説明

斜面補強工法用プレキャスト板に装着する加圧注入用器具及び該加圧注入用器具を使用した斜面補強工法

【課題】取外し時に未固化状態のグラウト材が削孔部から流出する。
【解決手段】プレキャスト板本体1の貫通孔4を閉鎖可能な金属板で中央孔9を有し、該中央孔9の上部に確認孔10を貫設した注入用プレート6と、該注入用プレート6の中央孔9を貫通する中空棒状補強材18とを有し、該中空棒状補強材18をグラウト材21が通過可能にする。注入用プレート6を、座金と同様に、削孔部17内に挿入した中空棒状補強材18の基端部を、貫通孔4及び中央孔9を貫通し突出させた上で、前記ボルト孔5、5a、5bに螺入するボルト7、7a、7bを有する固定手段8、8a、8bでプレキャスト板本体1に装着する。この注入用プレート6で閉鎖された貫通孔4及び削孔部17内にグラウト材21を中空棒状補強材18を通過させて充満させ、確認孔10を閉鎖して、該グラウト材21の養生固化まで注入用プレート6を外さないため、グラウト材21は流出しない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、斜面、即ち自然な急斜面や、切土法面又は表面保護工済の法面等の斜面の補強工法用プレキャスト板に装着する加圧注入用器具及び該加圧注入用器具を使用したグラウト材の加圧注入方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、斜面補強工法としては、上記プレキャスト板を斜面に設置する工程と、取付孔を閉鎖状態とした上記プレキャスト板の裏面と斜面との隙間に裏込め材を注入する工程と、各プレキャスト板の取付孔から裏込め層を貫通して斜面側に削孔する工程と、上記削孔工程で形成された削孔部内にグラウト材を注入する工程と、上記グラウト材注入工程の前後の何れかで棒状補強材を削孔部内に挿入する工程と、上記グラウト材材注入工程及び棒状補強材挿入工程の両工程完了後に、各プレキャスト板の座金に加圧注入治具を固定して削孔部内にグラウト材を加圧注入する工程と、グラウト材の養生硬化後に、棒状補強材の突端部にナットを螺嵌緊締する工程とを有する斜面補強工法があり、この工法によれば、地山側にグラウト材をより多く浸透させ地山側との一体性を向上させることで、削孔部の深さ及び棒状補強材の長さを浅く短くしても対応することが可能になった(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−106433号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記従来技術にあっては、図面上、加圧注入治具がカップ型であることから、下記の通り、解決せねばならない課題があった。
(1)加圧注入後にプレキャスト板から取り外すと、削孔部の入口側と加圧注入治具内の未固化状態のグラウト材が流出してしまうため、その後に削孔部の入口側に出来る隙間が大きくなって、この隙間へのモルタルの充填作業が甚だ面倒になる。
(2)グラウト材の養生固化後に加圧注入治具を外す場合、プレキャスト板から突出状態の加圧注入治具が諸作業の邪魔になり、加圧注入治具内のグラウト材も固化してしまって除去作業が面倒になる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記従来技術に基づく、上記(1)、(2)の課題に鑑み、プレキャスト板本体の表面中央部に凹部を形成し、該凹部の底部に設けたプレートの中央に、該プレート及びプレキャスト板本体を貫通する孔を形成し、プレートに複数個のボルト孔を形成したプレキャスト板に装着する加圧注入用器具であって、該加圧注入用器具は前記貫通孔を閉鎖可能な金属板で中央孔を有し、該中央孔の上部に確認孔を貫設し、前記ボルト孔に螺入するボルトを有する固定手段でプレキャスト板本体に装着可能にした注入用プレートと、該注入用プレートの中央孔を貫通する中空棒状補強材とを有し、該中空棒状補強材はグラウト材が通過可能で、前記注入用プレートを、座金と同様に、削孔部内に挿入した中空棒状補強材の貫通孔を貫通した突端部に中央孔を挿通させた上で、前記ボルト孔に螺入するボルトを有する固定手段でプレキャスト板本体に装着することによって、注入用プレートで閉鎖された削孔部内に、中空棒状補強材内を通して注入するグラウト材が確認孔から流出した後に該確認孔を封止することで、削孔部内にグラウト材を充満させ且つ充満状態の削孔部内を加圧することを可能にし、更にグラウト材の養生固化まで注入用プレートを外さずに諸作業が可能で、且つ養生固化後に注入用プレートを外しても、該注入用プレートへのグラウト材の固化付着を極少量に抑えることを可能にして、上記(1)、(2)の課題を解決する。
【発明の効果】
【0006】
