説明

新規オリゴ糖及びその製造方法

【課題】新規オリゴ糖、その製造法の提供。
【解決手段】


D−グルコース、D−フルクトースの混合物を水を添加することなく固相で100℃以上200℃以下で加熱、反応、次いで反応物に水を添加し取得する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規オリゴ糖及びその製造方法に関し、詳しくはショ糖のフルクトース部分がβ−フルクトピラノースで2←→1結合している新規オリゴ糖に関する。
【0002】
また本発明は、グルコースとフルクトースの共存下において、酵素反応を利用することなく加熱条件下で反応させて、新規オリゴ糖であるβ−D−フルクトピラノシル−(2←→1)−β−D−グルコピラノシドを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
フルクトースとグルコースが2←→1結合しているオリゴ糖としてショ糖(スクロース)が知られている。ショ糖は、β−D−フルクトフラノシル−(2←→1)−α−D−グルコピラノシドと表されるが(非特許文献1)、ショ糖のβ−D−フルクトフラノース部分が、β−D−フルクトピラノース、また、ショ糖のα−D−グルコピラノシド部分が、β−D−グルコピラノシドとなった二糖類、即ち、β−D−フルクトピラノシル−(2←→1)−β−D−グルコピラノシドについては知られておらず、またその製造方法も知られていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】「生化学辞典」(第2版)686頁、1992年2月5日 株式会社東京化学同人発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、新規な構造を持つオリゴ糖を提供すること、並びに新規なオリゴ糖を製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、糖質材料としてD−グルコースとD−フルクトースを用い、酵素反応を利用することなく、加熱して反応させて、反応物中の新規オリゴ糖について検索し、分離しTOF−MS分析およびNMR分析した結果、いかなる標品とも一致しない未知のオリゴ糖を検出した。
【0007】
本発明の新規オリゴ糖は、次式(1)で表されるβ−D−フルクトピラノシル−(2←→1)−β−D−グルコピラノシド(略語として「β−Fp2−1βG」と呼ぶことがある。)である。
【0008】
【化1】

