説明

新規な使用

炎症性疾患、特に、腸管炎症性疾患の予防または治療におけるガラクトオリゴ糖の使用。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オリゴ糖、特に、炎症の予防または治療におけるガラクトオリゴ糖の使用、特に、腸管炎症の予防または治療における使用に関する。ガラクトオリゴ糖は、非可消化炭水化物であり、哺乳動物の胃腸の消化酵素に耐性があるが、特定の結腸細菌によって発酵する。
【背景技術】
【0002】
ヒト腸管内菌叢は、病原性、良性および有益な微生物属を含む。前者が優勢であることにより、急性(例えば、胃腸炎)および慢性(例えば、炎症性腸疾患およびいくつかの腸がん)の双方であり得る腸管疾患が引き起こされ得る。
【0003】
結腸内の1種または限定された種数の細菌の成長および/または活性を選択的に刺激することにより、宿主に有利に影響する非可消化食品成分と定義され、これにより宿主の健康が改善される、プレバイオティクスは、炎症性腸疾患(IBD)等の数多くの炎症状態において、間接的な保護効果を有していることが示されている。あるIBD患者は、共生腸内細菌叢に対して適応免疫系が過反応性であることが知られている(Guarner F, Malagelada JR, Best Pract. Res. Clin. Gatroenterol., (2003); 17; 793-804を参照されたい)。それ故に、プレバイオティクスは、病気の再発防止に役立つ有益な腸内微生物叢を増強するために用いれらている(Sartor RD., Gastroenterology, (2004), 126, 1620-1633を参照のこと)。
【0004】
プレバイオティクスに分類される化合物の1つのグループとして、ガラクトオリゴ糖が挙げられる。これらは、Glc β1−4[Gal β1−6]、ここで、n=2〜5である、という形態の、ガラクトース含有オリゴ糖であり、β−ガラクトシダーゼ酵素の糖転移酵素活性を用いて、ラクトースシロップから産生される(Crittenden, (1999) Probiotics: A Critical Review, Tannock, G. (ed) Horizon Scientific Press, Wymondham, pp 141-156)。
【0005】
欧州特許第1644482号には、ラクトースを新規なガラクトオリゴ糖混合物に転換するガラクトシダーゼ酵素活性を生じる、新規なビフィドバクテリウム・ビディフム(Bifidobacterium bidifum)株が開示されている。このガラクトオリゴ糖混合物は、二糖:Gal(β1‐3)Glc;Gal(β1‐3)‐Gal;Gal(β1‐6)‐Gal;Gal(α1‐6)‐Gal;三糖:Gal(β1‐6)‐Gal(β1‐4)‐Glc;またはGal(β1‐3)‐Gal(β1‐4)‐Glc;四糖:Gal(β1‐6)‐Gal(β1‐6)‐Gal(β1‐4)‐Glcまたは五糖:Gal(β1‐6)‐Gal(β1‐6)‐Gal(β1‐6)‐Gal(β1‐4)‐Glcを含み、プレバイオティクス性を有し、有益な細菌ビフィズス菌および乳酸菌の個体群を増加させることが示されている。このガラクトオリゴ糖混合物は、Bimuno(登録商標)の名称で市販されており、Clasado社(英国、ミルトン・キーンズ)から入手可能である。
【0006】
Vulevic, J et alは、Am. J Clin. Nutr., (2008), 88 : 1438-46において、健康な高齢者にガラクトオリゴ糖を投与することが、糞便の細菌叢組成物および免疫応答の双方において、いかに、好ましい効果をもたらしたかを記載している。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
DP(重合度)3以上を有するガラクトオリゴ糖が、哺乳動物の腸管粘膜の炎症反応を直接調節し得ることを見出した。特に、このようなガラクトオリゴ糖は、炎症性物質の存在下、炎症促進性のケモカイン反応を減弱させる。従って、このようなガラクトオリゴ糖は、炎症性腸疾患、大腸炎、腸壊死性の大腸炎、偽膜性大腸炎、潰瘍性大腸炎、クローン病、憩室炎、虚血等の腸管炎症状態の処置において有用であり得る。
【0008】
本発明によれば、炎症の予防または治療、好ましくは、腸管炎症性疾患の予防または治療における使用のための、DPが3以上のガラクトオリゴ糖が提供される。好ましくは、ガラクトオリゴ糖は3〜5のDPを有する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】T84細胞内におけるTNF−α誘導IL−8分泌に対するB−GOSの効果を示す。
