説明

新規な光線吸収材料

【課題】 本発明は金属箔を含有する積層板に適応される近紫外部〜可視短波長部に吸収を有する新規な光線遮蔽剤および蛍光検知剤を提供する。
【解決手段】 一般式


(式中、R1〜R5は水素原子、ハロゲン、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数1〜8のアルコキシ基、アミノ基または炭素数1〜8のアルキル基を持つアルキルアミノ基もしくはジアルキルアミノ基を示し、Xは酸素原子、硫黄原子またはアルキル化されていてもよい第二級アミンを示し、nは0〜1の整数を示す)で表わされるピラゾリン化合物を含有することを特徴とする光線遮蔽剤および蛍光検知剤を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は感光性樹脂、感光性樹脂下地材、蛍光検知剤材料、積層基板基材に使用する為の、特定波長域として350nm〜450nmの近紫外部〜可視短波長部に強い吸収能を有するピラゾリン化合物、並びにこれを含有する光線遮蔽剤および蛍光検知剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年ますます超高集積化、超高密度化、精細化や作業性向上化が要求される集積回路、半導体素子、プリント配線基板などの製造に係るフォトレジスト関連分野や、自動外観検査(AOI)において使用される紫外線吸収物質、紫外線遮蔽物質および蛍光材料として、特許文献1に記載されたとおり、1,3,5−トリフェニル−2−ピラゾリン、1,5−ジフェニル−3−(4−メチルフェニル)−2−ピラゾリン等のピラゾリン化合物が知られている。
【0003】
しかしながら上記の化合物には大きな欠点がある。これらの化合物の光線吸収領域(光線遮蔽領域)は300nm〜400nmであることから、これらを紫外線吸収物質として使用した場合には、高精度のパターンを得る為に感度が長波長側にシフトしている液状フォトソルダーレジスト用両面同時露光装置や、自動外観検査(AOI)装置には十分対応できない。
【0004】
これを解決するため、特許文献2および3には、1,5−ジフェニル−3−スチリル−2−ピラゾリン、1−(4−tert−ブチルフェニル)−3−スチリル−5−フェニル−2−ピラゾリン等のピラゾリン化合物の使用が報告されているが、これらの化合物も最大吸収領域が390nm付近であり、400nm〜450nmの光線に対する吸収能は低く、十分な効果を得る為には光線吸収物質の含有量を多くする必要があった。
【0005】
すなわち、両面プリント配線基板上のフォトソルダーレジスト層を両面同時露光する場合、片面のフォトソルダーレジストを透過した光が積層板内をも透過し、反対面の所望しないフォトソルダーレジスト部分も露光して正確にパターンが形成できないという欠点があった。さらに、紫外線吸収物質の積層板への添加量を増加させると、耐溶剤性等の性能の低下や粒子の二次凝集による分散性の低下を引き起こすという欠点があった。
【0006】
また、プリント配線基板の自動外観検査(AOI)における導体パターン検査では、導体以外の樹脂層(絶縁層、蛍光含有層)からの蛍光反射に対し、それを検出する検出部の感度が不足するために正確にパターンを認識できないという欠点があった。
【0007】
また、自動パターン修正装置における不要導体パターン部分(短絡部分)の導体自動削り取り工程では、その終点部分、すなわち導体パターンの剥離によって露出する絶縁層(蛍光含有層)からの蛍光反射に対し、それを検出する検出器の感度が不足するために、絶縁層の一部まで削り取られるという欠点があった。
【特許文献1】特公昭63−15571号公報
【特許文献2】特開平5−179226号公報
【特許文献3】特開平5−220894号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、従来公知の紫外線吸収剤ないし光線吸収剤のもつ大きな欠点を解決するもので、可視短波長側の光線に対して吸収能が高く、かつ添加量が少なくても十分な機能を発揮する、新規な光線遮蔽剤および蛍光検知剤を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は鋭意研究の結果、分子中にベンズチアゾール、ベンゾオキサゾールまたはベンズイミダゾールを導入したピラゾリン化合物が、目的に合致する化合物であることを見出し本発明を完成した。
【0010】
本発明は一般式(I)
【化1】