【0009】
本発明の新規オリゴ糖の製造方法は、D−グルコースとD−フルクトースを用い、酵素が存在しない条件下で、加熱して反応させて前記式(1)で表されるβ−D−フルクトピラノシル−(2←→1)−β−D−グルコピラノシドを生成させ、反応物中からβ−D−フルクトピラノシル−(2←→1)−β−D−グルコピラノシドを取得することを特徴とする。
【0010】
さらに一つの具体的な本発明のβ−D−フルクトピラノシル−(2←→1)−β−D−グルコピラノシドの製造方法は、前記のβ−D−フルクトピラノシル−(2←→1)−β−D−グルコピラノシドの製造方法において、D−グルコースおよびD−フルクトースの混合物に対して水を添加することなく固相で加熱して反応させ、次いで反応物に水を添加し溶解させて、β−D−フルクトピラノシル−(2←→1)−βーD−グルコピラノシドを含有する水溶液とし、該水溶液からβ−D−フルクトピラノシル−(2←→1)−β−D−グルコピラノシドを取得することを特徴とする。
【0011】
本発明のβ−D−フルクトピラノシル−(2←→1)−β−D−グルコピラノシドの製造方法において加熱反応させる際の温度条件は、100℃以上200℃以下となる条件が好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の前記式(1)で表されるβ−D−フルクトピラノシル−(2←→1)−β−D−グルコピラノシドは、新規化合物として有用である。
【0013】
本発明のβ−D−フルクトピラノシル−(2←→1)−β−D−グルコピラノシドの製造方法は、新規化合物の製造方法として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】糖1について加熱処理済糖混合溶液を活性炭カラムにかけて、蒸留水で溶出した画分をODS−80Tsカラムに供したチャートを示す図である。
【図2】糖1についてMALDI−TOF MSの結果のチャートを示す図である。
【図3】糖1について1次元プロトンNMRの結果のチャートを示す図である。
【図4】糖1について1次元カーボンNMRの結果のチャートを示す図である。
【図5】糖1について2次元NMRとしてCOSYの結果のチャートを示す図である。
【図6】糖1について2次元NMRとしてE−HSQCの結果のチャートを示す図である。
【図7】糖1について2次元NMRとしてHSQC−TOCSYの結果のチャートを示す図である。
【図8】糖1について2次元NMRとしてHMBCの結果のチャートを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のβ−Fp2−1βGの製造に用いるD−グルコースには、 β−D−グルコース、 無水のD−グルコース、 1 水和物のD−グルコース、 アノマー混合のD−グルコースの何れでもよい。D−グルコース、 D−フルクトースには市販のものが好適に利用できる。 また、 本発明で利用可能なD−グルコース、 D−フルクトースの形態は、 粉末状或いは顆粒の状態でもよい。
【0016】
本発明において使用する水には、 反応条件を厳密にする目的で精製水を用いることが好ましい。 精製水には、 ミリQ水、 蒸留水或いはイオン交換水を用いることができる。
【0017】
β−Fp2−1βGを含有する水溶液の製造の好ましい実施の態様として、 次の方法を示す。
【0018】
(本発明のオリゴ糖を含有する水溶液の製造方法)
粉末状または顆粒状のD−グルコースとD−フルクトースを三角フラスコにとり混合し、 水を添加しない状態で、 100℃以上200℃以下、好ましくは110℃以上180℃以下、 最も好ましくは120℃以上160℃以下に加熱する。 加熱反応時の温度が100℃未満であるとβ−Fp2−1βGの十分な製造はされず、 また200℃を超えるとカラメル化は進み、 β−Fp2−1βGの製造効率が落ちるため好ましくない。
【0019】
加熱時間は好ましくは10分から90分間、 さらに好ましくは20分から60分間加熱処理し、 精製水を添加後溶解し、 濾過してβ−Fp2−1βGを生成した糖溶液を得ることができる。 濾過は、 ディスポーサブル0.45μmあるいは0.22μmフィルター(例えば、孔径0.45μmあるいは0.22μmのDISMIC−25cs Cellulose Acetate)で濾過してβ−Fp2−1βGを含有する水溶液とすることができる。 このβ−Fp2−1βGを含有する水溶液は、 −4℃以下(好ましくは−80℃以下)のフリーザーで凍結させることにより保存できる。
【実施例】
【0020】
(糖サンプル溶液の製造)
D−グルコース30gとD−フルクトース30gを300mlの三角フラスコに入れ混合し、アルミホイルで蓋をし、水を添加することなく予め155℃に温めておいた電気炉で1時間加熱した。加熱後、反応物にMilli−Q水を加えて総量が300mLとなるように溶解させることにより糖サンプル溶液を得た。
【0021】
(未知の糖1の分離)
前記糖サンプル溶液の製造工程で得られた糖サンプル溶液を活性炭セライトカラムクロマトグラフィー(4.8cm×36cm)に添加し、画分1(約500mL)、画分2(約600mL)、画分3(約2000mL)の総量3100mLの水で溶出させ、溶出させたサンプルは、それぞれ減圧濃縮装置を用いて濃縮した。
【0022】
それぞれ濃縮したサンプルについて、HPLC装置(デュアルポンプ(DP−8020:商品名、東ソー株式会社製)、検出器(RI−8020:商品名、東ソー株式会社製))、オーブン(CO−8020:商品名、東ソー株式会社製)、インテグレータ(Chromatocorder 21 :商品名、東ソー株式会社製)、カラム(ODS−80Ts column(4.6mm×25cm×2:商品名、東ソー株式会社製)、溶出(H2 O、0.4mL/min)、カラム温度(室温)、注入量(100μL)を行った。以後この分析条件を「HPLC条件−A」とする。その結果、水で溶出させた画分3の中に、未同定ピーク(17分頃)が検出していることが認められたため、この目的のピークを糖1とした。図1にクロマトグラフィーのチャートを示す。
【0023】
目的のピーク糖1について、HPLC条件−Aを行い25回分取した。ただし、得られた画分については単一になっていない場合は、HPLC装置(デュアルポンプ(DP−8020:商品名、東ソー株式会社製)、検出器(RI−8020:商品名、東ソー株式会社製))、オーブン(CO−8020:商品名、東ソー株式会社製)、インテグレータ(Chromatocorder 21 :商品名、東ソー株式会社製)、カラム(ODS−80Ts column(4.6mm×25cm×2):商品名、東ソー株式会社製)+ODS−100Vcolumn(4.6mm×25cm×2):商品名、東ソー株式会社製)、溶出(H2 O、0.3mL/min)、カラム温度(室温)、注入量(100μL)を繰り返し行い精製した。得られた分取液を凍結濃縮乾燥し、2.2mgの糖1の凍結乾燥物を得た。
【0024】
(糖1の化学構造の決定)
前記工程において分離、精製した糖1について、以下の機器分析を行い、その化学構造を以下のように決定した。分離した糖1のTOF−MS分析の結果、得られたピークは365の(M+Na)イオンピークを与えた(糖1のMALDI−TOF MSの結果のチャートを図2に示す)。
【0025】
次に、糖1について1次元プロトンNMR、1次元カーボンNMR、並びに2次元NMRとしてCOSY、E−HSQC、HSQC−TOCSYおよびHMBCを行った。それらのチャートを図3〜図8に示す。また、糖1のケミカルシフトを表1に示す。
【0026】
【表1】

