説明

断線予兆検知方法、断線予兆検知装置及び作業用ロボット

【課題】ケーブルが、移動や経時変化等によりケーブル内部の導体が断線する場合に、断線する兆しを予め検知すること。
【解決手段】電圧変動検知部11は、屈曲動作と復帰動作との繰り返し動作中に通電状態の導体に生じる基準電位からの電圧降下の電圧降下値を測定する。変動時間検知部12は、屈曲動作と復帰動作との繰り返し動作中に通電状態の導体に生じる基準電位からの電圧降下の電圧降下時間を測定する。予兆判定部14は、測定された電圧降下値と電圧降下時間が閾値を上回ったか否かを判断する。そして、予兆判定部14は、電圧降下値及び電圧降下時間のいずれかの測定値が閾値を上回ったと判断された場合には、表示部15に検知情報を表示させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケーブルにおける導体の断線予兆を検知する断線予兆検知方法、断線予兆検知装置及び断線予兆検知装置を備えた作業用ロボットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、組み立てロボットや溶接ロボットなどの作業用ロボットには、電力供給用や制御用のケーブルが数多く使用されている。しかしながら組み立てロボット、溶接ロボットなどのように、長期間連続して同じ動作を繰り返すと、ケーブルの撚合導体は苛酷な曲げや捩りを受けることとなる。そのため、ケーブルには寿命があり、ケーブルの撚合導体の素線断線状態の早期検知は、生産機器を保守管理するうえで極めて重要である。
【0003】
そこで、従来は、ケーブルに平行にケーブルよりも劣化しやすい劣化検出用ケーブルを設け、劣化検出用ケーブルの切断を検出する可動ケーブル劣化検出装置が提案されている(特許文献1参照)。この可動ケーブル劣化検出装置では、劣化検出用ケーブルの端子間に電圧を印加し、劣化検出用ケーブルに流れる電流値を検出して、断線の判断をしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−162121号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述した可動ケーブル劣化検出装置では、劣化検出用ケーブルは必ずケーブルよりも劣化し易くなくてはならない。この劣化検出用ケーブルとケーブルとの劣化の程度の差が大きくなるほど、劣化検出用ケーブルは可動ケーブルが切断に至る時期よりも早く切断に至る。従って、劣化検出用ケーブルにはケーブルよりも僅かに劣化しやすいケーブルが要求される。
【0006】
しかしながら、異なるケーブルの切断に至る時期は、ケーブルの置かれた環境やケーブル動作によって大きく変動する。また、ケーブルと劣化検出用ケーブルでは、配置される場所が僅かではあるが異なってくる。従って、ケーブルより僅かに劣化しやすいものを劣化検出用ケーブルとして選定することは非常に困難となる。即ち、ケーブルそのものの断線状態を検知していないので、間接的な予兆にすぎず、実際のケーブルの交換時期を想定するための信頼性は低い。
【0007】
そこで、本発明は、ケーブルの繰り返しの曲げ動作や捩り動作により複数の素線からなる導体が断線する兆しを、直接ケーブルの変化から検知することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、複数の素線からなる導体を有するケーブルが駆動部の駆動により移動する可動部と固定部との間に接続され、前記固定部に対する前記可動部の移動により前記ケーブルの屈曲動作又は捩れ動作と復帰動作とを繰り返す繰り返し動作による前記導体の断線の予兆を検知する断線予兆検知方法において、前記繰り返し動作中に通電状態の前記導体に生じる基準電位からの電圧降下の電圧降下値及び電圧降下時間の少なくとも一方の測定値を測定する測定工程と、前記測定工程により測定された前記測定値が閾値を上回ったか否かを判断する判断工程と、前記判断工程により前記測定値が前記閾値を上回ったと判断された場合に、前記導体の断線の予兆を検知したことを報知する報知工程と、を備えたことを特徴とする。
【0009】
また、本発明は、複数の素線からなる導体を有するケーブルが駆動部の駆動により移動する可動部と固定部との間に接続され、前記固定部に対する前記可動部の移動により前記ケーブルの屈曲動作又は捩れ動作と復帰動作とを繰り返す繰り返し動作による前記導体の断線の予兆を検知する断線予兆検知方法において、前記導体にパルス電圧を印加するパルス電圧印加工程と、前記パルス電圧を前記導体に印加した際の応答パルスが立ち上がる時点から飽和する時点までの飽和時間を測定する測定工程と、前記測定工程により測定された前記飽和時間が閾値を下回ったか否かを判断する判断工程と、前記判断工程により前記飽和時間が前記閾値を下回ったと判断された場合に、前記導体の断線の予兆を検知したことを報知する報知工程と、を備えたことを特徴とする。
【0010】
また、本発明は、複数の素線からなる導体を有するケーブルが駆動部の駆動により移動する可動部と固定部との間に接続され、前記固定部に対する前記可動部の移動により前記ケーブルの屈曲動作又は捩れ動作と復帰動作とを繰り返す繰り返し動作による前記導体の断線の予兆を検知する断線予兆検知装置において、前記繰り返し動作中に通電状態の前記導体に生じる基準電位からの電圧降下の電圧降下値及び電圧降下時間の少なくとも一方の測定値を測定する測定手段と、前記測定手段により測定された前記測定値が閾値を上回ったか否かを判断する判断手段と、前記導体の断線の予兆を検知したことを示す検知情報を報知する報知手段と、前記判断手段により前記測定値が前記閾値を上回ったと判断された場合に、前記報知手段に前記検知情報を報知させる報知制御手段と、を備えたことを特徴とする。
【0011】
また、本発明は、複数の素線からなる導体を有するケーブルが駆動部の駆動により移動する可動部と固定部との間に接続され、前記固定部に対する前記可動部の移動により前記ケーブルの屈曲動作又は捩れ動作と復帰動作とを繰り返す繰り返し動作による前記導体の断線の予兆を検知する断線予兆検知装置において、前記導体にパルス電圧を印加する電源部と、前記パルス電圧を前記導体に印加した際の応答パルスが立ち上がる時点から飽和する時点までの飽和時間を測定する測定手段と、前記測定手段により測定された前記飽和時間が閾値を下回ったか否かを判断する判断手段と、前記導体の断線の予兆を検知したことを示す検知情報を報知する報知手段と、前記判断手段により前記飽和時間が前記閾値を下回ったと判断された場合に、前記報知手段に前記検知情報を報知させる報知制御手段と、を備えたことを特徴とする。
【0012】
また、本発明は、作業ロボットにおいて、固定部と、前記固定部に対して移動する可動部と、複数の素線からなる導体を有し、前記固定部と前記可動部との間に接続されるケーブルと、前記ケーブルの屈曲動作又は捩れ動作と復帰動作との繰り返しによる前記導体の断線の予兆を検知する上記断線予兆検知装置と、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、複数の素線からなる導体が断線する予兆を、直接ケーブルの導体の電気抵抗値の変化に基づく値から検知しているので、断線予兆の精度が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第1実施形態に係る断線予兆検知装置を備えた移動装置の概略構成を示すブロック図である。
【図2】可動部が移動したときのケーブルの屈曲部に発生する素線の状態と、ケーブルにおける電圧降下の変化を示す説明図である。
【図3】本発明の第1実施形態に係る断線予兆検知装置による断線予兆検知を行うためのフローチャートである。
【図4】予兆判定部のメモリに記憶されるテーブルデータを作成する際の実験結果を示す図であり、(a)は可動部の移動回数に対する電圧降下値を示す図、(b)は可動部の移動回数に対する電圧降下時間を示す図である。
【図5】ケーブルの導体の断線位置を特定するための各信号のタイミングチャート図である。
【図6】本発明の第2実施形態に係る断線予兆検知装置を備えた回転装置を説明するための図であり、(a)は回転装置の概略構成を示す図、(b)はケーブルにおける電圧降下の変化を示す説明図である。
【図7】本発明の第3実施形態に係る断線予兆検知装置を備えた移動装置の概略構成を示すブロック図である。
【図8】ケーブルの接続状態を示す説明図である。
【図9】センサを使用した場合に検出抵抗器で検知される電圧の状態を示した図である。
【図10】電圧変動検出部の概略構成を示す回路図であり、(a)は複数のコンパレータを有する電圧変動検出部を示す回路図、(b)はA/Dコンバータを有する電圧変動検出部を示す回路図である。