【図2】(A)および(B)は、NCM−460細胞内におけるTNF−α誘導IL−8およびMIP−3α分泌に対するB−GOSの効果を示す。
【図3】(A)および(B)は、TNF−αで処理したNCM−460細胞内におけるIL−8およびMIP−3α mRNAの発現に対するB−GOSの効果を示す。
【図4】(A)、(B)および(C)は、TNF−αの核で処理したNCM−460細胞へのNF−κB p65タンパク質の転座に対するB−GOSの効果を示す。
【図5】NCM−460細胞におけるTNF−α誘導IL−8分泌に対するB−GOSの効果を示す。
【図6】NCM−460細胞におけるTNF−α誘導IL−8分泌に対するB−GOSの効果を示す。
【図7】(A)および(B)は、DSSで処理したマウスにおけるIL−6およびMIP−2分泌に対するB−GOSの効果を示す。
【図8】(A)および(B)は、IL−8およびMIP−3αの産生に対するガラクトオリゴ糖の種々の画分の効果をそれぞれ示す。
【図9】(A)および(B)は、NCM460細胞がBimunoならびにDP3およびDP>3のその画分で処理されている場合、TNF−α誘導IL 8およびMIP−3 αの産生に対する効果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
ガラクトオリゴ糖は、三糖の場合、Gal‐Gal‐Glc、四糖の場合、Gal‐Gal‐Gal‐Glc、五糖の場合、Gal‐Gal‐Gla‐Gal‐Glcという式を有し、ここで、Galはガラクトース残基を示し、Glcはグルコース残基を示す。ガラクトオリゴ糖の構造は、Gal(β1‐6)‐Gal(β1‐4)‐Glc、Gal(β1‐3)‐Gal(β1‐4)‐Glc、Gal(β1‐6)‐Gal(β1‐6)‐Gal(β1‐4)‐GlcおよびGal(β1‐6)‐Gal(β1‐6)‐Gal(β1‐6)‐Gal(β1‐4)‐Glcである。ガラクトオリゴ糖は、好ましくは、前述のガラクトオリゴ糖からなる群より選択される。
【0011】
腸細胞は、単一の分極上皮層を形成し、宿主から腸腔環境を分離している。これらは、宿主の生体防御に貢献する。あらゆる炎症刺激に対する腸細胞の自然免疫反応は、主に、上皮のバリア機能を素早く再生することに関与する。上皮は、必要に応じて、損傷した粘膜に、好中球等の自然免疫細胞を補充するプロセスを開始する、炎症促進性サイトカインおよびケモカインを発現するように誘導される。例えば、IL−8等の炎症促進性ケモカインは、上皮細胞およびマクロファージによって、免疫応答の間、炎症を起こした粘膜に好中球およびPMN(多形核白血球)を補充するように、刺激され得る。マクロファージ炎症性タンパク質−3α(MIP−3α)、またはCCL20は、ケモカイン受容体CCR6の活性化によってリンパ球および樹状細胞を活性化することにより、適応免疫系を誘発する別のケモカインである。IL−8およびMIP−3α(CCL20)の誘導は、炎症誘発に対する反応の程度を示す。
【0012】
種々の成人結腸細胞培養モデルの炎症反応に対するガラクトオリゴ糖の効果を研究した。生理的濃度において、ガラクトオリゴ糖は、腸管上皮細胞、即ちヒト腸細胞におけるTNF−α炎症刺激によって誘導される炎症促進性ケモカイン反応を減弱させることを予期せず見出した。
【0013】
ガラクトオリゴ糖は、Bimunoとして知られている市販のガラクトオリゴ糖混合物から、例えば、室温に保たれたBiogel P2カラムを用いて、例えば、サイズ排除クロマトグラフィーを用いることによって、精製することで調製してもよい。水中にこの粉末を10%w/vで溶解し、脱イオン水で2mL/分の速度で溶出することにより、試料を調製してもよい。
【0014】
これに代わって、Bimuno混合物の活性画分は、適切な酵素を用いて酵素糖転移によって調製してもよい。
【0015】
ガラクトオリゴ糖は、粉末、シロップまたはソフトトローチの形態で提供してもよい。炎症性疾患、例えば、腸管炎症性疾患を患っている患者に、毎日、有効量の活性ガラクトオリゴ糖を1〜10g、好ましくは2〜5g、最も好ましくは2.75g投与してもよい。これは、単一回投与、または、数時間を置いて、2回量投与とすることができる。ガラクトオリゴ糖粉末は、温かい飲み物に添加しても、食べ物に振り掛けてもよい。シロップは単独で消費することができ、これに代わり、飲料に混入、または、食べ物に塗ることができる。ソフトトローチは口の中で噛まれる。
【0016】
炎症を予防するために、ガラクトオリゴ糖を個人に対して有効一日用量1〜1Og、好ましくは2〜5g、最も好ましくは2.75g投与してもよい。
【0017】
本発明の別の態様によれば、有効量のガラクトオリゴ糖を投与することを含む、腸管炎症等の炎症を処置または予防する方法が提供される。
【0018】
