説明

新規バクテリオファージおよびこれを含む抗菌組成物

本発明は、新規バクテリオファージに関し、さらに詳しくは、家禽チフスを起こす家禽チフス菌(Salmonella gallinarum)、およびひな白痢を起こすひな白痢菌(Salmonella pullorum)を特異的に死滅させることが可能なバクテリオファージに関する。また、本発明は、前記バクテリオファージを有効成分として含む、家禽チフス菌またはひな白痢菌感染性疾病の予防または治療用組成物に関する。さらに、本発明は、前記バクテリオファージを有効成分として含む、家禽用飼料、飲用水、洗浄剤および消毒剤に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規バクテリオファージに係り、さらに詳しくは、家禽チフスを起こす家禽チフス菌(Salmonella gallinarum、SG)、およびひな白痢を起こすひな白痢菌(Salmonella pullorum、SP)を特異的に死滅させることが可能なバクテリオファージに関する。また、本発明は、前記バクテリオファージを有効成分として含む、家禽チフス菌またはひな白痢菌感染性疾病の予防または治療用組成物に関する。さらに、本発明は、前記バクテリオファージを有効成分として含む、家禽用飼料、飲用水、洗浄剤および消毒剤に関する。
【背景技術】
【0002】
サルモネラ菌は、腸内菌とのグラム陰性の通性嫌気性細菌1属(条件無酸素菌である)で無芽胞性の桿菌であり、一般に周毛性鞭毛による運動性を有する。サルモネラ菌の遺伝子塩基構成成分をみれば、GC含有程度が50〜52%であって、大腸菌(Escherichia coli)および赤痢菌(Shigella)と類似である。サルモネラ菌属は、ヒトにだけでなく、各種家畜に感染して多様な疾病を起こす病原性微生物である。サルモネラ種としての腸炎菌(Salmonella enterica)は、血清学的区別による区分によってGallinarum、Pullorum、Typhimurium、Enteritidis、Typhi、Choleraesuis、derbyなどを含んだ多くの血清型(serovar)を有する(Bopp CA, Brenner FW, Wells JG, Strokebine NA. Escherichia, Shigella, Salmonella. In Murry PR, Baron EJ, et al eds Manual of clinical Microbiology. 7th ed. Washington DC American Society for Microbiology 1999;467-74 ; Ryan KJ. Ray CG (editors) (2004). Sherris Medical Microbiology (4th ed). McGraw Hill. ISBN 0-8385-8529-9)。これらのうち、家禽に特異的なGallinarumとPullorum、ヒトに特異的なTyphi、豚に特異的なSalmonella Choleraesuisとderby、および疾病を起こす対象動物が多様な人畜共通血清型の腸炎菌(Salmonella enterica)とネズミチフス菌(Salmonella typhimurium)などが疾病を起こして農家および消費者に莫大な被害を与えることもある。
【0003】
家禽におけるサルモネラ菌が起こす疾病の例として、家禽チフス(Fowl Typhoid、FT)がある。この家禽チフスは、家禽チフス菌(Salmonella gallinarum、以下「SG」という)を病原体とし、鳥および七面鳥などの鳥類に発生する急・慢性の伝染病であって、全ての日齢に現れる敗血症による高い斃死率が特徴である。最近、ヨーロッパ、南米、アフリカおよび東南アジアなどでは発生頻度が高いと報告されており、その被害が増加している。韓国では、1992年以来、主に家禽チフスの発生が褐色産卵鶏農場に対して全国的に拡散してきた(Kwon Yong-Kook. 2000 annual report on avian diseases. Information publication by National Veterinary Research & Quarantine Service. March, 2001; Kim Ae-Ran et al., The prevalence of pullorum disease-fowl typhoid in grandparent stock and parent stock in Korea, 2003, Korean J Vet Res(2006) 46(4): 347~353)。
【0004】
ひな白痢(pullorum disease)もサルモネラ菌を原因とする疾病であって、ひな白痢菌(Salmonella Pullorum、以下「SP」という。)によって発病される。ひな白痢は、日齢または季節を問わずに発病するが、初生雛時期に最も感受性が高いことが特徴である。去る1世紀の間、韓国を含んだ全世界にわたって、母鶏から卵への経卵伝染による1〜2週齢未満の日齢ひなに発生して被害が深刻であった疾病であって、去る80年代以後にその発生が非常に減少したが、近年90年代中盤以後さらに増加する趨勢にある(Kwon Yong-Kook. 2000 annual report on avian diseases. Information publication by National Veterinary Research & Quarantine Service. March, 2001; Kim Ae-Ran et al., The prevalence of pullorum disease-fowl typhoid in grandparent stock and parent stock in Korea, 2003, Korean J Vet Res(2006) 46(4): 347~353)。
【0005】
韓国では、1990年代以後、家禽チフトとひな白痢の発病が増加している趨勢にあり、濃家に大きい経済的損失を与えている。このため、2004年から弱毒化SG生菌ワクチンをブロイラー(broiler)に使用して家禽チフスに対して予防しようとしたが(Kim Ae-Ran et al., The prevalence of pullorum disease-fowl typhoid in grandparent stock and parent stock in Korea, 2003, Korean J Vet Res(2006) 46(4): 347~353)、ワクチンの効果に対する使用者の疑問が提起されており、産卵鶏(Layer)では経卵伝染のおそれで生菌ワクチンの使用が許可されていない。家禽チフスとは異なり、ひな白痢は現在商業化された予防策はない。よって、家禽チフトとひな白痢を予防することが可能な方法の模索が至急な実情である。
【0006】