【図11】断線予兆判定を行うアルゴリズムを示すフローチャートである。
【図12】断線予兆検知装置の一部分を示す回路図である。
【図13】電圧変動検出部のフォトカプラの説明図であり、(a)は電圧変動検出部の回路図、(b)はフォトカプラの特性を示す図である。
【図14】検査パルスに対する応答パルスの変化を示した図である。
【図15】作業用ロボットの全体を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0016】
[第1実施形態]
図1は、本発明の第1実施形態に係る断線予兆検知装置を備えた移動装置の概略構成を示すブロック図である。なお、本第1実施形態では、図1に示すステージ25上を可動部18が繰り返し往復移動する移動装置50に断線予兆検知装置10を適用した場合について説明する。
【0017】
まず、移動装置50について説明する。移動装置50は、ステージ25上を機台24を介して往復直線移動する繰り返し動作を行う可動部18と、ステージ25に対して固定して設けられた固定部19と、固定部19と可動部18とを接続するケーブル26と、を備えている。
【0018】
ケーブル26は、不図示のケーブルベアにより支持されている。そして、ケーブル26は、屈曲部26Aで屈曲して配置され、機台24(即ち可動部18)の移動によりケーブル26において屈曲部26Aの位置が移動するように構成されている。つまり、ケーブル26の屈曲部26A以外の部分は真っ直ぐな真直部であり、ケーブル26において屈曲部26Aの位置が移動することで、ケーブル26の各位置において屈曲動作と復帰動作とを繰り返し行う。ここで、復帰動作とはケーブル26を真っ直ぐな状態にする動作をいう。
【0019】
また、移動装置50は、可動部18と共に機台24を矢印S方向に往復駆動する駆動部としてのモータ20と、モータ20の可動子の位置を検知するエンコーダ21と、モータ20に駆動電流を供給するドライバー22と、を備えている。ドライバー22はコントローラと一体となっており、外部の指示系、例えば制御PC(不図示)からの制御信号によって駆動を行う。
【0020】
また、移動装置50は、ドライバー22からの信号により機台24(即ち可動部18)の動作の繰り返し回数をカウントする繰り返し回数カウンタ(以下、「カウンタ」という)23を備えている。このカウンタ23により定常的に可動部18の往路を辿る往動作及び復路を辿る復動作の動作回数を把握することができる。本第1実施形態では、カウンタ23は、ケーブル26の各位置における屈曲回数をカウントすることとなる。
【0021】
ここで、図2に、可動部18が移動したときの屈曲部26Aに発生する素線の状態と、ケーブル26における電圧降下の変化を示す。ケーブル26は、複数の素線26aを撚り合わせてなる導体26bを不図示の絶縁体で絶縁被覆したものである。なお、この図2において、ケーブル26の内部の断線状態をわかりやすくするために、模式的に各素線26aを平行に配置して図示した。図2には、素線26aの断線本数が僅かである場合(状態1)と、素線26aの断線本数が増加した場合(状態2)とを示している。
【0022】
ケーブル26に最も大きなストレスがかかるのは、ケーブル26が屈曲している状態であり、屈曲部26Aでは素線26aの断線が発生しやすい。図2に示すケーブル26の状態1では、ケーブル26内の導体26bの点A1において、僅かに(例えば1本)素線26aが断線している様子を示している。
【0023】
このとき、例えば1本の素線26aの断線により導体26bの電気抵抗値が増加することから、ケーブル26の導体26bに印加された電圧は、基準電位Voから電圧降下値V1だけ電圧降下する。なお、各素線26aが断線していない状態における導体26bの電位は、基準電位Voである。ケーブル26が屈曲状態から復帰状態になった場合は、再び断線した素線26aの接続が回復し、通常の基準電位Voに戻る。また、そのときの電圧降下している時間(電圧降下時間)は、導通不良が発生している時間と対応し、電圧降下時間の幅はパルス幅t1の信号として捕らえることができる。
【0024】
なお、ケーブルベア等の移動機構では、ケーブル26の素線26aの断線による電圧降下は屈曲時のみ発生し、電圧降下時間(パルス幅)は、移動する可動部18の移動速度及び屈曲部26Aの径等の条件によって変化する。
【0025】
次に図2に示すケーブル26の状態2は、可動部18の移動回数を重ねる毎に素線26aの断線本数が増加(例えば4本)した場合を示している。この場合、屈曲部26Aにおける断線状態での導体26bの電気抵抗値は、状態1の場合よりも増加し、そのときの電圧降下値V2は、電圧降下値V1よりも増加する。
【0026】
また、素線26aの断線本数が増えると、切断面の変化により、ケーブル26が真っ直ぐな状態に復帰した場合に再び接続が回復するタイミングが異なる。そのため、ケーブル26が復帰して接続が回復するまでの時間が長くなり、基準電位Voに戻るまでの時間(電圧降下時間)が長くなる。したがって、導通不良を起こしている電圧降下時間もパルス幅t1よりも時間の長いパルス幅t2として捕らえることができる。なお、図2において、理解を容易にするために電圧波形を模式的に示したが、実際は基準電位Voまで徐々に回復する。
【0027】
そこで、本第1実施形態の移動装置50は、ケーブル26の屈曲動作と復帰動作との繰り返しによる導体26bの断線を予兆する断線予兆検知装置10を備えている。ここで、導体26bの断線を予兆するとは、図2のように、ケーブル26内の複数の素線26aが移動もしくは腐食などによる経時的な変化で、導体26bが断線する兆候を検知することである。また、導体26bが断線するとは、全ての素線26aが断線することである。
【0028】
断線予兆検知装置10は、ケーブル26に直列接続された抵抗値Rの検出抵抗器17と、検出抵抗器17を介してケーブル26に電圧を印加する電源部27と、を備えている。電源部27は、DC電圧とAC電圧の切り替えを可能に構成されており、またAC電圧はパルス状の波形のほか、正弦波等の電圧も印加できるように構成されている。本第1実施形態では、電源部27は、DC電圧を印加する。つまり、本第1実施形態のケーブル26は、電源電圧が印加される電源ラインのケーブルである。
【0029】
また、断線予兆検知装置10は、電圧変動検知部11、変動時間検知部12、変化周期検知部13、予兆判定部14、表示部15及び断線位置検知部16を備えている。電圧変動検知部11は、通電状態の導体26bの抵抗変化による電圧変化を、検出抵抗器17の端子間電圧から検知する。
【0030】
この電圧変動検知部11は、検出抵抗器17の端子間電圧を検知することにより、導体26bの電気抵抗値の変化によって通電状態の導体26bにおいて基準電位Voから電圧降下した際の電圧降下値を求める。即ち、電圧変動検知部11は、ケーブル26の屈曲動作と復帰動作とを繰り返す繰り返し動作中に通電状態の導体26bに生じる電圧降下による電圧降下値(測定値)を測定する。
【0031】
具体的には、電圧変動検知部11は、検出抵抗器17からのモニタ信号(以下、「予兆信号」という)をサンプリングする回路を有し、電圧値を定量的な値に変換し出力する。サンプリング回路はAD変換回路を用いてもよく、サンプリングの周期も、カウンタ23からの信号を、変化周期検知部13を通して入力することで、可動部18の動作回数に応じて設定が可能である。
【0032】
また予め予兆信号の閾値設定を行い、閾値に対してモニタ値が大きい場合には所定の電圧を出力するような方式も取ることができる。閾値設定の場合には、出力は例えばデジタル的な信号として扱えるように、内部のデジタル出力用のコンパレータ回路を設けてもよい。電圧変動検知部11は、ケーブル26が移動状態の間逐次検出抵抗器17の予兆信号を監視している。
【0033】
変動時間検知部12は、ケーブル26の屈曲動作と復帰動作とを繰り返す繰り返し動作中に通電状態の導体26bに生じる電圧降下による電圧降下時間(測定値)を測定する。
【0034】
具体的には、変動時間検知部12は、電圧変動検知部11からの出力信号を基に、ケーブル26の内部の断線状態がどれくらいの期間おきているか検知するための回路が構成されている。例えば電圧変動検知部11の出力がAD変換後の定量的な値の場合には、データを電圧変動検知部11のサンプリング周期に同期した内部クロック信号にて、ラッチもしくは一次的なメモリにストアする。次に取り込まれたデータをメモリ内のデータとで比較を行う。比較する周期は内部クロック毎に行い、比較データが連続している場合には、その時間の内部クロック数をカウントすることで電圧降下時間の検知ができる。
