説明

新規な癌治療用発現ベクター

【課題】癌細胞特異的に積極的にアポトーシスを誘導する薬剤等を提供すること。
【解決手段】FADD又はその構成ドメインから成るポリペプチドと自己集合活性を有するタンパク質との融合タンパク質から成るアポトーシス誘導因子をコードするDNAが癌細胞活性プロモ―ターの下流に挿入され、該プロモ―ターの調節下でアポトーシス誘導因子が発現することを特徴とする発現ベクター、該発現ベクターを活性成分として含有する、癌細胞に特異的にアポトーシスを誘導する医薬組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な癌治療用発現ベクター、及び、該ベクターを含む癌細胞に特異的にアポトーシスを誘導する医薬組成物、該医薬組成物を投与することから成る癌の治療方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトの身体を構成している細胞は、分裂・増殖とアポトーシス(プログラムされた細胞死)を繰り返し正常に制御されている。p53などの特定の遺伝子群に突然変異が生じると、正常な制御が行なわれなくなることにより、不必要な部位で細胞分裂を繰り返し増殖し、逆に死滅すべき細胞が死滅しなくなる。このようにして生じた過剰な細胞は組織の塊を形成し、悪性腫瘍と呼ばれ浸潤・転移し、生命を脅かす。癌は現在において常に死亡原因の上位に位置することから、多くの研究が行われ治療を目指した多くのアプローチが試みられている。
【0003】
抗癌剤の多くは癌細胞にアポトーシスを誘導させることにより癌細胞を死滅させる。しかし、多くの癌細胞はアポトーシスのプログラムから回避することによって制限ない増殖を可能に癌細胞と成り得たことからアポトーシスに対するある程度の耐性を既に獲得している。このことは同時に抗癌剤への抵抗性も獲得しているか、抵抗性を獲得しうる可能性が高いことを示唆している。実際、臨床サンプルでは、抗アポトーシス蛋白質をコードしている遺伝子領域の増幅や抗アポトーシス蛋白質の上昇が観察されている。
【0004】
また、主として低化合物である抗癌剤は正常の細胞にも悪影響を及ぼすために深刻な副作用がしばしば観察される。癌細胞だけに抗癌剤を作用させる方法として、特定の細胞だけを狙い撃ちするミサイル療法などが開発されている。また、癌細胞だけに感染させることや癌細胞だけで増殖する方向を目指したウイルスの開発も行われている。例えば、癌細胞にテロメラーゼの活性が高い知見を応用し、テロメラーゼのプロモーターをアデノウイルスに導入した系は臨床試験が現在行われている(例:テロメライシン)。しかしながら、アデノウイルスを含めてほとんどのウイルスは本来細胞に直接アポトーシスを誘導させるのではなく、逆にアポトーシスに対して抵抗性を獲得することにより細胞を死滅させることなくウイルスの自己複製を盛んに行なうことが知られている。アデノウイルスの増幅のステップが進行し、アデノウイルスに感染したことを感知し耐えきれなくなった細胞がアポトーシスを自ら起こすか、あるいは生体の免疫システムにより排除される。
【0005】
特許文献1及び特許文献2には、細胞特異的発現ベクターが記載されており、発現されるDNAの一例としてアポトーシス関連遺伝子が挙げられている。又、特許文献3には、平滑筋細胞特異的発現を調節するための特異的ハイブリッドプロモーターが記載され、アポトーシスを誘導するタンパク質が発現の一例としてあげられている。更に、特許文献4には、細胞特異的アポトーシスを調節的に開始する方法が記載され、ヒトFas受容体の細胞質ドメインを利用することが記載されている。
【特許文献1】特開2002−335965
【特許文献2】特開2003−250579
【特許文献3】特表2002−525109
【特許文献4】特表平9−503645
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、上記の課題を解決することであり、癌細胞特異的に積極的にアポトーシスを誘導する薬剤等を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
即ち、本発明は以下の各態様に係るものである。
1.FADD又はその構成ドメインから成るポリペプチドと自己集合活性を有するタンパク質との融合タンパク質から成るアポトーシス誘導因子をコードするDNAが癌細胞活性プロモ―ターの下流に挿入され、該プロモ―ターの調節下でアポトーシス誘導因子が発現することを特徴とする発現ベクター。
2.ポリペプチドがFADDのDEDが複数個タンデムに連結されたものである、上記1記載の発現ベクター。
3.FADDのDEDが2つタンデムに連結されたポリペプチドとラムダファージEタンパク質との融合タンパク質から成る、上記2記載の発現ベクター。
4.癌細胞活性プロモ―ターが、テロメラーゼプロモーター、低酸素状態で活性化するプロモーター、又は癌細胞特異的プロモーターである、上記1〜3のいずれか一項に記載の発現ベクター。