一方、バクテリオファージは、特定の細菌にのみ感染して細胞の成長を統制する細菌特異的ウイルスであって、細菌宿主なしでは自己増殖が不可能である。バクテリオファージは、一本鎖或いは二本鎖のDNAまたはRNAが遺伝物質として核酸を構成しており、この核酸をタンパク質外皮で包んでいる単純な構造であって、二十面体の頭に尾がある形態、二十面体の頭に尾がない形態、およびフィラメント形態の3つの基本型構造に分けられる。バクテリオファージは、形態学的な構造と遺伝物質によって分類される。二本鎖DNAを遺伝物質として有し且つ二十面体の頭からなるバクテリオファージは、尾の模様によって収縮性尾形態のマイオウイルス(Myoviridae)、長い無収縮性尾形態のシフォビラーダ(Siphoviridae)、および短い無収縮性尾形態のポドウイルス(Podoviridae)に分類される。RNAまたはDNAを遺伝物質として有し且つ二十面体の頭に尾がないバクテリオファージは、頭の形態、頭の構成成分、および外皮有無によって分類される。最後に、DNAを遺伝物質として有するフィラメント形態のバクテリオファージは、大きさ、模様、外皮およびフィラメント構成成分によって分類される(H.W.Ackermann. Frequency of morphological phage descriptions in the year 2000; Arch Virol (2001) 146:843-857; Elizabeth Kutter et al. Bacteriophages biology and application; CRC press)。
【0007】
細菌を感染させるとき、バクテリオファージは細菌の表面にくっ付いて自分の遺伝物質を細胞内に注入した後、溶菌性(lytic)または溶原性(lysogenic)を示す。溶菌性の場合、バクテリオファージが細胞機構を用いて自分の構造物を作った後、新規バクテリオファージ粒子を放出させることにより、細胞を破壊または溶解する。溶原性の場合、自分の核酸を細菌宿主細胞の染色体に取り入れ、細菌を破壊することなく細胞と共に複製されるが、一定の条件になると溶菌性に転換される(Elizabeth Kutter et al. Bacteriophages biology and application. CRC press)。
【0008】
バクテリオファージの発見以後、これを感染疾病治療剤として用いるための研究が行われてきたが、広範囲な宿主範囲(broad target spectrum)を有する抗生剤の特性に比べて、宿主特異性(specific target spectrum)を有するバクテリオファージが競争から外されて関心を受けていない。ところが、抗生剤の誤・濫用により抗生剤耐性菌の問題が深刻になり、食品内の抗生剤残留による人体への悪影響に対するおそれが加えられている(Cislo, M et al. Bacteriophage treatment of suppurative skin infections. Arch Immunol.Ther.Exp. 1987.2:175-183; Kim sung-hun et al., Bacteriophage; New Alternative Antibiotics. biological research information center, BRIC)。特に、動物の成長促進のために飼料に添加する抗生剤(antimicrobial growth promoters、AGP)が抗生剤耐性誘発の主要原因であることが明らかにされることにより、AGPの使用を禁止する政策が立案され、ヨーロッパ連合では2006年から全てのAGPの使用が禁止されており、韓国では2009年に一部AGPの使用禁止が施行されており、向後2013〜2015年には全面禁止が予想されている。
【0009】
このような流れに基づき、バクテリオファージの研究がさらに関心を集めている。バクテリオファージを用いて大腸菌O157:H菌を統制するための7種のバクテリオファージが2002年に米国特許登録(米国登録特許第6,485,902号−Use of bacteriophages for control of Escherichia coli O157)された。また、Nymox社では、多様な種の微生物を統制する2種のバクテリオファージに対して2005年に米国特許登録(米国登録特許第6,942,858号)を受けた。バクテリオファージに関する研究が盛んに行われるにつれて、産業界ではバクテリオファージを用いた多様な商品を開発している。ヨーロッパのEBI food system社では、バクテリオファージを用いて、リステリア菌による食中毒を防止する食品添加剤製品Listerix−P100を開発して最初に米国FDAの承認を受けたとともに、同一概念のリステリア菌統制食品添加型バクテリオファージ製品LMP−102を開発してGRAS(Generally regarded as safe)の認証を受けた。また、2007年には、OmniLytics社により、屠畜過程中に大腸菌O157が牛肉製品を汚染させることを防ぐための洗浄液として、バクテリオファージを用いた製品が開発され、USD’s FSIS(USDA’s Food Safety and Inspection Service)から承認された。Clostridium sporogenes phage NCIMB 30008 and Clostridium tyrobutiricum phage NCIMB 30008は、それぞれ2003年と2005年にヨーロッパで飼料保存剤として登録され、飼料内の汚染したクロストリジウム菌の統制を目的とする製品として開発された。このような研究は、バクテリオファージが、抗生剤治療の難しい細菌、或いは畜産物などを汚染させる人畜共通伝染菌などを食品段階で統制することを可能にする研究が持続的に行われていることを示す。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明者らは、過去抗生剤のように広範囲な宿主範囲の問題点を解決するために、家畜の主要疾病を起こすサルモネラ病原菌に感染するバクテリオファージを自然源から新規分離し、これらの形態的、生化学的および遺伝的特性を確認した結果、前記バクテリオファージが、これらの益菌には影響を与えることなく家禽チフス菌(SG)およびひな白痢菌(SP)のみを選択的に死滅させることができるうえ、耐酸性、耐熱性および耐乾性にも優れることを確認することにより、家禽チフス菌およびひな白痢菌により誘発される疾患、特に家禽チフスおよびひな白痢の予防または治療目的で用いることが可能な組成物、および家禽チフス菌(SG)およびひな白痢菌(SP)を統制することができる多様な製品、すなわち家禽飼料添加剤、飲用水、畜舎消毒剤および肉加工洗浄剤にも適用可能であることを確認し、本発明を完成した。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の目的は、家禽チフス菌およびひな白痢菌に対して特異的死滅能を有する新規バクテリオファージを提供することにある。
【0012】
本発明の他の目的は、前記バクテリオファージを有効成分として含む家禽チフス菌またはひな白痢菌感染性疾病の予防または治療用組成物を提供することにある。
【0013】
本発明の別の目的は、前記バクテリオファージを有効成分として含む家禽用飼料および飲用水を提供することにある。
【0014】
本発明の別の目的は、前記バクテリオファージを有効成分として含む消毒剤および洗浄剤を提供することにある。
【0015】
本発明の別の目的は、前記バクテリオファージを有効成分として含む組成物を用いて、家禽における家禽チフス菌またはひな白痢菌感染性疾病としての家禽チフスまたはひな白痢を予防および治療する方法を提供することにある。
【発明の効果】
【0016】