以下の実施例および図面を参照し、本発明を更に説明する。
【実施例1】
【0019】
サイトカイン分泌に対するガラクトオリゴ糖の効果
腸管上皮細胞は、初期濃度5x10細胞/mLから、24−ウェルプレートにおいてコンフルエンスにまで成長した。細胞が70%のコンフルエンスに達したとき、細胞を以下のように4連で処理した:(i)ネガティブコントロール、(ii)TNF−α(10ng/mL)ポジティブコントロール、(iii)B−GOS(5g/L)、ならびに(iv)TNF−α(10ng/mL)およびB−GOS(5g/L)。人乳に見出されるオリゴ糖の生理的濃度である、濃度5g/Lのオリゴ糖を用いた。16時間後、上清を採取し、IL−8およびMIP−3α分泌を後にELISAで測定するため−20℃で保存した。以下の実験では、TNF−αをILlβまたはフラゲリンで置き換えた。
【0020】
IL−8の定量
IL−8の濃度を上述のようにELISAによって測定した(Claud EC, Savidge T, Walker WA 2003 Modulation of human intestinal epithelial cell IL-8 secretion by human milk factors. Pediatr Res 53:419-425)。簡潔に述べると、96ウェル高付着プレート(96−well high bond plate)(Nunc Immulon,Fisher Scientific社、ミドルタウン、バージニア州、米国)のそれぞれのウェルを、100μLの3μg/mLマウス抗ヒトIL−8モノクローナル抗体で一晩コーティングし、200μLの1%BSA含有PBSで3回洗浄し、100μLの試料を37℃にて1時間インキュベートした。次に、これらのウェルを3回洗浄し、100μLの0.1μg/mLビオチン−標識マウス抗ヒトIL−8抗体で1時間インキュベートした。もう一度洗浄した後、それぞれのウェルを100μLの西洋ワサビペルオキシダーゼでインキュベートし、再び洗浄した後、100μLのO−フェニレンジアミン二塩酸塩および過酸化水素でインキュベートした。100μLの2N HSOで反応を停止し、吸光度は490nmを示した。試料中のIL−8濃度は、IL−8検量線から計算した。
【0021】
MIP−3αの定量
プレートを一晩、100μLの2.0μg/mLマウス抗ヒトMIP−3αモノクローナル抗体でコーティングしたことを除いてIL−8と同様に、ELISAによりMIP−3α分泌の量を測定した。検出抗体であるビオチン−標識マウス抗ヒトMIP−3α抗体は、検出抗体として濃度50ng/mL、容積100μLで用いた。試料中のMIP−3α濃度は、MIP−3α検量線から計算した。
【0022】
細胞生存率アッセイ
B−GOS細胞毒性を、トリパンブルー色素排除試験法を用いて調べた。NCM−460細胞は、初期濃度2x10細胞/mLからカバーガラス上で成長した。これらの細胞は、B−GOS(5g/L)またはコントロール培地で、3連で処理した。16時間後、NCM−460細胞は、トリパンブルー色素排除アッセイにより細胞生存率をアッセイした(Raimondi F, Crivaro V, Capasso L, Maiuri L, Santoro P, Tucci M, Barone MV, Pappacoda S, Paludetto R 2006 Unconjugated bilirubin modulates the intestinal epithelial barrier function in a human-derived in vitro model. Pediatr Res 60:30-33)。この濃度での細胞の生存率に対するB−GOSの有意な効果はなかった。
【0023】
サイトカイン転写の誘導に対するB−GOSの効果
NCM−460細胞は、初期濃度5x10細胞/mLから6−ウェルプレートにおいてコンフルエンスにまで成長した。これらの細胞が70%のコンフルエンスに達したときに、4連で、以下のように処理した:(i)ネガティブコントロール、(ii)TNF−αまたはILlβまたはフラゲリン(10ng/mL)ポジティブコントロール、ならびに(iii)TNF−αまたはILlβまたはフラゲリン(10ng/mL)およびB−GOS(5g/L)。18時間後、全細胞RNAをトリゾール−クロロホルム抽出によって単離した。Superscript III Platinum SYBR Green One−Step qRT−PCRキットを用いて、IL−8、MIP−3αおよびMCP−1のmRNA発現をMJ Opticon 2上で測定し、GAPDHのmRNA発現に標準化した。
【0024】
NF−κB転座に対するB−GOSの効果