5.ウイルスゲノムに組み込まれていることを特徴とする、上記1〜4のいずれか一項記載の発現ベクター。
6.ヒトアデノウィルスゲノムに組み込まれていることを特徴とする、上記1〜4のいずれか一項記載の発現ベクター。
7.上記1〜6のいずれか一項に記載の発現ベクターを活性成分として含有する、癌細胞に特異的にアポトーシスを誘導する医薬組成物。
8.抗癌作用を有する、上記7記載の医薬組成物。
9.癌細胞がヒト癌細胞である、上記7又は8記載の医薬組成物。
10.上記1〜6のいずれか一項に記載の発現ベクターを治療対象物に投与することから成る、該治療対象物における癌細胞にアポトーシスを誘導する方法。
11.上記8又は9記載の医薬組成物をを治療対象物に投与することから成る、該治療対象物における癌の治療方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の発現べクターが癌細胞内で発現されることによって、癌細胞又は癌組織で特異的且つ効果的にアポトーシスを誘導させることができ、癌細胞を死滅させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の融合タンパク質から成るアポトーシス誘導因子を構成するFADD(Fas-associated death domain)は、Fasリセプターの細胞内領域にあるデスドメインに結合するタンパク質であり、そのC末端側にデスドメイン(DD:death domain)があり、一方、N末端側にデスエフェクタードメイン(DED:death effector domain)が存在し、このDEDには同じドメインを有するカスパーゼ8の前駆体が結合する。Fasリガンドは3量体として存在することから、FasリセプターとFADD蛋白質を介して結果的にカスパーゼ8の前駆体は集合することになる。カスパーゼ8の前駆体は弱い蛋白質分解活性(プロセシング活性)を有しているので、集合しているカスパーゼ8前駆体同士の蛋白質分解によるカスパーゼ8の活性化を引き起こし、下流のカスパーゼ3の経路を活性化し、アポトーシス(プログラム死)を引き起こすことが知られている。
【0010】
従って、本発明のアポトーシス誘導因子を構成する要素の一つであるポリペプチドとしては、FADDそれ自体の他にその構成ドメインを使用することが出来、特に、カスパーゼ8が結合するドメインであるDEDが好適である。更に、このDEDが複数個、例えば、2つタンデムに連結されたもの(2DED)であることが好ましい。FADDの由来(動物種)に特に制限はないが、ヒト及びマウス等の齧歯類を含む哺乳動物由来のものが好ましい。更に、FADDのDEDドメインと同様の機能を持つものであれば、他の蛋白質のDEDドメインであっても差し支えは無い。このようなDEDドメインを持つものは、caspase-8, caspase-10, DEDD, DEDD2 , Bap31, Bar, Dap3, Hip, Hippi, c-Flip, pea15, v-flip-like protein等の蛋白質が既に知られている。更に、DEDドメインの類似ドメインであるCARDドメインやDDドメイン等もFADDのDEDドメインと同様の機能を持つ限り使用することが可能である。
【0011】
本発明のアポトーシス誘導因子を構成するもう一方の要素である自己集合(会合)活性を有するタンパク質は、細胞内において自己集合活性を有するようなタンパク質として当業者に公知の任意のものを使用することが出来る。その一例として、例えば、ラムダファージEタンパク質(E)、M13ファージg8蛋白質等のファージ又はウイルスのコート蛋白質、ヒト及びマウスのMx蛋白質とその相同性を有するダイナミン蛋白質、並びに、アクチン蛋白質及びチューブリン蛋白質等の細胞骨格関連因子等、更には、Apaf1、自己集合性ペプチドを挙げることが出来る。
【0012】
ここで、「自己集合(会合)活性」とは、この作用によりFADD又はその構成ドメインから成るポリペプチドが集合し、その結果、これにカスパーゼ8前駆体が結合し、こうして結合したカスパーゼ8前駆体同士の蛋白質分解による活性化を引き起こし、下流のカスパーゼ3の経路を活性化し、アポトーシス(プログラム死)を引き起こすことができるような活性を意味する。
【0013】
尚、本発明のアポトーシス誘導因子を構成する以上の二つの要素、又はFADDの各構成ドメインは直接融合されていても良いし、適当なリンカー部分を介して、融合タンパク質を構成していても良い。又、所望の効果が奏効される限り、該融合タンパク質のN末端及び/又はC末端にペプチド等の他の要素が付加されていても良い。
【0014】
