説明

新規プロテアーゼ

【課題】従来にない特徴を有する新規なプロテアーゼを提供する。
【解決手段】下記の特性:(a)分子量が約27,000又は26,000であり、(b)N-サクシニル-Ala-Ala-Pro-Phe-p-ニトロアニリドを基質として分解してp-ニトロアニリンを生成し、(c)N末端のアミノ酸配列がVal-Ile-Ala-Gly-Gly-X-Ala-Ala-Ile-Ile-Gly又はIle-Ile-Gly-Gly-Ser-Asn-Ala-Ser-Pro-Gly-Gluであるプロテアーゼ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は新規なプロテアーゼに関する。より詳しくは、ミミズ由来の成分から分離された新規プロテアーゼであって、ウイルス増殖阻害作用を有するプロテアーゼに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ミミズからいくつかの生理活性タンパク質が単離され、生理学的及び生化学的研究が行われている。例えば、フェチジン(分子量40,000:溶血活性、抗細菌活性、血液凝集活性)、アイゼニアポア(分子量38,000:溶血活性)、CCF-1(細胞溶解因子1、42,000:β-1,3グルカンとリポ多糖に結合)、ライセニン(分子量41,000:スフィンゴミエリンに特異的に結合)などのほか、ルンブロフェブリン(解熱作用)及びルンブロキナーゼ(血栓溶解作用)などが知られている(非特許文献1及び2)。
【0003】
最近、本発明者らは、ミミズの破砕物の懸濁液の上清からゲル濾過により分離された抗ウイルス感染作用及び増殖阻害作用を有する医薬を報告した(国際公開WO2006/93164)。この刊行物には、ミミズから2種類の抗ウイルス活性を有するタンパク質のフラクション〔フラクションNo.54〜58(フラクションI)、分子量40,000;及びフラクションNo.59〜64(フラクションII)、分子量20,000〕が得られたことが開示されており、後者のフラクションについてN-末端アミノ酸はSVGGSNAXPX-であることが明らかにされている。これらのフラクションはウイルス被覆タンパクに対する分解活性を有しており、特に後者のフラクションについては強いウイルス感染阻害活性が認められたことが開示されている。
【特許文献1】国際公開WO2006/93164
【非特許文献1】Biotechnology Letters, 25, pp.1105-1109, 2003
【非特許文献2】Journal of Biochemistry and Molecular Biology, 37, pp.199-205, 2004
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、ウイルス増殖阻害作用を有する新規なプロテアーゼを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記の国際公開(WO2006/93164)に記載された手法により、シマミミズの破砕物の懸濁液の上清からさらに新規タンパク質を分離すべく鋭意研究を行った。その結果、上記国際公開において報告したフラクションII(最大活性フラクションはNo.60)に若干遅れて溶出されるフラクションNo.63に上記プロテアーゼとは異なる新規なプロテアーゼが含まれることを見出した。また、そのプロテアーゼを単離及び精製し、該プロテアーゼがキモトリプシン様の作用を有しており、特に低温においても酵素活性を維持し、耐熱性も備えた有用なプロテアーゼであることを見出した。本発明は上記の知見を基にして完成された。
【0006】
すなわち、本発明により、下記の特性:
(a)分子量が約27,000であり、
(b)N-サクシニル-Ala-Ala-Pro-Phe-p-ニトロアニリドを基質として分解してp-ニトロアニリンを生成し、その作用はキモスタチンにより阻害され、
(c)N-サクシニル-Ala-Ala-Pro-Leu-p-ニトロアニリドに対しては実質的に分解作用を有せず、
(d)至適pHが9.5であり、pH5.0〜10.0の範囲でpH9.5における活性に対して約80%以上の活性が維持され、
(e)至適温度が40℃であり、60℃において40℃における活性に対して約80%の活性が維持され、
(f)4℃において40℃における活性の約60%が保持され、
(g)N末端のアミノ酸配列がVal-Ile-Ala-Gly-Gly-X-Ala-Ala-Ile-Ile-Glyである
を有するプロテアーゼAが提供される。
【0007】
また、本発明により、下記の特性:
(a)分子量が約26,000であり、
(b)N-サクシニル-Ala-Ala-Pro-Phe-p-ニトロアニリドを基質として分解してp-ニトロアニリンを生成し、その作用はフェニルメチルスフホニルフルオリドにより実質的に完全に阻害され、
(c)N-グルタリル-L-Phe-p-ニトロアニリド及びN-α-ベンゾイル-L-Arg-p-ニトロアニリドに対しては実質的に分解作用を有せず、
(d)至適pHが9.5であり、pH6.0〜11.5の範囲でpH9.5における活性に対して約80%以上の活性が維持され、
(e)至適温度が60℃であり、60℃以下で活性が維持され、
(f)N末端のアミノ酸配列がIle-Ile-Gly-Gly-Ser-Asn-Ala-Ser-Pro-Gly-Gluである
を有するプロテアーゼBが提供される。
【0008】
別の観点からは、上記プロテアーゼA又はBを有効成分として含む抗ウイルス剤が提供される。この抗ウイルス剤はヒトを含む哺乳類動物におけるウイルス感染症の予防及び/又は治療のための医薬、並びに植物におけるウイルス感染症の予防及び/又は治療のための農薬として有用である。上記プロテアーゼA又はBは特に低温環境下において活性を維持する特性を有していることから、上記の抗ウイルス剤は低温環境下で用いるための農薬として特に有用である。
【発明の効果】
【0009】
本発明により提供される新規プロテアーゼA又はBは、耐熱性にも優れており、特に低温において活性を失わないという従来公知のプロテアーゼには認められなかった優れた性質を有している。また、優れた抗ウイルス作用を有するという特徴もある。従って、本発明のプロテアーゼA又はBは、低温環境や高温環境において発生した植物ウイルス感染症に対する予防及び/又は治療などに極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明のプロテアーゼA又はBは、例えば、シマミミズの破砕物懸濁液から分離・精製することができる。シマミミズの破砕物懸濁液からタンパク質画分を調製する方法についてはWO2006/93164に記載された方法を参照することができる。例えば、シマミミズ(50g)を凍結乾燥し、細かく破砕し(ミミズは凍結乾燥前は1日絶食);この破砕物に50mMトリス塩酸(Tris-HCl)pH7.0の緩衝液を加えよく懸濁させ、次いで遠心分離(分離条件;回転数・10,000rpm、時間・20min、4℃)を行って上清を回収し、この上清に80%飽和になるように硫酸アンモニウムを加え、塩析させるために一夜低温室に放置し、さらに遠心分離(分離条件;10,000rpm、20min、4℃)を行い、沈殿物を回収して20mMトリス塩酸(Tris-HCl)pH7.0の緩衝液に溶解することができる。原料として用いるミミズは特に限定されず、本発明のプロテアーゼを有するものであれば、シマミミズのほかツリミミズ科やフトミミズ科に属するミミズなどを用いることもできる。