【0035】
また、電圧変動検知部11の出力が閾値設定によるコンパレータ信号の場合、例えばデジタル信号として1が出力された場合にも、内部クロック信号にてデジタル信号のラッチを行う。デジタル信号が1の状態を維持している期間の内部クロックのカウントを行うことで変動時間の検知を行うことが可能である。検出の分解能は、サンプリング周期の設定いかんにより任意に設定が可能である。以上の電圧変動検知部11及び変動時間検知部12が測定手段として機能する。
【0036】
次に、変化周期検知部13について説明する。変化周期検知部13は、機台24を移動させるドライバー22からの駆動周期信号を、カウンタ23を通して取り込む。この駆動周期信号を取り込むことにより可動部18がどれ位の周期(駆動スピードを含む)で駆動しているかを把握することができる。また、変化周期検知部13は、電圧変動検知部11からの出力を取り込み、その信号の周期性を基に、ケーブル26の導体26bの断線で生じた信号であるか否かを判定することができる。
【0037】
電圧変動検知部11、変動時間検知部12及び変化周期検知部13のそれぞれの検知信号は個別に予兆判定部14に出力される。本第1実施形態における予兆判定部14は、CPU14a及びメモリ14bを有し、CPU14aがメモリ14b内のプログラムに基づいて動作するコンピュータである。なお、予兆判定部14は、FPGAのロジック回路で記述されたコンピュータであってもよい。
【0038】
予兆判定部14は、それぞれの信号を基に、予兆判定を行い(判断手段)、その結果を表示部15に表示を行わせる(報知制御手段)と共に、屈曲回数を示す予兆判定値の算出を行い(予測手段)、その屈曲回数を表示部15に表示させる。
【0039】
予兆判定部14のメモリ14bには、予め実験により求めておいた、導体26bが断線に至る前の状態の電圧降下値及び電圧降下時間が閾値として記憶されている。また、メモリ14bには、予め実験により求めておいた、電圧降下値と導体26bが断線に至るまでの屈曲回数とを対応付けたデータテーブルと、電圧降下時間と導体26bが断線に至るまでの屈曲回数とを対応付けたデータテーブルとが記憶されている。
【0040】
表示部15は、導体26bの断線の予兆を検知したことを示す検知情報を画像表示により報知するための報知手段である。本第1実施形態では、報知手段が表示部15である場合について説明するが、報知手段が音声出力部であり、検知情報を音声により報知するようにしてもよい。
【0041】
断線位置検知部16は、移動する可動部18によりケーブル26上のどの位置で導体26bの断線が生じているかを判定する。判定方法としては、エンコーダ21からの位置信号と、ステージ25上に設けられた原点信号または原点センサからの信号(不図示)と、予兆判定部14からの信号とで位置の特定を行う。
【0042】
次に、断線予兆検知装置10によるケーブル26の断線予兆検知方法について詳細に説明する。ここで、ケーブルベア内に実装されたケーブル26での断線予兆を行う場合に、屈曲等によって現れる予兆信号の変化は、図2に示された電圧変動の波形と一致する。すなわち、屈曲回数が少ない場合においては、状態1のように電圧降下値及び電圧降下時間(パルス幅)も小さい。屈曲回数が増加した場合には、状態1から状態2のように電圧降下値と電圧降下時間の増加が見られる。
【0043】
図3は本発明の第1実施形態に係る断線予兆検知装置10による断線予兆検知を行うためのフローチャートである。図3に示すフローチャートは、図1の断線予兆検知装置10内で構成されている各部の処理の流れを示したものである。まず、カウンタ23は、可動部18が繰り返し動作を開始した場合に、可動部18の移動回数、即ちケーブル26の屈曲回数のカウントを開始する(S1)。
【0044】
次に、電圧変動検知部11は、ケーブル26の屈曲動作と復帰動作とを繰り返す繰り返し動作中に通電状態の導体26bに生じる基準電位からの電圧降下の電圧降下値を測定する(S2:測定工程)。また、変動時間検知部12は、ケーブル26の屈曲動作と復帰動作とを繰り返す繰り返し動作中に通電状態の導体26bに生じる基準電位からの電圧降下の電圧降下時間を測定する(S3:測定工程)。
【0045】
電圧降下値は、基準電位からどれだけ電圧降下したかを示す値である。電圧降下時間は、ハイレベルの電位と、ハイレベルよりも低いローレベルの電位との間の領域に電圧降下したときの時間である。
【0046】
ここで、本第1実施形態では、導体26bに定常電圧が印加されて導体26bが通電状態となっているときに電圧降下値及び電圧降下時間(測定値)が測定される。つまり、導体26bには、電源部27により検出抵抗器17を介して電源電圧である定常電圧が印加されている。
【0047】
そして、ケーブル26の導体26bには、素線26aの断線がない状態では一定の基準電位となる電圧が印加される。素線26aの断線が生じた場合には、導体26bにおいて電圧降下が生じるので、基準電位から電圧降下した電圧降下値及び電圧降下している期間である電圧降下時間が測定される。
【0048】
次に、予兆判定部14は、電圧変動検知部11により測定された電圧降下値が、予め設定された閾値th1を上回ったか否かを判断する(S4:判断工程)。また、変動時間検知部12により測定された電圧降下時間が閾値th2を上回ったか否かを判断する(S5:判断工程)。
【0049】
そして、予兆判定部14は、電圧降下値が閾値th1を上回ったと判断した場合(S4:Yes)、又は電圧降下時間が閾値th2を上回ったと判断した場合(S5:Yes)、予兆判定値の算出を行う(S6:予測工程)。
【0050】
つまり、予兆判定部14は、測定値(電圧降下値又は電圧降下時間)が測定された時点を基準とする導体26bが断線に至るまでの屈曲回数を、測定値から予測する。具体的には、予兆判定部14のCPU14aが予めメモリ14bに記憶されたテーブルデータを参照して、測定値(電圧降下値又は電圧降下時間)に対応する屈曲回数を求める。
【0051】
次いで、予兆判定部14は、導体26bの断線の予兆を検知したことを示す検知情報を表示部15に表示させると共に、表示部15に屈曲回数を表示させる(S7:報知工程)。
【0052】
表示部15による表示の結果、オペレータにより可動部18の繰り返し動作を継続するか否かが判断される。各測定値が閾値th1,th2以下の場合(S4:No、及びS5:No)には、継続して繰り返し動作が行われる。
【0053】
したがって、導体26bが断線する予兆を、電圧降下の電圧降下値又は電圧降下時間により検知する、すなわち、直接ケーブル26を監視するようにしたので、ケーブル26の導体26bの予兆精度が向上する。
【0054】
次に、予兆判定部14のメモリ14bに記憶されるテーブルデータを作成する際の実験結果について図4を参照しながら説明する。図4(a)は、可動部18の移動回数(移動周期でも可)に対する電圧降下値を示したものである。なお、ここでの移動は、予め決められた一定の条件で行われる。本第1実施形態では、可動部18の駆動速度(駆動周期)を1.5sec/往復とし、屈曲部の径を約50mmの条件として行った。
【0055】
図4(a)において、縦軸は導体26bの電圧降下値である。横軸はケーブル26の断線予兆を示す予兆信号が初めて取得されてからの可動部18の移動回数(ケーブル26の屈曲回数)である。
【0056】
また、図4(a)において、ケーブルAはケーブル内部の配線数が少ない、いわゆる単線での電圧降下特性を比較例として示したものである。ケーブルBは、一般的な撚り線、例えば鈴メッキ軟銅線の7本撚り等を使用した場合の電圧降下特性を示したもので、ケーブルCはロボットケーブルと呼ばれる撚り線数が多いケーブル(撚り線数10本以上)を使用した場合での電圧降下特性である。
【0057】
ケーブルA,B,Cに印加する電源電圧はDC+24Vとした。ケーブルA,B,Cの電圧降下値は、ケーブルの素線がすべて断線したときには、電圧降下値が電源電圧+24Vとなるような回路構成とした。
【0058】
ケーブルAにおける実験の結果、予兆信号が初めて取得された可動部18の移動回数は約2000回であり、予兆信号を取得した時点から断線(電圧降下値として+24V)に至るまでの可動部18の移動回数aは約300回となった。
【0059】
一方、ケーブルBにおける実験の結果、予兆信号が初めて取得された可動部18の移動回数は約4000回であり、予兆信号を取得した時点から断線に至るまでの可動部18の移動回数bは30000回となった。また、ケーブルCにおける実験の結果、予兆信号が初めて取得された可動部18の移動回数は約5000回であり、予兆信号を取得した時点から断線に至るまでの可動部18の移動回数cは50000回となった。