更に、本発明で使用するFADD又はその構成ドメインから成るポリペプチド、又は、ラムダファージEタンパク質等の自己集合活性を有するタンパク質は、夫々の活性を実質的に有する限り、それら本来(野生型)のアミノ酸配列において、1個又は数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加したアミノ酸配列からなるポリペプチドであっても良い。このようなポリペプチドは、例えば、部位特異的変異導入法、遺伝子相同組換え法、プライマー伸長法、及びPCR法等の当業者に周知の方法を適宜組み合わせて、容易に作成することが可能である。
【0015】
尚、その際に、実質的に同質の生物学的活性を有するためには、当該ポリペプチドを構成するアミノ酸のうち、同族アミノ酸(極性・非極性アミノ酸、疎水性・親水性アミノ酸、陽性・陰性荷電アミノ酸、芳香族アミノ酸など)同士の置換が可能性として考えられる。また、実質的に同質の生物学的活性の維持のためには、本発明の各ポリペプチドに含まれる機能ドメイン内のアミノ酸は保持されることが望ましい。
【0016】
更に、本発明のアポトーシス誘導因子を構成する以上の二つの要素として、FADD又はその構成ドメインから成るポリペプチド、又は、ラムダファージEタンパク質等の自己集合活性を有するタンパク質をコードするDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、即ち、より具体的には、該DNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、該各配列で示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの機能を実質的に示すポリペプチドをコードするDNAにコードされたものも使用することが出来る。
【0017】
ハイブリダイゼーションは、「分子生物学の最新プロトコール」(Current protocols in molecular biology(Frederick M. Ausubelら編、1987))に記載の方法など、当業界で公知の方法あるいはそれに準じる方法に従って行うことができる。また、市販のライブラリーを使用する場合、添付の使用説明書に記載の方法に従って行うことができる。
【0018】
ここで、「ストリンジェントな条件」とは、例えば、65℃の1mM EDTA ナトリウム、0.5M リン酸水素ナトリウム(pH7.2)、7%SDS 水溶液中でハイブリダイズさせ、65℃の1mM EDTA ナトリウム、40mM リン酸水素ナトリウム(pH7.2)、1%SDS 水溶液中でメンブレンを洗浄する条件でのサザンブロットハイブリダイゼーションで上記のDNA配列にハイブリダイズする程度の条件である。上記以外の条件によっても、同じストリンジェンシーとすることができる。
【0019】
従って、例えば、かかる条件下で、FADD又はその構成ドメインから成るポリペプチド、又は、ラムダファージEタンパク質等の自己集合活性を有するタンパク質をコードするDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとハイブリダイズできるDNAとしては、例えば、該DNAの全塩基配列との相同性の程度が、全体の平均で約80%以上、好ましくは約90%以上、より好ましくは約95%以上である塩基配列を含有するDNAなどを挙げることができる。
【0020】
本発明のアポトーシス誘導因子を構成する各要素の遺伝子に関する情報は当業者に公知であり、それらに基づいて本発明のアポトーシス誘導因子をコードするDNAを容易にクローニングすることができる。
【0021】
例えば、ヒトのFADDの遺伝子情報はNM_003824、マウスのFADDの遺伝子情報はU50406、又、ラムダファージEタンパク質の遺伝子情報はNC_001416を参照することが出来る。これらは、いずれも、http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/query.fcgi?CMD=search&DB=nucleotideにおいてGenBank accession 番号で調べることができる。
【0022】
上記DNAのクローニングの手段としては、当該DNAの適当な部分塩基配列を有する合成DNAプライマーを用いてPCR法によって増幅するか、または適当なベクターに組み込んだDNAを本発明ポリペプチドの一部あるいは全領域をコードするDNA断片もしくは合成DNAを用いて標識したものとのハイブリダイゼーションによって選別することができる。
【0023】
ハイブリダイゼーションの方法は、例えば、上記の「分子生物学の最新プロトコール」(Frederick M. Ausubelら編、1987)に記載の方法などに従って行うことができる。また、市販のライブラリーを使用する場合、添付の使用説明書に記載の方法に従って行うことができる。
【0024】
