説明

新規テトラヒドロピラニル化合物

【課題】塗膜安定性を向上させることができ、かつ、電気特性の低下や高温高湿下での画像流れなどの副作用が少ない電荷輸送材料を提供する。
【解決手段】[(テトラヒドロ−2H−ピラン−2−イル)オキシ]メチル基を有する、下記一般式(1)で表されるテトラヒドロピラニル化合物。


(式中、R2〜R4のうち、一つは[(テトラヒドロ−2H−ピラン−2−イル)オキシ]メチル基を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電荷輸送材料として有用なテトラヒドロピラニル化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、有機感光体(OPC)は良好な性能、様々な利点から、複写機、ファクシミリ、レーザープリンタ及びこれらの複合機に多く用いられている。この理由としては、例えば(1)光吸収波長域の広さ及び吸収量の大きさ等の光学特性、(2)高感度、安定な帯電特性等の電気的特性、(3)材料の選択範囲の広さ、(4)製造の容易さ、(5)低コスト、(6)無毒性、等が挙げられる。
最近では、電子写真装置の高速化あるいは装置の小型化に伴う感光体の小径化によって、感光体の高速応答性ならびに安定性がより一層重要な課題となっている。高温高湿条件など、様々な環境下で感光体を使用することを想定した場合、電荷輸送層中の低分子電荷輸送材料が結晶化または相分離し、結果としてクラックを生じ、画像欠陥の原因となることが予想される。そのため、電荷輸送層にクラックが起こりにくい、すなわち他の組成物との相溶性がよく、電荷輸送材料そのものが結晶化しにくい感光体が必要とされるようになってきた。電荷輸送材料としては、トリフェニルアミン構造を有する化合物が知られているが、これらの材料は結晶化しやすく、感光体にクラックが起こりやすい。
【0003】
そこで、トリフェニルアミン構造を有する電荷輸送材料に、テトラヒドロピラニル基を導入し、感光層塗布液中での析出物やゲル化が発生しにくく、塗布液のポットライフに優れ、電子写真感光体の電気特性を十分に向上させることが可能なものとして、例えば特許文献1に、テトラヒドロピラニル基を酸素原子を介して導入したものやオキシプロピル基を介して導入したものが開示されている。
しかし、特許文献1に記載されているテトラヒドロピラニル化合物は、テトラヒドロピラニル基が酸素原子を介して直接N−フェニル環に結合しているので、電荷輸送特性が落ちる。また、オキシプロピル基を介した場合、電荷輸送材料が低粘性化し、高温高湿時に表面に遊離しやすく、感光体表面が低抵抗化し、結果として画像流れしやすくなるという問題があった。
従って、これらの技術では、有機電子写真感光体に求められる電気的な特性、耐クラック性をも含めた総合的な耐久性を十二分に満足するには至っていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、塗膜安定性を向上させることができ、かつ、電気特性の低下や高温高湿下での画像流れなどの副作用が少ない電荷輸送材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは鋭意検討を行なった結果、[(テトラヒドロ−2H−ピラン−2−イル)オキシ]メチル基を導入したトリフェニルアミン化合物が上記課題を解決することができることを見出し本発明に至った。
即ち、本発明は以下の通りである。
【0006】
(1)[(テトラヒドロ−2H−ピラン−2−イル)オキシ]メチル基を有する、下記一般式(1)で表されるテトラヒドロピラニル化合物。
【化1】

