説明

新規りん酸加里複合肥料

【課題】 鶏糞焼却灰に含まれるリン酸成分の溶解性を向上させて有効化を計ると同時に石灰成分由来のアルカリを中和したハンドリングの良い粉末状の形態の新規りん酸加里複合肥料の製造方法および新規りん酸加里複合肥料の提供。
【解決手段】 鶏糞焼却灰粉末にアルカリ土類金属化合物を加え、これに鉱酸を添加して反応させ加えたアルカリ土類金属化合物粉末と鉱酸の中和発熱を利用し反応系の温度を高め、鶏糞焼却灰に含まれる石灰分などと鉱酸の反応を促進してリン酸成分をクエン酸溶性リン酸塩に変換させると同時に生成物を中性ないし弱酸性に保つことにより課題を解決できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は新規りん酸加里複合肥料の製造方法および新規りん酸加里複合肥料に関するものであり、さらに詳しくは、鶏糞焼却灰を有効利用して、含有するりん酸成分を鉱酸で処理し有効化させる新規りん酸加里複合肥料の製造方法および新規りん酸加里複合肥料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鶏糞は有機肥料として使用されている。鶏が排泄直後の鶏糞は水分を多量に含み特有の臭気を有している。1999年の統計によれば日本国内の鶏糞は採卵養鶏で843万トン、ブロイラーが533万トン発生している。
鶏糞など家畜排泄物の利用は、農地への有機物の補充、化学肥料の低減など、持続型農業の推進のために重要である。一方、環境保全の面からも、適切な処理が求められている。
現在、鶏糞は公知の方法で乾燥処理、発酵処理、炭化処理および800℃程度で焼却処理し灰化した後、粒度を調整した焼却灰として肥料として用いられている。
【0003】
近年環境対策として鶏糞を焼却し減容化させ臭気のない灰、すなわち鶏糞焼却灰とする方法が多くなってきた。
鶏糞を800℃1.5時間処理したものの化学成分の一例を示すと、CaO32.0%、K2 O21.0%、P25 15.0%、SO3 10.0%、MgO5.5%、Cl5.5%、Na2 O3.0%、SiO2 3.0%、Al23 0.59%,Fe23 0.56%、MnO0.21%、ZnO0.19%、1000℃における強熱減量(Ig.Loss)3.7%である。
なお、%は質量%を示し、以下特に説明しない限り%は質量%を示す。
【0004】
化学組成を粉末X線回折により同定するとCa3(PO)4[リン酸三石灰]、Ca5(PO4 )3(OH) [ヒドロキシアパタイト]、塩化カリ、生石灰、消石灰、炭酸カルシウムなどが同定できた。このように鶏糞焼却灰は、肥料成分特にりん、カリ成分に富んでいる。しかし石灰分が多く焼却により生成した生石灰、生石灰が大気中で冷却静置され空気中の水分を取り込み生成された消石灰、未分解の炭酸カルシウムとして存在する。したがって該焼却灰は強いアルカリを呈する。したがって他の酸性肥料、またアンモニア系窒素肥料と混合することができない。またP25 成分は大部分が、ヒドロキシ水酸アパタイトおよびリン酸三石灰由来のものである。これらのりん酸塩は難溶性であり肥料効果が低いのが難点である。なお、カリ成分は塩化カリウムKClとして存在する。
【0005】
鶏糞の有効利用については鶏糞を大気中または低酸素状態で焼成し、産業的に有用な水溶性カリウムの溶出度の高い肥料組成物を作る方法が開示されている(特許文献1参照)。しかしこの方法では鶏糞の減容化、臭気の除去、有害有機性化合物の除去は可能であるがりん酸成分の有効化は期待できない。
【0006】
鶏糞焼却灰粉のりん酸成分の有効化に酸による処理を行うことは、公知である(特許文献2参照)。一般に粉体と液体との反応を均一かつ効率よく行わせるにはできるだけ水分の多いスラリー状で反応させたほうが良い。
しかし生成物は含水率が高く塊まりまたはペースト状となり、このままでは製品になりえない。
【0007】
燃焼灰に少量の増粘剤を加え、含水条件下にて硫酸および/またはりん酸を加えて反応せしめ、燃焼灰の含有りん酸を有効りん酸に変化させると共に含有加里苦土成分の水溶率化を高めるとともに反応物を粉末状で回収しこのまま粉砕することなく目的とするりん酸加里苦土肥料の製造方法が提案されている(特許文献2参照)。