【0011】
このタンパク質溶液を、DEAE-Toyopearl650Mによる陰イオン交換クロマトグラフィー、Sephacryl S-200 ゲルろ過クロマトグラフィー、及びResource Qによるイオンクロマトグラフィーを行うことにより、本発明のプロテアーゼA又はBを含む精製された活性画分を回収することができる。本明細書の実施例に本発明のプロテアーゼの分離及び精製方法の詳細を示したので、当業者は本発明のプロテアーゼを容易に入手することができる。なお、本発明のプロテアーゼはSDS-PAGEにより単一のタンパク質と認められる程度まで精製することができる。本発明のプロテアーゼA又はBには、本明細書の実施例に具体的に記載したシマミミズより分離された天然由来のプロテアーゼのほか、該シマミミズ由来のプロテアーゼのアミノ酸配列において1又は数個のアミノ酸が置換、挿入、及び/又は欠失しており、かつ上記(a)ないし(g)の特徴を有するプロテアーゼが包含される。このようなプロテアーゼは一般的には遺伝子工学的な手法により入手可能であり、あるいはシマミミズ以外の他の動物から分離・精製することができる。
【0012】
本発明のプロテアーゼは、分子量が約27,000であり、WO2006/93164に記載されたフラクションIに含まれる活性成分(分子量40,000)、及びフラクションIIに含まれる活性成分(分子量20,000)とは異なる分子量を有する。上記のように精製されたプロテアーゼのN末端のアミノ酸配列を決定したところVal-Ile-Ala-Gly-Gly-X-Ala-Ala-Ile-Ile-Gly(VIAGGXAAIIG)であり、WO2006/93164に記載された部分精製タンパク質(N末端のアミノ酸配列がSVGGSNAXPX)とは異なることが確認された。以上の結果から、本発明のプロテアーゼはWO2006/93164に記載された活性物質とは異なるタンパク質であると結論された。
【0013】
本発明のプロテアーゼは、N-サクシニル-Ala-Ala-Pro-Phe-p-ニトロアニリドを基質として分解してp-ニトロアニリンを生成するが、その作用はキモスタチンにより阻害される。また、本発明のプロテアーゼはN-グルタリル-Phe-p-ニトロアニリドも基質として分解してp-ニトロアニリンを生成するが、基質としての反応性は、N-グルタリル-Phe-p-ニトロアニリドよりもN-サクシニル-Ala-Ala-Pro-Phe-p-ニトロアニリドのほうが高い。また、本発明のプロテアーゼは、N-サクシニル-Ala-Ala-Pro-Leu-p-ニトロアニリドに対しては実質的に分解作用を有しない。
【0014】
本発明のプロテアーゼがN-サクシニル-Ala-Ala-Pro-Phe-p-ニトロアニリドを基質として分解してp-ニトロアニリンを生成する場合の至適pHは約9.5であり、その作用はpH5.0〜10.0の範囲でpH9.5の活性に対して約80%以上に維持される。pH3.0及びpH11.0における活性はpH9.5における活性に対してそれぞれ約40%程度である。上記作用に関して、本発明のプロテアーゼの至適温度は約40℃であり、60℃において40℃における活性の約80%程度が保持され、かつ4℃においては40℃における活性の約60%程度が保持される。40℃〜50℃の間でほぼ最高の活性が維持される。また、熱安定性に関しては、50℃まではほとんど活性を失わず、60℃でも40℃における活性の80%以上が残存する。70℃では20%以上の活性が残存し、80℃ではほとんど失活する。
【0015】
本発明のプロテアーゼBは、分子量が約26,000であり、上記のプロテアーゼBとは異なる分子量を有する。精製されたプロテアーゼBのN末端のアミノ酸配列を決定したところIle-Ile-Gly-Gly-Ser-Asn-Ala-Ser-Pro-Gly-Glu(IIGGSNASPGE)であり、WO2006/93164に記載された部分精製タンパク質(N末端のアミノ酸配列がSVGGSNAXPX)及び上記のプロテアーゼAとは異なることが確認された。一方、このN末端のアミノ酸配列はE. fetida由来のフィブリン分解酵素(EFE-d及びEFE-e:Biotechnology Letters, 25, pp.1105-1109, 2003)とN-末端から11残基で100%の相同性を有していた。以上の結果から、本発明のプロテアーゼBはWO2006/93164に記載された活性物質及び上記のプロテアーゼAとは異なるタンパク質であると結論された。
【0016】
本発明のプロテアーゼBは、N-サクシニル-Ala-Ala-Pro-Phe-p-ニトロアニリドを基質として分解してp-ニトロアニリンを生成するが、その作用はフェニルメチルスフホニルフルオリドにより実質的に完全に阻害される。また、本発明のプロテアーゼBはN-グルタリル-L-Phe-p-ニトロアニリド及びN-α-ベンゾイル-L-Arg-p-ニトロアニリドに対しては実質的に分解作用を有しない。本発明のプロテアーゼBの至適pHは9.5であり、pH6.0〜11.5の範囲でpH9.5における活性に対して約80%以上の活性が維持され、至適温度は60℃である。また、60℃以下でその活性が実質的に維持される。
【0017】
本発明のプロテアーゼA又はBの抗ウイルス作用は、例えば、WO2006/93164に記載された方法に従って、例えばトマトモザイクウイルス(ToMV)、タバコモザイクウイルス(TMV)、キュウリモザイクウイルス(CMV)などの植物ウイルス、又はヒトインフルエンザA型ウイルスなどの哺乳類動物感染性ウイルスを用いて容易に検定することができる。
【0018】
本発明のプロテアーゼA又はBの用途は特に限定されないが、抗ウイルス作用を有していることから、例えば植物のほか人畜や魚介類を含めた広い生物種においてウイルスの感染及び増殖を阻害する目的で使用することができ、抗ウイルス剤として医薬又は農薬の形態で用いることができる。
【0019】
医薬として用いる場合には、1種又は2種以上の製剤用添加物を用いて経口又は非経口投与に適する医薬組成物の形態として調製することができ、例えば、錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、シロップ剤、液剤、懸濁剤、乳剤、顆粒剤、又はカプセル剤などの経口投与に適する医薬組成物、あるいは注射剤、点滴剤、坐剤などの非経口投与に適する医薬組成物として調製することができる。用いられる製剤用添加物としては、賦形剤、崩壊補助剤、安定化剤、防腐剤などを挙げることができるが、これらに限定されることはない。医薬の投与量は特に限定されず、患者の体重、年齢、症状、ウイルス疾患の種類などに応じて適宜決定することができるが、例えば、一日あたり0.001 mg〜1,000 mg程度の範囲で選択することができる。