(式中、R1、R5は、水素原子、メチル基、又はエチル基を表し、R2〜R4のうち、一つは[(テトラヒドロ−2H−ピラン−2−イル)オキシ]メチル基を表し、残りの二つは水素原子、メチル基、又はエチル基を表す。R6〜R15は、水素原子、メチル基、エチル基、置換基を有してもよいアリール基、又は置換基を有してもよいスチリル基を表す。l+m+n=3であり、lは1〜3の整数、mとnは0又は1の整数を表す。また、l=2又は3のとき、[ ]内の各々のベンゼン環の置換基は同一でも異なっていてもよい。)
(2)前記(1)記載のテトラヒドロピラニル化合物からなることを特徴とする電荷輸送材料。
【発明の効果】
【0007】
本発明のテトラヒドロピラニル化合物は、トリフェニルアミン化合物に[(テトラヒドロ−2H−ピラン−2−イル)オキシ]メチル基を導入しているので、塗膜安定性を向上させることができ、かつ、電気特性の低下や高温高湿下での画像流れなどの副作用が少ない。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の実施例1において得られた化合物の赤外吸収スペクトル図(液膜法)である。横軸は波数(cm-1)を示し、縦軸は透過度(%)を示す。
【図2】本発明の実施例2において得られた化合物の赤外吸収スペクトル図(液膜法)である。横軸は波数(cm-1)を示し、縦軸は透過度(%)を示す。
【図3】本発明の実施例3において得られた化合物の赤外吸収スペクトル図(液膜法)である。横軸は波数(cm-1)を示し、縦軸は透過度(%)を示す。
【図4】本発明の実施例4において得られた化合物の赤外吸収スペクトル図(液膜法)である。横軸は波数(cm-1)を示し、縦軸は透過度(%)を示す。
【図5】本発明の実施例5において得られた化合物の赤外吸収スペクトル図(液膜法)である。横軸は波数(cm-1)を示し、縦軸は透過度(%)を示す。
【図6】本発明の実施例6において得られた化合物の赤外吸収スペクトル図(液膜法)である。横軸は波数(cm-1)を示し、縦軸は透過度(%)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の詳細を説明する。
本発明は、下記一般式(1)で表されるテトラヒドロピラニル化合物に関する。
【化1】

(式中、R1、R5は、水素原子、メチル基、又はエチル基を表し、R2〜R4のうち、一つは[(テトラヒドロ−2H−ピラン−2−イル)オキシ]メチル基を表し、残りの二つは水素原子、メチル基、又はエチル基を表す。R6〜R15は、水素原子、メチル基、エチル基、置換基を有してもよいアリール基、又は置換基を有してもよいスチリル基を表す。l+m+n=3であり、lは1〜3の整数、mとnは0又は1の整数を表す。また、l=2又は3のとき、[ ]内の各々のベンゼン環の置換基は同一でも異なっていてもよい。)
【0010】
なお、本発明において、テトラヒドロピラニル基とは以下に示すテトラヒドロ−2H−ピラン−2−イル基を指し、テトラヒドロピラニル化合物はテトラヒドロ−2H−ピラン−2−イル基を有する化合物と定義するものとする。
【化2】

【0011】
本発明のテトラヒドロピラニル化合物は、トリフェニルアミン化合物に[(テトラヒドロ−2H−ピラン−2−イル)オキシ]メチル基を導入しているので、塗膜安定性を向上させることができ、かつ、電気特性の低下や高温高湿下での画像流れなどの副作用が少ない電荷輸送材料となる。
【0012】
より具体的には、
(1)テトラヒドロピラニル基はシクロへキシル基の2位が酸素原子に置換された構造であり、立体的にかさ高いために、電荷輸送材料の結晶化を抑制することが出来る。
(2)また、エーテル結合を持つので、ポリカーボネート等の結着樹脂との相溶性が高くなる。
(3)本発明における新規テトラヒドロピラニル化合物は、テトラヒドロピラニル基が、オキシメチレン基を介して電荷輸送性のN−フェニル環に結合することにより、電気特性の低下および電荷輸送材料の低粘性化を抑えることができ、上記の効果が発生する。ここで、エーテル結合部の酸素原子が電荷輸送性のN−フェニル環に直接結合すると、電荷輸送材料のドナー性が低下し、電気特性が低下する。一方、オキシプロピル基を介すると電気特性の低下は抑制できるが、電荷輸送材料が低粘性化するため、高温高湿環境において表面に遊離しやすく、表面が低抵抗化し、結果として画像流れが発生する。
従って、本発明のテトラヒドロピラニル化合物は、有機電子写真感光体、有機発光素子、有機TFT、有機太陽電池等の有機電荷輸送材料を用いた有機半導体デバイスに使用される電荷輸送材料として有用である。
【0013】
前記一般式(1)で表される本発明のテトラヒドロピラニル化合物の具体例を以下に示すが、本発明は何らこれら例示の化合物のみに限定されるものではない。
【化3】

