説明

新規なプラスミド及びその利用

Rhodococcus属菌由来の配列番号73に記載の塩基配列を有するプラスミド及び配列番号74に記載の塩基配列を有するプラスミド又はそのDNA断片等から、Rhodococcus属菌内で複製可能なDNA領域を調製し、大腸菌由来のプラスミド又はそのDNA断片から、大腸菌内で複製可能なDNA領域を調製し、シャトルベクターを作製する。シャトルベクターにアミノケトン不斉還元酵素遺伝子を挿入してベクターを構築し、当該ベクターを含む形質転換体を作製し、アミノケトン不斉還元酵素及び光学活性アミノアルコールを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Rhodococcus(ロドコッカス)属に属する微生物(以下、Rhodococcus属菌という)由来の新規なプラスミド及びその利用に関する。より具体的には、プラスミド及びその一部であるDNA断片(以下、単にDNA断片ともいう)、並びにそれらを利用するシャトルベクター、ベクター、形質転換体、アミノケトン不斉還元酵素の製造方法及び光学活性アミノアルコールの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
Rhodococcus属菌は、ニトリル類の代謝に関与する酵素を生産することやアミノケトンを不斉的に還元する酵素を産生することが知られている。特に、Rhodococcus erythropolisは、きわめて高いアミノケトン不斉還元活性を有することが知られている。このような微生物及び酵素は、α−アミノケトンに作用して、光学活性β−アミノアルコールを高収率かつ高選択的に生産する(例えば、特許文献1及び5)。したがって、Rhodococcus属菌において、有用な酵素等の大量生産を目的とする宿主−ベクター系の開発が以前から期待されてきた。しかしながら、Rhodococcus属菌を宿主とするに適したベクターの開発は遅れているのが現状である。Rhodococcus属菌においてプラスミドが見出された微生物は、Rhodococcus sp.H13−A株(非特許文献1)、Rhodococcus rhodochrous ATCC4276株(特許文献2)、Rhodococcus rhodochrous ATCC4001株(特許文献3)及びRhodococcus erythropolis IFO12320株(特許文献4)など数株にしかすぎない。
【0003】
【特許文献1】国際公開WO01/73100号パンフレット
【特許文献2】特開平4−148685号公報
【特許文献3】特開平4−330287号公報
【特許文献4】特開平9−28379号公報
【特許文献5】国際公開WO02/070714号パンフレット
【非特許文献1】J.Bacteriol.,170,638,1988
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のようにRhodococcus属菌から工業的に利用できる菌株を育種、改良(変異株)するための新しいベクターの開発が望まれている。特に、組換えDNA微生物及びその産物である食品や添加物の安全性の面からセルフクローニング系によることが望ましいとされている。本発明は、このような宿主−ベクター系におけるベクターとして利用できる新規なプラスミドを提供することを目的とする。
【0005】
アミノケトン不斉還元活性を有するRhodococcus erythropolisにおいて、工業的に利用できる組換え微生物の創出が望まれている。特に、このような組換え微生物の創出に利用できる新規なプラスミド又はその一部であるDNA断片を提供することを本発明の第一の目的とする。
【0006】
前記プラスミドが得られれば、他の微生物でも複製可能なシャトルベクターを構築することも容易となる。本発明は、このようなシャトルベクター構築に必要となるDNA複製に関する塩基配列情報(複製領域等)を提供することを第二の目的とする。
【0007】
本発明は、Rhodococcus属菌及び大腸菌のいずれにおいても複製可能なシャトルベクターを提供することを第三の目的とする。
【0008】
さらに、本発明は前記シャトルベクターのアミノケトン不斉還元酵素への適用を第四の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、Rhodococcus属菌株よりベクター作製のためのプラスミドを鋭意スクリーニングした結果、宿主−ベクター系におけるベクターとして利用可能な幾つかの新規なプラスミドを見出した。
【0010】
また、本発明者らは、前記プラスミドに、薬剤耐性遺伝子、大腸菌内で複製可能な遺伝子領域などを導入することによって、シャトルベクターを作製できることを見出した。このように、上記課題を達成する塩基配列情報、プラスミド及びシャトルベクターを得て、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明によれば、以下の(1)〜(39)に記載のDNA断片、DNA、プラスミド、シャトルベクター、ベクター、形質転換体、アミノケトン不斉還元酵素の製造方法及び光学活性アミノアルコールの製造方法が提供される。
(1)配列番号35、配列番号36及び配列番号37に記載の塩基配列からなる群より選ばれる少なくとも1つの塩基配列を有するDNA断片。
(2)配列番号35、配列番号36及び配列番号37に記載の塩基配列からなる群より選ばれる少なくとも1つの塩基配列を有するDNA複製領域を含むことを特徴とするプラスミド又はその一部であるDNA断片。
(3)配列番号1、配列番号4、配列番号14、配列番号17及び配列番号22に記載の塩基配列からなる群より選ばれる少なくとも1つの塩基配列を有するDNA断片。
(4)配列番号1、配列番号4、配列番号14、配列番号17及び配列番号22に記載の塩基配列からなる群より選ばれる少なくとも1つの塩基配列を有するDNA複製関連タンパク質のコード領域を含むことを特徴とするプラスミド又はその一部であるDNA断片。
(5)配列番号1、配列番号4、配列番号14、配列番号17及び配列番号22に記載の塩基配列からなる群より選ばれる少なくとも1つの塩基配列を有するDNA複製関連タンパク質のコード領域を含み、且つ配列番号35、配列番号36及び配列番号37に記載の塩基配列からなる群より選ばれる少なくとも1つの塩基配列を有するDNA複製領域を含むことを特徴とするプラスミド又はその一部であるDNA断片。
(6)配列番号76に記載の塩基配列を有するDNA断片。
(7)配列番号76に記載の塩基配列を有するプロモーター領域を含むことを特徴とするプラスミド又はその一部であるDNA断片。
(8)配列番号1、配列番号4、配列番号14、配列番号17及び配列番号22に記載の塩基配列からなる群より選ばれる少なくとも1つの塩基配列を有するDNA複製関連タンパク質のコード領域を含み、配列番号35、配列番号36及び配列番号37に記載の塩基配列からなる群より選ばれる少なくとも1つの塩基配列を有するDNA複製領域を含み、且つ配列番号76に記載の塩基配列を有するプロモーター領域を含むことを特徴とするプラスミド又はその一部であるDNA断片。
(9)(1)〜(8)のいずれかに記載のプラスミド又はDNA断片を有し、制限酵素切断部位数がBamHI:2、EcoRI:2、KpnI:1、PvuII:1、SacI:1及びSmaI:1であり、大きさが約5.4kbpであることを特徴とする環状プラスミド。
(10)配列番号73に記載の塩基配列を有するプラスミド。
(11)Rhodococcus属菌由来であることを特徴とする(1)〜(10)のいずれかに記載のプラスミド又はDNA断片。
(12)配列番号70、配列番号71及び配列番号72に記載の塩基配列からなる群より選ばれる少なくとも1つの塩基配列を有するDNA断片。
(13)配列番号70、配列番号71及び配列番号72に記載の塩基配列からなる群より選ばれる少なくとも1つの塩基配列を有するDNA複製領域を含むことを特徴とするプラスミド又はその一部であるDNA断片。
(14)配列番号40、配列番号42、配列番号44、配列番号45、配列番号53、配列番号55、配列番号56、配列番号61、配列番号62及び配列番号69に記載の塩基配列からなる群より選ばれる少なくとも1つの塩基配列を有するDNA断片。
(15)配列番号40、配列番号42、配列番号44、配列番号45、配列番号53、配列番号55、配列番号56、配列番号61、配列番号62及び配列番号69に記載の塩基配列からなる群より選ばれる少なくとも1つの塩基配列を有するDNA複製関連タンパク質のコード領域を含むことを特徴とするプラスミド又はその一部であるDNA断片。
(16)配列番号40、配列番号42、配列番号44、配列番号45、配列番号53、配列番号55、配列番号56、配列番号61、配列番号62及び配列番号69に記載の塩基配列からなる群より選ばれる少なくとも1つの塩基配列を有するDNA複製関連タンパク質のコード領域を含み、且つ配列番号70、配列番号71及び配列番号72に記載の塩基配列からなる群より選ばれる少なくとも1つの塩基配列を有するDNA複製領域を含むことを特徴とするプラスミド又はその一部であるDNA断片。
(17)配列番号40、配列番号42、配列番号44、配列番号45、配列番号53、配列番号55、配列番号56、配列番号61、配列番号62及び配列番号69に記載の塩基配列からなる群より選ばれる少なくとも1つの塩基配列を有するDNA複製関連タンパク質のコード領域を含み、配列番号70、配列番号71及び配列番号72に記載の塩基配列からなる群より選ばれる少なくとも1つの塩基配列を有するDNA複製領域を含み、且つ配列番号76に記載の塩基配列を有するプロモーター領域を含むことを特徴とするプラスミド又はその一部であるDNA断片。
(18)配列番号67及び配列番号47に記載の塩基配列からなる群より選ばれる少なくとも1つの塩基配列を有するDNA断片。
(19)配列番号67及び配列番号47に記載の塩基配列からなる群より選ばれる少なくとも1つの塩基配列を有する接合タンパク質領域を含むことを特徴とするプラスミド又はその一部であるDNA断片。
(20)配列番号75に記載の塩基配列を有するDNA断片。
(21)配列番号75に記載の塩基配列を有する接合に関する領域を含むことを特徴とするプラスミド又はその一部であるDNA断片。
(22)(12)〜(21)のいずれかに記載のプラスミド又はDNA断片を有し、制限酵素切断部位数がBamHI:2、PvuII:4、SacI:3及びSmaI:4であり、大きさが約5.8kbpであることを特徴とする環状プラスミド。
(23)配列番号74に記載の塩基配列を有するプラスミド。
(24)Rhodococcus属菌由来であることを特徴とする(12)〜(23)のいずれかに記載のプラスミド又はDNA断片。
(25)配列番号77に記載の塩基配列を有するDNA断片。
(26)配列番号77に記載の塩基配列を有するプロモーター領域を含むことを特徴とするDNA断片。
(27)(1)〜(26)のいずれかに記載のプラスミド又はその一部であるDNA断片と大腸菌内で複製可能なDNA領域とを含み、Rhodococcus属菌及び大腸菌内で複製可能なシャトルベクター。
(28)(27)に記載のシャトルベクターを用いて作製することを特徴とするベクター。
(29)(6)、(7)、(25)又は(26)のいずれかに記載のプラスミド又はDNA断片を含むことを特徴とするベクター。
(30)アミノケトン不斉還元酵素遺伝子が挿入されていることを特徴とする(28)又は(29)に記載のベクター。
(31)アミノケトン不斉還元酵素遺伝子が、配列番号78に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする核酸、又は配列番号78のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が欠失、挿入、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を有し、且つアミノケトン不斉還元活性を有するタンパク質をコードする核酸であることを特徴とする(30)に記載のベクター。
(32)アミノケトン不斉還元酵素遺伝子が、配列番号79に記載の塩基配列からなる核酸、又は配列番号79と相補的な塩基配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、且つアミノケトン不斉還元活性を有するタンパク質をコードする核酸であることを特徴とする(30)に記載のベクター。
(33)(28)又は(29)に記載のベクターを含む形質転換体。
(34)(30)〜(32)のいずれかに記載のベクターを含む形質転換体。
(35)(34)に記載の形質転換体を該形質転換体が増殖可能な培地中で培養する培養工程と、
前記培養工程で得られた該形質転換体からアミノケトン不斉還元酵素を精製する精製工程と
を含むアミノケトン不斉還元酵素の製造方法。
(36)一般式(1):
【化1】

(式中、Xは同一又は異なっていてもよく、ハロゲン原子、低級アルキル基、保護基で保護されていてもよいヒドロキシル基、ニトロ基及びスルホニル基からなる群より選ばれる少なくとも一種を示し;nは0〜3の整数を示し;Rは低級アルキル基を示し;R,Rは同一又は異なっていてもよく、水素原子及び低級アルキル基からなる群より選ばれる少なくとも一種を示し;*は不斉炭素を示す)
で表されるα−アミノケトン化合物又はその塩のエナンチオマー混合物に(35)記載の製造方法で得られるアミノケトン不斉還元酵素を作用させて一般式(2):
【化2】

(式中、X、n、R、R、R及び*は前記定義と同一)
で表される光学活性アミノアルコール化合物であって、所望の光学活性を有する該化合物を生成せしめる光学活性アミノアルコールの製造方法。
(37)一般式(1):
【化3】

(式中、Xは同一又は異なっていてもよく、ハロゲン原子、低級アルキル基、保護基で保護されていてもよいヒドロキシル基、ニトロ基及びスルホニル基からなる群より選ばれる少なくとも一種を示し;nは0〜3の整数を示し;Rは低級アルキル基を示し;R,Rは同一又は異なっていてもよく、水素原子及び低級アルキル基からなる群より選ばれる少なくとも一種を示し;*は不斉炭素を示す)
で表されるα−アミノケトン化合物又はその塩のエナンチオマー混合物に(34)記載の形質転換体を作用させて一般式(2):
【化4】

(式中、X、n、R、R、R及び*は前記定義と同一)
で表される光学活性アミノアルコール化合物であって、所望の光学活性を有する該化合物を生成せしめる光学活性アミノアルコールの製造方法。
(38)(37)に記載の光学活性アミノアルコールの製造方法において、
一般式(3):
【化5】

(式中、Aは構造式(Y)又は(Z)を表し、
【化6】

(ここで、Rは水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜3のアルキル基、Rと結合してなる炭素数5〜10の炭化水素環又はRと結合してなる1〜3個のヘテロ原子を含む5〜8員環のヘテロ環状骨格を表す。)、
【化7】