本発明の新規バクテリオファージは、家禽チフス菌およびひな白痢菌に対して特異的死滅能を有し、耐酸性、耐熱性および耐乾性にも優れるという利点を持つため、家禽チフス菌およびひな白痢菌感染性疾病である家禽チフスまたはひな白痢の予防および治療用途として利用可能であるうえ、家禽チフス菌およびひな白痢菌の統制用途としても利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1はΦCJ1の電子顕微鏡写真である:形態学上、正二十面体の頭(isometric capside)および無収縮性の尾(long non-contractile tail)からなる形態型(morphotype)、シフォビラーダ科(siphoviridae)に属する。
【図2】図2は分離されたバクテリオファージΦCJ1のSDS−PAGE結果である:バクテリオファージのタンパク質パターンを示すもので、約38kDaと49kDaの主タンパク質が観察され、その他にも8kDa、17kDa、80kDaおよび100kDaのタンパク質が観察される(Invitrogen社のSee−blue plus 2 prestained−standardをマーカーとして使用した)。
【図3】図3は分離されたバクテリオファージΦCJ1のPFGE結果である:ΦCJ1の全体ゲノムサイズは約61kbp程度である(Bio−rad社の5kbp DNA size standardをサイズマーカーとして使用した)。
【図4】図4はΦCJ1のゲノムDNAの各プライマーセットを用いたPCR結果を示すもので(A;配列番号6と7のプライマーセットでPCR増幅、B;配列番号10と11のプライマーセットでPCR増幅、C;配列番号8と9のプライマーセットでPCR増幅、D;配列番号12と13のプライマーセットでPCR増幅)、A、B、CおよびD laneは順次約660bp、1.3kbp、670bp、および1.8kbp程度のPCR産出物を持つ。
【図5】図5はバクテリオファージΦCJ1の一段増殖(one-step growth)実験結果である(A;家禽チフス菌、B;ひな白痢菌)。バクテリオファージは家禽チフス菌とひな白痢菌において全て約10以上の放出量を有する。
【図6】図6はバクテリオファージΦCJ1の効率実験(efficiency test)(クリアリングアッセイ)結果である(A;家禽チフス菌、B;ひな白痢菌)。他の範例;MOI(multiply of infection:宿主細胞当りバクテリオファージが感染する数)。全て宿主細胞に対するバクテリオファージΦCJ1の感染比率が高いほど効率的に宿主細胞を溶菌させる。
【図7】図7はバクテリオファージΦCJ1の耐酸性実験結果である:pH2.1、2.5、3.0、3.5、4.0、5.5、6.4、6.9、7.4、8.0および9.0における生存バクテリオファージの数を示す。対照群と比較して、pH2.5まではバクテリオファージΦCJ1の活性を失わないが、pH2.1では活性を完全に失う。
【図8】図8はバクテリオファージΦCJ1の耐熱性実験結果である:37、45、53、60、70および80℃で0、10、30、60および120分毎に時間別に装置しておいたときの生存バクテリオファージ数を示す。70℃で2時間まで露出されても活性を殆ど失わない。80℃以上では10分露出後に活性が減少するが、一定の比率活性を維持する。
【図9】図9はバクテリオファージΦCJ1の耐乾性実験結果である:スピードバキュームドライヤー(speed vacuum dryer、SVD)を用いて60℃で120分間乾燥処理したものである。乾燥の後、元来のタイターと相対的な安定性を比較したとき、活性が約10程度減少することが分かった。
【発明を実施するための形態】
【0018】
一様態において、本発明は、家禽チフス菌(Salmonella gallinarum)およびひな白痢菌(Salmonella pullorum)特異的死滅能を有する新規バクテリオファージに関する。
【0019】
本発明のバクテリオファージは、形態学上、正二十面体の頭(isometric capside)および無収縮性の尾(long non-contractile tail)を有する形態型(morphotype)シフォビラーダ科(siphoviridae)に属し、全体ゲノムサイズが61kbpであり、38kDaおよび49kDaサイズのタンパク質を主要構造タンパク質として有することを特徴とする。
【0020】
具体的に、本発明のバクテリオファージは、サルモネラ菌のうち、家禽チフス菌(Salmonella gallinarum)およびひな白痢菌(Salmonella pullorum)を選択的に感染させ、他の種は感染させない種特異性を有する。
【0021】
本発明のバクテリオファージは、全体ゲノムサイズが61kbpであり、配列番号1〜5に示される核酸分子を全体ゲノムの一部として含むことができる。
【0022】
本発明において、用語「核酸分子」は、DNA(gDNAおよびcDNA)およびRNA分子を包括的に含む意味を有し、核酸分子における基本構成単位のヌクレオチドは、自然のヌクレオチドだけでなく、糖または塩基部位が変形された類似体(analogue)を含む概念である。
【0023】
また、本発明のバクテリオファージは、耐酸性および耐熱性の生化学的特徴を有するが、pH2.5〜pH9.0の広いpH範囲で安定的に生存する耐酸性を有し、37℃〜70℃範囲の温度、すなわち高温でも安定的に生存することが可能な耐熱性を有する。また、高温乾燥(60℃で120分)の後にも安定的に生存する耐乾性を有する。このような耐酸性、耐熱性および耐乾性は本発明のバクテリオファージを家禽のSG、SP由来疾病の予防および治療用組成物、並びにバクテリオファージを有効成分として含む多様な製品に適用することにおいて、多様な温度およびpH範囲の適用を可能にする。
【0024】
本発明者は、屠鶏場近くの下水から試料を採取し、SGおよびSP特異的死滅能および前述した特徴を有する本発明のバクテリオファージを同定し、これをΦCJ1と命名し、2008年10月24日に韓国微生物保存センターに寄託番号第KCCM10969P号で寄託した。
【0025】
本発明の具体的な実施例によれば、屠鶏場近くの下水から試料を採取し、試料から、宿主細胞SPを溶菌するバクテリオファージを分離し、これらがSGおよびSPを特異的に溶菌させることができることを確認した。また、これらのバクテリオファージ(ΦCJ1)を電子顕微鏡によって形態学的に観察した結果、形態型(morphotype)シフォビラーダ科(siphoviridae)に属することを確認した(図1)。
【0026】
また、ΦCJ1のタンパク質パターンを分析した結果、バクテリオファージの主要構造タンパク質として約38kDaと49kDaのタンパク質を含むことを確認した。
【0027】
また、ΦCJ1の全体ゲノムサイズを分析した結果、約61kbpのサイズを持つことを確認した。これらの遺伝的特性を分析した結果、配列番号1および配列番号5の核酸分子を全体ゲノムの一部として含むことを確認し、これらに基づいて他種間の類似性を比較した結果、現在まで知られているバクテリオファージとの類似性が非常に低いため、新規バクテリオファージであることを確認した。遺伝的特性をさらに具体的に分析した結果、ΦCJ1に特異的なプライマーセット(primer set)、すなわち配列番号6と7、配列番号10と11、および配列番号8と9、配列番号12と13、配列番号14と15、配列番号16と17、配列番号18と19のプライマーセットでPCRを行ったとき、特定サイズのPCR産出物である660bp、1.3kbp、670bp、1.8kbp、1kbp、1kpおよび1kbp程度のPCR産出物が得られることを確認した。
【0028】