この工程において重要なのは、燃焼灰に含有するアルカリ成分と酸の反応に伴う発熱を利用し系内の温度を高め余剰水分を蒸発させることにより生成物を粉末状で得ることである。しかしこの方法でも鶏糞燃焼灰のりん酸成分の可溶性化、余剰水分の蒸発において反応熱が少なく系内の温度上昇に限界があり、反応に長時間要し、りん酸成分の有効化は不十分である。
【特許文献1】特開2003−238277号公報
【特許文献2】特開昭57−140387号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の第1の目的は、鶏糞焼却灰と鉱酸との反応を効率よく行って、含有する難溶性のCa5(PO4)3(OH)[ヒドロキシアパタイト]およびCa3(PO)4[りん酸三石灰]をクエン酸可溶性成分に変換し有効化させると同時に生成物を中性ないし弱酸性に保ち、他の酸性肥料およびアンモニア系窒素肥料と混合することができる新規りん酸加里複合肥料であって、しかもハンドリングのより良い粉末状の形態の新規りん酸加里複合肥料の製造方法を提供することであり、
本発明の第2の目的は、そのような製造方法により製造された優れた特性を有する新規りん酸加里複合肥料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は鋭意研究の結果、鶏糞焼却灰粉末にアルカリ土類金属化合物粉末を加え、りん酸液またはりん酸と硫酸の混酸、あるいは硫酸で反応させ、加えたアルカリ土類金属化合物粉末と鉱酸の中和発熱を利用し反応系の温度を高め鶏糞焼却灰に含まれる石灰分、りん酸三石灰、ヒドロキシアパタイトと鉱酸の反応を促進してP25 成分をクエン酸可溶性(以下、ク溶性と称す場合がある)りん酸であるりん酸二石灰CaHPO4 、CaHPO4 ・2H2 Oに変換させ有効化させた新規りん酸加里複合肥料であって、しかもハンドリングのより良い粉末状の新規りん酸加里複合肥料が得られることを見いだし、好ましくは同時に生成物を中性ないし弱酸性に保つことにより他の酸性肥料、アンモニア系窒素肥料と混合することができる優れた新規りん酸加里複合肥料が得られることを見いだし、本発明を成すに到った。
【0010】
すなわち、前記課題を解決するための本発明の請求項1は、鶏糞焼却灰100質量部に対し、アルカリ土類金属化合物5〜200質量部を混合し、これに鉱酸を添加し、反応させることを特徴とする新規りん酸加里複合肥料の製造方法である。
【0011】
本発明の請求項2は、請求項1記載の製造方法において、アルカリ土類金属化合物が、水酸化カルシウム、酸化カルシム、炭酸カルシウム、焼成貝殻、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、ドロマイト、貝殻の粉末から選択される1種または2種以上であることを特徴とする。
【0012】
本発明の請求項3は請求項1あるいは請求項2記載の製造方法において、鉱酸が、リン酸、硫酸のいずれか1種またはその混合物であることを特徴とする。
【0013】
本発明の請求項4は、請求項1から請求項3のいずれかに記載の製造方法により製造されたことを特徴とする新規りん酸加里複合肥料である。
【0014】
本発明の請求項5は、請求項4記載の新規りん酸加里複合肥料において、pHが7.0以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の請求項1記載の新規りん酸加里複合肥料の製造方法は、鶏糞焼却灰100質量部に対し、アルカリ土類金属化合物5〜200質量部を混合し、これに鉱酸を添加し、反応させることを特徴とするものであり、アルカリ土類金属化合物と鉱酸の中和発熱を利用し、反応系の温度を高めて、鶏糞焼却灰と鉱酸との反応を促進し、効率よく反応を行うことができ、含有する難溶性のCa5(PO4 )3 (OH)[ヒドロキシアパタイト]およびCa3(PO)4[りん酸三石灰]をクエン酸可溶性成分に変換し有効化させると同時に生成物を中性ないし弱酸性に保ち他の酸性肥料およびアンモニア系窒素肥料と混合することができ、しかもハンドリングのより良い粉末状の形態で得られ易いという、顕著な効果を奏する。