(ここで、Rは水素原子、炭素数1〜3のアルキル基、若しくはR又はRと結合してなる1〜3個のヘテロ原子を含む5〜8員環のヘテロ環状骨格を表し、Rは水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜3のアルキル基、Rと結合してなる炭素数5〜10の炭化水素環、R又はRと結合してなる1〜3個のヘテロ原子を含む5〜8員環のヘテロ環状骨格を表し、Rは水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜6のアルキル基を表す。);
は水素原子、カルボキシル基、置換基を有していてもよい炭素数1〜6のアルキル基、Rと結合してなる1〜3個のヘテロ原子を含む5〜8員環のヘテロ環状骨格、Rと結合してなる炭素数5〜10の炭化水素環を表し;Rは水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜6のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数1〜6のアルキルオキシカルボニル基、置換基を有していてもよいアシル基、R又はRと結合してなる1〜3個のヘテロ原子を含む5〜8員環のヘテロ環状骨格を表し、R10は水素原子又は置換基を有していてもよい炭素数1〜6のアルキル基を表す。)
で表される化合物、又はその製薬学的に許容される塩あるいは溶媒和物をさらに添加して光学活性アミノアルコールを生成させる光学活性アミノアルコールの製造方法。
(39)配列番号89〜配列番号100に記載の塩基配列からなる群より選ばれる塩基配列を有する(27)に記載のシャトルベクター。
【発明の効果】
【0012】
本発明のプラスミドは、従来知られていない新規なプラスミドであり、工業的に有用なRhodococcus属に属する宿主−ベクター系におけるベクターとして価値がある。特に、アミノケトンの不斉還元を工業的に行なえる組換え微生物の創出に有用である。このような微生物が貢献するアミノケトンの不斉還元としては、1−2−メチルアミノ−1−フェニル−1−プロパノンからd−(1S,2S)−プソイドエフェドリンを製造する反応が挙げられる。
【0013】
また、本発明のプラスミドは、単一のロドコッカス細胞に共存することから、複製機能を利用した単独での使用の他に、それぞれ和合性プラスミドとしても利用できる。すなわち、別のタンパク質(酵素等)遺伝子をそれぞれのプラスミドに挿入することにより、別のタンパク質を同時に同一細胞内で発現できるようになる。
【0014】
さらに、本発明のシャトルベクターは、Rhodococcus属菌及び大腸菌(Escherichia属菌)において、工業的に利用し得る組換え微生物の創出に有用である。
【0015】
本発明のプラスミドから得られるDNA複製に関する塩基配列情報は、それに基づいて前記シャトルベクターの構築を可能とし、具体的にはベクターの構成要素であるDNA断片等を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、プラスミドpRET1100の制限酵素切断地図である。
【図2】図2は、プラスミドpRET1000の制限酵素切断地図である。
【図3】図3は、シャトルベクターpRET1101の構築の概要を示す図である。
【図4】図4は、シャトルベクターpRET1102の構築の概要を示す図である。
【図5】図5は、シャトルベクターpRET1103の構築の概要を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明を好適な実施の形態に従って説明する。
【0018】
本発明の第1のプラスミドは、Rhodococcus属菌から単離されるプラスミド又はその誘導体である。具体的には、例えば、Rhodococcus erythropolis IAM1400,IAM1503,JCM2893及びJCM2894株等の菌株から単離することができ、その大きさが約5.4kbpであり、且つ表1に示す制限酵素に対する分解特性を有する環状プラスミドである。以下、それぞれの菌株から単離されるプラスミドをpRET1100、pRET1300、pRET1500及びpRET1700と称する。なお、供試菌株から本発明のプラスミドを調製するには、公知の方法(例えば、ボイル法、アルカリ溶解法、塩化セシウム密度勾配超遠心法:ラボマニュアル遺伝子工学、第3版、第10章、55−59頁、丸善株式会社)を採用することができる。
【0019】
【表1】

【0020】
プラスミドpRET1100の制限酵素地図を図1に示す。このプラスミドについて、公知の方法(例えば、蛍光式自動シークエンサー)によりシークエンスしたところ、その全塩基配列は、配列表の配列番号73に示す5444bpであることが分かった。
【0021】
また、本発明の第2のプラスミドも、Rhodococcus属菌から単離されるプラスミド又はその誘導体である。具体的には、例えば、Rhodococcus rhodnii JCM3203株から単離することができ、その大きさが約5.8kbpであり、且つ表2に示す制限酵素に対する分解特性を有する環状プラスミドである。以下このプラスミドをpRET1000と称する。
【0022】
【表2】