【0020】
農薬として用いる場合には、1種又は2種以上の補助剤を用いて乳剤、粉剤、水和剤、液剤、粒剤、懸濁製剤などの種々の形態の農薬用組成物を製剤することができる。これらの農薬用組成物はそのまま使用するか、又は水などの希釈剤で所定濃度に希釈して使用することができる。用いられる補助剤としては、担体、乳化剤、懸濁剤、分散剤、展着剤、浸透剤、湿潤剤、増粘剤、安定剤などが挙げられるが、これらに限定されることはない。農薬の使用濃度又は使用量は特に限定されず、対象作物、使用方法、製剤形態、対象ウイルスなどによって異なるが、茎葉処理の場合には有効成分濃度として0.1〜10,000 ppm程度であり、土壌処理の場合には10〜100,000 g/ha程度であり、適宜増減することができる。
【実施例】
【0021】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は下記の実施例により限定されることはない。
例1:プロテアーゼA
(a)硫安画分の調製
1日絶食させ凍結乾燥したシマミミズ(E. fetida) 15 gを破砕し、50 mM Tris-HCl 緩衝液(pH 7.0)で懸濁した。懸濁液を遠心分離(27,720 g,20 min,4℃)し、上清をE. fetida粗抽出物として得た。E. fetida粗抽出物に飽和80%になるよう硫安を添加し、よく攪拌した後、一晩冷蔵庫で静置した。遠心分離(27,720 g, 20 min, 4℃)を行い、上清と沈殿に分画し、沈殿画分に少量の50 mM Tris-HCl buffer, pH 7.0を加え、沈殿物を完全に溶解した。
(b)DEAE-TOYOPEARL 650Mによる陰イオン交換クロマトグラフィー
担体を初期バッファー 1 リットルで洗浄、溶出バッファー600 mlで活性化し、スタートバッファー 1リットルで平衡化した。試料5 mlを負荷し、スタートバッファー600 mlで洗浄後、分速1.5 mlで初期バッファー300 mlと溶出バッファー300 mlとを用いて塩のグラジエントによりタンパク質の溶出を行った。溶出した試料は、試験管1本当たり7 mlとして100画分に分画し、各画分のA280における吸光度を測定した。
担体:DEAE-TOYOPEARL 650M(TOSOH CORPORATION)
カラム:直径2.5 cm×25 cm
初期バッファー:20 mM Tris-HCl buffer, pH 7.0
溶出バッファー:1 M NaClを含む20 mM Tris-HCl buffer, pH 7.0
試料:E. fetida粗抽出物の80%飽和飽和硫安塩析後の沈殿物を少量のスタートバッファーに溶解し、20 mM Tris-HCl buffer, pH 7.0で一晩透析した。
【0022】
(b)Sephacyl S-200によるゲルろ過クロマトグラフィー
バッファー 2 リットルで平衡化したカラムに試料を注入し、分速0.5 mlでバッファーを流して溶出を行った。溶出した試料は、試験管1本当たり5 mlとして100画分に分画し、各画分のA280における吸光度を測定した。
担体:Sephacryl(登録商標) S-200 High Resolution(GEヘルスケアバイオサイエンス)
カラム:直径2.5 cm×100 cm
バッファー:20 mM Tris-HCl buffer+0.2 M NaCl, pH 7.0
サンプル:DEAE-TOYOPEARL 650Mによる画分のうち、CMV pepo阻害活性のあったfractionI-IIIを80%飽和硫安塩析し、少量のバッファーに溶解した。
【0023】
CMV pepo阻害作用検定は以下の方法により行なった。検定ウイルスとしてキュウリモザイクウイルス(Cucumber mosaic virus:CMV)pepo系統を用いた。Bromoviridae科 Cucumovirus属に属し、直径28〜30nmの粒子形態をとる。CMVは40科191種以上の植物に感染し、植物ウイルスの中でもっとも広い宿主範囲を持つウイルスの一つである(Palukaitis and Arenal, 2003)。CMV pepo系統は1973年に尾崎らが和歌山県で採種した、モザイク症状を示すペポカボチャより分離したサテライトRNAを含まない病原性の強い分離株である(関西病中研報, 15, pp.135-136, 1973)。この株はラグナリア系統群のサブグループIに属する。
【0024】
検定植物としてはジュウロクササゲ(Vigna unguiculate cv. Kurodane-sanjaku)を用いた。バーミキュライトを満たした鉢にササゲの種子を播種し温室内に置き、発芽した苗をセルトレイに移植し育苗した。実験には、子葉が最大に展開したものを直径9 cmのプラスチックポットに移植し用いた。
検定方法は、都丸の方法によった(都丸, 農薬実験法 2 殺菌剤編、深見順一ほか編, ソフトサイエンス社, pp.83-115, 1981)。検定には、CMV pepoと局部病斑宿主であるササゲを用いた。試料は、ウイルス液と等量になるよう混合した。対照のウイルス液も試料の溶媒のみで同様に処理した。最大に展開したササゲの子葉に、研磨剤としてカーボランダムを均一にふりかけ、子葉片方に試料とウイルス液の混合液を、他方には試料の溶媒とウイルス液の混合液を塗布した。接種より2日後、試料葉及び対照葉に形成された壊死斑の数を測定し、CMV pepo感染阻害性を検定した。感染阻害率を次のように算出した。感染阻害率(%)=(1−処理区病斑数/対照区病斑数)×100
【0025】
(c)Resource Qによるイオン交換クロマトグラフィー
カラムをスタートバッファー30 mlで洗浄後、溶出バッファー30 mlで活性化し、スタートバッファー60 mlで平衡化した。試料を負荷し、スタートバッファー60 mlで洗浄した後、分速2.5 mlで1 M NaClの直線勾配がかかるように、初期バッファー 15 mlと溶出バッファー 15 mlを流した。溶出した試料は、試験管1本当たり0.3 mlとして60画分に分画し、各画分のA280における吸光度を測定した。
カラム:Resouce Q, 6 ml (GEヘルスケアバイオサイエンス)
初期バッファー:20 mM Tris-HCl buffer, pH 7.0
溶出バッファー:1 M NaClを含む20 mM Tris-HCl buffer, pH 7.0
サンプル:Sephaceyl S-200 fraction による画分のうち、CMV pepo阻害活性を示したfractionIIIを、20 mM Tris-HCl buffer, pH 7.0で一晩透析した。
【0026】
(d)阻害活性画分のタンパク質定量
タンパク質定量をBradford法(Bradford, Anal. Biochem., 72, pp.248-254, 1976)により行った。スタンダードとして牛血清アルブミン(和光純薬工業株式会社)を用いた。結果を表1に示す。
【表1】