【0060】
ケーブルが断線に至る屈曲回数は、ケーブルの種類や実際に使用する条件によって異なるが、図4(a)に示したような移動回数に応じた電圧の変化傾向を予めケーブルの種類ごとに把握しておくことで、断線に至るまでのおよその移動回数を予測することができる。例えば、ある特定の電圧を閾値とし、初めてその閾値を上回る(超える)電圧降下が発生した時点での可動部18の移動回数(ケーブル26の屈曲回数)をカウントしておくことで、導体26bが断線に至るまでの可動部18の移動回数を予測することができる。
【0061】
本第1実施形態では、ケーブルB,Cにおける、閾値を上回る電圧降下が発生した時点(予兆開始信号)から導体26bが断線に至るまでの、可動部18の移動回数と電圧降下値とを対応付けたデータデーブルを予兆判定部14のメモリ14bに記憶させている。
【0062】
これにより、電圧変動検知部11にて検知した電圧から、導体26bが断線に至るまでの可動部18の移動回数(ケーブル26の屈曲回数)を割り出すことが可能となる。例えば、図4(a)のケーブルBにおいて、閾値を12Vとした場合、初めて電圧降下値が12V以上を検知したときの移動回数は約10000回である。ケーブル26の導体26bが断線するのが約30000回であり、初めて電圧降下値が12V以上を検知したときの移動回数の約3倍の移動回数を要することがわかる。
【0063】
次に、図4(b)は、可動部18の移動回数に対する電圧降下時間(パルス幅)を示したものである。縦軸は、電圧降下時間であり、横軸は、図4(a)と同様に、ケーブル26の断線予兆を示す予兆信号が初めて取得されてからの可動部18の移動回数(ケーブル26の屈曲回数)である。可動部18の移動回数が増加すると電圧降下時間も増加する傾向にある。図4(b)では、ケーブルB,Cについての実験結果を示している。
【0064】
導体26bの電圧降下値が12Vを上回った(超えた)場合の時点を初期値とした時、初期値から電圧降下時間を測定し、閾値20msecとなった時の移動回数d,eについて測定した。その結果、ケーブルBでは移動回数dは約10000回程度、ケーブルCでは移動回数eは30000回程度となった。
【0065】
ケーブルB,Cの実験結果から、ケーブル26の導体26bが断線に至るまでの傾向(電圧降下時間)が、ケーブル26の種類に応じて異なることが判明した。したがって、本第1実施形態では、電圧降下時間と導体26bが断線に至るまでの屈曲回数とを対応付けたデータテーブルは、移動装置50に使用されるケーブル26の種類に対応するものが用いられる。
【0066】
つまり、予め使用するケーブルが判っていれば、そのケーブルの種類に対応するデータテーブルをメモリ14bに記憶させておけばよい。予兆判定部14は、このデータテーブルを用いることで、測定した電圧降下時間に対する断線に至るまでの屈曲回数を予測することが可能となる。
【0067】
なお、電圧降下時間の閾値を20msecとした理由は、電圧降下時間と電圧降下値との関係から、20msecの電圧降下時間での電圧降下値は20〜24Vに達しており、導体26bがほぼ断線状態であることが実験で判ったからである。また、断線の初期時での電圧降下時間はμsecオーダであり高周波のサンプリング回路を必要とされるためである。但し、電圧降下時間の閾値は、上記の設定に限ったものでもなく任意に設定してもよい。以上、メモリ14bに記憶されたテーブルデータに基いて導体26bが断線に至るまでの屈曲回数を求めるようにしたので、断線予兆の精度が向上する。
【0068】
次に、断線位置検知部16の動作について、詳細に説明する。断線位置検知部16は、エンコーダ21が出力するエンコーダ信号により、可動部18の基準位置に対する移動位置を特定し、閾値を上回った測定値を測定したときの可動部18の移動位置により導体26bの断線位置を特定する(断線位置検知工程)。この測定値とは、電圧降下値又は電圧降下時間である。
【0069】
次に、図5に示すタイミングチャートを参照しながら説明する。可動部18がモータ20によってステージ25上を所定の位置に位置決めする際に、まず基準位置である原点位置(不図示)に移動し、初期位置を確定する動作を行う。原点位置では、その位置に可動部18がいることを検出するためのポジションセンサが設けられており、センサ信号を確認することで初期化動作が完了する。
【0070】
原点位置での位置信号が検出されたことを確認し、所定の位置決め動作を行うためにモータ20によって駆動が行われる。エンコーダ信号は可動部18が移動した移動量に応じて出力値がカウントアップされる。
【0071】
初期位置での位置信号とエンコーダ信号は、図1に示すドライバー22を通して断線位置検知部16に出力される。断線位置検知部16は、入力した位置信号とエンコーダ信号を基に、原点位置に対する可動部18の現在の移動位置を特定する。位置信号が入力された時点でエンコーダ信号のカウント値のリセットを行う。
【0072】
予兆判定部14は、測定値(電圧降下値又は電圧降下時間)が閾値を上回っていると判断したときには、ケーブル26の導体26bの断線予兆を検知したことを示す予兆信号を断線位置検知部16に出力する。
【0073】
断線位置検知部16は、予兆信号をトリガとしてエンコーダ21によるカウント値を内部回路においてラッチする。このエンコーダ21のカウント値(又はエンコーダ信号の時間)Lは、可動部18の移動位置に対応する。ラッチされた値はエンコーダ信号のL値を実際のステージ25上の位置に変換した値とし、可動部18がステージ25上のどの位置にいるかを示している。
【0074】
また、導体26bの断線は、ケーブル26の屈曲部26Aに発生することが予め確認されていることから、ステージ25上における可動部18の位置と、可動部18から屈曲部26Aまでのケーブル長の関係が判っていれば、断線位置の大まかな特定は可能である。
【0075】
従って、本第1実施形態では、予め可動部18の移動位置に対するケーブル26における屈曲部26Aの位置を測定しておき、断線位置検知部16のメモリに記憶させてある。そして、断線位置検知部16は、予兆信号を入力したときの可動部18の移動位置からケーブル26における断線位置を特定する。これにより、本第1実施形態では、図5のL値を基に断線位置検知部16によって断線位置の特定を行うことができる。
【0076】
以上第1実施形態では、断線予兆を、ケーブルの導体の抵抗変化を電圧降下値と電圧降下時間の測定で、屈曲の周期との関連性を特に考慮することなく可能にした。それは、例えば一回の測定からでも、断線に至る予兆を検知することが可能である。これらは、移動するケーブル条件、例えばロボットなどの往復直線運動や往復回転運動を行い、捩れを発生する機構等に対応して最も適した予兆手段を提供することが可能となった。
【0077】
更に、往復直線運動を行う場合には、エンコーダ信号等を取り込んで、断線が発生しているおよその位置を特定できる。従って、ケーブルが中継のコネクタで結合されている場合に、特定された位置に対応するハーネス部分のみを実装交換することで、必要最低限の工数で済むという効果を奏する。
【0078】
本実施例の適用としては、生産工程に必要な装置に限らず、電子機器の製品(移動を伴う機構を搭載したプリンターや、スキャナーなど)の適用にも可能とされる。
【0079】
なお、図3に示した断線予兆の判断のフローチャートにおいて、電圧降下値及び電圧降下時間で判断する場合について説明したが、これに限らず、電圧降下値及び電圧降下時間のいずれか一方の測定値を用いて判断するようにしてもよい。
【0080】
前述のようなケーブルベアを使って屈曲するケーブル26の場合においては、電圧降下値で判定を行う方が、初期時の電圧降下時間が短いための予兆精度が良いと判断される。したがって、図3に示すステップS3,S4の処理は、省略してもよい。
【0081】
以上の断線予兆検知方法においては、移動する条件に応じて、判断方法を選択することや、判断基準を電圧降下値や電圧降下時間において任意の閾値を設けて行う方法を用いてもよい。
【0082】
[第2実施形態]
次に、本発明の第2実施形態に係る断線予兆検知装置による断線予兆検知方法について説明する。なお、断線予兆検知装置の構成は上記第1実施形態の断線予兆検知装置と同一であるが、検知対象が異なる。図6は、本発明の第2実施形態に係る断線予兆検知装置を備えた回転装置50Aを説明するための図である。なお、上記第1実施形態と同様の構成については、同様の符号を付してある。
【0083】
