説明

新規エステラーゼ、その生産菌及び製造法

イデオネラ エスピー 0−0013株(FERM BP−08660)に由来し、下記の性質を有する新規エステラーゼ。(1)作用、基質特異性:3−ヒドロキシパルミチン酸メチルエステルを加水分解して3−ヒドロキシパルミチン酸とメタノールを生成する。(2)作用至適温度:37℃(3)至適pH及び安定pH範囲:pH7以上10以下(4)温度安定性:43℃で97%安定(5)阻害、活性化及び安定化:ナトリウムイオン及びカリウムイオンで活性化、ストロンチウムイオン、鉄イオン(2価)及びパルミチン酸メチルエステルで阻害(6)分子量:約46500Da(SDS−PAGEによる)、約41000Da(ゲルろ過法による)(7)等電点:pI 4(ポリアクリルアミドゲル等電点電気泳動法による)本発明は、麦類種子の全粒粉や出穂直後から成熟するまでの間の成熟途上の麦類種子の粉砕物中のグルタミン、バリン、イソロイシン、ロイシン、アルギニン等の遊離アミノ酸含量を高めた食品素材、並びに、その製造法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、新規エステラーゼ、その生産菌及び製造法に関する。この酵素は、青枯病菌の病原性発現を抑制する作用を有する。
【背景技術】
農作物に甚大な被害をもたらす青枯病は、難防除の病害として知られている。青枯病の防除方法については、これまでは原因菌である青枯病菌を抗生物質などにより死滅させる(岡山県農業総合センター農業試験場研究報告、19号、p.29−35(2001−12))か、耐病性品種を台木とすることで生育を抑制する(日本植物病理学会報、63巻、2号、p.83−88(1997−4))ことを目的とした技術が主たるものである。
しかしながら、抗生物質などを用いる方法は、病原菌に対して生残するためのストレスを与えてしまうことにより、それを打破する耐性菌が出現するという問題がある。一方、耐病性品種を台木とする方法は、大変な手間と時間を要するため、大規模栽培では嫌われる傾向がある。
ところで、一般式(I)

で示される3−ヒドロキシパルミチン酸メチルエステルは、青枯病菌において、病原性発現の制御因子として機能することが判明している(Flavier,A.B.,Clough,S.J.,Schell,M.A..,and Denny,T.P.(1997)Mol.Microbiol.26,251−259)。それ故、青枯病菌が作物へ侵入し、増殖するに伴い、該化合物の濃度が高くなり、病原性が発現することになる。
そのため、上記化合物は青枯病に効果的な農薬の前駆物質としての利用が期待され、この化合物を分解する酵素活性は、青枯病を抑制するための新たな育種法に応用可能と想定される。
しかしながら、この化合物を分解する反応、例えば一般式(II)