【0023】
プラスミドpRET1000の制限酵素地図を図2に示す。このプラスミドについても、公知の方法によりシークエンスしたところ、配列表の配列番号74に示す5813bpの塩基配列を有することが分かった。
【0024】
以上のように本発明のプラスミド類(天然型もしくは野生型)は、表1又は表2に示す制限酵素切断パターンによっても特定され得る環状プラスミドである。したがって、本発明は次の2種類の環状プラスミドを包含する。
(1)Rhodococcus属菌由来の環状プラスミドであって、その大きさが約5.4kbpであり、制限酵素切断部位数がBamHI:2、EcoRI:2、KpnI:1、PvuII:1、SacI:1及びSmaI:1であることを特徴とする環状プラスミド。
(2)Rhodococcus属菌由来の環状プラスミドであって、その大きさが約5.8kbpであり、制限酵素切断部位数がBamHI:2、PvuII:4、SacI:3及びSmaI:4であることを特徴とする環状プラスミド。
【0025】
プラスミドpRET1100及びpRET1000の塩基配列(すなわち、配列番号73及び配列番号74)を解析した結果、DNA複製やその他の機能を有するタンパク質をコードしている一群の塩基配列(オープンリーディングフレーム、以下orfという)が存在することが推測される。
【0026】
当該技術分野において、「DNA複製」とは、DNA自身が鋳型となって、すでにある2本鎖DNA(親DNA)と全く同じ2個の2本鎖DNAが形成されることを指す。その複製機構は、複製開始点(複製起点)からの開始、DNA鎖の伸長、終結の3段階からなる。複製の際にはDNA2本鎖の一部がほどけ、それぞれの1本鎖に相補的な新しいDNA鎖が合成される。2本鎖をほどくのは、DNAへリカーゼとらせん不安定化蛋白(一本鎖DNA結合蛋白ともいう)であり、ほどかれた部分は複製フォークと呼ばれる。複製フォークに向かって3’→5’方向の鋳型DNAをリーディング鎖、その逆で5’→3’方向をラギング鎖と呼ぶ。DNAポリメラーゼは、5’→3’に向かってDNA鎖を伸ばしてゆく。そのためリーディング鎖を鋳型にする場合、複製フォークの方向にDNAが合成される。しかし、反対側のラギング鎖を鋳型にすると、複製フォークと逆方向にDNA鎖を伸ばさねばならない。そのためラギング鎖の複製は、岡崎フラグメントと呼ぶ200塩基程度の断片ごとに行われる。約200塩基ごとにRNAプライマーがDNAを鋳型にして、10塩基のRNAを5’→3’の方向に合成する。そのRNAをプライマーにして、ラギング鎖を鋳型にDNAポリメラーゼが5’→3’方向にDNA鎖を合成する。複製された200塩基程度のDNA断片は、その後RNAが除去され1本鎖のDNAに結合される。このような複製機構の中で、DNAへリカーゼ、らせん不安定化蛋白などの種々のタンパク質が協同して複製装置を形成している。関与している他のタンパク質として、DNAトポイソメラーゼ(DNA複製の際のよじれを防ぐ)、複製開始蛋白や複製終了蛋白などが挙げられる。DNA複製機構については、例えば、「細胞の分子生物学、第3版、中村桂子ら訳、251−262頁、教育社、1996年」に詳しく解説されている。
【0027】
そこで、さらにプラスミドpRET1100及びpRET1000の塩基配列を解析した結果、前記DNA複製に関与するorfの近辺に、ATリッチな相同性又は相似性のある繰返しを持った配列やDNAの二次構造をもつと思われる配列、すなわちDNA複製領域(DNAの複製に関与するタンパク質が認識する塩基配列領域、又はDNAの複製開始点が存在する領域)と推測される塩基配列が見出された。
【0028】
以上、DNA複製には、DNA複製領域及びDNA複製に関与するタンパク質(以下、DNA複製関連タンパク質という)をコードする領域が必須である。本発明に従えば、pRET1100及びpRET1000の両プラスミドについて、これらの領域の塩基配列に関する情報が取得できる。
【0029】
まず、プラスミドpRET1100において、DNA複製領域としては、配列番号35〜37に記載の塩基配列が同定される。また、DNA複製関連タンパク質のコード領域としては、配列番号1〜3に記載の塩基配列(orf1)、配列番号4に記載の塩基配列(orf2)、配列番号5〜16に記載の塩基配列(orf3)、配列番号17〜21に記載の塩基配列(orf4)、配列番号22〜26に記載の塩基配列(orf5)、配列番号27又は28に記載の塩基配列(orf6)、塩基配列29又は30に記載の塩基配列(orf7)、配列番号31又は32に記載の塩基配列(orf8)、配列番号33又は34に記載の塩基配列(orf9)が同定される。
【0030】
pRET1100からDNA複製可能なプラスミドを作製するためには、この組換えプラスミドは、前記DNA複製領域を少なくとも1つと前記DNA複製関連タンパク質のコード領域(orf)を少なくとも1つ備える必要がある。したがって、本発明のプラスミド(組換え型)は、このようなDNA複製領域を少なくとも1つとDNA複製関連タンパク質のコード領域を少なくとも1つ含むことを特徴とする。ここで、DNA複製関連タンパク質のコード領域は、配列番号1、4、14、17及び22に記載の塩基配列からなる群より選ばれる塩基配列を有することが好ましい。
【0031】
配列番号76に記載の塩基配列の領域は複製に関係するタンパク質の発現に関与するプロモーターであることが示唆されており、本発明のプラスミドは、配列番号76に記載の塩基配列を有するプロモーター領域を含んでいることが好ましい。
【0032】
プラスミド作製に際しては、前述の塩基配列情報に基づいて、DNA断片を適宜選択して、構築することができる。また、本発明は、該プラスミドの誘導体もしくは機能的な(DNA複製)断片をも包含する。
【0033】
次に、プラスミドpRET1000において、DNA複製領域としては、配列番号70〜72に記載の塩基配列が同定される。また、DNA複製関連タンパク質のコード領域としては、配列番号38〜41に記載の塩基配列(orf10)、配列番号42又は43に記載の塩基配列(orf11)、配列番号44に記載の塩基配列(orf12)、配列番号45又は46に記載の塩基配列(orf13)、配列番号48〜50に記載の塩基配列(orf14)、配列番号51又は52に記載の塩基配列(orf15)、配列番号53又は54に記載の塩基配列(orf16)、配列番号55に記載の塩基配列(orf17)、配列番号56〜60に記載の塩基配列(orf18)、配列番号61に記載の塩基配列(orf19)、配列番号62に記載の塩基配列(orf20)、配列番号63〜69に記載の塩基配列(orf21)が同定される。
【0034】
pRET1000からDNA複製可能なプラスミドを作製するためには、この組換えプラスミドは、前記DNA複製領域を少なくとも1つと前記DNA複製関連タンパク質のコード領域(orf)を少なくとも1つ備える必要がある。したがって、本発明のプラスミド(組換え型)は、このようなDNA複製領域を少なくとも1つとDNA複製関連タンパク質のコード領域を少なくとも1つ含むことを特徴とする。ここで、DNA複製関連タンパク質のコード領域は、配列番号40、42、44、45、53、55、56、61、62及び69に記載の塩基配列からなる群より選ばれる塩基配列を有することが好ましい。
【0035】
配列番号67及び47に記載の塩基配列の領域は接合タンパク質(mobilization protein)と相同性があり、接合に関与することが示唆されている。また、配列番号75に記載の塩基配列の領域は接合タンパク質遺伝子の発現に関与することや発現タンパク質の認識部位であることが示唆されている。したがって、本発明のプラスミドは、配列番号67及び47に記載の塩基配列を有する接合タンパク質領域を含んでいることや配列番号75に記載の塩基配列を有する接合に関する領域を含んでいることが好ましい。
【0036】
プラスミド作製に際しては、前述の塩基配列情報に基づいて、DNA断片を適宜選択して、構築することができる。また、本発明は、該プラスミドの誘導体もしくは機能的な(DNA複製)断片をも包含する。
【0037】
本発明のプラスミド又はDNA断片は、DNA複製領域、DNA複製関連タンパク質コード領域、プロモーター領域、接合タンパク質領域、接合に関する領域又はそれらの一部において、それぞれの領域の機能が損なわれない限り、1若しくは複数個のヌクレオチドの置換、欠失、又は挿入を含む塩基配列を有していてもよい。
【0038】
また、本発明のシャトルベクターは、本発明のDNA複製領域、DNA複製関連タンパク質コード領域、プロモーター領域、接合タンパク質領域、接合に関する領域のいずれかに記載のプラスミド又はDNA断片と大腸菌内で複製可能なDNA領域を含み、Rhodococcus属菌及び大腸菌内で複製可能なものであればよく、例えば、配列番号89〜配列番号100の塩基配列を有するものが挙げられる。本発明のシャトルベクターは、Rhodococcus属菌及び大腸菌内で複製可能なものであれば、該塩基配列に、1若しくは複数個のヌクレオチドの置換、欠失、又は挿入を含む塩基配列を有していてもよい。
【0039】
前記「複数個」とは、領域の種類によっても異なるが、具体的には、2〜1100個、好ましくは、2〜800個、より好ましくは2〜300個である。更に好ましくは、2〜100個、更により好ましくは、2〜20個、最も好ましくは2〜10個である。
【0040】
また、上記のような、DNA複製領域、DNA複製関連タンパク質コード領域、プロモーター領域、接合タンパク質領域、接合に関する領域又はそれらの一部と実質的に同一の塩基配列を有するプラスミド又はDNA断片として具体的には、DNA複製領域、DNA複製関連タンパク質コード領域、プロモーター領域、接合タンパク質領域、接合に関する領域又はそれらの一部とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列が挙げられる。「ストリンジェントな条件」とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。この条件を明確に数値化することは困難であるが、一例を示せば、相同性が高いDNA同士、例えば80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上の相同性を有するDNA同士がハイブリダイズし、それより相同性が低いDNA同士がハイブリダイズしない条件が挙げられる。より具体的には、通常のサザンハイブリダイゼーションの洗浄の条件である60℃、1×SSC,0.1%SDS、好ましくは、0.1×SSC、0.1%SDSに相当する塩濃度でハイブリダイズする条件が挙げられる。DNA複製領域、DNA複製関連タンパク質コード領域、プロモーター領域、接合タンパク質領域、接合に関する領域の一部が300bp程度の長さのDNA断片を用いる場合には、ハイブリダイゼーションの洗浄の条件としては、50℃、2×SSC、0.1%SDSが挙げられる。
【0041】
上記のような、DNA複製領域、DNA複製関連タンパク質コード領域、プロモーター領域、接合タンパク質領域、接合に関する領域又はそれらの一部と実質的に同一の塩基配列を有するプラスミド又はDNA断片は、例えば、部位特異的変異法によって、特定の部位のヌクレオチドにおいて置換、欠失、又は挿入を含むように、DNA複製領域、DNA複製関連タンパク質コード領域、プロモーター領域、接合タンパク質領域、接合に関する領域又はそれらの一部を改変することによって取得することができる。また、上記のような改変されたDNAは、従来知られている変異処理によっても取得され得る。変異処理としては、DNA複製領域、DNA複製関連タンパク質コード領域、プロモーター領域、接合タンパク質領域、接合に関する領域又はそれらの一部を含むDNAをヒドロキシルアミン等でインビトロ処理する方法、および同DNAを保持する微生物、例えばエシェリヒア属細菌を、紫外線またはN−メチル−N’−ニトロ−N−ニトロソグアニジン(NTG)もしくはEMS等の通常変異処理に用いられている変異剤によって処理する方法が挙げられる。
【0042】
また、上記のようなヌクレオチドの置換、欠失又は挿入には、ロドコッカス属菌の菌株による違いなどの天然に生じる変異(mutant又はvariant)も含まれる。
【0043】
本発明のシャトルベクターは、上記のプラスミド又はその一部であるDNA断片(A)及び大腸菌内で複製可能なDNA領域(B)を含む。また、このシャトルベクターは、場合により薬剤耐性遺伝子を含むDNA領域を含んでもよく、これは好ましい。当該技術分野において、一般的に「シャトルベクター」とは、二種の細胞のDNA複製機構を含み、望ましくはさらに選択マーカーとしての薬剤耐性遺伝子等を含む、その二種の細胞中で自律複製することができるベクターをいう。プラスミド又はその一部であるDNA断片(A)は、Rhodococcus属菌中で複製可能なDNA領域である。大腸菌内で複製可能なDNA領域(B)は、大腸菌内で複製増殖可能なプラスミドであれば、プラスミド全体であってもよく、又はその一部であってもよい。前記大腸菌内で複製可能なDNA領域としては、例えば、pUC18、pHSG299、pHSG398等のプラスミドを用いることが可能である。
【0044】
本発明のシャトルベクターが薬剤耐性遺伝子を含む場合、アンピシリン耐性遺伝子、カナマイシン耐性遺伝子、クロラムフェニコール耐性遺伝子などが好適に用いられるが、宿主となるRhodococcus属菌及び大腸菌内で発現し、宿主細胞に薬剤耐性を与えることができ、両菌属間で、薬剤耐性能によりプラスミドの存在が確認できるものであれば、薬剤の種類に限定はない。また、そのような薬剤耐性遺伝子を複数個、使用してもよい。
【0045】
シャトルベクターには、複数のクローニングサイト(マルチクローニングサイト)が含まれることが望ましく、このクローニングサイトと前記薬剤耐性遺伝子は、例えば、大腸菌プラスミドから誘導されうる。すなわち、上記で列挙した公知の大腸菌プラスミドを適当な制限酵素によって、切断して、クローニングサイトと薬剤耐性遺伝子を含むDNA領域を作製し、他方のDNA断片(Rhodococcus属菌中で複製可能なDNA領域)とライゲーションする。
【0046】
実例として、シャトルベクターの構築の概略を図3〜5に示す。シャトルベクターは、上記プラスミド及び大腸菌由来のプラスミドを適切な制限酵素で処理した後、両者をライゲーションすることにより構築することが可能である。このようにして、本発明者らは、Rhodococcus属菌のプラスミドpRET1000、pRET1100及びpRET1200と大腸菌のプラスミドpUC18、pHSG299及びpHSG398とを使用して18種類のシャトルベクター(表5)を作製した。
【0047】
本発明のシャトルベクターは、Rhodococcus属菌又は大腸菌を宿主とすることができ、それらのいずれでも複製可能であり、工業的に利用できる。本発明のシャトルベクターによって形質転換されたRhodococcus属菌又は大腸菌、さらにその他の微生物の形質転換体は、このように有用であり、これら形質転換体も本発明に包含される。
【0048】
本発明のベクターは、本発明のシャトルベクターを用いて作製することを特徴とする。すなわち、本発明のシャトルベクターに導入したい標的DNAが挿入されているベクターである。導入したいDNA及び本発明のシャトルベクターを適切な制限酵素で処理した後、両者をライゲーションすることで、かかるベクターを作製することが可能である。このベクターを利用することで、所望のDNAを導入した形質転換体を得ることができる。
【0049】
挿入するDNAとしては、例えば、アミノケトン不斉還元酵素遺伝子や補酵素再生系酵素遺伝子が挙げられる。アミノケトン不斉還元酵素遺伝子は、WO02/070714に記載されているアミノケトン不斉還元酵素をコードする遺伝子であり、より具体的には、配列番号78に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質(R.erythropolis MAK−34株由来のアミノケトン不斉還元酵素)をコードするDNAであり、特に、配列番号79に記載の塩基配列からなるDNAである。WO02/070714に記載されている内容も全て本明細書に含まれる。
【0050】
アミノケトン不斉還元酵素は、WO02/070714に記載されている性質を有しておればよく、配列表の配列番号78に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質、及び、前記アミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が欠失、挿入、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を有し、且つ、アミノケトン不斉還元活性を有するタンパク質も含まれる。ここで、アミノケトン不斉還元活性とは、前記一般式(1)で表されるα−アミノケトンを基質として前記一般式(2)で表される光学活性なアミノアルコールを生成する活性をいう。
【0051】
このような欠失、挿入、置換、付加を施す方法としては特に制限はなく、公知の方法が使用できる。例えば、日本生化学会編、「続生化学実験講座1、遺伝子研究法II」、p105(広瀬進)、東京化学同人(1986);日本生化学会編、「新生化学実験講座2、核酸III(組換えDNA技術)」、p233(広瀬進)、東京化学同人(1992);R.Wu,L.Grossman編,“Methods in Enzymology”,Vol.154,p.350&p.367,Academic Press,New York(1987);R.Wu,L.Grossman編,“Methods in Enzymology”,Vol.100,p.457&p.468,Academic Press,New York(1983);J.A.Wellsら,“Gene”,Vol.34,p.315(1985);T.Grundstroemら,“Nucleic Acids Res”,Vol.13,p.3305(1985);J.Taylorら,“Nucleic Acids Res.”,Vol.13,p.8765(1985);R.Wu編,“Methods in Enzymology”,Vol.155,p.568,Academic Press,New York(1987);A.R.Oliphantら,“Gene”,Vol.44,p.177(1986)に記載の方法が挙げられる。具体的には、例えば、合成オリゴヌクレオチド等を利用する位置指定変異導入法(部位特異的変異導入法)、Kunkel法、dNTP[αS]法(Eckstein)法、亜硫酸や亜硝酸等を用いる領域指定変異導入法等の方法が挙げられる。
【0052】
また、多くのタンパク質には糖鎖が付加されている場合があり、アミノ酸を1若しくは複数置換することにより糖鎖の付加を調節することができる。従って、配列表の配列番号78に記載のアミノ酸配列において、前記糖鎖の調節されたタンパク質も上述のアミノケトン不斉還元活性を有する限りは、本発明のアミノケトン不斉還元酵素に包含される。
【0053】
さらに本発明のアミノケトン不斉還元酵素は、化学的な手法でその含有されるアミノ酸残基を修飾することもできるし、ペプチダーゼ、例えば、ペプシン、キモトリプシン、パパイン、ブロメライン、エンドペプチダーゼ、エキソペプチダーゼ等の酵素を用いて修飾したり、部分分解したりしてその誘導体に改変することができる。
【0054】
また、遺伝子組換え法で製造する時に融合タンパク質として発現させ、生体内あるいは生体外で天然のアミノケトン不斉還元酵素と実質的に同等の生物学的活性を有しているものに変換・加工してもよい。この場合、遺伝子工学的に常用される融合産生法を用いることができるが、こうした融合タンパク質はその融合部を利用してアフィニティークロマトグラフィー等で精製することも可能である。タンパク質の構造の修飾・改変等は、例えば日本生化学会編、「新生化学実験講座1、タンパク質VII、タンパク質工学」、東京化学同人(1993)を参考にし、そこに記載の方法あるいはそこで引用された文献記載の方法、さらにはそれらと実質的に同様な方法で行うことができる。
【0055】
さらに、本発明のアミノケトン不斉還元酵素は、1個以上のアミノ酸残基が同一性の点で天然のものと異なるもの、1個以上のアミノ酸残基の位置が天然のものと異なるものであってもよい。本発明は、天然のアミノケトン不斉還元酵素に特有なアミノ酸残基が1個以上(例えば、1〜80個、好ましくは1〜60個、さらに好ましくは1〜40個、さらに好ましくは1〜20個、特には1〜10個等)欠けている欠失類縁体、特有のアミノ酸残基の1個以上(例えば、1〜80個、好ましくは1〜60個、さらに好ましくは1〜40個、さらに好ましくは1〜20個、特には1〜10個等)が他の残基で置換されている置換類縁体、1個以上(例えば、1〜80個、好ましくは1〜60個、さらに好ましくは1〜40個、さらに好ましくは1〜20個、特には1〜10個等)のアミノ酸残基が付加されている付加類縁体も包含する。天然のアミノケトン不斉還元酵素の特徴であるドメイン構造を有しているものも包含されてよい。また、同質のアミノケトン不斉還元酵素活性を有するものも挙げられる。
【0056】
天然のアミノケトン不斉還元酵素の特徴であるドメイン構造が維持されていれば、上記のごとき変異体は、全て本発明のアミノケトン不斉還元酵素に包含される。また本発明の天然のアミノケトン不斉還元酵素と実質的に同等の一次構造コンフォメーションあるいはその一部を有しているものも含まれてよいと考えられ、さらに天然のアミノケトン不斉還元酵素と実質的に同等の生物学的活性を有しているものも含まれてよいと考えられる。さらに天然に生ずる変異体の一つであることもできる。こうした本発明のアミノケトン不斉還元酵素は、下記で説明するように分離・精製処理されることができる。一方では、こうして本発明は上記したポリペプチドをコードするDNA断片、そして天然の特性の全部あるいは一部を有するアミノケトン不斉還元酵素のポリペプチド、さらにその類縁体あるいは誘導体をコードするDNA断片も包含する。該アミノケトン不斉還元酵素のヌクレオチドは、修飾(例えば、付加、除去、置換等)されることもでき、そうした修飾されたものも包含されてよい。
【0057】
本発明のアミノケトン不斉還元酵素遺伝子は、上記のアミノケトン不斉還元酵素をコードする核酸である。代表的には、配列表の配列番号78に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする核酸、特に配列番号79に記載の塩基配列を有する核酸が挙げられるが、一つのアミノ酸をコードする塩基配列(コドン)は複数存在するため配列番号78に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする核酸は多数存在する。従って、このような核酸も本発明のアミノケトン不斉還元酵素遺伝子に包含される。ここで、「タンパク質をコードする」とは、DNAが2本鎖である場合には、相補2本鎖のいずれか一方がタンパク質をコードする塩基配列を有するものを含むことを意味するため、本発明の核酸には配列番号78に記載のアミノ酸配列を直接コードする塩基配列からなる核酸若しくはその相補的な塩基配列からなる核酸も包含される。さらに、本発明にかかるアミノケトン不斉還元酵素遺伝子は、配列番号79と相補的な塩基配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、且つアミノケトン不斉還元活性を有するタンパク質をコードする核酸であってもよい。ここで、「ストリンジェントな条件」とは、前記定義と同一である。
【0058】
補酵素再生系酵素遺伝子は、各種脱水素酵素、すなわちグルコース脱水素酵素、グルコース6リン酸脱水素酵素、アルデヒド脱水素酵素、アルコール脱水素酵素、有機酸脱水素酵素及びアミノ酸脱水素酵素などが挙げられる。より具体的には、アセトアルデヒド脱水素酵素、エタノール脱水素酵素、プロパノール脱水素酵素、グリセロール脱水素酵素、ギ酸脱水素酵素、酢酸脱水素酵素、酪酸脱水素酵素、乳酸脱水素酵素、リンゴ酸脱水素酵素及びグルタミン酸脱水素酵素などが適宜利用される。
【0059】
本発明の形質転換体は、上記ベクターを含むことを特徴とする。形質転換体は、宿主細胞に上記ベクターを導入することにより得られる。ベクターの導入方法は公知の方法、例えば、リン酸カルシウム法、リポフェクション法、エレクトロポレーション法、マイクロインジェクション法などで行うことが可能である。
【0060】
例えば、アミノケトン不斉還元酵素遺伝子が挿入されたベクターを含む本発明の形質転換体は、アミノケトン不斉還元活性を有しており、下記のアミノケトン不斉還元酵素の製造方法や光学活性アミノアルコールの製造方法に応用することが可能である。
【0061】
本発明のアミノケトン不斉還元酵素の製造方法は、アミノケトン不斉還元酵素遺伝子が挿入されたベクターを含む形質転換体を該形質転換体が増殖可能な培地で培養する培養工程と、前記培養工程で得られた該形質転換体からアミノケトン不斉還元酵素を精製する精製工程と、を含むことを特徴とする。
【0062】
前記培養の方法としては、使用する菌体が生育可能な条件であれば特に制限はなく公知の方法が使用でき、通常、炭素源、窒素源、その他養分を含む液体培地が使用される。培地の炭素源としては、上記菌体が利用可能であればいずれでも使用できる。具体的には、グルコース、フルクトース、シュクロース、デキストリン、デンプン、ソルビトール等の糖類、メタノール、エタノール、グリセロール等のアルコール類、フマル酸、クエン酸、酢酸、プロピオン酸等の有機酸類およびその塩類、パラフィン等の炭化水素類、あるいはこれらの混合物等が使用できる。窒素源としては上記菌体が利用可能であればいずれでも使用できる。具体的には、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウム等の無機酸のアンモニウム塩;フマル酸アンモニウム、クエン酸アンモニウム等の有機酸のアンモニウム塩;硝酸ナトリウム、硝酸カリウム等の硝酸塩;肉エキス、酵母エキス、麦芽エキス、ペプトン等の無機または有機含窒素化合物、あるいはこれらの混合物等が使用できる。また、培地には、無機塩、微量金属塩、ビタミン類等の通常の培養に用いられる栄養源を適宜添加してもよい。また、必要に応じて、培地には、菌体の増殖を促進する物質、培地のpH保持に有効な緩衝物質等を添加してもよい。
【0063】
菌体の培養は、生育に適した条件下で行うことができる。具体的には培地のpH3〜10、好ましくは4〜9、温度0〜50℃、好ましくは20〜40℃で行うことができる。菌体の培養は、好気的または嫌気的条件下で行うことができる。培養時間は10〜150時間が好ましいが、それぞれの菌体により適宜決められるべきである。
【0064】
このようにして培養された菌体の培養液をろ過または遠心分離して、その菌体を水又は緩衝液でよく洗浄する。洗浄した菌体は適量の緩衝液に懸濁し、菌体を破砕する。破砕の方法としては特に制限はないが、例えば、乳鉢、ダイノミル、フレンチプレス、超音波破砕機等の機械的破砕法が挙げられる。得られた菌体の破砕液中より、固形物をろ過または遠心分離によって除去して得られた無細胞抽出液中のアミノケトン不斉還元酵素は酵素単離の常法によって採取される。
【0065】
このような酵素単離の方法としては特に制限はなく、公知の方法を用いることができるが、例えば、硫酸アンモニウム沈殿法等の塩析;セファデックス等によるゲルろ過法;ジエチルアミノエチル基あるいはカルボキシメチル基等を持つ担体等を用いたイオン交換クロマトグラフィー法;ブチル基、オクチル基、フェニル基等疎水性基を持つ担体等を用いた疎水性クロマトグラフィー法;色素ゲルクロマトグラフィー法;電気泳動法;透析;限外ろ過法;アフィニティークロマトグラフィー法;高速液体クロマトグラフィー法等により精製することができる。
【0066】
さらに、前記酵素を固定化酵素として用いることもできる。このような方法としては特に制限はなく、公知の方法を用いることができるが、酵素又は酵素産生細胞を固定化したものが挙げられ、共有結合法や吸着法といった担体結合法、架橋法、包括法等により固定化できる。また、グルタルアルデヒド、ヘキサメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソチオシアネート等の縮合剤を必要に応じて使用してもよい。また、他の固定化法としては、例えば、モノマーを重合反応でゲル化させて行うモノマー法;通常のモノマーよりも大きな分子を重合させるプレポリマー法;ポリマーをゲル化させて行うポリマー法;ポリアクリルアミドを用いた固定化;アルギン酸、コラーゲン、ゼラチン、寒天、κ−カラギーナン等の天然高分子を用いた固定化;光硬化性樹脂、ウレタンポリマー等の合成高分子を用いた固定化が挙げられる。
【0067】
このようにして精製された酵素は、電気泳動(SDS−PAGE等)によって単一バンドが確認されれば精製が十分に行われたものと判断される。
【0068】
本発明の光学活性アミノアルコールの製造方法は、一般式(1):
【化8】