(e)SDS-PAGE
Resource Qにより得られたフラクションII(図1C)をドデシル硫酸ナトリウム(SDS)-ポリアクリルアミドゲル電気泳動法により分析した。結果を図2に示す。電気泳動的に単一のバンドを得られ、分子量は約27,000であると推定された。
分子量マーカーには、低分子量マーカーである以下のものを使用した。
ホスホリラーゼb(分子量:94,000)
牛血清アルブミン(分子量:67,000)
卵白アルブミン(分子量:43,000)
カルボニックアンヒドラーゼ(分子量:30,000)
大豆トリプシンインヒビター(分子量:20,100)
α-ラクトアルブミン(分子量:14,400)
【0027】
(f)各画分のCMV pepo感染阻害作用検定
各クロマトグラフィーによる分画後、A280において吸収ピークが見られた画分において、CMV pepo感染阻害作用検定を行った。検定の際の各画分は、最終濃度0.05 mg/mlとなるよう調製した。結果を表2に示す。
【表2】

【0028】
(g)N末端アミノ酸配列解析
精製したタンパク質をSDS-PAGEに供し、PVDF膜に転写した。膜を水洗し、0.25% Coomassie Brilliant Blue R-250, 5%メタノール溶液で染色し、その後、5分間50% methanol溶液で洗浄した。目的のタンパク質を含むバンドを切り出し、アミノ酸シークエンサーにてアミノ末端からのアミノ酸配列を決定した(Applied Biosystems Model 491 Prociseシリーズ)。その結果、このタンパク質のN末端からのアミノ酸配列はVal-Ile-Ala-Gly-Gly-X-Ala-Ala-Ile-Ile-Glyであった。その結果を基にして、National Center for Biotechnology Information(NCBI)のBLAST(http://www.ncbi.nih.gov)を用いて既にアミノ酸配列が報告されているタンパク質との相同性の比較を行ったところ、Lumbricus rubellus由来のフィブリン分解酵素と相同性が認められた(表3)。
【0029】
【表3】

【0030】
(h)基質特異性
2.5 mMの合成基質溶液(各合成基質を、4% DMSOを含む0.1 M グリシン-NaOH 緩衝液, pH 9.5に溶解したもの)0.06 mlを、37℃で5分間保温した後、上記精製タンパク質(以下、プロテアーゼAと呼ぶ)を0.06 ml加え、37℃、30分間反応を行い、分光光度計を用いて405 nmにおける吸光度を測定して、遊離したp-ニトロアニリン量を定量した。酵素1単位(U)は、上記の反応条件において1分間に1 μmolのp-ニトロアニリンを遊離させるのに必要な酵素量とした。結果を表4に示す。この結果、本発明のプロテアーゼAはN-サクシニル-Ala-Ala-Pro-Phe p-ニトロアニリド及びN-グルタリル-L-Phe-p-ニトロアニリドに対して高い分解活性を有していたが、N-サクシニル-Ala-Ala-Pro-Leu-p-ニトロアニリドに対しては全く分解活性を示さなかった。
【0031】
【表4】

(i)阻害剤による影響
本発明のプロテアーゼA 0.06 mlと各種阻害剤を最終濃度が以下に記す濃度になるように0.06 ml加えて混合し、37℃、30分間保温した後、基質として5 mM N-サクシニル-Ala-Ala-Pro-Phe-p-ニトロアニリド溶液(4% DMSOを含む0.1 M グリシン-NaOH 緩衝液, pH9.5に溶解したもの)を0.06 ml加え、37℃、30分間反応を行った後に酵素活性を測定した。結果を表5に示す。下記に使用した阻害剤と各濃度を示した。この結果、本発明のプロテアーゼA の活性はキモスタチンにより強く阻害されたが、それ以外の阻害剤ではほとんど活性の低下は認められなかった。
【0032】
【表5】

