説明

新規な細胞分化促進薬

【課題】骨芽細胞又は骨芽細胞に分化し得る細胞の分化・成熟・石灰化を増強する分子であって、その分子を有効量投与することにより骨形成を増強する方法及び骨形成を刺激するための医薬品組成物の提供
【解決手段】骨芽細胞又は骨芽細胞に分化し得る細胞に作用し、骨芽細胞又は骨芽細胞に分化し得る細胞の分化、増殖、成熟又は石灰化を促進する、TRAILに対するアゴニストを有効成分として含む、骨量減少を伴う骨代謝疾患の治療又は予防のための医薬組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、骨芽細胞又は骨芽前駆細胞、間葉系幹細胞、間質細胞、筋芽細胞等の骨芽細胞に分化し得る細胞に作用しそれらの細胞の分化・成熟を増強する分子であって、その組成物を有効量投与することにより骨形成を増強する方法に関する。
【0002】
本発明はまた骨形成を刺激するための医薬品組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
骨は自らの形態変化や血中カルシウム濃度の維持のため、常に形成と吸収・破壊を繰り返し、再構築を行う動的な器官である。通常は骨芽細胞による骨形成と破骨細胞による骨吸収とは平衡状態にあり、これらの細胞間の相互応答機構により骨量が一定に保たれる(非特許文献1を参照)。閉経、老化、炎症などによりこの平衡状態が破綻すると骨粗鬆症、関節リウマチによる骨破壊などの骨代謝異常を発症する。これらの骨代謝異常症は現在高齢化社会の大きな問題の一つとなっており、その発症メカニズムの分子レベルでの解明と有効な治療薬の開発は急務である。
【0004】
骨粗鬆症をはじめとする骨量減少症には、若年性骨粗鬆症、骨形成不全、高カルシウム血症、上皮小体機能亢進症、骨軟化症、骨石灰脱失症、骨溶解性骨疾患、骨壊死、パジェット病、関節リウマチ、変形性関節症による骨の低下、炎症性関節炎、骨髄炎、グルココルチコイド処置、転移性の骨疾患、歯周の骨の喪失、癌による骨の喪失、加齢による骨の喪失、及びその他の骨量減少症が含まれる。また骨折には外力、感染症、加齢及び癌による骨の連続性及び骨自身の喪失が含まれる。
【0005】
骨折治療は基本的に患部固定を行い、欠損部での骨の再構築を待つが、加齢や病的骨折により欠損部が大きい場合には外科的手術による治療が行われる。
【0006】
これまで骨粗鬆症などの骨量減少を示す骨代謝疾患に対する治療薬としては、骨形成の増強よりむしろ骨吸収過程を阻害する骨吸収抑制剤が用いられてきた。骨吸収を阻害する能力により、骨粗鬆症の治療に使用又は示唆されている薬剤には、エストロゲン、選択的エストロゲンレセプター調節因子(SERM)、イプリフラボン、ビタミンK2、カルシウム、カルシトリオール、カルシトニン(非特許文献2を参照)、アレンドロネートなどのビスホスホネートがある(非特許文献3を参照)。しかし、これらの薬剤を用いた治療法は、その効果並びに治療結果において必ずしも満足できるものではなく、より安全かつ有効性の高い新しい治療薬の開発が待ち望まれている。特に、これらビスホスホネートを中心とする骨吸収抑制剤による過度の骨吸収抑制は、人体に悪影響を及ぼすのではないかという懸念がある。医原性大理石骨病になる危険もあり(非特許文献4を参照)、特に若年者への投与は慎重に行う必要がある。特にビスホスホネートによって高度に骨代謝回転が低下する症例では、骨折治癒が遅延する可能性も報告されている(非特許文献5を参照)。
【0007】
一方、日本では骨形成促進薬としては副甲状腺ホルモン(parathyroid hormone, PTH)が臨床開発中である。その他にはBMP2、BMP7、IGF1、FGF2などに骨形成促進作用が知られているが、実際に骨形成促進薬として応用されている例は限られている。例えば、米国などでPTHが骨粗鬆症に、BMP2、BMP7が脊椎すべり症などに、IGF1が重症原発性IGF1欠損症による低身長の小児に臨床応用されているのみである。このように骨形成促進薬の応用例が非常に少ないのは骨形成を行う骨芽細胞の分化・成熟のメカニズムが解明されていないからであった。
