説明

断熱材の製造方法

【課題】 課題は、永続的に得られる原料から断熱材を製造すること、環境調和性が高い断熱材を製造すること、人体への有害な影響が小さい安全性の高い断熱材を製造すること、形状加工が容易で軽量(低密度)の断熱特性が高い断熱材を製造すること、種々の硬度の断熱材を製造することである。
【解決手段】 容器に入れた絹水溶液をかき混ぜながら、有機化合物を、絹が沈殿しないように少量ずつ滴下させ、得られた溶液を型容器に流し込んで静置し、凍結し、解凍し、乾燥させて絹スポンジからなる断熱材を得ることを特徴とする断熱材の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は天然材料を利用した断熱材料の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
地球上での人類の活動にともなう熱(高エントロピーエネルギー)の発生と移動に関連して、より効率的なエネルギー消費を可能にし、省資源と地球環境保全を目指す上で断熱材料は重要な役割をもっている。熱エネルギー移動の遮断や保温などを目的とした断熱材料としては、これまで、合成高分子・天然繊維・合成繊維・無機材料・木材と無機材料からなる複合材料などから作製されたおびただしい数のものが開発・使用されている。
【0003】
しかし、これらの材料は下記の点で問題をもっている。
(1)環境調和性に関して
ガラスウールは、原料のケイ砂から製造する場合でもカレットを溶融して製造する場合でも、他の断熱材原料に比較して格段に多くのエネルギーを費やして、高温状態を達成する必要がある。一般にガラスウールに用いられるソーダ石灰ガラスでは、短繊維化のために1500℃で溶融するのに2740kJkg−1の熱量が必要である。また、製造過程でNOx・SOx・煤塵・粉塵が排出され、ガラス短繊維の接着・固定化のための主流の材料はホルムアルデヒドを用いるフェノール樹脂である。したがって、ガラスウール製造過程では有害物質の発生が避けられず、排出による環境汚染を防ぐための施設の稼動にさらにエネルギーを費やすことになる。
【0004】
次に、ポリスチレンまたはポリウレタンフォームは原料に石油を用い、製造のエネルギー源としても石油を一部使用することから、化石資源に大きく依存する材料である。たとえば、ポリスチレンフォーム製造過程で300〜400℃を達成する必要があり、ガラスウールに次いでエネルギー消費量が多くなっている。
【0005】
(2)人体への影響に関して
各材料は製品としての使用中または使用後の処理段階で人体に触れることがある。ガラスウールは肌への刺激をもち、丘疹などを引き起こすことがあり、またエポキシ樹脂によって固めたガラス繊維がアレルギー性接触皮膚炎を誘発することもある。ポリスチレンフォームとポリウレタンフォームからはスチレンやCHCClFが放出されることがある。したがって、製品によっては、ガラスウール・ポリスチレンフォーム・ポリウレタンフォームは人体に影響を与える可能性がある。
【0006】
(3)形状加工性に関して
ガラスは加工の容易な材料ですが、高温状態でないと可塑性が生じず、加工過程でエネルギーを多量に消費する。したがって、利用エネルギーあたりの形状加工性は余り高くないといえる。また、羊毛・麻は、繊維として利用する場合にはわたや布帛を基にした材料に加工できるが、バルク材料への加工が容易ではなく、形状維持性を合成高分子のフォーム程度に高めようとするのも困難である。
【0007】
一方、特開平8−41097号公報(特許文献1)や特開2008−255298号公報(特許文献2)にフィブロインスポンジの存在が記載されているが、これらの特許文献1,2には断熱材に関する記載がない。
【特許文献1】特開平8−41097号公報
【特許文献2】特開2008−255298号公報
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
より効率的なエネルギー消費を可能にし、省資源と地球環境保全を目指すために、下記の事項が課題である。
▲1▼永続的に得られる原料から断熱材を作製すること。