(式中、R1〜R5は水素原子、ハロゲン、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数1〜8のアルコキシ基、アミノ基または炭素数1〜8のアルキル基を持つアルキルアミノ基もしくはジアルキルアミノ基を示し、Xは酸素原子、硫黄原子またはアルキル化されていてもよい第二級アミンを示し、nは0〜1の整数を示す)で表わされるピラゾリン化合物からなる光線遮蔽剤および蛍光検知剤に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の化合物は、可視短波長側の光線に対して吸収能が高く、その積層板への添加量が少なくても、十分に該短波長側の光線の透過を防ぐことができる。これによって、高精度なファインパターンを得る為に感度が長波長側にシフトしている液状フォトソルダーレジストに対し、両面同時露光が可能となる。さらに、自動外観検査(AOI)においても導体の正確なパターン認識が可能となる。
【0012】
この効果は、式(I)の化合物において、ピラゾリン環の1位に結合したフェニル基上に、ベンズチアゾール、ベンズオキサゾールもしくはベンズイミダゾールを導入することにより、λmaxが従来のピラゾリン化合物と比べて長波長側へシフトし、さらに、単位重量当たりの吸光度が増加するためと考えられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明のピラゾリン化合物の代表例としては下記のものを挙げることができる。
1−(4−(ベンズチアゾール−2−イル)フェニル)−3−スチリル−5−フェニル−2−ピラゾリン、
1−(4−(ベンズチアゾール−2−イル)フェニル)−3−(3−メトキシスチリル)−5−(3−メトキシフェニル)−2−ピラゾリン、
1−(4−(ベンズチアゾール−2−イル)フェニル)−3−(4−tert−オクチルスチリル)−5−フェニル−2−ピラゾリン、
1−(4−(5−tert−ブチルベンゾオキサゾール−2−イル)フェニル)−3−スチリル−5−フェニル−2−ピラゾリン、
1−(4−(ベンゾオキサゾール−2−イル)フェニル)−3−(4−tert−ブチルスチリル)−5−(4−tert−ブチルフェニル)−2−ピラゾリン、
1−(4−(5,7−ジアミルベンゾオキサゾール−2−イル)フェニル)−3−(4−メチルスチリル)−5−(4−メチルフェニル)−2−ピラゾリン、
1−(4−(ベンズイミダゾール−2−イル)フェニル)−3−(3−クロロスチリル)−5−(3−クロロフェニル)−2−ピラゾリン、
1−(4−(ベンズイミダゾール−2−イル)フェニル)−3−スチリル−5−(4−メチルフェニル)−2−ピラゾリン、
1−(3−(ベンズイミダゾール−2−イル)フェニル)−3−(4−ジエチルアミノスチリル)−5−(4−ジエチルアミノフェニル)−2−ピラゾリン、
1−(2−ブロモ−4−(ベンズチアゾール−2−イル)フェニル)−3,5−ビス(4−ジメチルアミノフェニル)−2−ピラゾリン、
1−(4−(1−メチル−ベンズイミダゾール−2−イル)フェニル)−3−(4−ジエチルアミノフェニル)−5−フェニル−2−ピラゾリン、
1−(4−(5−メチルベンゾオキサゾール−2−イル)フェニル)−3,5−ビス(4−エチルアミノスチリル)−2−ピラゾリン等。
これらの化合物は単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0014】
本発明の式(I)の化合物は、次のようにして製造することができる。
すなわち、既知の方法により合成した一般式(II)
【化2】