NCM−460細胞は、カバーガラス上で70%のコンフルエンシーにまで成長し、10分間または30分間の2連で、以下のように処理した:(i)ネガティブコントロール、(ii)TNF−α(10ng/mL)ポジティブコントロール、ならびに(iii)TNF−α(10ng/mL)およびB−GOS(5g/L)。培地を除去し、細胞を4%パラホルムアルデヒドに固定した。メタノールによる透過処理および10%ヤギ血清含有0.25%BSA含有TBSによるブロッキングの後、これらの細胞をウサギ抗ヒトNF−κB p65ポリクローナル抗体でプローブした。洗浄後、これらの細胞をCyTM 3−共役ヤギ抗ウサギ抗体でインキュベートした。次に、カバーガラスを洗浄し、スライドガラスに載せ、顕微鏡(Nikon Eclipse TE2000−S)で可視化した。
【0025】
材料
TNF−αサイトカイン、ILlβ、フラゲリン、ストレプトアビジン−HRPおよびhuman CCL20−MIP−3α ELISA development kits(Quantikine)は、R&D Systems社(ミネアポリス、ミネソタ州、米国)から入手した。抗ヒトIL−8およびマウス抗ヒトIL−8抗体は、Pierce Endogen社(ウォバーン、マサチューセッツ州、米国)から入手した。O−フェニレンジアミン錠剤をPierce社(ロックフォード、イリノイ州、米国)から入手した。トリゾール、Superscript III Platinum SYBR Green One−Step qRT−PCR kits、およびqRT−PCRに必要な他の試薬は、Invitrogen社(カールズバッド、CA、米国)から入手した。DMEM/F12培地、CMRL培地、ペニシリン、ストレプトマイシンおよびHEPES緩衝液は、Gibco−Invitrogen社(カールズバッド、CA、米国)から入手した。ウシ胎仔血清は、Atlanta Biologicals社(ローレンスビル、ジョージア州、米国)から入手した。M3Dは、Incell社(サンアントニオ、テキサス州、米国)から入手した。ウサギ抗ヒトNF−κB(p65)ポリクローナル抗体をCalbiochem社(ギブズタウン、ニュージャージー州、米国)から入手した。CyTM 3−共役F(ab’)2断片ヤギ抗ウサギIgGをJackson ImmunoResearch社(ウェストグローブ、ペンシルヴァニア州、米国)から入手した。免疫蛍光法のための他の全ての試薬はVector Lab社(バーリンゲーム、カリフォルニア州、米国)から入手した。他のすべての試薬は、Sigma−Aldrich社(セントルイス、ミズーリ州、米国)製の分析用または分子生物学的用途のものであった。
【0026】
B−ガラクトオリゴ糖B−GOS
Bimuno(登録商標)は、Clasado社、ミルトンケインズ、英国により供給された。
【0027】
腸管上皮細胞株
2つの成人ヒト腸管上皮培養モデルをこれらの研究に用いた。T84およびNCM−460細胞は、それぞれ、形質転換した結腸上皮細胞および形質転換していない結腸上皮細胞である。細胞は、Falcon社製細胞培養ディッシュにおいて、37℃にて、水蒸気によって飽和した95%0および5%CO雰囲気で培養した。T84培地は、FBS(5%)、HEPES緩衝液、グルタミン、非必須アミノ酸、ペニシリンおよびストレプトマイシン(12)で補充されたDMEM/F12から成っていた。NCM−460培地は、FBS(10%)、上述のペニシリンおよびストレプトマイシン(13)で補充されたM3D培地から成る。
【0028】
統計分析
サイトカインの誘導は、標準誤差(SE)を表すエラーバーと共に、ポジティブコントロールに標準化された。グループ間の比較を、両側スチューデントt検定を用いて行った。qRT−PCRによって得られた遺伝子発現データは、SEを有する平均値として表された。グループ間の比較を、対数変換後に、両側スチューデントt検定を用いて行った。p値<0.05は統計的に有意と考え、アスタリスク(*)で示し、p値<0.01は2つのアスタリスク(**)で示し、p値<0.001は3つのアスタリスク(***)で示した。
【0029】
結果
T84細胞におけるサイトカイン分泌に対するガラクトオリゴ糖B−GOSの効果(図1)
T84細胞におけるTNF−α−誘導IL−8分泌は100%に標準化され、4つの独立した実験間の比較を可能とした。処理されていないT84細胞の基礎的なIL−8分泌は20.5%であった。TNF−α刺激をすると、IL−8分泌は有意に増加し、4.9倍(p<0.001)となった。
【0030】