【0014】
【化4】

【0015】
本発明のテトラヒドロピラニル化合物は、例えば、以下の手順でアルデヒド化合物を合成し、得られたアルデヒド化合物を水素化ホウ素ナトリウム等の還元剤により反応させてメチロール化合物を合成し、得られたメチロール化合物とジヒドロ−2H−ピランとを反応させる以下の製造方法により容易に合成することができる。また、アミン化合物とテトラヒドロピラニル基を有するハロゲン化合物のウルマン反応等によっても、テトラヒドロピラニル化合物を容易に合成することができる。
【0016】
<アルデヒド化合物の合成>
下記反応式に示すように電荷輸送性化合物を原料とし、これを従来知られている方法(例えばビルスマイヤー反応)を用いてホルミル化し、アルデヒド化合物を合成することができる。特許第3943522号記載のホルミル化等が挙げられる。
【化5】

(R1、R2は互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、メチル基、エチル基、置換基を有してもよいアリール基、又は置換基を有してもよいスチリル基を表す。R3は水素原子、メチル基、又はエチル基を表す。l+m+n=3であり、lは1〜3の整数、mとnは0又は1の整数を表す。また、l=2又は3のとき、[ ]内の各々のベンゼン環の置換基は同一でも異なっていてもよい。)
すなわち、上記の具体的なホルミル化の方法としては、塩化亜鉛/オキシ塩化リン/ジメチルホルムアルデヒドを用いた方法が有効であるが、本発明のテトラヒドロピラニル化合物の中間体であるアルデヒド化合物を得るための合成方法は、これらに限定されるものではない。
【0017】
<メチロール化合物の合成>
下記反応式に示すようにアルデヒド化合物を製造中間体とし、これを従来知られている還元方法を用いてメチロール化合物を合成することができる。
【化6】

すなわち、上記の具体的な還元方法としては、水素化ホウ素ナトリムを用いた方法が有効であるが、本発明のテトラヒドロピラニル化合物の中間体であるメチロール化合物を得るための合成方法は、これらに限定されるものではない。具体的な合成例については後述の実施例に示す。
【0018】
<テトラヒドロピラニル化合物の合成(1)>
下記反応式に示すようにメチロール化合物を製造中間体とし、これをジヒドロ−2H−ピランとを反応させて、テトラヒドロピラニル化合物を合成することができる。
【化7】

すなわち、上記の具体的な合成方法としては、ジヒドロ−2H−ピランを用いた方法が有効であるが、本発明のテトラヒドロピラニル化合物を得るための合成方法は、これらに限定されるものではない。具体的な合成例については後述の実施例に示す。
【0019】
<テトラヒドロピラニル化合物の合成(2)>
下記反応式に示すようにアミン化合物と[(テトラヒドロ−2H−ピラン−2−イル)オキシ]メチル基を有するハロゲン化合物を製造中間体とし、これを従来知られている合成方法を用いてテトラヒドロピラニル化合物を合成することができる。尚、以下の[(テトラヒドロ−2H−ピラン−2−イル)オキシ]メチル基を有するハロゲン化合物において、[(テトラヒドロ−2H−ピラン−2−イル)オキシ]メチル基の結合位置はハロゲンに対してメタ位またはパラ位である。
【化8】

すなわち、上記の具体的な合成方法としては、ウルマン反応等を用いた方法が有効であるが、本発明のテトラヒドロピラニル化合物を得るための合成方法は、これらに限定されるものではない。具体的な合成例については後述の実施例に示す。
【実施例】
【0020】
以下、合成例および応用例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。尚、部は質量部を表す。
【0021】
[実施例1]
合成例1(例示テトラヒドロピラニル化合物III−1の製造原料として用いたメチロール化合物の合成)
【化9】

トリス(4−ホルミルフェニル)アミン:6.65g、エタノール:150mlを四つ口フラスコに入れる。室温下にて撹拌し、水素化ホウ素ナトリウム:3.63gを投下。そのまま4時間撹拌継続。酢酸エチルにて抽出し、硫酸マグネシウムにて脱水し、活性白土&シリカゲルにて吸着処理を行なった。濾過、洗浄、濃縮により、アモルファス状物質が得られた。n−ヘキサンにて分散し、濾過、洗浄、乾燥にて取り出し、目的物を得た。(収量6.0g、薄黄白色アモルファス)
【0022】
合成例2(例示テトラヒドロピラニル化合物III−1の合成)
【化10】