(式中、R1〜R3は水素原子、ハロゲン、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数1〜8のアルコキシ基、アミノ基または炭素数1〜8のアルキル基を持つアルキルアミノ基もしくはジアルキルアミノ基を示し、Xは酸素原子、硫黄原子またはアルキル化されていてもよい第二級アミンを示す)で表されるヒドラジン化合物と、
既知の方法により合成した一般式(III)
【化3】

(式中、R4およびR5は水素原子、ハロゲン、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数1〜8のアルコキシ基、アミノ基または炭素数1〜8のアルキル基を持つアルキルアミノ基もしくはジアルキルアミノ基を示し、nは0〜1の整数を示す)で表される化合物を
氷酢酸中で反応させることにより、一般式(I)
【化4】

(式中、R1〜R5、Xおよびnは上記と同様の意味を有する)で表される本発明のピラゾリン化合物を得ることができる。
【0015】
本発明のピラゾリン化合物は光線遮蔽剤および蛍光検知剤として感光性樹脂、感光性樹脂下地材、蛍光検知剤材料、積層基板基材などに添加・配合して用いられるが、耐熱性も高いため、樹脂形成に高熱を必要とするポリイミド樹脂やポリカーボネート樹脂にも使用可能である。
【0016】
次に本発明のピラゾリン化合物を用いた実施例を示すが、本発明の範囲は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0017】
合成例1
1−(4−(ベンゾオキサゾール−2−イル)フェニル)−3−スチリル−5−フェニル−2−ピラゾリンの合成
4−(ベンゾオキサゾール−2−イル)フェニルヒドラジン 5.6部およびジベンザルアセトン 4.7部を氷酢酸 70部中で煮沸還流し、2時間保持した。冷却後、析出物を吸引濾過により回収してメタノールで十分洗浄し、80℃で乾燥した。これにより、融点 246℃、λmax 407.2nmの黄色結晶を得た。
【0018】
同様の方法によって式(IV)
【化5】

で表される本発明の化合物を合成した。得られた化合物の物性を以下の表1に示す。
【0019】
【表1】

【0020】
合成例7
1−(4−ベンズチアゾール−2−イル)フェニル)−3,5−ビスフェニル−2−ピラゾリンの合成
4−(ベンズチアゾール−2−イル)フェニルヒドラジン 4.8部およびベンザルアセトフェノン 4.2部を氷酢酸 70部中で煮沸還流し、2時間保持した。冷却後、析出物を吸引濾過により回収してメタノールで十分洗浄し、80℃で乾燥した。融点 231℃、λmax 401.4nmの黄色結晶を得た。
同様の方法によって式(V)
【0021】
【化6】