【0027】
以上の結果から糖1は、前記式(1)で表される新規化合物であるβ−D−フルクトピラノシル−(2←→1)−β−D−グルコピラノシドと決定した。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明のオリゴ糖は、食品素材、医薬品素材の用途としての利用が期待できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次式(1)で表されるβ−D−フルクトピラノシル−(2←→1)−β−D−グルコピラノシド。
【化1】

【請求項2】
D−グルコースとD−フルクトースを用い、酵素が存在しない条件下で、加熱して反応させて次式(1)で表されるβ−D−フルクトピラノシル−(2←→1)−β−D−グルコピラノシドを生成させ、反応物中からβ−D−フルクトピラノシル−(2←→1)−β−D−グルコピラノシドを取得することを特徴とするβ−D−フルクトピラノシル−(2←→1)−β−D−グルコピラノシドの製造方法。
【化2】

【請求項3】
請求項2に記載のβ−D−フルクトピラノシル−(2←→1)−β−D−グルコピラノシドの製造方法において、
D−グルコースおよびD−フルクトースの混合物に対して水を添加することなく固相で加熱して反応させ、次いで反応物に水を添加し溶解させて、β−D−フルクトピラノシル−(2←→1)−β−D−グルコピラノシドを含有する水溶液とし、該水溶液からβ−D−フルクトピラノシル−(2←→1)−β−D−グルコピラノシドを取得することを特徴とするβ−D−フルクトピラノシル−(2←→1)−β−D−グルコピラノシドの製造方法。
【請求項4】
前記加熱する際の温度条件は、100℃以上200℃以下である請求項2又は3に記載のβ−D−フルクトピラノシル−(2←→1)−β−D−グルコピラノシドの製造方法。
【請求項5】
前記D−グルコースおよびD−フルクトースが粉末状または顆粒状である請求項2乃至4のいずれか1項に記載のβ−D−フルクトピラノシル−(2←→1)−β−D−グルコピラノシドの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2012−56918(P2012−56918A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−204236(P2010−204236)
【出願日】平成22年9月13日(2010.9.13)
【特許番号】特許第4667533号(P4667533)
【特許公報発行日】平成23年4月13日(2011.4.13)
【出願人】(303027335)大高酵素株式会社 (9)
【Fターム(参考)】