(式中、
Xは同一又は異なっていてもよく、ハロゲン原子、低級アルキル基、保護基で保護されていてもよいヒドロキシル基、ニトロ基及びスルホニル基からなる群より選ばれる少なくとも一種を示し;
nは0〜3の整数を示し;
は低級アルキル基を示し;
,Rは同一又は異なっていてもよく、水素原子及び低級アルキル基からなる群より選ばれる少なくとも一種を示し;
*は不斉炭素を示す)
で表されるα−アミノケトン化合物又はその塩のエナンチオマー混合物に本発明の製造方法で得られるアミノケトン不斉還元酵素を作用させて一般式(2):
【化9】

(式中、X、n、R、R、R及び*は前記定義と同一)
で表される光学活性アミノアルコール化合物であって、所望の光学活性を有する該化合物を生成せしめることを特徴とする。
【0069】
まず、本発明にかかる一般式(1)で表されるα−アミノケトンについて説明する。
【0070】
置換基Xについて説明する。前記ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子およびヨウ素原子などが挙げられる。
【0071】
また、低級アルキル基としては炭素数1〜6のアルキル基が好ましく、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基およびヘキシル基などが挙げられる。これらは、直鎖状または分枝状のいずれの構造を取っていてもよい。また、置換基として、フッ素原子や塩素原子などのハロゲン原子、ヒドロキシル基、アルキル基、アミノ基またはアルコキシ基などを有していてもよい。
【0072】
保護基で保護されていてもよいヒドロキシル基の保護基としては、水で処理して除去可能なもの、酸または弱塩基で除去可能なもの、水素添加にて除去可能なもの、ルイス酸触媒およびチオ尿素などで除去可能なものなどが挙げられ、前記保護基には、置換基を有していてもよいアシル基、置換基を有していてもよいシリル基、アルコキシアルキル基、置換基を有していてもよい低級アルキル基、ベンジル基、p−メトキシベンジル基、2,2,2−トリクロロエトキシカルボニル基、アリルオキシカルボニル基およびトリチル基などが含まれる。
【0073】
なお、前記アシル基には、アセチル基、クロロアセチル基、ジクロロアセチル基、ピバロイル基、ベンゾイル基およびp−ニトロベンゾイル基などが含まれる。また、置換基として、ヒドロキシル基、アルキル基、アルコキシ基、ニトロ基およびハロゲン原子などを有していてもよい。前記シリル基には、トリメチルシリル基、t−ブチルジメチルシリル基およびトリアリールシリル基などが含まれる。また、置換基として、アルキル基、アリール基、ヒドロキシル基、アルコキシ基、ニトロ基およびハロゲン原子などの置換基を有していてもよい。前記アルコキシアルキル基には、メトキシメチル基および2−メトキシエトキシメチル基などが含まれる。前記低級アルキル基には炭素数1〜6のアルキル基が含まれ、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基およびヘキシル基などが挙げられる。これらは直鎖状または分枝状のいずれの構造を取っていてもよい。また、置換基として、フッ素原子や塩素原子などのハロゲン原子、ヒドロキシル基、アルキル基、アミノ基およびアルコキシ基などを有していてもよい。
【0074】
また、Xはニトロ基またはスルホニル基でもよく、具体的にはメチルスルホニル基などが挙げられる。
【0075】
さらに、Xの数nは0〜3の整数であり、好ましくは0である。
【0076】
また、前記一般式(1)中のRは低級アルキル基を示す。このような低級アルキル基としては炭素数1〜6のアルキル基が好ましく、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基およびヘキシル基などが挙げられる。これらは直鎖状または分枝状のいずれの構造を取ってもよい。
【0077】
、Rは水素原子または低級アルキル基を示す。前記低級アルキル基には炭素数1〜6のアルキル基が含まれ、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基およびヘキシル基などが挙げられる。これらは直鎖状または分枝状のいずれの構造を取ってもよい。
【0078】
また、前記α−アミノケトン化合物の塩としては、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩、炭酸塩などの無機酸の塩、または、酢酸、クエン酸などの有機酸の塩が挙げられる。
【0079】
前記α−アミノケトンは、対応する1−フェニルケトン誘導体のα炭素をハロゲン化、例えば、ブロム化後、ブロム基などのハロゲンをアミンに置換することによって容易に合成できる(Ger.(East),11,332,Mar.12,1956)。
【0080】
次に、本発明にかかる一般式(2)で表される光学活性アミノアルコールについて説明する。前記一般式(2)におけるX、n、R、R、R及び*は前記一般式(1)における定義と同一である。さらに所望の光学活性を有するβ−アミノアルコールとしては(1S,2S)アミノアルコールが挙げられる。(1S,2S)アミノアルコールの具体例として、d−スレオ−2−メチルアミノ−1−フェニルプロパノール(d−プソイドエフェドリン)、d−スレオ−2−ジメチルアミノ−1−フェニルプロパノール(d−メチルプソイドエフェドリン)、(1S,2S)−α−(1−アミノエチル)−ベンジルアルコール(d−ノルプソイドエフェドリン)、(1S,2S)−1−(p−ヒドロキシフェニル)−2−メチルアミノ−1−プロパノール、(1S,2S)−α−(1−アミノエチル)−2,5−ジメトキシ−ベンジルアルコール、(1S,2S)−1−(m−ヒドロキシフェニル)−2−アミノ−1−プロパノール、(1S,2S)−1−(p−ヒドロキシフェニル)−2−アミノ−1−プロパノール、(1S,2S)−1−フェニル−2−エチルアミノ−1−プロパノール、(1S,2S)−1−フェニル−2−アミノ−1−ブタノール、(1S,2S)−1−フェニル−2−メチルアミノ−1−ブタノールなどが挙げられる。
【0081】
所望の光学活性を有する一般式(2)で表される光学活性アミノアルコールが生成する限り、アミノケトン不斉還元酵素を作用させる条件は特に限定されないが、当該酵素の至適pHは8.1であり、至適温度は55℃であることから、pH7〜9及び温度30〜65℃の条件で行うことが好ましい。
【0082】
さらに、本発明の光学活性アミノアルコールの製造方法は、一般式(1):
【化10】

で表されるα−アミノケトン化合物又はその塩のエナンチオマー混合物に本発明の形質転換体を作用させて一般式(2):
【化11】

で表される光学活性アミノアルコール化合物であって、所望の光学活性を有する該化合物を生成せしめることを特徴とする。
【0083】
前記反応を行う際の反応条件としては、例えば、液体培地で振盪培養した形質転換菌を集菌し、得られた菌体にアミノケトン水溶液(0.1〜10%濃度)を加え、pHを6〜8に調整しながら温度20〜40℃で数時間から1日反応させればよい。反応終了後、菌体を分離し、反応液中の生成物を単離することにより、光学活性アミノアルコールを得ることができる。ここで、形質転換菌の処理菌体(乾燥菌体や固定化菌体等)や形質転換菌から得られた酵素、又は、固定化酵素等も同様にして行うことが可能である。
【0084】
また、本発明の光学活性アミノアルコールの製造方法においては、一般式(3):
【化12】

(式中、
Aは下記式(Y)又は(Z)を表し、
【化13】

(ここで、Rは水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜3のアルキル基、Rと結合してなる炭素数5〜10の炭化水素環又はRと結合してなる1〜3個のヘテロ原子を含む5〜8員環のヘテロ環状骨格を表す。)、
【化14】