で示される3−ヒドロキシパルミチン酸とメタノールに加水分解する方法としては、これまで一般的な脂肪酸エステルに用いられるアルカリ加水分解などの化学的な方法しかなく、強アルカリを使用するなど強い反応条件で行わなければならなかった。
もしも、この反応を触媒する酵素活性が見出されれば、化学的方法とは異なる穏和な反応条件で3−ヒドロキシパルミチン酸メチルエステルを加水分解することができ、また、他の脂肪酸が混在する場合においても、適当な酵素活性を利用すれば、酵素の基質特異性を活用して3−ヒドロキシパルミチン酸メチルエステルだけを選択的に加水分解することも可能となる。しかし、これまで3−ヒドロキシパルミチン酸メチルエステルを加水分解する酵素活性は報告例がなかった。
そこで本発明は、3−ヒドロキシパルミチン酸メチルエステルを加水分解する酵素、その生産菌及び製造法を提供することを目的とする。
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、土壌から分離した微生物が上記酵素、エステラーゼの生産能を有することを見出し、係る知見に基づいて、本発明を完成するに至った。
【発明の開示】
すなわち、請求項1に記載の本発明は、イデオネラ エスピー 0−0013株(FERM BP−08660)に由来し、下記の性質を有する新規エステラーゼである。
(1)作用、基質特異性:3−ヒドロキシパルミチン酸メチルエステルを加水分解して3−ヒドロキシパルミチン酸とメタノールを生成する。
(2)作用至適温度:37℃
(3)至適pH及び安定pH範囲:pH7以上10以下
(4)温度安定性:43℃で97%安定
(5)阻害、活性化及び安定化:ナトリウムイオン及びカリウムイオンで活性化、ストロンチウムイオン、鉄イオン(2価)及びパルミチン酸メチルエステルで阻害
(6)分子量:約46500Da(SDS−PAGEによる)、約41000Da(ゲルろ過法による)
(7)等電点:pI 4(ポリアクリルアミドゲル等電点電気泳動法による)
請求項2記載の本発明は、3−ヒドロキシパルミチン酸メチルエステルを加水分解して3−ヒドロキシパルミチン酸とメタノールを生成する物質の生産能を有するイデオネラ エスピー 0−0013株(FERM BP−08660)である。
また、請求項3記載の本発明は、イデオネラ エスピー 0−0013株(FERM BP−08660)を培地に培養し、培養物から請求項1記載の性質を有するエステラーゼを採取することを特徴とする新規エステラーゼの製造法である。
本発明により、3−ヒドロキシパルミチン酸メチルエステルを加水分解する酵素、その生産菌及び製造法が提供される。
3−ヒドロキシパルミチン酸メチルエステルは、青枯病菌における病原性発現の制御因子として機能していることから、該化合物を加水分解する本発明の新規エステラーゼは、青枯病を効果的に抑制するために有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
本発明に係る新規エステラーゼは、前記した性質を有しており、分子量の値から単一サブユニットからなるモノマー酵素である。この酵素は、イデオネラ エスピー(Ideonella sp) 0−003株を培地で培養することにより得られる。新規エステラーゼ生産菌であるイデオネラ エスピー 0−003株は、本発明者らによって愛知県で採取した土壌から分離したものである。すなわち、本菌は3−ヒドロキシパルミチン酸メチルエステルを単一炭素源とする分離用培地を用いて単離された。
本菌は、16S rDNAの全塩基配列を解析することによりイデオネラ属に属する微生物であると同定された。その結果は以下の通りである。
16S rDNAの1158bpの塩基配列を決定し、BLAST検索を行ったところ、イデオネラ属と高い相同性を示し、イデオネラ エスピー.B513株(イネ由来株)などと99%、イデオネラ デクロラタンス(Ideonella dechloratans)と98%の相同性が認められた。
以上の結果から、3−ヒドロキシパルミチン酸メチルエステルに対する高い加水分解活性を有する微生物として土壌より分離された本菌は、イデオネラ エスピー(Ideonella sp)であると同定された。
本菌の菌学的性質は以下の通りである。
ニッスイ標準培地(日水製薬製)上では、30〜43℃で良好な生育を示し、白色のコロニーを形成する。LB培地上でも生育するが、やや生育が劣る。3−ヒドロキシパルミチン酸メチルエステルを単一炭素源とする寒天培地上では、43℃で生育する。パルミチン酸メチルエステル、メタノールを単一炭素源とする寒天培地上での生育は悪い。
本菌は、新菌種と認められ、日本国茨城県つくば市東1−1−1 中央第6の独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センターに寄託されており、その受託番号はFERM BP−08660(FERM P−19248から移管)である。本発明においては、本菌を自然に、もしくは人工的手段によって変異させて得られる変異株であっても、目的とするエステラーゼを生産する能力を有する限り、使用できる。
なお、本発明に係る新規酵素の生産菌としては、本菌の他、本菌から単離した酵素遺伝子を各種宿主ベクター系に導入した遺伝子操作微生物あるいは植物を利用することも可能である。
請求項1に記載の酵素としては、上記の微生物などを培地等にて培養して得られる培養物をそのまま、又は該培養物から回収した上清、あるいは菌体等もしくはそれらの処理物を粗酵素として使用できる。
菌体処理物としては、菌体の破砕物、菌体を破砕して得た無細胞抽出物、アセトン、トルエンなどで処理した菌体などがある。これらの他、菌体等から分離された粗酵素又は精製酵素、固定化処理された菌体や酵素などが本発明に使用できる酵素の例として挙げられる。
酵素の使用にあたっては、酵素を適当な担体に固定化して使用することにより、反応終了後の反応液からの酵素の分離・回収が容易になると共に、酵素の再利用も可能となる。担体としては、ポリアクリルアミド、ヒドロキシアパタイトなどが用いられる。
本発明においては、これら菌体培養物、微生物菌体及び菌体処理物などの粗酵素や精製酵素を通常1種類用いるが、所望により同様な能力を有するものを2種以上混合して用いることも可能である。
上記微生物を培養するための培地としては、通常この微生物が生育しうるものであればいずれのものでも使用できる。好適な培地としては、ニッスイ標準培地(日水製薬製)、SCD培地(日本製薬製)などがあり、これらの培地で良好な生育を示す。また、高い酵素活性を得るために、例えば3−ヒドロキシパルミチン酸メチルエステル、パルミチン酸メチルエステルなどの脂肪酸エステル骨格を持つ化合物などを培地に添加し、酵素産生の誘導物質として利用することも有効である。
培養は常法に従って行えばよく、例えばpH4〜10、好ましくは6〜8、温度15〜50℃、好ましくは30〜45℃の範囲にて、好気的に6〜96時間、好ましくは12〜30時間培養する。また、静置培養にて同様に培養することで高い酵素活性を得ることができる場合がある。
培養終了後、培養物から酵素を分離、採取し、精製する場合は、一般的な方法に従えばよく、例えば培養物から遠心分離などの固−液分離手段によって取得した上清、もしくは菌体を破砕処理して得た無細胞抽出物あるいはアセトン、トルエン等の溶媒による抽出物などから、濃縮、濾過、クロマトグラフ法等の常法により精製することができる。
本発明に係るエステラーゼは、以下に示す性質を有している。
(1)作用、基質特異性:3−ヒドロキシパルミチン酸メチルエステルを加水分解して3−ヒドロキシパルミチン酸とメタノールを生成する。
なお、3−ヒドロキシパルミチン酸メチルエステルの検出は、Stabilwax−DA,30m×0.53mm×0.25μmをカラムとして用いるガスクロマトグラフィーにより行うことができ、該エステルの加水分解により生成する3−ヒドロキシパルミチン酸は、同じガスクロマトグラフィーにより検出できる。
(2)作用至適温度:本酵素の作用至適温度は37℃である。
(3)至適pH及び安定pH範囲:pH7以上10以下である。
(4)温度安定性:43℃で97%が安定であり、50℃では54%が、60℃では38%が安定である。
(5)阻害、活性化及び安定化:ナトリウムイオン及びカリウムイオンで活性化され、ストロンチウムイオン、鉄イオン(2価)及びパルミチン酸メチルエステルで阻害される。
(6)分子量:約46500Da(SDS−PAGEによる)、約41000Da(ゲルろ過法による)
(7)等電点:pI 4(ポリアクリルアミドゲル等電点電気泳動法による)
以下において、本発明を実施例により詳しく説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【実施例1】
酵母エキス2.5g/L、ペプトン5.0g/L、ブドウ糖1.0g/Lを含む培地200mLを500mL容三角フラスコに分注し、121℃で25分間加熱滅菌した後、イデオネラ エスピー 0−0013株(FERM BP−08660)を接種し、43℃で20時間振とう培養した。
培養終了後、遠心分離して培養上清を得、これを粗酵素とした。酵素の精製には、70%の硫安分画を行った。
試験例1
実施例1と同様に菌体を培養して得られた培養物を、遠心分離にて培養上清と菌体を得た。0.5mgの3−ヒドロキシパルミチン酸メチルエステルを含む10mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)200μLに上記培養上清あるいは菌体を懸濁させ、43℃で12時間反応させた。
反応終了後、反応液にジクロロメタン500μLを加え、3−ヒドロキシパルミチン酸を抽出した。抽出液をガスクロマトグラフィー(Stabilwax−DA,30m×0.53mm×0.25μm)で3−ヒドロキシパルミチン酸メチルエステルの分解活性を測定した。結果を表1に示す。