▲2▼環境調和性が高い断熱材を作製すること。
▲3▼人体への有害な影響が小さい安全性の高い断熱材を作製すること。
▲4▼形状加工が容易で軽量(低密度)の断熱特性が高い断熱材を作製すること。
▲5▼種々の硬度を有する断熱材を製造すること。
そこで、本発明は、上記の課題を解決した断熱材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の断熱材の製造方法は、容器に入れた絹水溶液をかき混ぜながら、有機化合物を、絹が沈殿しないように少量ずつ滴下させ、得られた溶液を型容器に流し込んで静置し、凍結し、解凍し、乾燥させて絹スポンジからなる断熱材を得ることを特徴とする断熱材の製造方法。
また、前記容器に複数本のビュレットを用いて絹水溶液を滴下させることを特徴とする。
【0010】
また、絹水溶液を1〜5秒間隔で0.05〜10ml滴下することを特徴とする。
また、有機化合物がメタノール・エタノール・プロパノール・ブタノールの中から選択された一つであることを特徴とする。
また、有機化合物が酢酸・プロパン酸・ブタン酸の中から選択された一つであることを特徴とする。
さらに、絹原料またはこれを精錬処理して得られた残りの物の乾燥物を水・エタノール・塩化カルシウムの溶液に入れて溶解し、得られた溶液を透析膜で透析し、透析して得られた絹水溶液を濃縮し、かき混ぜながら、メタノール・エタノール・プロパノール・ブタノール・酢酸・プロパン酸またはブタン酸等の有機化合物を、絹が沈殿しないように少量ずつ滴下させ、得られた溶液を型容器に流し込んで静置し、凍結し、解凍し、乾燥させて絹スポンジからなる断熱材を得ることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
(1)環境調和性に関して
絹スポンジの原料である絹の製造工程での原油・電気の消費量は、機械化率よって変化するがそれが低い場合には、化学合成による材料に比較してエネルギーの消費はきわめて少ない。また、絹の製品製造過程で発生する有害物質は特に見出せない。断熱材料に特定はされないが、絶対排出量を別にして、ガラス・陶器製品の再生利用率は26%で残りの73%は最終処分され、プラスチック製品の再生利用率は24%で、その56%は最終処分され、繊維製品の再生利用率は65%で残りの最終処分率はわずか8%である。
【0012】
将来的には天然繊維のリサイクル率は高くなることが推測される。さらに絹はポリスチレンフォーム・ポリウレタンフォームよりもリサイクル・リユースし易く、自然環境で分解し易い。競合する技術に対して本発明がもつ、環境調和性に関する技術的な優位性は次のようにまとめられる。
▲1▼クワ(桑)農作では農薬を使用しないので環境保全に貢献できる。
▲2▼クワ(桑)の生長によるCO吸収と有機炭素としての固定は温暖化抑制に貢献できる。
▲3▼養蚕による原料絹の生産は石油・電気エネルギーの生産のようなエネルギー消費はない。
▲4▼永続的に原料が得られ、リサイクルが容易で自然界で分解しやすいので環境保全・持続社会実現に貢献できる。
【0013】
(2)断熱性に関して
各材料の断熱性は熱伝導率.〔Wm−1−1〕で評価され、λが小さい材料ほど熱を透過・伝導し難く断熱性が高いといえる。各材料のλの代表値は次のようになる。
ガラスウール:0.037Wm−1−1(試料密度:20kgm−3、繊維直径:6μm)
ポリスチレンフォーム:0.034Wm−1−1(押し出し法作製試料密度:27kgm−3
ポリウレタンフォーム:0.020Wm−1−1(押し出し法作製試料密度:40kgm−3
羊毛:0.48Wm−1−1(繊維軸方向)、0.165Wm−1−1(繊維軸に垂直方向)
麻:2.83Wm−1−1(繊維軸方向)、0.344Wm−1−1(繊維軸に垂直方向)
絹:1.49Wm−1−1(繊維軸方向)、0.118Wm−1−1(繊維軸に垂直方向)
【0014】