【0016】
本発明の請求項2は、請求項1記載の製造方法において、アルカリ土類金属化合物が、水酸化カルシウム、酸化カルシム、炭酸カルシウム、焼成貝殻、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、ドロマイト、貝殻の粉末から選択される1種または2種以上であることを特徴とするものであり、安価で入手が容易である上、鉱酸との中和がよく行われ中和発熱を利用し反応系の温度を高めて鶏糞焼却灰と鉱酸との反応をより促進し、より効率よく行えるという、さらなる顕著な効果を奏する。
【0017】
本発明の請求項3は、請求項1あるいは請求項2記載の製造方法において、鉱酸が、リン酸、硫酸のいずれか1種またはその混合物であることを特徴とするものであり、安価で入手が容易である上、アルカリ土類金属化合物との中和がよく行われ中和発熱を利用し反応系の温度を高めて鶏糞焼却灰と鉱酸との反応をより促進し、より効率よく行えるという、さらなる顕著な効果を奏する。
【0018】
本発明の請求項4は、請求項1から請求項3のいずれかに記載の製造方法により製造されたことを特徴とする新規りん酸加里複合肥料であり、鶏糞焼却灰に含有されている難溶性のCa5(PO4 )3(OH)[ヒドロキシアパタイト]およびCa3(PO)4[りん酸三石灰]がクエン酸可溶性成分に変換されているため効率良く有効利用できると同時に中性ないし弱酸性であるので、単独で利用することも、他の酸性肥料、アンモニア系窒素肥料と混合して利用することもでき、しかもハンドリングのより良い粉末状の形態であるという、顕著な効果を奏する。
【0019】
本発明の請求項5は、請求項4記載の新規りん酸加里複合肥料において、pHが7.0以下であることを特徴とするものであり、確実に中性ないし弱酸性であるので、単独で利用することも、他の酸性肥料、アンモニア系窒素肥料と混合して利用することも容易にできるという、さらなる顕著な効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明をさらに詳しく説明する。
鶏糞焼却灰粉末単体とリン酸液との反応はまず焼却灰中に含有する遊離CaO成分とH3 PO4 との反応が優先し、その後、りん酸三石灰、ヒドロキシアパタイトと反応する。
【0021】
生成物のハンドリング性を考慮すると、反応生成物はできるだけ粉末状で得られるよう、また多少の塊状物はハンマークラッシャーなどの解砕機で容易に解砕できるよう調整しなければならない。そのためにはできるだけ、生成物の粘性を小さくし固着性がない生成物が得られるよう工夫する必要がある。
【0022】
そのためには添加反応させる鉱酸溶液はできるだけ高濃度の溶液が望ましく、鉱酸がりん酸の場合、粗製りん酸液であっても問題なく使用できる。粗製りん酸液とは、りん鉱石から湿式法で製造した未精製の濃縮りん酸液で、P25 成分をH3 PO4 の形で含有しているものである。既存の粗製りん酸液は、P25換算で44〜48質量部のほか原料由来の硫酸をH2 SO4 として4〜6質量部含む。
【0023】
鶏糞焼却灰粉末と粗製リン酸液とを反応させた場合、鶏糞焼却灰含有成分のりん酸石灰成分との反応に先立ちまずアルカリ土類金属化合物とりん酸との反応が優先する。
アルカリ土類金属化合物とりん酸液との反応は次の通りである。
【0024】

【0025】
これらの反応が終了してから、焼却灰中に存在するりん酸石灰成分とH3 PO4 との反応が進行する。
アルカリ土類金属化合物とりん酸の初期に起こる反応は、第一りん酸塩であるM(H2 PO42 ・nH2 O(水溶性りん酸塩)(但し、Mはアルカリ土類金属を示す)の生成反応(前記化学式(1)〜(3)、(10)〜(12))である。これは、反応系のH3 PO4 濃度が局所的に高濃度となり、一分子当たりのP25 含有量が多い第一リン酸塩が生成しやすくなるからである。
生成する第一りん酸塩は、結晶が微細なことと、余剰水分に溶解して粘度を増加させることから、反応初期は粘性を帯びて団粒状になる。
【0026】