【0008】
骨破壊を司る破骨細胞は単球・マクロファージ系の造血細胞に由来する大型の多核細胞である。その前駆細胞は骨表面において骨芽細胞/間質細胞による調節を受け破骨細胞へと分化・成熟する(非特許文献1を参照)。
【0009】
TRAIL(TNF related apoptosis inducing ligand)は、TNFファミリーに属するサイトカインであり、アポトーシス誘導能を持つことが知られている(非特許文献6及び7を参照)。TRAIL は281アミノ酸からなる約30kDaのII型細胞表面蛋白である。その受容体はTRAIL-R1 (Death Recepter 4: DR4)、TRAIL-R2 (Death Recepter 5: DR5)、TRAIL-R3 (Decoy Receptor 1: DcR1)、TRAIL-R4 (Decoy Receptor 2: DcR2)、及びOsteoprotegerin (OPG)が知られている(非特許文献8及び9を参照)。DR4、DR5は細胞内にデス ドメインを持ち、アポトーシス誘導に関与する一方で、DcR1、DcR2はデコイ受容体でありアポトーシスを誘導しない。骨形成を司る骨芽細胞や骨吸収を司る破骨細胞には、これらTNFファミリーに属するサイトカイン、及びこれらの受容体であるTNF受容体ファミリーが発現しており、これらの一部により増殖、分化、活性化などにおいて、様々な調節が知られている(非特許文献10を参照)。
【0010】
一方、骨吸収のシグナルを受けて、骨芽細胞に骨形成シグナルを伝えるメカニズムは解明されていなかった。
【0011】
【非特許文献1】Sudaら、Endocr Rev,13:66, 1992
【非特許文献2】Sambookら,N Engl J Med 328: 1747, 1993
【非特許文献3】Luckmanら、J Bone Miner Res 13 :581, 1998
【非特許文献4】Whyteら、N Engl J Med 349 : 457, 2003
【非特許文献5】Odvinaら、J Clin Endocrinol Metab 90 : 1294, 2005
【非特許文献6】Wiley SR.ら、Immunity, 3 : 673, 1995
【非特許文献7】Pittiら、J Biol Chem. , 271 : 12687, 1996
【非特許文献8】Pan Gら、Science 276 : 111, 1997
【非特許文献9】Pan Gら、Science 277: 815, 1997
【非特許文献10】Bu Rら、Bone , 33 : 760, 2003
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明はTRAILに結合し、作用するTRAIL(TNF-related apoptosis inducing ligand)のアゴニストであって、骨芽細胞又は骨芽細胞に分化し得る細胞の分化・成熟・石灰化を増強する機能を有するTRAILのアゴニストを有効量投与することにより骨形成を増強する方法及び骨形成を刺激するための医薬品組成物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らはTNFファミリーに属するサイトカイン、及びこれらの受容体であるTNF受容体ファミリーの骨芽細胞における役割の解析において鋭意努力した結果、抗TRAIL抗体が骨芽前駆細胞、及び骨芽細胞に作用して分化を促進することを見出した。これは抗TRAIL抗体がこれらの細胞上のTRAILに作用して骨芽細胞内にシグナルを伝えることによって、分化を促進したことを示す。そのような作用を示す物質はアゴニストと呼ばれる。この場合、抗TRAIL抗体はTRAILのアゴニストとして作用する。この作用により、生体内で骨芽細胞の分化を促進させ、骨量を増加させることが可能である。抗TRAIL抗体をはじめとするTRAIL結合物質には、TRAILのアゴニストとして作用するものがあり、それらを含有する医薬品により骨粗鬆症などの骨量減少症、又は外力、感染症、加齢若しくは癌による骨折を治療できる。