上記合成例1で得られた中間体メチロール化合物:3.4g、3,4−ジヒドロ−2H−ピラン:4.65g、テトラヒドロフラン:100mlを四つ口フラスコに入れる。5℃にて撹拌し、パラトルエンスルホン酸:58mgを投下。室温下にて、5時間撹拌継続。酢酸エチルにて抽出し、硫酸マグネシウムにて脱水し、活性白土&シリカゲルにて吸着処理を行なった。濾過、洗浄、濃縮により、黄色オイル状物質が得られた。シリカゲルカラム精製(トルエン/酢酸エチル=5/1)を行ない、単離し、目的物を得た。(収量2.7g、薄黄色オイル状物)
図1に、実施例1で得られたテトラヒドロピラニル化合物の赤外吸収スペクトル図(液膜法)を示す。
【0023】
[実施例2]
合成例3(例示テトラヒドロピラニル化合物中間体の合成(1))
【化11】

4−ブロモベンジルアルコール:50.43g、3,4−ジヒドロ−2H−ピラン:45.35g、テトラヒドロフラン:150mlを四つ口フラスコに入れる。5℃にて撹拌し、パラトルエンスルホン酸:0.512gを投下。室温下にて、2時間撹拌継続。酢酸エチルにて抽出し、硫酸マグネシウムにて脱水し、活性白土&シリカゲルにて吸着処理を行なった。濾過、洗浄、濃縮により、目的物を得た。(収量72.50g、無色オイル状物)
【0024】
合成例4(例示テトラヒドロピラニル化合物II−1の合成)
【化12】

アニリン:0.558g、上記合成例3で得られた中間体化合物:3.91g、ビス(トリ-t-ブトキシホスフィン)パラジウム:30.6mg、ターシャルブトキシナトリウム:2.31g、o−キシレン:20mlを四つ口フラスコに入れる。アルゴンガス雰囲気下、室温にて撹拌。100℃にて1時間撹拌継続。酢酸エチルにて希釈し、硫酸マグネシウム、活性白土を入れ、撹拌。濾過、洗浄、濃縮を行ない、黄色オイル状物が得られた。シリカゲルカラム精製(MDC/n−ヘキサン=20/1)を行ない、単離し、目的物を得た。(収量1.03g、薄黄色オイル状物)
図2に、実施例2で得られたテトラヒドロピラニル化合物の赤外吸収スペクトル図(液膜法)を示す。
【0025】
[実施例3]
合成例5(例示テトラヒドロピラニル化合物中間体の合成(2))
【化13】

3−ブロモベンジルアルコール:25.21g、3,4−ジヒドロ−2H−ピラン:22.50g、テトラヒドロフラン:50mlを四つ口フラスコに入れる。5℃にて撹拌し、パラトルエンスルホン酸:0.259gを投下。室温下にて、1時間撹拌継続。酢酸エチルにて抽出し、硫酸マグネシウムにて脱水し、活性白土&シリカゲルにて吸着処理を行なった。濾過、洗浄、濃縮により、目的物を得た。(収量36.84g、無色オイル状物)
【0026】
合成例6(例示テトラヒドロピラニル化合物II−5の合成)
【化14】

アニリン:1.12g、上記合成例5で得られた中間体化合物:7.81g、ビス(トリ-t-ブトキシホスフィン)パラジウム:61.3mg、ターシャルブトキシナトリウム:4.61g、o−キシレン:100mlを四つ口フラスコに入れる。アルゴンガス雰囲気下、室温にて撹拌。100℃にて1時間撹拌継続。酢酸エチルにて希釈し、硫酸マグネシウム、活性白土を入れ、撹拌。濾過、洗浄、濃縮を行ない、黄色オイル状物が得られた。シリカゲルカラム精製(MDC)を行ない、単離し、目的物を得た。(収量3.24g、薄黄色オイル状物)
図3に、実施例3で得られたテトラヒドロピラニル化合物の赤外吸収スペクトル図(液膜法)を示す。
【0027】
[実施例4]
合成例7(例示テトラヒドロピラニル化合物I−2の合成)
【化15】