(ここで、Rは水素原子、炭素数1〜3のアルキル基、若しくはR又はRと結合してなる1〜3個のヘテロ原子を含む5〜8員環のヘテロ環状骨格を表し、Rは水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜3のアルキル基、Rと結合してなる炭素数5〜10の炭化水素環、R又はRと結合してなる1〜3個のヘテロ原子を含む5〜8員環のヘテロ環状骨格を表し、Rは水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜6のアルキル基を表す。);Rは水素原子、カルボキシル基、置換基を有していてもよい炭素数1〜6のアルキル基、Rと結合してなる1〜3個のヘテロ原子を含む5〜8員環のヘテロ環状骨格、Rと結合してなる炭素数5〜10の炭化水素環を表し;Rは水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜6のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数1〜6のアルキルオキシカルボニル基、置換基を有していてもよいアシル基、R又はRと結合してなる1〜3個のヘテロ原子を含む5〜8員環のヘテロ環状骨格を表し;R10は水素原子又は置換基を有していてもよい炭素数1〜6のアルキル基を表す。)
で表される化合物、又はその製薬学的に許容される塩あるいは溶媒和物をさらに添加して反応を行うことにより、より効率的に光学活性アミノアルコールの製造を行うことが可能である。
【0085】
前記一般式(3)において、炭素数1〜3のアルキル基としては、直鎖状、分枝状のいずれであってもよく、具体的にはメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基などが挙げられる。また、炭素数1〜6のアルキル基としては、直鎖状、分枝状のいずれであってもよく、具体的にはメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基およびヘキシル基などが挙げられる。炭素数5〜10の炭化水素環としてはシクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル、シクロノニルおよびシクロデカニルなどが挙げられる。
【0086】
ヘテロ原子1〜3個を含む5〜8員環のヘテロ環状骨格において、ヘテロ原子としては窒素原子、酸素原子、硫黄原子などが挙げられ、特に好ましくは窒素原子、酸素原子が挙げられ、5〜8員環のヘテロ環状骨格としてはピロリジン、ピペリジン、イミダゾリジン、ピペラジン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、テトラヒドロチオフェンおよびモルホリンなどが挙げられる。
【0087】
また、炭素数1〜6のアルキルオキシカルボニル基としてはメチルオキシカルボニル基、エチルオキシカルボニル基、イソプロピルオキシカルボニル基、イソブチルオキシカルボニル基およびt−ブチルオキシカルボニル基などが挙げられる。アシル基としてはホルミル基、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基、ピバロイル基、ベンゾイル基およびバレリル基などが挙げられる。前記の炭素数1〜3または炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のアルキルオキシカルボニル基またはアシル基が置換基を有する場合には、置換基の種類、置換位置、及び置換基の数に限定されないが、置換基としては、例えばフッ素原子や塩素原子などのハロゲン原子、ヒドロキシル基、アルキル基、カルボキシル基、アミノ基、アルコキシ基、ニトロ基およびアリール基などが挙げられる。さらに、製薬学的に許容される塩としては塩酸、硫酸、硝酸、リン酸などの無機酸の塩、酢酸、クエン酸などの有機酸の塩、Na、K、Mg、Ca、アンモニアなどの無機塩基の塩およびトリエチルアミン、シクロヘキシルアミンなどの有機塩基の塩が挙げられる。
【0088】
このような一般式(3)で表される化合物としては、例えば、1−アセチルアミノ−2−ヒドロキシプロパン、1−メチルアミノ−2−ヒドロキシプロパン、1−アミノ−2−オキソプロパン、1−アミノ−2−ヒドロキシシクロペンタン、1−アミノ−2,3−ジヒドロキシプロパン、L−トレオニン、4−アミノ−3−ヒドロキシブタン酸、1−アミノ−2−オキソシクロヘキサン、モルホリン、3−ヒドロキシピロリジン、3−ヒドロキシピペリジン、2−アミノメチル−テトラヒドロフラン、1−(2−ヒドロキシプロピル)アミノ−2−ヒドロキシプロパン、1−t−ブチロキシカルボニルアミノ−2−ヒドロキシプロパン、2−アミノ−3−ヒドロキシブタン、DL−セリン、1−アミノ−2−ヒドロキシプロパン、1−アミノ−2−ヒドロキシブタン、1−アミノ−2−ヒドロキシシクロヘキサンが挙げられる。これらのうち、不斉炭素原子を有する化合物においては、特に記載がない限り、光学活性体であっても、ラセミ体であってもよい。
【0089】
これら活性誘導剤を培地中に添加することにより、菌体の活性が誘導され、その後の光学活性なβ−アミノアルコールの生成は、無添加時に比べ効率よく進行する。活性誘導剤は各々単独で用いてもよく、または複数の誘導剤の混合物で用いてもよい。このような活性誘導剤の添加量は、培地に対し0.01〜10重量%が望ましい。
【0090】
本発明にかかるβ−アミノアルコールの製造における反応方法としては、前記一般式(1)に示されるα−アミノケトン化合物またはその塩のエナンチオマー混合物に前記菌体又は菌体から得られた酵素が作用して、対応する一般式(2)で示される光学活性β−アミノアルコール化合物を生成する方法であれば特に限定されず、原料であるα−アミノケトンの水溶液に、緩衝液または水などで洗浄した菌体を混合することで反応を開始する。
【0091】
また、反応条件は一般式(2)で示される光学活性β−アミノアルコール化合物の生成を損なわない範囲で選択できる。菌体量は、乾燥菌体として、ラセミアミノケトンに対して好ましくは100分の1〜1000倍、より好ましくは10分の1〜100倍である。また、基質であるラセミアミノケトンの濃度は好ましくは0.01〜20%、より好ましくは0.1〜10%である。さらに、反応液のpHは好ましくは5〜9、より好ましくは6〜8であり、反応温度は好ましくは10〜50℃、より好ましくは20〜40℃である。また、反応時間は5〜150時間が好ましいが、それぞれの菌体により適宜決められるべきである。
【0092】
また、反応をより効率的に進行させるために、グルコースなどの糖類、酢酸などの有機酸、グリセロールなどのエネルギー物質を添加することができる。これらは、各々単独で用いてもよく、それらの混合物で用いてもよい。添加量は、基質に対して好ましくは100分の1〜10倍量である。また、補酵素等を添加することもできる。補酵素としては、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)、還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NADH)、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADP)、還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADPH)などを単独または混合物で用いることができ、添加量はラセミアミノケトンに対して好ましくは1000分の1〜5分の1倍量である。また、これら補酵素に加え、補酵素再生酵素、例えば、グルコースデヒドロゲナーゼを添加することができ、添加量はラセミアミノケトンに対して好ましくは1000分の1〜5分の1倍量である。また、補酵素再生酵素の基質、例えばグルコースを添加することもでき、添加量はラセミアミノケトンに対して好ましくは100分の1〜10倍量である。さらに、グルコースなどの糖類、酢酸などの有機酸、グリセロールなどのエネルギー物質、補酵素、補酵素再生酵素および補酵素再生酵素の基質をそれぞれ組み合せて用いてもよい。これらは、本来、菌体中に蓄積されているが、必要に応じてこれら物質を添加することにより、反応速度、収率等を上昇させることができる場合があり、適宜選択され得る。
【0093】
さらに、反応液が上記になるように特定の塩を加え、その条件下で反応させると、未反応のα−アミノケトン異性体のラセミ化が促進され、菌体又は菌体から得られた酵素の基質となる鏡像異性体への変換をより効率的に進行させることができる。これにより、原料から50%以上の高収率で目的のアミノアルコールが得られる傾向にある。
【0094】
未反応のα−アミノケトンのラセミ化を促進する塩としては、酢酸塩、酒石酸塩、安息香酸塩、クエン酸塩、マロン酸塩、リン酸塩、炭酸塩、パラニトロフェノール塩、亜硫酸塩およびホウ酸塩などの弱酸の塩であればよいが、好ましくはリン酸塩(例えば、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸二水素アンモニウム)、炭酸塩(例えば、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸アンモニウム)、クエン酸塩(例えば、クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム、クエン酸アンモニウム)などが使用される。また、これらの混合物も使用でき、pH6.0〜8.0の緩衝液として、最終濃度が0.01〜1Mとなるよう添加することが望ましい。例えば、リン酸塩の場合、リン酸二水素ナトリウム及びリン酸一水素ナトリウムを、9対1から5対95の割合で混合するとよい。
【0095】
反応によって生成した光学活性α−アミノアルコールは、慣用の分離精製手段によって精製できる。例えば、反応液から直接または菌体を分離した後、膜分離、有機溶媒(例えばトルエン、クロロホルムなど)による抽出、カラムクロマトグラフィー、減圧濃縮、蒸留、晶析、再結晶などの通常の精製方法に供することにより、光学活性β−アミノアルコールを得ることができる。生成した光学活性β−アミノアルコールの光学純度は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によって測定することができる。
【実施例】
【0096】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、下記の実施例は本発明の技術範囲を限定するものではない。
【0097】
(実施例1)プラスミドの分離精製
(1)方法
Rhodococcus属菌を5mLのGPY培地(1%グルコース、0.5%バクトペプトン、0.3%イーストエキストラクト)に植菌し、25℃で振盪培養した。対数増殖期に100mg/mLのアンピシリン溶液を250μL添加し、25℃で2時間振盪培養した。遠心分離(12krpm、5分間)で集菌し、上清を取り除いた後、1mLの50mM Tris(pH7.5)で懸濁し、再度、遠心分離(12krpm、5分間)で集菌し、上清を取り除いた。TE溶液(10mM Tris(pH7.5)、1mM EDTA)に溶解した250μLの10mg/mLリゾチーム溶液で懸濁し、37℃で30分間放置した。その後、100μLの3M食塩水と25μLの10%SDSを加え、−20℃で一晩放置した。遠心分離(12krpm、5分間)した上清に50μg/mL ProteinaseK及び50μg/mL RNaseAをそれぞれ0.5μL加え、37℃で15分間放置した。その後、等量のフェノール/クロロホルム/イソアミルアルコール溶液を添加し、遠心分離(12krpm、5分間)を行った。上清に2.5倍量のエタノールを加え、遠心分離(12krpm、5分間)し、50μLの滅菌水に沈殿を溶解した。プラスミドの確認は、0.8%アガロースゲルで電気泳動し、臭化エチジウムで染色した後、UV照射で行った。
【0098】
(2)供試菌株及び結果
本実施例では、Rhodococcus属及びその類縁菌であるMycobacterium属の各種入手可能な菌株から上記(1)の方法にしたがって、プラスミドの有無についてのスクリーニングを行った。
【0099】
スクリーニングした菌株のうちプラスミドの保持を確認できたものを表3に示す。すなわち、Rhodococcus erythropolis(IAM1400、IAM1503、JCM2893、JCM2894及びJCM2895)さらに、Rhodococcus rhodnii(JCM3203)において、それぞれ約5.4kbp及び約5.8kbpのプラスミドを確認できた。これらのプラスミドを、表3に列挙された名称のように、pRET1100、pRET1200、pRET1300、pRET1400、pRET1500、pRET1600、pRET1700、pRET1800、pRET0500、pRET1000と命名した(表3)。
【0100】
なお、R.erythropolis IAM1400及びIAM1503は、東京大学分子細胞生物学研究所が発行した「IAM Catalogue of Strains,Third Edition,2004」に記載されており、当該研究所から入手することができる。また、R.erythropolis JCM2893、JCM2894及びJCM2895、並びにR.rhodnii JCM3203は、独立行政法人理化学研究所が発行した「JCM Catalogue of Strains,Eighth Edition 2002」に記載されており、当該研究所から入手することができる。
【0101】
【表3】

【0102】
(実施例2)制限酵素サイトの特定
表3に示したプラスミドを分類するために各種制限酵素を用いて、制限酵素サイトを調べた。各プラスミドを実施例1に記載の方法で分離した後、EcoRI、HindIII、PvuII、ScaI、SpHI、SmaI、SacI、BamHI及びKpnIで消化し、0.8%アガロースゲルで電気泳動することによりDNA断片を確認した。サイズマーカーはLoading Quick DNA size Marker λ/EcoRI+HindIII double digest(東洋紡)を使用した。サイズマーカーを基に、制限酵素で切断されるサイトの数とそのフラグメントの大きさを決定した。結果を表4にまとめた。
【0103】
【表4】