要するに本発明は、プレキャスト板本体の表面中央部に凹部を形成し、該凹部の底部に設けたプレートの中央に、該プレート及びプレキャスト板本体を貫通する孔を形成し、プレートに複数個のボルト孔を形成したプレキャスト板に装着する加圧注入用器具であって、該加圧注入用器具は前記貫通孔を閉鎖可能な金属板で中央孔を有し、該中央孔の上部に確認孔を貫設し、前記ボルト孔に螺入するボルトを有する固定手段でプレキャスト板本体に装着可能にした注入用プレートと、該注入用プレートの中央孔を貫通する中空棒状補強材とを有し、該中空棒状補強材をグラウト材が通過可能にしたので、かかる加圧注入用器具における注入用プレートは、通常の座金と同様に設置した上で、固定手段でプレキャスト板本体に装着されることから、プレキャスト板本体より突出せず邪魔にならないため、諸作業を円滑に行うことが出来る。
而も、本発明に係る加圧注入用器具における注入用プレートは、板状でグラウト材は単に付着する程度に抑えることが出来るため、除去作業の簡易化を図ることが出来る。
前記確認孔をネジ孔としてボルトの螺入により閉鎖可能にしたので、確認孔の閉鎖作業を簡単且つ確実に行うことが出来る。
【0007】
プレキャスト板を斜面に設置する工程と、プレキャスト板の貫通孔から斜面側に削孔する工程と、請求項1又は2のいずれか1項に記載の加圧注入用器具における中空棒状補強材を削孔部内に挿入する工程と、前記挿入工程の前後の何れかで、プレキャスト板に請求項1又は2のいずれか1項に記載の加圧注入器具における注入用プレートを装着する工程と、前記中空棒状補強材の突端部にグラウト材の加圧注入機を接続する工程と、前記加圧注入機により削孔部内に、中空棒状補強材内を通過させてグラウト材を加圧注入する工程と、前記プレートの確認孔からグラウト材が流出した時点で確認孔を閉鎖する工程と、注入圧力が設定値に達した時点で加圧注入を停止し注入経路を遮断すると共に、中空棒状補強材から加圧注入機を外す工程と、グラウト材の養生硬化後に、前記注入用プレートをプレキャスト板から外す工程と、前記中空棒状補強材の突端部に座金を介してナットを螺嵌緊締する工程と、を有しているので、削孔部内にグラウト材を未加圧注入と加圧注入の二段階で注入していたのを加圧注入の1回で済ますことが出来、削孔部内の先端に確実にグラウト材を送り込むことが出来ると共に、削孔部内にグラウト材を確実に充満させることが出来、且つ注入用プレートを装着状態のままグラウト材を養生固化させることが出来るため、未固化状態のグラウト材の削孔部からの流出を確実に防止することが出来る等その実用的効果甚だ大である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明に係る加圧注入用器具における注入用プレートをプレキャスト板から外した状態を示す分解斜視図である。
【図2】設置状態のプレキャスト板に加圧注入用器具を装着した段階を示す断面図である。
【図3】図2の要部拡大図である。
【図4】削孔部内にグラウト材が充満した段階を示す要部拡大断面図である。
【図5】グラウト材の排出を止めた段階を示す要部拡大断面図である。
【図6】グラウト材の注入を止めた段階を示す要部拡大断面図である。
【図7】グラウト材の養生固化後に中空棒状補強材にナットを螺嵌締結した段階を示す要部拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための形態を図面に基づき説明する。
本発明に係る斜面補強工法に使用するプレキャスト板にあっては、図1に示す様に、矩形状のプレキャスト板本体1を有し、該プレキャスト板本体1の表面中央部に形成された矩形状の凹部2にカバー体(図示せず)が嵌め込まれる。
【0010】
プレキャスト板本体1にあっては、凹部2の底部に金属製のプレート3を設けると共に、中央にプレート3及びプレキャスト板本体1を貫通する孔4を形成し、プレート3にボルト孔5、5a、5bを形成している。
ボルト孔5、5a、5bは、図1に示す様に、貫通孔4を閉鎖可能な、後述する本発明に係る加圧注入用器具における注入用プレート6の設置領域Eより外側に形成し、貫通孔4の上方でプレキャスト板本体1の中央線上にボルト孔5を、貫通孔5の下方にボルト孔5a、5bを、上記中央線に対し対称位置に配置している。
又、下方のボルト孔5a、5bは設置領域Eの直下に形成するのが好ましい。
【0011】
そして、本発明に係る加圧注入用器具にあっては、プレキャスト板本体1における凹部2内に装着可能な注入用プレート6と、後述する中空棒状補強材18とを有している。
【0012】
前記注入用プレート6は、プレキャスト板本体1の貫通孔4を覆うことが可能で、ボルト孔5、5a、5bに螺入するボルト7、7a、7bを有する固定手段8、8a、8bによりプレキャスト板本体1に装着可能にしている。
具体的には、正方形板状で中央孔9を有し、該中央孔9の上部に確認孔10を貫設し、該確認孔10はネジ孔で、ボルト11を螺入することで閉鎖可能にしている。
【0013】
固定手段8にあっては、ボルト孔5に螺入するボルト7と、該ボルト7が基端部を貫通する固定板12とを有し、該固定板12の先端部で注入用プレート6を押さえ付けている。