B−GOSの効果を測定するために、ガラクトオリゴ糖B−GOS(5g/L)の存在下、TNF−αによりまたはTNF−αなしにT84細胞を刺激した。B−GOS−処理したT84細胞のIL−8分泌は16.4%であった。これは、処理されていないT84細胞の基礎的レベルと有意に異なってはいなかった。TNF−αによる刺激をすると、B−GOSは、IL−8分泌を有意に38.5%(p<0.001)減弱させた。
【0031】
NCM−460細胞におけるサイトカイン分泌に対するガラクトオリゴ糖B−GOSの効果(図2、図5、図6)
NCM−460細胞におけるTNF−α−誘導IL−8およびMIP−3α分泌は100%に標準化され、4つの独立した実験間の比較を可能とした。処理されていないNCM−460細胞の基礎的なIL−8分泌およびMIP−3α分泌は、それぞれ1.7%および4.0%であった。TNF−α刺激をすると、IL−8およびMIP−3α分泌は有意に増加し、それぞれ58.8倍(p<0.001)(図2A)および25.0倍(p<0.001)(図2B)となった。
【0032】
B−GOSの効果を測定するために、NCM−460細胞をガラクトオリゴ糖B−GOS(5g/L)の存在下、TNF−αによりまたはTNF−αなしに刺激した。B−GOS処理したNCM−460細胞は、IL−8およびMIP−3αをそれぞれ1.1%および3.9%分泌した。これは、処理されていないNCM−460細胞の基礎的なレベルと有意に異なってはいなかった。TNF−α刺激をすると、B−GOSは、IL−8分泌およびMIP−3α分泌を有意にそれぞれ43.5%(p<0.001)(図2A)および52.1%(p<0.05)(図2B)減弱させた。同様に、TNF−α刺激をする前に、NCM−460細胞をB−GOSで予洗した場合、B−GOSが存在しない場合でもIL8の分泌は有意に32%(p<0.001)減少した(図6)。このことは、B−GOS混合物の構成物が、Toll様受容体(toll−like receptor)(TLR)等の上皮受容体と相互作用し、細胞の炎症刺激を予防することを示唆する。
【0033】
同様に、フラゲリンで刺激すると、B−GOSは、有意にIL−8分泌を21.5%(p<0.05)減弱させた(図5)。IL1βで刺激した場合、効果は観察できなかった。
【0034】
B−GOSが細胞傷害性であるか否かを決定するために、NCM−460細胞をB−GOSとともにまたはB−GOSなしに16時間インキュベートした。B−GOSは、上記方法に記載のトリパンブルー色素排除アッセイによって測定されるT細胞の生存率に影響しなかった。
【0035】
サイトカイン発現に対するガラクトオリゴ糖B−GOSの効果(図3)
TNF−α処理したNCM−460細胞の全RNAを単離し、IL−8、MIP−3αおよびMCP−1 mRNA発現をqRT−PCRによりアッセイした。TNF−αで刺激すると、IL−8およびMIP−3α mRNA発現は有意に増加し、それぞれ、12.2倍(p<0.001)(図3A)および99.4倍(p<0.001)(図3B)となった。いずれの処理間においても、MCP−I mRNA発現に変化は観察されなかった(p=0.19)(データ図示せず)。B−GOSの効果を測定するために、NCM−460細胞をB−GOS(5g/L)の存在下で、TNF−αにより刺激した。ガラクトオリゴ糖B−GOSは、TNF−α−誘導IL−8およびMIP−3α mRNA発現を、それぞれ、5.7倍(p<0.05)(図3A)および58.9倍(p<0.05)(図3B)で有意に減弱させた。MCP−1 mRNA発現は、B−GOSにより減少したが、有意に達しなかった(p=0.06)(データ示さず)。
【0036】
NF−κB転座に対するガラクトオリゴ糖B−GOSの効果(図4)
成人結腸NCM−460細胞を、TNF−α(10ng/mL)で処理し、NF−κB p65タンパク質の核転座をアッセイした。ビヒクルで処理したコントロール細胞において(図4A)、NF−κB p65の染色は主に細胞質内であり、核にp65タンパク質は存在しなかった。TNF−αによる30分間の刺激の後、明らかにNF−κB p65は核内に移動した。
【0037】
しかしながら、B−GOSの存在下では、TNF−α−誘導NF−κB転座は、30分で部分的に阻害された(図4C)。
【実施例2】
【0038】
デキストラン硫酸ナトリウム誘導大腸炎マウスモデルにおけるB−GOSの効果のインビボ実験
【0039】
材料方法
2つのグループ(それぞれn=24)の成体C57BL/6マウス(Jackson Laboratories社、バーハーバー、メーン州、米国)、従来法で飼育した(CR)マウスおよび細菌除去された(BD)マウスを用いて大腸炎を誘発させた。全ての動物を12時間の明/暗周期内で飼育し、マウス固形飼料および水を自由に利用できるようにした。
【0040】