【0014】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1] 骨芽細胞又は骨芽細胞に分化し得る細胞に作用し、骨芽細胞又は骨芽細胞に分化し得る細胞の分化、増殖、成熟又は石灰化を促進する、TRAILに対するアゴニストを有効成分として含む、骨量減少を伴う骨代謝疾患の治療若しくは予防、又は骨折治療のための医薬組成物。
[2] TRAILに対するアゴニストが抗TRAIL抗体である、[1]の骨量減少を伴う骨代謝疾患の治療若しくは予防、又は外力、感染症、加齢若しくは癌による骨折治療のための医薬組成物。
[3] 骨芽細胞に分化し得る細胞が、骨芽前駆細胞、間葉系幹細胞、間質細胞及び筋芽細胞からなる群から選択される、[1]又は[2]の骨量減少を伴う骨代謝疾患の治療若しくは予防、又は外力、感染症、加齢若しくは癌による骨折治療のための医薬組成物。
[4] 骨量減少を伴う骨代謝疾患又は骨折が、骨粗鬆症、若年性骨粗鬆症、骨形成不全、高カルシウム血症、上皮小体機能亢進症、骨軟化症、骨石灰脱失症、骨溶解性骨疾患、骨壊死、パジェット病、関節リウマチ、変形性関節症による骨の低下、炎症性関節炎、骨髄炎、グルココルチコイド処置、転移性の骨疾患、歯周の骨の喪失、癌による骨の喪失、加齢による骨の喪失、外力による骨の連続性若しくは骨自身の喪失からなる群から選択される、[1]〜[3]のいずれかの骨量減少を伴う骨代謝疾患の治療若しくは予防、又は外力、感染症、加齢若しくは癌による骨折治療のための医薬組成物。
[5] 骨芽細胞又は骨芽細胞に分化し得る細胞に作用し、骨芽細胞又は骨芽細胞に分化し得る細胞の分化、増殖、成熟又は石灰化を促進する、TRAILに対するアゴニストを有効成分として含む、骨芽細胞分化・成熟剤。
[6] TRAILに対するアゴニストが抗TRAIL抗体である、[5]の骨芽細胞分化・成熟剤。
[7] 骨芽細胞に分化し得る細胞が、骨芽前駆細胞、間葉系幹細胞、間質細胞及び筋芽細胞からなる群から選択される、[5]又は[6]の骨芽細胞分化・成熟剤。
[8] 骨量減少を伴う骨代謝疾患又は骨折が、骨粗鬆症、若年性骨粗鬆症、骨形成不全、高カルシウム血症、上皮小体機能亢進症、骨軟化症、骨石灰脱失症、骨溶解性骨疾患、骨壊死、パジェット病、関節リウマチ、変形性関節症による骨の低下、炎症性関節炎、骨髄炎、グルココルチコイド処置、転移性の骨疾患、歯周の骨の喪失、癌による骨の喪失、加齢による骨の喪失、外力による骨の連続性若しくは骨自身の喪失から選択される、[5]〜[7]のいずれかの骨芽細胞分化・成熟剤。
【発明の効果】
【0015】
抗TRAIL抗体等のTRAILのアゴニストは、骨芽前駆細胞や骨芽細胞上のTRAILに結合し作用して骨芽細胞内にシグナルを伝え、骨芽細胞の分化・成熟を亢進させ、その結果、骨量を増加させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、骨芽細胞又は骨芽細胞に分化し得る細胞に作用しそれら細胞の分化、増殖、成熟、石灰化を促進し、骨形成を促し、骨量増強等を引き起こす化合物を有効成分として含む医薬組成物である。該医薬組成物として、TRAILに作用するTRAILのアゴニストであって、TRAILを介して骨芽細胞又は骨芽細胞に分化し得る細胞にシグナルを伝達し、骨芽細胞又は骨芽細胞に分化し得る細胞の分化、増殖、成熟、石灰化を促進し、骨形成を促し、骨量増強等を引き起こすTRAILのアゴニストを有効成分として含む医薬組成物が挙げられる。ここで、TRAILに作用するとは、TRAILに作用してTRAILから骨芽細胞又は骨芽細胞に分化し得る細胞にシグナルを伝達することをいい、例えば、TRAILに結合し、TRAILから骨芽細胞又は骨芽細胞に分化し得る細胞にシグナルを伝達する。