また、ΦCJ1をSGおよびSPに感染させたとき、溶菌斑(phage plaqueであって、ソフトアガ(soft agar)で一つのバクテリオファージによって宿主細胞が溶菌されて形成されるクリアゾーン(clear zone))の大きさおよび濁度などが同一であり、これらを溶菌させることによりSGおよびSPの成長を抑制させることを確認した。
【0029】
また、ΦCJ1の安定性を多様なph範囲および温度で調査した結果、pH2.5〜9.0および37℃〜70℃の広い範囲で安定的に生存するうえ、高温乾燥(60℃で120分)の際にも安定性を維持することを確認した。これは、本発明のバクテリオファージΦCJ1を、SGとSPを統制することができる多様な製品へ適用することが容易であることを意味する。
【0030】
他の様態において、本発明は、前記バクテリオファージを有効成分として含む家禽チフス菌(Salmonella gallinarum)またはひな白痢菌(Salmonella pullorum)感染性疾病である家禽チフスまたはひな白痢の予防または治療用組成物に関する。
【0031】
本発明のバクテリオファージは、家禽チフス菌(Salmonella gallinarum)およびひな白痢菌(Salmonella pullorum)を特異的に死滅させることが可能な抗菌活性を有するので、これらの菌により誘発される疾病を予防または治療するための目的で利用できる。具体的に好ましい一様態として、抗生剤を含むことができる。
【0032】
本発明において、用語「予防」とは、組成物の投与により疾病を抑制させ或いは発病を遅延させる全ての行為を意味し、「治療」とは、組成物の投与により前記疾病の症状が好転され或いは有利に変更される全ての行為を意味する。
【0033】
本発明の前記組成物を適用することが可能な家禽チフス菌感染性疾病の例としては家禽チフスが好ましく、ひな白痢菌感染性疾病の例としてはひな白痢が好ましいが、これに限定されない。
【0034】
本発明の前記組成物は、5×10〜5×1012pfu/mlのΦCJ1を含み、好ましくは1×10〜1×1010pfu/mlのΦCJ1を含む。
【0035】
本発明の前記組成物は、薬学的に許容される担体をさらに含むことができ、担体と共に製剤化されて食品、医薬品および飼料添加剤として提供できる。
【0036】
本発明において、用語「薬学的に許容される担体」とは、生物体を刺激せず、投与化合物の生物学的活性および特性を阻害しない担体または希釈剤をいう。液状溶液に製剤化される組成物において許容される薬剤学的担体としては、滅菌および生体に適した、食塩水、滅菌水、リンガー液、緩衝食塩水、アルブミン注射溶液、デキストロース溶液、マルトデキストリン溶液、グリセロール、エタノール、およびこれらの成分の少なくとも一つを混合して使用することができ、必要に応じて抗酸化剤、緩衝液、静菌剤などの他の通常の添加剤を添加することができる。また、希釈剤、分散剤、界面活性剤、結合剤よび潤滑剤を付加的に添加して、例えば水溶液、懸濁液、乳濁液などの注射用剤形、丸薬、カプセル、顆粒または錠剤に製剤化することができる。
【0037】
本発明の組成物を有効成分として含む経口投与剤形としては、例えば錠剤、トローチ剤、ローゼンジ(lozenge)、水溶性または油性懸濁液、調製粉末または顆粒、エマルジョン、ハードまたはソフトカプセル、シロップ、またはエリキシル剤に製剤化することができる。錠剤およびカプセルなどの剤形に製剤化するために、ラクトース、サッカロース、ソルビトール、マンニトール、澱粉、アミロペクチン、セルロースまたはゼラチンなどの結合剤、第二リン酸カルシウムなどの賦形剤、コーンスターチまたはサツマイモ澱粉などの崩壊剤、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、フマル酸ステアリルナトリウムまたはポリエチレングリコールワックスなどの潤滑油を含むことができ、カプセル剤形の場合、前述した物質以外にも、脂肪油などの液体担体をさらに含むことができる。
【0038】
本発明の組成物を有効成分として含む非経口投与用剤形としては、皮下注射、静脈注射または筋肉内注射などの注射用形態、坐剤注入方式または呼吸器を介して吸入可能にするエアロゾル剤などのスプレイー用に製剤化することができる。注射用剤形に製剤化するためには、本発明の組成物を安定剤または緩衝剤と共に水で混合して溶液または懸濁液に製造し、これをアンプルまたはバイアルの単位投与用に製剤化することができる。エアロゾル剤などのスプレイー用に剤形化する場合、水分散された濃縮物または湿潤粉末が分散するように推進剤などが添加剤と共に配合できる。
【0039】
本発明において、用語「抗生剤」とは、薬剤の形で動物に提供されて菌を死滅させることが可能な製剤を意味し、防腐剤、殺菌剤および抗菌剤を総称する。本発明のバクテリオファージは、既存の抗生剤に比べて家禽チフス菌およびひな白痢菌に対する特異性が非常に高いので、益菌は死滅させず、特定の病原菌のみを死滅させることができ、薬物耐性を誘導しないため、既存の抗生物質に比べて製品寿命が長い新規抗生剤として提供できる。
別の様態において、本発明は、前記バクテリオファージを有効成分として含む家禽用飼料または飲用水に関する。
【0040】
本発明の家畜用飼料は、バクテリオファージを飼料添加剤の形で別途製造して飼料に混合させ、或いは飼料製造の際に直接添加させて製造することができる。本発明の飼料内バクテリオファージは液状または乾燥状態である。乾燥方法は、通風乾燥、自然乾燥、噴霧乾燥および凍結乾燥が使用できるが、これに限定されない。本発明のバクテリオファージは粉末形態で飼料重量の0.05〜10重量%、好ましくは0.1〜2重量%の成分比で混合できる。
【0041】
本発明におけるΦCJ1を含む飼料は、植物性としては穀物類、堅果類、食品加工副産物類、藻類、繊維質類、製薬副産物類、油脂類、澱粉類、粗びき粉類、穀物副産物類などがあり、動物性としてはタンパク質類、無機物類、油脂類、鉱物性類、油脂類、単細胞タンパク質、動物性プランクトン類、残りの飲食物などがあり、これに限定されない。
【0042】
本発明におけるΦCJ1を含む飼料添加剤には、品質低下を防止するために添加する結合剤、乳化剤、保存剤などがあり、効用増大のために飼料に添加するアミノ酸剤、ビタミン剤、酵素剤、生菌剤、香味剤、非タンパク窒素化合物、ケイ酸塩剤、緩衝剤、着色剤、抽出剤、オリゴー糖などがあり、その他にも、飼料混合剤などをさらに含むことができ、これに限定されない。
【0043】
また、飲用水に混合して供給することにより、持続的に腸内の家禽チフス菌或いはひな白痢菌の数を減少させることができ、家禽チフス菌およびひな白痢菌清浄家畜の生産を模索することができる。
【0044】
別の様態において、本発明は、前記バクテリオファージを有効成分として含む消毒剤及び洗浄剤に関する。
【0045】
前記バクテリオファージを有効成分として含む消毒剤は、家禽チフス菌およびひな白痢菌除去のための撒布にも活用され、家禽の活動領域、家禽屠畜場、家禽斃死地域、その他の生産設備に使用でき、場所はこれに限定されない。
【0046】
また、前記バクテリオファージを有効成分として含む洗浄剤は、生きている家禽の皮膚表面、毛および身体の各部位に付いており或いは感染可能な家禽チフス菌およびひな白痢菌の除去に使用できる。
【0047】