6週齢において、従来法でコロニー形成したマウスは、未処理の水と共に従来の条件の下で飼育し(CRグループ)、一方、BDグループのマウスは、飲料水に抗生物質カクテルを付与して2週間与えた。カナマイシン(8mg/mL)、ゲンタマイシン(0.7mg/mL)、コリスチン(34,000U/mL)、メトロニダゾール(4.3mg/mL)およびバンコマイシン(0.9mg/mL)で抗生物質カクテルは構成された。水中の抗生物質の濃度は、年齢群により消費された水の平均を基に計算した。
【0041】
8週齢において、双方のグループ(CRおよびBD)の全てのマウスに、飲料水中に3.5%DSS(デキストラン硫酸ナトリウム)(MP Biomedicals社、オーロラ、オハイオ州、米国)を5日間与えることにより大腸炎を誘発させた。10週齢において、それぞれのグループの半分のマウスに、Bimuno(5g/l)を7日間付与した。10週の終りに、これらの動物を安楽死させ、分析のため腸を収集した。
【0042】
サイトカイン測定
結腸組織ホモジネートにおいて、マウスIL−6およびMIP−2サイトカインを、製造者による説明書に従ってELISA(Quantikine、R&D Systems社、ミネソタ州、米国)により分析した。簡潔に述べると、それぞれのグループの近接結腸を採取し、プロテアーゼ阻害剤のカクテルを補充した1%Triton X−100を含むPBSホモジナイジング緩衝液でホモジナイズした。ホモジナイズした溶液を12,000rpmで10分間遠心し、上清を分注し、−70℃で保存した。
【0043】
結果
コントロールマウス(Bimuno非投与)と比較した、マウスの双方のグループ(CRおよびBD)においてBimunoがDSS大腸炎の損傷および炎症を減少させる能力を測定した。
【0044】
従来のDSS処理マウスにおいて、IL−6およびMIP−2分泌が有意に誘導され、それぞれ2.2倍(p<0.0001)および8.3倍(p<0.0001)となった。Bimunoは、IL−6およびMIP−2分泌を、それぞれ6.6倍(p<0.0001)および5.5倍(p<0.0001)有意に減弱させた。
【0045】
BD DSS処理マウスにおいて、IL−6およびMIP−2分泌が有意に誘導され、それぞれ6.2倍(p<0.0001)および27.2倍(p<0.0005)であった。Bimunoは、IL−6分泌を3.6倍(p<0.0001)有意に減弱させた。MIP−2分泌は1.3倍に減少したが、これは有意とは認められなかった(p=0.126)。
【0046】
要約すると、従来のDSS処理マウスは未処理のグループと比較して大腸炎が進行した。Bimuno補充されDSS処理された従来のマウスは、有意に炎症のマーカー(IL−6およびMIP−2)を減少させ、大腸炎の症状を軽減させた。同様の効果が、細菌除去されたDSS処理マウスにおいても観察された。このことは、Bimunoによる炎症の観察された減少は、細菌叢によって媒介されるのみではないことを示唆する。Bimunoは、DSS大腸炎において腸上皮に直接的な免疫調節効果を有する。
【実施例3】
【0047】
炎症性サイトカインTNF−αの存在下でのMIP−3αおよびIL−8サイトカインの産生に対するBimunoガラクトオリゴ糖混合物の画分の効果
【0048】
材料および方法
Bimuno混合物からのGOS画分の採取
種々の画分のガラクトオリゴ糖(ラクトースを除いたDP2、DP3およびDP>3)を分離および採取するために、室温に保ったBiogel P2カラム(100cmx5cm)(Pharmacia社、英国)を用いたサイズ排除クロマトグラフィーを用いた。全ての試料を、脱イオン水で2mL/分の割合で溶出し、132RI検出器(Gilson社)によりモニタリングした。TENNOJI−KU(大阪、日本)により提供されるβ−ガラクトシダーゼBIOLACTA FNSにより、ラクトースをDP2画分から除去した。100mMリン酸ナトリウム溶液を緩衝液として、1mMのMgCLを補因子として用い、加水分解を40℃、pH6.4で行った。それぞれの画分の炭水化物量は、LaChrom RI Detector L−7490を備えたRCM−MONOSACCHARIDES Rezex HPLCカラム MERCK社)上でのイオン排除およびイオン交換クロマトグラフィーによって分析した。オリゴ糖を、0.5ml/分、84.4℃にて、脱イオン水で溶出した。
【0049】
細胞培養
正常ヒト結腸粘膜上皮由来のNCM460細胞株は、INCELL CORPORATION LLCにより提供され、10%[v/v]の胎児ウシ血清を補充したM3Base培地(INCELL CORPORATION LLC)で、37℃にて95%空気、5%COの加湿された環境で維持した。
【0050】
NCM460培養によるサイトカイン産生の測定