0.01mg/ml Soy bean trypsin inhibitor(SBTI)
1 mM ε-Aminocapronic acid(e-ACA)
1 mM Phenylmethylsulfonyl fluoride(PMSF)
1 mM 2,2'-Bipyridyl
0.01 mg/ml Chymostatin
1 mM Phenantorolin
1 mM EDTA
0.1 mM E-64
【0033】
(j)最適pHおよびpH安定性
基質として2.5 mM N-サクシニル-Ala-Ala-Pro-Phe-p-ニトロアニリド溶液と4% DMSOとを含むpH 2.5〜11.5の種々の緩衝液0.06 mlを37℃で5分間保温した後、本発明のプロテアーゼAを0.06 ml加え、37℃で30分間反応を行った。反応後、酵素活性を測定した。使用した各種緩衝液及びそのpH範囲は次のとおりである。
pH 2.5〜3.5 0.1 M グリシン-HCl 緩衝液
pH 3.5〜6.0 0.1 M 酢酸緩衝液
pH 6.0〜8.0 0.1 M リン酸緩衝液
pH 8.0〜9.0 0.1 M Tris-HCl 緩衝液
pH 9.0〜11.5 0.1 M グリシン-NaOH 緩衝液
【0034】
pH 3.0〜11.5の種々の緩衝液0.03 mlと本発明のプロテアーゼA 0.03 mlとを混合し、37℃で60分間反応させた後、2.5 mMのN-サクシニル-Ala-Ala-Pro-Phe-p-ニトロアニリド溶液(4% DMSOを含む1 M グリシン-NaOH 緩衝液, pH 9.5に溶解したもの)を加え、37℃で30分反応を行い、酵素活性に及ぼすpHの影響を調べた。使用した各種緩衝液及びそのpH範囲は次のとおりである。
pH 3.0〜6.0 0.1 M酢酸緩衝液
pH 6.0〜8.0 0.1 M リン酸緩衝液
pH 8.0〜9.0 0.1 M Tris-HCl 緩衝液
pH 9.0〜11.5 0.1 M グリシン-NaOH 緩衝液
【0035】
(k)最適温度および熱安定性
基質として2.5 mM N-サクシニル-Ala-Ala-Pro-Phe-p-ニトロアニリド溶液(4% DMSOを含む0.1 M グリシン-NaOH 緩衝液, pH 9.5に溶解したもの)0.06 mlを、0〜80℃で5分間保温した後、本発明のプロテアーゼA液を0.06 ml加え、各種温度で30分間反応を行った後に酵素活性を測定した。また、本発明のプロテアーゼA 0.06 mlを20〜80℃の各種温度で60分間反応させた後、基質として2.5 mM N-サクシニル-Ala-Ala-Pro-Phe-p-ニトロアニリド溶液(4% DMSOを含む0.1 M グリシン-NaOH 緩衝液, pH 9.5に溶解したもの)0.06 mlを加え、37℃、30分間反応を行った後、酵素活性を測定した。本発明のプロテアーゼAの最適温度は40℃であり、pH 9.5で60℃までの加熱による活性の低下は認められなかった。
【0036】
(l)プロテアーゼAの活性測定
基質として2.5 mM N-サクシニル-Ala-Ala-Pro-Phe-p-ニトロアニリド溶液(4% DMSOを含む0.1 M グリシン-NaOH 緩衝液, pH 9.5に溶解したもの)0.06 mlを、37℃、5分間保温した後、各分画液を0.06 ml加え、各種温度で30分間反応を行った後、酵素活性を測定した。本発明のプロテアーゼAの収量は0.4 %であり、乾燥重量 15 g(全タンパク質量:2300 mg)のE. fetidaから、最終0.5 mgの目的タンパク質を回収した。
【0037】
【表6】

【0038】
(m)植物ウイルス感染阻害作用
本発明のプロテアーゼAのCMV pepoに対する有効阻止濃度を、ササゲにおける混合接種法により調べた。CMV pepo 10 μg/mlに対し本発明のプロテアーゼAを1 〜100 μg/mlに調製した。本発明のプロテアーゼAが10 μg/mlのCMV pepoに対し80%以上の感染阻害率を示す濃度は30 μg/ml以上であった(図4)。
【0039】
種々のプロテアーゼのCMV pepo感染抑制作用をササゲを用いた混合接種法により調べて、本発明のプロテアーゼAの作用と比較した。各合成酵素の検定濃度は、CMV pepo 10 μg/mlに対し、0.1 mg/mlで行った。結果を表7に示す(表中、Enzymeは本発明のプロテアーゼAを示す)。
【表7】