反応が進行するに従って、第二りん酸塩であるMHPO4 および/またはMHPO4 ・nH2 O(ク溶性りん酸塩)が生成する前記化学式(4) 〜(9) と化学式(13)〜(18)の反応が主体となり、余剰水分を媒体としてアルカリ土類金属化合物とH3 PO4 、第一りん酸塩との間で行われる。
この際、MO、M(OH)2 、MCO3 は反応性が高く、上記の反応は速やかに進行し、反応熱によって系全体が高温になるため、低温(70℃以下)では生成しない第二りん酸カルシウム無水物および/または第二りん酸マグネシウム三水和物が生成する。
【0027】
粗製りん酸液は、りん鉱石から湿式法で製造した未精製の濃縮りん酸液で、P25 成分を主にH3 PO4 の形で含有しているものである。既存の粗製りん酸液は、P25 換算で44〜48質量部程度の濃度を有し、この濃度範囲であれば本発明の原料として問題なく使用できる。また、これよりも高濃度のものを利用することも可能である。
【0028】
これらの反応が終了してから過剰のりん酸があれば鶏糞焼却灰中に存在するCa5(PO4)3(OH)[ヒドロキシアパタイト]およびCa3(PO)4[リン酸三石灰]とH3 PO4 が反応しりん酸二石灰CaHPO4 、CaHPO4 ・2H2 Oが生成する。一方、反応系内にアルカリ土類金属化合物量が少ない場合、りん酸二水素カリウムKH2 PO4 が生成する。
【0029】
しかし、鶏糞焼却灰粉末とりん酸液の反応では、初期反応であるアルカリ土類金属化合物のりん酸塩生成反応自体が少ないので系内の温度上昇が緩慢なため後段の反応が進みにくい。このことはりん酸成分の溶解度上昇が少ないばかりか、水分蒸発が少なく、生成物は塊状で固結しやすくしかも粘りが強く乾燥しないと粉砕できない。またりん酸液を減らし、アルカリ土類金属化合物のみ中和するに要するりん酸液量で反応させた場合りん酸成分の有効化を期待できない。
【0030】
鶏糞焼却灰100質量部に対し、アルカリ土類金属化合物5〜200質量部を混合し、これに鉱酸を添加すると、先ず鶏焼却灰中の遊離石灰およびアルカリ土類金属化合物が反応し、この反応熱により系の温度が100℃程度になり、第二りん酸塩が生成する。
また、温度上昇に伴い過剰のH3 PO4 とCa5(PO4)3(OH)[ヒドロキシアパタイト]およびCa3(PO)4[りん酸三石灰]とが反応しりん酸二石灰CaHPO4 、CaHPO4 ・2H2 Oが生成する。
【0031】
しかも余剰水分は蒸発および結晶水として取り込まれることから、付着・凝集性が低減され流動性に優れた粉末が容易に得られる。ここで得られた生成物は室温で冷却すると結晶成長すると共に結合水を取り込み粘ちょう性がなく粉末状で得られ、乾燥することなく凝集物を容易に解砕することも可能である。
【0032】
上記で得られた反応物粉末は常法のパン型造粒機、ドラム造粒などで、パルプ工業から副生するリグニンスルホン酸、糖蜜などの粘結剤、りん酸液などを使用し肥料に適した粒度に湿式造粒し乾燥することによりク溶性りん酸成分および塩化カリ由来のカリを含有する粒状りん酸加里複合肥料とすることができる。
【0033】
本発明で鶏糞焼却灰粉末に混合するアルカリ土類金属化合物を主成分とする粉末の原材料としては、生石灰、焼成貝殻、軽焼マグネシア、軽焼ドロマイト、消石灰、水酸化マグネシウム、軽焼ドロマイト水和物(ドロマイトプラスター)、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、貝殻粉末、苦土石灰粉末(ドロマイト粉末)などが挙げられ、このうちの1種または2種以上を使用することができる。
【0034】
アルカリ土類金属化合物を主成分とする粉末の粒度は、細かいほど反応性が良好であるが、一般の工業分野で使用されているものと同様の粒度、例えば600μm以下であれば問題なく使用できる。
【0035】
一方、鉱酸は、りん酸、硫酸のいずれか1種またはその混合物が好ましい。硫酸単味を使用すると反応物はりん酸二石灰のほか石膏が生成する。石膏は温度条件が80℃より高いと無水石膏、半水石膏それ以下の場合2水石膏が生成する。生成物中石膏含量が多くなると肥料成分の低下とともに反応物が粘り解砕が困難となる。