4,4’−ジトリルアミン:5.91g、上記合成例3で得られた中間体化合物:9.761g、ビス(トリ−t−ブトキシホスフィン)パラジウム:76.6mg、ターシャルブトキシナトリウム:5.76g、o−キシレン:50mlを四つ口フラスコに入れる。アルゴンガス雰囲気下、室温にて撹拌。100℃にて1時間撹拌継続。酢酸エチルにて希釈し、硫酸マグネシウム、活性白土を入れ、撹拌。濾過、洗浄、濃縮を行ない、黄色オイル状物が得られた。シリカゲルカラム精製(ヘキサン/酢酸エチル=6/1)を行ない、単離し、目的物を得た。(収量9.3g、薄黄色オイル状物)
図4に、実施例4で得られたテトラヒドロピラニル化合物の赤外吸収スペクトル図(液膜法)を示す。
【0028】
[実施例5]
合成例8(例示テトラヒドロピラニル化合物I−5の合成)
【化16】

4−フェニル−N−p−トリルアニリン:1.56g、上記合成例3で得られた中間体化合物:1.95g、ビス(トリ-t-ブトキシホスフィン)パラジウム:15.3mg、ターシャルブトキシナトリウム:1.15g、o−キシレン:10mlを四つ口フラスコに入れる。アルゴンガス雰囲気下、室温にて撹拌。100℃にて1時間撹拌継続。酢酸エチルにて希釈し、硫酸マグネシウム、活性白土を入れ、撹拌。濾過、洗浄、濃縮を行ない、黄色オイル状物が得られた。シリカゲルカラム精製(MDC/シクロヘキサン=2/1)を行ない、単離し、目的物を得た。(収量2.54g、薄黄色オイル状物)
図5に、実施例5で得られた化合物の赤外吸収スペクトル図(液膜法)を示す。
【0029】
[実施例6]
合成例9(例示テトラヒドロピラニル化合物I−7の合成)
【化17】

4−(2,2−ジフェニルビニル)−N−p−トリルアニリン:2.17g、上記合成例3で得られた中間体化合物:1.95g、ビス(トリ-t-ブトキシホスフィン)パラジウム:15.3mg、ターシャルブトキシナトリウム:1.15g、o−キシレン:10mlを四つ口フラスコに入れる。アルゴンガス雰囲気下、室温にて撹拌。100℃にて1時間撹拌継続。酢酸エチルにて希釈し、硫酸マグネシウム、活性白土を入れ、撹拌。濾過、洗浄、濃縮を行ない、黄色オイル状物が得られた。シリカゲルカラム精製(MDC/シクロヘキサン=1/1)を行ない、単離し、目的物を得た。(収量2.01g、黄色オイル状物)
図6に、実施例6で得られた化合物の赤外吸収スペクトル図(液膜法)を示す。
【0030】
<画像品質評価>
[実施例7](応用例1)
アルミニウムシリンダー上に下記組成の下引き層塗工液、電荷発生層塗工液、および電荷輸送層塗工液を、浸漬塗工によって順次塗布、乾燥し、3.5μmの下引き層、0.2μmの電荷発生層、23μmの電荷輸送層を形成した(感光体(1))。
◎下引き層塗工液
二酸化チタン粉末(タイベークCR−EL:石原産業製): 400部
メラミン樹脂(スーパーベッカミンG821-60:大日本インキ製): 65部
アルキッド樹脂(ベッコライトM6401-50:大日本インキ製): 120部
2−ブタノン: 400部
【0031】
◎電荷発生層塗工液
下記構造のフルオレノン系ビスアゾ顔料: 12部
【化18】