【0040】
(n)ToMV阻害作用の検定
本発明のプロテアーゼAのTMVに対する影響をタバコを用いた半葉法により調べた。検定ウイルスとしてトマトモザイクウイルス(Tomato mosaic virus :ToMV)を用いた。このウイルスは、従前はTobacco mosaic virus(TMV)のトマト系統と呼ばれていたウイルスであり、TMVとほぼ同様の性質をもつ。検定植物としてはタバコ(Nicotiana tabacum cv. Xanthi nc)にN遺伝子を導入したものを用いた。このタバコはTMV(ToMV含む)の感染に対して過敏感反応を示し、感染部位に局部壊死斑を示す。
【0041】
試料区用の試料として、最終濃度が本発明のプロテアーゼA 0.1 mg/ml、ToMV 50 μg/mlとなるように本発明のプロテアーゼA溶液とToMV液とを等量混合した。一方、対照区には溶媒(20 mM Tri-HC buffer, pH 7.0)とToMV液(最終濃度50 μg/ml)を等量混合したものを用いた。これらの試料をボルテックスでよく懸濁した後、4℃で30分間静置した。5〜6葉期に生長したN. tabacum cv. Xanthi ncの最大展開葉にカーボランダムをふりかけ、最大展開葉の半葉を処理区、他方を対照区としてそれぞれに本酵素とToMVとの混合液、溶媒とToMVとの混合液を接種した。2〜3日後に形成された壊死斑数を計測し、感染阻害率を以下のとおりに算出した。感染阻害率(%)=(1−処理区病斑数/対照区病斑数)×100 本発明のプロテアーゼAのToMVに対する感染阻害率は85%であった。
例2:プロテアーゼB
(a)硫安画分の調製
1日絶食させ凍結乾燥したシマミミズ(E. fetida) 15 gを破砕し、50 mM Tris-HCl 緩衝液(pH 7.0)で懸濁した。懸濁液を遠心分離(27,720 g,20 min,4℃)し、上清をE. fetida粗抽出物として得た。E. fetida粗抽出物に飽和80%になるよう硫安を添加し、よく攪拌した後、一晩冷蔵庫で静置した。遠心分離(27,720 g, 20 min, 4℃)を行い、上清と沈殿に分画し、沈殿画分に少量の50 mM Tris-HCl buffer, pH 7.0を加え、沈殿物を完全に溶解した。
(b)DEAE-TOYOPEARL 650Mによる陰イオン交換クロマトグラフィー
担体を初期バッファー 1 リットルで洗浄、溶出バッファー600 mlで活性化し、スタートバッファー 1リットルで平衡化した。試料5 mlを負荷し、スタートバッファー600 mlで洗浄後、分速1.5 mlで初期バッファー300 mlと溶出バッファー300 mlとを用いて塩のグラジエントによりタンパク質の溶出を行った。溶出した試料は、試験管1本当たり7 mlとして100画分に分画し、各画分のA280における吸光度を測定した。
担体:DEAE-TOYOPEARL 650M(TOSOH CORPORATION)
カラム:直径2.5 cm×25 cm
初期バッファー:20 mM Tris-HCl buffer, pH 7.0
溶出バッファー:1 M NaClを含む20 mM Tris-HCl buffer, pH 7.0
試料:E. fetida粗抽出物の80%飽和飽和硫安塩析後の沈殿物を少量のスタートバッファーに溶解し、20 mM Tris-HCl buffer, pH 7.0で一晩透析した。
【0042】
(b)Sephacyl S-200によるゲルろ過クロマトグラフィー
蒸留水1リットルで洗浄後、溶出バッファー 1 リットルで平衡化したカラムに試料25mlを負荷し、分速0.5 mlでバッファーを流して溶出を行った。溶出した試料は、試験管1本当たり5 mlとして100画分に分画し、各画分のA280における吸光度を測定した。A280のピーク部分とその周辺における感染阻害率を混合接種法により測定し、効果のあった画分についてプロテアーゼ活性を測定した。
担体:Sephacryl(登録商標) S-200 High Resolution(GEヘルスケアバイオサイエンス)
カラム:直径2.5 cm×91cm
バッファー:20 mM Tris-HCl buffer+0.2 M NaCl, pH 7.0
サンプル:DEAE-TOYOPEARL 650Mによる画分のうち、fraction No.32〜46
【0043】
プロテアーゼ活性測定は以下の方法で行った。サンプル50 μlと、基質であるハマルステンカゼインの終濃度が1%となるように50 mM Borate-NaOH buffer(pH 10.0)を加えて調整を行った(表8)。37℃の恒温槽で10分間反応させた後、0.44 Mのトリクロロ酢酸を1.0 ml加えて反応を停止させた。コントロールには反応停止後サンプルを50 μl添加した。その後、再び37℃の恒温槽で20分間静置して、それぞれの濾液1.0 mlに0.44 M の炭酸ナトリウム2.5 mlと1.0 Nのフェノール試薬0.5 mlを加えて発色させた。37℃の恒温槽で20分間反応させた後、660 nmでの吸光度をBECKMAN DU Series 7400を用いて測定した。1 Uは1分間に1 μmolのTyrosineを遊離する酵素量と定義し、20〜100 μg/mlのTyrosine標準溶液から作成した標準曲線から遊離量を求めた。
【表8】

【0044】
(c)Resource Qによるイオン交換クロマトグラフィー
カラムを30 mlのmilliQで洗浄後、初期バッファー30 mlで平衡化し、試料1 mlを負荷して初期バッファー 15 mlと溶出バッファー 15 mlの間でNaClグラジエントを形成してタンパク質を溶出した。溶出した試料は、試験管1本当たり0.5 mlとして60画分に分画し、各画分のA280における吸光度を測定した。A280のピーク部分とその周辺における感染阻害率を混合接種法により検定し、効果のあった画分についてプロテアーゼ活性を測定した。
カラム:Resouce Q, 6 ml (GEヘルスケアバイオサイエンス)
初期バッファー:20 mM Tris-HCl buffer, pH 7.0
溶出バッファー:0.5 M NaClを含む20 mM Tris-HCl buffer, pH 7.0
サンプル:Sephaceyl S-200 fraction によるFraction No. 55〜57を初期バッファーで一晩透析したもの
【0045】
(d)阻害活性画分のタンパク質定量
タンパク質定量をBradford法(Bradford, Anal. Biochem., 72, pp.248-254, 1976)により行った。スタンダードとして牛血清アルブミン(和光純薬工業株式会社)を用いた。結果を表9に示す。
【表9】

(e)SDS-PAGE
Resource Qにより得られたフラクションNo.27をSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動法により分析した。アクリルアミド濃度は分離ゲルを15%、濃縮ゲルを3%として、20mAを負荷して電気泳動を行った。結果を図6に示す。電気泳動的に単一のバンドを得られ、分子量は約26,000であると推定された。この物質の分子量は例1で得られたプロテアーゼAに類似しているが、ResourceQにおける溶出パターンが若干異なるものであった。
分子量マーカーには、低分子量マーカーである以下のものを使用した。
ホスホリラーゼb(分子量:94,000)
牛血清アルブミン(分子量:67,000)
卵白アルブミン(分子量:43,000)
カルボニックアンヒドラーゼ(分子量:30,000)
大豆トリプシンインヒビター(分子量:20,100)
α-ラクトアルブミン(分子量:14,400)
【0046】
(f)各画分のCMV pepo感染阻害作用検定
各クロマトグラフィーによる分画後、A280において吸収ピークが見られた画分において、CMV pepo感染阻害作用検定を行った。検定の際の各画分は、最終濃度0.05 mg/mlとなるよう調製した。結果を表2に示す。
【表10】

