説明

新規なパン用玄米粉製造方法及び該方法で製造された玄米粉

【課題】本願発明は、製パン原料として、玄米全粒粉を用いた玄米粉の製造方法及び製パン用の玄米粉を提供することを第1の課題とする。
【解決手段】玄米を12時間以上水に浸漬後、渦流式粉砕装置(スーパーパウダーミル)により製粉することにより、充分膨らんで、焼き上がりがふわっとしたパンを製造できる、パン用玄米粉の製造方法及び該方法で製造された玄米粉を提供する

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、米粉の製造方法の技術分野に関する。より具体的には、本願発明は、パンの製造に使用することができる玄米粉の製造方法の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
米は日本における唯一の自給可能な穀物資源であるが、その消費量は減少の一途をたどっており、需要増加に結びつく用途開発が強く求められている。食料自給率向上を目指した米粉利用(特に米粉パン)において、高い栄養価とコスト削減の観点から、玄米全粒粉の利用が望まれている。これまでも玄米を用いた食パンは、小規模なパン屋の一部で販売されているが、そのほとんどは炊飯玄米(炊飯発芽玄米)を粒としてコムギパンに混ぜ込むという形が主流であった。
【0003】
又、米をパンの製造に利用するための技術としては、例えば、酵素処理することにより調製されたパン生地用米粉(特許文献1)、米粉にグルテンを添加し更にマルトースを加えたパン用のもち米パン粉(特許文献2)、玄米、精白米又は発芽米等の原料米にトレハロース又はマルチトールを浸透させ、部分乾燥により水分含量を調整して粉砕した平均粒径が特定された製パン用の米粉(特許文献3)、精白米を洗米及び水漬けなどの加水操作を行なって調製した浸漬米をロール製粉機で粗粉砕した後、さらに気流粉砕機で微粉砕する米粉(特許文献4)などが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公平7-59173号
【特許文献2】特開20009−22306号
【特許文献3】再表2004/047561号
【特許文献4】特開平04-063555号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、玄米粉のパンへの利用も広がりつつあり、小麦粉とのミックス粉として市販品も見られる。
【0006】
しかしながら、ピンミルや胴搗き式の粉砕方法で玄米を粉砕すると、どうしても米糠油等で粉砕機への粉残り等が生じることが問題となっている。また、玄米粉での製パンは十分な膨らみが得られないという問題があった。
【0007】
これまでの、粒として玄米あるいは発芽玄米をパン生地に混ぜる方法では、加える玄米量が多いとパンとしての形状や食感・風味が低下する傾向があり、添加量が制限されてしまうという問題があった。一方で、これまでのピンミル等で調製した玄米全粒粉では、十分なパンの膨らみが得られないため、やはり米粉の添加量が制限されてしまうという問題もあった。
【0008】
そこで、本願発明は、製パン原料として、玄米全粒粉を用いた玄米粉の製造方法及び製パン用の玄米粉を提供することを第1の課題とする。
【0009】
更に、本願発明は、効率的な、簡単な製造工程による、製パン用の玄米粉の製造方法及び該製造方法で製造された玄米粉を提供することを第2の課題とする。
【0010】
また、本願発明は、焼成したときに充分膨らんだパンを製造できる、玄米粉及び該玄米粉の製造方法を提供することを第3の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、吸水処理時間を調整した玄米を、気流式製粉機を用いた粉砕方法により製粉するという、これまでにない簡易な手段によって、玄米からパン製造用の玄米全粒粉を製造する方法を提供するものである。
【0012】
より具体的には、本願発明は、玄米を12時間以上水に浸漬後、渦流式粉砕装置(スーパーパウダーミル)により製粉することにより、充分膨らんで、焼き上がりがふわっとしたパンを製造できる、パン用玄米粉の製造方法及び該方法で製造された玄米粉を提供するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、これまでの湿式製粉方法とは異なり、吸水の際に他の成分を添加することなく損傷度の低い玄米全粒粉が得られることから、製粉コスト削減につながる。さらに精米の省略によって、精米コスト削減のみならず歩留まりの向上が可能となり、これまでの白米粉に比べて、低コストを実現する。また、本願発明の方法は、添加剤も、2段階粉砕等も必要なく、簡素化できるにもかかわらず、粉砕機への粉残りも少なく玄米の効率的な粉砕が可能となるという優れた効果も奏する。これまでに加工特性に優れた粉質米が育成されてきているが、難精米性が問題であったが、本発明によって、玄米としての利用が可能となれば、粉質米の加工利用にも大きく貢献する。