【0017】
TRAILに作用し、骨芽細胞又は骨芽細胞に分化し得る細胞の分化、増殖、成熟、石灰化を促進し、骨形成を促し、骨量増強等を引き起こす化合物として、あらゆる動物種由来のあらゆるTRAILに作用する化合物、すなわちTRAILに対するアゴニストが挙げられる。
【0018】
本発明においては、TRAILに作用し、骨芽細胞又は骨芽細胞に分化し得る細胞の分化、増殖、成熟、石灰化を促進し、骨形成を促し、骨量増強等を引き起こす化合物を、TRAILに対するアゴニスト物質ということがある。
【0019】
TRAILに対するアゴニストとして、抗TRAIL抗体であって、TRAILに作用することにより、骨芽細胞又は骨芽細胞に分化し得る細胞の分化、増殖、成熟、石灰化を促進し、骨形成を促し、骨量増強等を引き起こす抗体又はその機能的断片が挙げられる。本発明において、これらの抗体をTRAILに対するアゴニスト抗体又は抗TRAILアゴニスト抗体ということがある。抗TRAIL抗体は、公知の方法により、ポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体として得ることができ、モノクローナル抗体が好ましい。モノクローナル抗体は、ハイブリドーマに産生されるもの、及び遺伝子工学的手法により抗体遺伝子を含む発現ベクターで形質転換した宿主に産生されるものを含む。モノクローナル抗体産生ハイブリドーマは、公知の手法により、以下のようにして作製できる。すなわち、TRAIL又はその断片ペプチドを感作抗原として用いて、公知の免疫方法により免疫し、得られる免疫細胞を通常の細胞融合法によって公知の親細胞と融合させ、公知のスクリーニング法により、モノクローナル抗体を産生する細胞をスクリーニングすることによって作製することができる。
【0020】
TRAILを免疫する際、ウシ血清アルブミン(BSA)、キーホールリンペットヘモシアニン等のキャリアタンパク質と結合させて用いてもよい。モノクローナル抗体としては、抗体遺伝子をハイブリドーマからクローニングし、適当なベクターに組み込んで、これを宿主に導入し、遺伝子組換え技術を用いて産生させた組換え型のものを用いることができる(例えば、Vandamme, A. M. et al., Eur. J. Biochem. 1990;192:767-775.参照)。この際、抗体重鎖(H鎖)又は軽鎖(L鎖)をコードするDNAを別々に発現ベクターに組み込んで宿主細胞を同時形質転換させてもよいし、あるいはH鎖及びL鎖をコードするDNAを単一の発現ベクターに組み込んで宿主細胞を形質転換させてもよい(WO 94/11523 号公報参照)。また、トランスジェニック動物を使用することにより、組換え型抗体を産生することもできる。例えば、抗体遺伝子を、乳汁中に固有に産生されるタンパク質(ヤギβカゼインなど)をコードする遺伝子の途中に挿入して融合遺伝子として調製する。抗体遺伝子が挿入された融合遺伝子を含むDNA断片をヤギの胚へ注入し、この胚を雌のヤギへ導入する。胚を受容したヤギから生まれるトランスジェニックヤギ又はその子孫が産生する乳汁から所望の抗体を得る(Ebert, K.M. et al., Bio/Technology 1994;12:699-702)。
【0021】