別の様態において、本発明は、前記家禽チフス菌(Salmonella gallinarum)またはひな白痢菌(Salmonella pullorum)感染性疾病の予防または治療用組成物を用いて、家禽における家禽チフス菌またはひな白痢菌感染性疾病である家禽チフスまたはひな白痢を予防または治療する方法に関する。
【0048】
本発明の前記組成物は、薬学的製剤の形で動物に投与され、或いは家畜の飼料または飲用水に混合してこれを摂食させる方法によって投与されることが可能であり、好ましくは飼料添加剤の形で飼料に混合されて投与できる。
【0049】
本発明の組成物の投与経路は、目的組織に到達することが可能な限りは、経口または非経口の多様な経路を介して投与でき、具体的に、口腔、直腸、局所、静脈内、腹腔内、筋肉内、動脈内、経皮、経鼻、吸入などを介して通常の方式で投与できる。
【0050】
本発明の治療方法は、本発明の組成物を薬学的有効量で投与することを含む。適切な総1日使用量が正しい医学的判断範囲内において処置医によって決定できることは、当業者には自明である。特定の患者に対する具体的な治療的有効量は、達成しようとする反応の種類と程度、患者の年齢、体重、一般健康状態、性別および食餌、投与時間、投与経路および組成物の分泌率、治療期間、具体的組成物と共にまたは同時に使用される薬物などの多様な因子、および医薬分野によく知られている類似因子に応じて異ならせて適用することが好ましい。
【0051】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明する。ところが、これらの実施例は本発明を例示的に説明するためのもので、本発明の範囲を限定するものではない。
【0052】
〔発明の様態〕
〔実施例1:サルモネラ菌に感染するバクテリオファージの分離〕
(1−1.バクテリオファージのスクリーニングおよび単一バクテリオファージの分離)
屠鶏場および近くの下水終末処理場の試料50mlを遠心分離管に移して4000rpmで10分間遠心分離した後、上澄み液を0.45μmのフィルターを用いて濾過した。150μLのST振とう培養液(OD600=2)と2mLの10×Luria−Bertani培地(以下「LB培地」という。トリプトン10;酵母抽出液5g;NaCl10g;最終体積が1Lとなるように)に18mLの試料濾過液を混ぜた。これを37℃で18時間培養した後、培養液を4000rpmで10分間遠心分離し、その上澄み液を0.2μmのフィルターを用いて濾過した。LBプレートに3mLの0.7%寒天(w/v)、150μLのST振とう培養液(OD600=2)を混ぜ注いで固めた後、その上に10μLの試料培養濾過液を滴下して37℃で18時間培養した(0.7%寒天を用いて固体培地上に付着するものをtop−agarとし、top−agarで成長する宿主細胞を用いてバクテリオファージが溶菌することを観察する方法をソフトアガオーバーレイ(soft agar overlay)方法と定義する)。
【0053】
溶菌の起った試料培養濾過液を適当に希釈して150μLのSP振とう培養液(OD600=2)と混ぜた後、ソフトアガオーバーレイを行って単一溶菌斑を獲得した。一つの溶菌斑が一つのバクテリオファージからなっていると見なすから、単一バクテリオファージを純粋分離するために一つの溶菌斑を取って400μLのSM溶液(NaCl、5.8g;MgSO7HO、2g;1M Tris−Cl(pH7.5)、50mL;HO、最終体積が1Lとなるように)に入れて4時間室温に静置して単一バクテリオファージを純粋分離した。分離されたバクテリオファージを大量確保するために単一バクテリオファージ溶液の上澄み液100μLを取った後、12mLの0.7%寒天および500μLのSP振とう培養液と混合して、直径150mmのLB培地でソフトアガオーバーレイを実施した。完全に溶菌の起ったプレートに15mLのSM溶液を注いだ後、4時間室温で若干振とうしてトップアガ内のバクテリオファージを流出させた。バクテリオファージの流出したSM溶液を回収した後、最終体積の1%となるようにクロロホルムを添加して10分間よく混ぜた後、4000rpmで10分間遠心分離した。ここで、得られた上澄み液を0.2μmのフィルターで濾過して冷蔵保管した。
【0054】
(1−2.バクテリオファージの大量培養)
選別されたバクテリオファージをSPを用いて大量培養した。SPを振とう培養して1.5×1010cfu(colony forming unit)となるように分注して4000rpmで10分間遠心分離した後、これを4mLのSM溶液に再浮遊させた。ここに7.5×10pfu(plaque forming unit)のバクテリオファージを接種してMOI(multiplicity of infection)=0.005に作った後、37℃で20分間静置した。これを150mLのLB培地が入ったフラスコに接種した後、5時間37℃で培養した。最終体積の1%となるようにクロロホルムを添加し、20分間振とうした。DNaseIとRNaseAをそれぞれ最終濃度1μg/mLとなるように添加し、30分間37℃で静置させた。最終濃度がそれぞれ1Mと10%(w/v)になるようにNaClおよびPEG(polyethylene glycol)を入れた後、4℃で3時間追加静置させた。4℃、12000rpmで20分間遠心分離した後、上澄み液を除去した。5mLのSM溶液に沈殿物を再浮遊させた後、20分間室温に静置させた。ここに4mLのクロロホルムを添加した後、よく攪拌し、4℃、4000rpmで20分間遠心分離した。上澄み液を0.2μmのフィルターで濾過して、グリセロール密度勾配法(密度:40%、5%グリセロール)を用いた超遠心分離(35,000rpm、1時間、4℃)によってΦCJ1を精製した。精製したΦCJ1は300μLのSM溶液に再浮遊した後、タイターを測定した。
【0055】
〔実施例2:ΦCJ1のサルモネラ菌感染有無の調査〕
選別されたバクテリオファージがSP以外に他種のサルモネラ菌に対して溶菌活性を示すかを検査するために、他種のサルモネラ菌に交差感染を試みた。その結果、ΦCJ1はST(Salmonella enterica Serotype Typhimurium)、SE(Salmonella enterica Serotype Enteritis)、SC(Salmonella enterica Serotype Choleraesuis)、SD(Salmonella enterica Serotype Derby)、SA(Salmonella enterica subsp. Arizonae)、およびSB(Salmonella enterica subsp. Bongori)には感染せず、SGとSPに特異的に感染した(実施例13参照)。その結果は表1のとおりである。SGを宿主として用いて生産したΦCJ1は、SPで生産されたものと同一の溶菌斑模様、形成された溶菌の透明性程度、タンパク質パターンおよびゲノムサイズを示した。
【0056】
【表1】

【0057】
〔実施例3:ΦCJ1の形態観察〕
精製されたΦCJ1を0.01%のゼラチン溶液に希釈した後、2.5%のグルタルアルデヒド溶液で固定した。これをcarbon−coated mica plate(ca.2.5×2.5mm)に滴下して10分間適応させた後、滅菌蒸留水で洗浄した。カーボンフィルムを銅グリッド(copper grid)に挿入して4%の酢酸ウラニル(uranyl acetate)で30〜60秒間染色し、乾燥を行った後、透過電子顕微鏡(JEM−1011トランスミッションエレクトロンマイクロスコープ(transmission electron microscope)、80kV、倍率×120,000〜×200,2000)で検鏡した。その結果、分離されたΦCJ1の形態は図1のとおりであり、形態学上、正二十面体の頭と無収縮性の尾からなる形態型シフォビラーダ科(siphoviridae)に属することが分かった。