本第2実施形態では、図6(a)に示す回転装置50Aを検知対象とするものであり、この回転装置50Aは、固定部19Aと、固定部19Aに対して回転移動する可動部としての回転部18Aと、を備えている。つまり、固定部19Aと回転部18Aとは、同一の軸上に配置されており、回転部18Aは、軸28を回転中心として回転駆動される。なお、固定部19Aには、駆動部としてのモータ20Aが内蔵されており、モータ20Aの可動子である回転子に軸28が固定されている。
【0084】
固定部19Aと回転部18Aとの間には、上記第1実施形態と同様のケーブル26が接続されており、固定部19Aに対して回転部18Aが往復回転移動することにより、ケーブル26は、捩れ動作と復帰動作とを繰り返す繰り返し動作をする。
【0085】
ここで、復帰動作とは、ケーブル26の捩れが解消する動作である。例えば、回転部18Aが初期位置P0から回転位置P1に回転移動した場合、ケーブル26は捩れ動作となり、回転部18Aが回転位置P1から初期位置P0に回転移動した場合、ケーブル26は復帰動作となる。回転部18Aがこの回転動作を繰り返すことにより、ケーブル26は、捩れ動作と復帰動作とを繰り返すこととなる。そして、この繰り返し動作中に、ケーブル26の導体26bでは、図6(b)に示すように、基準電位Voから電圧降下時間t3に電圧降下値V3の電圧降下が発生する。
【0086】
本第2実施形態では、上記第1実施形態と同様に、断線予兆検知装置10を図3に示すフローチャートに従って動作させ、断線予兆検知を行ってもよいが、図3に示すステップS2,S4を省略してもよい。
【0087】
つまり、ケーブル26が捩れ動作をする場合には、出力電圧が僅かであっても、電圧降下時間が数msec〜数百msecに至る場合がある。このような場合には、断線予兆検知方法としては、電圧降下時間による判断がふさわしい。
【0088】
理由としては、電圧降下時間が長いことから、時間の検知がしやすくなるためと、初期時の電圧降下値がわずかであっても、ケーブル26の捩れによる内部断線が急速に進行する可能性があるためである。
【0089】
なお、本第2実施形態では、図3に示すステップS6において、屈曲回数を測定値から予測する代わりに、捩れ回数を測定値から予測する。つまり、予兆判定部14は、測定値(電圧降下値又は電圧降下時間)が測定された時点を基準とする導体26bが断線に至るまでの捩れ回数を、測定値から予測する。具体的には、予兆判定部14のCPU14aが予めメモリ14bに記憶されたテーブルデータを参照して、測定値(電圧降下値又は電圧降下時間)に対応する捩れ回数を求める。
【0090】
次いで、ステップS7において、予兆判定部14は、導体26bの断線の予兆を検知したことを示す検知情報を表示部15に表示させると共に、表示部15に捩れ回数を表示させる。以上の動作により、本第2実施形態では、上記第1実施形態と同様に、導体26bの断線予兆精度が向上する。
【0091】
以上の断線予兆検知方法においては、移動する条件に応じて、判断方法を選択することや、判断基準を電圧降下値や電圧降下時間において任意の閾値を設けて行う方法を用いてもよい。
【0092】
[第3実施形態]
次に、本発明の第3実施形態に係る断線予兆検知装置による断線予兆検知方法について説明する。断線予兆検知装置の構成は上記第1実施形態の断線予兆検知装置と略同一である。図7は、本発明の第3実施形態に係る断線予兆検知装置を備えた移動装置の概略構成を示すブロック図である。なお、上記第1実施形態と同様の構成については、同一符号を付して説明を省略する。上記第1、第2実施形態では、ケーブルが電源ラインの場合について説明したが、本第3実施形態では、ケーブルが信号ラインの場合について説明する。
【0093】
本第3実施形態の移動装置50Bは、可動部18が固定部19(ステージ25)に対する基準位置を通過するのを検知するセンサ29を備えている。このセンサ29は、例えば近接センサである。このセンサ29の検出対象である検出対象物30は、金属等の検出体として構成されており、可動部18の移動によりセンサ29が検出対象物30に接近するとセンサ29がON状態を示すセンサ信号を出力する。
【0094】
図8は、ケーブルの接続状態を示す説明図である。なお、可動部18及び固定部19は図示を省略している。可動部18と固定部19との間は、電源ラインを示すケーブル26と、信号ラインを示すケーブル26と、GNDラインを示すケーブル26とで接続されている。具体的には可動部18に固定されたセンサ29と断線予兆検知装置10とがケーブル26と、ケーブル26と、ケーブル26とで接続されている。信号ラインを示すケーブル26には、センサ信号が伝送されるように構成されている。
【0095】
センサ29のSW主回路29aは、多くは出力段の回路がいわゆるオープンコレクタタイプが採用されている。センサ29は、検出対象物30を検知したとき、SW主回路29aが動作して出力段であるトランジスタ29bがONすることで、信号ラインであるケーブル26の導体の電位が変化し、外部の負荷を駆動する方式をとる。なお、センサ29は、近接センサに限定するものではなく、他の方式(リミットスイッチやフォトスイッチ)によるものでもよい。
【0096】
図9は、センサ29を使用した場合に検出抵抗器17で検知される電圧の状態を示した図である。センサ信号の状態を判りやすくするために、センサONとセンサOFFとで状態を区別した。実際の電圧レベルで見た場合には、センサ29がON状態ではセンサ信号は+24Vのハイレベル、センサ29がOFF状態ではセンサ信号は0VのGNDレベル(ローレベル)である。また、センサ信号は、断線予兆検知装置10の電圧変動検知部11及び変動時間検知部12で検知される。
【0097】
本第3実施形態では、センサ信号がハイレベルのときのみ、断線予兆の検知が可能となる。つまり、センサ信号がローレベルの時と、ケーブル26の導体の断線による信号の電圧降下値は同じ電位となるため、センサ29がOFF時の断線予兆は実質的にセンサ動作中では不可能である。従って、センサ信号による断線予兆は、センサ29がON状態の時のみ実施する。
【0098】
また、図7に示す電圧変動検知部11は、センサ信号がハイレベルの時のみにセンサ信号の電圧レベルを検知する。具体的には、センサ信号がハイレベルであることを捕らえた後、ON時のみをゲート信号として、センサ信号をAD変換する方法を用いている。この方法を用いた結果、図9では、信号ラインであるケーブル26の導体で発生する電圧降下値を、センサ信号がハイレベルのときに、状態1から状態2の変化として捉えることができる。
【0099】
また、上記第1実施形態と同様に、ケーブル26の導体における素線の断線が初期状態ではケーブル26の電気抵抗値による電圧降下値V1及び電圧降下時間t1が小さい。その後、ケーブル26の繰り返し屈曲回数(又は捩れ回数)が増加するに連れてケーブル26の素線の断線状態が進行していくと、状態2のように電圧降下値V1よりも大きい電圧降下値V2へと増加する。また、電圧降下時間t1よりも長い電圧降下時間t2に広がっていくことが確認できる。
【0100】
したがって、本第3実施形態では、センサ信号による断線予兆検知方法については、上記第1実施形態の図3に示すフローチャートと略同様である。そして、図3に示すステップS2では、センサ信号の電圧レベルがハイレベルの期間でケーブル26の導体が通電状態となっているときに電圧降下値を測定する。ステップS3では、センサ信号の電圧レベルがハイレベルの期間でケーブル26の導体が通電状態となっているときに電圧降下時間を測定する。
【0101】
また、本第3実施形態では、センサ29がON状態の時に電圧降下値と電圧降下時間がセンサ信号内で発生した位置を特定していることから、センサ検知時に見られるチャタリング現象(センサON・OFF時にON、OFFを繰り返す誤動作)の区別をしている。即ち、センサONまたはOFF時の近傍で且つ、振動する信号の周波数成分がある値より高い場合にはセンサのチャタリングと判断する。
【0102】
周波数の設定はセンサ29の感度や、センサ29の構成によって異なるためその都度変更する必要があるが、断線時での検出抵抗器17からの予兆信号の周波数成分が低いため、本第3実施形態においては数kHz程度の閾値とした。
【0103】
本第3実施形態における電圧変動検知部11は、図10(a)に示すように、複数のコンパレータ31a,31b,31cを有しており、各コンパレータ31a,31b,31cは、それぞれ異なる基準電位となる電圧ライン32,33,34に接続されている。なお、接続点35は、予兆検知をしたいケーブル26を接続する接続点である。
【0104】
コンパレータ31a,31b,31cは電圧ライン32,33,34に設定された基準電位と、検出抵抗器17からの予兆信号と比較し、結果を出力する比較器である。これらコンパレータ31a,31b,31cにより、ケーブル26の導体の電圧変化を閾値検出することが可能となる。