【0047】
(g)N末端アミノ酸配列解析
精製した上記タンパク質(以下、プロテアーゼBと呼ぶ)をSDS-PAGEに供した後、分離ゲルをPVDF膜に転写した。膜をmilliQで洗浄し、0.25% Coomassie Brilliant Blue R-250で染色した後 50%メタノール溶液で脱色して目的のバンドを確認した。その後再びmilliQで洗浄し、目的のタンパク質を含むバンドを切り出し、アミノ酸シークエンサーにてアミノ末端からのアミノ酸配列を決定した(Applied Biosystems Model 491 Prociseシリーズ)。その結果を元に既にアミノ酸配列が報告されているタンパク質との相同性の比較を、National Center for Biotechnology Information(NCBI)のBLAST(http://www.ncbi.nih.gov)を用いて行った。この結果、プロテアーゼBは既知のE. fetida由来のフィブリン分解酵素(EFE-d及びEFE-e:Biotechnology Letters, 25, pp.1105-1109, 2003)とN-末端から11残基で100%の相同性を有していたが、例1で得られたプロテアーゼAとはほとんど相同性が認められず、別のタンパク質であると結論された。結果を表11に示す。表中、EFE-a〜EFE-eはEisenia fetida由来のフィブリン分解酵素である。
【0048】
【表11】

【0049】
(h)基質特異性
2.5 mMの合成基質溶液(各合成基質を、4% DMSOを含む0.1 M グリシン-NaOH 緩衝液, pH 9.5に溶解したもの)0.06 mlを、37℃で5分間保温した後、本発明のプロテアーゼBを0.06 ml加え、37℃、30分間反応を行い、分光光度計を用いて405 nmにおける吸光度を測定して、遊離したp-ニトロアニリン量を定量した。酵素1単位(U)は、上記の反応条件において1分間に1 μmolのp-ニトロアニリンを遊離させるのに必要な酵素量とした。結果を表12に示す。この結果、本発明のプロテアーゼBはN-サクシニル-Ala-Ala-Pro-Phe p-ニトロアニリド及びN-サクシニル-Ala-Ala-Pro-Leu-p-ニトロアニリドに対して高い分解活性を有していたがN-グルタリル-L-Phe-p-ニトロアニリド及びN-α-ベンゾイル-L-Arg-p-ニトロアニリドに対してに対してはほとんど分解活性を示さなかった。
【0050】
【表12】

【0051】
(i)阻害剤による影響
本発明のプロテアーゼ0.06 mlと各種阻害剤を最終濃度が以下に記す濃度になるように0.06 ml加えて混合し、37℃、30分間保温した後、基質として5 mM N-サクシニル-Ala-Ala-Pro-Phe-p-ニトロアニリド溶液(4% DMSOを含む0.1 M グリシン-NaOH 緩衝液, pH9.5に溶解したもの)を0.06 ml加え、37℃、30分間反応を行った後に酵素活性を測定した。結果を表13に示す。下記に使用した阻害剤と各濃度を示した。この結果、本発明のプロテアーゼの活性はPMSFにより強く阻害され、SBTI、キモトリプシン、TPCKによっても阻害されたが、それ以外の阻害剤ではほとんど活性の低下は認められなかった。
【0052】
【表13】