本発明の抗TRAIL抗体は、ヒトに対する異種抗原性を低下させること等を目的として人為的に改変した遺伝子組換え型抗体、例えば、キメラ抗体、ヒト型化(Humanized)抗体をも含む。このような抗体としてはキメラ抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体が挙げられ、いずれも公知の方法を用いて製造することができる。キメラ抗体は、得た抗体V領域をコードするDNAを得て、ヒト抗体C領域をコードするDNAと連結し、これを発現ベクターに組み込んで宿主に導入し産生させることにより得られる。ヒト型化抗体は、再構成(reshaped)ヒト抗体ともいう。ヒト型化抗体は、ヒト以外の哺乳動物、例えばマウス抗体の相補性決定領域(CDR; complementarity determining region)をヒト抗体の相補性決定領域へ移植したものであり、公知の方法により作製することができる(欧州特許出願公開番号EP 125023号公報、WO 96/02576 号公報参照)。キメラ抗体及びヒト型化抗体のC領域には、ヒト抗体のものが使用され、例えばH鎖では、Cγ1、Cγ2、Cγ3、Cγ4を、L鎖ではCκ、Cλを使用することができる。また、抗体又はその産生の安定性を改善するために、ヒト抗体C領域を修飾してもよい。
【0022】
ヒト抗体は、例えばヒト抗体遺伝子座を導入し、ヒト由来抗体を産生する能力を有するトランスジェニック動物に抗原を投与することにより得ることができる。該トランスジェニック動物としてマウスが挙げられ、ヒト抗体を産生し得るマウスの作出方法は、例えば、国際公開第WO02/43478号パンフレットに記載されている。
【0023】
抗TRAIL抗体は、完全抗体だけでなく、その機能的断片も含む。抗体の機能的断片とは、抗体の一部分(部分断片)であって、抗体の抗原への作用を1つ以上保持するものを意味し、具体的にはF(ab')2、Fab'、Fab、Fv、ジスルフィド結合Fv、一本鎖Fv(scFv)、及びこれらの重合体等が挙げられる[D.J.King., Applications and Engineering of Monoclonal Antibodies., 1998 T.J.International Ltd]。
【0024】
また、モノクローナル抗体を用いる場合、1種類のみのモノクローナル抗体を用いてもよいが、認識するエピトープが異なる2種類以上、例えば2種類、3種類、4種類又は5種類のモノクローナル抗体を用いてもよい。
【0025】
上記の化合物が、TRAILに対してシグナル伝達を促進させるアゴニスト活性を有するか否かは、例えば、抗体をTRAILを発現する骨芽細胞又はその骨芽前駆細胞、若しくは筋芽細胞や間質細胞等の骨芽前駆細胞、間葉系幹細胞と同様の性質を有する細胞に投与し、TRAILに作用させ、これらの細胞が分化、増殖するかを検定することにより、決定することができる。分化、増殖は、例えば細胞のアルカリフォスファターゼ活性の上昇や石灰化等を指標に決定することができる。
【0026】
また、上記化合物を動物に投与した場合、骨密度、骨塩量、骨面積が増加する。骨密度とは、骨中のカルシウムなどミネラル成分の密度を数字で表したものをいう。骨密度は、pQCT(peripheral quantitative computerized tomography; 末梢骨X線CT装置)、SXA(Single Energy X-Ray Absorptiometry)、DXA(Dual Energy X-Ray Absorptiometry; 二重エネルギーX線吸収法)等により計測することができる。さらに、上記化合物を動物に投与した場合、μCTで骨の3次元構造解析を行った場合、海綿骨の密度の上昇が認められる。さらに、海綿骨骨梁構造計測により、BV/TV(単位骨量:bone volume/total tissue volume)、骨梁幅、骨梁数の増加が認められる。さらに、上記化合物を動物に投与した場合、pQCTによる骨形態計測により、皮質骨領域の骨密度の増加が認められる。
【0027】
本発明の組成物は、骨形成を増強し得、in vitroで研究用試薬として用いることもでき、またin vivoで医薬組成物として用いることもできる。
【0028】