で表される本発明の化合物を合成した。得られた化合物の物性を以下の表2に示す。
【0022】
【表2】

【0023】
実施例1
本発明の1−(4−(ベンズチアゾール−2−イル)フェニル)−3−スチリル−5−フェニル−2−ピラゾリン(合成例2)をエポキシ樹脂に対して1%添加したエポキシワニスを0.2mm厚のガラス布に含浸して得たプリプレグ2枚を用い、遮蔽剤を添加しないエポキシワニスから得たプリプレグ4枚を両側から挟み、さらに両側から18μm厚の銅箔を重ねて加熱・加圧して所定板厚の銅張積層板を得た。この銅箔部分を過硫酸アンモンにて剥離して積層板を得た。紫外線照射機(オーク製作所製)と紫外線照射機センサーUV−35またはUV−42(オーク製作所製)を用いて照射光E0、透過光E1より透過率:透過率(%)=E1/E0 *100を求めた。
結果は以下のとおりであった。
センサーUV−35 ――――― 1.58%
センサーUV−42 ――――― 0.25%
一方、比較のために1−(4−(ベンズチアゾール−2−イル)フェニル)−3−スチ
リル−5−フェニル−2−ピラゾリンの代わりに市販の代表的な広波長域用の紫外線吸収剤である2−(2−ヒドロキシ−3−tert−ブチル−5−メチルフェニル)−6−クロロ−ベンズトリアゾールの同量を用いて得たプリプレグのみ6枚を用いて得られた積層板を同様に紫外線照射し、その透過率を求めた。
センサーUV−35 ――――― 1.05%
センサーUV−42 ――――― 28.02%
【0024】
実施例2
実施例1に用いた本発明の1−(4−(ベンズチアゾール−2−イル)フェニル)−3−スチリル−5−フェニル−2−ピラゾリンの代わりに本発明の1−(4−ベンゾオキサゾール−2−イル)−3−(4−tert−ブチルスチリル)−5−(4−tert−ブチルフェニル)−2−ピラゾリン(合成例5)を用いる以外は実施例1と同様に行った。
センサーUV−35 ――――― 2.18%
センサーUV−42 ――――― 0.26%
【0025】
実施例3
実施例1に用いた本発明の1−(4−(ベンズチアゾール−2−イル)フェニル)−3−スチリル−5−フェニル−2−ピラゾリンの代わりに本発明の1−(4−ベンズイミダゾール−2−イル)−3−(4−ジメチルアミノスチリル)−5−(4−ジメチルアミノフェニル)−2−ピラゾリン(合成例6)を用いる以外は実施例1と同様に行った。
センサーUV−35 ――――― 0.85%
センサーUV−42 ――――― 0.57%
【0026】
実施例4
実施例1に用いた本発明の1−(4−(ベンズチアゾール−2−イル)フェニル)−3−スチリル−5−フェニル−2−ピラゾリンのエポキシ樹脂に対する含有率を0.5%とする以外は実施例1と同様に行った。
センサーUV−35 ――――― 3.01%
センサーUV−42 ――――― 0.31%
【0027】
実施例5
1,1,2,2−テトラクロロ−1,2−ジフルオロエタン 80部、TCP(三菱瓦斯化学(株)製) 10部、塩化メチレン 10部、本発明の1−(4−(1−メチル−ベンズイミダゾール−2−イル)フェニル)−3−(4−ジエチルアミノフェニル)−5−フェニル−2−ピラゾリン(合成例10) 1.5部を混合して浸透液を調製した。
一方、比較のために本発明の1−(4−(1−メチル−ベンズイミダゾール−2−イル)フェニル)−3−(4−ジエチルアミノフェニル)−5−フェニル−2−ピラゾリン 1.5部の代わりにC.I.Fluorescent Brightener 52(住友化学製)を1.5部用いる以外は同様にして比較浸透液を調製した。
性能試験は次のように行った。
【0028】
JIS Z−2343 1982の6.1規格 A型対比試験片の表面2分の片方には本発明の蛍光浸透液を刷毛で塗布し、もう片方には比較浸透液を同様に塗布し、10分間放置乾燥した後、乾いたウエスにて拭き、洗浄液としてスーパーグローR−II(商品名;マークテック(株)製)を噴射塗布し、現像処理を施した。暗所にて紫外線照射下でこの試験片を目視によって観察すると、比較浸透液に比べ本発明の浸透液の方が欠陥指示模様の明瞭度に優れていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I)
【化1】

(式中、R1〜R5は水素原子、ハロゲン、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数1〜8のアルコキシ基、アミノ基または炭素数1〜8のアルキル基を持つアルキルアミノ基もしくはジアルキルアミノ基を示し、Xは酸素原子、硫黄原子またはアルキル化されていてもよい第二級アミンを示し、nは0〜1の整数を示す)で表わされるピラゾリン化合物。
【請求項2】
請求項1に記載のピラゾリン化合物を含有することを特徴とする光線遮蔽剤。
【請求項3】
請求項1に記載のピラゾリン化合物を含有することを特徴とする蛍光検知剤。



【公開番号】特開2006−241086(P2006−241086A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−59787(P2005−59787)
【出願日】平成17年3月4日(2005.3.4)
【出願人】(391025659)株式会社日本化学工業所 (8)
【Fターム(参考)】