濃度5x10細胞/mLのNCM460細胞を、24−ウェルプレートに蒔き、37℃にて95%空気および5%CO中でインキュベートした。24時間のインキュベーション後、70%のコンフルエンスに対応して、細胞を、TNF−α(10ng/mL)(組換えヒトTNF−α/TNFSF1A―R&D SYSTEMS社)、ガラクトオリゴ糖画分(0.138g/mlのDP2;0.049g/mlのDP3;0.041g/mlのDP>3)、ならびにTNF−αとそれぞれの画分との混合物により、3連で処理した。コントロールは培地で成長した細胞から成っていた。次に、細胞を37℃にて95%空気、5%CO中で16時間インキュベートした。インキュベーション後、上清を採取し、200μlに分注して冷凍し、試験前に400xgで5分間遠心した。サイトカイン(MIP−3αおよびIL−8)の濃度を、R&D Systems社(ミネソタ州、米国)により提供されるQUANTIKINEキットを用いてELISAアッセイにより測定した。
【0051】
結果および考察
サイズ排除クロマトグラフィーを用いて採取した3つの異なる画分は、以下の量のガラクトオリゴ糖を有していた:
a)DP2画分は、90%のガラクト二糖を含み、残りの10%は、単糖(1%)、ラクトース(6%)、三糖(2%)およびペンタオリゴ糖(pentaoligosaccharides)(1%)から構成され;
b)DP3画分は、97%のガラクト三糖および3%のDP4オリゴ糖を含み;
c)DP>3画分は、96%のDP4およびDP5を有するガラクトオリゴ糖と、4%のDP3を有するガラクトオリゴ糖とを含んでいた。
【0052】
IL−8およびMIP−3αの産生に対するこれら画分の効果は、それぞれ、図8(A)および(B)に示す。
【0053】
双方の実験について、DP3およびDP>3画分は、サイトカインの分泌を減少させた:
a)TNF−α単独の場合と比べ、DP3は、IL−8の産生を34%、MIP−3αの産生を25%減少させた;
b)DP>3の画分について、IL−8およびMIP−3αの減少は、それぞれ、35%および51%であった。
【0054】
DP2画分の結果は明らかでなかった。IL−8分泌の減少は49%であったが、この画分はMIP−3α産生に対していかなる効果も有さなかった。
【実施例4】
【0055】
Bimunoと比較した、炎症性サイトカインTNF−αの存在下でのIL−8およびMIP−3αサイトカインの産生に対するBimunoガラクトオリゴ糖混合物の画分の効果
【0056】
材料および方法
GOS画分は、実施例3に記載のBimunoから調製した。
【0057】
細胞培養
NCM460細胞系統の細胞培養は、実施例3と同じ源から得られ、同様に維持された。
【0058】
NCM460培養によるサイトカイン産生の測定
濃度5x10細胞/mLのNCM460細胞を、24−ウェルプレートに蒔き、37℃にて95%空気および5%CO中でインキュベートした。24時間のインキュベーション後、70%のコンフルエンスに対応して、細胞を、TNF−α(10ng/ml)(組換えヒトTNF−α/TNFSF1A―R&D Systems社)、並びにTNF−αとBimuno(0.lg/ml)との混合物、TNF−αとBimunoのDP=3画分(0.1g/ml)との混合物、またはTNF−αとBimunoのDP>3画分(0.1g/ml)との混合物で、3連で処理した。コントロールは培地で成長した細胞から成っていた。次に、細胞を37℃にて95%空気、5%CO中で16時間インキュベートした。インキュベーション後、上清を採取し、200μlに分注して冷凍し、試験前に400xgで5分間遠心した。サイトカイン(MIP−3およびIL−8)の濃度を、R&D Systems社により提供されるQUANTIKINEキットを用いてELISAアッセイにより測定した。
【0059】
結果
サイズ排除クロマトグラフィーを用いて採取された2つの異なる画分は、
以下の量のガラクトオリゴ糖を有していた:
a)DP3を含む画分、
b)DP>3を含む画分。
【0060】
IL−8およびMIP−3αの産生に対するガラクトオリゴ糖画分およびBimunoの効果を、それぞれ、図9(A)および(B)に示す。図9(A)および(B)から、Bimunoと比較すると、DP3画分がIL−8の産生を35%以上減少させたことがわかる。MIP−3αの産生の減少は、Bimunoと比較すると、DP3画分を用いて37%大きくなる。
【0061】
DP>3画分により、Bimunoと比較したIL−8の産生の減少が40%大きくなり、MIP−3 αの産生の減少は55%大きくなる。
【0062】
結論
DP3およびDP>3の画分が、全ガラクトオリゴ糖混合物(Bimuno)と等しい量で存在する場合、炎症に対する保護効果は有意に高い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炎症性疾患の予防または治療における使用のための、3以上の重合度を有するガラクトオリゴ糖。