試験例2
実施例1と同様にして0.5mgのパルミチン酸メチルエステルあるいは3−ヒドロキシパルミチン酸メチルエステルに対し反応及び分析を行い、分解活性をそれぞれ測定した。結果を表2に示す。

表から明らかなように、3−ヒドロキシパルミチン酸メチルエステルの加水分解活性は、パルミチン酸メチルエステルに対するよりも約5倍高い。このことから、本発明の酵素活性は3−ヒドロキシパルミチン酸メチルエステルに選択的であることがわかる。
【産業上の利用可能性】
本発明により3−ヒドロキシパルミチン酸メチルエステルを加水分解する酵素が提供される。この3−ヒドロキシパルミチン酸メチルエステルは、青枯病菌における病原性発現の制御因子として機能していることから、該化合物を加水分解する本酵素は、青枯病を効果的に抑制するために有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イデオネラ エスピー 0−0013株(FERM BP−08660)に由来し、下記の性質を有する新規エステラーゼ。
(1)作用、基質特異性:3−ヒドロキシパルミチン酸メチルエステルを加水分解
して3−ヒドロキシパルミチン酸とメタノールを生成する。
(2)作用至適温度:37℃
(3)至適pH及び安定pH範囲:pH7以上10以下
(4)温度安定性:43℃で97%安定
(5)阻害、活性化及び安定化:ナトリウムイオン及びカリウムイオンで活性化、ストロンチウムイオン、鉄イオン(2価)及びパルミチン酸メチルエステルで阻害
(6)分子量:約46500Da(SDS−PAGEによる)、約41000Da(ゲルろ過法による)
(7)等電点:pI 4(ポリアクリルアミドゲル等電点電気泳動法による)
【請求項2】
3−ヒドロキシパルミチン酸メチルエステルを加水分解して3−ヒドロキシパルミチン酸とメタノールを生成する物質の生産能を有するイデオネラ エスピー 0−0013株(FERM BP−08660)。
【請求項3】
イデオネラ エスピー 0−0013株(FERM BP−08660)を培地に培養し、培養物から請求項1記載の性質を有するエステラーゼを採取することを特徴とする新規エステラーゼの製造法。

【国際公開番号】WO2004/083420
【国際公開日】平成16年9月30日(2004.9.30)
【発行日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−503689(P2005−503689)
【国際出願番号】PCT/JP2004/003472
【国際出願日】平成16年3月16日(2004.3.16)
【出願人】(501203344)独立行政法人農業・生物系特定産業技術研究機構 (827)
【Fターム(参考)】