ポリビニルブチラール(XYHL:ユニオンカーバイド製): 5部
2−ブタノン: 200部
シクロヘキサノン: 400部
◎電荷輸送層塗工液
ポリカーボネート樹脂(Zポリカ:帝人化成製): 10部
例示テトラヒドロピラニル化合物III−1: 10部
テトラヒドロフラン: 100部
【0032】
[実施例8](応用例2)
実施例7における例示テトラヒドロピラニル化合物III−1を、例示テトラヒドロピラニル化合物II−1に変えた以外は、実施例7と同様にして感光体(2)を作製した。
[実施例9](応用例3)
実施例7における例示テトラヒドロピラニル化合物III−1を、例示テトラヒドロピラニル化合物I−2に変えた以外は、実施例7と同様にして感光体(3)を作製した。
【0033】
[比較例1]
実施例7における例示テトラヒドロピラニル化合物III−1を、次に示す化合物(I)に変えた以外は、実施例7と同様にして感光体(4)を作製した。
【化19】

【0034】
[比較例2]
実施例7における例示テトラヒドロピラニル化合物III−1を、次に示す化合物(II)に変えた以外は、実施例7と同様にして感光体(5)を作製した。
【化20】

【0035】
[比較例3]
実施例7における例示テトラヒドロピラニル化合物III−1を、次に示す化合物(III)に変えた以外は、実施例7と同様にして感光体(6)を作製した。
【化21】

【0036】
[比較例4]
実施例7における例示テトラヒドロピラニル化合物III−1を、次に示す化合物(IV)に変えた以外は、実施例7と同様にして感光体(7)を作製した。
【化22】

【0037】
[比較例5]
実施例7における例示テトラヒドロピラニル化合物III−1を、次に示す化合物(V)に変えた以外は、実施例7と同様にして感光体(8)を作製した。
【化23】

【0038】
[比較例6]
実施例7における例示テトラヒドロピラニル化合物III−1を、次に示す化合物(VI)に変えた以外は、実施例7と同様にして感光体(9)を作製した。
【化24】

【0039】
上記により得られた感光体(1)〜(9)を画像形成装置(imagio MF7070、株式会社リコー製) に搭載し、露光量を適正化した後、初期帯電電位を−850Vに設定し、高温高湿環境(30℃−90%RH)において、初期画像の実写評価を行なった。
※画像評価基準 : ○:異常なし、×:画像流れ発生、実用化できない
結果を表1に示す。
【0040】
【表1】

テトラヒドロピラニル基がオキシプロピル基を介してベンゼン環に結合した化合物(VI)では、画像流れが生じた。
【0041】
<電荷輸送性評価>
実施例10(応用例4)
アルミ板上に下記組成の下引き層用塗工液、電荷発生層用塗工液、電荷輸送層用塗工液を順次、塗布、乾燥することにより、0.3μmの下引き層、0.3μmの電荷発生層、20μmの電荷輸送層を形成して感光体(10)を作製した。
◎下引き層用塗工液
ポリアミド樹脂(CM−8000:東レ社製): 2部
メタノール: 49部
ブタノール: 49部
【0042】
◎電荷発生層用塗工液
下記構造式のビスアゾ顔料: 2.5部
【化25】

ポリビニルブチラール(XYHL:UCC社製): 0.5部
シクロヘキサノン: 200部
メチルエチルケトン: 80部
◎電荷輸送層用塗工液
ビスフェノールZポリカーボネート
(パンライトTS−2050、帝人化成社製): 10部
電荷輸送性化合物(例示テトラヒドロピラニル化合物III−1): 10部
テトラヒドロフラン: 80部
1%シリコーンオイルのテトラヒドロフラン溶液
(KF−50−100CS、信越化学工業社製): 0.2部
【0043】
実施例11(応用例5)
実施例10における例示テトラヒドロピラニル化合物III−1を、例示テトラヒドロピラニル化合物II−1に変えた以外は、実施例10と同様にして感光体(11)を作製した。
実施例12(応用例6)
実施例10における例示テトラヒドロピラニル化合物III−1を、例示テトラヒドロピラニル化合物I−2に変えた以外は、実施例10と同様にして感光体(12)を作製した。
【0044】
比較例7
実施例10における例示テトラヒドロピラニル化合物III−1を、次に示す化合物(I)に変えた以外は、実施例10と同様にして感光体(13)を作製した。
【化26】

【0045】
比較例8
実施例10における例示テトラヒドロピラニル化合物III−1を、次に示す化合物(II)に変えた以外は、実施例10と同様にして感光体(14)を作製した。
【化27】