【0014】
また、本発明では、吸水処理による玄米全粒粉を用いて製パンを行うため、GABA(γ−アミノ酪酸)やβ−グルカンといった機能性成分を含むと考えられる。
【0015】
さらに、玄米全粒粉を用いて製造したパンには、玄米特有の「甘み」のある食味と「しっとり」とした食感があり、従来のパンや白米パンよりも優れたパンである。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】吸水による玄米粉パンの膨らみを示す写真である。2枚の写真中それぞれ左側のパンはコントロール(2時間吸水)で製造したパンで、右側のパンは60時間吸水したパンである。左側の写真中矢印は釜伸び(ブレーキング)を示し、右側の写真に断面を示し、合わせて比容積を示した。
【図2】吸水時間による膨らみの経時的変化を示す写真である。
【図3】玄米全粒粉を用いてパンを作製して行った、食味試験の結果を示す。食味試験は、白米粉で作製したパンについて各項目の評価を3とした場合の、玄米全粒粉パンの評価を5段階で表している。
【発明を実施するための形態】
【0017】
1.はじめに 玄米の利用
玄米は、精白米に比較してGABA (γ−アミノ酪酸)やβ−グルカンといった機能性成分を含むほか、フィチン酸を多く含んでいる。フィチン酸は、キレート作用があり、ミネラルと結合してフィチン酸塩を形成する。また、玄米はビタミンB1が精白米よりも多く含んでおり、玄米は、精白米に比べ、栄養価が高いとされている。
【0018】
そこで、米を米粉として利用範囲の拡大を図る際に、パンなどの他の食品製造用の玄米粉の開発が重要となっている。
【0019】
2.新規な玄米粉の製造方法
本願発明者等は、上記された問題点に鑑み、玄米の有効利用を図るために、パンの製造に用いることができる玄米全粒粉の調製を種々試みてきた。
【0020】
種々の試行錯誤の後、発明者等は、玄米を前処理として一定時間以上浸水処理した後、気流粉砕処理することにより粉砕した玄米粉は、デンプンが損傷されることなく、パン製造に用いた場合、充分なふくらみを持つ玄米パンが製造できることを見出した。
【0021】
2−1.粉砕前処理
本願発明は、粉砕処理前に一定時間以上、具体的には、12時間以上玄米を水又は水溶液に浸漬して吸水させることを特徴とする。好適には、水に浸漬させ吸水させる。水に浸漬させる時間(吸水時間とも言う)は、好適には12時間以上、72時間以内、より好適には、12時間以上48時間以内、更に好適には、12時間以上24時間以内とすることができる。
【0022】
玄米を浸漬させる水としては、水道水、ミネラルウオーター、純水、超純水を挙げることができる。また水には、たとえば、調味料、着色料、乳化剤、及び/又は酵素の等の品質改良物質など、パン製造に通常用いられるような成分が添加された水溶液であってもよい。
【0023】
又浸水させる前に、玄米は、洗浄しても良く又、浸漬処理と洗浄処理とを同時に行っても良い。更に、浸漬処理は、通常、室温で行うことができる。
【0024】
2−2.気流粉砕処理
水に浸漬処理した玄米は、好適には遠心による脱水機で玄米表面の水分を取り除いた後、気流粉砕機により微粒子に粉砕することができる。
【0025】
気流粉砕処理としては、気流の力を利用した粉砕方法を用いるすべての処理を含むことができる。気流粉砕処理する装置としては、例えば、ジェットミルやクロスジェットミルを包含する。ジェットミルは、空気や窒素ガスを加圧噴射し、噴射ガスにより原料(米)同士をぶつけあって粉砕するものである。また、クロスジェットミルはジェットミルと同様に空気や窒素ガスを加圧噴射するものであるが、高速ジェット気流が粉砕機の中で交差し、その気流の中に原料(米)が巻き込まれることで、摩擦と衝突を繰り返えすことにより粉砕するものである。
【0026】
気流粉砕処理には渦流式粉砕処理が含まれ、渦流式粉砕処理する装置としては、例えば、スーパーパウダーミルがある。スーパーパウダーミルは、大きなブレードを高速回転させることで粉砕機内に高速渦流をつくり、原料(米)を自己粉砕させるものである。
【0027】