【0104】
上記解析の結果、表3のプラスミドは、pRET1100と同様の制限酵素サイトを保持するプラスミド類、pRET1200と同様の制限酵素サイトを保持するプラスミド類及びpRET1000の3種類に分類された。
【0105】
(実施例3)プラスミドのシークエンス及び相同性検索
実施例2の結果から、プラスミドが3種類、すなわちpRET1000、pRET1100及びpRET1200に分類されたので、それぞれのプラスミドのシークエンスを試みた。
【0106】
まず、塩基配列を決定するために、これらプラスミド類のクローニングを行った。Rhodococcus erythropolis(IAM1400)については、プラスミド(pRET1100、pRET1200)を分離したあとSmaIとSacIで消化した。0.8%アガロースゲルで電気泳動し、DNA断片を確認したところ、約0.5kbp、約1.7kbp、約3.7kbp、約4.9kbpのDNA断片を確認できた。これらのDNA断片をGFXTM PCR DNA and Gel Band Purification Kit(アマシャムバイオサイエンス社製)を用いてアガロースゲルから回収し、インサートDNAとした。一方、ベクターDNAとしては、pBluescript II KS(−)をSmaI単独で又はSmaI及びSacIで消化したものを用いた。インサートDNAとベクターDNAをLigation high(東洋紡)を用いてライゲーションし、大腸菌JM109に形質転換した。得られた形質転換体をGFX Micro Plasmid Prep Kit(アマシャムバイオサイエンス社製)を用いてスクリーニングし、各々のクローンを得た。
【0107】
一方、Rhodococcus rhodnii(JCM3203)についてはプラスミド(pRET1000)を分離した後、BamHIで消化した。0.8%アガロースゲルで電気泳動したところ、約2.0kbp、約3.8kbpのDNA断片を確認できた。これらのDNA断片を上記のKitを用いてゲルから回収し、インサートDNAとした。ベクターDNAはpBluescriptII KS(−)をBamHIで消化したものを用いた。
【0108】
プラスミドのインサートの塩基配列決定は、プライマーウォーキング法で行った。機器はABI PRISMTM 310NT Genetic Analyzer、酵素はBigDye Terminator v3.1 Cycle Sequencing Kit(ABI製)を使用した。
【0109】
まず、P7(M13 forward、東洋紡)プライマー及びP8(M13 reverse、東洋紡)プライマーを用いてインサートの塩基配列の一部を解読した。次に解読した配列内にプライマーを設計(配列解析ソフトウェアであるDNASIS Proを使用;日立ソフトウェア社)し、設計したプライマー(合成オリゴDNA)を用いてさらに塩基配列を解読した。この手順を、インサートの塩基配列が全て解読できるまで繰り返した。インサートの塩基配列解読が終了したあと、これらのインサートがどのように連結しているかを解析するために、各々のインサートの末端にベクター方向に反応が行われるようプライマーを設計し、Rhodococcus erythropolis(IAM1400)から分離したプラスミドを鋳型としてPCRを行った(KOD Plusを使用)。そのPCR産物をGFXTM PCR DNA and Gel Band Purification Kitを用いて精製し、PCRに使用したプライマーと同じプライマーを使用してシーケンスを行いインサートの整列を解析した。
【0110】
シークエンスの結果、pRET1100は5444bpからなり、そのG+C含量は59%であることが分かった。決定された全塩基配列を配列表の配列番号73に示す。pRET1200は、5421bpからなり、G+C含量は62%であった。pRET1000は、5813bpからなり、G+C含量は67%であった。決定された全塩基配列を配列表の配列番号74に示す。
【0111】
これらの決定された塩基配列をDNASIS Proを用いて、相同性検索を行ったところ、pRET1000及びpRET1100は新規のプラスミドであることが判明した。一方、pRET1200は、pN30(Gene bank accession no.AF312210)と約99.6%(pRET1200を基に計算)相同性があった。
【0112】
さらに、pRET1000及びpRET1100について、決定された塩基配列を基にDNASIS Proを使用して、公知プラスミドとの比較を行った。その結果、両方のプラスミドについて、全ての制限酵素サイトが一致するプラスミドは検出されなかった。
【0113】
(実施例4)塩基配列の解析
pRET1100及びpRET1000の塩基配列を解析した結果を以下に示す。
【0114】
pRET1100には以下のorfが見出された:
配列番号73に記載の塩基配列上、202番目、238番目又は337番目から480番目までの塩基配列からなるorf1(配列番号1、配列番号2又は配列番号3);
配列番号73に記載の塩基配列上、477番目から758番目までの塩基配列からなるorf2(配列番号4);
配列番号73に記載の塩基配列上、862番目、1294番目、1450番目、1462番目、1486番目、1489番目、1513番目、1630番目、1645番目、1687番目、2224番目又は2227番目から2409番目までの塩基配列からなるorf3(配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号14、配列番号15又は配列番号16);
配列番号73に記載の塩基配列上、1875番目、1734番目、1701番目、1674番目又は1581番目から1444番目までの塩基配列に相補的な塩基配列からなるorf4(配列番号17、配列番号18、配列番号19、配列番号20又は配列番号21);
配列番号73に記載の塩基配列上、2828番目、2792番目、2747番目、2594番目又は2540番目から2406番目までの塩基配列に相補的な塩基配列からなるorf5(配列番号22、配列番号23、配列番号24、配列番号25又は配列番号26);
配列番号73に記載の塩基配列上、2971番目又は3049番目から3306番目までの塩基配列からなるorf6(配列番号27又は配列番号28);
配列番号73に記載の塩基配列上、3577番目又は3571番目から3053番目までの塩基配列に相補的な塩基配列からなるorf7(配列番号29又は配列番号30);
配列番号73に記載の塩基配列上、3339番目又は3648番目からそれぞれ3902番目までの塩基配列からなるorf8(配列番号31又は配列番号32);及び
配列番号73に記載の塩基配列上、4366番目又は4477番目から5034番目までの塩基配列からなるorf9(配列番号33又は配列番号34)。
【0115】
pRET1000には以下のorfが見出された:
配列番号74に記載の塩基配列上、3350番目、3251番目、2945番目又は2849番目から2412番目までの塩基配列に相補的な塩基配列からなるorf10(配列番号38、配列番号39、配列番号40又は配列番号41);
配列番号74に記載の塩基配列上、2365番目又は2332番目から2159番目までの塩基配列に相補的な塩基配列からなるorf11(配列番号42又は配列番号43);
配列番号74に記載の塩基配列上、3197番目から3526番目までの塩基配列からなるorf12(配列番号44);
配列番号74に記載の塩基配列上、4035番目又は3996番目から3679番目までの塩基配列に相補的な塩基配列からなるorf13(配列番号45又は配列番号46);
配列番号74に記載の塩基配列上、4621番目、4654番目又は4666番目から4830番目までの塩基配列からなるorf14(配列番号48、配列番号49又は配列番号50);
配列番号74に記載の塩基配列上、5161番目又は5062番目から4709番目までの塩基配列に相補的な塩基配列からなるorf15(配列番号51又は配列番号52);
配列番号74に記載の塩基配列上、2331番目又は2334番目から2618番目までの塩基配列からなるorf16(配列番号53又は配列番号54);
配列番号74に記載の塩基配列上、2907番目から3242番目までの塩基配列からなるorf17(配列番号55);
配列番号74に記載の塩基配列上、1650番目、1689番目、1713番目、1827番目又は1875番目から2162番目までの塩基配列からなるorf18(配列番号56、配列番号57、配列番号58、配列番号59又は配列番号60);
配列番号74に記載の塩基配列上、1906番目から2169番目までの塩基配列からなるorf19(配列番号61);
配列番号74に記載の塩基配列上、810番目から553番目までの塩基配列に相補的な塩基配列からなるorf20(配列番号62);
配列番号74に記載の塩基配列上、117番目、147番目、306番目、456番目、5144番目、5276番目又は5534番目から656番目までの塩基配列からなるorf21(配列番号63、配列番号64、配列番号65、配列番号66、配列番号67、配列番号68又は配列番号69)。
【0116】
pRET1100におけるDNA複製領域は、配列番号35に記載の塩基配列(2410番目から3200番目)、配列番号36に記載の塩基配列(1000番目から1500番目)又は配列番号37に記載の塩基配列(5000番目から500番目)で示される領域である。pRET1000におけるDNA複製領域は、配列番号70に記載の塩基配列(3355番目から3507番目)、配列番号71に記載の塩基配列(4290番目から4350番目)又は配列番号72に記載の塩基配列(3570番目から3894番目)で示される領域である。
【0117】
pRET1000(配列番号74)の塩基配列上、5144番目から656番目の塩基配列(配列番号67)の領域及び4381番目から4830番目の塩基配列(配列番号47)の領域は、mobilization protein(接合タンパク質)と相同性があり、接合に関与することが示唆された。
【0118】
さらに、pRET1000(配列番号74)の塩基配列上、4260番目から4339番目の塩基配列(配列番号75)の領域ではDNAの二次構造が推定され、上記mobilization protein遺伝子の発現や発現したタンパク質の認識部位であることが示唆された。
【0119】
一方、pRET1100(配列番号73)の塩基配列上、761番目から868番目の塩基配列(配列番号76)の領域は、複製に関係するタンパク質の発現に関与するプロモーターであることが示唆された。
【0120】
(実施例5)シャトルベクターの構築
Rhodococcus属菌と大腸菌間のシャトルベクターを構築するために、Rhodococcus属菌のプラスミドpRET1000、pRET1100及びpRET1200と大腸菌のプラスミドpUC18、pHSG299及びpHSG398を使用して以下の実験を行った。
【0121】
まず、R.erythropolisのプラスミドからDNAフラグメントを調製した。すなわち、R.erythropolis(IAM1400)からプラスミドpRET1100及びpRET1200を取得した後、Alw44Iを用いてpRET1100を37℃で2時間消化し、Blunting high(東洋紡)を用いて平滑末端化することにより、一方pRET1200はBspLU11Iを用いて48℃で2時間消化し、Blunting highを用いて平滑末端化することにより、R.erythropolisプラスミドのDNAフラグメントを得た。各々のDNAフラグメントをTE溶液に溶解した。
【0122】
一方、pRET1000については、R.rhodnii(JCM3203)からプラスミドpRET1000を取得した後、DrdIを用いてpRET1000を37℃で2時間消化し、Blunting highを用いて平滑末端化することによりpRET1000のDNAを得、これをTE溶液に溶解した。
【0123】
次にE.coliプラスミドからDNAフラグメントを調製した。すなわちpUC18(アンピシリン耐性遺伝子(Amp)含有)はSmaIを用いて30℃で2時間消化することにより、pHSG299(カナマイシン耐性遺伝子(Km)含有)及びpHSG398(クロラムフェニコール耐性遺伝子(Cm)含有)はHincIIを用いて37℃で2時間消化することにより、E.coliのプラスミドのDNAフラグメントを得、TEに溶解した。
【0124】
上記のように調製したRhodococcus属菌及び大腸菌のプラスミドからのDNAフラグメントをライゲーションした後、E.coli DH5αに形質転換して、30μLの0.1MIPTG(イソプロピル−β−ガラクトシド)と4%のX−gal(5−ブロモ−4−クロロ−3−インドール−β−D−ガラクトピラノシド)を塗布した、100μg/mLのカナマイシン、100μg/mLのアンピシリン又は30μg/mLのクロラムフェニコールを含有するLB(1%トリプトファン、0.5%イーストエキストラクト、1%塩化ナトリウム;pH7.2)寒天培地にプレーティングし、30℃で60時間放置した。出現したコロニーのうち白色のコロニーを選択し100μg/mLのカナマイシン、100μg/mLのアンピシリン又は30μg/mLのクロラムフェニコールを含有するLB液体培地で30℃、60時間振盪培養した。得られた培養液からGFXTM Micro Plasmid Prep Kit(アマシャムバイオサイエンス社製、商品添付資料の条件で精製)を用いてDNAを精製した。得られたDNAを0.8%アガロースゲル電気泳動で確認した。得られたシャトルベクターを表5に、pRET1100を用いた各シャトルベクターの作製方法を図3〜5に示す。
【0125】
【表5】