【0036】
この場合反応物を室温で静置し養生を待ち、乾燥後粉砕し、常法に従い造粒し使用することになる。鶏糞焼却灰粉末とアルカリ土類金属化合物粉との混合物と鉱酸との反応における比率は、粉末中アルカリ土類金属化合物を酸化物に換算しMOと表示した場合、MOに対し加える鉱酸は1:1モルで、鉱酸がH3 PO4の場合、MO/ H3 PO4 =1.0とした場合、最終生成物は前記の化学反応式(1)〜(18)に示すとおりMHPO4 またはMHPO4 ・nH2 Oである。
【0037】
鉱酸がH2 SO4 の場合CaSO4,CaSO4 ・1/2H2 O、CaSO4 ・2H2 OまたはMgSO4 である。
しかし鶏糞含有MOは生石灰、消石灰、炭酸カルシウム、酸化マグネシウムのほかヒドロキシアパタイトおよびりん酸三石灰由来のものが多く、これらりん酸カルシウム系化合物の石灰分と酸は反応性が低いので、MO/ H3 PO4 =1.0では酸過剰である。
【0038】
反応性は系内の温度が高いほど良く、温度が低いと悪い。したがってMO/ 鉱酸モル比は反応性アルカリ分により異なるし、特にヒドロキシアパタイトは反応性が低いため、反応物の状態を見て1.0〜2.0程度に調整する必要がある。
【0039】
鉱酸がMO/ 鉱酸モル比1.0を下回るとりん酸成分は水溶性のM(H2 PO4)2 ・nH2 0を生成し反応物は粘ちょうで塊状またはスラリー状となる。
また、鉱酸の量が少なくなると、反応物のpHが7.0を超え未反応MOが残存するばかりか、反応物中にりん酸三石灰、ヒドロキシアパタイトともに残存し鶏糞焼却灰中の難溶性りん酸塩の分解がほとんど進行しなくなる。
一方、鉱酸がMO/ 鉱酸モル比が高くなりすぎるとpHはアルカリサイドを示すばかりかりん酸成分の有効化に寄与しない。
【0040】
ヒドロキシアパタイト、りん酸三石灰とりん酸および硫酸との反応は次の通りである。

【0041】
鶏糞焼却灰粉末とアルカリ土類金属化合物粉末混合物と粗製りん酸液とを反応させる装置は、両者を均一に混合撹拌できる装置であれば良く、装置の種類を問わず利用できる。
【0042】
しかし、粉体と鉱酸との固―液反応を効率良く行うにはヘンシェルミキサーなどのせん断力の強いバッチタイプミキサーか連続反応を行うには(株)粉研パウテック製フロージェットミキサーを用い粉体の供給量を連続定量排出機にて所定量精度良く供給し、一方、鉱酸を同様連続的にフロージェットミキサーに所定量供給して粉体と酸を均一に短時間で分散させると効率的な反応を行うことができるので望ましい。
【0043】
得られた粉末状りん酸肥料組成物は、ク溶性P25 成分であるりん酸二石灰、水溶性K2 O成分である塩化加里を主成分とするりん酸加里複合肥料として利用できる。
またこの組成物は、粉体輸送・計量時の付着・固結がほとんどないことから、製造時の生産性の向上に寄与するだけでなく、粒状りん酸加里複合肥料の製造に適した原料として利用できる。
【0044】
前述の粉末状りん酸加里複合肥料組成物は、H3 PO4 を含有する水溶液を適量添加して造粒することによって、適度な硬度を有した造粒物にできる。これは、粉末状りん酸加里複合肥料組成物のMHPO4 がH3 PO4 と反応して第一りん酸塩の粘性物を形成し、この粘性物が粒子同士をしっかりと結合させて、造粒物を密度の高い状態にするからである。
【0045】
3 PO4 水溶液を粉末状りん酸肥料組成物100質量部に対しP25 換算で5.0〜15.0質量部の割合で添加した場合は、造粒に適した粘性を発現し、且つ適度な硬度を有した造粒物が得られる。
5.0質量部未満の割合では第一りん酸塩の生成量が不足し、粒子同士を結合する力が弱まるので造粒性が悪化し、指先で簡単に潰せる程度の硬度の造粒物しか得られない。また、15.0質量部より多い割合では、第一りん酸塩の生成量が過剰であるため、粘性が高くなり過ぎて造粒性が悪化する。
【0046】