本願発明では、気流粉砕処理に、好適には、渦流式粉砕機、具体的には、スーパーパウダーミルを用いることができる。例えば、株式会社西村機械製作所SPM-R290製粉機スーパーパウダーミル(渦流式微粉粉砕機)を用いる場合、ブレードの回転速度は、40Hzないし50Hz、サンプル供給速度(フィーダ)は、レベル1ないし2が望ましい。
【0028】
3.新規な玄米粉及びそれを用いたパンの製造
3−1.新規な玄米粉
上記2.に記載の方法で製造した玄米粉は、損傷デンプン含量が低いので、パン製造においては、パン焼成での膨らみが良く、優れたパン粉であることが分かった。損傷デンプン含量は、粉砕前処理の吸水時間に依存し、吸水2時間(コントロール)で損傷デンプン含量が最も高くなるが、吸水時間の経過とともに低下し12時間後よりほぼ一定となった。又、粉砕前処理である玄米の水浸漬による吸水を、時間を変えて行って玄米粉を調製し、パンを製造したところ、パンの比容積は、水に浸漬する時間(吸水時間)が12時間をピークに一定となり、その後大きな低下もなく推移することがわかった。
【0029】
3−2.新規な玄米粉を用いたパンの製造
玄米粉には、グルテン15−30重量部と合わせて合計100重量部となるようにグルテンを添加する。好適には、グルテン15−20重量部、玄米粉80−85重量部となるようにグルテンを添加する。更に、例えば、玄米粉80重量部、グルテン20重量部を混ぜ合わせたもの、あるいは小麦粉70重量部、玄米粉30重量部にさらにグルテン5重量部添加したものを混ぜ合わせたものをパン製造用のプレミックス粉とすることもできる。通常、パン製造用のプレミックスに添加されている成分を添加することができ、例えば、食塩、砂糖、乳化剤、イーストフード、着色料、増粘剤、及びアミラーゼ等の酵素を添加して、パン製造用のプレミックス粉を製造することができる。
【0030】
本発明の玄米粉を用いたパン製造方法としては、玄米粉に、グルテン、イースト、調味料、及び/又は乳化剤等を添加し、これに加水する工程、加水したものをミキサーなどで、混捏する工程、1次発酵工程(フロアタイム)、分割(丸め)工程、生地休め工程(ベンチタイム)、二次発酵工程、成形工程、及び焼成工程を含むことができる。
【0031】
より具体的に説明すると、加水する工程としては、予め米粉およびグルテンに含まれる水分を測定し、最終的に成分全体量の、72〜78%で、好ましくは74〜76%、より好ましくは、75%になるように水を加えることができる。
【0032】
混捏する工程における捏ね方の程度と時間については、玄米粉では白米粉に比べると強めの捏ねあるいは長い時間の捏ねが望ましく、例えば関東混合機工業株式会社の「カントーミキサー」を用いた場合、白米粉では通常、ミキサー速度2で10分で十分であるが、玄米粉ではミキサー速度2〜3で、10〜15分が好ましい。また、一次醗酵工程は白米粉のパン製造と同程度で、10〜20分とすることができる。
【0033】
本願発明の玄米粉を用いて製造したパンは、白米粉を用いて製造したパンとかわらず、充分にふっくらとして焼きあがり、玄米特有の「甘み」のある食味と「しっとり」とした食感のある優れたものである。又本願発明の玄米粉を用いて製造したパンは、玄米由来のビタミン類を始め、GABA (γ−アミノ酪酸)やβ−グルカン等の機能性成分を含む栄養的にも優れたパンである。
【実施例】
【0034】
[実施例1]玄米の吸水処理時間を調整したことによる膨らみの向上
玄米(コシヒカリ)を60時間吸水させた後に、脱水機で10分程度の遠心によって表面水分を取り除いた。それを、スーパーパウダーミル(渦流式微粉粉砕機)(株式会社西村機械製作所SPM-R290製粉機)を用いて製粉した。コントロールとして2時間吸水の玄米を同様に製粉した。
【0035】
上記で調製した玄米粉80重量部、グルテン20重量部とで穀粉の100重量部とし、これに砂糖7重量部、脱脂粉乳3重量部、塩1.5重量部、ショートニング8重量部、ドライイースト1.5重量部添加し、成分全体重量の75%重量になるように加水した。これをミキサー(関東混合機工業株式会社「カントーミキサー」)で、23〜26℃の室温下で1速で3分、2〜3速で10〜15分混捏し、パン生地を作製した。同温度で10〜15分間のフロアタイム後、生地を分割し400gを計り取り、丸めた後に10分間のベンチタイムをとった。成形後、山型食パン用の型に入れ、38℃、湿度80%のホイロで生地上端が型の上端に到達するまで(約50〜60分間)醗酵を行った。その後は家庭用オーブンにて、200℃、26分間焼成し、パンを調製した。白米粉パンについては、上記玄米粉の代わりに同重量部の市販の白米粉(株式会社波里「スーパーミラクルパウダー」)を用いた以外は、同様の組成で調製した。これをカントーミキサーを用い、23〜26℃の室温下で1速で3分、2速で10分混捏し、以下の工程は玄米パンと同様に行った。製パン1日後に以下のナタネ法で比容積を測定した。