【0046】
比較例9
実施例10における例示テトラヒドロピラニル化合物III−1を、次に示す化合物(III)に変えた以外は、実施例10と同様にして感光体(15)を作製した。
【化28】

【0047】
比較例10
実施例10における例示テトラヒドロピラニル化合物III−1を、次に示す化合物(IV)に変えた以外は、実施例10と同様にして感光体(16)を作製した。
【化29】

【0048】
比較例11
実施例10における例示テトラヒドロピラニル化合物III−1を、次に示す化合物(V)に変えた以外は、実施例10と同様にして感光体(17)を作製した。
【化30】

【0049】
比較例12
実施例10における例示テトラヒドロピラニル化合物III−1を、次に示す化合物(VI)に変えた以外は、実施例10と同様にして感光体(18)を作製した。
【化31】

【0050】
上記により得られた感光体(10)〜(18)について、市販の静電複写紙試験装置[(株)川口電機製作所製EPA−8200型]を用い、半減露光量と残留電位から電荷輸送性を評価した。すなわち、暗所で−6kVのコロナ放電により−800Vに帯電せしめた後、タングステンランプ光を感光体表面での照度が4.5luxになるように照射して、電位が1/2になるまでの時間(秒)を求め、半減露光量E1/2 (lux・sec)を算出した。また、露光30秒後の残留電位(−V)を求めた。なお、半減露光量が小さいほど感度が良く、残留電位が小さいほど電荷のトラップが少ないことを表す。結果を表2に示す。
【0051】
<耐ソルベントクラック性評価>
上記感光体(10)〜(18)の表面10mm×10mmに指脂を付着させ、45℃/43%RHの暗所環境下に1週間放置させてのち顕微鏡にてソルベントクラックの有無を観察した。
※クラック評価 :
○:発生なし、△:5本未満の発生、×:5本以上(ほぼ全面クラック)の発生
結果を表2に示す。
【0052】
【表2】

【0053】
上記評価結果から、テトラヒドロピラニル基を有していない電荷輸送性化合物(I)、(II)を用いた感光体(13)、(14)に比べて、本発明のテトラヒドロピラニル化合物を用いた感光体(10)〜(12)は遜色なく、半減露光量が小さく感度が良好であり、残留電位が無く電荷のトラップの無いことが明確であり良好な電荷輸送性を示すことが分かる。一方、テトラヒドロピラニル基が、直接電荷輸送性基に結合した化合物(III)、(IV)、(V)を用いた感光体(15)〜(17)では、感度の低下がみられた。
また、テトラヒドロピラニル基を有さない化合物(I)、(II)を用いた感光体(13)、(14)では、ほぼ全面にクラックが見られたのに対し、本発明のテトラヒドロピラニル化合物を用いた感光体(10)〜(12)はクラックが発生しなかった。
【0054】
上記の画像品質評価、電荷輸送性評価、耐ソルベントクラック性評価から、トリフェニルアミン化合物が[(テトラヒドロ−2H−ピラン−2−イル)オキシ]メチル基を有することで、塗膜安定性を向上させることができ、かつ、電気特性の低下や高温高湿下での画像流れなどの副作用が少ない電荷輸送材料を提供することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0055】
【特許文献1】特開2006−084711号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
[(テトラヒドロ−2H−ピラン−2−イル)オキシ]メチル基を有する、下記一般式(1)で表されるテトラヒドロピラニル化合物。
【化1】

(式中、R1、R5は、水素原子、メチル基、又はエチル基を表し、R2〜R4のうち、一つは[(テトラヒドロ−2H−ピラン−2−イル)オキシ]メチル基を表し、残りの二つは水素原子、メチル基、又はエチル基を表す。R6〜R15は、水素原子、メチル基、エチル基、置換基を有してもよいアリール基、又は置換基を有してもよいスチリル基を表す。l+m+n=3であり、lは1〜3の整数、mとnは0又は1の整数を表す。また、l=2又は3のとき、[ ]内の各々のベンゼン環の置換基は同一でも異なっていてもよい。)
【請求項2】
請求項1記載のテトラヒドロピラニル化合物からなることを特徴とする電荷輸送材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−121860(P2012−121860A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−275382(P2010−275382)
【出願日】平成22年12月10日(2010.12.10)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】