【請求項2】
三糖:Gal(β1‐6)‐Gal(β1‐4)‐Glc、Gal(β1‐3)‐Gal(β1‐4)‐Glc、四糖:Gal(β1‐6)‐Gal(β1‐6)‐Gal(β1‐4)‐Glcおよび五糖:Gal(β1‐6)‐Gal(β1‐6)‐Gal(β1‐6)‐Gal(β1‐4)‐Glcからなる群より選択される、請求項1に記載の使用のためのガラクトオリゴ糖。
【請求項3】
腸管炎症性疾患の予防または治療における使用のための、請求項1または請求項2に記載のガラクトオリゴ糖。
【請求項4】
大腸炎、腸壊死性の大腸炎、偽膜性大腸炎、潰瘍性大腸炎、クローン病、憩室炎、虚血または炎症性腸疾患の予防または治療における使用のための、請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のガラクトオリゴ糖。
【請求項5】
粉末、シロップまたはソフトトローチの形態で提供する、請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載のガラクトオリゴ糖。
【請求項6】
1g〜10gのガラクトオリゴ糖、好ましくは2g〜5gのガラクトオリゴ糖、最も好ましくは2.75gのガラクトオリゴ糖を、炎症性疾患の治療のために毎日用いる、請求項5に記載のガラクトオリゴ糖。
【請求項7】
1g〜10gのガラクトオリゴ糖、好ましくは2g〜5gのガラクトオリゴ糖、最も好ましくは2.75gのガラクトオリゴ糖を、炎症性疾患の予防のために毎日用いる、請求項5に記載のガラクトオリゴ糖。
【請求項8】
炎症性疾患の予防または処置における、3以上の重合度を有するガラクトオリゴ糖の使用。
【請求項9】
ガラクトオリゴ糖は、三糖:Gal(β1‐6)‐Gal(β1‐4)‐Glc、Gal(β1‐3)‐Gal(β1‐4)‐Glc、四糖:Gal(β1‐6)‐Gal(β1‐6)‐Gal(β1‐4)‐Glcおよび五糖:Gal(β1‐6)‐Gal(β1‐6)‐Gal(β1‐6)‐Gal(β1‐4)‐Glcからなる群より選択される、請求項8に記載の使用。
【請求項10】
3以上の重合度を有するガラクトオリゴ糖を、哺乳動物に経口的に有効量投与することを含む、炎症性疾患の治療および/または予防のための方法。
【請求項11】
ガラクトオリゴ糖は、三糖:Gal(β1‐6)‐Gal(β1‐4)‐Glc、Gal(β1‐3)‐Gal(β1‐4)‐Glc、四糖:Gal(β1‐6)‐Gal(β1‐6)‐Gal(β1‐4)‐Glcおよび五糖:Gal(β1‐6)‐Gal(β1‐6)‐Gal(β1‐6)‐Gal(β1‐4)‐Glcからなる群より選択される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
炎症性疾患は、腸管炎症性疾患である、請求項10又は請求項11に記載の方法。
【請求項13】
炎症性疾患は、大腸炎、腸壊死性の大腸炎、偽膜性大腸炎、潰瘍性大腸炎、クローン病、憩室炎、虚血または炎症性腸疾患である、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
哺乳動物はヒトである、請求項10に記載の方法。
【請求項15】
ガラクトオリゴ糖を、粉末、シロップとしてまたはソフトトローチの形態で投与する、請求項10に記載の方法。
【請求項16】
炎症性疾患を治療するための活性ガラクトオリゴ糖の有効一日用量は、1g〜10g、好ましくは2g〜5g、最も好ましくは2.75gである、請求項10に記載の方法。
【請求項17】
炎症性疾患を予防するための活性ガラクトオリゴ糖の有効一日用量は、1g〜10g、好ましくは2g〜5g、最も好ましくは2.75gである、請求項10に記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図4】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公表番号】特表2012−524770(P2012−524770A)
【公表日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−506581(P2012−506581)
【出願日】平成22年4月23日(2010.4.23)
【国際出願番号】PCT/GB2010/050659
【国際公開番号】WO2010/122344
【国際公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【出願人】(508187045)クラサド インコーポレイテッド (4)
【Fターム(参考)】