【0126】
pRET1100とpUC18、pHSG299又はpHSG398とで構成されるシャトルベクターを、それぞれ、pRET1101(配列番号89)、pRET1102(配列番号90)又はpRET1103(配列番号91)と命名した。なお、pRET1101はアンピシリン耐性、pRET1102はカナマイシン耐性、pRET1103は、クロラムフェニコール耐性を示すシャトルベクターである。また、pRET1101〜1103のそれぞれの大腸菌遺伝子とpRET1100の結合の仕方が反対(Rv)のシャトルベクターを、それぞれpRET1101Rv(配列番号92)、pRET1102Rv(配列番号93)及びpRET1103Rv(配列番号94)と命名した。
【0127】
同様に、pRET1000及びpRET1200を用いて構築したシャトルベクターをそれぞれpRET1001〜pRET1003(配列番号95〜配列番号97)及びpRET1001Rv〜pRET1003Rv(配列番号98〜配列番号100)並びにpRET1201〜pRET1203及びpRET1201Rv〜pRET1203Rvと命名した(表5)。
【0128】
(実施例6)R.erythropolisへの形質転換方法の検討
実施例5で得られたRhodococcus属菌−E.coliのシャトルベクターを用いて、R.erythropolis MAK−34株(MAK−34;受託番号 FERM BP−7451、経済産業省産業技術総合研究所生命工学工業技術研究所(現 独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター)にて平成13年2月15日に受託)を形質転換した。遺伝子導入方法としてエレクトロポレーション法を検討した。
【0129】
まず、5mLのGPY培地にR.erythropolis MAK−34株を植菌し、30℃で36時間振盪培養した。その培養液1mLを100mLのLB培地に植え継ぎ、30℃で10時間、200rpmで培養した。培養した菌体を遠心分離(12krpm、5分間、4℃)により回収し、回収した菌体を超純水で2回洗浄した。洗浄し終えた菌体を遠心分離(12krpm、5分間、4℃)により回収し、2.4mLの10%グリセロール溶液に懸濁した。懸濁液を300μLずつ分注し、−80℃で凍結してコンピテントセルとした。
【0130】
作製したコンピテントセル90μLとシャトルベクター(pRET1001、pRET1002、pRET1003、pRET1101、pRET1102、pRET1103、pRET1201、pRET1202及びpRET1203)5μLとを氷上で混合した。混合溶液を氷上で冷却した0.1cmのキュベットに静かに流し込み、Gene Pulser II Electroporation System(BIO−RAD製)にセットした。20kV/cm、400Ω、25μFでパルスし、直ちに300μLのLB培地を加え、25℃で3時間放置した。
【0131】
その菌懸濁液の一部を、抗生物質を含むLBプレート(100μg/mLのカナマイシン、100μg/mLのアンピシリン又は30μg/mLのクロラムフェニコール)にプレーティングした。その結果、カナマイシン耐性遺伝子を持つpRET1002、pRET1102及びpRET1202を用いた場合にコロニーが得られた。また、この得られたコロニーがプラスミドを保持しているかを確認するために、プラスミドを分離して確認したところ、すべてシャトルベクターを保持していた。
【0132】
以上から、エレクトロポレーションによってR.erythropolisを形質転換できるということ、並びにpRET1002、pRET1102及びpRET1202がシャトルベクターとして機能していることが示唆された。
【0133】
(実施例7)アミノケトン不斉還元酵素遺伝子(mak gene)の取得
表5に示したシャトルベクターにmak geneを挿入するために、R.erythropolis MAK−34株からmak geneを単離した。
【0134】
最初に、R.erythropolis MAK−34株のゲノムDNAの取得を行った。5mLのGPY培地にR.erythropolis MAK−34株を植菌し、30℃で48時間振盪培養した後、その培養液を100mLのGPY培地に植え継ぎ、30℃で10時間、200rpmで培養した。Genomic DNA Buffer set及びGenomic−tip 500/G(QIAGEN)を用いてゲノムDNAを取得した。
【0135】
次に、取得したゲノムDNAを鋳型としてKOD−plus−を用いてPCRを行った。プライマーはMAKF1(5’−GAATCTTCTCGTTGATGCAGATCAGGTC−3’;配列番号80)とMAKR2(5’−CTGACTCCGTAGTGTTCTGCCAGTTC−3’;配列番号81)、アニール温度68℃、伸長反応1分50秒でPCRを行った。得られたPCR産物をフェノール/クロロホルム処理及びエタノール沈澱した後、SmaIを用いて30℃で2時間消化したpUC18と混合し、Ligation Highを用いてライゲーションした。Competent high(東洋紡)を用いてE.coli DH5αを形質転換し、30μLの0.1M IPTGと4%のX−galを塗布したLB寒天培地(100μg/mLのアンピシリンを含有)にプレーティングし、30℃で60時間放置した。出現したコロニーのうち白色のコロニーを選択し100μg/mLのアンピシリンを含むLB液体培地で30℃、60時間振盪培養した。得られた培養液からGFXTM Micro Plasmid Prep Kitを用いてDNA精製した。得られたDNAを0.8%アガロースゲル電気泳動で確認した。得られたクローンをpMAK−1と命名した。
【0136】
(実施例8)発現ベクターの構築−1
表5に示したシャトルベクターにプロモーター及びアミノケトン不斉還元酵素遺伝子(mak gene)を挿入した。
【0137】
まず、mak geneの上流約400bpを含む発現ベクター(外来プロモーター無し)のプラスミドを構築した。
【0138】
pMAK−1を、SmaIを用いて30℃で2時間消化し、さらにPstIを用いて37℃で2時間消化した。その溶液を0.8%アガロースゲルで電気泳動に供した。DNAサイズマーカーはLoading Quick DNA size Marker λ/EcoRI+HindIII double digestを使用した。電気泳動後、約1.4kbpのDNAフラグメントをGFXTM PCR DNA and Gel Band Purification Kitを用いて精製し、それをインサートDNAとして使用した。一方、ベクターはpRET1102をHincII及びPstIを用いて37℃で2時間消化したものを使用した。これらのDNA断片をLigation Highを用いてライゲーションし、Competent highを用いてE.coli DH5αを形質転換した。100μg/mLのカナマイシンを含むLB寒天培地にプレーティングし、30℃で60時間放置した。
【0139】
出現したコロニーを100μg/mLのカナマイシンを含むLB液体培地で30℃、60時間振盪培養した。得られた培養液からGFXTM Micro Plasmid Prep Kitを用いてDNA精製した。得られたDNAを0.8%アガロースゲル電気泳動で確認した。
【0140】
スクリーニングは、得られたDNAを制限酵素処理していないもの及びPstIを用いて37℃2時間消化したものを0.8%アガロースゲル電気泳動に供し、得られたDNAのサイズから目的のプラスミドを得た。その際、サイズマーカーはLoading Quick DNA size Marker λ/EcoRI+HindIII double digest、pRET1102及びPstIを用いて37℃2時間消化したpRET1102を用いた。このようにして得たプラスミドをpRET1104と命名した。
【0141】
(実施例9)発現ベクターの構築−2
発現ベクターの改良、遺伝子改変、形質転換効率向上及び菌体内における複製などにおいてベクターの縮小は有効であるため、シャトルベクターの縮小を行った。
【0142】
まず、シャトルベクターpRET1102の縮小を行った。pRET1102をBamHI及びHincIIで2時間消化したあと0.8%アガロース電気泳動に供し、約2.7kbpのDNA断片をGFXTM PCR DNA and Gel Band Purification Kitを用いて回収し、pRET1102のDNA断片を調製した。この際、サイズマーカーはLoading Quick DNA size Marker λ/EcoRI+HindIII double digestを使用した。
【0143】
一方、大腸菌で複製するDNA断片は、pHSG299をBamHI及びHincIIで2時間消化したあと0.8%アガロース電気泳動に供し、約2.7kbpのDNA断片をGFXTM PCR DNA and Gel Band Purification Kitを用いて回収することにより調製した。
【0144】
これらのDNA断片をLigation Highを用いてライゲーションし、Competent highを用いて大腸菌JM109を形質転換し、30μLの0.1M IPTGと4%のX−galを塗布した100μg/mLのカナマイシンを含むLB寒天培地にプレーティングし、30℃で48時間放置した。
【0145】
出現したコロニーのうち白色のコロニーを選択し、100μg/mLのカナマイシンを含むLB液体培地で30℃48時間振盪培養した。得られた培養液からGFXTM Micro Plasmid Prep Kitを用いてDNAを精製した。このようにして得たpRET1102の縮小シャトルベクターをpRET1123(約5.3kbp)と命名した。
【0146】
次に、シャトルベクターpRET1202の縮小を行った。ロドコッカス属菌由来のDNA断片は、pRET1202をEcoRIで2時間消化し、さらにDraIIIで2時間消化した後、Blunting Highを用いて平滑末端化し、0.8%アガロース電気泳動に供した後約3.7kbpのDNA断片をGFXTM PCR DNA and Gel Band Purification Kitを用いて回収することにより調製した。この際、サイズマーカーはLoading Quick DNA size Marker λ/EcoRI+HindIII double digestを使用した。このDNA断片をpHSG299のHincIIサイトへ挿入した。ライゲーション後、Competent highを用いて大腸菌DH5αを形質転換し、30μLの0.1M IPTGと4%のX−galを塗布した100μg/mLのカナマイシンを含むLB寒天培地にプレーティングし、30℃で72時間放置した。出現したコロニーのうち白色のコロニーを選択し、100μg/mLのカナマイシンを含むLB液体培地中、30℃で72時間振盪培養した。得られた培養液からGFXTM Micro Plasmid Prep Kitを用いてDNA精製した。スクリーニングにより得られたプラスミドをSacI、BamHI、PstI又はEcoRIで2時間消化したところ、すべてのクローンがロドコッカス属菌由来の領域のうち、EcoRIサイト側が約500bp削られていた。このプラスミドをpRET1204(約5.9kbp)と命名した。なお、ロドコッカス属菌複製領域が削れていないクローンについては取得できなかった。
【0147】
同様に、シャトルベクターpRET1002の縮小をおこない、pRET1006(約4.9kbp)を得た。
【0148】
これら3種類の縮小プラスミド、pRET1006、pRET1123及びpRET1204でR.erythropolisを形質転換し、実施例6記載の方法でシャトルベクターの保持の有無を確認したところ、シャトルベクターを保持していることを確認した。このことから、3種類の縮小プラスミド、pRET1006、pRET1123及びpRET1204はR.erythropolisにおいて複製することが示唆された。
【0149】
(実施例10)発現ベクターの構築−3
実施例9で構築したシャトルベクターへmak geneを挿入し発現ベクターを構築した。
【0150】
プロモーターを1段階でクローニングするために実施例9で構築したpRET1123のPstIサイトを欠損させた。pRET1123をPstIで2時間消化した後、Blunting Highを用いて平滑末端化し、Ligation Highを用いてライゲーションした。その溶液をCompetent Highを用いて大腸菌JM109を形質転換し、100μg/mLのカナマイシンを含むLBプレートで30℃、36時間培養した。形成されたコロニーを100μg/mLのカナマイシンを含むLB液体培地に植菌し、30℃で24時間培養した後、GFXTM Micro Plasmid Prep Kitを用いてDNA精製し、pRET1132とした。
【0151】
なお、取得したpRET1132に関し、PstIで1時間消化した後、0.8%アガロース電気泳動に供し、pRET1132がPstIで切断されないことを確認した。このときコントロールとして、PstI処理していないpRET1123及びpRET1132と、PstI処理したpRET1123とを使用した。
【0152】
(実施例11)発現ベクターの構築−4
前述のシャトルベクターにプロモーター及びmak geneを挿入したクローンを構築した。
【0153】
プロモーターを挿入するためにmak gene上流にPstIサイトを持つクローンを構築した。アミノケトン不斉還元酵素のC末端にHis−Tagが付加したクローンを得るために、以下の操作を行った。実施例7で得られたpMAK−1を鋳型として、MAKPstF(5’−GACCACTGCAGATCAATCAACTCTGATGAGGTCC−3’;配列番号82)及びMAKHisBglIIR(5’−CGCTTAGATCTCAGTTCGCCGAGCGCCATCGCCG−3’;配列番号83)をプライマーとし、KOD−plus−を用いてアニール温度68℃、伸長反応1分50秒でPCRを行った。得られたPCR産物をBglIIを用いて37℃で2時間消化したPCR断片(インサート)と、pQE70(SpHIを用いて37℃で2時間消化し、Blunting highを用いて平滑末端化し、そしてBglIIを用いて37℃で2時間消化した)とをLigation Highを用いてライゲーションし、Competent highを用いてE.coli DH5αを形質転換し、100μg/mLのアンピシリンを含むLB寒天培地にプレーティングし、30℃で60時間放置した。出現したコロニーを100μg/mLのアンピシリンを含むLB液体培地で30℃60時間振盪培養した。培養液からGFXTM Micro Plasmid Prep Kitを用いてDNA精製した。得られたDNAを0.8%アガロースゲル電気泳動で確認した。
【0154】
スクリーニングは、得られたDNAを制限酵素処理していないもの及びPstI及びBglIIを用いて37℃2時間消化したものを0.8%アガロースゲル電気泳動に供し、得られたDNAのサイズから目的のプラスミドを得た。このようにして得られたプラスミドをpMAK−2と命名した。サイズマーカーはLoading Quick DNA size Marker λ/EcoRI+HindIII double digest、pQE70及びBglIIを用いて37℃2時間消化したpQE70を用いた。
【0155】
このうち、pMAK−2のEcoRI−PstIサイトにpRET1200のRepAプロモーター(pRET1204のうち、ロドコッカス属菌由来DNA断片にコードされているrepAの向きが、pHSG299にコードされているカナマイシン耐性遺伝子と同じ向きのクローンを鋳型とし、P1200rep−Pst5195(5’−AGCCGCTGCAGAAGCAACACCGCATCCGCCCATTG−3’;配列番号84)とP7(5’−CGCCAGGGTTTTCCCAGTCACGAC−3’;配列番号85)をプライマーとし、アニーリング温度60℃、伸長反応1分間でPCR増幅した後、EcoRI及びPstIを用いて37℃で2時間消化したもの)を挿入したクローンを構築した(pMAK−19と命名した)。
【0156】
次に、pMAK−19を鋳型とし、pQE70F1(5’−GGCGTATCACGAGGCCCTTTCGTCTTCACC−3’;配列番号86)及びpQE70R1135Bm(5’−GGTTGGATCCGTCATCACCGAAACGCGCGAGGCAG−3’;配列番号87)をプライマーとし、PCR酵素にKOD−plus−を使用してアニーリング温度60℃伸長反応3分間でPCRを行った。その反応液からGFXTM PCR DNA and Gel Band Purification Kitを用いてPCR産物を精製し、精製したPCR産物をEcoRI及びBamHIで2時間消化した後、0.8%アガロース電気泳動に供し、DNA断片をGFXTM PCR DNA and Gel Band Purification Kitを用いて精製した。そのDNA断片をインサートとした。
【0157】
一方、発現シャトルベクターに用いるベクターは、pRET1132をEcoRI及びBamHIで2時間消化したDNA断片を0.8%アガロース電気泳動に供し、GFXTM PCR DNA and Gel Band Purification Kitを用いて精製したDNA断片を用いた。これらインサートとベクターを混合しLigation Highを用いてライゲーションした後、Competent Highを用いてE.coli JM109を形質転換し、100μg/mLのカナマイシンを含むLBプレートにプレーティングした。得られたコロニーを100μg/mLのカナマイシンを含むLB液体培地で培養した後、GFXTM Micro Plasmid Prep Kitを用いてプラスミドDNAを回収し、0.8%アガロース電気泳動を行うことによりスクリーニングを行った。サイズマーカーはLoading Quick DNA size Marker λ/EcoRI+HindIII double digest及びpRET1132を用いた。こうして得た発現ベクターをpRET1133と命名した。
【0158】
また、pMAK−19をEcoRI及びHindIIIで37℃、2時間消化した後、Blunting highを用いて平滑末端化し、0.8%アガロース電気泳動に供し、約1.6kbpのDNA断片をGFXTM PCR DNA and Gel Band Purification Kitを用いて精製した。この断片をpRET1102のHincIIサイトに挿入したクローンをpRET1114と命名した。
【0159】
さらに、pRET1133のプロモーターの改良を行った。pRET1133にコードされているMAK遺伝子を発現させるプロモーターは、pRET1200のrepA遺伝子のプロモーターで約800bpの長さであるが、このプロモーターを約200bp欠損させたプラスミドを構築した。そのクローニングに使用したプロモーターの調製はPCRで行った。プラスミドpRET1200を鋳型とし、プライマーにP1204rep−Ec2958(5’−CGCGGAATTCGACCACCACGCACGCACACCGCAC−3’;配列番号88)及びP1200rep−Pst5195(5’−AGCCGCTGCAGAAGCAACACCGCATCCGCCCATTG−3’;配列番号84)を使用し、PCR酵素にKOD−plus−を用いて、アニーリング温度60℃、伸長反応50秒間でPCRを行った。PCR産物をGFXTM PCR DNA and Gel Band Purification Kitを用いて精製し、制限酵素EcoRI及びPstIで2時間消化した後、1.6%アガロース電気泳動に供し、DNA断片をGFXTM PCR DNA and Gel Band Purification Kitを用いて精製した。そのDNA断片をインサートとした。このDNA断片に含まれるプロモーター領域の塩基配列を、配列番号77に示した。
【0160】
一方、ベクターについては、pRET1133を制限酵素EcoRI及びPstIで2時間消化した後、0.8%アガロース電気泳動に供し、約7.2kbpのDNA断片をGFXTM PCR DNA and Gel Band Purification Kitを用いて精製した。サイズマーカーはLoading Quick DNA size Marker λ/EcoRI+HindIII double digestを使用した。
【0161】
このようにして得たインサートとベクターをLigation Highを用いてライゲーションし、Competent Highを用いてE.coli JM109を形質転換し、100μg/mLのカナマイシンを含むLBプレートにプレーティングした。得られたコロニーを100μg/mLのカナマイシンを含むLB液体培地で培養した後、GFXTM Micro Plasmid Prep Kitを用いてプラスミドDNAを回収し、0.8%アガロース電気泳動を行うことによりスクリーニングした。サイズマーカーはLoading Quick DNA size Marker λ/EcoRI+HindIII double digest及びpRET1133を用いた。
【0162】
更に、得られたDNAを制限酵素EcoRI及びPstIで2時間消化した後、1.6%アガロース電気泳動を行い、約600bpのインサートに相当するDNA断片を確認した。サイズマーカーは100bp DNA Ladderを使用した。このようにして得た発現ベクターをpRET1138と命名した。
【0163】
(実施例12)組換えR.erythropolisの形質転換及び活性測定
前述の発現ベクターpRET1102、pRET1104、pRET1114及びpRET1138を用いてR.erythropolis MAK−34株及びR.erythropolis JCM2895(独立行政法人 理化学研究所より分譲)を形質転換し、活性測定を行った。MAK−34株から精製されるアミノケトン不斉還元酵素は、国際公開WO02/070714に記載のように、1−2−メチルアミノ−1−フェニル−1−プロパノンに作用し、d−(1S,2S)−プソイドエフェドリンを生成する能力を持っている。その他、1−2−ジメチルアミノプロピオフェノン、1−アミノ−2−ブタノン等にも作用し、それぞれ対応したβ−アミノアルコールの生成が確認されている。
【0164】
活性測定は、菌量O.D.=5、2%グルコース及び0.2Mリン酸ナトリウム緩衝液(pH6.0)になるように反応液を調製し、その反応中に基質として3%の(1S,2S)−2−(N−エチルアミノ)−1−フェニル−1−プロパノール(EAM)を含有するようにした。EAMは、J.Am.Chem.Soc.,vol.50,pp.2287−2292,1928にその合成方法が記載されている。反応液を30℃で16時間振盪反応した。反応生成物のβ−アミノアルコールである(1S,2S)−2−(N−エチルアミノ)−1−フェニル−1−プロパノール(EPE)の確認はHPLCで行った。カラムはInertsil PH−3 3.0×75mm、溶離液は7%アセトニトリル水溶液及び0.05Mのリン酸ナトリウム緩衝液(pH6.0)、検出はUV(220nm)で行った。
【0165】
このようにして活性測定した結果を表6に示した。外来プロモーター領域を持たないpRET1104を導入した組換え体は、対照であるmak geneを持たないpRET1102を導入した組換え体とほぼ同じ活性を示し、組換え酵素の発現は認められなかった。
【0166】
MAK−34株にpRET1114を導入した場合、pRET1104に比べて高い比活性が認められた。このことはベクターに挿入したpRET1200のrepAプロモーター領域が、プロモーターとして機能していることが示された。
【0167】
pRET1138を導入した場合、組換えR.erythropolis MAK−34株の比活性は37.7μg/h・mL/O.D.であり、組換えR.erythropolis JCM2895株の比活性は34.9μg/h・mL/O.D.であり、R.erythropolis株における酵素の発現が確認された。
【0168】
【表6】