本発明の医薬組成物は、骨形成を増強する医薬組成物として用いることができる。特に、骨量減少を伴う骨代謝疾患の治療若しくは予防、又は外力、感染症、加齢若しくは癌による骨折治療のために用いることができる。このような、骨代謝疾患としては、骨粗鬆症、若年性骨粗鬆症、骨形成不全、高カルシウム血症、上皮小体機能亢進症、骨軟化症、骨石灰脱失症、骨溶解性骨疾患、骨壊死、パジェット病、関節リウマチ、変形性関節症による骨の低下、炎症性関節炎、骨髄炎、グルココルチコイド処置、転移性の骨疾患、歯周の骨の喪失、癌による骨の喪失、加齢による骨の喪失、及びその他の骨量減少症が挙げられる。
【0029】
投与量は、症状、年齢、体重などによって異なるが、通常、経口投与では、成人に対して、1日約0.01mg〜1000mgであり、これらを1回、又は数回に分けて投与することができる。また、非経口投与では、1回約0.01mg〜1000mgを皮下注射、筋肉注射又は静脈注射によって投与することができる。
【0030】
組成物は、製剤分野において通常用いられる担体、希釈剤、賦形剤を含む。たとえば、錠剤用の担体、賦形剤としては、乳糖、ステアリン酸マグネシウムなどが使用される。注射用の水性液としては、生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液などが使用され、適当な溶解補助剤、たとえばアルコール、プロピレングリコールなどのポリアルコール、非イオン界面活性剤などと併用してもよい。油性液としては、ゴマ油、大豆油などが使用され、溶解補助剤としては安息香酸ベンジル、ベンジルアルコールなどを併用してもよい。
【実施例】
【0031】
本発明を以下の実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0032】
実施例1 マウス骨芽前駆細胞株MC3T3-E1の分化誘導
試薬/培養細胞
マウス骨芽前駆細胞株であるMC3T3-E1は理化学研究所から購入した。
【0033】
実験には抗TRAILモノクローナル抗体mm1(クローンN2B2,サンタクルズ)及びmm2(クローンFF-10,サンタクルズ)を使用した。
【0034】
1.5×104個/ウェルのマウス骨芽前駆細胞MC3T3-E1を96ウェルプレートに10%FBS+αMEM(SIGMA)を用いて播種した。翌日各抗TRAIL抗体を0.2及び1μg/mLの濃度で添加し、37℃CO2濃度5%下で5日間培養を行った。培養後に細胞をアセトン・エタノール固定液で固定した。固定後、ALP(アルカリフォスファターゼ)活性をパラニトロフェニルリン酸を基質とする方法で測定した。すなわち、パラニトロフェニルリン酸(Nacalai)1mg/mLを含む炭酸バッファーを各ウェルに100μL添加し、37℃でインキュベート後に各ウェルの405nmにおけるOD値をマイクロプレートリーダー(BMG Labtech)にて測定した。その結果、抗TRAIL抗体添加群にて用量依存的にALP活性の有意な増加が確認できたが、その効果はmm1の方がmm2よりも強かった(図1)。以上から、抗TRAIL抗体によってMC3T3-E1細胞は骨芽細胞に分化したことが示された。
【0035】
実施例2 マウス骨芽細胞の分化誘導
マウス骨芽細胞の採取
新生児マウス頭蓋骨を酵素溶液(0.1%コラゲナーゼ(Wako)+0.2%ディスパーゼ(合同酒精))に浸して、37℃の恒温槽にて5分間振とうさせた。最初の細胞浮遊画分は除去し、新しい酵素液10mLを添加し、さらに37℃の恒温槽にて10分間振とうさせた。この操作を4回繰り返し、それぞれの細胞浮遊液を回収した。細胞浮遊液を250×gで5分間遠心し、培地に懸濁してCO2インキュベーター内で3〜4日間培養した。トリプシン-EDTA溶液(Nacalai)を用いてこれら細胞を回収し、セルバンカー(十慈科学)にて凍結保存した。
【0036】
マウス骨芽細胞の分化誘導
得られたマウス骨芽細胞を0.8×104/wellとなるように96wellプレートに10%FBS+αMEMを用いて播種した。細胞が接着後に、実施例1に記載の抗体を1及び5μg/mLの濃度で添加し、培養後4日目に細胞をアセトン・エタノール固定液で固定した。コントロール抗体にはmm1と抗原が異なり、バッファー組成のみが同じモノクローナル抗体を用いた。固定後、実施例1に記載した方法によりALP活性の測定を行った。