造粒時に添加するH3 PO4 水溶液は、H3 PO4 をP25 換算で10質量部以上含有するものが良い。造粒の良し悪しはP25 濃度に依存し、高濃度であるほど単位添加量当たりの増粘効果が高くなるので、H3 PO4 水溶液の使用量を減らすことができる。10質量部未満の濃度では、H3 PO4 水溶液を多量に添加しなければ効果が低減するため好ましくない。
【0047】
粉末状りん酸加里複合肥料組成物を造粒する際、既存の粒状肥料の製造工程で一般的に使用されている転動式造粒機、例えばパン型造粒機、回転ドラム式造粒機などを用いることによって容易に造粒できる。
【0048】
また、粉末状りん酸加里肥料組成物と糖蜜、リグニン系粘結剤を添加し湿式造粒することも可能であるが粘結剤を多量に要し、例えば固形分濃度5%のとき乾燥後2〜3mmの造粒物強度は1kg程度しかなく肥料成分の低下をきたすばかりか経済的でなく好ましくない。
【0049】
造粒物の加熱乾燥処理は、加熱乾燥温度を100〜300℃程度に設定できる装置であれば使用できるが、加熱乾燥時間を容易に調整できるロータリー式ドライヤーなどの粒状肥料用の加熱乾燥機を使用することが好ましい。
【0050】
得られた粒状リン酸加里複合肥料組成物は、ク溶性P25 を多く含み、且つ水溶性K2 Oを含むことから、肥料として高い効果が期待できる。また、施肥時に飛散したり、施肥後に雨水で流失してしまうことが少なくなるので、肥料成分を有効に利用することができる。さらに、適度な硬度を有するため、他の粒状肥料と混合して使用することも可能である。
【実施例】
【0051】
以下、実施例および比較例により本発明を説明するが、本説明はこの実施例に限定されるものではない。
【0052】
表1(鶏糞焼却灰の肥料成分分析結果)および表2に示す化学組成[鶏糞焼却灰の化学成分(蛍光X線分析結果)]を有する鶏糞焼却灰に、表3に示した(アルカリ土類金属化合物の種類、化学成分、粒度)アルカリ土類金属化合物粉末をミキサーで混合し、これに鉱酸を添加反応させて、りん酸成分の有効化を確認した。
表4に鶏糞焼却灰100質量部に加えるアルカリ土類金属化合物の種類および混合量、鉱酸の添加量ならびに鉱酸の種類と鉱酸中のH3 PO4 、H2 SO4 濃度、および混合原料中のアルカリ土類金属化合物分のカルシウムおよびマグネシウム化合物を酸化物MOとし換算した値に対するモル比[MO/(H3 PO4 +H2 SO4 )]を示した。
【0053】
【表1】

【0054】
【表2】

【0055】
【表3】

【0056】
【表4】

【0057】
(実施例1)
表4に示すとおり鶏糞焼却灰粉末100質量部に消石灰粉末5質量部の割合で計量し、ミキサーで混合した。該混合粉末とH3 PO4 66.2%、H2 SO44.5%含有する粗製りん酸液60.4質量部(両者の配合比率はモル比でMO/(H3 PO4 +H2 SO4 )=1.85に相当)の割合になるよう(株)粉研パウテック製フロージェットミキサーで連続供給させつつ攪拌混合を行い反応させた。
実際の供給量は、鶏糞燃焼灰と消石灰の混合粉末10.0kg/分、粗製りん酸液5.8kg/分を定量供給機でフロージェットミキサーに連続供給させ反応させた。
【0058】
反応中は、反応熱により温度が上昇するため水蒸気が激しく発生した。この結果、乾燥する必要もなくサラサラして流動性が高い粉末(反応物と称す)が得られた。一部に凝集体が確認できるが手で簡単に崩せる程度のものであった。
反応物を一夜静置し、肥料成分を分析するとT−P25 34.2%、C−P25 31.5%、W−P25 8.9%、T−K2 O 11.8%、C−K2O 11.7%、W−K2 O 10.9%、T−MgO 4.2%、C−MgO 3.0%およびpH6.2であった。
但し、Tは肥料分析法による全含有量を示し、Cは肥料分析法によるク溶性のものの含有量を示し、Wは肥料分析法による水溶性のものの含有量を示す。
【0059】
表6(反応物のりん酸肥料成分(P25 )含有量)には反応物のりん酸成分に着目し、鶏糞焼却灰中に含有するりん酸三石灰およびヒドロキシアパタイトが前記段落[0040]記載の反応式(1)〜(4)に従い鉱酸により、どの程度有効化されたかをク溶率(B/A)で示した。
但し、Aは鶏糞焼却灰由来のT−P25 の含有量を示し、Bは鶏糞焼却灰由来のC−P25 の含有量を示す。