【0169】
(実施例13)酵素の精製
実施例12で得られた組換え菌体を100μg/mLのカナマイシンを含有するLB培地100mLで30℃、4日間培養し、12000rpmで5分間遠心分離して集菌し、The QIAexpressionistキット(キアゲン社製)によりHis−tagが付加されたタンパク質を精製した。具体的には、超音波処理により菌を破砕し、遠心分離によりその上清液を得、ニッケルキレートカラムによりタンパク質を精製した。得られたタンパク質をSDS−PAGEに供したところ、分子量約28000のタンパク質バンドが認められた。この分子量は、国際公開WO02/070714に記載のアミノケトン不斉還元酵素の分子量とほぼ同じであり、アミノケトン不斉還元酵素が組換えロドコッカス菌において産生されたことが示された。
【0170】
(実施例14)酵素によるβ−アミノアルコールの製造
実施例13で得られた精製酵素(0.5μg/mL)、5mM NADPH、120mM Tris−HCl(pH7.5)及び5mM EAMを含む反応液0.5mLを37℃で16時間反応させた。基質及び生成物(EPE)の分析はHPLCで行った。カラムはInertsil PH−3 3.0×75mm、溶離液は7%アセトニトリル水溶液及び0.05Mリン酸ナトリウム緩衝液(pH6.0)、検出はUV(220nm)で行った。その結果、EPEが生成したことを確認した。
【0171】
同様に、精製酵素又は実施例13に記載の培養で得られた組換え体の破砕酵素粗抽出液を1−2−ジメチルアミノプロピオフェノン、1−アミノ−2−ブタノン等に作用させ、対応するβ−アミノアルコールを製造できることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0172】
以上説明したように、本発明のプラスミド及びシャトルベクターは、Rhodococcus属菌(特に、Rhodococcus erythropolis又はRhodococcus rhodnii)由来のものであり、これらを利用して同菌を組換えにより改変し、より効率的にアミノケトン不斉還元酵素を産生する菌株を作製することができる。また、アミノケトン不斉還元酵素を含む有用酵素を形質転換体に大量生産させることもできるようになる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号35、配列番号36及び配列番号37に記載の塩基配列からなる群より選ばれる少なくとも1つの塩基配列を有するDNA断片。
【請求項2】
配列番号35、配列番号36及び配列番号37に記載の塩基配列からなる群より選ばれる少なくとも1つの塩基配列を有するDNA複製領域を含むことを特徴とするプラスミド又はその一部であるDNA断片。
【請求項3】
配列番号1、配列番号4、配列番号14、配列番号17及び配列番号22に記載の塩基配列からなる群より選ばれる少なくとも1つの塩基配列を有するDNA断片。
【請求項4】
配列番号1、配列番号4、配列番号14、配列番号17及び配列番号22に記載の塩基配列からなる群より選ばれる少なくとも1つの塩基配列を有するDNA複製関連タンパク質のコード領域を含むことを特徴とするプラスミド又はその一部であるDNA断片。
【請求項5】
配列番号1、配列番号4、配列番号14、配列番号17及び配列番号22に記載の塩基配列からなる群より選ばれる少なくとも1つの塩基配列を有するDNA複製関連タンパク質のコード領域を含み、且つ配列番号35、配列番号36及び配列番号37に記載の塩基配列からなる群より選ばれる少なくとも1つの塩基配列を有するDNA複製領域を含むことを特徴とするプラスミド又はその一部であるDNA断片。
【請求項6】
配列番号76に記載の塩基配列を有するDNA断片。
【請求項7】
配列番号76に記載の塩基配列を有するプロモーター領域を含むことを特徴とするプラスミド又はその一部であるDNA断片。
【請求項8】
配列番号1、配列番号4、配列番号14、配列番号17及び配列番号22に記載の塩基配列からなる群より選ばれる少なくとも1つの塩基配列を有するDNA複製関連タンパク質のコード領域を含み、配列番号35、配列番号36及び配列番号37に記載の塩基配列からなる群より選ばれる少なくとも1つの塩基配列を有するDNA複製領域を含み、且つ配列番号76に記載の塩基配列を有するプロモーター領域を含むことを特徴とするプラスミド又はその一部であるDNA断片。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載のプラスミド又はDNA断片を有し、制限酵素切断部位数がBamHI:2、EcoRI:2、KpnI:1、PvuII:1、SacI:1及びSmaI:1であり、大きさが約5.4kbpであることを特徴とする環状プラスミド。
【請求項10】
配列番号73に記載の塩基配列を有するプラスミド。
【請求項11】
Rhodococcus属菌由来であることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載のプラスミド又はDNA断片。
【請求項12】
配列番号70、配列番号71及び配列番号72に記載の塩基配列からなる群より選ばれる少なくとも1つの塩基配列を有するDNA断片。
【請求項13】
配列番号70、配列番号71及び配列番号72に記載の塩基配列からなる群より選ばれる少なくとも1つの塩基配列を有するDNA複製領域を含むことを特徴とするプラスミド又はその一部であるDNA断片。
【請求項14】
配列番号40、配列番号42、配列番号44、配列番号45、配列番号53、配列番号55、配列番号56、配列番号61、配列番号62及び配列番号69に記載の塩基配列からなる群より選ばれる少なくとも1つの塩基配列を有するDNA断片。
【請求項15】
配列番号40、配列番号42、配列番号44、配列番号45、配列番号53、配列番号55、配列番号56、配列番号61、配列番号62及び配列番号69に記載の塩基配列からなる群より選ばれる少なくとも1つの塩基配列を有するDNA複製関連タンパク質のコード領域を含むことを特徴とするプラスミド又はその一部であるDNA断片。
【請求項16】
配列番号40、配列番号42、配列番号44、配列番号45、配列番号53、配列番号55、配列番号56、配列番号61、配列番号62及び配列番号69に記載の塩基配列からなる群より選ばれる少なくとも1つの塩基配列を有するDNA複製関連タンパク質のコード領域を含み、且つ配列番号70、配列番号71及び配列番号72に記載の塩基配列からなる群より選ばれる少なくとも1つの塩基配列を有するDNA複製領域を含むことを特徴とするプラスミド又はその一部であるDNA断片。
【請求項17】
配列番号40、配列番号42、配列番号44、配列番号45、配列番号53、配列番号55、配列番号56、配列番号61、配列番号62及び配列番号69に記載の塩基配列からなる群より選ばれる少なくとも1つの塩基配列を有するDNA複製関連タンパク質のコード領域を含み、配列番号70、配列番号71及び配列番号72に記載の塩基配列からなる群より選ばれる少なくとも1つの塩基配列を有するDNA複製領域を含み、且つ配列番号76に記載の塩基配列を有するプロモーター領域を含むことを特徴とするプラスミド又はその一部であるDNA断片。
【請求項18】
配列番号67及び配列番号47に記載の塩基配列からなる群より選ばれる少なくとも1つの塩基配列を有するDNA断片。
【請求項19】
配列番号67及び配列番号47に記載の塩基配列からなる群より選ばれる少なくとも1つの塩基配列を有する接合タンパク質領域を含むことを特徴とするプラスミド又はその一部であるDNA断片。
【請求項20】
配列番号75に記載の塩基配列を有するDNA断片。
【請求項21】
配列番号75に記載の塩基配列を有する接合に関する領域を含むことを特徴とするプラスミド又はその一部であるDNA断片。
【請求項22】
請求項12〜21のいずれか1項に記載のプラスミド又はDNA断片を有し、制限酵素切断部位数がBamHI:2、PvuII:4、SacI:3及びSmaI:4であり、大きさが約5.8kbpであることを特徴とする環状プラスミド。
【請求項23】
配列番号74に記載の塩基配列を有するプラスミド。
【請求項24】
Rhodococcus属菌由来であることを特徴とする請求項12〜23のいずれか1項に記載のプラスミド又はDNA断片。
【請求項25】
配列番号77に記載の塩基配列を有するDNA断片。
【請求項26】
配列番号77に記載の塩基配列を有するプロモーター領域を含むことを特徴とするDNA断片。
【請求項27】
請求項1〜26のいずれか1項に記載のプラスミド又はその一部であるDNA断片と大腸菌内で複製可能なDNA領域とを含み、Rhodococcus属菌及び大腸菌内で複製可能なシャトルベクター。
【請求項28】
請求項27記載のシャトルベクターを用いて作製することを特徴とするベクター。
【請求項29】
請求項6、7、25又は26のいずれか1項に記載のプラスミド又はDNA断片を含むことを特徴とするベクター。
【請求項30】
アミノケトン不斉還元酵素遺伝子が挿入されていることを特徴とする請求項28又は29のいずれか1項に記載のベクター。
【請求項31】
アミノケトン不斉還元酵素遺伝子が、配列番号78に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする核酸、又は配列番号78のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が欠失、挿入、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を有し、且つアミノケトン不斉還元活性を有するタンパク質をコードする核酸であることを特徴とする請求項30記載のベクター。
【請求項32】
アミノケトン不斉還元酵素遺伝子が、配列番号79に記載の塩基配列からなる核酸、又は配列番号79と相補的な塩基配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、且つアミノケトン不斉還元活性を有するタンパク質をコードする核酸であることを特徴とする請求項30記載のベクター。
【請求項33】
請求項28又は29に記載のベクターを含む形質転換体。
【請求項34】
請求項30〜32のいずれか1項に記載のベクターを含む形質転換体。
【請求項35】
請求項34記載の形質転換体を該形質転換体が増殖可能な培地中で培養する培養工程と、
前記培養工程で得られた該形質転換体からアミノケトン不斉還元酵素を精製する精製工程と
を含むアミノケトン不斉還元酵素の製造方法。
【請求項36】
一般式(1):
【化1】

(式中、
Xは同一又は異なっていてもよく、ハロゲン原子、低級アルキル基、保護基で保護されていてもよいヒドロキシル基、ニトロ基及びスルホニル基からなる群より選ばれる少なくとも一種を示し;
nは0〜3の整数を示し;
は低級アルキル基を示し;
,Rは同一又は異なっていてもよく、水素原子及び低級アルキル基からなる群より選ばれる少なくとも一種を示し;
*は不斉炭素を示す)
で表されるα−アミノケトン化合物又はその塩のエナンチオマー混合物に請求項35記載の製造方法で得られるアミノケトン不斉還元酵素を作用させて一般式(2):
【化2】

(式中、X、n、R、R、R及び*は前記定義と同一)
で表される光学活性アミノアルコール化合物であって、所望の光学活性を有する該化合物を生成せしめる光学活性アミノアルコールの製造方法。
【請求項37】
一般式(1):
【化3】

(式中、
Xは同一又は異なっていてもよく、ハロゲン原子、低級アルキル基、保護基で保護されていてもよいヒドロキシル基、ニトロ基及びスルホニル基からなる群より選ばれる少なくとも一種を示し;
nは0〜3の整数を示し;
は低級アルキル基を示し;
,Rは同一又は異なっていてもよく、水素原子及び低級アルキル基からなる群より選ばれる少なくとも一種を示し;
*は不斉炭素を示す)
で表されるα−アミノケトン化合物又はその塩のエナンチオマー混合物に請求項34記載の形質転換体を作用させて一般式(2):
【化4】

(式中、X、n、R、R、R及び*は前記定義と同一)
で表される光学活性アミノアルコール化合物であって、所望の光学活性を有する該化合物を生成せしめる光学活性アミノアルコールの製造方法。
【請求項38】
請求項37記載の光学活性アミノアルコールの製造方法において、
一般式(3):
【化5】

(式中、
Aは下記式(Y)又は(Z)を表し、
【化6】

(ここで、Rは水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜3のアルキル基、Rと結合してなる炭素数5〜10の炭化水素環又はRと結合してなる1〜3個のヘテロ原子を含む5〜8員環のヘテロ環状骨格を表す。)、
【化7】

(ここで、Rは水素原子、炭素数1〜3のアルキル基、若しくはR又はRと結合してなる1〜3個のヘテロ原子を含む5〜8員環のヘテロ環状骨格を表し、Rは水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜3のアルキル基、Rと結合してなる炭素数5〜10の炭化水素環、R又はRと結合してなる1〜3個のヘテロ原子を含む5〜8員環のヘテロ環状骨格を表し、Rは水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜6のアルキル基を表す。);
は水素原子、カルボキシル基、置換基を有していてもよい炭素数1〜6のアルキル基、Rと結合してなる1〜3個のヘテロ原子を含む5〜8員環のヘテロ環状骨格、Rと結合してなる炭素数5〜10の炭化水素環を表し;
は水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜6のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数1〜6のアルキルオキシカルボニル基、置換基を有していてもよいアシル基、R又はRと結合してなる1〜3個のヘテロ原子を含む5〜8員環のヘテロ環状骨格を表し;
10は水素原子又は置換基を有していてもよい炭素数1〜6のアルキル基を表す。)
で表される化合物、又はその製薬学的に許容される塩あるいは溶媒和物をさらに添加して光学活性アミノアルコールを生成させる光学活性アミノアルコールの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【国際公開番号】WO2005/042739
【国際公開日】平成17年5月12日(2005.5.12)
【発行日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−515171(P2005−515171)
【国際出願番号】PCT/JP2004/016104
【国際出願日】平成16年10月29日(2004.10.29)
【出願人】(390010205)第一ファインケミカル株式会社 (23)
【Fターム(参考)】