クローン化されたポリペプチドをコードするDNAは目的によりそのまま、または所望により制限酵素で消化したり、リンカーを付加したりして使用することができる。該DNAはその5’末端側に翻訳開始コドンとしてのATGを有し、また3’末端側には翻訳終止コドンとしてのTAA、TGAまたはTAGを有していてもよい。これらの翻訳開始コドンや翻訳終止コドンは、適当な合成DNAアダプターを用いて付加することもできる。
【0025】
本発明の発現ベクターは、当該技術分野で公知の方法に従って作成することができる。例えば、(1) FADD又はその構成ドメインから成るポリペプチドと自己集合活性を有するタンパク質との融合タンパク質から成るアポトーシス誘導因子をコードするDNA(断片)を切り出し、(2)該DNA断片を適当な発現ベクター中の癌細胞活性プロモ―ターの下流に、該プロモ―ターの調節下でアポトーシス誘導因子が発現するように連結することにより製造することができる。
【0026】
本発明の発現ベクターにおいて用いられる「癌細胞活性プロモ―ター」とは、癌細胞又は特定の種類若しくは特定の部位の癌細胞特異的に上記アポトーシス誘導因子を発現することができるプロモ―ターを意味し、例えば、テロメラーゼプロモーター、癌細胞は低酸素状態であることが知られているので、例えば、VEGFやEpoのプロモーター領域(低酸素適応を制御する転写因子であるhypoxia inducible factor-1 (HIF-1) 結合サイトHypoxia Responsive Element (HRE)を持つプロモーター。)のような低酸素状態で活性化するプロモーター、又は、例えば、carcinoembryonic antigen (CEA)プロモーター、種々の癌細胞で高発現を示すsurvivinプロモーター、前立腺癌において高い発現を示す前立腺特異的抗原(PSA)や前立腺特異的膜抗原(PSMA)のプロモーターとエンハンサー領域のような各種の癌細胞特異的プロモーターを挙げることが出来る。
【0027】
或いは、当業者に公知の適当な薬剤運搬システムによって、本発明の発現ベクターを癌細胞に特異的に運搬し導入することができる場合には、例えば、ミフェプリストン、テトラサイクリン、及びインターフェロンのような、薬剤(誘導剤)の添加によってプロモーター活性が誘導されるような誘導性プロモ―ターを使用しても、癌細胞特異的に上記アポトーシス誘導因子を発現することができる。このような発現ベクター系は、例えば、インビトロジェン社のGeneSwitch 系のように市販されており、それらを利用することも出来る。
【0028】
本発明の発現ベクターの別の態様として、当業者に公知のCre−loxP系を利用したものを挙げることが出来る。即ち、コンディショナルノックアウトの定法として行なわれているように、CREタンパク質で特定の癌細胞若しくは組織で遺伝子組み換えが起こるシステムを用いる。上記の癌細胞活性プロモ―ターのコントロール下でCREタンパク質を発現させ、loxPサイトの遺伝子組み換えを誘導し、本発明のアポトーシス誘導因子を発現させる。
【0029】
好適には、本発明の発現ベクターにはアポトーシス誘導因子をコードする遺伝子(DNA)が逆向きにloxPの間に挿入されている。そして、例えば、loxPサイトの突然変異型であるloxP66及びloxP77(Oberdoerffer, P., Otipoby, K. L., Maruyama, M., and Rajewsky, K. 2003, Unidirectional Cre-mediated genetic inversion in mice using the mutant loxP pair lox66/lox71, Nucleic Acids Res, 31, e140.、及び、Schnutgen, F., Doerflinger, N., Calleja, C., Wendling, O., Chambon, P., and Ghyselinck, N. B. 2003, A directional strategy for monitoring Cre-mediated recombination at the cellular level in the mouse, Nat Biotechnol, 21, 562-565.)を組み合わせることにより、最初はその上流のプロモーターと逆向きに配置されているが、CREタンパク質が供給されると遺伝子組み換えの結果、逆向きになりアポトーシス誘導遺伝子が発現されるようになるような構成とすることが出来る(図1)。
【0030】
因みに、かかる系において、アポトーシス誘導因子をコードする遺伝子(DNA)の上流に位置するプロモーターとして、既に記載したCREタンパク質の発現に使用するプロモーターと同じものを使用することも出来る。
【0031】
従って、このようなCRE/loxP系において、上記の発現ベクターを使用して、特定の細胞若しくは組織及び/又は特定の時期にアポトーシスを誘導することが可能である。
【0032】