【0105】
各電圧ライン32,33,34の基準電位は、便宜上highレベル、middleレベル、lowレベルと表記する。これら基準電位は、接続されるケーブル26の印加電圧の最小から最大電圧の幅の1/3〜1/8の値を境界として使うとよい。
【0106】
例えば、電圧幅が5Vであった場合、5×1/3,5×1/8=1.7,0.63となり、基準電位はそれぞれhigh=3.3〜4.38V,middle=0.64〜3.4V,low=0.63〜1.67Vに設定される。また、電圧幅が24Vであった場合、基準電位はそれぞれhigh=16.0〜21.0V,middle=3.0〜16.0V,low=3.0〜8.0Vに設定される。
【0107】
なお、これら基準電圧は、ケーブル26に重畳するノイズレベルで設定される。ケーブル26への印加電圧の最小値、最大値に基準電圧が近いほど、事前に断線予兆を検出できる可能性が高くなるが、誤検知の可能性も高くなる。
【0108】
予兆判定部14は、各コンパレータ31a,31b,31cから出力された結果を用いて、断線予兆を判定する。つまり、予兆判定部14は、各コンパレータ31a,31b,31cからの閾値出力信号を基に、ケーブルベア内のケーブル26の断線状態がどれくらいの期間おきているか検知するための回路が構成されている。
【0109】
例えば各コンパレータ31a,31b,31cからの出力信号を内部クロック信号にて、ラッチもしくは一次的なメモリにストアし、次に取り込まれたデータをメモリ内のデータとで比較を行う。比較する周期は内部クロック毎に行い、比較データが連続している場合には、その時間の内部クロック数をカウントすることで閾値出力時間の検知を行う。
【0110】
なお、検出の分解能は、サンプリング周期の設定いかんにより任意に設定が可能である。閾値出力時間の周期を計測する理由は、実装されたケーブル26での屈曲等によって現れる予兆信号が、図9の状態1,状態2のように現れるからである。
【0111】
図9の状態1,状態2は、0V付近を中心とした振幅とはならず、ノイズとは異なる。また、センサ29がOFFしたときの電位である0Vとも異なる。電圧降下値V1,V2は、接触抵抗と考えられる抵抗成分を介した電圧値であり、微少な時間幅数μから数百mSecだけ現れる。この電圧降下値V1,V2と電圧降下時間t1,t2は、断線の進行とともに大きく、長くなる。この実施データを基に、図3に示すステップS3,S5における断線予兆判定を行うアルゴリズムが図11である。
【0112】
断線予兆検知装置10の電源が投入された場合、図11に示すように、起動から開始し、予兆判定部14は、1μSecの波形を作成し、その波形の立ち上がり状態で検知処理に移行する(S11)。ここで、予兆判定部14は、起動以降の処理遅延を含んだ中で1μSec毎にループを行う。次に、検知処理のループに移行した予兆判定部14は、入力電圧レベルを規定した電圧変動検知部11からの結果を読み取る(S12)。
【0113】
予兆判定部14は、その読み取った結果が測定開始ON状態の条件を満たしていれば、開始状態ONのステータスとなる(S13)。ここで、予兆判定部14は、ステップS13では、電圧変動検知部11からの入力電圧レベルが、Lowレベルのみ、Highレベルのみの判定では開始状態ではなく、ENDとなり、最初のステップS11に戻る。また、予兆判定部14は、LOWレベル−Midleレベルの判定有りとMidleレベル−Highレベルの判定有りの場合は、測定開始ON状態の条件を満たしていると判断し、開始状態ONのステータスとなる。
【0114】
次に、予兆判定部14は、測定範囲値を更新し(S14)、測定値オーバーの場合、内部カウンタの値をリセットし(S15)、ENDに戻る。予兆判定部14は、測定開始ON状態が前回の1μSec処理から続いていた場合(更新状態という)、判断状態ONとして更新状態にし(S16,S17)ENDに戻る。このとき、予兆判定部14は、内部カウンタの値に1を足して更新し、100を超えた場合(すなわち、100μSecとなった場合)、判断状態ONオーバーとなる。
【0115】
そして、予兆判定部14は、判断状態回数に1を足して更新する(S18)。ここで、予兆判定部14は、内部カウンタが3を超えると断線判定を出力し(S19)、ENDに戻る。予兆判定部14は、測定範囲値更新が更新状態OFFの場合(前回は更新状態だったが今回は更新条件に当てはまらなかった場合)、判断状態をOFFに更新し(S20)、ENDに戻る。予兆判定部14は、この値も1足して更新しており、30を超えると判断状態OFFオーバーで内部カウンタをリセット処理実行し(S21)、ENDに戻る。
【0116】
つまり、予兆判定部14は、1μSecごとに処理を行うようにし、コンパレータ31a,31b,31cの出力結果レベルから、測定開始ON状態、ケーブル電圧がlow、middle、highレベルかを判断する。そして、予兆判定部14は、測定すべき範囲値であれば、1μSecごとにカウントを増加更新し、そうでなければリセットを行う。このカウンタ値が設定の値を超えた場合(本第3実施形態では、100μSec=100カウントに設定した)、判断状態回数をカウントアップさせる。
【0117】
予兆判定部14は、この判断状態回数が設定値を超えた場合(本第3実施形態では3カウントに設定)、断線の予兆と判断し、表示部15に断線予兆検知と表示させる。予兆判定部14には、実施データを基に導き出された図11に示す予兆判定のアルゴリズムが実装されている。なお、上記アルゴリズムはCPU内のプログラムで作成しても良いし、FPGAのロジック回路で記述しても良い。
【0118】
ケーブルや可動部の状況によって異なるが、上記設定で断線予兆が初めて取得された移動回数は、約40,000回を超え、それが断線(I/O制御部の誤動作)に至るまでの移動回数は約50,000回となった。また別のケーブルでは、断線予兆検知が約15,000回、断線までの移動回数が約20,000回となった。上記の設定では、断線(I/O制御部が誤動作)に至るまでの回数(時間)があり、事前にケーブルの交換の予定立てを行うことが可能である。
【0119】
なお、図9の中での予兆波形から予兆判定部14の基準電圧を高い電圧にし、変動している時間幅を長く設定すると、予兆検知から断線(I/O制御部の誤動作)に至るまでの回数(時間)を短くできる。つまり、ケーブル26の屈曲回数の増加に伴う予兆信号の変化で、屈曲回数が増えると状態1から状態2に電圧降下と電圧降下時間が増える。この関係を利用して、断線に至るまでの猶予時間(閾値)を調整することができる。
【0120】
したがって、電圧降下値の閾値を小さく、電圧降下時間の閾値を短くすれば、断線の初期の頃に予兆を捕らえることができ、断線までの回数(時間)を長く取ることができる。また、電圧降下値の閾値を大きく、電圧降下時間の閾値を長くすれば、断線の直前まで予兆の検知をせず、断線までの回数(時間)を短くできる。
【0121】
以上本第3実施形態では、ケーブル26の内部断線による断線の予兆を、ケーブル262の電圧降下値として検知し、電圧降下時間から判断する方法を用いている。これにより、ケーブル262の屈曲の周期との関連性を特に考慮することなく、例えば一回の予兆信号からでも、断線に至る予兆を検知することが可能となる。
【0122】
なお、図10(a)に示した複数のコンパレータ31a,31b,31cに替えて、図10(b)のA/Dコンバータ40を使用することもできる。図10(b)中の接続点37は、予兆検知をしたいケーブルを接続する接続点、保護ダイオード38は、A/Dコンバータ40に接続される前段にあるインピーダンス変換回路39の保護のためにある。これら保護ダイオード38やインピーダンス変換回路39は、使用するA/Dコンバータ40の性能規格値によっては必要ない。A/Dコンバータ40の変換結果は、予兆判定部14へ出力される。
【0123】
図10(b)のA/Dコンバータ40を使用した場合、予兆判定の電圧レベルはデジタル値として設定し、A/D変換後のデジタル値を閾値として、演算によって判定を行うようになっている。なお、この閾値は上記第1実施形態の設定値と同様である。この場合、閾値はアルゴリズム内で自由に設定できるようになり、基準電位の回路での設計よりも簡便に設定値を変更できる。
【0124】
また、断線予兆検知を判定した後、予兆判定部14は、表示部15に判定結果の出力を行うだけでなく、図12に示すように、制御コントローラへ接続される絶縁回路45を駆動し、制御コントローラへ予兆判定の結果を伝達する。なお、図12の場合、例としてフォトカプラを用いたが、絶縁トランスを用いて信号伝達しても良いし、伝達する信号を符号化し多数のケーブルでの予兆判定結果をまとめて伝達しても良い。