【0058】
〔実施例4:ΦCJ1のタンパク質パターン分析〕
1011pfu/mLタイターの精製されたΦCJ1溶液15μLと5X SDS試料溶液3μLを混ぜた後、5分間沸騰した。4〜12%のNuPAGE Bis−Tris(Invitrogen社)ゲルでΦCJ1の全体タンパク質を展開した。クマシーブルー染色溶液を用いてゲルを1時間常温で染色した。その結果、タンパク質パターンは、図2に示すように38kDaと40kDaの主要タンパク質が観察され、その他にも8kDa、17kDa、80kDaおよび100kDaのタンパク質が観察されたことを示す。
【0059】
〔実施例5:ΦCJ1の全体ゲノムDNAサイズの分析〕
超遠心分離によって精製されたΦCJ1のゲノムDNAを抽出した。具体的に精製されたΦCJ1培養液にEDTA(ethylenediaminetetraacetic acid(pH8.0))、プロテイナーゼK、およびSDS(sodium dodecyl sulfate)をそれぞれ最終濃度20mM、50μg/mL、および0.5%(w/v)となるように添加した後、50℃で1時間静置した。同量のフェノール(pH8.0)を添加し、よく混ぜた後、室温で12000rpmで10分間遠心分離した。上澄み液を収得して同量のPC(フェノール:クロロホルム=1:1)を添加し、よく混ぜた後、室温で12000rpmで10分間遠心分離した。その後、上澄み液を収得して同量のクロロホルムをよく混ぜた後、室温で12000rpmで10分間遠心分離した。上澄み液を収得した後、3Mの酢酸ナトリウムを全体体積の1/10で混ぜ、2倍量の冷たい95%のエタノールを添加した後、−20℃で1時間静置させた。しかる後に、0℃で10分間12000rpmで遠心分離した後、上澄み液を完全に除去し、しかる後に、底部のDNAを50μLのTE(Tris−EDTA(pH8.0))溶液に溶かした。抽出したDNAを10倍希釈してOD260で吸光度を測定することにより濃度を測定した。全体ゲノムDNA1μgを1%PFGE(pulse-field gel electrophoresis)アガロースゲルにロードした後、BIORAD PFGEシステムの7番プログラム(size range 25-100 kbp; switch time ramp 0.4-2.0 seconds, linear shape; forward voltage 180 V; reverse voltage 120 V)を用いて常温で20時間展開した。ΦCJ1のゲノムDNAのサイズは図3に示すように約61kbp程度であった。
【0060】
〔実施例6:ΦCJ1の遺伝的特性分析〕
分離したΦCJ1の遺伝的特性を調べるために、ΦCJ1のゲノムDNA5μgをEcoRVとScaI制限酵素で同時に処理した。ベクターとしては、pBluescript SK+(Promega社)をEcoRV制限酵素で切断した後、CIP(calf intestinal alkaline phosphatase)処理したものを使用した。gDNA切片とベクターの量が3:1となるように反応条件を合わせて混ぜた後、16℃で5時間ライゲーションを行った。これを、大腸菌の一種であるDH5α細胞に導入させた。このように形質転換された転換体をアンピシリンおよびX−gal(5-bromo-4-chloro-3-indolyl-beta-D-galactopyranoside)含有のLB平板培地にプレートし、通常の青白コロニー選別法によって2つのコロニーを選別した。選別されたコロニーをアンピシリン含有の培養培地で16時間振とう培養した。ここで、プラスミド精製キット(Promega社)を用いてプラスミドを抽出した。
【0061】
前記プラスミドのクローニング有無をM13フォワードおよびM13リバースのプライマーセットを用いてPCRによって確認し、挿入断片のサイズが1kbp以上となるものを選んでM13フォワードおよびM13リバースプライマーセットを用いて塩基配列を分析した。こうして得た遺伝子塩基配列が配列番号1〜5に示されている。その解読塩基配列の類似性をNCBI blastxプログラムを用いて分析した結果が下記表2に示されている。
【0062】
表2に示すように、ΦCJ1は、配列番号1の解読塩基配列の前部は大腸菌バクテリオファージbacteriophage TLSのDcmと36%の類似性を示し、後部はBurkholderia cepacia phage BcepNazgulのDR0530−like primaseと31%の類似性を示した。配列番号1の解読塩基配列の場合には、逆方向にサルモネラファージDet7のテールスパイクプロテイン(tail spike protein)と34%の類似性を示した。このように解読塩基配列が公知のバクテリオファージのタンパク質と相同性が高くなかった。しかも、配列番号1〜5のDNA塩基配列をNCBI blastnプログラムを用いて分析した結果、塩基配列の相同性を示さなかった。よって、ΦCJ1は新規バクテリオファージと判断された。
【0063】
【表2】

【0064】
〔実施例7:ΦCJ1特異的プライマー塩基配列の製作〕
ΦCJ1を同定するために、ΦCJ1特異的プライマーを、配列番号1に基づいて配列番号6と7、配列番号10と11のプライマーセットを製作し、配列番号2に基づいて配列番号8と9、配列番号12と13のプライマーセットを製作した。また、配列番号3、配列番号4および配列番号5に基づいてそれぞれ配列番号14と15、配列番号16と17、および配列番号18と19のプライマーセットを製作してPCRを行った。0.1μgのバクテリオファージ全体ゲノムDNAと0.5pmolのプライマーをpre−mix(Bioneer社)に添加し、最終体積が20μLとなるように合わせた。これを変性(denaturation);94℃30秒、アニーリング(annealing);60℃で30秒、重合(polymeration);72℃で1分の条件で30サイクルPCRを行った。その結果、配列番号6と7、配列番号10と11をプライマーセットとして用いた場合、図4に示すようにそれぞれ約660bpと1.3kbp程度のPCR産物を得た。配列番号8と9、および配列番号12と13をプライマーセットとして用いた場合も、図4に示すようにそれぞれ670bpと1.8kbp程度のPCR産物を得た。また、配列番号14と15、配列番号16と17、および配列番号18と19をプライマーセットとして用いた場合、図示しなかったが、全て1kbp程度のPCR産物を収得した。
【0065】
〔実施例8:バクテリオファージの感染能力の確認〕
ΦCJ1の感染能力を確認するために、一段増殖(one-step growth)実験を行った。
【0066】
SG培養液(OD600=0.5)50mLを4000rpmで10分間遠心分離した後、新しいLB培地25mLに再浮遊させた。ここに分離したバクテリオファージをMOI=0.0005で接種した後、5分間静置させた。反応液を4000rpmで10分間遠心分離して菌体を分離した後、これをさらに新しいLB培地に再浮遊させた。その後、37℃で培養し、10分の間隔で2つずつ培養液を収集して12000rpmで3分間遠心分離して上澄み液のみを取った。処理した実験培養液を段階希釈し、ソフトアガオーバーレイ方法で各段階の希釈液を10μLずつ滴下させた後、37℃で18時間培養して溶菌有無によってタイターを測定した。ΦCJ1はSGとSPに同時感染するバクテリオファージなので、このような実験をSPに対しても同様に行った。SGとSPを宿主細胞として用いたとき、一段増殖結果をみれば、放出量(burst size)は10以上であることが分かった。詳細な結果は図5のとおりである。