本発明の発現ベクターは、大腸菌由来のプラスミド(例、pBR322、pBR325、pUC18、pUC118)、枯草菌由来のプラスミド(例、pUB110、pTP5、pC194)、酵母由来プラスミド(例、pSH19、pSH15)、λファージなどのバクテリオファージ、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、レトロウイルス、ワクシニアウイルス、バキュロウイルスなどの各種の動物ウイルスなどを利用して容易に調製することができる。特に、このようなウイルスのゲノムに組み込まれていることが好ましい。アデノウイルスとしては5型が好ましく、例えば、ゲノムのE1領域に本発明の発現ベクターを組み込むことが可能である。更に、パッケージシグナル以外のほぼ欠失させたgutted ベクターをヘルパーウイルスと共に使用することも可能である。又、このようなヘルパーウイルスの混在を抑えるために、パッケージシグナルをloxPで挟み、CRE/loxP系で使用することも可能である。
【0033】
更に、発現ベクターには、以上の他に、宿主細胞の種類等に応じて、所望により当該技術分野で公知の、エンハンサー、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、選択マーカー、SV40複製起点などを付加することができる。
【0034】
本発明の発現ベクターによる宿主細胞の形質転換は、当該技術分野で公知の方法に従って行うことができる。例えば、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、69:2110(1972)、Gene, 17:107(1982)、Molecular & General Genetics, 168:111(1979)、「酵素学における方法」(Methods in Enzymology)、第194巻、182-187(1991)、Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 75:1929(1978)、細胞工学別冊8、新細胞工学実験プロトコール、263-267(1995)(秀潤社発行);およびVirology, 52:456(1973)を参照できる。
【0035】
本発明の発現ベクターは当業者に公知の適当な薬剤運搬システムを利用することによって、標的となる癌細胞又は癌組織に導入することができる。発現ベクターがウイルスに組み込まれウイルスベクターとして構築されている場合には、このようなウイルスベクター自体の表面に存在する各種蛋白質を改変する等して標的となる癌細胞に対する指向性を向上させることが可能である。或いは、各種の人工リポソームを利用するリポフェクション法も可能である。
【0036】
本発明の発現ベクターを活性成分として含有する医薬組成物は、上記の薬物運搬システムを利用することによって、癌細胞に特異的にアポトーシスを誘導し、その結果、優れた抗癌作用を示すことができる。該医薬組成物は公知の製剤学的方法により製剤化することが可能である。例えば、薬理学上許容される担体もしくは媒体、具体的には、滅菌水や生理食塩水、植物油、乳化剤、懸濁剤、界面活性剤、安定剤、徐放剤などと適宜組み合わせて製剤化して投与することが考えられる。本発明の薬剤は、点鼻液、吸入液、及び噴霧剤等の経鼻投与経路に適した、当業者に公知の任意の形態であり得る。有効成分の含有率は、治療目的、及び治療対象等に応じて、当業者が適宜決定することが出来る。
【0037】
当業者であれば、本発明の医薬組成物中の活性成分の組織移行性、治療目的、患者の体重や年齢、症状等に応じて、適当な投与量を適宜選択することが可能である。
【0038】
このように、本発明の発現ベクターを治療対象物に投与することにより、該治療対象物における癌細胞にアポトーシスを誘導することが可能である。又、本発明の医薬組成物を治療対象物に投与することにより、該治療対象物における癌の治療が可能である。投与経路、投与レジュメ等は、治療目的、患者の体重や年齢、症状等に応じて、当業者が適宜選択することが可能である。
【0039】
以下に、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はそれに限定されるものではない。なお、実施例における各種遺伝子操作は、上記の「分子生物学の最新プロトコール」(Frederick M. Ausubelら編、(1987))に記載されている方法に従った。
【実施例1】
【0040】
一過性の細胞発現系