ただし、天然繊維の場合は、繊維固体そのものの測定値を示し、繊維の軸に対する方向によって熱伝導率が異なる。わた状や布帛状といった形状と、繊維間の空隙(空気層)の構造と全体の密度によって、天然繊維のλは大きく異なり、有効(みかけの)伝導率λは個別の各試料(製品)の測定によって得られる。本発明で作製したプロトタイプの絹スポンジ試料のλは例えば0.030Wm−1−1に達する十分低い値を示す。したがって、熱伝導性の観点から、ポリスチレンまたはポリウレタンフォームを除く競合する技術に対して、絹材料は断熱性に関する技術的な優位性をもっているといえる。また、スポンジ内の独立泡の構造と分布を調整することによって、材料の有効熱伝導率をさらに低下させ、より薄い断熱材料の作製が可能になると予想される。
【0015】
(3)軽さに関して
絹は軽量化のための様々な形状への加工が容易で、いずれも断熱材全体して20−40kgm−3程度の密度の材料に形成できる。ガラス短繊維・羊毛繊維・麻繊維に比較して、絹繊維の比重は1.34−1.38と低く、さらに絹をスポンジ化することによって単位体積中の空気層との混合比を下げて(絹繊維の比重は1.34−1.38と低いが、絹をスポンジ化することによって構造材料として全体の密度をさらに低くすることができる。)、材料全体の密度を低くすることができ、軽量な材料設計が可能で、より軽い断熱材料を作製できる。このような軽量断熱材料は、輸送機械や構造物の軽量化に貢献できる。
【0016】
(4)人体への影響に関して
絹では繊維のフィブロイン繊維の周りに残留する成分によるアレルギー反応が生じることがまれにあるが、断熱材にまで処理・製造された材料では大きなアレルギーの問題はほとんどないと考えられる。絹材料は、これまでに衣料・手術や医療用品・香粧品・食品などの人体に触れる分野で広く利用されてきており、他の材料に比較して、ヒトとの接触過程での問題発生は.ないことが予想される。したがって、住環境・診療環境・輸送機械・生活用品などの分野で用いるのに好ましい断熱材料としては、絹材料は優位にあるといえる。
【0017】
(5)形状加工性に関して
絹は水溶液にしてスポンジをはじめとする様々な形状に加工できる。また、溶液状態を取っているフィブロインに機能化のための他成分を混合することが可能で、高性能化や多機能化などの修飾・加工が容易である。
【0018】
また、本発明の断熱材の製造方法によれば、容器に入れた絹水溶液をかき混ぜながら、有機化合物を、絹が沈殿しないように少量ずつ滴下させ、得られた溶液を型容器に流し込んで静置し、凍結し、解凍し、乾燥させて作製するので、必要に応じた特性の断熱材を確実に得ることができる。
また、容器に複数本のビュレットを用いて絹水溶液を滴下すれば、絹水溶液に均等に有機化合物を混ぜることができ、絹の沈殿等が起こることがない。
また、絹水溶液を1〜5秒間隔で0.05〜10ml滴下するようにすれば、良好な絹スポンジによる断熱材を得ることができる。
【0019】
さらに、有機化合物として、メタノール・エタノール・プロパノール・ブタノール・酢酸・プロパン酸・ブタン酸の中から選択して用いることにより、種々の硬さの断熱材を得ることができる。特にブタン酸を用いると、非常に硬度の高い断熱材が得られる。したがって、用いる場所により、有機化合物を変えることにより適切な断熱材を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の断熱材の製造方法における測定装置の概略図である。
【図2】同製造方法によって得られた断熱材の熱伝導性の特性図である。
【図3】同特性図である。
【図4】同フィブロインスポンジの力学的特性を測定する系の概略図である。
【図5】同製造方法によって得られた断熱材の応力−ひずみ特性図である。
【図6】同特性図である。
【発明の実施例】
【0021】
以下本発明の断熱材の製造方法の実施例について説明する。
まず、絹繭50gを20分間水に浸漬する。蒸留水5lに炭酸ナトリウム25.0gを加えて90℃に加熱し、これに水で膨潤させた繭を入れ30分間かき混ぜる。繭を取り出し、同条件で炭酸ナトリウム熱水に浸漬して精錬処理を2度行なう。精錬処理した絹試料を1lの蒸留水で3度洗浄し、その後減圧乾燥する。以上が絹の精錬工程で、絹に含まれる大部分のセリシンを除去することができる。完全にセリシンを除去することは困難であるが、少し残った状態を含めセリシンの除去という。