固定手段8a、8bにあっては、ボルト孔5a、5bに螺入するボルト7a、7bだけで構成され、該ボルト7a、7bの頭部で注入用プレート6を押さえ付けている。
【0014】
そして、斜面15に裏込め層16を介して設置された各プレキャスト板本体1の貫通孔4から裏込め層16を貫通して斜面15側に所定深さの削孔部17を形成し、該削孔部17内に挿入した中空棒状補強材18における基端部を、プレキャスト板本体1の貫通孔4及び注入用プレート6の中央孔9を貫通し突出させ、ボルト孔5に固定手段8のボルト7を、ボルト孔5a、5bに固定手段8a、8bであるボルト7a、7bを螺入して、プレキャスト板本体1に対し注入用注入用プレート6を装着し、中空棒状補強材18の基端部に加圧注入機(図示せず)に接続するためのアダプター19を装着し、該アダプター19と加圧注入機(図示せず)をチューブ20を介して接続する(図2、3参照)。
【0015】
加圧注入機(図示せず)によりグラウト材21、チューブ20及び中空棒状補強材18を通過させて削孔部17内に加圧注入し、確認孔10からグラウト材21が流出した時点で(図4参照)、加圧注入機(図示せず)は止めずに、確認孔10にボルト11を螺入して閉鎖して、グラウト材21の流出を止める(図5参照)。
【0016】
そして、注入圧力が設定値に達した時点で、加圧注入機(図示せず)を停止させると共に、チューブ20の中間部を結紮し、中空棒状補強材18から加圧注入機(図示せず)を外す(図6参照)。
【0017】
そして、グラウト材21の固化後、注入用プレート6を取り外して、削孔部17の入口側に形成される空間部にモルタル22を埋め込み、中空棒状補強材18の突端部に座金23を介してナット24を螺嵌緊締し(図7参照)、最後に図示しないが、各プレキャスト板本体1の凹部2にカバー体を嵌め込む。
【0018】
尚、加圧注入機(図示せず)の停止後にチューブ20を結紮することで圧力を維持する様にしているが、開閉コック(図示せず)の閉操作により行っても良い。
【0019】
又、前記座金23は、図面上、注入用プレート6で代用しているが、該注入用プレート6とは別個の座金であっても良く、好ましくは注入用プレート6をそのまま使用する。
【符号の説明】
【0020】
1 プレキャスト板本体
2 凹部
3 プレート
4 貫通孔
5、5a、5b ボルト孔
6 注入用プレート
7、7a、7b ボルト
8、8a、8b 固定手段
9 中央孔
10 確認孔
15 斜面
17 削孔部
18 中空棒状補強材
20 チューブ
21 グラウト材
23 座金
24 ナット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレキャスト板本体の表面中央部に凹部を形成し、該凹部の底部に設けたプレートの中央に、該プレート及びプレキャスト板本体を貫通する孔を形成し、プレートに複数個のボルト孔を形成したプレキャスト板に装着する加圧注入用器具であって、
該加圧注入用器具は前記貫通孔を閉鎖可能な金属板で中央孔を有し、該中央孔の上部に確認孔を貫設し、前記ボルト孔に螺入するボルトを有する固定手段でプレキャスト板本体に装着可能にした注入用プレートと、該注入用プレートの中央孔を貫通する中空棒状補強材とを有し、該中空棒状補強材をグラウト材が通過可能にしたことを特徴とする斜面補強工法用プレキャスト板に装着する加圧注入用器具。
【請求項2】
前記確認孔をネジ孔としてボルトの螺入により閉鎖可能にしたことを特徴とする請求項1記載の斜面補強工法用プレキャスト板に装着する加圧注入用器具。
【請求項3】
プレキャスト板を斜面に設置する工程と、
プレキャスト板の貫通孔から斜面側に削孔する工程と、
請求項1又は2のいずれか1項に記載の加圧注入用器具における中空棒状補強材を削孔部内に挿入する工程と、
前記挿入工程の前後の何れかで、プレキャスト板に請求項1又は2のいずれか1項に記載の加圧注入器具における注入用プレートを装着する工程と、
前記中空棒状補強材の突端部にグラウト材の加圧注入機を接続する工程と、
前記加圧注入機により削孔部内に、中空棒状補強材内を通過させてグラウト材を加圧注入する工程と、
前記注入用プレートの確認孔からグラウト材が流出した時点で確認孔を閉鎖する工程と、
注入圧力が設定値に達した時点で加圧注入を停止し注入経路を遮断すると共に、中空棒状補強材から加圧注入機を外す工程と、
グラウト材の養生硬化後に、前記注入用プレートをプレキャスト板から外す工程と、
前記中空棒状補強材の突端部に座金を介してナットを螺嵌緊締する工程と、
を有することを特徴とする斜面補強工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−44154(P2013−44154A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−182484(P2011−182484)
【出願日】平成23年8月24日(2011.8.24)
【出願人】(000245852)矢作建設工業株式会社 (38)
【Fターム(参考)】