アポトーシス誘導能を上昇させる目的で構築したアポトーシス誘導因子である2DEDplusE(DEDが2つタンデムに連結されたもの(2DED)とラムダファージEタンパク質との融合タンパク質)及びFADD蛋白質単独を実際にヒト癌細胞由来細胞株であるHeLa 細胞(JCRB、寄託番号:JCRB9004)及びSaos-2細胞(理化学研究所バイオリソースセンター、寄託番号:RCB0428 )で発現させ、アポトーシスを誘導する能力の比較を行なった。発現ベクターとしては誘導剤添加に伴い速やかに発現が増加するインビトロジェン社のpTRExの系を用い、誘導剤(テトラサイクリン)を添加した。トランスフェクションされた細胞を区別するために蛍光蛋白質であるGFPを用いた。誘導型プロモーター(TREX)のコントロール下のFADD蛋白質等と常時発現するプロモーター(CMV)を持つGFP蛋白質の両方を含むプラスミドを構築し各細胞にFuGENE6トランスフェクション試薬(ロッシュ)を用いて形質転換を行った。12時間と24時間培養した後に蛍光顕微鏡で写真を撮影し、トランスフェクションによりGFP蛋白質が発現している細胞の計数を行った。12時間後のGFP蛋白質発現細胞数を100%とし、FADD蛋白質等が誘導され、GFP蛋白質を発現していた細胞がアポトーシス(細胞死)を起こすことにより、減少する割合を計算し、この結果を図1に示した。
【0041】
図1から明らかなように、コントロール実験では、細胞が死ぬことはなく、むしろトランスフェクション後24時間経過したことにより、GFP蛋白質が蓄積されGFP蛋白質発現細胞は増加する傾向がある。FADD蛋白質単独で発現させると、ヒト由来培養細胞ではアポトーシスはほとんど観察されなかった。一方、2DEDplusE蛋白質では、24時間後で100%の細胞で完全にアポトーシスが起こることが明らかになった。このことにより、2DEDplusE蛋白質の方がFADD蛋白質単独より明らかに強いアポトーシス誘導能があることが確認できたと同時に、様々な癌細胞由来の細胞にも強い効果があることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の発現ベクターを癌治療のミサイル療法の毒素の代わりに用いて、癌細胞特異的に細胞死を誘導する副作用の少ない安全な治療を行うことが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の発現ベクターを用いてHeLa 細胞(上)及びSaos-2細胞(下)でアポトーシス誘導因子を発現させ、アポトーシスを誘導した結果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
FADD又はその構成ドメインから成るポリペプチドと自己集合活性を有するタンパク質との融合タンパク質から成るアポトーシス誘導因子をコードするDNAが癌細胞活性プロモ―ターの下流に挿入され、該プロモ―ターの調節下でアポトーシス誘導因子が発現することを特徴とする発現ベクター。
【請求項2】
ポリペプチドがFADDのDEDが複数個タンデムに連結されたものである、請求項1記載の発現ベクター。
【請求項3】
FADDのDEDが2つタンデムに連結されたポリペプチドとラムダファージEタンパク質との融合タンパク質から成る、請求項2記載の発現ベクター。
【請求項4】
癌細胞活性プロモ―ターが、テロメラーゼプロモーター、低酸素状態で活性化するプロモーター、又は癌細胞特異的プロモーターである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の発現ベクター。
【請求項5】
ウイルスゲノムに組み込まれていることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項記載の発現ベクター。
【請求項6】
ウイルスがヒトアデノウイルスである、請求項6記載の発現ベクター。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の発現ベクターを活性成分として含有する、癌細胞に特異的にアポトーシスを誘導する医薬組成物。
【請求項8】
抗癌作用を有する、請求項7記載の医薬組成物。
【請求項9】
癌細胞がヒト癌細胞である、請求項7又は8記載の医薬組成物。
【請求項10】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の発現ベクターを治療対象物に投与することから成る、該治療対象物における癌細胞にアポトーシスを誘導する方法。
【請求項11】
請求項8又は9記載の医薬組成物をを治療対象物に投与することから成る、該治療対象物における癌の治療方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−199989(P2008−199989A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−41742(P2007−41742)
【出願日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【出願人】(596175810)財団法人かずさディー・エヌ・エー研究所 (40)
【Fターム(参考)】