0.01mg/ml Soy bean trypsin inhibitor(SBTI)
1 mM ε-Aminocapronic acid(e-ACA)
1 mM Phenylmethylsulfonyl fluoride(PMSF)
0.01mg/ml Streptomyces サブチリシン Inhibitor (SSI)
1 mM 2,2'-Bipyridyl
0.01(0.1) mg/ml Chymostatin
1 mM Phenantorolin
1 mM EDTA
0.1 mM E-64
1 mM N-tosyl-L-phenylalanine chloromethyl ketone(TPCK)
【0053】
(j)最適pH、pH安定性、最適温度、及び熱安定性
例1の(j)及び(k)に記載された方法に従って本発明のプロテアーゼBの最適pH、pH安定性、最適温度、及び熱安定性を調べた。この結果、最適pHは9.5付近、pH安定性は6.0〜11.5であり、最適温度は60℃であった。また、pH9.5において60℃までは活性の低下が認められなかった。
【0054】
(h)プロテアーゼBの作用
CMV に対する作用を調べるために、本発明のプロテアーゼBとCMVをそれぞれ下記の濃度で20μlずつ等量混合して、37℃で30分間反応させた後、SDS-PAGEを行った。アクリルアミド濃度は、分離ゲルを15%、濃縮ゲルを3%として、電気泳動は20 mAで行った。分子量マーカーには上記と同様の低分子量マーカーを使用した。
(i)酵素(100μg/ml)
(ii)酵素(100μg/ml)+ CMV(100μg/ml)
(iii)酵素(10μg/ml) + CMV(100μg/ml)
(iv)酵素(1μg/ml) + CMV(100μg/ml)
(v)CMV(100μg/ml)
結果を図8に示す。レーン(ii)及びレーン(iii)において分子量15,000のバンドが認められ、このバンドはCMVの外被タンパク質であるCMV CPの分解物であると考えられた。従って、本発明のプロテアーゼBはCMV CPに作用して外被タンパク質を分解し、CMVの粒子構造を破壊するものと考えられる。
【0055】
(i)感染阻害率
本発明のプロテアーゼBのCMV に対する感染阻害効果の有効濃度を、ササゲにおける混合接種法により調査した。本酵素を1.00 〜100μg/mlに調製し、各濃度での感染阻害率を求めた。また、既知のプロテアーゼであるα-キモトリプシンとサブチリシンについても濃度を0.05 〜1.00 mg/mlに調整し、各濃度での感染阻害率を求めた。本発明のプロテアーゼBは20μg/ml以上の濃度では、ほぼ100%の感染阻害率を維持していた。感染阻害率が50%となる濃度であるIC50を求めたところ3.84μg/mlであり、α-キモトリプシンと サブチリシンのIC50はそれぞれ396μg/ml及び74.3μg/mlであった。この結果、プロテアーゼBは類似のプロテアーゼに比べて約20倍の低濃度で感染阻害作用を有することが示された。
【0056】
(j)葉表塗布法による感染阻害作用の検定
プロテアーゼBを用いて葉表塗布法による検定を行った。プロテアーゼの濃度は100 μg/mlに調整した。また、プロテアーゼBが葉の表面で直接作用しているのかを調べているために、葉が乾燥した30分後にサンプルを水で完全に洗い流し、その後再び乾燥させてから葉の両面に10μg/mlのCMV溶液を綿棒で接種した対照区を準備した。この結果、葉表塗布法では97.7%の感染阻害率を示したが、一旦サンプルを洗い流している対照区では感染阻害効果が認められなかった。
【0057】
(k)ToMVに対する感染阻害作用の検定
タバコモザイクウイルスを用い、0.1 M リン酸 buffer(pH 7.0)で100μg/mlの濃度に調整したToMVと試料を1:1となるようにエッペンチューブに加え、接種濃度が50μg/mlになるよう混合液を作成した。つぎに、対照用として試料の代わりに20mM Tris-HCl buffer(pH7.0)を用いたものを作成した。そして、それぞれをボルテックスで十分攪拌後、氷中で30分間静置した。検定植物としてタバコ(ナス科、Nicotiana tabacum cv. Xanthi nc) を用い、バーミキュライトを満たした鉢にタバコの種子を播種し温室内に置き、発芽した苗をセルトレイに移植して育苗した。2〜3週間後に、鉢に1個体ずつ定植し、7〜8葉期のものを実験に用いた。タバコの葉の中から、同じ程の大きさの葉を2枚選び、混合接種法を用いて検定した。対照葉では多数の病斑が見られるのに対して試料葉ではほとんど見られず、本発明のプロテアーゼBが感染阻害作用を有することが確認できた。
【0058】
(l)植物の葉表面における薬害の有無
本発明のプロテアーゼBのササゲへの薬害の有無を調べるために、100μg/mlの試料溶液を用いて混合接種法を行い、2日後と7日後の試料溶液塗布群とコントロール群の葉の様子をそれぞれ観察した。タバコに関しても同様の方法で薬害の有無を調べた。試料溶液塗布群では特に目立った外傷はなく、コントロール群においても病斑以外の目立った外傷はなかった。無処理の葉と成長の度合いも同程度であった。タバコの葉においても同様の結果が得られた。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】例1においてE. fetida粗抽出物をDEAE-TOYOPEARL陰イオン交換クロマトグラフィー(A)により分離したフラクションI〜IIIをSephacryl S-200ゲルろ過クロマトグラフィー(B)に付して分離し、得られたフラクションIIIをResouece Q陰イオン交換クロマトグラフィーに付して分離した結果を示した図である。図中の縦軸は各画分のA280における吸光度測定結果を示す。
【図2】例1においてResource Q fraction IIをSDS-PAGEにより分析した結果を示した図である。
【図3】本発明のプロテアーゼAの最適pH及びpH安定性、並びに最適温度及び熱安定性の結果を示した図である。
【図4】本発明のプロテアーゼAのCMV pepoに対する有効阻止濃度を、ササゲにおける混合接種法により調べた結果を示した図である。
【図5】例2において、E. fetida粗抽出物をDEAE-TOYOPEARL陰イオン交換クロマトグラフィー(上段)により分離したフラクションI〜IIをSephacryl S-200ゲルろ過クロマトグラフィー(中段)に付して分離し、得られたフラクションIIをResouece Q陰イオン交換クロマトグラフィーに付して分離した結果(下段)を示した図である。図中の縦軸は各画分のA280における吸光度測定結果を示す。
【図6】例2においてResource Q fraction No.27をSDS-PAGEにより分析した結果を示した図である。
【図7】本発明のプロテアーゼBの最適pH及びpH安定性、並びに最適温度及び熱安定性の結果を示した図である。
【図8】CMV に対する本発明のプロテアーゼBの作用を示した図である。
【図9】本発明のプロテアーゼB(i)並びにα-キモトリプシン(ii)及びサブチリシン(iii)の各タンパク質濃度における感染阻害率を示した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の特性:
(a)分子量が約27,000であり、
(b)N-サクシニル-Ala-Ala-Pro-Phe-p-ニトロアニリドを基質として分解してp-ニトロアニリンを生成し、その作用はキモスタチンにより阻害され、
(c)N-サクシニル-Ala-Ala-Pro-Leu-p-ニトロアニリドに対しては実質的に分解作用を有せず、
(d)至適pHが9.5であり、pH5.0〜10.0の範囲でpH9.5における活性に対して約80%以上の活性が維持され、
(e)至適温度が40℃であり、60℃において40℃における活性に対して約80%の活性が維持され、
(f)4℃において40℃における活性の約60%が保持され、
(g)N末端のアミノ酸配列がVal-Ile-Ala-Gly-Gly-X-Ala-Ala-Ile-Ile-Glyである
を有するプロテアーゼA。
【請求項2】
下記の特性:
(a)分子量が約26,000であり、
(b)N-サクシニル-Ala-Ala-Pro-Phe-p-ニトロアニリドを基質として分解してp-ニトロアニリンを生成し、その作用はフェニルメチルスフホニルフルオリドにより実質的に完全に阻害され、
(c)N-グルタリル-L-Phe-p-ニトロアニリド及びN-α-ベンゾイル-L-Arg-p-ニトロアニリドに対しては実質的に分解作用を有せず、
(d)至適pHが9.5であり、pH6.0〜11.5の範囲でpH9.5における活性に対して約80%以上の活性が維持され、
(e)至適温度が60℃であり、60℃以下で活性が維持され、
(f)N末端のアミノ酸配列がIle-Ile-Gly-Gly-Ser-Asn-Ala-Ser-Pro-Gly-Gluである
を有するプロテアーゼB。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のプロテアーゼを有効成分として含む抗ウイルス剤。
【請求項4】
植物防除用農薬として用いる請求項3に記載の抗ウイルス剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−278881(P2008−278881A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−79526(P2008−79526)
【出願日】平成20年3月26日(2008.3.26)
【出願人】(505127721)公立大学法人大阪府立大学 (688)
【Fターム(参考)】