【0125】
このような形態とすることで、ケーブル26の内部断線による断線の予兆を、コントローラの種類や、被制御対象物の駆動電圧、供給電源の種類等の差異に関係なく、接続することが可能となる。このとき、制御コントローラは制御対象物への接続ケーブルの異常を断線に至る前に検知することが可能で、ケーブル26が原因の信号異常から来る動作異常も未然に防ぐことが可能となる。
【0126】
また、断線予兆検知をするためには、電圧変動検知部11と対象とする断線予兆検知されるケーブルとは、電気的に接続をされていないと、断線予兆を示す信号を監視することができない。図13(a)は絶縁されたケーブル26を断線予兆検知する回路である。フォトカプラ46は図13(b)の様な電圧変換性能を持ち、検知対象とするケーブル26からの入力電圧に対して、あるオフセットを持った非線形の信号を出力する。
【0127】
図13(b)のような変換性能を持つフォトカプラに対しては、図13(a)のコンパレータ31a,31b,31cのそれぞれ異なる基準電位を0.8〜1.1V,1.0〜3.2V,3.0〜4.3Vと設定した。
【0128】
図13(a)のように、フォトカプラ46の入力電圧−出力電圧変換性能を利用し、ケーブル26の内部断線による断線予兆を、被制御対象物の駆動電圧、供給電源の種類等の差異に関係なく、フォトカプラの絶縁能力と変換性能から断線予兆検知が可能となる。このとき、I/O制御コントローラは制御対象物への接続ケーブルの異常を断線に至る前に検知することが可能で、ケーブルが原因の信号異常から来る動作異常も未然に防ぐことが可能となる。
【0129】
[第4実施形態]
次に、本発明の第4実施形態に係る断線予兆検知装置による断線予兆検知方法について説明する。断線予兆検知装置の構成は上記第3実施形態の断線予兆検知装置と略同一であり、上記第3実施形態と同様の構成については、同一符号を付して説明を省略する。
【0130】
上記第1実施形態では、可動部と固定部との間に接続された検知対象のケーブルが、電源ON時での電源ラインを示すケーブルであり、上記第3実施形態では、検知対象のケーブルが、センサON時での信号ラインを示すケーブルである場合について説明した。本第4実施形態では、検知対象のケーブルが、GNDラインを示すケーブル、センサOFF時での信号ラインを示すケーブル、及び電源OFF時での電源ラインを示すケーブルである場合について説明する。
【0131】
即ち、本第4実施形態では、OFFライン時で各ケーブルの断線予兆を行うものである。ここでいうOFFラインとは、センサ信号系に電源が投入されない状態、つまり生産工程動作として開始前の状態を指す。なお、いずれのケーブルも、屈曲動作(又は捩れ動作)と復帰動作とを繰り返す。
【0132】
先ず、OFFライン時に断線予兆検知装置10内で電源ラインへの+24Vのセンサ電源に印加ラインを切り替えて、電源部27が、検査パルスとして、図14に示したようなパルス状の波形のパルス電圧を印加する(パルス電圧印加工程)。切り替えラインには、電源配線とは別にインピーダンス測定用の検出抵抗器17が設けられている。なお、切り替え部と検出抵抗器17は、例えば電圧変動検知部11内に構成されていてもよい。
【0133】
予兆判定部14は、電源ラインに印加された検査パルスと、それに対する電流の応答パルスの結果を判定する。判定は電流の応答パルスに対する時定数の変化として捉える。つまり、予兆判定部14は、パルス電圧をケーブルの導体に印加した際の応答パルスが立ち上がる時点から飽和する時点までの飽和時間を測定する(測定工程)。
【0134】
以下、具体的に説明すると、可動部18の初期時、すなわちケーブルの導体が断線なく正常の時には、電流の応答波形としては図14の実線で示す波形となり、時定数τ=τ1が得られる。
【0135】
ここで、電流の時定数の変化は、ケーブルの抵抗成分で決まる。具体的には、ケーブルの導体の電気抵抗値と検出抵抗器17の電気抵抗値との合成抵抗値Rと、ケーブルの導体のインダクタンス値と検出抵抗器17のインダクタンス値との合成インダクタンス値Lとで、LR直列回路が構成される。このLR直列回路の電流の時定数τはτ=L/Rで決定される。ケーブルの一部の素線に断線が発生した場合には、ケーブルの導体の電気抵抗値が増加(もしくはインダクタンスLの変化)が見られることから、電流の時定数の変化としては、時定数τは、τ1からτ2に短くなる。
【0136】
この時の時定数の変化により、パルス電圧をケーブルの導体に印加した際の応答パルスの電流値が立ち上がる時点から飽和する時点までの飽和時間Tが、T1からT2に短くなる。したがって、本第4実施形態では、予兆判定部14は電流値の飽和時間Tを測定する。この時の飽和時間Tは、およそ6τ位に設定するとよい。
【0137】
そして、予兆判定部14は、測定された飽和時間Tが閾値を下回ったか否かを判断する(判断工程)。次に、予兆判定部14は、飽和時間Tが閾値を下回ったと判断した場合に、報知手段としての表示部15に検知情報を表示(報知)させる(報知工程)。したがって、予兆判定部14は、予測手段、判断手段及び報知制御手段として機能する。
【0138】
以上、本第4実施形態によれば、ケーブルの繰り返しの曲げ動作や捩り動作により複数の素線からなる導体が断線する兆しを、直接ケーブルの電気抵抗値の変化に基づく飽和時間から検知しているので、断線予兆の精度が向上する。
【0139】
また、パルス状の波形のパルス電圧をケーブルの導体に印加し、ケーブルの導体の抵抗変化として、電流の時定数に関係する飽和時間Tを測定している。この測定した飽和時間Tを用いて断線の予兆を行うことで、ケーブルがOFFラインの場合でも予兆可能である。上記の方法は、センサの電源ライン以外にも信号ラインまたはGNDラインにも適用が可能である。いずれも生産工程のOFFラインでの測定となる。測定は移動回数が増加した場合の状況を見ながら、定期的もしくは点検時等に実施すればより効果的である。
【0140】
以上、本第4実施形態においては、可動部18上にセンサ29が設定された場合での予兆検知方法について述べた。上記の方法を行うことで、いままでセンサ信号がOFFの場合に断線信号との区別がつかなかった課題に対して予兆を行うことが可能である。これにより、センサ信号でのケーブル導体の断線に対しての長時間停止に対する対策を事前に施すことが可能となり、断線予兆を検知することで最低減の工数で対策を行うことが可能である。
【0141】
[第5実施形態]
次に、本発明の第5実施形態に係る断線予兆検知装置を備えた作業用ロボットについて説明する。図15は、作業用ロボットの全体を示す模式図である。なお、断線予兆検知装置10は、上記第1〜第4実施形態の断線予兆検知装置である。図15に示すように、作業用ロボット100はハンド104により把持等の作業を行うものである。その作業用ロボット100の多関節のアーム101の適所に断線予兆検知装置10が設けられている。
【0142】
アーム101の基端部は、アーム101の長さ方向の軸線と直交する軸線a1を中心にベース200に回転可能に固定されている。アーム101の先端部には、先端リンク102がアーム101の軸線と平行な軸線a2を中心に回転可能に固定されている。先端リンク102には、ハンド104がアーム101の軸線と直交する軸線a3を中心に回転可能に固定されている。
【0143】
従って、作業用ロボット100の回転動作としては、アーム101が矢印ω方向に軸線a1を中心に回転する動作と、先端リンク102が矢印θ方向に軸線a2を中心に回転する動作と、ハンド104が矢印φ方向に軸線a3を中心に回転する動作に分類できる。
【0144】
ハンド104と断線予兆検知装置10との間に二次側ケーブル107が接続され、アーム101とは別途に設置されているコントローラ105と断線予兆検知装置10との間に一次側ケーブル106が接続されている。ハンド104は、ハンドモータ103により開閉動作が行われる。
【0145】
二次側ケーブル107は、いずれの回転軸の動作によっても、屈曲動作及び捩れ動作の負荷がかかっている。そのため、二次側ケーブル107はロボットケーブルを使用している。各ケーブル106,107は、複数の素線からなる導体を有している。
【0146】
本第5実施形態では、アーム101が固定部であるのに対して、先端リンク102が可動部であり、先端リンク102の回転移動により、ケーブル107には、捩れ動作が生じる。また、先端リンク102が固定部であるのに対して、ハンド104が移動部であり、ハンド104の揺動移動により、ケーブル107には、屈曲動作が生じる。断線予兆検知装置10は、上記第1〜第4実施形態で示したものと同等の機能を有しており、断線予兆の判定を表示部15(図1)で示すことが可能となる。