【0060】
ここで表6の鶏糞焼却灰由来P25 成分のク溶率は次のように求めた。
実施例1の算出を例にとれば、表4に示す原単位を基に、鶏糞焼却灰由来のT−P25 は(20.3質量部)=100質量部×含有量(20.3%)、加えた鉱酸由来のT−P25 は(29.2質量部)=60.9質量部×66.2%(正りん酸濃度)×72.42%(P25 含有量)であり、T−P25 は原料中に鶏糞焼却灰由来のT−P25 :鉱酸由来のT−P25 =20.3:29.2の比率で含む。
【0061】
反応物のT−P25 は分析値から34.2%である、これは原料と同一比率であるから反応物中鶏糞焼却灰由来のT−P25 は34.2×[(20.3)/(20.3)+(29.2)]=14.02となる(表6中のA参照)。
一方、C−P25 については(反応物の分析値T−P25 )=(鶏糞焼却灰由来T−P25 )+(鉱酸由来のT‐P25 )、鉱酸由来のT‐P25=鉱酸由来のC‐P25 であるので、鶏糞焼却灰由来C‐P25
(反応物の分析値C−P25 )−(鉱酸由来のT‐P25 )であるとして求めた。
【0062】
ここで鉱酸由来のT−P25 は34.2×[(29.2)/(20.3)+(29.2)]=20.2、したがって鶏糞焼却灰由来C‐P25 =(31.5)−(20.2)=11.3となる(表6中のB参照)。
以下実施例2〜8、比較例1〜3について同様にして求めた。
【0063】
表6中鶏糞焼却灰のみを粗製りん酸液で反応させた比較例1のク溶率76.6%と比較すると実施例1は80.8%であり、りん酸成分が有効化されたことが判る。
実施例2〜8および比較例1〜3についても同様にフロージェットミキサーで反応させ同様に反応物のT−P25 、C−P25 、W−P25 を測定した。結果は表6に一括して示した。なお、フロージェットミキサー連続反応における設定は表5(フロージェットミキサー連続反応における原料設定)に記載したとおりである。
【0064】
【表5】

【0065】
【表6】

【0066】
実施例1〜8では、反応物の鶏糞焼却灰由来P25 成分のク溶率は、比較例1に対し全て高くなっていた。一方P25 以外の肥料成分は表7(反応物のP25 以外の肥料成分およびpH)に示すとおりであった。K2 O成分は鶏糞焼却灰に含有する未反応の塩化カリウム、および実施例1、2では未反応の塩化カリウムのほか新たに生成したりん酸二水素カリウム由来である。
【0067】
【表7】

【0068】
また、反応物の組成を粉末X線回折で同定した結果ならびにハンドリング性を表8に示した。
【0069】
【表8】


【0070】
表6〜8から明らかなように、本発明のりん酸加里複合肥料組成物は、サラサラして流動性が高く、一部凝集体が確認できるが手で簡単に崩せる程度であり、ハンドリング性は良好であった。また、鶏糞焼却灰由来のP25 のク溶率は80%を超えており、本発明で目的とするりん酸の有効化に適したものであった。
【0071】
それに対して比較例1、比較例2ではアルカリ金属化合物を配合しない、または配合比率が5質量部以下では、反応時の発熱量が小さく、そのため蒸気の発生が充分でなく反応物は粘性の大きい塊となる。そして難溶性りん酸塩の分解(有効化)が充分に進行しない。
比較例3のように、アルカリ金属化合物の配合比率が300質量部を超えると、反応時の発熱量、鶏糞焼却灰の有効化に関しては表6、反応物由来P25 のク溶率81.7%と問題ないが鶏糞焼却灰の利用量が少なくなってしまうので好ましくない。
これらのことから本発明における鶏糞焼却灰中のP25 の有効化は、鶏糞焼却灰中のりん酸三石灰が鉱酸と反応してりん酸二石灰になる前記段落[0040]記載の反応式(2)および(4)が支配的で、ヒドロキシアパタイトの分解反応は少ないものと想定できる。
【0072】
(実施例9)
実施例2の反応物の造粒例;
実施例2で得られた反応物を5.0kg採取して、P25 濃度30.0質量%のH3 PO4 水溶液1.7kg(P25 0.5kgに相当、反応物に対して、10.0質量部のP25 )をミキサーにて加え混合分散した。