【0022】
次に、精錬して得られた乾燥物(フィブロインを主体とする)1gを少しずつ水:エタノール:CaCl=8:2:1のモル比で調製した溶解液9gに加え、80℃で1時間かき混ぜながら加熱して溶解させる。以上がフィブロイン溶解の工程である。
【0023】
次に、得られた水溶液を透析膜(Union Carbide、限界分子量:Mw=7000)に入れて十分多量の蒸留水に浸漬し、1日3回もしくはそれ以上の回数蒸留水を交換しながら、25〜30℃で透析を行ないフィブロイン水溶液を得る。以上が透析工程である。
【0024】
次に、濃縮したフィブロイン水溶液(1〜10wt%)をかき混ぜながら、これにカルボン酸(酢酸、プロパン酸またはブタン酸等)またはアルコール(エタノール、プロパノールまたはブタノール等)を少量ずつ所定量滴下する。
滴下はフィブロインが沈殿したり、ダマにならないように、少量ずつ滴下させる。有機化合物をビュレット等を用いて、1〜5秒間隔で0.05〜10mlずつ滴下するのが良い。濃縮したフィブロイン水溶液の量にもよるが30〜60分程度滴下する。
【0025】
それぞれの有機化合物を加えた絹水溶液をポリスチレン製型容器に流し込んで静置してから冷凍庫に入れ、−25℃以下(典型的には−30℃)で12時間以上静かに放置する。凍結した水溶液を冷凍庫から取り出し、減圧下で凍結乾燥する。
有機化合物の滴下に際し、濃縮したフィブロイン水溶液が広口の容器に入れられている場合には、複数のビュレットを用いて、フィブロイン水溶液に均等に有機溶媒を滴下させるとよい。以上がフィブロインスポンジ(断熱材)の製造工程である。
【0026】
次に、得られた断熱材(フィブロインスポンジ)の熱伝導性について説明する。
図1に模式的に示す自作した測定系で測定した。恒温槽1の中に断熱層2を設け、この断熱層2の底にラバーヒーター3を設置する。熱電対5を介して、ヒーター3の上に測定試料4を置く。測定試料4の上面にも熱電対6を接触させ、両熱電対4,5をデジタル温度計7に接続する。8はヒーターコントロールユニットである。
【0027】
あらかじめラバーヒーター3の温度が一定になるようにコントロ−ルユニット8で設定した後に、ヒーター3に測定試料4を載せた。ヒーター3との接触面とその反対面のそれぞれの試料の温度を熱電対5、6とデジタル温度計7で時間ごとに測定した。測定系は温度:25℃、湿度:32%に保った試料に対して十分大きな恒温槽中に封入してある。試料の厚さは、フィブロインスポンジ:5.56mm、重ね絹布帛:4.16mm(52枚重ね)、発泡スチロール:6.00mmである。図2と図3は、それぞれ52.20℃と80.50℃の温度に設定した
ヒーター3に接触させた測定試料4の、ヒーター接触面と反対側の面の温度の時間変化を表すものである。
【0028】
図2において、Tはヒーター3との接触面の測定試料4の温度(℃)、tは時間(分)、○は本実施例のフィブロインスポンジ、□は発泡スチロール、△は絹布である。ヒーター3の温度は52.20℃に設定した。第3図においてTはヒーター3との接触面の反対側の面の測定試料4の温度(℃)、tは時間(分)、○は本実施例のフィブロインスポンジ、□は発泡スチロール、△は絹布である。ヒーター3の温度は80.50℃に設定した。
【0029】
図2から分かるように、52.20℃で加熱開始とともに、重ね絹布帛の、測定点での温度は最も速く上昇していき、80分の時点で43.70℃に達し、さらに上昇している。一方、本実施例のフィブロインスポンジは、発泡スチロールとほぼ同じ温度変化カーブを描き、16分で温度上昇がほとんど停止して、80分の時点でヒーター3の接触面と反対側の面の試料の温度は36.70℃になる。加熱初期における各試料の温度上昇速度は、重ね絹布帛の:0.11K−1、発泡スチロール:0.077K−1、フィブロインスポンジ:0.077K−1で、フィブロインスポンジの温度上昇速度が最も低い。
【0030】