【0067】
〔実施例9:バクテリオファージの効能確認〕
ΦCJ1の液体培地上におけるSGに対する効能を調べるために多様な条件でクリアリングアッセイ(clearing assay)実験を行った。250mLのフラスコに35mLのLB培地を入れた後、分離されたバクテリオファージ単一溶菌斑:SGの細胞数比率を1:1、1:100、1:10000の条件で接種した。接種の後、37℃で200rpmにて培養し、時間別にOD600の変化を測定した。その結果、ΦCJ1の溶菌によるSGとSPの成長抑制を観察することができた。実験結果は図6に示されている。
【0068】
〔実施例10:バクテリオファージのpHによる安定性の調査〕
ΦCJ1が鶏の胃内の低いpHで安定性を保有するかを確認するために、多様なpH範囲(pH2.1、2.5、3.0、3.5、4.0、5.5.6.4、6.9、7.4、8.2および9.0)で安定性調査実験を行った。多様なpH溶液(酢酸ナトリウム溶液(pH2.1、pH4.0、pH5.5およびpH6.4)、クエン酸ナトリウム溶液(pH2.5、pH3.0およびpH3.5)、リン酸ナトリウム溶液(pH6.9およびpH7.4)、およびトリス溶液(Tris−HCl(pH8.2およびpH9.0)をそれぞれ2Mに製作した。100μLのpH溶液と同量の1.0×1011pfu/mlタイターのバクテリオファージ溶液を混ぜて各pH溶液の濃度が1Mとなるようにした後、1時間常温で静置した。これらを段階希釈し、ソフトアガオーバーレイ方法を用いて各段階の希釈液を10μLずつ滴下した後、37℃で18時間培養して溶菌有無によってタイターを測定した。元来のΦCJ1のタイターと比較してpH変化によるタイター変化によって相対的安定性を確認したが、実験結果、pH2.5までは活性を失わず非常に安定的であることが分かった。しかし、pH2.1では活性を失った。その結果を図7に示した。
【0069】
〔実施例11:バクテリオファージの温熱度による安定性の調査〕
バクテリオファージの製品剤形のうち、飼料添加剤として用いる場合、バクテリオファージの剤形過程で発生する熱に対する安全性を確認するための実験を行った。1.0×1011pfu/mLタイターのΦCJ1の溶液200μLを37℃、45℃、53℃、60℃、70℃および80℃の温度条件下でそれぞれ0分、10分、30分、60分および120分静置させた。処理した実験培養液を段階希釈し、ソフトアガオーバーレイ方法を用いて各段階の希釈液を10μLずつ滴下した後、37℃で18時間培養して溶菌有無によってタイターを測定した。元来のΦCJ1のタイター、温度および露出時間の変化によるて相対的安定性を確認したが、70℃で2時間まで露出されても活性を多く失わないことが分かった。しかし、80℃以上では10分間露出の後に活性が急激に減少するが、一定の比率活性を維持する。その結果を図8に示した。
【0070】
〔実施例12:バクテリオファージの乾燥に対する安定性の調査〕
バクテリオファージの製品剤形のうち、飼料添加剤として用いる場合、バクテリオファージの剤形過程で発生する乾燥条件に対する安全性を確認した。耐熱性確認実験によって導出した結果に基づき、60℃120分の条件下における高温乾燥実験を行った。1.0×1011pfu/mLタイターのΦCJ1の溶液200μLをスピードバキューム(speed−Vacuum Concentrator5301、Eppendorf)を用いて乾燥させた。乾燥の後に得られたペレットを、初期溶液と同量のSM溶液を入れて4℃で1日間完全に再浮遊させた。処理した実験培養液を段階希釈して、ソフトアガオーバーレイ方法で各段階の希釈液を10μLずつ滴下させた後、37℃で18時間培養して溶菌有無によってタイターを測定した。乾燥の後、元来のタイターと相対的な安定性を比較したとき、活性が約10程度減少することが分かった。その結果を図9に示した。
【0071】
〔実施例13:バクテリオファージの野生分離株SG/SPに対する感染範囲の調査〕
ΦCJ1が、実験に使用されたSG(SG RKS4994)およびSP(SPRKS242)以外に、ソウル大学校獣医科大学鳥類疾病学室で分離した韓国の野生分離株SG、SPそれぞれ15株と5株に対して溶菌活性を持つか否かについて確認した。各菌株の振とう培養液(OD600=2)150μLを混ぜてソフトアガオーバーレイ方法を行い、1010pfu/mLタイターのΦCJ1の溶液を10μLずつ滴下した後、37℃で18時間培養して溶菌斑形成有無を観察した。野生分離株SGとSPに対して100%溶菌率を示すことを確認することができた。その結果は下記表3のとおりである。
【0072】
【表3】

【0073】
〔実施例14:バクテリオファージの毒性評価〕
家禽チフス予防用バクテリオファージとしてΦCJ1の産卵鶏における安全性、残留量および卵継代評価を実施して毒性評価を行った。産卵鶏実験はさらに3つのグループに分けて病原性試験、卵継代試験、並びに病変有無および盲腸糞の濃度調査を行った。
【0074】
病原性試験は、産卵中の褐色産卵鶏13羽をΦCJ1投与群に8羽、対照群に5羽割り当てて行った。投与群にはΦCJ1を飼料と混合して供給(飼料g当り10pfu以上)し、対照群にはファージを含有していない試料を供給し、産卵率および臨床症状有無をファージ投与時点から3週間観察した。その結果は表4に示すとおりであり、ΦCJ1投与群は約42%、対照群は約50%の産卵率を示した。また、ファージ投与後の臨床症状観察結果、およびΦCJ1投与後24日間の観察結果によれば、呼吸器および消化器の異常症状は観察されておらず、活動性においても対照群との差異を示さないため、ΦCJ1投与による問題はないことを確認した。
【0075】
卵継代試験は、ΦCJ1投与3日、6日、9日に集卵した卵10個内外の表面を70%エタノールで洗浄し破卵して卵黄と卵百を混合した後、混合液5mLを45mLのPBSで10−1、10−2、10−3まで希釈した。各希釈液25mLにSNUSG197 10cfuを添加して37℃で3時間培養した後、遠心分離で菌体分離した。500μLの上澄み液と100μLのSNUSG0197(10cfu/mL)を混合してtryptic soy agar plateにトップアガオーバーレイ方法で塗抹し、37℃で18時間培養した後、溶菌斑(plaque)の数から卵1mL当たりファージの数を計算した。表5に示すように、3日、6日、9日に集卵した卵17個におけるΦCJ1の有無を検査した結果、ΦCJ1が分離されなかった。
【0076】
産卵鶏における最後の実験として、ΦCJ1投与時の病変有無および盲腸糞内のΦCJ1濃度を調査した。ΦCJ1投与3週後に試験鶏を安楽死させ、剖検して肝臓、脾臓、腎臓および卵胞の肉眼的病所有無を観察し、肝臓試料を綿棒で無菌的に採取してMac Conkey寒天培地に塗抹した後、家禽チフス菌の有無も確認した。また、盲腸糞を採取し、投与したΦCJ1濃度を個体別に測定したが、これは、盲腸糞1gを9mLのPBSに浮遊させ、15000gで30分間遠心分離した後、上澄み液1mLをPBSで10−1〜10−4まで希釈させた後、500μLの希釈液と100μLのSGO197(10cfu/mL)を混合して10×tryptic soy寒天培地にトップアガオーバーレイ方法で塗抹した。これを37℃で18時間培養した後、形成された溶菌斑の数を数えて段階別希釈倍数を考慮して盲腸糞グラム当たりバクテリオファージ数を算出した。その結果、観察期間に特異的な臨床症状が観察されておらず、盲腸糞では盲腸糞g当たり約3.7×10pfuのΦCJ1が測定された。これにより、飼料として供給したファージが胃を通過して腸にまで到達していることが分かった。