【0147】
ケーブル(ロボットケーブル)107の断線としては、特にθ軸の回転によるケーブルの捩れが発生する。アーム101を固定部とした時に、先端リンク102を可動部としての回転部とすると、図6に示した固定部と回転部を繋ぐケーブルへの回転による負荷とほぼ同じと判断される。従って、断線予兆検知装置10にて検出される電圧変動波形としては図6で示された波形と同じものが得られる。
【0148】
これらのことから、図6に示されたケーブルの断線の予兆を示す波形では、電圧降下値の変化よりも、電圧降下時間の変化が顕著である。以上より、断線予兆検知装置10では、変動時間検知部12を用いて、予兆判定部14によりケーブルの断線予兆を行うのがよい。
【0149】
なお、上記実施の形態に基づいて本発明を説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0150】
10 断線予兆検知装置
11 電圧変動検知部
12 変動時間検知部
14 予兆判定部
15 表示部
16 断線位置検知部
18 可動部
18A 回転部
19 固定部
19A 固定部
20 モータ
20A モータ
21 エンコーダ
26 ケーブル
26a 素線
26b 導体
27 電源部
29 センサ
100 作業用ロボット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の素線からなる導体を有するケーブルが駆動部の駆動により移動する可動部と固定部との間に接続され、前記固定部に対する前記可動部の移動により前記ケーブルの屈曲動作又は捩れ動作と復帰動作とを繰り返す繰り返し動作による前記導体の断線の予兆を検知する断線予兆検知方法において、
前記繰り返し動作中に通電状態の前記導体に生じる基準電位からの電圧降下の電圧降下値及び電圧降下時間の少なくとも一方の測定値を測定する測定工程と、
前記測定工程により測定された前記測定値が閾値を上回ったか否かを判断する判断工程と、
前記判断工程により前記測定値が前記閾値を上回ったと判断された場合に、前記導体の断線の予兆を検知したことを報知する報知工程と、を備えたことを特徴とする断線予兆検知方法。
【請求項2】
前記測定工程では、前記導体に定常電圧が印加されて前記導体が通電状態となっているときに前記測定値を測定することを特徴とする請求項1に記載の断線予兆検知方法。
【請求項3】
前記導体には、前記可動部が前記固定部に対する基準位置を通過するのを検知するセンサによりセンサ信号が伝送され、
前記測定工程では、前記センサ信号の電圧レベルがハイレベルの期間で前記導体が通電状態となっているときに前記測定値を測定することを特徴とする請求項1に記載の断線予兆検知方法。
【請求項4】
前記測定値が測定された時点を基準とする前記導体が断線に至るまでの屈曲回数又は捩れ回数を、前記測定値から予測する予測工程を備え、
前記報知工程では、前記導体の断線の予兆を検知したことを報知する際に、前記屈曲回数又は前記捩れ回数を報知することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の断線予兆検知方法。
【請求項5】
前記駆動部が、エンコーダにより位置が検知される可動子を有するモータであり、
前記エンコーダが出力するエンコーダ信号により、前記可動部の基準位置に対する移動位置を特定し、前記閾値を上回った前記測定値を測定したときの前記可動部の移動位置により前記導体の断線位置を特定する断線位置検知工程を備えたことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の断線予兆検知方法。
【請求項6】
複数の素線からなる導体を有するケーブルが駆動部の駆動により移動する可動部と固定部との間に接続され、前記固定部に対する前記可動部の移動により前記ケーブルの屈曲動作又は捩れ動作と復帰動作とを繰り返す繰り返し動作による前記導体の断線の予兆を検知する断線予兆検知方法において、
前記導体にパルス電圧を印加するパルス電圧印加工程と、
前記パルス電圧を前記導体に印加した際の応答パルスが立ち上がる時点から飽和する時点までの飽和時間を測定する測定工程と、
前記測定工程により測定された前記飽和時間が閾値を下回ったか否かを判断する判断工程と、
前記判断工程により前記飽和時間が前記閾値を下回ったと判断された場合に、前記導体の断線の予兆を検知したことを報知する報知工程と、を備えたことを特徴とする断線予兆検知方法。
【請求項7】
複数の素線からなる導体を有するケーブルが駆動部の駆動により移動する可動部と固定部との間に接続され、前記固定部に対する前記可動部の移動により前記ケーブルの屈曲動作又は捩れ動作と復帰動作とを繰り返す繰り返し動作による前記導体の断線の予兆を検知する断線予兆検知装置において、
前記繰り返し動作中に通電状態の前記導体に生じる基準電位からの電圧降下の電圧降下値及び電圧降下時間の少なくとも一方の測定値を測定する測定手段と、
前記測定手段により測定された前記測定値が閾値を上回ったか否かを判断する判断手段と、
前記導体の断線の予兆を検知したことを示す検知情報を報知する報知手段と、
前記判断手段により前記測定値が前記閾値を上回ったと判断された場合に、前記報知手段に前記検知情報を報知させる報知制御手段と、
を備えたことを特徴とする断線予兆検知装置。
【請求項8】
前記測定手段は、前記導体に定常電圧が印加されて前記導体が通電状態となっているときに前記測定値を測定することを特徴とする請求項7に記載の断線予兆検知装置。
【請求項9】
前記導体には、前記可動部が前記固定部に対する基準位置を通過するのを検知するセンサによりセンサ信号が伝送され、
前記測定手段は、前記センサ信号の電圧レベルがハイレベルの期間で前記導体が通電状態となっているときに前記測定値を測定することを特徴とする請求項7に記載の断線予兆検知装置。
【請求項10】
前記測定値が測定された時点を基準とする前記導体が断線に至るまでの屈曲回数又は捩れ回数を、前記測定値から予測する予測手段を備え、
前記報知制御手段は、前記報知手段に前記検知情報を報知させる際に、前記屈曲回数又は前記捩れ回数を報知させることを特徴とする請求項7乃至9のいずれか1項に記載の断線予兆検知装置。
【請求項11】
前記駆動部が、エンコーダにより位置が検知される可動子を有するモータであり、
前記エンコーダが出力するエンコーダ信号により、前記可動部の基準位置に対する移動位置を特定し、前記閾値を上回った前記測定値を測定したときの前記可動部の移動位置により前記導体の断線位置を特定する断線位置検知手段を備えたことを特徴とする請求項7乃至10のいずれか1項に記載の断線予兆検知装置。
【請求項12】
複数の素線からなる導体を有するケーブルが駆動部の駆動により移動する可動部と固定部との間に接続され、前記固定部に対する前記可動部の移動により前記ケーブルの屈曲動作又は捩れ動作と復帰動作とを繰り返す繰り返し動作による前記導体の断線の予兆を検知する断線予兆検知装置において、
前記導体にパルス電圧を印加する電源部と、
前記パルス電圧を前記導体に印加した際の応答パルスが立ち上がる時点から飽和する時点までの飽和時間を測定する測定手段と、
前記測定手段により測定された前記飽和時間が閾値を下回ったか否かを判断する判断手段と、
前記導体の断線の予兆を検知したことを示す検知情報を報知する報知手段と、
前記判断手段により前記飽和時間が前記閾値を下回ったと判断された場合に、前記報知手段に前記検知情報を報知させる報知制御手段と、を備えたことを特徴とする断線予兆検知装置。
【請求項13】
固定部と、前記固定部に対して移動する可動部と、複数の素線からなる導体を有し、前記固定部と前記可動部との間に接続されるケーブルと、前記ケーブルの屈曲動作又は捩れ動作と復帰動作との繰り返しによる前記導体の断線の予兆を検知する請求項7乃至12のいずれか1項に記載の断線予兆検知装置と、を備えたことを特徴とする作業用ロボット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2012−68171(P2012−68171A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−214394(P2010−214394)
【出願日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.ケーブルベア
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】