【0037】
その結果、mm1抗体添加群において濃度依存的に有意なALP活性の上昇が確認された(図2)。mm1抗体及びmm2抗体は異なるエピトープを認識する為に誘導能の強さに違いは見られるものの、抗TRAIL抗体によりALP活性誘導能を有することが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】マウス骨芽前駆細胞における抗TRAIL抗体によるALP活性の上昇を示す図である。
【図2】マウス骨芽細胞における抗TRAIL抗体によるALP活性の上昇を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
骨芽細胞又は骨芽細胞に分化し得る細胞に作用し、骨芽細胞又は骨芽細胞に分化し得る細胞の分化、増殖、成熟又は石灰化を促進する、TRAILに対するアゴニストを有効成分として含む、骨量減少を伴う骨代謝疾患の治療若しくは予防、又は骨折治療のための医薬組成物。
【請求項2】
TRAILに対するアゴニストが抗TRAIL抗体である、請求項1記載の骨量減少を伴う骨代謝疾患の治療若しくは予防、又は外力、感染症、加齢若しくは癌による骨折治療のための医薬組成物。
【請求項3】
骨芽細胞に分化し得る細胞が、骨芽前駆細胞、間葉系幹細胞、間質細胞及び筋芽細胞からなる群から選択される、請求項1又は2に記載の骨量減少を伴う骨代謝疾患の治療若しくは予防、又は外力、感染症、加齢若しくは癌による骨折治療のための医薬組成物。
【請求項4】
骨量減少を伴う骨代謝疾患又は骨折が、骨粗鬆症、若年性骨粗鬆症、骨形成不全、高カルシウム血症、上皮小体機能亢進症、骨軟化症、骨石灰脱失症、骨溶解性骨疾患、骨壊死、パジェット病、関節リウマチ、変形性関節症による骨の低下、炎症性関節炎、骨髄炎、グルココルチコイド処置、転移性の骨疾患、歯周の骨の喪失、癌による骨の喪失、加齢による骨の喪失、外力による骨の連続性若しくは骨自身の喪失からなる群から選択される、請求項1〜3のいずれか1項に記載の骨量減少を伴う骨代謝疾患の治療若しくは予防、又は外力、感染症、加齢若しくは癌による骨折治療のための医薬組成物。
【請求項5】
骨芽細胞又は骨芽細胞に分化し得る細胞に作用し、骨芽細胞又は骨芽細胞に分化し得る細胞の分化、増殖、成熟又は石灰化を促進する、TRAILに対するアゴニストを有効成分として含む、骨芽細胞分化・成熟剤。
【請求項6】
TRAILに対するアゴニストが抗TRAIL抗体である、請求項5記載の骨芽細胞分化・成熟剤。
【請求項7】
骨芽細胞に分化し得る細胞が、骨芽前駆細胞、間葉系幹細胞、間質細胞及び筋芽細胞からなる群から選択される、請求項5又は6に記載の骨芽細胞分化・成熟剤。
【請求項8】
骨量減少を伴う骨代謝疾患又は骨折が、骨粗鬆症、若年性骨粗鬆症、骨形成不全、高カルシウム血症、上皮小体機能亢進症、骨軟化症、骨石灰脱失症、骨溶解性骨疾患、骨壊死、パジェット病、関節リウマチ、変形性関節症による骨の低下、炎症性関節炎、骨髄炎、グルココルチコイド処置、転移性の骨疾患、歯周の骨の喪失、癌による骨の喪失、加齢による骨の喪失、外力による骨の連続性若しくは骨自身の喪失からなる群から選択される、請求項5〜7のいずれか1項に記載の骨芽細胞分化・成熟剤。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−138106(P2010−138106A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−315794(P2008−315794)
【出願日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【出願人】(000103840)オリエンタル酵母工業株式会社 (60)
【Fターム(参考)】