また、図3から分かるように、80.50℃で加熱の場合も、重ね絹布帛のヒーター接触面と反対側の面の試料の温度は62.95℃まで上昇するが、フィブロインスポンジの温度は48.55℃までしか上昇しない。温度の上昇停止も15分で起こる。このヒーター温度での加熱初期における各試料の温度上昇速度は、重ね絹布帛の:0.17K−1、発泡スチロール:0.13K−1、フィブロインスポンジ:0.11K−1で、ここでもフィブロインスポンジの温度上昇速度が最も低い。なお、80.50℃で加熱の場合、発泡スチロールの温度変化カーブはフィブロインスポンジとほぼ同様であったが、測定後フィブロインスポンジが不変であったのに対し、発泡スチロールの加熱側面は融解してしまっていた。これは高い断熱性(低い熱伝導性)によって、ヒーターと試料間に拡散していかない熱エネルギーが蓄積し、この箇所の温度が上昇したためである。
【0031】
以上の結果より、本発明で作製したフィブロインスポンジは、一般的な断熱材として用いられている発泡スチロールとほぼ同等の熱伝導性(断熱性)を示すことが明らかとなった。
次に、得られたデータからフィブロインスポンジのみかけ(材料全体)の熱伝導率λを求めたところ、λ=0.030Wm−1−1と求まった。この値は、一般的な樹脂・プラスチックよりも一桁低く、ポリスチレンフォーム・硬質ウレタンフォーム・フェノールフォーム・ポリエチレンフォームなどの発泡断熱材料とほぼ同じである。熱伝導率が低いということは、断熱性が高いことを示す。熱伝導率の逆数を断熱性の指標とすると、フィブロインスポンジは、ケイ酸カルシウムなどの無機保温材の2.6倍、羊毛などの繊維保温材の1.5倍の断熱性を示す。
【0032】
また、図2と図3から明らかなように、一般的な重ね絹布帛はみかけの熱伝導性が高いが、フィブロインをスポンジ化した試料は熱伝導性が低くなり、断熱性が向上する。これは、絹布帛では結晶化部分を多く含み密度の高い繊維・糸の伝導伝熱がスポンジに比べて大きく、さらに布帛の糸間の空間が大きいために空気対流が大きく、対流伝熱も独立気泡をもつスポンジに比べて大きいためであると考えられる。したがって、断熱特性に関してフィブロインをスポンジ化した効果は非常に大きいといえる。
【0033】
次に、本発明の断熱材の力学的性質について説明する。
応力印加に対するフィブロインスポンジの力学的性質をクリープメーター(山電RE2−3305S)を用い、図4に示す測定系で評価した。
図4に示すように、試料台12に設けられた試料セル10に試料11を入れ、セル13に設けられたプランジャー9を試料11の上から押し付けて測定する。プランジャー10の先端は平面になっており、径は鉛筆の径程度である。
【0034】
試料はメタノール・エタノール・プロパノール・ブタノール・酢酸・プロパン酸・ブタン酸を有機化合物として添加して作製したフィブロインスポンジを用い、それぞれの応力−ひずみ曲線を求めた。フィブロインスポンジは、上述した工程(それぞれの有機化合物を加えた絹水溶液をポリスチレン製型容器に流し込んで静置してから冷凍庫に入れ、−25℃以下(典型的には−30℃)で12時間以上静かに放置する。)で得られたものを室温で解凍し、含水状態の柔軟なスポンジとして構成したものである。それぞれの添加有機化合物の混合溶媒中のモル分率は3.7×10−3である。
【0035】
プランジャー9によって、試料11に応力を印加する。ひずみ率は、応力印加方向の試料11の厚さを100%としている。メタノール・エタノール・プロパノール・ブタノール系で作製したフィブロインスポンジの応力−ひずみ曲線を図5に示す。Aはブタノール、Bはメタノール、Cはプロパノール、Dはエタノールである。図5から分かるように、60%のひずみ率までは、メタノールB<エタノールD<ブタノールA<プロパノールCの順に、同じひずみとなるのに、より大きな応力かかることが分かる。言い換えれば、40KPaの応力では、プロパノールC<ブタノールA<エタノールD<メタノールBの順にひずみが大きくなる。さらに、ひずみ率が高くなると、エタノールDの剛性が急激に上昇する。この挙動はスポンジ中の網目と気泡の構造・大きさ・分布等の要因によって決まるものと考えられる。このように滴下する有機化合物によって種々の硬度の断熱材が得られ、特にエタノールDは大きな応力が加わってもひずみがそれほど大きくなく、比較的硬い断熱材が得られる。
