され、したがって、図3(2)に示すように HHWLの水面における波圧p1は1/2になり、護岸1に作用する波圧も1/2になる。
また、波圧によって箱状浮体構造物2を上方へ押し上げる分力(p1z)が斜面21によって生成されるので箱状浮体構造物2は上昇しやすくなり、波浪による水面変化に対する追従性が向上することになる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
海水面の変動に伴って上下動する箱状浮体構造物を使用する護岸において、箱状浮体構造物の前壁面に角度45度の上向き斜面を複数形成してある護岸。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2011−202345(P2011−202345A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−67505(P2010−67505)
【出願日】平成22年3月24日(2010.3.24)
【出願人】(000195971)西松建設株式会社 (329)
【出願人】(504139662)国立大学法人名古屋大学 (996)
【Fターム(参考)】