【0036】
(ナタネ法)
木製の升を用い、升いっぱいのナタネを計り取る(その際、升の上端はきれいに平らにする)。計りと取ったナタネをいったん取りだし升にパンを入れ、その上からナタネを再度入れる。上端をきれいにならした後の、残ったナタネの重量を測定する。予めナタネの比重を測定しておきナタネの体積を換算することで、パンの体積とした。これをパン重量で割り算することで比容積(ml/g)を算出した。
【0037】
(結果)
両玄米粉によるパンの膨らみに明らかな違いが生じ(図1)、特に吸水玄米粉は、釜伸び(ブレーキング)が顕著だった。さらに、白米粉に比べて「しっとり感」が加わり、食味向上が期待された。
【0038】
[実施例2]吸水処理時間を調整したことによる、損傷デンプン含量と比容積の関係
玄米の吸水時間を、2,5,12,24,36,48時間に変えて、実施例1と同様にしてパンを調製した。各吸水時間における比容積および損傷デンプンの経時的変化を調べた。損傷デンプン含量はStarch Damage Assay Kit(Megazyme社)を使用し以下の方法で測定した。
【0039】
(損傷デンプン含量測定法)
損傷デンプン含量は、Starch Damage Assay Kit (Megazyme社)を使用して行った。
1,米粉を100mgとり、チューブに入れる。
2,1のチューブおよび、アミラーゼ溶液(50U/ml)を40度で5分程度プレインキュベーションしておく。
3,1mLのアミラーゼ溶液を加えたら、vortexミキサーで混ぜて40度で10分間反応させる。
4,硫酸溶液(0.2%v/v)を8ml添加しvortexミキサーで混ぜて反応を停止させる。
5,3,000rpmで5分程度遠心する。
6,遠心上清から0.1mlをとり、別のチューブの底に入れる。
7,0.1mlのアミログルコシダーゼ溶液を加え、40度で10分間反応させる。
8,4mlのGOPOD溶液を加え、40度で20分間反応させる。
9,510nmで吸光度を測定。(150mg/mlの標準液および緩衝液の2点で検量線を作製)
【0040】
(結果)
パンの比容積は12時間をピークに一定となり、その後大きな低下もなく推移した(図2)。一方、損傷デンプン含量は、吸水2時間(コントロール)が最も高く、吸水時間の経過とともに低下し、比容積と同様に12時間後よりほぼ一定となった。吸水時間の経過に伴う、比容積の向上と損傷デンプン含量の低下には相関があった(表1)。
【0041】
【表1】

【0042】
[実施例3]
24時間の吸水処理を行った玄米について、実施例1に記載の方法で調製した玄米全粒粉を用いてパンを作製し、白米粉パンについても実施例1と同様にパンを作製し、食味試験を行った。食味試験は、白米粉で作製したパンについて各項目の評価を3とした場合の、玄米全粒粉パンの評価を5段階で評価した。図3に、男女あわせて29人から得た評価の平均値を示した。玄米全粒粉で作製したパンは、総合的に見ても白米パンに比べて、同等あるいはそれ以上の評価が得られた。特に、玄米特有の「甘み」のある食味と「しっとり」とした食感が良いと評価された。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本願発明は、玄米の製粉業、更に玄米粉を用いたパン製造業、その他の食品産業の分野で利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
玄米を水に12時間以上72時間以下浸漬した後、遠心により脱水処理し、気流粉砕機により粉砕する、パン製造用玄米粉の製造方法。
【請求項2】
気流粉砕機が渦流式粉砕機である請求項1記載の方法。
【請求項3】
玄米粉のデンプンに含まれる損傷デンプン含量が2.5%以下である請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
請求項1〜3いずれか1項記載の方法で製造された玄米粉。
【請求項5】
請求項4記載の玄米粉を用いて製造されたパン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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