【0077】
バクテリオファージの内部臓器分布調査は、10羽の11日齢SPF雛を5羽ずつ2グループに分け、投与群にはΦCJ1飼料g当りそれぞれ10pfuを添加した飼料を、対照群にはΦCJ1を添加していない飼料をそれぞれ3日間供給した後、犠牲させて肝臓、腎臓および盲腸糞を採取してΦCJ1の有無を確認した。採取した肝臓、腎臓および盲腸糞と同量のPBSを添加して乳化させた後、肝臓は1mLを採取し、腎臓と盲腸糞は全てを1.5mLのチューブに入れて15,000rpmで15分間遠心分離した。1mLの上澄み液をPBSで10−1〜10−4まで希釈した後、500μLの希釈液と100μLのSG0197(10cfu/mL)を混合して10×tryptic soy寒天培地にトップアガオーバーレイ方法で塗抹した。これを37℃で18時間培養した後、形成された溶菌斑の数を数えて段階別希釈倍数を考慮し、盲腸糞g当たりバクテリオファージ数を算出した。その結果は、表6に示すように、肝臓および腎臓ではΦCJ1が観察されておらず、盲腸糞でのみ観察された。
【0078】
【表4】

【0079】
【表5】

【0080】
【表6】

【0081】
〔実施例15:バクテリオファージの効能評価〕
ΦCJ1のSGに対する予防および治療程度の可能性を確認するために、鶏で効能評価実験を行った。
【0082】
20羽の1日齢褐色産卵鶏を10羽ずつ10個の試験群(ΦCJ1投与群+無投与攻撃群1つ)に割り当て、試験鶏に、ΦCJ1をg当り10pfuで混合した飼料およびmL当り10pfuで混合した飲み水を1週間供給し、1週目に羽当たりSG0197 10cfuと各ファージ10pfu(MOI=10)を500μLのTSBに混合した後、氷上に放置してから1時間以内に口腔を介して接種した。2週間斃死率を観察し、生存した試験鶏を剖検して病変有無を確認し、細菌を分離した。その結果は表7のとおりである。ΦCJ1投与群は無投与群に比べて有意的に高い(P<0.05)防御率を示すことが分かった。
【0083】
【表7】

【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明のバクテリオファージは、家禽チフス菌(Salmonella gallinarum)およびひな白痢菌(Salmonella pullorum)に対して特異的死滅能を有するため、益菌を死滅させず、耐酸性、耐熱性および耐乾性にも優れるので、家禽チフス菌およびひな白痢菌感染性疾病、特に家禽チフスおよびひな白痢の予防または治療目的の治療剤、抗生剤、家畜用飼料などに広範囲に利用できる。
【受託番号】
【0085】
KCCM10969P

【特許請求の範囲】
【請求項1】
家禽チフス菌(Salmonella gallinarum)およびひな白痢菌(Salmonella pullorum)に特異的死滅能を有し、形態学上、正二十面体の頭(isometric capside)および無収縮性の尾(long non-contractile tail)を有する形態型(morphotype)B1、シフォビラーダ科(siphoviridae)に属し、全体ゲノムサイズが61kbpであり、38kDaおよび49kDaサイズのタンパク質を主要構造タンパク質として有することを特徴とする、バクテリオファージ。
【請求項2】
前記バクテリオファージは、形態学的に図1に示された形態型を有することを特徴とする、請求項1に記載のバクテリオファージ。
【請求項3】
前記バクテリオファージは、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4および配列番号5よりなる群から選ばれた一つまたはそれ以上の核酸分子を全体ゲノムの一部として含むことを特徴とする、請求項1に記載のバクテリオファージ。
【請求項4】
前記バクテリオファージは、配列番号6と7、配列番号8と9、配列番号10と11、配列番号12と13、配列番号14と15、配列番号16と17、および配列番号18と19よりなる群から選ばれた一つまたはそれ以上のプライマーセットでPCRを行った場合、それぞれ約660bp、670bp、1.3kbp、1.8kbp、1kbp、1kbp、および1kbpのPCR産出物を有することを特徴とする、請求項1に記載のバクテリオファージ。
【請求項5】
前記バクテリオファージは、pH2.5〜pH9.0の範囲で耐酸性を有し、37℃〜70℃の範囲で耐熱性を有し、60℃で120分間乾燥させたときに耐乾性を有することを特徴とする、請求項1に記載のバクテリオファージ。
【請求項6】
前記バクテリオファージは寄託番号第KCCM10969P号であることを特徴とする、請求項1に記載のバクテリオファージ。
【請求項7】
請求項1のバクテリオファージを有効成分として含む家禽チフス菌(Salmonella gallinarum)またはひな白痢菌(Salmonella pullorum)感染性疾病の予防または治療用組成物。
【請求項8】
前記家禽チフス菌感染性疾病は家禽チフスであり、前記ひな白痢菌感染性疾病はひな白痢であることを特徴とする、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
抗生剤として使用されることを特徴とする、請求項7に記載の予防または治療用組成物。
【請求項10】
請求項1〜6のいずれか1項のバクテリオファージを有効成分として含む家畜用飼料または飲用水。
【請求項11】
請求項1〜6のいずれか1項のバクテリオファージを有効成分として含む消毒剤または洗浄剤。
【請求項12】
請求項1のバクテリオファージまたは請求項7の組成物を用いて、ヒトを除いた動物の家禽チフス菌またはひな白痢菌感染性疾病を治療する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5(A)】
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【図5(B)】
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【図6(A)】
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【図6(B)】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2011−509653(P2011−509653A)
【公表日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−541408(P2010−541408)
【出願日】平成21年8月17日(2009.8.17)
【国際出願番号】PCT/KR2009/004582
【国際公開番号】WO2010/064772
【国際公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【出願人】(508064724)シージェイ チェイルジェダン コーポレイション (32)
【Fターム(参考)】