これをパン型造粒機にて回転転動させ清水を噴霧しながら粒径1.0〜5.0mm程度に造粒した。これを電熱式乾燥機に移し100℃で3時間加熱乾燥して粒状物を得た。2.38〜2.83mmの大きさの粒10個を抜き取り圧壊強度を測定したところ、平均値で2.1kgであった。これは指では潰すことのできない程の硬度であった。
この粒状物のT−P25 、C−P25 、W−P25 、T−K2 O、C−K2 O、W−K2 O、T−MgO、C−MgOおよびpHを肥料分析法に従い測定した結果を表9に示す。
【0073】
(実施例10)
実施例3の反応物の造粒例;
実施例3で得られた反応物を5.0kg採取し、固形分濃度80%の糖蜜313g(固形分250gに相当、反応物に対して5質量部)を加えミキサーにて加え混合分散した。
これをパン型造粒機にて回転転動させ清水を噴霧しながら粒径1.0〜5.0mm程度に造粒した。これを電熱式乾燥機に移し100℃で3時間加熱乾燥して粒状物を得た。2.38〜2.83mmの大きさの粒10個を抜き取り圧壊強度を測定したところ、平均値で1.3kgであった。
この粒状物のT−P25 、C−P25 、W−P25 、T−K2 O、C−K2 O、W−K2 O、T−MgO、C−MgOおよびpHを肥料分析法に従い測定した結果を表9に示す。
このように本発明の肥料は有効体りん酸ならびにカリを含む新規りん酸加里複合肥料である。もし、K2 O成分を増加させたい場合は混合粉体を調整する際、または反応物を造粒する際、塩化カリウムなどの成分を適当量加えればよい。
【0074】
【表9】

【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明の新規りん酸加里複合肥料の製造方法は、鶏糞焼却灰100質量部に対し、アルカリ土類金属化合物5〜200質量部を混合し、これに鉱酸を添加し、反応させることを特徴とするものであり、アルカリ土類金属化合物と鉱酸の中和発熱を利用し、反応系の温度を高めて、鶏糞焼却灰と鉱酸との反応を促進し、効率よく反応を行うことができ、含有する難溶性のCa5(PO4)3(OH) [ヒドロキシアパタイト]およびCa3(PO)4[りん酸三石灰]をクエン酸可溶性成分に変換し有効化させると同時に生成物を中性ないし弱酸性に保ち他の酸性肥料およびアンモニア系窒素肥料と混合することができ、しかもハンドリングのより良い粉末状の形態で得られ易いという、顕著な効果が得られ、
本発明の製造方法により製造された新規りん酸加里複合肥料は、鶏糞焼却灰に含有されている難溶性のCa5(PO4)3(OH) [ヒドロキシアパタイト]およびCa3(PO)4[りん酸三石灰]がクエン酸可溶性成分に変換されているため効率良く有効利用できると同時に中性ないし弱酸性であるので、単独で利用することも、他の酸性肥料、アンモニア系窒素肥料と混合して利用することもでき、しかもハンドリングのより良い粉末状の形態であるという、顕著な効果を奏するので、産業上の利用価値は甚だ大きい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鶏糞焼却灰100質量部に対し、アルカリ土類金属化合物5〜200質量部を混合し、これに鉱酸を添加し、反応させることを特徴とする新規りん酸加里複合肥料の製造方法。
【請求項2】
アルカリ土類金属化合物が、水酸化カルシウム、酸化カルシム、炭酸カルシウム、焼成貝殻、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、ドロマイト、貝殻の粉末から選択される1種または2種以上であることを特徴とする請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
鉱酸が、リン酸、硫酸のいずれか1種またはその混合物であることを特徴とする請求項1あるいは請求項2記載の製造方法。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載の製造方法により製造されたことを特徴とする新規りん酸加里複合肥料。
【請求項5】
pHが7.0以下であることを特徴とする請求項4記載の新規りん酸加里複合肥料。