【0036】
一方、図6において、Eは酢酸、Fはプロパン酸、Gはブタン酸を有機化合物として滴下したときのフィブロインスポンジの応力−ひずみ特性である。この特性から分かるように、図5のアルコール添加系に比べて、プロパン酸F、ブタン酸Gはフィブロインスポンジの剛性が高くなることが理解できる。
このことから、より長い炭化水素基鎖長を持つ有機酸の添加によって、より大きな荷重に耐えられる断熱材が得られる。特に、ブタン酸Gの添加の場合、500kPaにも達する荷重に耐えられる断熱材が得られることがわかった。
このように、本発明の断熱材は断熱特性が良く、種々の硬度を持つものが得られるので、車両・航空機・冷蔵庫・住宅用など様々な用途に利用することができる。
【0037】
上記実施例では、絹原料を精錬処理して得られた残りの物の乾燥物を水・エタノール・塩化カルシウムの溶液に入れて溶解し、得られた溶液を透析膜で透析してフィブロイン水溶液を得たが、精錬処理より前の絹原料の乾燥物を水・エタノール・塩化カルシウムの溶液に入れて溶解し、得られた溶液を透析膜で透析してフィブロイン水溶液と同等の水溶液を得ることもでき、これらの水溶液を合わせて絹溶液と称する。上記同等の水溶液を用いて上記実施例と同様にしてスポンジを作ることができる。両方のスポンジを合わせて絹スポンジと称する。したがって、本発明では、絹と云う言葉は精錬処理前の絹原料または、精錬処理して得られた残りの物と云うことができる。
また、絹溶液に添加物として、アミロース等の多糖類或いは、ポリビニルアルコールを加えると、柔軟性・硬さなどの力学的特性を制御することができ、用途に応じた断熱材を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明の断熱材は、車両、航空機、冷蔵庫、住宅用など種々の用途に利用することができる。
【符号の説明】
【0039】
1:恒温槽
2:断熱層
3:ヒーター
4:測定試料
5・6:熱電対
7:デジタル温度計
8:ヒーターコントロールユニット
9:プランジャー
10:試料セル
11:試料
12:試料台
13:セル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器に入れた絹水溶液をかき混ぜながら、有機化合物を、絹が沈殿しないように少量ずつ滴下させ、得られた溶液を型容器に流し込んで静置し、凍結し、解凍し、乾燥させて絹スポンジからなる断熱材を得ることを特徴とする断熱材の製造方法。
【請求項2】
前記容器に複数本のビュレットを用いて絹水溶液を滴下させることを特徴とする請求項1に記載の断熱材の製造方法。
【請求項3】
絹水溶液を1〜5秒間隔で0.05〜10ml滴下することを特徴とする請求項1に記載の断熱材の製造方法。
【請求項4】
前記有機化合物がメタノール・エタノール・プロパノール・ブタノールの中から選択された一つであることを特徴とする請求項1から3何れかに記載の断熱材の製造方法。
【請求項5】
前記有機化合物が酢酸・プロパン酸・ブタン酸の中から選択された一つであることを特徴とする請求項1から3何れかに記載の断熱材の製造方法。
【請求項6】
絹原料またはこれを精錬処理して得られた残りの物の乾燥物を水・エタノール・塩化カルシウムの溶液に入れて溶解し、得られた溶液を透析膜で透析し、透析して得られた絹水溶液を濃縮し、かき混ぜながら、メタノール・エタノール・プロパノール・ブタノール・酢酸・プロパン酸・ブタン酸等の有機化合物を、絹が沈殿しないように少量ずつ滴下させ、得られた溶液を型容器に流し込んで静置し、凍結し、解凍し、乾燥させて絹スポンジからなる断熱材を得ることを特徴とする断熱材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−220017(P2012−220017A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−95507(P2011−95507)
【出願日】平成23年4月5日(2011.4.5)
【出願人】(308031197)株式会社アセット・ウィッツ (4)
【Fターム(参考)】